生命 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1971年10月号
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1. SFマガジン 1971年10月号

てきました。しかし、セイ・フルック星の個々の生命が統一された全境に見合うべく巧妙に作り上げられているのだ。我々の体内の細胞 体の中に組織されているとして、いったいどのようにしてそれが : が一定の目的に必要十分な数に達すると増殖を停止するように、セ 3 イプルック星の生命のどんなグルー。フも必要以上には決して繁殖し 「どのように ? それを考えるなら、我々自身の細胞がどのように ない。体内の細胞が必要以上に繁殖する場合、我々はそれを癌と呼 して全体に統一されているかを考えてみればいい。体内の細胞を、 んでいるが、地球上の生命全体をそれにたとえることができる。っ たとえば脳細胞を一片だけ分離するなら、いったい何が残るのか。 まり、大きな癌細胞のように、個々の種族、個々の生命が、他の種 何も残りはしない。それは、ア、、 ーと全く等しい原形質の一滴族・生命の犠牲の上に繁殖しようと最大の努力を払っているわけな に過ぎないのだ。いや、ア、、 ーよりももっとレベルの低いもののだー と言うべきだろう。なぜなら、その一片はそれ自身で生命を維持す「あなたはまるで、セイプルック星を弁護なさるような口ぶりです ることができないからた。しかし、そのような細胞を寄せ集めるこね、博士」 とによって、宇宙船を発明したり交響曲を書き上げることのできる「確かに、一面ではその通りだ。存在形態を別にすれば、私は彼ら 頭脳が誕生するわけだ」 の考え方をよく理解できる。たとえば我々の体内の細胞が、個々の 細胞としてよりも人間の身体全体として組織されたほうがよりすぐ 「おっしやることはよくわかりました」ドレークが言った。 だが、ウェイスは委細かまわず話を続けた。「セイ。フルック星のれた能力を発揮できる点に気づき、自分たちの細胞をより高次の全 すべての生命は、一つの有機体をなしているんだ。ある意味では地体へと統合された結果であると認識したとしよう。そして、これら 球上の生命も同じだが、我々のは闘争的な依存形態、弱肉強食の相の細胞が、かろうじて生きているだけの単独細胞の存在に目を留め たとしよう。彼らは、哀れな単独細胞たちを全体の中へ引き入れよ 互依存形態をなしている。スクテリヤは窒素を、植物は炭素を、動 彼らはまた、気の毒に思 物は植物やほかの動物を食物とする。バクテリヤはすべてのものをうという、強い願望を抱くかもしれない。 , 救済への使命感を抱くかもしれない。セイ。フルック星の生命た 腐敗させる。それが、完全な弧を描いてくり返される。我々は貪欲い、 に食物を取り入れるが、一方では、自分自身がほかの生物の食物とちは いや厳密には、単数形で生命はと呼ぶべきなのだろう なっているのだ。 恐らくそのように考えているのではないだろうか」 「ところがセイプルック星では、すべての生命が自らの役割をきち「そのために、彼らは処女懐胎という手段を取ったということです んとわきまえている。それはちょうど、人間の脳の中の個々の細胞ね、博士 ? しかしその点についてはもう少し詳しく説明していた のようなものだ。 : / クテリヤと植物が食物を生産し、動物はその余だかないとどうも 「不審な点など少しもないはずだよ、ドレーク君。すでに何世紀も 剰分によって生存し、その代わりに二酸化炭素を生み出す。すべて が必要量を越えて生産されることはない。生命の体系が、地域的環昔から、人間はうに、蜜蜂、蛙等を雄の介入なしに懐胎させてきて

