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検索対象: SFマガジン 1971年10月臨時増刊号
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1. SFマガジン 1971年10月臨時増刊号

自分は、あの自立体ーーー出会った地区の名を借りて、ひそかにアど餓えていたのだ。それを彼はしだいに悟るようになって来たが、 ミラと呼ぶようになったあの自立体に、本来の真正サルルニアの姿しかし、頭の中では頑として、そうではないそれが目的ではないと 0 しいつづけたのである。 を見たと信じ、あの自立体と接触することで、真正サルルニアの本 質を探れると考えたではないか。 だから、彼はス。ヘンサ 1 に、その交流の体験を話そうとはしなか そして、自分が没入して行ったのは、真正サルルニアの象徴としった。それを話せばス。ヘンサーはこちらの気持などお構いなく、た ずね、実験を繰り返そうとするであろう。それがたまらなかった てのアミラではなく、個体としてのアミラだったではないか。 そのおかげで、自分はいま、揺れている。自分がはたして司政官し、第一、自分の心の恥部をさらけ出すことになるのが、とても耐 えられなかったのである。 の名に値するかどうかを疑いはじめているではないか。 はっきりいえば、彼の司令官というポストに対する背信は、この 彼は、また顔をあげて、夜空をおおう花びらを眺めた。五分以上 もそうしていてから、やっと思い切って、空の遮光化ボタンを押しときからはじまっていたのだ。 て、立ちあがった。 アミラは、いわゆる x x x x 系統のコロニーと、よくたたかって いた。たった一体しか自立体がいないコロニーが、そこまでやれる 4 とは信じられないが、事実だった。アミラはその素早い動きとあく ☆☆☆☆ なき努力で劣勢をカバーし、隣接の大コロニ 1 の侵略を許そうとし もう寝たほうがいい時刻だったが、彼はまだ促眠装置を作動するなかった。そればかりか、そのシーズンのうちに反撃に転じて相手 気にはなれなかった。もう少し、考えつづけたかったからである。 を苦しめ、ついには大コロニーの元木を撤退させるところまでこぎ 彼は機会をみつけては、あの自立体ーー、アミラのところへ行くよっけたのである。そうなると、スペンサーの興味は、他のコロニー うになった。同行するやス。ヘンサーには、例の争いのその後の他の事件に移り、クロべは研究所の協力なしにアミラのところへ 行かなければならなくなってしまった。彼はロポット官僚たちをい の経過を観察したいからだと説明したが、実のところ、アミラとい いくるめ、だしぬき、時には高圧的に命令して、ほとんど定期的に うものをとおして元来そうであったに違いない真正サルルニアの性 格を知り、そこから、今後の司政のありかたを探るつもりだったのアミラに会いに行った。 である。 自分はたしかに、司政官としてのっとめをはたすために、アミラ との会見をつづけたのだ。すくなくとも最初のうちはそうだったの 本当はそうではなかったはずだ。彼は、ひとたび味わったあの交だーーベッドに腰をかけたまま、彼はそう思った。 それがそうではないと自分でも認めなければならなくなったの 流、どういう原理でなされるのか判らないがあの心の触れ合いとい うものを求めていたのではないか ? 彼はそれほど不安で、それほ はいつごろからであろう。第四回目の飛翔のときだったか ? そ

