連中 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1973年1月号
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1. SFマガジン 1973年1月号

横一田順弥 はいても、どうも情ない気持になってくる。そこで・ほく は、まわりの連中があまり詳しくないことを調べてみよ うという気になった。つまり、みんながに まくのわからな 知っている人は知っているが、とにかく・ほくは外国語い洋書の話をはじめたら、・ほくもみんなのわからないこ に極 1 粫こ弓、。 冫弓しまったく自慢にならない話なのでほんととを話して対抗しようというわけだ。で、思いたったの うは書きたくないのだが、この外国語の弱さが日本古典が、の他の分野に比べて割りあい系統だった研究の ファンになった動機の一つでもあるので、恥をしの進んでいない「日本古典」。明治ーー大正・ーー昭和 前期ーー終戦直後、このへんの日本の歴史を調べて んで書いているようなわけだ。 ぼくの周囲の人は、みんな外国語に強い。英語はみようと考えた。 もちろん、ドイツ語、フランス語、ロシア語、スペイン知っている人は知っているが、・ほくはまたたいへんに 語、エスペラント、 スワヒリ語 e O 、とたいていの言軽薄な人間だ。だから「日本古典」の研究なんて、 葉なら誰かがわかる。ところがぼくは、南蛮紅毛切支丹どうせたいしたことはないとたかをくくっていた。とこ 伴天連の言葉には完全にお手あけの状態。まわりの連中ろがどうだろう、ちょっと首を突っこんでみてびつくり が洋書を読んで、本邦未紹介のの話をしているのをした。たいしたことないどころの騒ぎではない。古典 聞いていると、自分が勉強しなかったせいだとわかってに関する資料なんて、まるでありはしない。雲をつか 書叢トンレレフ 囹 - 新連載」→日本こてん古典 、一回理科読本炭素太功記 はじめに

2. SFマガジン 1973年1月号

ぶかい人物らしい」 うにな」 「そして、危険な人物らしいですな」 「どんな力です、それは ? 」 「なに、二千年も前から、ラマやヒンズー教の行者が使っておった俺は、サイレンスの塑像のような顔を思い浮べながら言った。 「ふむ」老人は肩をわずかにしかめた。 。、ールの奥地で見聞した秘法にくらべ カじゃよ。わしがインドやネ′ ィッ。ヒーをは 「この国がつくられた当初を思い出すな。ヒッ。ヒー れば、ほんの序のロに過ぎんものだが : : : 」 ルス・エンゼル じめとするフリ 1 ク、そして地獄の天使どもまでがモーターパイク 「ですから、どんな力なんです ? 」 を捨てて乗り込んで来た。むろんこの連中に混って、喰いつめもの 「そう噛みつきそうな顔をするな。まあ、坐らんかい」 俺たちは毛皮のお裾分けにあずかり、老人をはさむようにして坐や、追いつめられた犯罪者もこの国をめざした。 、ハキューム・クリーナー この国は吸い込みお そのいっさい合財を、真空掃除器のように、 った。間近に見ると、流石に老人の顔には、猿を思わせる無数のし った。じつに面白い時代しやったよ。 わが刻み込まれていた。そのしわの褶曲をかき分けて、両眠が強い それから淘汰が始まったのじゃ。最初の冬で、三分の一の人数が 光を放ちながらのそいていた。 ュニティを志ざさぬもの、ただ単 「 , ーーあれは世間で何と言っておるかな。そう、超能力とか称して減 0 た。理想を持たぬもの、コミ テレーテーション プレコグ一一シ当ンテレ にここを逃避の場と考えておったものは最初の試錬に耐え切れなか いたな。予知能力・透視能力・空間移送能力、そう言ったカだ。っ っこ 0 まり、そんなエネルギーを、川下の連中は手に入れたらしいのじゃ アシッド その上に、薬が人間を試したーー森の生活は、薬なしには耐え切 よ。それもここ一年ほどの間に、急速にじゃ。あるいはこの数年の 間に、そのような潜在能力を持っておることに気づき、開発をしたれるものではない。誰もが、ソローのような克已心の持ち主という 訳には行かんのじやからな。常にバッド・トリップに陥ち入り易い のかも知れんが : 予知や透視はともかく、空間移動の方の術者はかなりの数らし体質の者、そして精神に悪しき変調を来たした者はみずからほろび 。それもごく若い連中じゃ。長年、超幻覚物質を飲みふけり、思た。もっとも、ホース ( 〈ロイン ) に取り憑かれた悪魔どもが、わ わず知らずに超感覚をみがいて来たことが、彼らの脳の禁断の扉ずかな数だが生き残って徘徊しておる。あんたを襲 0 たのもこの仲 間じゃな。 を、ついに解放したのかも知れん。危ういことだな。かっては、こ こうして選び抜かれた者たちが、インディアンの叡智にならって のような力は、行を積み、道をきわめた僧侶にのみゆるされたもの コンミ = 1 ンをつくり、暮らし始めた。それはすばらしい生活じゃ じゃと言うのにな : : : 」 アシッド ″ソロモンの栄華も、一服の薬に如かず〃、と言うところ 隠者の声は次第にかすれて消えた。 じゃな。それ以来、生活の秩序を守る素朴なもの以外には、この国 「″スタッグ″と言うのは、その統領と言うわけですか ? 」 冫をしかなる権力機構も存在しなかった。少なくとも″スタッグ 「そうらしいな。わしも」度会いたいと思うとる。なかなか、興味こま、 へ つね アシッ 2 2