2. SFマガジン 1971年10月号

こしど、ドレーク。規則で厳しく禁じられていたはずじゃないか」 いるんだからね。細い針の先で突っつくか、適当な食塩水に入れるナ / ナ だけで充分なのだ。セイ・フル ' ク星の生命は、放射 = ネルギーを利「その通りです。だから、秘密を守 0 ていただけるかどうかお尋ね 9 用して妊娠させる方法を知っているのにちがいない。セイプルックしたんです。そのことを紙切れにでも書いて約東していただけたら どうしました、博士 ? 」 星で我々がエネルギー障壁を使ったのはこのためなんだ、わかるか ウェイスは返事の代わりに、唇を震わせながら黙って小石を指差 ね、ドレーク君。 「しかもその放射エネルギーは、非受精卵の細胞分裂ならびに発育すだけだった。ドレークは身体を乗り出し、小石の上にかがみこん に刺激を与えるばかりでなく、その核蛋白に彼らの特徴を刻み込むだ。何の変化も見られはしなかった、が それは今や、ちがった角度から光線を受け、二つの緑色の斑点を んだ。その結果、生まれてくるすべての子孫たちは、セイプルック 星の生命の感覚器官と伝達手段である、緑色の小さな羽毛の斑点を浮き上がらせていた。よくよく目を近づけて見れば、その二つの点 は確かに、緑色の羽毛にまちがいなかった。 つけている。つまり、これらの子孫たちは、個ではなく、セイ・フル ック星の中の生命の一部として生まれてくるのだ。しかも彼らは、 どんな種族をも懐胎させる能力をもっているーー植物、動物、微生彼は不安にかられていた。宇宙船の内部には、はっきりとした危 機感が感じられた。彼の存在が怪しまれていた。でもどうしてそん 物に至るまでね」 不意に、ドレークが口を開いた。「博士、僕はすごい宝物を持つなことがーー・まだ何もしていないのに。セイ・フルック星の仲間がほ かにももぐり込んでいて、不運にも発見されてしまったのだろう ているんですよ。絶対に秘密を守ってくれますか ? 、刀 しかし、もしそんなことがあれば彼にもわかるはすだし、宇宙 ウェイスは不可解な表情でうなずいた。 「実は僕は、セイ・フルック星から記念品を持ってきたんです、そう船に入り込んで以来すっと船内至る所に目を光らせていたが、そん な気配は全く見えなかった。 言って、ドレークは歯を見せて笑った。「ただの小石なんですが、 これからセイプルック星のことが地球で話題になっても、あの事実その疑念もやがてしだいに薄れていったが、完全になくなったわ が確かめられた以上、誰もわざわざ出かけて行く者はいなくなるとけではなかった。頭脳のすぐれた連中の一人がまた怪しんでいて、 思うんです。そうなると、その小石がセイプルック星の唯一の遣品しかも真相にだんだん近づきつつあったのだ。 になるはずですよね。いったいどれほ . どの値で売れると思いますか着陸までに後どれぐらいの時間があるのだろう。生命の断片たち の世界は、完全となるチャンスをまたもや逸してしまうのだろう か ? 彼は急に、発見されるかもしれないという心配のほかに、自 ウェイスが目をむいた。 「小石だって ? 」 そう言いながら、目の前に差し出された堅い灰色がかった卵形の分に課せられた愛他主義的使命の重要性に身震いし、姿を変えてい 物体をドレークの手からひったくった。「どうしてそんなことをした電線の端にしつかりとしがみついた 0