2. SFマガジン 1971年10月臨時増刊号

スペンサーには悟れなかったのである。 かかっている自立体のひとつ、ふたつが、そいつにぶつかられて転 彼は、形ばかりのコロニーの住人をも呼び出そうとした。だが、 倒した。 いくら変換機を通じて呼んでも、反応がないのである。 それは 小さなコロニーの住人なのであった。とても真正サル 彼は、目の前の自立体たちに、それをやらせようとした。 ルニアの自立体とは思えぬくらいすばやい動きをし、的確に反撃し 自立体たちはことわった。むこうは呼び出しに応じるはずがなているが、まぎれもなく自立体なのであった。 、。むこうは野生なのだというのである。 大きなコロニーの自立体たちは、不器用に退却した。かれらがそ 「それじゃ簡単じゃありませんか。欠席裁判するほかはありませんの領地へ戻ったのを見定めると、今出て来た自立体は反転して、 よ。何といってもこちらはわれわれとコミ = ニケートしている連中さなコロニーへ引き返そうとする。 なんですから 「待ちたまえ」 スペンサーがしいかけるのを、クロ・ヘは制した。 クロべは、衝動的に声をかけていた。 「そうま、 。しかない。両方のいいぶんを聞いてからだ」 その自立体は、動きをとめ、視覚器官をこちらへ向けた。 歪んだ笑いとともに、スペンサーは沈黙した。 クロべは一、二秒、呼吸がとまるのをお・ほえた。彼は今迄に真正 クロべは再び、大きなコロ = ーの自立体たちに、呼び出しをかけサルル = アの自立体を美しいと感じたことは一度もない。自立体は るようにいった。どんな方法でも いいからやってみろ。それができ所詮異郷の住人で、植物の変型であり、やや滑稽だという印象しか ないなら、裁定の結果はきみたちの思うようにはならないかも知れなか 0 たのである。けれども、もしかれらが美しさというものを具 ないとまでいった。 えるとすれば、眼前に佇んでいるのが、正にそうであった。肌は半 自立体たちはまだざわっいた。何かいいたげだったが、やがて、 透明を思わせるうすいビンク色で、視覚器官は冴えていた。それに いっせいに動きはじめた。 前衛彫刻家が生み出したような形 : : : それはたしかに人間的基準に かれらは、小さな「ロ = ーへと進んで行「た。鞭毛をふりまわしよる美とはかけはなれている。彼がすでに再三いろんな自立体を見 ながら、そのささやかな茂みを荒らし、葉をひきちぎり : ていなければ、とてもそんなことは感じられなかったかも知れない 攻撃しているのだ。 が : : : みごとなのであった。 かれらは、司政官の言葉を逆用して、おおっぴらに攻撃をはじめ けれども、それはそれである。彼は単刀直入に質間の矢をはなっ たのである。住人を呼び出すというロ実を得て、チャンスとばかり 敵のコロニ 1 へなぐり込みをかけているのである。 「きみのいいぶんを聞きたい」 やめさせなければならない とクロべが感じたとき、その形ば そのうすいビンク色の自立体は、答えなかった。 かりのコロニーから、何かが飛び出して来た。あっという間に攻め 「われわれは、そちらの自立体たちから裁定を求められている。か 297