3. SFマガジン 1973年1月号

だ。仮りに採鉱者として受けたギメルでの富の配分。ーー他の星へ行したように内側へ顔をみせていた。その気閘を通り抜けたドームの けば一生贅沢三味で暮せるだけのものーーを無事に持ち出した人間外側には、遠来の客をとりつく島もないやり方で迎えるための、検 がいるとすれば、彼は一一重三重の殺人申請をとり消し、自分に出さ疫所と入国検査所があり、ギメライト運搬船に便乗して来た男女が ほとんど男ばかりだったがーー怯え切った表情でそこからギメ れた申請以上の殺人許可を買って、欺し、裏切り、悪の技巧のかぎ りを尽して脱出した人間に違いないのだ。そうときまっている元ギルへ入って来るのだった。新来者がギメル人たちにとって大きな価 値を持っことはほとんどないと言っていいだろう。大半は地底の採 メル人を、他のどんな社会がこころよくうけいれるというのか、い ま全宇宙でギメルは悪の星としてなり響いている。場所によっては鉱場へ直行する労働力の一単位にすぎない。失うべきものを失いっ 多くは死刑を持たない社会でーー重罪人の処分をギメルへ送りくし、自分自身さえも失ってしまったような連中なのた。だが一度 ギメルを脱出したことのあるローレ・タピは、そうした連中の中 こむことですませているところもあるくらいなのだ。 ローレ・タビはいま、その悪の星ギメルにへばりついた半径一一十に、近頃かなりの数の政治犯や亡命者が混りはじめたことを知って メイン・ストリート いた。出戻りのローレ・タ・ヒがまず第一にやったことは、そうした キロの円形ドームの中央にある主走路の上を、ゆっくりと空港に ドームはうす汚れた乳白色政治犯や亡命者を見つけるための入国者情報を提供してもらうこと 向って移動している。透明だったはずの アヴェ - 一ユー 。ギメル警視庁はその点で欲がなかった。入国者情報にどん に変り、歩道と交互に構成されていた走路も、ほとんどは錆びつ な価値があるのか知りたがろうともせず、ローレ・タビのその前例 いて停止していた。空気は生臭く、二日酔のロ臭のようだった。 のない申請に対し、毎月四十クレという馬鹿値で応じてくれたのだ った。だが政治犯や亡命者の多くは、地底の採鉱場で暮すことをい やって来た女 やがっていた。ローレ・タ。ヒのつけめはそこだった。彼らは他の多 くの入国者たちと違って、金を欲しがっているわけではなかったの ローレ・タ・ヒはドームの壁近くに行くことを本来余り好いていな だ。どうしようもなくて一時の逃げ場所にこのギメルへたどりつい かった。人間の住む場所はそこで終り、ギメルの唯一の産物であり、 た連中なのだ。彼らはドームに守られた地表にいたがり、ローレ・ 同時にギメルそのものでもある厚いギメライト鋼の壁が行手を塞い ドームになっていて、そこへ来るとタビは地底に行かないでもすな方法があると彼らに囁いてやるのた でいるのだ。壁の上は乳白色の ローレ・タ。ヒは言い知れぬ寂寥感にとらわれるのだった。ひょっとった。ギメルに入国した者は誰でもその日からギメル人だった。そ すると彼はいくらか閉所恐怖症の気味があったのかもしれない。だしてギメル人になったとたん、一定の富の配分を受ける・・ーーまたは メインをストリート が空港だけは別だった。そこは彼の生活の場だった。主走路の終受けなければならないーー仕組になっていた。配分は全く平等だっ 点がちょっとした広場になっていて、突き当りの壁から、恐らく一た。その冷酷なまでに平等な配分が、実はギメルの悪に直結してい 3 ェアロッケ 度も使われたことのない、大きな非常用気閘がぶさいくな箱つき出るのだ。新入りは無一文、古参は金持ち。そのことが何を意味する

