二人 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1976年10月号
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1. SFマガジン 1976年10月号

した。一人になりたかったのだが、まだちょっと階段を上るのは無たいどういう風の吹き回しであたしはあんなことを口走ったのだろ 理だった。女がしゃべりつづけていると、他にも興奮した人々がは う ? あれが〈革命〉前夜にいうべきことか、たとえ事実だとして いってきた。察するところ、デモが計画されているらしい。刻々とも。 変化するスーの情勢は、ここの人々の心情にも飛び火し、何かやら彼女は潮時をうかがい、ぶざまながらもなんとか立ち上がって、 なくてはということになったのだろう。明後日、いや明日にも、大一同が準備と興奮にとりまぎれているすきに、こっそりと脱け出し 規模なデモ行進がオ 1 ルド・タウンからキャ。ヒトル・スクエアに至た。廊下に出て、階段にたどりつき、一段一段の・ほりはじめた。 るお定まりのコースで行われる予定たった。「九月蜂起の再現だ」 「ゼネストた」一人、二人、十人の声が、背後の、階下の集会室で 一人の青年が、目をギラギラさせて笑いながらライアをちらと見いうのが聞えた。「ゼネストか」踊り場で一息入れながら、ライア 非公式卒 た。〈九月蜂起〉当時はまだ生まれてもいなかった青年にとっては呟いた。目ざす階上の部屋には何が待ち受けている ? は、すべては歴史上の出来事でしかない。彼は自分なりの歴史をつ中。なんとなくおかしい。彼女は、あらためてつぎの一連の階段 くりたいのだ。集会室は満員となった。総会はここで、明日、午前を、一段ずつ、小さな子どものように、一足ひとあしの・ほりはじめ 八時に開かれる。「ライア、あなたもスピ 1 チをして下さらなく た。目まいがしたが、もはや倒れることを恐れてはいなかった。前 ちゃ」 方に、あそこに、ひからびた白い花々が、タ闇の草原でおじぎを 「明日 ? あら、明日はいないのよ、あたし」彼女はそっけなくいし、ささやいている。七十二歳の今日にいたるまで、その花の名を った。彼女にスビーチを頼もうとしたその人物は微笑し、別の一人覚えるひまは、ついぞなかった。 けげん が笑った。もっとも、アマイは怪訝な顔でちらとふり返ったが、彼 らは引き続きしゃべったりわめいたりしていた。〈革命〉だ。いっ 心の優しいニヒリストが描く異形の未来図 プレイヤー・ピアノ彎 カート・ヴォネガット・ジュニア / 浅倉久志訳 \ 470 現代アメリカ文学の旗手といわれる作者のナイーヴな感性が産みだした処女長篇 ハヤカワ文庫 SF 9

