イに移ってるよ」 ( 七六年現在、ロック雑・ほくらが到着したとき、ス。ヒンラッドのがそろそろいて、老大家にかまっている時 間はなかったからだ。 誌クロウダディの評はやめてしまったアパートにはまた十数人の客がいるだけだ ホストのノーマン・ス。ヒンラッドは上機 ようだが、相変らずバークリイ・ブックス た。パーティ用についたてやドアをとっ の編集はやっているらしく、アルフレッド ばらってしまったのか、うなぎの寝床のよ嫌で・ほくを迎えてくれた。早川書房が T ~ ・ベスターの短篇集決定版全二巻などに彼うに続く四つの部屋のあちこちに、何組か守を D 、きミの出版権をとってまもないこ の好みがうかがわれる ) 「ほかにディヴィ の人が立ち話をしている。遠いっきあたりろだったし、・ほくのほうも、なにげなく読 ハリスにも会えるだろう」 のキッチンに、写真で見おぼえのある顔がんだ短篇 "A Thing 望 BeautY" ( アナロ 「ああ、デル・ブックスの部門編集者一つ。アイザック・アシモフだ。その近くグ誌七三年一月号 ) にすっかり感心して、 にいる・フスの中年女性は、彼の新しい夫人彼の作品をこだわりなくほめることができ たからだ。そのうち翻訳できると思うが、 「うん。だけど彼はデルをくびになってしで心理学者のジャネット・アシモフだろう ・シプ "A Thing of Beauty" は、イトー まって、今はフリーだ」 ( 彼女はも書いていて、・ O ・ジェ ローという日本人の行動を通して未来のア 作家ばかりか編集者の名前まで知ってい 。フスン名義で The 2 、代こミ e ミ》 るのには、われながら感心するが、太平洋】 973 という長篇があこる。れは、おそろしメリカを描いた小説である。アナログ誌の を隔てているせいか、残念ながらぼくの情く評判が悪く、ご亭主の威光でむりやり出お便り欄に、東洋人差別だと憤る中国系読 報は一年ほど古いようだ。 版させたのではないかという噂も一時たつ者の手紙が掲載され、それに興味をひかれ ュ ていった ) 。アシモて読んでみたのだが、日本人への皮肉と見 シ フ夫妻は、。ぼくが来えるものが結末にいたってみごとにアメリ て十五分ほど後、む力の諷刺となっており、・ほくはあらためて ずかしい顔をして帰この作家の力量を再認識した。乞御期待、と っていった。若い連にかく日本人の中にありそうな何かを、こ ャ破よ ~ ・なト 中ばかりの。ハーティ れほど的確に描いた外国を、ぼくはほ と かに知らない。それをいうなら守 と知って、そうそう に退散したのだろし、きミもちょっとした小説である。アル う。けつきよく紹介ドフ・ヒトラーがナチスを興さす、一九一 ( 第「グ一はされすじまいだ 0 〇年代にア , リカに移住し、」 = 一文作家 たが、べつに残念にになっていたらという設定で、その長篇全 は思っていない。部体がヒトラー自身の書いた気ちがいじみた ニク屋には、もっと生きヒロイック・ファンタジイの体裁をとって 。レののいい作家や編集者いるのだ。この作品、アメリカではアクが CLARAREEVE 3 3
こ 0 めつける気にはなれなかった。ともあれ、ジョナソンが、自分たち 「では話します」と彼。「わたし自身のことばで」 の星の位置を明かしたがらないのは、驚くにあたらない。同じ立場 3 ジョナソンが静かになった。「はい」じっと立っている。 どったら、レイノルズも同じようにふるまったことだろう。 レイノルズにとって、第二の質問をするときだった。ジョナソン リチャード がいった。「おじぎ、して、よろしいか ? 」 の最後のことばにつづく長い沈黙を打ちゃぶるように、彼はたずね ジョナンンがリチャードのほうをふり向いて、一連のかん高いさ た。「なぜ、わたしたちの星について知りたいのですか ? 」 えすりを送った。