めるのがやっと、という有様です。裂け目の底は上へ向って斜面をルが叫びました。 なし、時にはひねこびた木が生えている落石の上にでることもあり「師匠 ! 」 ます。そして道は石の間を縫ってかすかに続き、石の段々の下で途「なんだ ? 切れていました。この石段を昇ると、タンデイラの寺院に辿りつく「わたしたちの姿をみてごらんなさいよ ! 」 デレゾングが見ると、ヒラヒラの服をきたケルネの商人に化けた というわけです。 , この悪名高き寺院については、旅人たちは、下の 部分しか見ることができません。上半分は雲の中へ消えているからはずの姿が、きれいさつばりと消えて、ヴァール王の宮廷魔術師と です。目に入る部分はすべて黒く輝き、するどい頂きへ向ってのびその弟子とひと目でわかる姿に戻っていたのです。ところが一一人 よ、フェランゾット : カ注告したあのラインを突破しなければならな ています。 デレゾングは、この女神について言われているいやな話、さらに デレゾングは、入口に向って、するどい視線を投げました。不確 は、その僧侶が持っていると思われているさらに・不愉快な習慣など を思い出しました。たとえば、プサディアの神殿の中では、どうみかなあかりの中で半分姿はみえないけれど、入口の両脇に二人の男 ても不吉な偶像タンデイラを崇拝するのは、昔は当然のことながらが立っているのがわかります。よく磨かれた青銅の光が、目にとま 神であづた悪覧トル・ラングに関する黒い儀式を隠すための目阻しりました。この番人たちは、たとえ参拝客の姿が変わるところを目 にすぎない、という話もあります。これは、今は栄えているロルス撃したところで、そんな素振りをみせはしません。 グ人が、エウスケル人の征服によってその本土を追われ、シレニア デレゾングは短い脚を、つるつると光る黒い石段の上に運びまし 海を越えてポサイドニスへやってくる前のことであり、この大陸がた。番人の姿が、そっくり目に入ってきました。・が っしりとした体 格の、眉毛がもじゃもしやと生えたロテール人です。彼らは、はる 恐ろしい沈下を始める前のことなのです。 一アレゾングま、・こ ナいたいにおいて神も悪も、僧侶どもが商売上か北東に住む、馬の飼い方も知らす、尖がらせた石器を武器として いるイエラルネの蛮人に似ているといわれています。番人はまるで 勝手にでっちあげている話ほど、恐ろしいものではないと心得てい ました。それは、僧侶のひどい習慣についても、たいていは少なく彫刻のようにお互いに向き合ったまま、じっと前方をみつめていま ともいくぶん誇張されたものだと納得していたのです。まあ自分のす。デレゾングとザ 1 メルは、その間を通り抜けました。 二人はすでに入口に入っていたのです。と二人の若いロテール娘 考えを全部が全部、正しいと思ったわけではないけれど、こういう が言いました。「プーツと剣をお預りいたします、且那さま」 話は、話を面・日くしようとしてできたものと思うべきでしよう。 半分は隠れて見えない寺院の前で、デレゾングは馬を止めて降デレゾングは飾帯をはすして、剣も鞘もまるごと近くにいた娘に り、ザーメルの手を借りて、重い石で馬の手綱をおさえ、あたりを渡し、・フーツを脱いで素足になると、つま先をすりむかないよに とプーツにつめておいた草を手にして立っていました。シャツの内 歩きまわれないようにしました。石段を昇ろうとしたとき、ザーメ 、 0 384
きさの倍もあるのです。 まいにしてほしいもんだね」 デレゾングは胸中ひそかに、悪魔払いの呪文を探しましたが、舌 「ほんとに、王様は、太陽のように心の広いお方ですわ」イレプロ は、強いロテ 1 ル訛りで言いました。「もう少し言いたいことがあは恐怖で、上顎にはりついてしまいました。とにかく、彼のフ = ラ るけど、でも召使いの耳にきかせることしゃないんだよ」お妃は四ンゾットだって、こいつに比べれば、ほんの仔猫みたいなものなん 人の召使いに向って、ロテール語で言うと、彼女たちは、あわててですから。それにどんな星形だって、彼を守ってくれはしない。 目はだんだん明白になり、下の方の角のような爪が、ランプの弱 出ていきました。 