2. SFマガジン 1976年10月号

通信機を介しては何もいわないだろうと、レイノルズははじめからとき、ケリイがささやいた。 這って進まなければならない最初の隘路にかかる前に、もう三人 6 思っていた。彼らにとっては通信機も、ほかの機械や電気じかけと が脱落し、いっさんに連絡艇へかけもどっていった。異星人にもら 同しように、忌むべき存在だったからである。 った走り描きの図面をたよりに、彼は一行を、これまで踏みこんだ ケリイとレイノルズは、最初のグループにまじって、エアロック にをいった。一分か二分たって、つぎのグルー。フが到着した。全員ことのない区域へ導いていった。いつものよりも、道はむしろ楽だ が = アロックにつめこまれ、連絡艇の最後の一隻が帰途にそなえてった。歩きにくい場所はほとんどなく、天井はずっと、異星人の背 そこに接続しているのを見さだめると、レイノルズはすぐに進行の丈に合わせた高さだった。ときどき後方で、驚きの声をあげるもの があったが、レイノルズはそれを無視して、黙りこくったまま目的 合図をした。 「ちょっと待ってくれ」ひとりの男がいった。まだ全員そろってなの場所へと、通路をたどっていった。 ついに到着したところは、・ハスケットボール用の体育館ほどもあ アクトンとドッドが、艇内へ宇宙服をとりにもどってる」 「じゃ、おいていくんですな」とレイノルズ。「ここの空気は新鮮る大きな部屋で、天井は、はるか高みの暗がりの中へ消えていた。 レイ / ルズは、ぐるりとからだをまわして、そこにあつまってい ですーー・宇宙服の必要はありません」 「しかし、すごい匂いじゃないかね」べつの男が、鼻をすぼめるよる異星人の数をかそえた。十五 : : : 二十 : : : 三十 : : : 四十 : : : 四十 いや、四十六人だ。たぶんこれで全部だろう。乗っている 五。 うにしていった。 レイノルズは思わず徴笑した。彼自身は、ほとんど何の匂いも感全員があつまってきたのかどうかはわからないが。 それから、こっちの人数をかそえてみた。二十二人。思ったより じなかったからである。はじめの何日かの臭気にくらべれば、きょ うのは無きにひとしい。「宇宙服を着ていたら。異星人は会おうとましなようだ・ーー臭気に堪えられずに逃げだしたのは、わずか六人 ◆こっこ 0 しません。機械を介した対話は、彼らにはタ・フーなんです。中へは いっていくにつれて、匂いはもっとよくなってきますよ。それまで彼は、ひとりだけ前に出ている異星人に向かって、「ごきげんよ う」と話しかけた。ヴァーグナンではない。が、ジョナソンかもし は鼻をつまんで、ロで呼吸をするんですな」 「気分がわるくなりそうだ」レイノルズの横にいた男が打ちあけれない。 うしろで話し合う声がする。「まるで麒麟みたいだ」 た。「いまの話は、まちがいないんだろうね、博士 ? 」 べつの声が、「それでも、知性はありそうですな」 冫いったふたり 「誓って」と、レイノルズは答えた。宇宙服をとりこ 「そうとも、まちがいない。あの目を見てみろ」 の男がもどってくると、レイノルズは、たつぶり一分間もかけて、 「それに、友好的なようだ」 彼らにお説教した。 「こんにちは、レイノルズ」異星人が答えた。「これが、あなたの 「あまりいい気になるのはよしなさい」ようやく全員が歩きだした