4. SFマガジン 1973年1月号

ている。おだやかな螢光があたりに充ち、低い周波音と、消毒薬の出した。 「この、人殺しの豚野郎どもめ。うす汚ないミサイルをいった 5 匂いがかすかに漂っていた。 い何発打ちこんだ ? 」 「気分はどうだ ? 」 「ミサイルを・一一発だけだ」 左手の、白い口髯をたくわえた初老の男の唇が動き、感じのい 平然と艦長は答えた。 低い声が言った。 「それに、ロの利きかたには今すこし気をつけてもらってもいい 「ーーーどこも、こわれてはいないようだが」 な。君を救出したのはともかくわれわれなのだ」 俺は体内の異常感覚をまさぐりながら呟いた。 「頼んだわけじゃない・せ」 「ここは何処た ? 」 「そこまでだ」冷ややかに大佐はさえぎった。 「原潜ソードフィッシュの医務室だ」 「ロス・グリーンフィールド、それよりも君の説明を聞きたい。ど お手の男が、耳触りの悪いしわがれ声で言った。押しの利いた 日頃から命令を出しつけている暴君の声だった。かれの、えらく顎うや 0 て = カタン海峡まで脱出した ? そんな時間はなか 0 た筈だ の張った赤い顔を逆さに見上げながら、こいつを好きになるのはむが。他の連中も一緒だったのか ? 彼らはどこへ行ったのだ ? 」 「彼らかね」俺は自分に噛みふくめるように呟いた。 ずかしそうだなと俺は考えた。 ・が工作員に見込んだ「彼らは、ニルヴァ 1 ナへ向ったのさ」 「君はじつに運のいい男だな。 O ・・ 「ニルヴァーナだと ? それはどこの国だ ? 」 のも無理はない。連中にもっとも必要なのは運のよさだからな」 「そうさな」俺はちょっと考えてから言った。 「艦長が言っておられるのは、カリ・フ海の腹を空かした鮫どもに、 「人類の、新らしいアメリカと言うところだろうな、多分」 なぜ君が食われなかったかと言う話だよ」 「たぶん、とは何だ」大佐は唾をとばしてわめいた。 感じのいい声が、ほとんど楽しげに言った。 「もっと分るように言ってもらおう」 「俺が、何だって ? 」 が、俺にはもう彼らとかかわる気持はなかった。 「君はココ椰子の切れつばしにしがみついてユカタン海峡のコスメ そうか、それでは俺は、転移の途中ではじき飛ばされたと言 ル島沖を漂流している所を漁船にひろわれたんだ。むろん、意識を 失ったままでな。言いおくれたが、私はイネス少佐、この潜水艦のうわけだな。五体無事に海に落ちたのは、たしかに運がいい とも、この世界に取り残されたことを喜べばの話たが。 軍医た。こちらは艦長のマクレーン大佐」 それについてはどう思うんだ ? 俺の、体中の血がわっと沸き立った。アドレナリンが炎のよ 仕方がなかろう、と、俺はにがく自分に笑って見せた。 うに血管をかけめぐり、俺はてんかんを起したシーザーのように慄 そいつが俺の星なんだ。 えた。やっとの思いで、食いしばった歯のすきまからことばを押し 又ージェント きめ マザー・ファッカー トリップ 〔完〕