弱しい炎からくるかすかな光を反射していました。部屋のつめたさ 「どうかね ? 」と王が言いました。 は、まるで氷山が歩きまわっているよう。デレゾングは、羽が燃え イレプロは、ためっすがめつスターサファイアを眺め、右手をい ろいろに動かし、その間にもなにか母国語で唱えていました。とてているような匂いを嗅ぎとりました。 イレ。フロは王を指さし、なにやら自分の国の言葉で叫びました。 も早ロなので、デレゾングには内容はききとれなかったけれど、た だ一語だけ、なん回もくり返された言葉だけはわかり、それは肝っデレゾングは、巨大な口を開き、牙をみせ、トル・ラングがイレプ ロの方へサーツと近寄っていったのを見たように思いました。彼女 玉をふるえあがらせるようなものでした。その言葉というのは、 は悪魘をそれで払うかのように、宝石を目の前にささげ持っていま 「トル・ラング」なのです。 「陛下 ! 」と彼は叫びました。「この北からきた魔女は、よからぬした。だが、悪魔はいっこうにひるむ気配をみせない。暗がりが彼 女をつつんだとき、彼女は絹を裂くような悲鳴をあげました。 ことを企んでいるのではないかと思われますがーーー」 ふたたびドアが開いて、四人のロテール女が、かけこんできまし 「なんだと ? 」ヴァール王は吠えたてました。「おまえは、わしの た。イレプロは叫び声をあげ続けていましたが、それがだんだんと かわいい妃を賤しめようってのか ? それもわしの目の前で。おま 小さくなり、まるでトル・ラングに遠くに連れ去られたかのよう えの素っ首をーーー」 に、遠ざかっていきます。今目に見えるものといったら、床のまん 「でも陛下 ! 王様 ! ごらんなさい ! 」 王は長広舌を振るおうとして、ハッとやめ、みつめました。そし中へんにたちこめている影の、だんだん小さくなっていく姿なき形 てもう二度と始めようとはしなかった。なぜなら、ランプの炎がやだけ。 せほそり、やがてポッチリとした点になってしまったからです。そ先頭にいたロテール人が、「イレプロ ! 」と呼ぶと、影に向って して、つめたい渦巻が部屋の空気を掻きみだし、そのまんまん中の突進し、片手で上衣を脱ぎ、もう一方の手で、大きな青銅の剣を抜 うす暗がりが濃くなり、それが影となり、やがて形あるものとなっきました。あとの三人もこれにならうのをみてデレゾングは、彼ら ていきました。はじめは、ただ形のない暗がりで、黒い霧だったのが女どころか、鬚を剃り、服の中でしかるべきところをふくらませ 9 が、ちょうど目のような光る一一つの点が現われ、それは、人間の大た逞しいロテールの男であったことを、はっきりと知ったのです。
丈はも - っ りつばな 一人前の戦士です 宇宙 広しといえども 丈ほどの 素質にめぐまれた 戦士は そういない しかも まだまだ さまざまの 可能性を ひめている フロイの目に , 、 0 いは なかった・
らゆる人間が気づく頃になって、それよりちょっと早めに色々とい れていたのだからな。この当のダイソン自身だって、ツイオルコフ う種類の人間です。他人については色々というが、自分では何ひとスキーについては知らなかったらしい。面白いな。一つのアイデア つ見通しを立てない。・これからどうなるかということについては、 を別々に何人かの人間が思いつく。逆にこれは、可能性があるとい なんにもいわない。だから、安全なんです。その点、予言する人はうことかもしれない、と我々は考えたのだ。で、我々チームは、可 いつも自分を賭けている。現世の悲劇性をおそれずにね。彼は縦に能性の実現性について、プログラムを組んだ。ちょうど一年にな 生きているんた。時間の中で生きているんた。自由に : る。わたしが、大統領をやめて二年目だ。最初の一年目は、人類の 「面白い見方だ。大変面白い」プラトン博士はまたニャリと笑っ過剰人口問題をどう解決するかというアイデア探しに費した。次の た。それがこの人物の癖らしかった。「君はそういう意味では、思一年は、君の提案した〈大木星計画〉の実現性の検討に費した。残 想家の部類に入るらしいな」 りのわたしの余世は、その実現に費すつもりだ」。フラトン博士の声 は強かった。 