3. SFマガジン 1976年10月号

終末論と・ハニック映画のプームが『日本沈没』 「アイリッシュ短篇集」① 【お譲りします】 映画化を助け、『エクソシスト』の大ヒットとオ ④「怪奇小説傑作集」以上 0 可係カルト・プームが『血を吸う薔薇』を生んだよう ~ 。奇想天外復刊第一を、十代の女性の方に無料 に、『』の大ヒットから何か出てきても号。以上まとめて七千円で。でお譲りします。 ( 奈良 よさそうなものなのに、なかなか出ないんだなあ、 バラ売りは定価の七割。手市右京二丁目一一七ー四 0 ニ れぼ 山口吉昭 ) これが 渡しできる方優先。 ( 繝茨 ずれ 今や、慢性的な危機状況にある日本映画界に必城県竜ヶ崎市川原代町一〇【お譲りください】 て ) ■オービット①②③号をあ 書誌照要なのは、観客 ( 大衆 ) の求めているものをいち四八富山要 ) ー「火星シリーズ』十一巻、わせて二千円でお譲りくだ 歓葉当参早くとらえる感覚と、それをいかに面白い映画に 「ベルシダー」一巻 ( 創元さい ( 宮城県柴田郡柴 迎・は次 ( しかもていねいに ) 仕立てあげるかという意欲 版 ) 一一 ~ 七 ( 早川版 ) を適田町槻木別当寺ー 3 稿書先目 岩川和司 ) と、それを可能にする腕、そして結局は勇気と決価でお譲りします。往復 ( 投封宛 ( ・創刊号 ~ 号、「高 断ということになるのだけれど、そんな当り前のガキで連絡を。 ( 京都市 ことが決して当り前にはいかないから大変なので東山区大和大路五条下ル上。い城の男』を適価で。汚損 してねえ。まず観客というのが流動的でつかみど棟梁町一 = 一 0 古子勝也 ) ふ可。希望価格明記の上葉書・ で連絡を。 ( 札幌市白石区 ・創刊号 ~ 号まで ・の一読者です。田中光二さんの「エーリころがないし、映画をつくる現場が企業の合理化 っ平和通一丁目南白水晩子 ) バックナンバー全冊。欠号 アン・メモ」、終ってしまったので、とても残念やら何やらで意欲を殺がれてしまっているという ・『宇宙戦艦ヤマト大辞典」 なしを十万円でお譲りしまわ です。物静かで、傍にいる者をおのずと和ませる悪条件がいくつも複雑怪奇骨折風にからみあって 同人誌ヤマト①号、アスト す・ ( 1 号 ~ 号までは t.n 人。そのすきとおった微笑。純粋な好奇心。穏やいて、一体何をつくったらいいのかというそもそ マガジンファイルに入れすロノート①②号などを適価 で。 ( 岩手県盛岡市志家 かな物腰。ジ。ン・ = ナリー。彼に心引かれた人も出発点で混乱しているというのが実情のようでてあります ) 佐賀県唐。 人の気持、わかるような気がします。といったらす。映画は見せもの、ザッツ・エンタティンメン津市紺屋町尾崎諒 ) ふ町 4 ー及川智早 ) ー誌① ~ ⑥号を 生意気かな。 ト ! ホームドラマはテレビにまかせて、映画独 ~ 、 9 いのち し躪、奇想天外 2689 、送料共二千円でお譲りくだ 「生命 : : : それは使うべきときに使うものではな自のスケール、非日常の意外性を追求してもら、 『レンズマン』① ~ ④『とさい。 ( 京都市北区上賀 いのですか ? 」 たいと思うのですが、はかない夢でしようか。 茂深沢ケ池町ー四和光 彼の言葉の一つ一つが限りなく美しい。冷静な だから、あちらの『キングコング』再映画化な光年の妖怪」「暗黒星雲の 荘号植村孝利 ) かなたに」『銀河帝国の興す 心で地球を眺めていた人。地球を愛し、過ちの多んてものをみると、「わあっ、余裕だなあ」など 亡」① ~ ③「重力への挑戦」 い若き人類を、それでも暖かいまなざしで見つめと感心してしまうのだけれど、いつまでも感心ば 『禁じられた惑星』「億 「泰平ョンの航星日記』 てくれた人。 かりしていてはどうしようもないので、こうしての針」「地球人よ警戒せよ」 「宇宙零年毎裸の太陽」「宇 私も、ジョン・エナリーの魅力にとりつかれたシコシコと投書したりファンジンを作ったりして「処女惑星」「トリフィド 宙の孤児」「都市と星」『宇 のです。いえ、田中光一一さんの魅力にかな。この失われつつある日本映画の夢を何とかつなぎ時代」「自動洗脳装置」「結 宙市民』「宇宙のかけら』 「エーリアン・メモ」、一冊の本になったら素敵とめ、ふくらませようと徴力を尽しておるわけで晶世界』「マイ・ベスト 「金属モンスター』「シマッ だろうな。と、ふと思いました。早川書房で出版す。 ( 売名行為と人の言う ! ) 全国のファンの皆「年間傑作集」① クの世界』集英社「星から ②④「カーニバル」「ウ さん、がんばろうねえ。 していただけませんか ? おねがいします。 エルズ傑作集 1 」「石の帰還」 ( 「重力の使命地 ( 佐賀県鳥栖市神辺合町一五八一の五 さて、昨年『エス。ハイ』『東京湾炎上』と続いの血脈』「東海道戦争』「べ球人よ、故郷に還れ』共に初 トナム観光公社」「進化し版と交換も可 ) 石森章太郎 田中美穂 ) た新しい ()n 映画路線も作品そのものにパワーが なくて立ち消えとなってしまい、映画の方は我らた猿たち 2 』「日本沈没』「ジン」を適価でお譲り 上・下『笑う警官』「未亡ください。 ( 我孫子市 お久しぶり ! また出てきました。例によってが志穂美悦子嬢の奇想天外空手大活劇シリーズく 人』「男の首・黄色い大」中峠一三 0 六三橋秀和 ) らいしかなくて ( え ? あれがなのか、です ・映画のお話しです。