5. SFマガジン 1973年1月号

びしりと、鞭でも鳴らすようにスターシャインが言った。彼女だ グレイウルフの目が一瞬鋭い光をおびた。 けは酒に指一本ふれていなかった。 「だが、誰にも行くてを邪魔させはしない」 「さあな。このジャングルには蛇が多いんだ。俺たちには奴らは友ふいに、ぎこちない沈黙が立ちこめた。 達だが「連中、他所者に噛みつく趣味があるらしくてね」 隣りのたき火の周囲では、コンミューンの住人たちがにぎや 「蛇のいる場所に案内したって訳 ? 」 かなタ食を摂っていた。子どもたちの届託ない笑い声、餌をせがむ ″全裸″は、凄い笑いを浮べた。このすつばだかの大男は、・ とこか犬たちの甘えた鼻声。シタ 1 ルとリュートの音が入り交って流れて 血に飢えたヴァイキングの戦士を想い起させた。 来た。 一くらし ビッグどもは、・ . しュ / . し とこまで知っているのかね ? 」と、彼 たしかに、いし 、生活だ、と俺は思った。何の無駄もなく、邪 が言った。 魔も入らぬ、一本の竹のように真っ直なこの人生。その簡潔さ、単 「何も知っちゃいないさ、ことの真相はな」と、俺は答えた。「た純であることの黄金の重み。 だ、かれらは恐れている」 急速に回って来た酔いが、俺の精神をやさしくなためながら、単 「そう、恐れている」と、グレイウルフが言った。 純さのばら色の高みへと押し上げた。人間はどうせ一時にひとつの カープ : スターシャインの胸もとの曲線を目で追 「だから早くルートを拓かねばならない。その気になれば彼らをほ ことしか出来はしな、 ろぼすこともたやすいが、しかしその積りはない。そいつは時間と いながら俺は呟いた。 エネルギーの無駄だからな。放って置いても、かれら自身でみずか「ところで : : : 」と、うすれてゆく俺の最後の理性が言った。 らの喉をしめつけるに決まっている。かれらにわずらわされぬ所へ 「ここはいったいどの辺なんだ ? 」 早く行きたいものだな」 「中部マヤ・ペテン湖の奥地だ」 「そう、少なくともあなたはね」スターシャインの声は、まだ棘を″全裸″が、スタ 1 シャインの上半身をあまりそっとしない目付で 失っていなかった。 舐めまわしながら答えた。 「それはどういう意味だ ? 」と、グレイウルフ。 「あの遣跡はむろん未発見のものだ。俺たちしかそのありかを知っ 「あなたの言う、異分子のことよ。村ごとそっくり消えてしまったてはいない。残念なことにね。というのはだ、あの″戦士の宮殿″ 連中のこと。あれは本当に彼ら自身の不手際なの ? あんたがたの前庭には、えらく面白い石碑が立っている。古代マヤの一支族が が、邪魔な異分子を抹殺してしまったんじゃないの ? 」 どうして突然消減したか : : : その記録なのさ」 「疑いぶかい女だ」″全裸″が顔をしかめて言った。 「なるほど、あの妙ちきりんな絵文字をあんたは読めるというわけ か」 「まるで旧世界の女のようだな」 「まあな。キー・ワードさえ見つかれば、そんなに難かしい代物じ 「われわれは兄弟を殺すような真似はしない・ すご