、え、とんでもない」は、顔をあからめた。「ぼくはただ、 願望をのべたにすぎません。あの頃はまだ若者でしたからね。希望「ということは、あの計画が実施可能だということなんですね」 「そうだ」その声は意外なほど淡白だった。まるで、新しい洋服を をもっていました。この太陽系そのものを、ひとつの緑繁れる国に したいというのは、単なる空想でした。いまは、少しちがいますけ一着新調するような口振りだった。「我々のプロジェクトチームの メイハーは、地球いや太陽系全域で最強の頭脳集団だといってい どね」 。知能指数二〇〇以下の者はひとりもいない。つまり、このわた 「いや、結構「結構」と。フラトン博士は大げさな身振りでをほめ しが、最低だということでもあるがね。だが、わたしには、統率カ た。「それが〈木星計画〉・だな。いい 名前だ。大変いい」 ちょっと、わざとらしさがあった。少しおかしいそ、とは思っと決断力と財力とそして顔がある。こういう大きな仕事をするに た。疑惑が脳裏をかすめた。でもプラトン博士の意図はまだわからは、政治力が必要なのだ。わかるかね」 「わかります」とはいっこ。 。フラトン博士は下手な俳優みたいに、目を閉じ冥想するようなし「で、わたしがこの計画の最高議長に選ばれた。君もそれを認める ぐさをした。「君の心に描いたイメージが、わたしの目にも見えるだろうね」 ように思えるわい。ところでだ、実は君の考えと同じ計画を空想し「認めるも何も、・ほくはただのーーー・」 ていた男が別にいたのだ。アメリカの物理学者のダイソンという人「ああ、いいわすれていたよ」プラトン博士は、またニャリと笑っ ーに加わったのだ。むろん引 た。「君はすでに我々の計画のメイハ 物た。知っていたかね」 、え」はびつくりしていった。本当だった。「ちっとも : : : 」きうけてくれるだろうね」 「それはむろん」とはいった。さっきふと気がついた疑惑のこと 「無理もない。我々も文献コン。ヒューターが教えてくれるまで、忘 0
たりで、カルナスとエタインは見つかるまい」 顔がびくびく引きつり、額に浮かんだ血管が体みなく脈打ってい スサンとわたしがサイラスとともにバビロンを攻めおとして、わた。 , を 彼よ、道楽ざんまいの明け暮れに年より老けこんでいた。彼の かたわらには、ひとくせもふたくせもありそうな目つきをした、ひ れわれの不倶戴天の敵たちが逃げ出しているのを発見して以来、は や六世紀の歳月が経過していた。そして、カルナスとエタインを追げのないすらりとしていなせなローマ人ひとりと、あでやかだが怠 ってアジア西部からヨーロツ。、 , へと渡り歩いてくるうちに、われわ惰な美女がひとり立っていた。 れは、十二、三人のからだと入れかわってきた。・ キリシャの都市国彼女の美貌は、わたしに手掛かりを与えてくれた。わたしは、お 家を、エーゲ海の島々を、次々と仮借なくしらみつぶしにあたってだやかに彼女にいった。「するとこんどは、おまえとカルナスのほ 彼らを捜し求めてきたのだが、つねに彼らは、われわれの到来を嗅うがわたしを待っていたのだな、エタイン ? 」 「そうよ、ウリオス。わたくしたちは、もうあなたとの鬼ごっこは ぎつけていたようであり、ひと足先に逃れているのたった。そして いいかげんうんざりしているの」彼女はいった。そして、無情な笑 ついに、この繁栄をきわめていきつつある大都市ローマがわれわれ いざな い声をあけ、例の恐怖がちらついてくるのをごまかした。 を誘ったのたった。それというのも、裏切り者の男と女がここへや カルナスがティベリュースにいっていた。 「これがその男です、 ってきているように、わたしには思えたからだ。 シーザー。陛下に毒を盛ろうと、このローマへやってまいった魔術 スサンとわたしが苦労しながらごみごみした通りを脱け出そうと していると、ポンとわたしの肩を叩くものがあった。振り向いてみ師なのです , ティベリュースは、ガラス玉のような目でじっとわたしを見つめ ると、目の前にローマ軍団の一隊を率いる、ヘルメットをかぶった 冫しった。「マキシマスの告発に、そちはなんと返 て、脅かすようこ、 隊長のいかめしい、褐色の顔があった。 答する ? 