3. SFマガジン 1971年10月臨時増刊号

ルルニアで、レベルⅡからⅢのあいだだからね」 れる。 やがて、あちこちに、半球型に盛りあがった深緑の大きな茂みが「大か、馬ぐらいというところだな。で、その上に立っトップのー ー真正サルルニアはどうなんだ ? 」 目に映るようになって来た。茂みの周囲は裸土の空地になってい 「そいつが、どうもはっきりしないんだ」 て、そこかしこを、高さ一メートルから一メートル五〇ぐらいの、 。ヒンク色で、ごっごっした円柱状の自立体が、根の役制をもはたす上級情報官は、肩をすくめた。「研究者によって、まちまちで 十数本の脚で直立して、ゆっくりした動作で作業をしたり、茂みをね。これは真正サルルニアが協力を拒否しているのか、それとも個 出入りしたりしている。 体差が大きいのか : : どっちにせよ、カルガイストとその部下たち これが、真正サルルニアのコロニーなのである。 が考えていたような家畜級の生物などではなさそうなんだ。カルガ イストたちは、真正サルルニアのコロニーの形態から、単純にそう 「何せ、この惑星が発見されてから、地球年で十年ちょっとにしか判断したんだろうがね、このあいだまでただの出来そこないのクラ ならないんだから、厄介たぜ。ま、司政官の能力を証明するには格ゲだと信じられていたロス七八〇耳ーーキリニリンの住人が、物質 好の条件といえるが : : : いずれにせよ、そのサルルニアの詳細につ文明こそ持たないが、かなり高度の思考力を有してコミュニケート いては、現地の研究者たちが話してくれるだろう。ここでは、一応しあっていると判明した例もあることだし : : : とにかく、われわれ の異文明をはかるものさしや方法はまだまだ未熟なのだから、あら の予備知識だけいっておくことにする」 宇宙開発省の上級情報官は、立体写真を眺めているクロべの前にゆる場合を考えて、司政にあたるべきだろうね」 「ーーわかっている」 腰をおろして、説明を開始した。「もう当然お察しと思うが、サル ルニアというのは、われわれが惑星の名前から勝手につけた呼び名「そうだろうとも。ところで、このサルルニアの世代交代というの でね。かれらがそう自称しているわけではない。かれらには、かれが、少々変わっているんだな」 らなりのいいかたがあるんだが : ・ : ・何せ、水蒸気を噴出しての発音上級情報官は、資料をとりだした。「この図を見れば一目瞭然だ だから、到底真似ることなんて、できやしない。それに、ちゃんとろうが、かれらは一般に、昆虫に似た精虫という移動体が、花の中 へもぐり込むことで受精する。むろんこの花もサルルニアの種類に 言語変換機というものがあるんだから、われわれはサルルニアとい っていればいいのさ」 よりさまざまで、真正サルルニアでは桁はずれに大きく、季節風に 「つづけてくれ」 乗って飛翔するという派手なことをやるんたが、とにかく基本バタ 1 ンはそういったところだ」 クロべはうながした。 「うん。さて、そのサルルニアだが、これがサルルニンでは最高の 「ふむ」 知的生命体であるということは、ほば確実と考えられている。亜サ 「この受精卵は、おそらく種族保存のためだろう。発生以前に何回 287

4. SFマガジン 1971年10月臨時増刊号

クロペ・は「かすかに首を振った。 しい概念たからなやきみの記憶・ハンクにないのは当然だよ。いや、 「いや、許可しない」 ごの概念は昔からあることはあったのだが、規定され法令化された 「な・せでしようか」 のがつい最近だというべきだろう。 いずれにしても、詳細な解説が 「その必要がないからた」 到着しているから「あとで資料室へ行って知識化すればいい」 「従来は制限をおこなっていまた。精虫ほ至るところで得機して 「。せひ、そういたします」 いますから、このままでに無秩序に繁殖します ~ 私どもの限られた「ま、知識化すれば簡単な一」とだが「てっとりばやくいうと第三段 資材と能力では、そのすべてを保護育成することはてきません。そ階型というのは、当該惑星を可能な限り本来の姿に復元し、干渉 の結果、野生の原住民が激増するでしよう。それでも差支えないのは最小限にとどめるという方式た。というわけで、今後われわれ ですか ? 」 は、つまらぬ小細工はしない 0 , 季節風が吹いたら吹くにまかせ「、花 「それでいいんだよ」 が飛ぶなら飛ぶにまかせるというしだいだ。いいね 「どうしてでしよう。この・前の、季節風の時期には、制限をおこない ロポットは即答しなかった。やや、間をおいてから、 ました。そのとき、司政官はすでに着任しておられたではありませ 「ーー・・・確認しまして「そののち、ご指示に従います」 んか」 そう返事をすると、四つの車輪をめぐらせて、部屋を出て行く。 「着任はしていたさ。引き継ぎも済ませていた。だが「これからは クロべはその姿を見送りながら、苦笑を浮かべた。 違うようになる」 まるきり、頑固なじいさんそっくりではないか。 「説明していただけますか」 けれども、もちろんこれは、ロポットの頭が悪いということでは いいだろう。どうせ細部に 「ひととおりは話したと思うがね。ま、 ロポット官僚には意識的に、司政官の暴走を防ぐためという わたる指示は、そのつどしなきゃいけないようだから : : : そう、今名目で、命令に即応せす完全な手順を踏んでからでないと、それ以 までは、きみのいうとおりでよかった。準戦時体制の、つまり第二 前に与えられている指示をくつがえさないという いわば、慣性 段階だったからな。しかし、そいつはもう終っ・たんた。連邦はあたが賦与されているのだ。そのせいで、もクロべに対して、あ らしい統治方式を実施する。この惑星は当分のあいだ第三段階型んなにいちいちたてつくのである。もっとも実際の行政にあたづて たしかゞ前に」もい ) っ・たねプ・」 の状態に置かれることになっ・た 0 いるロポツ・ド官僚が、司政官の命令どおり猫の目のように仕事のや 「たしかに、そのことは一〇八・時前にお聞きしました」 りかたを変えるにうでは、、原住民や他部局とのあいだに軋轢や誤解 は無表情に食いさがってくる。「しかしながら、その折に が続発し問題をおこすというその危険があるのも事実だが : 申しあげたとおり、私には段階という言葉が理解できません」 してクロべにも、そんな失態を招くような司政官がひとりもおらず 7 「わかている。これは植民星統治意識の変革にともなう、あたら今後もあらわれない、などとは断言できないのである ) : : : それで