6. SFマガジン 1973年1月号

君については、足を踏み入れた瞬間から分っていた。泳がせて置下何桁くらいだろうかと考えながら訊いた。 いたのは、君をよこした連中のもくろみを正確に知りたかったから「いい質問だ」ホークアイが断ち切るように言い、皮肉たつぶりに だ。が、どうやら君は単に使い捨ての消耗品に過ぎなかったよう付け加えた。 プービートラップ だ。生きた盗聴器、わな爆弾としてのね。 こんな扱いをされて「もうひとつの方の確率はゼロだな。自分の足でも射っちまうのが おちだ。せ」 君は腹が立たんのか ? 」 「君はもう自由の身だ。行くも止るも思いの儘だ」 「向うの国では」と、俺はひどくみじめな気分の底で呟いた。 と、グレイウルフが言った。 「生きて行くってことは、罠にはまるってことに他ならないんだ。 「ただ、出来れば我々の立会人になってほしい。そして我々の意 手前が望もうと望むまいとな」 「ともかく我々は、君を鎖から解き放ったとも言えそうだな、プ図、計画を彼らに伝えてもらいたいのだ。 我々は彼らのものを何も望まない。我々はこの星をパニックに捲 メテウス君 ? 」 「・ーー・山の聖者のところで、白痴に近くなった男にあった」俺は言き込みたいとは思っていない。ただ放って置かれ、そして望む所に 行きたいだけなのだ。 葉を歯のすきまからゆっくり押し出た。 それが邪魔されたときにどんな報復を我々がなしうるか、君には 「あの男をポロ屑同然にしちまったのはあんたがたの仕業だな。あ 充分想像がつくだろう ? しかしそれはまったく我々の本意ではな れは殺人とどう違うんだ ? 」 「あの男はタフだった : : : 」 グレイウルフはすでに徴笑を収め、その口調には熱い真撃さがあ 戸 1 ン・ペアがかすれた声で言った。 「心を閉ざす訓練も受けていた。だから手術が難航したのだ。つまふれていた。 この連中は少しも自分たちの力におごっていない。むしろそ り、自爆したようなものだな」 ふいに、その戸にそっとするような緊迫が加わり、スターシャイれを畏れているようだ。 俺は、銃についてはきつばり忘れ去る決心をかためながらそラ思 ンを睨みすえた。 「そこの女、お前は何を考えている。お前の心はガラスのようにすった。 「望むところ ? 」スターシャインが訊いた。 べすべしてとらえようがないな 9 お前は何者だ ? 」 「それは一体何処なの ? 」 「彼女はスターシャイン」グレイウルフがなだめるように言った。 プルーウィ / ド 「その内に分る。今私が言っても信じはしないだろう。その手段に 「″青い風のプルーシャドーの妻だ。心配はない」 いや、そうではないな。 しても、人類にとって初めての経験だ : ・ 「それで、一体俺にどうしろと言うのかね ? 」 俺は、銃をぶっ放して一気にこの四人を倒し得る確率は小数点以偉大な先達がかって歴史上にその記録をいくつか残している」 せんだっ 5 3

