ぬ気配があふれていた。二人はその中に割って入った。 ビーナス・クリークに顔を向けた。 「セガ」 「なんた ! あとから来やがって」 男は憂うっそうに名のった。 「こいつう ! 」 「募集は一人だけだ」 「さがってろ ! 」 周囲の男たちの中から声が飛んだ。 左右から罵声が飛んできた。二人の背中や腰に立てつづけに強い 打撃が加えられたが、そんなことにはかまわず二人は前へ前へと進「ざまをみろ ! あとから来た二人はのけろ」 「セガにきめろ ! 」 んだ。 「その二人。ひっこめ ! 」 : つぎは省型貨物船の経験のある者、一名だ。省幻型貨あき箱の上の男はちょっと困ったように三人を見た。 「三人で話し合ってくれないか。こちらは三人のうち誰でもよい」 物船は例の熱核反応炉のポッドを二つ、船腹に張り出したやつでか タイプ 周囲の男たちの中から年代ものの宇宙省職員の青灰色のジャン。ハ なり古い型たから、乗船経験者はこの中にいるだろうか。募集は一 1 をまとった大男が小山の動くようにせり出してきた。 名だ」 「話し合いよりもそのあとから来て割りこんた二人をことわればい 見馴れない背の高い男があき箱の上に立って声を張り上げてい いじゃねえか」 た。低い天井に頭がっかえそうだった。 「そうもゆかんよ」 ヒノとシクはうなすき合った。 あき箱の上ではそうしてもよいような声を出した。 「いるぜ ! 経験は大ありだ」 「おれたちは五時間も前からここへ来て待っていたんだ・せ。それで シクがさけんだ。 「最新型など一度も乗ったことはねえが、ポロ船ならこちとら専門も選にもれたのはしようがねえとしても、あとからやってきて前へ しやしやり出て経験は大ありもくそもあるものか。セガにきめてや だぜ ! 」 二人は肩をそびやかせた。もう一人いた。ふだん、この集会所のれ」 周囲で見かける顔で、ビーナス・クリークの航路管制官の倒服を着吠えるようにあき箱の下につめ寄った。 「そうともよ」 ている男だった。 「それが当りめえだ」 「名前は ? 」 あき箱の上から男が二人を見おろした。 大男に応援する声がわき上った。 あき箱の上の男は事態の変化を見てとって、周囲の声を制した。 「ヒノとシクだ」 「わかった」 「おまえは ? 」 7 5
先頭の男は、トル・ラングの姿があったあたりを狙って、剣をふ 王は助けを求めて大声をはりあげているけれど、誰もこれに応え りまわしましたが、手応えむなしく、空を切っただけでした。それるものはありません。この奥まった部屋では、厚い石の壁と掛け物 3 から男は、王とデレゾングの方に向き直りました。 が音を消し、王の声は、ヴァール王の護衛兵のたまり場となってい 「こいつらを生け捕りにしろ ! 」男はロテール語で言いました。「おる外の部屋までとどくことはないのです。ほかの連中と同しく、王 れたちが無事に脱出するための人質だ」 もまた押され気味で、遂に三人は肩を並べてコーナーに追いつめら 四人は剣を構え、空いている手を、たった今消えた魔悪の爪のよれたまま、奮戦また奮戦。剣のひとふりが、デレゾングの頭の側面 うに、わしづかみにするかのごとくひろげて、前進してきます。そに当たり、くらくらと目まいがしました。そして、金属的な音は、 の時、反対側のドアが開いて、腕いつばいに剣をかかえたザーメル王の王冠に剣が打ちおろされたことを語り、ザーメルの悲鳴が、彼 が入ってきました。そのうちの二本をデレゾングとヴァール王に投もまた傷ついたことを告ける。 げてよこすと、二人は、その柄をパッと受けとめました。そしてザ デレゾングは、急速に疲れていくのを感しました。ひと息ひと息 ーメルは残りの一本を大きな手で握りしめ、二人の脇に陣どりましが、大仕事です。それに剣の柄は、痛む指の中でつるつるすべる。 彼らに立ち向っていくためのなにかもっと間接的な戦術をみつけな 限り、やがて彼らはデレゾングの守りを破り、とどめを刺すこと 「手おくれだ」と別のロテール人が言いました。「殺して逃けるのい でしよう。 