」 ヘリュース・シーザーの命により、おまえを逮捕する」と、 彼はいった。装具をガチャつかせる数人の戦士がわれわれをとり押「シーザー、わたくしは、殺すためにローマへやってまいりました が、陛下をではありません」わたしは、彼にいった。「わたくしは、 えた。 「われわれは、なにもわるいことはしていませんーーー今朝ここへ着ほかならぬそのマキシマスに対して復讐を遂げるために当地へまい ったのです。もし陛下が御賢察くださるならば、そのものをわたく いたばかりなんです」わたしはいっこ。 「おまえの無実はシーザーに説明すればいい」と、隊長は、簡潔にしにお引き渡し願えるものと思いますが。さもなくば陛下は、やが やから てそやつめが陛下を苦しめる油断のならぬ従輩であることがおわか いった。「わたしは、ただおまえを彼の前へ連行するだけだ」 りになられるでありましよう」 一時間後われわれは、厳重に警備されて豪壮な宮殿へと入ってい 丿ュースは、ふくらん 「それは嘘だ ! 」 き、ローマ皇帝の前へ引き出された。ティベ 1 ティベ 丿ュ 1 スがわたしにいった。「マキシマスは、余がかって だガラス玉のような目でじっとわたしを見つめた。骨ばった灰色の 332
居ごこち よさそ、つ ですか つグ / フン、ひどい もんだ 4 ・の 分譲マンション ですぞ 私の家 とくらべれ わたしゃ それを 買った ばかりだっ たんです 移り住んで から三ヶ月 ・あ土 6 ・ー ) か たっていないんだ : それなのに こんな目に あ、つなんて : 213
THE EYE OF TANDYLA タンテイラの眠 L ・スプレイグ・ディ・キャンプ 訳☆船戸牧子画☆武部本一郎 突然宮中に呼び出された魔術師に 気粉れな王はとほうもないことを命じた ! タンデイラ女神の目にはさまれた 巨大な宝石を盗み出せというのだ ! しい・′な -
してとうとう、マルグリスが常々訪問者を待ち受ける最上階の室に りを暗示するように荒削りの頭骨の線をあらわにしてこけている。 たどりついた。 灰色の腕は、そっとするほどしわがより、緑柱石と紅玉の魔力のこ ここもまた他の室と同じように、扉は開いたままで、あたかも光もった目がその腕をかざり、 ハシリスクを形どった肘かけをしつか りと握りしめていた。 線による夢幻境のように燈火が燃えさかっていた。彼らの心のなか には盗みの欲望がおさえようもなくこみ上げてきた。投げやりな様「まことに」 = ゴンがつぶやいた。 「ここにはわしらを驚かせるも 子をみてきてすっかり大胆になった彼らは、今では塔に住んでいるのも狼狽させるものもまったくない。見よ、ただよろしく虫のつく のは、死んだ魔術師たけだと考え、ほとんどためらうことなくなかのをまぬがれた老人の死体がひとつあるのみじゃ」 に踏み込んだ。 「相違ない」ファステューレ。、 ノ力しった。「だが、この男こそその生 室内は階下と変りなかった。貴重な加工品の数々、鉄で装丁した前にはすべての妖術師を凌駕した偉大な存在。その小さな指輪です 書物、真鍮装のおびただしい妖術と魔術の書、金や土器の香炉、わらたぐいまれな御符である。その右手にはめられた紅玉は、はるか れない水晶のビンが不気味な雑然さで、モザイクの床一ばい置かれ深淵からここに悪霊を呼びだすであろう。室内に置かれている万巻 ている。このちょうど中央に太古の象の座にすわってこわばったの書は、減び去った神々の秘密や太古の星の神秘を顕示しよう。ビ 不動の視線を窓の外の夜闇にそそいで大魔王はいた。 ンの内に秘められた液体は、他界の諸相を垣間見せてくれようし、 幾度となく肝に命じて知らされている邪悪な支配力、その悪魔学薬物は死者を甦らせることができる。これらすべてが、このわしら の能力、他の魔術師には対抗出来ぬ呪文のことをいま明瞭に思いだの思いのままじゃ」 して、再びニゴンとファステュールは臆病風にふかれた。最後の魔 ニゴンは、とりわけオリカルチャムの緑柱石でかたどったグリフ 術の結果のように彼らの前に幽霊が現出した。眼から飛び出した インの卵を口にくわえ六重のとぐろを巻いた蛇のついた右人差指の 目、いやしい風采で彼らの前に来るともったいぶったいんぎんさで指輪に目をつけた。