3. SFマガジン 1971年10月号

ウェイス博士は、自分の部屋に閉じこもっていた。宇宙船はすで に太陽系の中に入っていて、あと三時間もすれば着陸する予定たっ た。彼は考えなければならなかった。あと三時間のうちに、決断を 下す必要があった。 ドレークが持ち込んだ悪のような小石は、もちろん、セイ・フル ック星の生命の一つであったが、それはすでに死んでいた。ドレー クが最初に発見したときすでに死んでいたのだ。よしんばそうでな かったとしても、彼らが小石を超原子モーターに入れて熱処理した 以上、完全に死んでいるはずである。それ以後、ウェイスは注意深 く・ハクテリヤを調べているが、まだいかなる変化も現われてはいな だから、ウェイスはこの点についてはもう何も心配していなかっ ドレークは、セイ・フルック星に滞在した最後の数時間のうちに , ーーすなわち障壁の中断以後に小石を拾っていた。障壁の中断が、 セイ・フルック星の生命が放射する精神的操作能力によってもたらさ れたとしたらどうだろう ? セイ・フルック星の生命のどれかが、障 壁の中断を待って宇宙船の中への侵入を図っていたらどうだろう ? 石に似せた生命であったのかもしれない。言い換え 小石たけが敏速さを欠き、障壁が復旧した後で行動を起こしたため疑われにくい小 に殺されたのではないだろうか ? そして死んで地面に倒れているれば、カムフラージ、である。驚くほど精巧なカムフラージ = では なかっただろうか。 ところを、ドレークに発見され、拾い上げられたのでは ? もしも、ほかにもカムフラージュされた生命がいて、障壁が復旧 それは小石であり、自然の生命の形状をしてはいなかった。しか しだからといって、その小石が特殊な生命の形状ではなかったと一 = ロする直前に船内に侵入し、人間心理の死角にあたるような形状に擬 い切れるだろうか ? ひょっとしたらその小石は、セイプルック星態して、統一生命体が持っている読心器を働かせていたら ? 文鎮 の統一体が意図的に作り上げられたものーー、すなわち、一見無害でのような形をしていたら、あるいは、船長の旧式の椅子についた装 ー福岡市新天町 マガジン・バックナンバ 展示即売会 ■八月三十一日迄 一ー大阪梅田阪急三番街 ハヤカワ・ " フックフェア 書籍。雑誌全点・展示即売会 好評につき 9 月十二日迄延長いたします 福岡金文堂 イ・

4. SFマガジン 1971年10月号

~ をはを 、 ~ 川二い市こ 渡辺 1 普。夛イドルカット・岩淵慶造第 ( ; ( を せると寿命が七年延びる」というのがあ る。それが二〇世紀にはいると、実験的に 第 6 章人工冬眠ノート 栄養のわるい餌で飼ったカイコは変態しに くい、つまり一生の経過が長くなるという 彼のほうは、つねに室内を一定の低温に保っておくことな ことがわかってきた。ここから低栄養実験 どをふくむ、きわめて厳正な養生法を必要とする、めんどう といわれるものがはじまったのである。 な病気に苦しんでいた。いちじるしく気温があがって、それ これにとりわけ熱心だったのは、マッケ が長くつづくと、生命にかかわるとのことだった。 イという寿命学者。一九二九年に、低タン ・・ラヴクラフト『冷房装置の悪夢』 ( 志麻隆・訳 ) 。ハク食で魚のマスを飼って成長をおくらせ たところ、普通食の連中よりも長生きした 解だし、第 5 章では、タン。 ( ク同化ホルモ のだ。それに気をよくしたマッケイは、翌 鈍行の時代 ンによる分子レベルからのボディ ・ビル年、白ネズミで実験をやりだした。 もしあなたが、不死身の肉体をもとうとなども検討してみた。ところが、寿命の長 まず、生れたてのネズ公を二群に分け、 するなら、まず、もりもり食べて、スポー さという点からすると、これはまったく逆一方は栄養分をじゅうぶん与え ( 普通群 ) 、 ツで錬えぬくことを考えるたろう。 の結果をもたらしそうなのだ。 他方は糖分や脂肪を少なくして ( 低カロリ たしかに、常識的な世界でならそれは正 一九世紀の文献に、「成長を一年おくら 1 群 ) 、足かけ五年観察したのである。白 一第を一