が、唯一の道だ」 その宣言にふさわしく、その男は三人のロルスク人にたち向いま彼は、〔目前にいるロテール人にではなく、テープルの上で心細く した。チャリン ! チャリン ! 七人の男が、うす暗がりの中で剣またたいている小さなランプめがけて、剣を投けつけました。ラン を振りまわし、それを受ける音が響きわたります。ヴァール王は、 プはガチャンと音をたててフッとび、火が消えました。そこでデレ 熊の毛皮を左手に巻きつけて楯とし、まっ裸に王冠だけという姿でゾングは。 ( ッと身を伏せ、四つん這いになって、抛った剣をとりに 戦う始末です。ロルスク人は手のとどく距離については有利である這っていきました。後の暗闇で足音がきこえ、まちがって味方を打 ちのめしよしよ、 一方、王の年齢とデレゾングの肥満、それに剣の腕前の凡庸さとい をオしかという恐れと、うつかり口をきいて自分の居場 うハンディを背負っていました。 所を敵に知らせてはならないという思いに、みだれた息づかいをし デレゾングは堂々と切りつけ、突きまくりながらも、だんだんとている男たちの気配がうかがえました。 コーナーに追いつめられていく感じで、それに肩に受けた傷が痛み デレゾングは壁に沿って動いていくと、ザープティル王の狩りの ます。魔法使いの力を無知な人はどう考えるかしらないけれど、命角笛がぶらさがっているのに触れました。その王の形見を壁から捻 をかけて体をはって戦いながら、呪文をとなえるなんて芸当は、と り取ると、胸いつばいに息を吸いこんで、・ハ力でかい音を出す角笛 てもできるものではない。 を吹いたのです。
しみ ンクリート の床に幾つも大きな汚点を作った。 「現在の遭難船の位置は : : : 」 しいか ! 宇宙船乗りをやとおうと思ったらそんな口をきかねえ ジャンク屋が航路管理部から入手した資料を方位盤に捜入してゆ ことだ。おれたちの手を借りなければポロ船一隻、動かすこともでく。 きねえくせに」 「銀経一三度一八分七秒。銀緯二度一〇分三秒。第三ホフマン軌道 男はいまわしいものを見るように、血に染 0 た指の間からヒノの定点七二五号からイ = ール三 ・三八一、イコール五一・七八 顔をあおいだ。 〇、 N イコール〇・三一一。誤差小数点以下八位まで。遭難船は完 「おれが行 0 てやる。これは高くつくからな。さあ、おれを連れて全に停止しているから木星の軌道上にある。定点七二五から赤道面 ゆけ ! 」 の時計で二時一三分の方向へ距離九一万四八六三プラスマイナス三 ヒノは男が自分の言葉に従う以外に、生きてこの集会所を出るこキ 0 メートルの地点だ」 とはむすかしいだろうと思った。 ヒノは両手をひろげて首をすくめた。 「一人では宇宙船を操縦することはできないたろう」 「おめえ、ジャンク屋にしておくのはもったいねえな。いずれひと 男は声をふりし・ほっこ。 皮むけばれつきとした元航法士さんたろうが、ま、そんなことはど 「二人いれば大丈夫だ。おめえだって船をとりもどしたいんだろう うでもいいや。おい コウエン」 後から新しく加えた機関士のコウエンが長い顔をつき出した。 「それはそうだ。だが」 「おめえにはエンジンを全部あずける。ていねいに扱わねえと、ジ 「だが ? 」 ャンク屋が泣くぜ」 ヒノの面貌が変った。男は・ ( ネのように立ち上った。 「ありがてえこった」 コウエンは強く歯をすすった。一週間ほど前まで、地上車の運転 をしていたこの男は、ヒ / の誘いに仕事の内容も聞かずに飛びつい 結局、男の希望を容れてもう一人加えて三名とな「た。それはひてぎたのた 0 た。もう何十年もむかし、まだ大圏航路が太陽系内の とつは、ヒノの求めるような自動航法装置の完備した短距離型の宇惑星間経済の大動脈とな 0 ていた頃、市の宇宙船技術学校の教官を 宙船を手に入れることができなか 0 たからでもあ 0 た。ジャンク屋していたというこの男の技量を、ヒノは高く買 0 ていた。スペース は手もちの中古宇宙船の中で、もっとも性能の良いものを供出する ・マンには誰にでも栄光の時代があった。だが栄光は栄光を必要と ことでヒ / の同意を得た。 する時代だからこそ意味がある。それを重く見るか軽く見るかはそ 四十八時間ぶ 0 つづけの整備作業の結果、救助船はようやく飛立れ以後の生き方を決定する。地上車や揚水ポンプではなく、宇宙船 っことができるようになった。三人は船室へもぐりこんだ。 でなければならないのは、あるいは単に好みの問題なのかもしれな ナビゲーダー