5. SFマガジン 1971年10月臨時増刊号

て、実用の段階まで進歩していたのだ。は種々の酒瓶の中からス 、刀を 、壁面に融かした痕跡があった。それが自然なテザイン効果をか コッチを選んだ。知っている銘柄はそれだけだったからだ。 もしだしていた。同時に添加された顔料と岩石の素成が化合して、 をしナ「なぜ、わたしが君を呼んだか このあざやかな白さをつくっているにちがいない。そして様々な調「さて」とプラトン博士よ、つこ。 不思義に思っておるのだろう」 度品が、この単純な空間とうまく調和しながら、宙に浮んでいた。 「ええ」とはいっこ。 宙空に光源となる大きなグローヴがあった。床に近く、テーブル や椅子が浮んでいた。まさしく、浮んでいた。重力を無視して静止「べラは話さなかったそうだね」 「ええ」とはまたいった。 していた。イルージョンではなかった。実体たった。 「というわけで、わたしが全部説明してきかせることになるか」と 。フラトン博士が文字通り、四次元の割れ目から表われるように、 いってプラトン博士はちょっと目を閉じた。その若がえった顔に 体の片側から少しすっ全身を現わしたとき、さすがにも少しばか り驚いた。プラトン博士は、地球でみかけたときよりもずっと若がも、額のしわだけは消しきれずに残っていた。 「我々の機関は、君の存在を地球の文献資料センターの索引コンビ えっていた。発声も若々しかった。 ューターで知った。君は、以前、木星に関するレポートを書いたこ 「君がというイニ・シアルの青年かね」 「そうです」とはこたえた。プラトン博士は、数歩あゆみ寄ってとがあったね」 「はい。一度だけ。おはずかしいものでした」は、まだいぶかり きて、その手をさしだした。柔らかく力強く暖かい手だった。 ながらいいよどんだ。 「さあ、・ほんやりつっ立っていないで、坐りたまえ。安心してい 「つづけたまえ」とプラトン博士はいった。 い。そのソファーは君の体重を知って、君を支えてくれるだろう」 「まだ給費学生の頃でした。アイデアセンターという半官半民の研 は、坐った。一旦、沈みこんだソファーは、ふたたび浮きあが 究機関が募集していた懸賞論文に、応募したことがありました。む った。快適な坐り心地だった。 「何か飲みたければ、勝手にやりたまえ。そのボタンをおすと、空ろん没になりましたが」 「いや、立派なものだと我々は思っているよ。幸いあの原稿がコビ 間が開いて酒がでるよ」 ーされて保存されておったのだ。そのおかげで、我々はすでに忘れ それほど飲みたくはなかったが、は好奇心にかられて、ボタン 、よられていた貴重な人物の名前を思い出したというわけだよ」 をおした。文字通り空間が開かれた。光線のかげんで、みえなし。 「一体、誰なんですか」 ずの空間の切り口が、ちょうどクリスタルの切ロのようにみえた。 月世界のマニエリスム科学の進歩のことはできいていたが、は「ツイオルコフスキー」 あらためて驚嘆した。魔法と技術と美学とが、みつどもえに乱交し「ああ、あの : : : 」 て生まれた、一種異様な子供みたいだ。それは玩具的段階を卒業し「そう、十九世紀末期の狂人的天才的空想的科学者さ」 ー 27