5. SFマガジン 1971年10月号

「だがね、こんな救おうとして失敗した。今度は、充分に時間をかけてやることだ。 押えた。ねずみは彼に向かって鼻先を震わせた。 これらの断片たちに自分の存在を気づかれない限り、事は成就す 具合に想像力を働かせてみるんた。ある朝、君がここに降りてみる と、大ねずみの赤ちゃんが君を見上げているーーそれも、目じゃなるだろう。 今のところ、断片たちはまだ彼に気づいていなかった。彼らは、 くて柔らかい緑色をした毛の斑点でね」 。 ( イロット室の隅に彼が横たわっているときにも気づかなかった。 「黙れ ! やめてくれ ! 」ラーセンが叫んだ。 誰も腰をかがめて彼を拾い上げ、投げ捨てたりはしなかっこ。・こ・、 「柔らかい、光沢のある緑色の毛の斑点、か」 リゾーはそうくり返したが、急に、自分まで恐怖感に襲われたのそれは、彼が身動き一つできないということを意味していた。誰か が振り返り、こわばった虫のような六インチ足らずの物体を目に留 か、手にした大ねずみを放り出してしまった。 めるかもしれないからだ。一べっすると同時に絶叫が響き渡り、そ 彼は受信中枢を再び入れ、焦点をいろいろに変えてみた。宇宙船れですべてが終ってしまうのである。 の中の生命の断片はどれも、彼の母星の生命の断片のどれかに似通しかしもはや、そのような心配はないみたいだった。離陸後すで にかなりの時間が経過していた。操縦装置はロックされ、パイロッ っていた。 様々の形状の生命が、走り回り、泳ぎ回り、飛びかっていた。宙ト室は空つぼになっていた。 その部屋の端に配線箱があり、そこに接続されたア 1 マーの一部 を飛ぶ生命の中には、非常に大きな形態をしてしかも明確な思考を 持つものもいた。また小さな生命は薄っぺらな羽根をつけていたに裂け目があるのを発見するのに、さほど時間はかからなかった。 が、それらの感覚器官は不完全で、知能と呼ぶにはあまりにかけ離彼の身体の前端ののこぎり状の部分を利用し、自分と同じ直径の 電線を二つに切断した。それから六インチの長さを取って再び切断 れていた。 静止した生命もいた。それらは母星の静止した生命と同じようした。彼は切り取った部分を、部屋の隅の薄暗い場所にそっと押し に、緑色をして、空中、水中、土中に住んでいた。これらは全く知やった。電線には、弾性をもった茶色の被覆がかぶせてあり、芯部 彼らはただ、光と湿度と重力をかすかに感は光沢のある赤味を帯びた金属でできていた。彼自身が芯部の金属 能を有していなかった。 / を再成することはむろん不可能だったが、そんな事をする必要もま 知できるたけだった。 彼の外側の薄膜を、電線の被覆に似せて注意深く変色 そして、動くものも静止したものも、それそれ、夏の生命体のま たなかった。 / させれば、それで事足りるのだ。 がい物であることに間違いはなかった。 元の場所にもどると、彼は身体の前後で電線の切断部の両端をつ まただ。まだまだ : 彼は自分の感情をかろうじて押えつけた。かって、これらの生命かんだ。それから、体内の吸引器官が作動し、彼はしつかりと電線 3 の断片が母星を訪れたとき、仲間たちは、あまりにも性急に彼らをに吸いついた。継ぎ目が全く見えない。完全な結合であった。 はん ひふ