リチャ 1 ドも、似たような声を返した。 「そのために、ここまでやってきました。途中で、多くの星を訪れ レイノルズのほうへ向きなおると、リチャードは、ふたたびきい ました。しかし、わたしたちがいちばん長いあいださがしていたのた。「おじぎして、よろしいか ? ー は、あなたがたの星でした。たいへん強力でしかも慈愛ぶかい星な レイノルズとしては、「はい」と答えるよりほかなかった。他に のです。稀にみる組み合わせです。あなたも知ってのとおり」 ししようがあろうか ? ・ 「稀にみる、ね」意味のわからぬままに、レイノルズは答えた。 リチャードは、そくざに動いた。四本の脚が、麒麟には到底無理 が、わからなくてもいいのでは ? 少なくともこれで、彼は、異星な動作で、さっと四方へひらいたのである。そうして、脚をのばし 人の来訪目的がどんなものか知ったわけだ。それは、この異星船がて腹ばいになると、首をしずかに垂れ、鼻づらを床にこすりつけ こ 0 水爆で減速しながら月へ近づいてくるこの数カ月間、誰にもわから なかったことであった。 「どうも」レイノルズは、かるく腰をかがめて答えた。「しかし、 ふいに、自分でも驚くほど度胸がすわるのを感じた。ここ数年ぶわたしたちのほうも、あなたがたから学ばなければならぬことが多 りにもどってきた自信で、前のときと同様、その確信に論理的な裏 いのです」なかば当惑をかくすため、ジョナソンに向かっていいな づけはまったくなかった。 「よろしければ、こちらの質問にも答えがら、むしろふたりでリチャードを立ちあがらせてやりたいくらい てくださいませんか ? あなたがたの星についてですが ? 」 どと、ふと思っこ。・、、・ ナカとうにもならないと知って、レイ / ルズは 「よろしいですとも」 腹をきめ、用意してきた口上にとりかかった。し 、う - ベ」ことはよ わかっており、彼はできるかぎりの速さでしゃべりだした。「わた 「あなたの星は、わたしたちのことばで何とよばれていますか ? したちは後進種族なのです。あなたがたにくらべれば、わたしたち またその座標は ? 」 「わかりません」かすかに首をたれて、ジョナソンがいった。右のはこの宇宙の中で、ほんの子供にすぎません。わたしたちはまだ、 目をはげしくしばたたきながら、「わたしたちの星は、この銀河系この惑星系から外へ出ていないのに、あなたがたは、光がとどくの に何年もかかる遠い恒星を、いくつも見てきたといわれる。あなた の中にはないのです。あなたの観測機械では遠すぎて見えません」 「わかりました」とレイノルズ。その答えが嘘にしても、ここできがたが、わたしたちに、多くのことを教えられることは、疑いあり
精密機械工学に対する情熱は消えていなかった。最新の技術ニ、ー にさとられないよう、そっと眼がしらをぬぐった。 現在のマサコの唯一の不満は、夫のイチロウが、めったに家に帰スにはいつも眼を通すし、学術論文を読むことも忘れない。時に は、自分のアイディアを図面や資料にまとめることすらあった。 ってこないことだったのだ。 だが、どんなにがんばってみても、それは仕事をしたことにはな だが、そうぜいたくは言えないことを、マサコは承知していた。 世間には、もっと長時間、夫と別れて暮らさなければならない妻らなかった。 なぜなら、年齢のために仕事ができなくなって引退したのではな が、大勢いるのだから : く、仕事そのものがこの世の中から無くなってしまい、そのために マサコは気をとりなおし、子どもたちに声をかけた。 というのが本当のところだったからであ 「さあみんな、たべおわったら、お留守ばんをしていてちょうだしかたなく引退した しじよう る。 。お母さんは青山市場にお買物に行ってきますからね。 だから、ヤスタロウが嫁のマサコに話すことは、どうしても、ぐ 「はあい ュミエはおとなしく返事をした。