6. SFマガジン 1971年10月臨時増刊号

記念塔か墓碑のようなものにちがいない。おそらく、むかしこの ココへコイ 0 地で生活していた住民たちのものであろう。すでにかれらの姿は遠 6 その声には、長い間、何事かを待ち続けていたものの、はげしい いむかしに消え去り、今はかれらの遺構だけがこうしてむなしく夜 期待がこめられていた。 五百メートルほど進むと、急に傾斜が強まった。同時にそこで草の風に吹きさらされているばかりなのだ。どのような生活を送り、 原は終って、ヒノの・フーツは乾いたもろく崩れやすい岩盤を踏んどのような文明をきずき上げたものたちだったのか ? また風がわ だ。もうそこは丘陵の斜面の一部たった。かなり浸蝕と風化の進ん たっていった。ヒノは円錐体のかたわらを離れた。その足もとで岩 だ岩盤は、ヒノが一歩踏み出すたびに薄氷のようにくだけて足首の盤が穀がくだけるように鳴った。 あたりまで陥没した。 ソレハチガウ。 ふいにまたあの声が聞えた。 暗い夜空に、丘陵のいただきが頭上に迫ってくろぐろと影を引い ていた。その闇の中にヒノは、ふと、異様なものの影を見た。最初「ちがう ? 」 ソレハチガウ。 は気のせいかと思ったが、足を進めてゆくうちにそれは現実の姿を とってヒノの目冫、 なこ迫ってきた。高さ二メートルほどの円錐形の物体「なにが ? は、夜の闇の中で荒野に残された墓碑のように生命の気配を絶って ワレワレハホロビハシナイ。 何の感情も持たない平坦な声音が、水のようにヒノの胸にしみこ なんだろう ? ヒノはその円錐の周囲をめぐった。夜の風はいぜんできた。 んとして遠いはるかな荒野から吹きわたってきては丘の斜面をまい そうか。この円錐体を遠いなかしの墓碑か何かの記念塔の遣跡と ていった。そのたびに、奇妙な円錐形の物体のとがったいただきでおれが思ったからなのか。 風はかすかに笛のように鳴った。眼をこらすと、すぐ右方にも同じ「おれの心が読めるのか ? 」 ような形と大きさの物体が置かれていた。そしてその背後にも。さ それにしても声の主はどこにいるのだ ? らにその奥にも。左方にも幾つか数えられた。 ワレワレハオマエノメノマエノイグルーノナカニイル。ャメ コノイグルーヲヒラクコトハフカノウダ。 ヒノは手をのばして円錐体の表面に触れた。指の当った部分の表ロ。オマエタチニ、 面が、軽い粉になって剥落した。ヒノはその材質が、今自分が踏ん ヒノは開孔部を求めて粗面をまさぐっていた手を止めた。 でいるもろくくたけやすい岩盤と同じものであろうと思った。足も オマエノカンガエタトオリ、コノイグル ハナガイナガイネ とのそれがはなはだしく風化しているのと同じように、円錐の表面ンゲッフへテキタ。ツマリソレハワレワレガコノイグルーノナカデ も長い年月におかされているところを見ると、それはおそろしく古オクッタネンゲッデモアル。 い時代に作られたものにちがいない。 この中にいったい何がひそんでいるのか ? 荒涼たる石の原に奇