6. SFマガジン 1971年10月号

「マレイ・ラインスターが明らかにしたように、最初の接触は対向させながら熱心に聞き入った。彼は、意識の中に生命感に似たもの 路のようなものとなる。人類は常に自己の生き方を最良であると信を発見し、快感を覚えた。しかし、彼は、この快感を理性によって 3 じ、他者にもその知恵を納得させるべく最善の努力を払ってきた。押えなければならないと思った。己れを忘れることは、この際禁物 であるからだ。 しかし、異邦人にも、同様な確信はあり得るのだ」 しかし、異邦人たちの思考に耳を傾けること自体は、なんの害に 彼はすばやく宇宙船にすべり込んだ ! エネルギー障壁の外側でもならなかった。宇宙船の中の生命の断片のうちには、非常に原始 は、数十人の仲間たちが無駄を承知で長いあいだ待ちつづけていた的且っ不完全な生命体であるにもかかわらず、驚くほど明晰な思考 のだった。そのうちに、障壁がほんの二分間ほど途切れ、その間隙をする者もあった。彼らの思考は、小さな鈴の音のようであった。 を縫って、彼ひとり宇宙船に乗り移ることができたのだ。 仲間のうちの誰一人として、この中断を利用をしてすばやい動作「どうも汚染したような気がしてならないんだ。わかるだろう ? を取ることはできなかったが、しかしそれはどうでもよいことだっそれでさっきから手を洗っているんだがね」とロジャー・オールデ ンが一一一口った。 た。彼一人で充分で、ほかの連中はもはや必要ではなかった。 ジェリー・ソーンはドラマチックなことが嫌いなため、顔を上げ しかしながら、その満足感もしだいに孤独感へと変わっていっ ようともしなかった。彼らはまだ、セイ・フルック星の成層圏の中に た。統一された有機体から分離され、自ら生命の断片になることは おり、ジェリーはパネルのダイヤルを見つめたままだった。やがて 恐ろしいほどの不幸であり、且っ不自然なことであった。この異邦 ジェリーが言った。 人たちは、断片であることにどうして耐えることができるのだろう 、刀 「汚染したなんて心配することはないよ。何も起こらなかったん 異邦人に対する彼の同情は、深まるばかりだった。自分自身が 「だといいんだが」ロジャーが言った。「少なくとも作業員は全員 断片であることを経験した今、彼は客観的な立場から、異邦人た が、完全消毒のためェアロックの中で宇宙服を脱ぎ捨てたし、その ちの孤立への恐侑を理解することができた。 / 彼らの行動を支配した ものは、まさしく、この孤立から生じた恐怖感であったにちがいな上、外部から内部に入る前には必ず放射線・ハスを浴びている。だか 。自らが置かれた情況への狂気じみた恐怖のほかに、彼らが着陸ら何も起こらなかったとは思うんだが : : : 」 寸前に、直径一マイルにおよぶ地域を爆破炎上させた行為を説明す「じゃ、何を神経質に心配しているんだい ? 」 「自分でもそれがよくわからないんだ。ただ、障壁が中断しなけれ るものは何もなかった。爆破によって、地表はおろか地下十フィ トの生命有機体をも、すべて完全に破壊したのである。 ばよかったんだが : : : 」 レセ・フション・センダー 彼は受信中枢を働かせ、異邦人たちの思考を自分の頭脳に浸透「当たり前さ。だが、あれは事故だったんだぜ」 フラグメント

7. SFマガジン 1971年10月号

のです。我々が知る限り、あの星には石斧一丁存在していませんかを支配することのうちに見いだそうと努めてきた。完全への無意識 どうけい らね」 の憧憬から、彼らは機械を作り、宇宙を駆けめぐり、捜し続してい 「それが事実であってくれればいいんだが。ああ、ところでウェイるのだ。 ス、君にドレークの相手をしてもらいたいんだ」 しかしこの断片たちは、本質的に、彼らが求めるものを手に入れ 「宇宙ニュース社の記者でしたね ? 」 ることはできないのだ。少なくとも、自分たちが彼らに与えるまで 「そうだ。地球に帰還すれば当然、セイ・フルック星の話が記事にな は無理である。そう考えて、彼は小さく身震いした。 ると思うが、私は、この話は決して大げさに取扱われるべきもので 完全とは ! はないと考えている。そこで私は、記事を書くときは君に相談する これらの断片たちは、この言葉の概念さえもちゃんとっかんでは ようにとドレークに言っておいた。君は生物学者だし、君の言葉だ いない。完全という言葉自体が、空疎なものと化しているのだ。 ったら彼も素直に耳を傾けてくれるだろう。やってくれるかい ? 」 無知であるが故に、彼らは完全さを求めて争うこともする。以前 「喜んで」とウェイスが答えた。 にも一度、宇宙船が母星を訪れたことがあった。その最初の宇宙船 船長は疲れた様子で目を閉じ、頭を振った。 には、頭脳のすぐれた断片が多数加わっていた。大別して二種類、 「頭痛ですか、船長 ? 」ウェイスが説いた。 すなわち、生命の生産にあずかる者とそうでない者とに分類でき 「いや、セイプルック氏の悲しい身の上をちょっと思い出しただけた。 ( それと比較して、この二度目の宇宙船はなんとちがっている さ」 ことか ! 頭の切れる連中はすべて不毛の集団であり、不明確な思 考の持ち主、またはそれ以下の連中が生産に関与している。これは 彼は宇宙船に飽きあきしていた。それでもしばらく前までは、ま いかにも奇妙なことだった ) るで身体の内と外が逆さになったような感動さえ受けていたのだ。 最初の宇宙船は、母星全体から非常な歓迎を受けた。彼は訪問者 それは全く驚嘆に価するもので、彼は、般内の頭の切れる連中の話が生命の断片に過ぎず、それ自身完全な生命ではないということを を聞こうと躍起になっていた。宇宙船はすでに、彼らが ( イ。 ( ース知ったときのショックを、今でもはっきり覚えている。ショックは ペースと呼んでいる、広大な真空の宇宙空間を飛び越えてしまった憐れみに変わり、憐れみは行動を呼んだ。母星の共同体の中で彼ら らしかった。実際、彼らは素晴らしい頭脳をもっていた。 が占めるべき位置まではまだ考えていなかったが、それでも、ちゅ それでもなお、彼は宇宙船に飽きていた。それらはただただ、不うちよしなかった。すべての生命は神聖であり、それにともかく彼 毛な現象を並べただけに過ぎなかった。これらの断片たちは、非常ら全員、頭脳のすぐれた連中から暗闇の徴小生命に至るまで、それ に精巧な機械を作り上げているが、それは逆に、彼らの満たされなそれに適した位置ぐらいなんとか見つけられるだろうと考えられ 3 い現実を如実に示している。彼らは、自らに欠けたものを、無生物た。