4. SFマガジン 1976年10月号

解説ー、 「 If the Stars are Gods 」 ゴードン・エクランドとグレッグ・べンフォ ートーー先月号のマーティンにひき続き、有望 視される七〇年代の新鋭作家一一人の初紹介であ とにかく、比較しようにも相手がないほど巨大な異星船で、見ていると何となく、ここ以ゴードン・ = クランドは一九四五年シアトル の生まれ。空軍退役後、二十五歳のとぎファン 外なら宇宙のどこからきたといわれても、信じられそうな気がしてくるのだった。 タスティック誌に売れた「 De 冐 Aunt Annie 」 細いタラップを慎重な足どりでおりていきながら、レイノルズは、この船のエアロックへ が評判となり、ウォルハイム & カー編の「年刊 近づいてきたときの、まるで穴の中へのみこまれていくような気分を、いまさらのように思 ) 傑作集」に再録されたりして売り出した。 一以後年 1 ~ 2 冊のペースで確実に長編を書き続 いだしていた。天井は高く、照明はうす暗く、壁は何やら光沢のある金属でできているよう け、現在ではもう中堅作家という位置にさしか ・こ 0 かっている。作風はとにわけるなら、派 ともいうべきものであり、異星人・異種族との そういう見かけや、その他もろもろのことが、歩をすすめる彼の頭の中で交錯した。レイ 様々な形での接触をテーマとした作品が多く、 ノルズは、こまかい思考のあやなす彼に身をまかせる喜びをも知悉していたが、いまはむしまたそれらに佳作が多いといえるだろう。 ろ考えつづけることで、鼻につく異臭から気をまぎらわせるほうが先決だった。異様で濃厚一方、グレッグ・ペンフォードは一九四一年 アラ・ハマの生まれ。カリフォルニア大学の理論 な香りには、彼の注意ぶかい平衡感覚をも狂わせるような、何かがあった。それがまるで、物理学で博士号を持つ。誌へのデビーは 太平洋の濃霧のように、つきまとって離れない。ぶどうの堆肥の匂いだ、と、レイ / ルズ割合に早く、一九六五年 & 誌の短篇コン テストに入賞したもの。しかし、以後中断期が は、 = アロックをくぐった瞬間そう思った。ふりかえると、宇宙服に厳重に身をつつんだケ少しあり、出世作となったのは一九六九年に発 リイを見つめ、彼女に、その匂いのことを話した。「誰にでも体臭はあるわ」と、そっけな表した中篇「 Deeper Than the Darkness 」 ) である。この作品はヒューゴー賞候補にもな く答えたのは、冗談かどうかわからない。そのまま、軽い遠心重力の中へ、彼を押しやっ ) り、のちに書きのばされて彼の処女長篇にもな た。押しやられてはいりこんだ、この窮屈な迷路が、いずれは彼を、疑いもなく知性をもっ ) った。作風はエクランドと逆に、どちらかとい 」えば ( ード派であり、それは年以来アメージ た最初の異星人との「会見ーへ、みちびいてくれるはずだった。先方にも「目」といえるも ング誌の科学解説欄を担当していたことからも ( よっきりしている。 のがありさえすればだが。 本篇 ( オリジナル・アンソロジー「ユニヴァ ( このような特典が自分にまわってきたことは、悪い気分ではなかった。本来なら、こう、 ース 4 」初出 ) は、その二人の特徴がうまくミ う名誉ある役柄は、誰か、人類の未来史にとどめるべき名をまだ残していない、もっと若いックスされた好篇といえるだろう。この作品の 男に与えられてしかるべきだ 0 たろう。五十八歳になるレイ / ルズは、もう長いこと、充実成功に気をよくしたものか、二人は続篇「 The Anvrl of Jove 」を書きあげ、誌の % した複雑な人生を送ってぎている。ひとりの男のものとしては充実しすぎていたほどだ、年 7 月号に発表している。いずれ紹介されるお ~ ( 安田均 ) と、彼は思うことがあった。が、ところで、きようはいったいどうなのか ? これから、何りもあるだろう。 犬に偽善はない、が同時に、誠実でもありえない。 ルードヴィッヒ・ヴィトゲンシュタイン 0