7. SFマガジン 1973年1月号

たところなんじゃない ? 」 「止めなさい、そんな言い方は」 「何でもお見通しと言うわけだな、ええ ? 」 毛皮の山の中腹あたりから、一呼吸置いてひょこりと片手が現わ 俺はわずかに苦い口調で答えた。 れ、ひらひら左右に振られた。この老人は、・ とんな亀もかなわぬほ 「たしかに、俺も会いたい」 どの完璧さで、毛皮の殻のなかにとじこもっているかのようだっ 聖者の住む小部屋はーー部屋というよりも穴ぐらと呼んだ方が正「わしは老師でもなければ聖者でもない。第一、わしは何ごとも教 カったがーー・きわめてこじんまりしたものだった。そのたたずまえておらん。ただ死にそこなっただけの隠者じゃよ いは、俺にレプンワースの監獄の独房を想い起させた。あまりそっ 「それでは、ご老人。ともかくお礼を言わせていただきたい。あな としない想い出だ。 たのーーお仲間に命を救われました」 岩壁の岩のひさしに置かれた数本の蝋燭が淡い光を投げかけ、阿 , 「ふむ、そのことか。だったらサイレンスによく礼を言うがいい。 つら 片に似た甘い匂いがかすかに漂っていた。 あの男がのぞんでやったことだ。あれも気の毒な男でな、よほど辛 その灯の真下に、乱雑に積まれた毛皮の山が横たわっていたが、 い目に会わされたらしい力」 俺たちが立ちすくんでいると、その頂きがむくむくと動いた。スタ「誰にでしようか ? 」 びじ 1 シャインが俺の肱をきつくつかんだ。ほの白いものが毛皮をかき「まあ、大体見当社つく。″スタッグ謝一族の連中にじやろう。ひ 分けて露われ、そこから声が聞えた。 とりの男の魂をズタズタに引き裂くような力を考えればな。が、何 「これは驚かせたようだな、済まんかった。なにせ、この齢になる故に、ということが分らん」 と寒さがこたえてな」 ″スタッグ〃 ・ : 俺はその言葉を口のなかで二、三度転がした。 すばらしく低い、深みのあるパスだ。俺は目を凝らした。白く見「″スタッグ″と言うのは、何者です ? 」 えたものは、顔中を覆った白髯で、唇のあるべきところにちらりと「なに ? 交易屋のくせにそんなことも知らんのか」 黄色い乱杭歯が見えた。わずかに露出した顔の皮膚は、その色のた「このところ不案内でしてね」 めに光を吸収されてさだかには見えず、やはり真白になった眉毛の「知ってどうする ? 」 下から、白目の際立っ眼がうかがえた。 俺は肩をすくめて言った。 つまりこれは、おそろしく年老いた黒人の顔だった。 「好奇心という奴ですよ。商人としてのね」 まあ、 「それではあんたかな、しばらくぶりに国境を越えて来たおひとと「ふむ。その好奇心とやらは高くつくかも知れんぞ。 言うのは」 。連中はこの川下に住んでおる。そしてやたらと、何やら怪しげ ろうし 「仰せのとおりです、老師」 な力を振り回しておるのだ。珍らしい玩具を手に入れた子どものよ べっそう セイント 2

8. SFマガジン 1973年1月号

「オレン・リードさんはどうやらガートの店から出る気はないらし限もなく金をつぎ込むところだったんじゃないのかね」 ムニはむくれ返って立ち上った。 ク・ロドレはその百クレを両手でいじりながら言った。 「あんたはいつだってこうなんだ。この糞たぬきめ」 「どうしてそんなことが判る」 「ギメル人同士でそういう言い方は失礼だよ。それに自分自身をい 「ガートがオレンさんを自分の店の一部として取扱えるよう申請をやしめることにもなる。儂が狸なら君も同じ狸だ。二人のギメル人 出して来た。同時に彼の今までの保護料総額に百万クレ上のせをしのうち、一方が一方より善良だということはあり得んのだからね」 た」 ク・ロドレはそう言って高笑いした。ムニは荒々しく床を踏み、 「そんな莫迦な」 悪態を二つ三つ残して総監室を出た。ク・ロドレは笑いながらファ ムニはポカンと口をあけク・ロドレをみつめた。オレン・リードイルの第一ページを開いた。《オレン・リード》とそこには記さ はその措置で、恐らくこのギメルで最もガードの固い人物になってれ、ムニが欲しがっていた彼女の経歴のすべてが載っていた。 しまうのだ。ク・ロドレはニャニヤしながら一枚の書類にスタンプ を押した。 「合計四百クレにしては安い情報とは思わんかね」 宇宙最大の巨宝 「冗談じゃねえや」 ムニが警視庁を出るとすぐ、ギメル中にオレン・リード のが。ハ ムニはふくれつらで叫んだ。この瞬間、彼が出した情報料はガー ッとひろまった。数千万クレの星間信用状を持った美人がガートと トの巨額な保護料に打ち砕かれ、没収されてしまったのだ。ム = は手を組み、まず百万クレの保護料を払ったというは尾ひれがっ 三百クレの領収書を見て喚きたてた。ク・ロドレに渡したのは三百き、ガートの店は満員の盛況だった。だがガートの店は高級すぎ クレではなく、四百クレだったというのだ。 て、そうちょいちょいは出かけられない連中も多かった。南のはず 「それは何かの間違いだよ。三百クレは君が出した正規の情報料じれに近い売春窟では、そういう連中がロ 1 レ・タ。ヒをとりかこんで ゃないか。残りの百クレに対する情報はちゃんと君に渡っている」オレンに関するネタをねだっていた。 「そっちを先きに言ってくれなけりや。ペテンだ、これは」 「ねえローレの兄貴。あんたはその美人が着いたとたんからくらい 警察はム = の三百クレを没収し、同時にその半額の百五十クレをついていたって言うじゃねえですか」 ガートの保護料から差引くのだ。そのかわりガ 1 トには、誰から何「そうだよ」 の目的でいくらの申請が出されたか、すぐに通知される。ガートは ロ 1 レ・タ。ヒは黒く大きな眸を得意そうに輝かせて答えた。 百五十クレまた追加すればいい。 「何しに来たんです。俺たちには皆目見当もっかねえけど」 「儂が親切に言ってやらなければ、ムニ君はオレンさんに関して際「それを知りたければガートに聞いてみるんだな」 い」 ー 43