おきて 古教授が よんでるわ なんだろなあ 週三日制に なってニ、三年 たっというのに あの教授と きたひにや - 気にもしないん だから ・ノ 仕事じゃ《 ないそうよ 何か食べて いらん 教授のクサイ 顔思い浮べ ただけで 食欲が - ・・消減する 9 よは 不潔 なのなら あなたも 他人のことは いえないわ 人の良し悪しと 入浴年一回とは 関係ないよ ありや歴史上 まれに見る 怪人だ 0 0 昼間は ラムのところ 夕方はサド 夜はポルノトフの ところに - 旧るわ ここへは明日の朝 くる ゼラ おまえ どうす る ? ・ 243
・わしか ? ・ わしゃ 盛大に 見とるよ この世の中 もう見るほどの 夢 - もなくなっ たのかもしれん そうだろうな 人間はだれも 夢をみなく なった 教授は ? ー、 \ わしゃ みとるよ / イ′イ ウソでしよう 気違いくらい しかいまど、 夢はみないと ネルスキラフ博士 がいってま (-) たよ 際矗第 おまえの 一番好きな - 女はゼラ え ? 見せて やろう そうです 共同使用中の 正妻ですから ね そこらへんから 改めてもらわ 3 プ / 夢は見れん のう そのゼラが 他の男のところを 日にニ、三人も まわって来ても 何も感じ ないのか 24 ア
トルの速度を持っ宇宙船の動きも、ここでは全く停止しているにひ の距離からは磨いたしんちゅうの円盤のように反射していた。山脈 も、砂漠も、そのかがやきの中に沈んで一様に平滑であり、満月のとしかった。星の光から見れば、宇宙船の速さなど、その宇宙船か ら見おろした地表の歩行者の動きよりもまだ遅いであろう。 ように硬くそこなわれていなかった。二つの衛星がひとつは遠く、 「コウエン。もっと速度を上げろ ! 」 ひとつは円弧のかがやきのなこうに色あせてなかば沈もうとしてい ヒノは思わずさけんだ。 た。その火星もしだいに船尾へ移っていった。火星のかがやきに消 「これ以上は無理だ。これでもカタログの九二パーセントの速度に されていた星の光がよみがえってきた。宇宙船の前方にはしだいに なっているんだ」 厚く、幅広く、広漠と星の海がひろがりはじめた。 機関士のコウエンは予期した以上の字宙船の性能にすっかりご機 星の海ーーーおそらくは永劫に人類が足を踏み入れることができな いであろう領域。五十億年のかなたから投けかけてくる星の光は、嫌になっていた。 。ししくらいた。 五十億年の時間をかけて虚空をわたってきたのだ。もし人類が星の 「ふつうこの程度の中古では八〇パーセント出れま、 光とひとしい速さと、五十億年の生命を駆使してそこへたどり着い ュ / カオカいいせ。こいつは」 たとしても、飛び立っ時に見た星がなおそこに存在しつづけている ・パネルやコンソールをなが コウエンはほほをくずしてメーター とは考えられない。なぜなら、星々の生命は五十億年より長くはなめやった。 いのだから。どうしてもそこで星に到達したいのなら、人は無へ向「もうちっと出ねえのか ! 」 って五十億年を賭けなければならない。そこではすなわち未来は無 「だから : : : 」 であり、存在は無のひとときの有りように過ぎなくなる。なんたる「おい。おれの品物をこわしてくれるなよ」 仮構。そして人はなお太陽系の中に宇宙船を飛行させるのに精いっ ジャンク屋が横からヒノのひしをつついた。 ばいであり、火星と木星の間のひろがりに無限の落下を感じている慣性飛行に移った今は、その必要もないのに、コウエンはコンソ のだった。