5. SFマガジン 1976年10月号

ひきつけ その当時真赭は何度かひどい痙攣を起こして大騒ぎになったとか人は、健康を害している時にはいつもより五感が鋭くなるものら で、学校を休んでぶらぶらしていることが多かった。癇の強い子供しい。脈打っている足首の痛みをかかえて歩いていると、街並の色 で、三輪子も多少持てあましている気味があったが、頭は悪くない や音や匂いが妙に切実に感じられる。京都に来てから二年半、ほと ようである。ノートの内容は、いずれも七つか八つの子供の見た夢んど毎日うろついている河原町の大通りだが、いつもの仲間とまっ にしてはできすぎた話ばかりで、ほとんどが作り話らしい。育った たく連絡不能の状態で真赭といっしょに歩いていると、入学当初見 環境の影響もあってか真赭は妙に大人に対してポ 1 ズをとりたがる慣れない表情をみせていた京都の姿が、無意識のうちに眼の前の風 ところがあり、この手の込んだ夢の話もその一種らしかった。 景に重なってきた。靴屋の前を通りすぎる時に感じる冷気の中の革 の匂いも、狭苦しい歩道にあふれる雑踏の人いきれも、行きかう路 「夢の話」の遊びはそれからしばらくの間続いたが、その後叡里が 大学に入り、上賀茂のアパートに移ってからは帝塚山から足が遠の面電車の火花の色や、冷房の強い店内を一歩出た瞬間に身体を包み き、真赭とふたりきりで会うのはこれがほぼ二年ぶりである。子供こむ盆地特有の圧倒的な熱気も、いつもと変わらないはすなのに、 にしては慣れた裾さばきで叡里と並んで歩く十一の真赭は、二年見京都に来た最初の年にはじめて感じた〈京都の夏〉の感覚が、いっ の間にか鮮明に蘇ってきたのである。 ないうちに七、八センチ背がのびて、身長の伸びに体重が追いっか もっとも、誰にも出会わないからといっても、今日にかぎって彼 ない、成長期のある不安定な一時期の身体つきになっていた。 「ジャワ」を出て、近くにある知人の経営するスナックに寄ってみら全員がそろって方違えしたわけはなく、あちこちで〈すれ違い〉 が何度も演じられたのにちがいない。まして狭い京都のことだから たが、狭い階段を登りつめた突きあたりの黒い扉には臨時休業の札 がぶらさがっていた。ここまで徹底してくると、腹をたてる気にもどこに誰の眼があるかしれす、知らないうちに目撃されている可能 なれない。夕方の木屋町通りが珍しいのか、「いつもこのあたりで性も大きい。 ( ーー・そういえばいつだったか、誰にも見られていな お酒飲むの ? 」と好奇心の色をうかべている真赭の手をひいて、叡いつもりでこのあたりを姉貴と歩いていたら、誰かニ = ートーキ ー二階の「グレコ」から四条河原町の交差点を見おろしていたやっ 里は高瀬川沿いに北へ歩いた。誰にも会えないまま先斗町の方へ曲 がり、三条大橋西詰に出ると、河むこ、うのひらけた眺望の中に比叡がいたらしくて、カネボーの前を俺が年増と二人連れで歩いてたっ て噂が広まったことがあったけど、あの時は参ったつけ ) 山が黒く浮かんで見える。その山稜に小さい灯が一列に並んでい が、この日に限ってはそんなことは起きないという確信が、彼の 「比叡山の叡って、叡里の叡 ? 」 中に無意識に生まれていた。この子供といっしょにいる限りは誰に 「生まれたところが比叡山の麓たからだってさ」などと喋りながらも目撃されることはない、という確信である。そして驚いたことに 9 再び河原町にもどってくると、大通りにはもう灯がともりはじめてこの確信は正しかったのだがそれを叡里が知ったのは数日後のこ 0 とである。 いる。腕時計を見ると六時半で、さすがにげつそり疲れてきた。 かたたが