しかし、シンイチは不満そうだちになりやすい 「やれやれ、つまらない世の中になってしまったものだ」 った。まだ、遊びたりないのだ。 0 、、 0 ャスタロウは、空調装置はおろか、クーラーもない部屋の真ん中 ししてしよう ? 」 「ほく、団さんのお屋敷に遊びに行ってくる 「困った子ね」マサコは眉をしかめ、ユミエの方を見た。「ユミちにあぐらをかき、ウチワで胸もとをあおぎながら、マサコに言っ こ 0 ゃん、ハルキのめんどうみててくれる ? 」 とう 「そうかもしれませんわねえ、お義父さま」 マサコはあいづちをうった。舅に向かって反論をとなえてもしか ュミエはうなずいた。シンイチは、もう、家をとびだしかけてい たのないことを、よく知っていたからだ。 た。そのうしろ姿にむかって、マサコは声をかけた。 今年で六十六歳になるヤスタロウは、嫁がうなすいてくれたのを 「団さんのお屋敷の、あんまり奥に入っちゃいけませんよ ! 」 見て、気を良くしたように、しゃべりはじめた。 「わたしは、若い頃から、何ひとっ悪いことはせず、ただひたす ら、まじめに、働きつづけてきた。勉強をしつづけてきた。それ 夜、子どもたちが寝てしまってからのマサコの日課は、夫の両親も、自分が出世しようとか、金持ちになろうとか、そんなことを考 えたからではない。自分の身のまわりの人たちを、すこしでも幸せ であるヤスタロウやャチコと話すことだった。 3 しゅうと にしたいと思ったからだ。わたしが若い頃、日本はとても貧しかっ 2 舅のヤスタロウは精密機械工学が専門の技術者だった。今では た。人口は多く、土地は少なく、そして資源に乏しかった。そのよ もう引退してしまって、仕事はまったくしていないが、それでも、
めらかな流線型の、清潔な建物だった。この前の旅行でわすかの期ん時間が経ったと思えるのに、まだ夜明けはほど遠かった。午前 8 間投宿したキリマンジャロのホテルよりもずっと安く、海のそば中、昔ながらの原住民街を見物して無為に過した。暑く、ほこりつ 9 の、快適な、緑の多い一角に建っていた。クラインは、しばらく辺ぼく、舗装していない道にプリキの掘立て小屋が軒をつらねてい りをぶらついてみて、己れが消耗しきっていることに気づき、昼寝た。正午、ホテルへシャワーと昼食に帰った。食堂の連中は、国籍 をしようと部屋に帰った。それからえんえんと約五時間、ふらふらから見て、ほ・ほ相変らずといったところだった イギリス人、日 で目を覚ましたクラインは、シャワーを浴びて、夕食のために身支本人、イスラエル人ーーーが、顔ぶれはちがっていた。二杯目のビー 度をととのえた。ホテルの食堂は、一様に上着なしの白いオープン ルを飲んでいたとき、アンソニー・グラッカスがはいってきた。肩 ・シャッといういでたちの、筋骨たくましい、金髪に赤ら顔の男た幅が広く、生白い肌にひげの濃い、あの白人 ( ンターだ。カーキの ちであふれていた。そのだれもが、いやになるほどケント・ザカリシャツにショーツ。 いっかジジボイが見せてくれた映像キュープか ウォーム アスを思い出させた。だが、ここにいるのは生者だった。アクセンら抜け出してきたかとさえ思わせる姿だった。クラインは本能的に トからしてイギリス人だろう、エンジ = アだな、と、クラインはそ身をすくめて窓の方を向いたが、後の祭りだった。グラッカスは彼 すじ の会話から推測した。ダムと発電所を、どこか海岸筋に建設中らしを見つけたのだ。周囲のざわめきが一瞬にして静まる中を、死者は 。あるいは、ダムなしで発電所だけか。彼らの話についていくの大股にクラインのテー・フルに近づき、乞われもしないのに、かって は困難だった。彼らはジンを浴びるように飲み、よくひびく大声でに椅子を引き出して坐った。と、さながら停止していたプロジ = ク 威勢よくしゃべっていた。勿論、日本人のビジネスマンも大勢いた。 