いわばそこは、波静かな入江のさらに奥のせまいく・ほみ ールの前を離れようとしなかった。右手はい。せんとして核反応制禦 に過ぎず、外洋の息吹きはかいま見るはるかな水平線にしか感じとレ・、 ーに、左手は反射傘開閉桿にかけられたままたった。コウエン ることができないのだった。その外洋へ、広漠たる星の海へ乗り出はレバーをゆっくりと前に倒し、また手前へ引いた。そして開閉桿 してゆくことが果してできるのかどうか。今は永劫は星の光となっ をかすかなノッチの音をひびかせて前方へ押し倒してゆく。もちろ てはげしく人を魅了し、そしてきびしく人を拒みつづけていた。 ん作動ペダルから離れた足は、床を踏んでいるのたが、その足さえ もが手の動きとともに力が加わっていた。 フラッゾ 「核反応プラス二からプラス三へ。反射傘一四〇度から一四五度へ 三人は物も言わすに長い間、星の海を見つめていた。三様の想い がそれそれの胸を万力のように締めつけた。秒速六万四千キロメー フラップ 3 7
ふふふ くっちまった のさ 頭から カり・カり・ ・とな 三人の国籍、人種の異る超能力者を結びつけたの は、フロイの企てを探知して地球に派遣された幻魔 一族の、尖兵の出現であった。 うあ ああ わははは わははは ゝ、卩 0 フ わあああ ドード・ 1 5 5
月が中天にかかり、秋風に音もなく運ばれゆく雲は星々を背後に召集されたのが極度に重要かっ隠密を要する事件のためであること 消してゆく深更、夜闇のなかに眠るサスランからはるけきこの城市を悟った。彼らを召集する方法とこの時間、王宮での密議、ものも のしい衛兵、平服のガデイロンーー全て異常なまでの秘密を必要と に、ガデイロン王は十二人の最も信を置く寡黙な使者を急派した。 あかし 忘却の町をすべりぬける影のように、彼らは、みな違った方角へ散する内々な話であることを証だてている。 しばし沈黙が室内をとらえたあと、十二人はことさらていねいな っていった。ほどなく、各々が彼らにまさるともおとらず慎重かっ かたびら 礼を交わし、ガデイロンの御意をまった。やっと、ささやくほどの 無言の帷子をまとった人物を伴って闇に沈む王宮へとって返した。 話を交わすこともせず、入りくんだ裏道を手探りで通り、王宮の声で、王はロを開いた。 庭園にある一寸先も見えぬ糸杉の下の近道を抜け、地下室に入り階「おまえたちは、マルグリスについていかように伝聞しておる ? 」 段を降り、十二人のサスラン選りすぐりの妖術師たちは、王宮の礎恐ろしいこの名を耳にしただけで妖術師たちの顔が蒼白に変わ 石よりさらに深い、水滴のにじむ死を連想させる天色の花崗岩で囲 り、震えが走るのがわかった。しかし、一人一人棒暗記しているこ まれた丸天井の地下室に集まってきた。 とのように、ガデイロンの質問に答え始めた。 地下室の入口は、長い間王の知恵袋を務めてきた大妖術師マラナ 「マルグリスはサスランの空にそびえ立っ黒塔内に居を定めておる 「こやつのカの 。ヒオンの命を受けた大地の悪鬼が厳重な守りをかためていた。このよしにございます」最初に口を切った男は言った。 悪鬼たちは、自らの生き血を手みやげに献酒にやってくる馬鹿者ど威力はなおポセイドンをしのぎ、その前にあってはこのわしらな もを、一人残らず・ハラ・ハラに引き裂いてしまう。あやしげに形どら そ、欠けたる月の光がつくりだすあるかなきか定かならぬ影のごと れ、毒蛇の油がしこんである柘榴石の燈火ひとつの光で、室内は・ほ きもの。全ての王と名のつくものと、妖術師とが東になってもかな んやりと浮かび上がっていた。王冠も戴せず、地味な真球色に染めぬう相手ではありませぬ。すなわち、タルテリスには三段櫂の軍船す いた着古しのずん胴の帷子をまとったガデイロンは、石棺を模したら敵わぬように、天空高く飛翔する鷲すら黒く落ちたやつの影をよ 石灰岩細工の座にすわって、妖術師たちの到着をいまやおそしとまぎることはかなわぬのです」 ちうけているところだった。口まである屍衣を着たマナラ。