7. SFマガジン 1971年10月臨時増刊号

「見そこなうんじゃねえよ。ジャンク屋 ! どんな型の宇宙船だっ たり体力を消耗したりしたのではないようだ」 「シクが体力を回復したらくわしく聞いてみよう」 てすみのすみまで知りつくしているおれだぜ。どこにどんな部品が 「それがいし 。出発た」 あるかぐらいちゃんとわかってら」 ジャンク屋が勢いよく立ち上った。 ジャンク屋はそれには応じようとしなかった。手の物体を見つめ 「その前にこいつらの死体を始末しなければいけねえな。よし、休る彼の眼が異様に見開かれ、照明灯の光を受けてうるんだようにか 眠カプセルに入れて低温をかけて凍結させよう」 がやいた。とっぜん、コウエンの体が大きくゆらめいた。コウエン ヒノとコウエンがコの体をかかえ上げた。 のさけびが広い船倉にこだました。ヒノが抱き止めるよりも先に、 「ヒノ。コ・ハが何か握っているそ」 コウエンの体はひどい音をたてて床に倒れた。ヒノの、薄れてゆく だらりと垂れたコ・ ( の右手の、固く握りしめた指の間から、小さ視野のすみでコウエンが奇妙な舞踊手のように手足を打ちふってい な錆色の物体がのそいていた。 「何だろう ? 」 「みんな。操縦室へ後退しろ。いそげ ! 」 ヒノはシクの体を床におろすと、硬直した指を押し開いた。 ヒノは必死にさけんだ。しかしすでに肺の中はからつ。ほになって 長さ五センチメートル、幅も厚さも三センチメートルほどの小さ いて声をし・ほり出そうとしても吐く息すら出なかった。ヒノはヘル な箱のような物体だった。手にのせると、思いがけない質量感が感メットをぬぎ棄てると背中のエア・ポンべからのびているチュ 1 プ じられた。箱を造っている材質は金属ともプラスチックともっかなをむしり取ってくわえた。そこまでだった。 い極めて硬い物質だった。錆色に見えたのは、表面に鉱石の細片と 思われる徴粉が附着していたからで、それをかき落すと沈んだ銀色 の地肌があらわれた。どこにも継目がない。それは三人の手から手 へ渡った。 右には百メートルほどの高さの低い丘陵が長くつづいていた。そ 「何かの部品たろうか ? 」 の山すそはゆるい傾斜をたもちながら、ヒノの立っている草原を形 コウエンが首をふった。 作り、さらに左方へふたたび傾斜をまして落ちこんでいった。い たん落ちこんでいった傾斜はふたたび立ち上って遠い対岸を形成 「いや。ちがうな。こんなものは見たことがないそ」 し、その先は低くつらなるゆるやかな丘になっていた。広い谷間 「おまえの知らないものだってあるだろう」 ジャンク屋がてのひらにのせた物体を、値踏みするように目の高を、かなりの河幅を持った水流が右に左にくねりながらのびてい さまで上げて視線を据えた。コウエンがむっとしたように声の調子る。その谷の開けたかなたに、ひとすじの銀色にかがやく地平線が を変えた。 けむっていた。おそらく海であろう。 っ 8

8. SFマガジン 1971年10月臨時増刊号

した核反応炉が小さなこぶしをにぎりしめたように見える。 ジャンク屋」 「あれにまちがいねえなー 「速度八〇〇〇」 ()5 シート コウエンがひどく現実的な声を張り上げた。 急激な減速がヒノとジャンク屋を重力席におしこんだ。視野が薄 「たしかにそうだ」 暗くなった。一瞬、自分が何をしているのかがわからなくなる。 ジャンク屋はこれまでに見せたこともない真剣なまなざしで接近 。 ( ターン三で : : : マイナス推力が殺せるか、 「切線の方向から : する船体を見つめた。 コウエンが進入方向を検討しているらしい声が切れ切れに耳に入「いたんでいないようだ」 「外から見てそう見えたって、中はどうなっているかわからねえ ってきた。 「しつかり監視していろ ! そう一度に幾つものことはできねえよよ」 コウエンが意地の悪い言い方をした。ジャンク屋はそれも耳に入 らないようにスクリーンに目を当てつづけた。 コウエンが罵声を放った。ヒノはその声でわれに帰った。 わすかに推力を与えながらそれを・フレーキ・ロケットで殺し、同 いつの間にか、長大なスクリーンの右端から左端までいつばい 時に側方推力をきかせて遭難船に平行する位置で停止させようとす に、白銀色にかがやく、巨大な形の紡錘形の物体が占めていた。 るコウエンの技量はさすがにすばらしいものだった。 ずうんと衝撃が走りぬけていった。つづいてもう一度。 「。止めたぜ」 方向転換用の側方推力がはたらいたとみえ、白銀色の物体はなな コウエンは気取ったしぐさで手首をひねると何かのスイッチをビ めにスクリーンから墜ちていった。 インと切った。それから静かに立ち上り、コンソールに両手をつい 間断なく・フレーキ・ロケットがほのおを噴いた。その震動が機関 て肩を落した。そのままスクリーンを見ようともせずに、彫像のよ 砲のような不協和音をかなでた。 うにその姿勢を保っていた。 ふたたびゆっくりと白銀色の巨体がスクリーンにもどってきた。 「二人とも米てくれ」 わすかに首尾線がかわって遠い太陽の投げる光が一瞬、その船腹に ジャンク屋はヘルメットをつかむと、となりのエア・ロックに飛 ほのおのように映えた。翳るように陽光がそれてゆくと、宇宙船の 船体は幻のように淡く透き通った。それは暗黒の空間に浮かんだ精びこんだ。 緻な結品細工のように明減し、星の光にも耐え得ない繊細な光芒を「コウ = ン ! 早く来い ! 」 曳いた。ふいに宇宙船は急激に回転しはじめた。ぐんぐん長さが縮三個のドア室を通ってせまいェア・ロックに入った。たがいに装 むとスクリーンにはほ・ほ円形に近い断面の輪郭があらわれた。船首具を点検する。 か船尾をまっすぐにこちらに見せているのだろう。船腹から突き出「よし」「ー「異常なし」 5 7