ターが動きを再開したかのように、イギリス人のエンジニアたちは ダーク・プルーのスーツに幅せまいネクタイ姿で、きちんとしてい大声をとりもどした。今回は、、 しくぶんわざとらしく響いた。 て、万事控え目な感じたった。クラインの隣のテープルでは、縮れ「世間はせまい」グラッカスよ、つこ。 しナ「たてこんでるよ、とにか ーもう 毛に褐色の肌の五人の男が、早ロのヘ・フライ語でしゃべっていたー く。ザンジ・ハー詣でだな、そうだろ、クライン ? 」 ーまぎれもなくイスラ = ル人だ。見わたしたところ、アフリカ人「ここ一両日中にね。ここにいること、知ってたのか ? 」 は、ウェイターとパーテンだけだった。クラインは、モン・ ( サ牡蠣「とんでもない」グラッカスの仮借ない目が、ずるそうにきらめい と、ステーキと、カラフェにはいったレッド・ワインを一本注文した。「まったくの偶然とはこのことだな。彼女、ちゃんときている た。料理は意外にうまかったが、大部分を皿に残した。タンザニアよ、あそこに」 ではそろそろ夜だったが、クラインにとっては午前十時で、身体が「彼女が ? 」 混乱しているのだ。クラインはペッドに倒れこみ、空路わずか二、 「彼女とザカリアスとモーティマーだ。おたく、ザイオンへもぐり 三分のザンジ・ハ ーに、たぶんシビルがいるのだろうと、・ほんやり考こんだんだってね」 えた。そして深い眠りに陥ちたが、目が覚めてみると、もうずいぶ「わずかの間。シビルに会った。わずかの間ね」
さて、いよいよ北アメリカ大陸横断の始 おれの顔と名前を知っている人間がいるはとばったり出会うほど心強いことはない。 いまりである。見たい都市や地方は、これと いずがないという先入観があるので、しばらロサンジェルスでの鏡明たちとの出会 いって特になかった。それまでの旅はすべ は、あらかじめわかっていたことだが、今 】くボカンと見つめていた。相手は、「・ほく 度はまったくの偶然なのだから、嬉しさはて飛行機だったので、まがりなりにも見た 7 だよ、ポールだよ」という。 そこてようやく思しーーー・ ( ー , ー義 ( ~ ・ーー・ ) 0 当・それ以上である。ぼくはといえるのはトロントとロサンジ = ルスと このパ 1 ティがみるみるニューヨークだけ。だから、どこをどう通 だした。 「ポール・ウィリアム・、 居心地よくなってゆくのったとしても、みんなはじめて見る風物で ~ を感じた。楽しんでいたあることに変りはないわけだ。ただし必ず ・・とはいっても、やはりそ通らなければならない個所が二つ ご存じだろうか、ロ→・、 れなりに緊張はあったのル大学に入学したボ・フ・アルマーがいるコ ック評論集『アウトロみ ーヘイヴンと、日本 c-k ・・フルース』 ( 晶文 券だろう。風邪気味だといネチカ , ト州 = 遊ってチップ・ディレイニアンソロジイの英訳をすつ。ほかしたジュデ ; 社 ) の著者で、来日し イス・メリルがいるカナダのトロントであ ていた一九七一一年、本 スーが早々と帰ったあと も、・ほくは居残り、必イる ( そういえば、連載二回目で、彼女はこ ) 誌に評論を寄稿し ドンに酔ってふらふらしなの春日本に来ると書いたのに、まだ来てい ・たこともある。歌手で はなく、評論家のほう′ 気・ウがらタクシーを拾ったのないョ。どうなっちまったんだろう ? ) 。 のポール・ウィリアム は、午前三時過ぎだったそれをかたづければ、あとはロサンジェル スまでどんなルートをたどってもよい。連 ズだ。 ・〔 ( ~ レ ( 客の中には、ニ、 ワールズ誌の元編集長チ載のはじめで書いたとおり、・ほくは日本を リルを通じて彼と知り第 ハスの周遊券 ャールズ・プラットや、発つ前、グレイハウンド・ ・あったのだが、そのこ、、 ートウ「アメリバス」を買っていた。