ヒオンが「五大精霊をこやつは配下にしたがえ」二人目が口を開いた。民人 その右手に盤石のごとく立ちつくしていた。彼の前に、肩まである たちは、その粗野な目で、塔の周囲を鳥人のごとく飛び、礎面や舗 かなえ オリカルチャムの鼎がしつらえてあり、この銀の窪みのなかに、殺石にとかげのようにはりついているその姿を一再ならず目撃してお サイクロ・フス ります」 害した一つ目巨人の青い巨眼があった。その眼には、まがまがしい 大魔王の姿が映っている。柘榴の燈火のよこしまな光線のもと、そ「マルグリスは、高殿の中で坐したままで」三人目が確言した。 「こやつのもとには、ポセイドニスのありとあらゆる都から満月の 5 の瞳のなかに、マラナ。ヒオンは敵愾心にみちた視線を投げていた。 このありさまを見たとたん、十二人の妖術師たちは、自分たちが宵に貢物が運ばれておるのです。どんな船荷にも、十分の一税を取 かね わし
さいごに電話機のジャックをさしこむと準備はだった。円形を破るのに、今開いた破孔をどうするか、ということだった。焼切 の天井の照明が赤に変ると、ブザーが鳴りはじめた。それがみるみったドアをこんどは内側から溶接するのはたやすいが、電源コード 7 る音が小さくなり、やがて聞えなくなるともうそこは暗黒の宇宙空を通す穴を完全に気密にするのはなかなか難かしいことだ 0 た。結 間だった。 局、カボックを半融状態にしてコードと穴のまわりにつめ、その上 から水ガラスを吹きつけるのがいちばん良いだろうということにな 三人の眼の前に、白銀の船体は巨大な塔のようにそびえていた。 った。その作業を完成し、焼き切ったドアをェア・ロックの内側か 遠くからは麿き上げられた鏡のように平滑に見えた外鈑も、その距ら完全に密着させてしまうまでに三時間もかかった。残るもう一枚 離からは打ち放したままのコンクリートの粗面のように荒れ果ててのドアは簡単に開いた。 いた。頭上にかすかに F13 という文字が読みとれた。 「これが船名か ? 」 そこはコンプレッサーや二次発電機や酸素発生装置、温湿度調節 「さあな。船名など聞かなかったよ。おれの商売には、船名など関装置の本体などを収めた主機械室と操縦室を結ぶ通路であり、乗組 係ないんだ」 員が船外へ出る場合、装具をつけ点検するためのホールにもなって ののびないメーザーをそこへ残 ( ッチは内側からかたく閑じられていた。やむなくドアごと焼きいる一画だった。それ以上はコ 1 ド 切ることにした。コウエンが背負ってきたメ 1 ザー・ガンを外鈑のして三人は操縦室へ向った。 上に据えた。メーザーの電源コ 1 ド」 か、二隻の宇宙船の間に長く長二重ドアを開くと、淡い照明に照らされた無人の広い操縦室が眠 く張りわたされた。それは暗黒の空間にうねる白銀の輸卵管のよう にとびこんできた。 に見えた。 「シクー どこにいるんだ。シク ! 」 もしェア・ロックの船室側のドアが開放されたままであるなら ヒノの声が静寂につつまれた操縦室にこだました。 ゞよ、 ッチを焼ききったとたんに船内の空気はいっぺんに宇宙空間 「いねえそ。誰も。ここには」 に吐き出されてしまう。しかし船体に孔をあける場合、もっとも安 コウエンが投光器をきらめかせてコンソールに近づいた。あちこ 全なのは = ア・ロックのドアである。それは息を呑む賭だった。三ちとスイッチの配列をたしかめていたが、やがてそのひとつに手を 人はだまって、濃褐色のサングラスの奥から、メーザー・ガンの噴のばした。操縦室はまばゆい光の洪水になった。 き出す深紅色のかがやく光の矢を見つめていた。やがてドアは焼き「ポッドに異常はないようだ。ええと、動力系統には : : : 異常な 切れた。 し。と。電力系統は : : これもどこにも異常はないな。二次系統は 「大丈夫だ ! 船室側のドアはしまっているそ」 ・••O 、と。おい メーターで見るかぎり動力系統には何も異 これで最初の難関は突破したが、そのつぎの間題は船室側のドア常はないぜ。おかしいな。なんで船を停めてしまったんだろう ?