9. SFマガジン 1971年10月臨時増刊号

ヒノたちに向って何か言い出そうとしたとき、ヒノが動いた。 「さあ。しつかり立つんだ。このやろう」 セガ。おれを見忘れたのか」 シクがわれにかえったようにあわてて二人の間に割って入った。 ことさらにゆっくりとセガに歩み寄った。 ヒノ。どうしたんだ、いったい。やめろよ。やめろった セガはあっけにとられてヒノを見つめた。 「てめえ。よくもおれの申請をにぎりつぶしやがったな。あれから シクは思いがけないヒノの行為に泣き出しそうに顔をゆがめて二 おれはずっとおめえをさがしつづけていたんだ」 人を引き離そうと焦った。 「お、おれは何も : : : 」 「ひっこんでいろ ! シク。このやろうはおれが長い間さがしてい セガはやせたほほにとまどいの色を浮かべてあとずさった。 たんだ。おれの申請をにぎりつぶしやがったばっかりに、おれの友 「こんな所にもぐりこんでいやがったのか、セガ。あのためにおれだちは助からなかったんだ。これはこのやろうとおれの問題なん の友だちはとうとう死んじまったぜ。間に合わなかったんだよ。おだ。だまっていてくれ」 めえのせいだぜ。おれは連絡が今くるか今くるかとそればっかり待ヒノの声が集会所の低い天井にこだました。けわしい顔でなりゆ っていたんだ」 きを見守っていたたくさんの男たちも、妙に意欲を失ってしぼみは ヒノはセガの言葉をおさえていっきにまくしたてた。 じめた。 「 : : : おめえが誰だかおれは : : : 」 「離せ ! 離せ。おれはおまえの申請のことなど知らない。それは 「うるせえ ! さあ、こっちへ来るんだ。いくらてめえでも人の前何かのまちがいだ」 でくたばりたくはねえだろう。ああ、今日よ、 をしい日だせ ! 」 「ヒノ。離してやれよ。おめえの記憶ちがいってこともあらあ。ま ヒノはおそろしい目つきでむらがる男たちを見回した。 あ話し合ってみたらどうだ」 「ま、まってくれー・それは何かのまちがいだ。おれはおまえの申 シクがヒ / の機嫌をうかがうように言った。 なと : : : 」 「くどいそ。シク。ほかのことは忘れてもおれはこのことたけは忘 「知らねえってのかいー 宇宙省のやつらはいつもそれたぜ。おれれちゃいねえんだ。おれはもう宇宙船乗りの募集のことなんかどう たち宇宙船乗りの生 ( 叩など、ちりあくたとも思っちゃいねえんた。 でもいいんだ。おれは結着をつけなければならねえんだ」 おれの友だちはそれで助かる生命も棄てるはめになっちまったんだ ヒノは、ロからつばきを飛ばしながら何か言いつのるセガの体を ぜ」 押して、人の輪の中をゆっくりと移動していった。誰も止めようと ヒノはセガの青灰色のジャノ。、 、ノーの胸もとをとらえた。思いきり はしなかったし、手を貸そうとする者もいなかった。ヒノの言葉を 締め上げる。セガはわずらってでもいるのか、急に体をおって苦し たしかめようとする者さえいなかった。だがヒノの言葉のひとつひ そうに喘いだ。 とつは誰の胸にもこたえた。いかにもありそうな話だったし、実 8 5