9. SFマガジン 1973年1月号

ロ 1 レ・タビはその男のほうをみて聞えよがしにつぶやいた。男ビはあとあとまでふしぎに君った。しかしその時はそれ以外に答え メイン・ストリート は汚い笑い方をしてみせ、あきらめたように大股で主走路へむかようがなく、出むかえた従者のように腰をかがめて鞄をもちあげよ 3 うとした。 った。そのあとの二人も似たり寄ったりだった。悪事の限りを尽し、 「オレン。オレンさま」 遂にまともな社会では生きられなくなったこの世の脱落者たちだ。 とてつもなく大きな叫び声だった。 ロ 1 レ・タビは目的の四番目が出て来るのを待ちかまえ、かすかに 「ホギー。まあホギーじゃないの」 舌で下唇をしめした。買った情報によれば、最後に出て来るはずの 人物は女だった。・ キメルは極端な女ひでりだ。どんなご面相だろう女がそれに答えた。一瞬静まり返った広場に走路の音だけが聞 と、女なら値打があった。十分五クレのセックス・マシンから一時え、ホギーと女の靴音がそれに重なった。 「オレンさま。オレンさまーーー」 間五十クレの売春婦まで、ギメルでいちばん安定した商売はセック ス屋たった。新来の女と契約を交せば、ホギーみたいな連中の五倍ホギーはそう言い、泣きはじめていた。 「ホギー。あなたこんなところにいたの」 のみいりにはなるはずだった。 アン しかし太陽の光を背に、その女が現われたとき、ローレ・タビは「オレンさまこそ、どうしてギメルなどへ」 いつもやるヘつらい顔も忘れ、かけ寄ろうとさえしなかった。体が「ホギー。あなた元気なの。少し痩せたようだけどー 「よかったわ、生きていてくれて。ホギーが連中につかまったって 痺れたようになって動けなかったのだ。新来者はみなローレ・タビ のような古手のギメル人にとって別世界の人間に違いないが、それ いうを聞いたのよ。もう会えないかもしれないと思ってたのよ」 以上に彼女は別世界の人間だった。顔にも体にも、床に落ちる影に 「なんとか逃げのびたんです。もう少しでつかまるところでした」 けが ローレ・タピはほっそりとしなやかな女の体をだきしめているホ さえ、汚れというものが見当らなかった。大きな鞄を両手にぶらさ げ、それをローレ・タビのすぐ前に置くと、肩をすくめて笑いかけギーに対して、猛烈な嫉妬を感じていた。それは男としての嫉妬と て来た。 いうより、恐れげもなくこの清らかな女に触れて行ける、ホギーと 「乗物はないのかしら」 いう人間の善良さに対する嫉妬だったようだ。 「ホギー、この方をどこへおつれしたらいいんだ」 その声は細く柔かく、そして澄んでいた。 ロ 1 レ・タ・ヒは既得権を主張するように、重い鞄をもちあげて高 「ギ、ギメルにはそんなものないんです」 ローレ・タ。ヒは気押されて口ごもり、弁解するように言った。 圧的に言った。 「ローレ・タ・ヒ」 「あらあら。こんな重い荷物、どうしましよう」 物柔らかで、そのくせずしりと胆にひびく声で名を呼ばれた彼 「私がお運びします」 な・せそんなへりくだった言い方をしてしまったのか、ローレ・タは、ハッと目を丸くし、下唇を噛んでゆっくりとふり向いた。すぐ