6. SFマガジン 1976年10月号

ス、シビル、しよっちゅうカメラをパチパチやりながらネリタ、そ午前中、一行はクワッガを追跡してしのびやかに進む。グラッカ ぎゅうりゅう してモ 1 ティマ 1 。壮大な穹窿を、ちぎれ雲がゆっくりと流れてスは、ここに足跡が、あそこに新しい糞が、と、指さして教える。 。鬱蒼と生い茂る草。十二月の雨が、いつになく多量だったせクワッガを射ちたいといい出したのはザカリアスだ。 「これがシマウマの跡をつけてるんじゃないって、どうしてわかる いだ。小動物が茂みの中を駆け抜ける。その姿は、閃光としか目に 。しらいらしてたずねる。 映らない。リス、ジャッカル、ホロホロチョウ。時折、大きな動物んだい ? 」ザカリアスま、、 グラッカスはウインクしてみせる。 も見られる。三羽の高慢なダチョウ、嗅ぎまわるハイエナのつが トムソン・ガゼルの一団が淡褐色の河の流れのように草原を突「おれを信用しろって。そのすっと先にシマウマもいるんだから。 っ切っていく。昨日、シビルは、イボイノシシ二頭と、何頭かのキけど、お目あてのクワッガは手にはいるよ」 がしら リンと、そして、大きな耳の、優雅な山猫サ 1 ヴァルが小型のチー ポーター頭のンギリが、ふり返ってニー ッと笑う。 タのように音もなく歩いているのをひそかに見かけた。これらのけ「。ヒガクワッガムズリ・フワナ」 ものは、狩猟区の管理者が客の特別な要望に応じて提供する、かぎ彼はザカリアスにいって、ウインクまでする。が、その自信たっ られた種類以外、禁猟となっている。アフリカ原産の野生動物、すぶりの陽気な笑顔も、 いっときもちこたえるのが精一杯と見えてー ここに ーシビルには歴然とわかるーーー黒光りのする顔はたちまち恐怖の・ヘ なわち、死者たちがマサイ族からこの地域を借りる以前に、 1 ルに包まれる。 住んでいた動物は、すべて法令によって保護されているのだ。マサ イ族自身は、ここが彼らの指定保留地だということで、ライオンを「なんていったんだい ? 」ザカリアスはたずねる。 獲ることを許可されている。しかし、マサイ族はごく少数しか残っ 「きみは、りつばなクワッガを仕宿めるだろう、とさ」 クワッガ。野生の最後の一頭が殺されたのは一八七〇年頃のこと ていないので、ほとんど影響はない。昨日、イボイノシシを見かけ た後、キリンに会う前に、シビルははじめてマサイ族を見た。長身だ。あとは世界中でただの三頭。すべて雌で、ヨーロッパの動物園 痩驅、男ぶりのいい五人づれで、素肌の上にわずかに赤い衣をまとに残っていた。彼らを絶減のふちに追いやったのはポーア人だっ 、叢林の中を、足の向くままに黙々と歩いていた。そして頻繁にた。それも、その柔かな肉を奴隷のホッテントットに喰わせるため と、その縞模様のある皮で、ポーア人の穀物を入れる袋とポーア人 立ちどまっては、物思いにふけるように槍にもたれて片足で立つ。 近づいてみると、それほど男前ではなかった。歯はなく、ハエの糞がはく皮ぐっをつくるために。ロンドン動物園のクワッガは一八七 のしみが点々とっき、ヘルニアだった。槍と、ガラス玉の首輪を二年に死んだ。ベルリンのは一八七五年、アムステルダムのは一八 、三シリングで買ってくれといったが、旅行者たちのほうは、す八三年。そして、もどし交配と遺伝子操作によって、人工的に復活 でにナイロビの骨董店で、マサイの民芸品を目をむくような値段でを遂げるまでは、生きた姿は再び見られなかったのだ。それが一九 九〇年。この狩猟区がオープンした年だった。 大量に買いこんだあとだった。 4 7

7. SFマガジン 1976年10月号

ハヤカワ・ノヴェルズ / 最新刊 ク、 、ン ド し ロアルド・ダール 来訪者 了一 ( 》夕、一で殺された娘テ」サーー孤を一生きる若、 2 彼女はどう生き、なせ殺されたのか ? 夜 ) 愛を漁る 娘の行動や陸意識を綴りベストセラーとなっオ ジュディス・ロスナー / 小泉喜美子訳一二〇〇円 スハイ・ケームでは愛さえも凶器なのか ? 英・ソ両国 の陰謀の渦は、カリブ海でめぐり会った二人の男女を捲 きこんで大きく転回する諜報戦の非情を描く異色作ー イヴリン・アンソニイ / 渡辺美里訳①八五〇円 ヾルバドスの罠 訪者 ロアルド・タール ・本とは ? ノヴァ ノ砂漢で見つけた佻源郷の止イ ' ビワチか蜷き起した騒動の頭末はワ ト 1 し / 【 *. - ・午ハや・ー 1 性と女の怖さをテーマに " 田、こ朱ー 、水井 ~ 尺儿し ノヴェルズ・ベストセラー 呪い師 ルネⅡウイクトル・ピーユ 白昼の悪魔 アカサ・クリスティー 原生林の追撃 デスモンド・バクリイ 大列車強盗 マイクル・クライトン 暗号指令タンゴ アタム・ホール ジョーズ ピーター・べンチリ キ一フー・エリート ート・ロスタンド 鷲は舞い降りた ジャック・ヒギンス