これは、偶像の眼から宝石を盗んだ男のお話ですーーーでも、みな さてお酒もたつぶり飲んだことだし、これを機会にそろそろ読書 さんが考えているようなお話とは違います。みなさんの頭に浮かん用の椅子からおみこしをあげて、弟子のザーメル・セといっしょに 7 だお話というのは、八十なん年か昔、ウイルキー・コリンズによっ晩餐てことにするか、とデレゾングは思いました。デレゾングの息 て語られたものです。 子四人が、デレゾングに悪意を抱く者にそなえて、お毒味の役をつ だけどこのお話は、それよりずっと昔にさかのばりますーーー「ずとめるのですが、そのもひとつ前のお毒味役というのが、ザーメル っとすっと昔のことで、その間には、地殻が隆起して山ができ、山なのです。そして、一同がもう二、三杯ほど酒壷を空にすると、デ 腹には、都市が生まれました」この物語は、沈みゆくボサイドニス レゾングは一番きれいな女三人を選んで、ヨタヨタとべッドへ直行 大陸にあるロルスク王国の首都ニ 1 セットは気紛れ王ヴァールの官というのは、例によって例のごとし。罪のないことよと人は言うで 殿、および、王の術師デレゾング・タッシュの住まいとなってい しよう。実際、デレゾングは、胸中すでにその三人を選んでいたの る王宮の一室に端を発しているのです。 ですが、その中で誰を、今夜の楽しみをともする相手とするかは、 ある日の午後、デレゾングは専用の図書室で、緑色のワイン、ジまだ決めてありませんでした。 スクをなめながら、蒐集したロンタングの断章を読んでいました。 とそのとき、ドアをノックする者があり、ヴァール王のもっとも 自分自身についても、世の中についても、心やすらかなおもいでし横柄なお付きのかん高い声がきこえてきました。「魔術師殿、王様 た。な・せって、このところまる十日間というもの、ごく自然な方法 がただちにお目にかかるとのことです ! 」 であれ、なんであれ、彼を殺そうとした者は誰一人いなかったから「なんの用だ ? 」とデレゾングは不興げにのどをならしました。 です。謎の象形文字を解読するのにあきてしまうと、デレゾングは「こうのとりが、冬どこへ行くかなそと、わたしが知っていましょ 杯の縁ごしに、悪魔のスクリーンをしっとみつめるくせがありましうか ? セドウで死んだ者が生きている秘密を、わたしが知ってい た。そこには、かの偉大なシュアジッドの筆になる ( ヴァール王のるとでもいうのですか ? リファイ城の城壁の中になにがあるか、 気紛れな不興を買う以前の作です ) デレゾングの魔術の世界に住む北風がわたしに打ちあけてくれたってわけですか ? 」 悪置たちの全貌が、恐ろしげなフェルナゾットから、ちっぽけな化「そんなことはあるまいな」とデレゾングは欠伸まじりにつぶやい け物のはしくれにいたるまで、召集に応じて集まってきた図としてて立ちあがり、チョコチョコと王様のところへでかけていきまし 描かれているのです。 た。不意の刺客から背後を守ってくれるザーメルぬきに、宮殿の広 デレゾングの姿をみれば、化け物でも悩むことがあるのじゃない 間を抜けていくのがこわく、歩きながらつい、肩越しにふりかえっ か、と首をかしげたくなるでしよう。なにしろ、デレゾングときたて後を確かめてしまいます。 ら、太っちょの小男で ( といっても、ロルスク人としては小柄とい ヴァール王のツルツルに禿げた頭が、ランプの光を照りかえして いました。王様は、もしやもしやと重くるしく生え茂っている眉の う程度ですが ) 、まるい童顔に白い髪といったご面相なのです。