8. SFマガジン 1971年10月号

飾用の金具みたいな形をしていたら ? もしそういう仮定が成り立果であった。単なる疑惑だけで、宇宙船内の二百人もの人間を殺し てもいいのだろうか。 っとしたら、いったいどのようにしてそれを発見すればいいのか。 彼はもっとよく考えなければならなかった。 宇宙纔の内部を、小さな緑色の斑点を捜し出すために、くまなく、 個々の微生物に至るまで点検することは可能だろうか。 それに、どうしてカムフラージするのか ? 一定時間発見され彼はいら立っていた。もう待てない。宇宙船内の生命の断片たち とにかく今すぐにかかることだー たくないためなのか ? それはなぜ ? 地球に帰還し着陸するまでだけでもいい 待っためか ? だが、彼自身のもっと冷静で理性的な部分がそれを押しとどめ 着陸後の感染は、宇宙船を炎上させたところで防げるものではな た。暗闇の中の微生物たちは、十五分としないうちに、彼らの新ら 。地球上の・ ( クテリヤが、かび、イースト、原生動物のすべてしい形状をあらわにしてくることだろう。頭の切れる連中は、常時 が、まず最初に感染するだろう。そして一年もたたないうちに、人これらの徴生物たちを検査している。彼らの惑星の一マイル上方で も早すぎるのだ。なぜなら、彼らはそれでも再び宇宙へ引返し、船 間でない人間の赤ん坊が無数に誕生しはじめることだろう。 ウェイスは目を閉じ、〈そんなに悪いことではないかもしれんもろとも爆破自殺を企てることだろう。 な〉と独りごちた。 / 、クテリヤはほかの生物の犠牲の上に繁殖する メイン・エアロックが開き、地上の空気と共に無数の微生物が飛 。これらの微生物の一つ一つに ことをやめ、自分に割り当てられた取り分だけでつましく生存するび込んでくるまで待ったほうがいい ようになり、そのため病気はなくなるだろう。人口過剰の問題も解同胞化の挨拶をしてから、再び外に送り出し、使命の伝播をさせた 消するだろう。東南アジアの過剰人口は食物の絶対量に応じた数にほうがいい まで減少し、戦争、犯罪、貪欲が地球上から姿を消すことだろう。 それで完成する ! 完全な生命有機体の社会がもう一つ誕生する しかし同じように、我々の個性もなくなってしまうだろう。 のだ ! 人間は生物学的機械の一歯車であることに満足し、細や肝臓細彼は待った。宇宙船の低速降下をコントロールするエンジンの鈍 胞の同胞になってしまうのだ。 い音が聞こえ、それから、惑星の表面と宇宙船が接触する際の震動 ウェイスは立ち上がった。ローリング船長と話し合わなければなが伝わってきた。 らない。セイブルックがやったように、地球に最後の報告をして、 彼は頭脳のすぐれた連中の歓喜を受信し、彼自身もそれに劣らな いほどの喜びを覚えた。まもなく、彼らも彼と同じような感覚器官 船を爆破させてしまおう。 しかし、ウェイスは再び腰をおろした。セイ・フルックは確かな証を持っことができるのだ。もちろん、すでに断片となっている彼ら 拠を持っていたが、ウェイスには憶測しかなかったーーそれも、小自身は無理だろうが、彼らの次の世代たちは確実にそれができるの 石についていた二つの緑色の斑点を見たために、恐怖心が生じた結 ー 42