8. SFマガジン 1976年10月号

よア = LL 0 0 u- x ヾ ) わフ訳 0 E ・、・、ーンズの内部でまたたいた。その白いものは、赤いびえたっ茂みのようなオー・ナチュレルの髪をもった若い女性だっ 白いものカ / た。その西アフリカの奥地ニグロ的容貌には、アルプスの奥地 / プラスチックのレンズのはずれた交通信号のライトのようだった。 リア人の先祖の血が混じっていた。彼女は美人なので、男の熱い視 またもや共鳴が始まったのだ。なにしろ周囲が白だらけなのがい O ⅲ ーンズの凝視に、彼女はま けない。研究室の壁も天井も、魚の腹のように白かった。床はペン線には慣れているはずだった。だが、・ハ ごっいていた。彼女の表情から見ても、なぜ・ハーンズが彼女を風に— ギンの胸を思わせる模造大理石。二人の医師が着ているのも白衣。 しかし、技術者のミス・ム・ ( は、やはり白衣を着てはいるが、見立てて風見鶏のようにくるくる回 0 ているのかを、たずねたが 0 1 ンズが自分の回転椅子の照準をすっと彼女に合わているのは明らかだ。しかし、それには答えないでおこうと、 黒人である。・ハ せつづけているのも、そのためだった。それによって、脳の中でおンズは決心していた。自分でも説明できないものを説明するのは、 もうまっぴらだった。 こる白い炸裂の眩しさと回数を、いくらか減らすことができる。 ミス・ム・ ( マ ( 旧姓カーツ ) は、背が高く均整のとれた体と、そ電極が、彼の頭蓋と、心臓と、盲腸の上にテープで留めてある。 「屋 00 田 6

9. SFマガジン 1976年10月号

いるーーツーソンで、ロアノークで、ロチェスターで、サン・ディ ーしたが、このウエスト・ヴァージニアのマウンズヴィルとウィ エゴで。しかしこれらの風聞から、得るところは何一つなかった。 ーリングの中間のどこかで、足どりがわからなくなった。それから ついでジジボイが、信憑性のありそうな情報をもたらした。ジジボ二カ月後、ロンドンにいるという話を聞いた。ついで、カイロ、そ イは、方々にある再生者の社会に接触があり、クラインの探索にー れからアディス・アベ・ハ。そして、九三年の初頭、クラインは、学 ーその最終目的には不賛成だったもののーー・・カを貸してくれてい者で、もとにいて現在はアルーシャのニエレレ大学にいる た。そのジジボイの情報によると、シビルは、ユタ州の南東にある人物を通じて、シビルがタンザニアを狩猟旅行中で、二、三週間以 コールド・ダウ / ザイオン死者の街にいるということだった。そこでもまたクライン内にザンジバーに渡るということを知った。 は締め出しを喰ったが、まったくひややかなあしらいを受けたかと あり得ることだ。十年間、シビルは、博士論文に取り組んでい いうと、そうでもなかった。というのは、シビルが実際にそこにい 、、ハーにおけるアラビア人のサ た。テーマは、一九世紀初頭のザイイ たという信すべき証拠を、かろうじて手に入れることができたからルタンの職権について。研究が、それ以外の、大学の雑用や、恋 愛、結婚、財政難、病気、死、そしてその他の責務によって寸断さ 九二年の夏、ジジボイは、シビルが死者の街の隔離の外へ出たとれたのはやむを得ざることとはいえ、彼女自身にとってあれほど重 オクダイン クラインに告げた。オハイオ州のニューアークで、州の八角墳遺跡要たったその島へ、彼女は実際には一度も行ったことがなかったの ーへ行っ にある市営ゴルフ・コースを回っているところを見かけたものがあだ。すべての煩わしさから解放された今、ついにザンジバ るという。同行者は、横柄な感じのする赤毛の考古学者ケント・ザたとて、なんの不思議があろう ? 当然ではないか ? そうとも。 、、ハーに向かっている。ゆえにクラインもまた、ザン カリアス。同じく死者で、生前は、オハイオ・ヴァレーに墳丘を築シビルはザンノ・ いたホー。フウエル族の文明に関する専門家だった。 ーこ行く。行ってシビルを待つのだ。 「これは新しい局面だね」ジジボイがいった。「もっとも、予期し ないことではなかったけど。死者たちは、初期の完全な離脱主義の 、・ハルワニの態度に変化が起った。・ハ 五人がタクシーに消えると 思想を捨てかかっているんだよ。われわれの方では、彼らのこと ルワニはムボンダに、今のパスポートを見せてくれと頼み、そこに を、われわれの世界を訪れる旅行者と見なすようになってきた。生ある名前を調べた。なんと奇妙な名前ばかりだろう。ケント・ザカ 死の界面の探究者だね、彼らの好むいい方をすれば。非常に興味深リアス、ネリタ・トレイシー シビル・クライン、アンソニー・グ いことになりそうだよ、きみ」 ーしつま ラッカス、ローレンス・モーティマ 1 。欧州人の名前によ、、 クラインは、ただちにオハイオに飛んだ。そして、実際には姿をでたっても馴染めない。写真なしでは、どれが女性でどれが男性た クライン : : これ 見ないまま、後を追ってニューアークからチリコーシへ、チリコー か見当すらっかない。ザカリアス、トレイシー シからマリエッタへ、マリエッタからウエスト・ヴァージニアへと だ。クライン。・ハルワニはデスクに鋲でとめつけておいた二週間前 0 - 」 0 コールド・ダウン 5