肘かけにしつかり固定した指から、それをはず 礼をした。それで、彼らはあらかじめ決めた予定通り、ファステュそうとしたが無駄だった。ぶつぶつこ・ほしながら、帯からナイフを ールが大声をあげて、マルグリスにその財産についての神託を要求抜くと、指ごと切り離そうとした。そのあいだに、ファステュール も他方の腕に近づいてナイフを手にしていた 何の答もない。眼を上げると老体は坐ったままなのを見て兄弟は「おぬしの心臓は平静か、兄者」うめくような声で彼はきいた。 実に大きな安堵を感じた。唯一、死だけが蒼白のその容姿を説明で 「もし、そうであるならそれは魔よけの指輪を手中にした以上のこ きるし、瞬間的に凍結した肉体のようなその固く結んだ唇を説明でとだそ。マルグリスのような至上の魔術師の体は普通人の体以上の きる。。ほんやりとした燈火の反射以外何も受けとめていない目は、 ものに完全に変換をとげているということがよく言われる。ほんの 5 洞窟をおおう氷と変りなかった、顎髭は半分白く、頬は腐敗の始ま一切れといえどもそれを口にしたものは、その魔術師の所有してい
THE SPAWN OF DAGON タコンの末裔 ヘンリイ・カットナー 訳☆団精ニイラスト☆斎藤和明霧 金千枚に目がくらんで魔道士殺害にでた彼は あやういところでやっと気がついた ! 彼を操ろうとした者こそ 恐る ~ き水棲人ダゴンの末裔だ。たのだ ! 。 : , 。 / 。移 0 ヨみク 359
かたわらには、彼の后、眠そうな目をした長身の美女、トクリスが は、また別の復讐の手段を見つけなくてはならないでしよう。あな たの探索はここでおしまいだからですわ」 坐っていた。「エタイン ! 」わたしは、胸の中で叫んだ。 冫し力ないな。逃げ道 わたしは、侍従が敷きつめた冷たいタイルに頭をこすりつけるよ「ああ、こんどこそエジプトのときのようこよ、、 はまったくない」ナ・ホニダスがいった。「明朝、おまえが断末魔の うにして、おずおずと前へ這い進んだ。積年の恨みを晴らす瞬間が 苦しみを味わいながら死んでいくのを、・ハビロン中の者が見物する 目の前に迫り、わたしの胸中は早鐘のように高鳴った。 のだよ」 わたしは、畏怖の念にうたれたふりをして身を起こした。ナポニ ダスがいらだたしげに前へのり出す。一瞬、わたしの右手にナイフ彼らはわたしを、王宮の土牢のいちばん奥にとじこめ、入口に衛 兵を五列も配置した。 が閃き、彼の心臓めがけて突き出されていた。 わたしは、レンガ敷の床で穏やかに眠った。死にはしないとわか トクリスは、非常にすばやかった。考えこんでいるような彼女の 瞳がいちはやくわたしの意図を読みとり、雌虎さながらの敏捷さでっていたのだ。 夜の明ける二時間前、わたしは、削ったり引っ掻いたりする物音 わたしの腕をわきへ払った。 将官たちの雄々しい叫び声、衛兵たちの駆けつけてくる足音がきに目をさまされた。土レンガの壁に穴がひとつあき、それが広がっ ていった。やがて、召使いのスサンが泥まみれの心配そうな顔をし こえた。数人の戦士に押えつけられてなすすべもなく、わたしは、 王とその后に面とむかった。 ナポニダスがつくづくとわたしを眺めやっていたが、やがてニタ ッとほくそ笑んだ。トクリスもせせら笑いを浮かべた。 「よくきたな、ウリオス」と、彼がいった。「おそかれはやかれお まえがやってくるだろうと、われわれは思っていたよ」 「ああ、そしておそかれはやかれ神々が、おまえたちふたりに恨み を晴らすことをこのわたしに許したもうであろうということも考え ていたのだろう」わたしはいった。 わたしは、彼らの顔面に容易には忘れられぬ恐怖のさざ波が見る この何世紀ものあいだ彼らにま 見る広がっていくのをみとめた つわりついて決して離れることのなかった恐怖だ。 「あなたという人は、つねに変わらぬ学者ばかでしたわね、ウリオ ス」トクリスになり変わったエタインが嘲った。「あなたの神々 新・幻魔大戦 漫画 / 石森章太郎 原作 / 平井和正 ■界の中堅平井和正と漫画界の巨 匠が読者のために新たに書き下 ろす七一年秋最大のビッグプレゼント ■毎号一一十四頁一挙掲載 ! 乞御期待 ! 329