10. SFマガジン 1971年10月臨時増刊号

だが、ロテール人の習慣は、こことは違うからな。さあ、番兵どが盗んだとあっては、面白くあるまい。そこでじゃ、わしの命令だ が、さっそくにも、アムフェレヘ戻ってーーー」 も、こやつらを連れていけ。そして首を刎ねるんじゃ」 「ああ、それはいけません ! 」思わすデレゾングは、そう叫んでし 「もう一言、言わせてください、王様」とウルキルは申しました。 「わたしはどうなろうとかまわない。愛するイレプロがいなくなつまった。 たのですから。だが息子のペンデイトルだけは、父親の誤った計り「・・ーーアムフェレヘ戻るのじゃ」王は彼の言葉がきこえなかったか のように、続けました。「そして、宝石を、ジースク王の王冠のも ごとの犠牲にならないよう、お願いしたいのです」 とあったとおりの場所に戻すのじゃ。宝石がなくなったことも、戻 「すると、息子が大きくなったら、復讐するという筋書きかね ? ったことも、おまえの仕業とは露気づかせずにやるのじゃよ。おま 馬鹿なことを言うな。さあ、出ていけ、首も一緒に」王はなまなま えやおまえの弟子のような海千山千の悪党が、その気になりさえす しい傷を拭っているデレゾングに向って言いました。「タンデイラ れば、こんなささいな仕事なんそ、朝めし前だろう。じゃ、おやす の眼が、うまくいかなかったのは、どうしてだ ? 」 デレゾングは恐ろしさに身をふるわせながら、ロテールでの掠奪み、魔術師君」 ヴァ 1 ル王は熊の毛皮を体に巻きつけ、顔を見合わせているデレ と、それに続くアムフ = レでのサファイア窃盗について、本当のこ ゾングとザーメルを置き去りにして、自分の部屋へ行ってしまいま とを話しました。 「あー、それであの宝石の光を数えることができなかったのたなした。 ! 」とヴァール王は言いました。 平ー 9 0 < ・・ヴァン・ヴォクト 王は立ち止まると、床の上に転がっている宝石をつまみあげまし 宇宙嵐のかなた た。体をふるわせながら、デレゾングは、今ロテ 1 ル人たちが経験 地球はるかに暗黒の字宙を突き進む巨大宇宙船 ! しているような体の切断を、わが身に予想したのです。ところがヴ アールは、うっすらと笑いを浮かべました。 \ ー 9 0 ハミルトン エドモンド・ 「運のいい失敗たったな」と王は言いました。「二人のおかげだ よ。まずロルスクの王位を狙っていたロテ 1 ル人の陰謀を見破った , 、さすらいのスターウルフ 大銀河せましと暴れまわる宇宙の一匹狠 ! 確かな目と、こんなにもうまく、わしの傍で戦ってくれたおかげ で、今夜は、ほんとうに助かったよ。 \ 2 2 0 ロハート・ LLI ・、ワード だが、ちょっとばかり困ったことがある。ダイオール王は、わし ′月 のよき友達でな、この友情はこわしたくない。たとえ、よく説明し 時は幻想の超古代、黒魔術と戦うコナンの大冒険 ! てあやまってこの宝石を返したとしても、なんとしてもわしの家来 ・ / 、ヤカウ ~ S F 文庫 冫、ヤカワ S F 庫 発売中発売中発売中