10. SFマガジン 1973年1月号

。俺の理性はしばらくの間ためらったあと、ようやくひとつの結る植物が獰猛な侵略精神を発揮し、それはがんじがらめの虜囚と言 ここは熱帯地方に違いない。おそらく中央アメリった感じだったが、それのそなえた一種異様な妖気は少しも損われ 4 論を下した。 てはいなかった。 理性はその問いから顔をそむけた。 力だ。どうやって ? 次に俺は、より理性的なことをした。毛皮類一切を脱ぎすて、肌 まず目をそば立てたのは、一対の巨大な神像だった。それは蛇の 着一枚になったのだ。ホルスタ 1 だけはまた身につけた。 姿を持ち、頭部は大地にへばりついているが、胴は空にのけそり、 いくぶん醒めた目で眼下の光景を眺めなおすと、いくつかの発見尾を前方に突き出している。 があった。ーー・樹冠の合い間に見えがくれしている廃墟。その数か真下に立っと、見上げるような高さだ。崩れおちた石の鱗の下か らして、ここはひとつの都市の、壮大な廃墟のようだった。それから、本物の蛇 , ー、・あざやかなみどりのーーが逃げ出した。 おくが ら、水面のきらめきが見えた。湖水か川かは分明ではない。ほぼ北その神像のさらに奥処には、なかば崩れ朽ちた豪壮な建築物がの 西の方向に、ガラスの破片のようにきらめいている。それは、俺をぞいていた。それは神殿のようでもあり、また宮殿とも見えた。パ 招いていた。 ルテ / ンのそれにもひけをとらぬ柱廊が手前に位置し、五層の段の ビラミッドの、廃墟の中心部に向ってまっすぐに駈け下っている上に石柱で支えられた建物の本体がその奥に横たわっている。 かたむ 階段を、足場を確かめながら下りて行った。下りるにつれ、このビ もっとも今は柱廊の柱は殆ど傾き、基壇自体も樹々の根が押し上 ラミッドの特徴がはっきりした。五つの基壇を持った多層ピラミッ げる力で傾斜し、辛うじて均衡を保っている感じだ。近づくにつれ ドで ' それそれの基壇が回廊をめぐらせている。 そのとてつもない大きさ、量感がぐいぐいとのしかかって来た。 が、俺にはとても細部を見てとる余裕なそなかった。空間に向っ こいつを建てた民族がどんな連中だったにせよ、石造建築につい てひらいている急勾配の階段を下りるのは、神経にとって余り良い ての工学的能力、たつぶりした時間、いささか気色は悪いがそれな ものじゃない。最後の一段を下り切ったとき、俺は汗みずくの上、 りに手のこんだ装飾をやってのける美的感覚を併せ持っていたに違 暑さと渇えとでかなりひどい気分になっていた。 そこは、かっては広大な中庭だったに違いない。が、今は丈の高壁といわず柱といわず、表面には浮き彫りがびっしりと彫り込ま い草がびっしりと茂っており、その草のジャングルを縫って、ほそれていた。それらは余り気持のいいものではなかったーーー人間の心 い踏み分けみちが続いていた。このビラミッドは決して打ち捨てら臓をつかんでいる禿鷹、人面をしたアメリカ豹、しゃれこうべの。ヒ れた存在ではないらしい ラミッド、そして奇妙な、神像めいたたくさんの偶像。どうやらこ この草地をかこんで、ジャングルの緑の壁ごしに、崩壊したさまの連中は、人間の命に対してはさほど敬意を払っていなかったらし ざまな石造建築物がのぞいていた。びときわ巨大な右手のそれが俺 しだ はるか頭上からは、軽やかな鳥のさえずりが、ひっきりなしに降 の目を奪い、足を吸いよせた。羊歯や蔓の類、溶樹をはじめあらゆ かっ つる たか うろこ