9. SFマガジン 1971年10月号

ってそれを奪うことができないのだった。 全く意地汚ない猿どもだー・俺は一日も早く地球にもどりたいね。 激しい不快感にとらえられ、彼は受信中枢を切った。なんという こんな畜生どもの顔なんかもう二度と見たくないー ことだー ラーセンがそのチンパンジーに向かって顔をしかめてみせると、 これらの断片どもは食物を奪い合っている ! 彼は平和と調和の保たれた母星の様子を知りたいと思ったが、しチン。 ( ンジーのほうもそれに応えるかのように顔をしかめ、キャッ かにすでに二つは巨大な距離を隔てており、受信中枢には、彼を平キャッと叫び声を上げた。 リゾーが言った。「わかったよ。それじゃ、さっさとこんな所は 安から遠ざける無の空間しかとらえることができなかった。 今の彼には、障壁と宇宙船の中間にあった死土の感触さえもがな出るとしよう・せ。餌はやっちまったし、長居はご免だ」 彼らは、山羊小屋、兎の箱、大ねずみの檻と順に通り過ぎた。 つかしかった。昨夜、彼はその土の上をはってここまで来たのだっ ラーセンが吐き捨てるように言った。 た。土の上には一かけらの生命も存在していなかったが、それで こんなお世辞で送り出 も、それは故郷の土であり、また、障壁の反対側の土には、仲間の「探険隊の有志諸君よ、君たちは英雄だ ! されてーーー結局は動物園の番人だ」 生命有機体の安らかな感触があったのだ。 「しかし、給料は二倍だぜ」 彼は、宇宙船に入り込むまでの経緯をはっきりと思い出すことが できた。 = アロックが開くまでのあいだ、宇宙船の表面に身体全体「だからどうだっていうんだい ? 俺は金のためにサインしたんじ の吸引力を利用して必死にしがみつき、出入りする彼らの足下を縫ゃないんだ。最初の説明会で奴らはこう言った・せ , ー・・無事に帰還で 「て注意深く侵入したのだ。更にインナーロックがかけられていたきるかどうかもわからないし、セイ・フルック氏のような結果に終る が、それも後にな「て通過することができた。そして今、彼は自分ことも大いに考えられる 0 てね。つまり俺は、命を賭けるに価する ことだと考えたからこそサインしたんだ」 自身一個の生命の断片と化し、気づかれないように身動き一つしな 「ひどい英雄さ、全く , リゾーが言った。 いている 彼は再び、受信中枢を用心深く前と同一の対象に合わせた。うず「俺は動物の番人になるつもりなんかこれつぼっちもなかったん くまっていた生命の断片は今や、金網に激しい体当たりを試みてい リゾーは立ち止まり、檻の中から大ねずみを一匹取り出すと、軽 た。さほど空腹でもないのにかかわらず、依然として彼は別の断片 「ラーセン」と彼が言った。「君は考えて く背中を撫でてやった。 が食べている果物を欲しがっているのだ。 ? この大ねずみのどれか一匹のおなかに赤ん みたことがないかい ラーセンが言った。「そいつにはもう何もやらなくたっていいん坊が宿っているかもしれないって」 「馬鹿なことを言うんじゃない。毎日検査しているじゃないか」 だぜ。腹なんか空いちゃいないんだ。ただ、自分が満腹する前にテ 「ああ、そりやそうだ . 彼はその小さな生き物のロを指で両側から ィリーが食べだしたものだから、かんしやくを起こしているのさ。 ー 3 2