10. SFマガジン 1976年10月号

イに移ってるよ」 ( 七六年現在、ロック雑・ほくらが到着したとき、ス。ヒンラッドのがそろそろいて、老大家にかまっている時 間はなかったからだ。 誌クロウダディの評はやめてしまったアパートにはまた十数人の客がいるだけだ ホストのノーマン・ス。ヒンラッドは上機 ようだが、相変らずバークリイ・ブックス た。パーティ用についたてやドアをとっ の編集はやっているらしく、アルフレッド ばらってしまったのか、うなぎの寝床のよ嫌で・ほくを迎えてくれた。早川書房が T ~ ・ベスターの短篇集決定版全二巻などに彼うに続く四つの部屋のあちこちに、何組か守を D 、きミの出版権をとってまもないこ の好みがうかがわれる ) 「ほかにディヴィ の人が立ち話をしている。遠いっきあたりろだったし、・ほくのほうも、なにげなく読 ハリスにも会えるだろう」 のキッチンに、写真で見おぼえのある顔がんだ短篇 "A Thing 望 BeautY" ( アナロ 「ああ、デル・ブックスの部門編集者一つ。アイザック・アシモフだ。その近くグ誌七三年一月号 ) にすっかり感心して、 にいる・フスの中年女性は、彼の新しい夫人彼の作品をこだわりなくほめることができ たからだ。そのうち翻訳できると思うが、 「うん。だけど彼はデルをくびになってしで心理学者のジャネット・アシモフだろう ・シプ "A Thing of Beauty" は、イトー まって、今はフリーだ」 ( 彼女はも書いていて、・ O ・ジェ ローという日本人の行動を通して未来のア 作家ばかりか編集者の名前まで知ってい 。フスン名義で The 2 、代こミ e ミ》 るのには、われながら感心するが、太平洋】 973 という長篇があこる。れは、おそろしメリカを描いた小説である。アナログ誌の を隔てているせいか、残念ながらぼくの情く評判が悪く、ご亭主の威光でむりやり出お便り欄に、東洋人差別だと憤る中国系読 報は一年ほど古いようだ。 版させたのではないかという噂も一時たつ者の手紙が掲載され、それに興味をひかれ ュ ていった ) 。アシモて読んでみたのだが、日本人への皮肉と見 シ フ夫妻は、。ぼくが来えるものが結末にいたってみごとにアメリ て十五分ほど後、む力の諷刺となっており、・ほくはあらためて ずかしい顔をして帰この作家の力量を再認識した。乞御期待、と っていった。若い連にかく日本人の中にありそうな何かを、こ ャ破よ ~ ・なト 中ばかりの。ハーティ れほど的確に描いた外国を、ぼくはほ と かに知らない。それをいうなら守 と知って、そうそう に退散したのだろし、きミもちょっとした小説である。アル う。けつきよく紹介ドフ・ヒトラーがナチスを興さす、一九一 ( 第「グ一はされすじまいだ 0 〇年代にア , リカに移住し、」 = 一文作家 たが、べつに残念にになっていたらという設定で、その長篇全 は思っていない。部体がヒトラー自身の書いた気ちがいじみた ニク屋には、もっと生きヒロイック・ファンタジイの体裁をとって 。レののいい作家や編集者いるのだ。この作品、アメリカではアクが CLARAREEVE 3 3