10. SFマガジン 1971年10月号

オールデンはきびすを返してその場を離れた。彼はそのとき、部 「そいつはどうかな」オールデンが興奮した調子で言った。「あの ートほどの近さにまで接近したのだが、彼 事件が起きたとき、僕はここに居合わせたんだ。ちょうど僕の勤務屋の隅の物体まで二フィ 時間だったんだよ。ところがいつの間にか、電力線をオー はむろんそのことに気づきはしなかった。 ドさせる理由など全くないのに、そこに関係のない。フラグが差し込 んであったんだ。な・せ : : : それが僕にはどうしても合点がい力なし 彼は受信中枢をはずし、異邦人たちの思考を自分の頭から追い出 んだ」 した。いずれにしろ、これらの生命の断片は重要ではなかった。彼 「わかったよ。人間誰だって間違いぐらいしでかすさー らは生命を維持することにも不向きであったし、断片としてさえ、 「そんなことを言っているんじゃない。ポス自らが故障の原因を調彼らは不完全な存在なのだ。 査したときも、僕はその場にいたんだから確かなんだが、言 唯ひとり しかし、別の種類の断片もいる。彼はこの種の断片たちには注意 その理由を説明できる者がいなかった。二キロワットのアーマー を払う必要があった。どれほどの誘惑にかられようとも、彼は決し ペ 1 キング回路が、・ハ リャー線につないであったんだ。彼らはこのて自分の存在を、少なくとも宇宙船が彼らの惑星に帰還するまで 一週間ずっと、補助線を使用していたのに、どうしてあの時に限っは、彼らに気づかれるような振舞いをしてはならないのだ。 て : : : 誰も説明できなかった」 彼は宇宙船のいろいろな部分に焦点を合わせ、生命の多様性に目 「君には説明できるのか ? 」 を見張った。それそれの個が、その大小にかかわらず、それ自体で 「いや、僕は オールデンは顔を赤らめ、言葉を捜すように息充足している。彼はこのことについてしばし熟考した。それからや をついだ。「誰かが、催眠術にかけられてそうしたんではないかと がて、不快感が襲ってき、彼は自分の故郷の正常な世界に思いを走 心配しているんだ。外部の何者かの手によってね , らせた。 ソーンは顔を上げ、オールデンの目を見つめた。「今のことは聞 小さな断片から受けた印象は当然、ほとんどが曖昧で瞬間的なも かなかったことにするよ。 ししかい、障壁が故障したのは二分間だのに過ぎなかった。得るところなど一つもありはしない。しかしそ けだ。仮に何かが起こっていたとしたら、たとえば草の芽が風に吹のことは逆に、彼らの完全無欠への必要度がそれだけ大きいという かれて飛び込んで来ただけでも、三十分としないうちにわれわれのことを意味していた。彼はこの点を深く胸に刻み込んだ。 培養・ハクテリアにはっきりとその影響が現われただろう。また数日生命の断片の一つが尻もちをついた恰好で坐り、四方を取り囲む のうちには、蜜蜂にだって現われたことだろう。そうなれば、われ金網に指を突き立てていた。その思考は明確ではあったが、ごく限 われが帰還する前に、大ねずみ、兎、山羊の全部にその影響が現わられたものだった。主としてその断片の関心は、別の断片が食べて れるにちがいないんだ。自分に言い聞かせるんだ、オールデン、決いる黄色い果物に注がれていた。彼は喉から手が出るほどその果物 を欲しがっていたが、四方の金網が邪魔をしているため、暴力によ して何も起こりはしなかったてね」