期間は一カ ディヴィッド・ ~ ろ生やしていたひげを 月で、代金百七十五ドル。グレイハウンド ~ 剃りおとしてたので、 ジュニアなんかもは、コンチネンタル・トレイルウェイズと ・ほくにはわからなかっ いたらしい。しかしあのともに、アメリカとカナダの重要な部分に たのだ。そういえば、 騒ぎでは、会えなくてもほとんど路線網をはっており、また他のロ 最近の彼は古典発 1 カル路線とも連絡があるので、アメリバ 掘専門のファン出版社グレッグ・プレスに仕方あるまい ) 。 ス一冊あれば、まず行けないところはな いも関係しているらしいので、ここに姿を現 ターミナルの切符売場でアメリバスを 5 エール大学日本蔵書リスト わしてもすこしも不思議はないわけだ。右 見せると、担当のおばさんは、十月三十一 も左も知らない人間ばかりの外国で、友人
と、まるで小さい子供のようなかん高い声が、「だめです」神経質る。相手は異星人なのに。 「お求めのことは何でも話しますよ」と、レイノルズ。 な子供の興奮した声だった。「それ、だめです」 「これが ? 」レイノルズは片手をあげた。持っていたことを、ほと「あなたは : : : 僧侶 : : : 太陽に仕える人間ですか ? 」 んど忘れていた。ケリイがテープレコーダーを携行するように命じ「天文学者です」レイノルズは訂正した。 たのである。が、「またスイッチをいれていないが」それは本当だ「知っていることを、何でも教えてください。それから、あなたが たの主星を訪れて、かれと直接話しあうつもりですー 「こわして、ください」と異星人がいった。 「もちろん、わたしにできるだけのことはしますよ」ケリイが前も レイノルズは、反対も抗議もしなかった。その機械を床の上に落って、異星人が太陽に興味をもっていると話してくれていたので、 こういったやりとりは、彼にとって何の意外なこともなかった。だ とすと、とびあがって、両足で踏みつぶした。かるいアルミのケー が、太陽の何をとくに知りたいのか、またその理由はとなると、誰 スが、つぶした林檎の皮のように裂ける。もう一度、レイノルズは とびあがって踏みにじった。それから立ったまま足の先で、くだけにもまだわからす、それをさぐりだすのが、ケリイのことばによれ ば彼の役目だった。このとき彼には、会話をすすめるのに、ふたっ たガラスや金属片を、部屋の誰もいない隅のほうへ蹴りよせた。 の道しか思いっかなかった。ともに、質問による方法である。彼は 「これでいいかね ? 」 このときはじめて、もう一方の異星人が動きをみせた。鼻孔を優第一の方法をためしてみた。「あなたの知りたいことの内容は ? 雅にひくひくと動かし、脚をもちあげてはおろす。「こんにちは」わたしたちの星は、ほかの同じようなタイプの星と、よほどちがっ たところでもあるのですか ? そうだとしても、わたしたちはその というと、唐突に動きをやめた。「わたしの名は、ジョナソン」 ことに気づいていないようなので」 「きみの名 ? 」レイノルズがききかえした。 「ひとっとして同じ星はありません」異星人がいった。やはりジョ 「そして、こちらがリチャードです」 ナソンのほうである。興奮で、だんだん声がうわずっていくよう 「ああ」レイ / ルズは、そういってうなずいた。やっとわかったか 「どういうことです ? ここでは話したくないのですか ? わ らだ。天間のことばを学ぶと同時に、この異星人たちは、その名前だ。 たしたちの船の中では、だめなのですか ? 」 をも真似たのである。 いえ、ここで結構ー当惑の気持をかくしつづけるべきかどうか 「あなたの星について知りたいのです」ジョナソンが丁寧な口調で い 0 た。もうひとりとそ 0 くりの声だ。テープレ「ーダーがこわさ疑問に思いながら、レイノルズは答えた。「知 0 ていることは話す つもりです。あとで書物をもってきてもよろしい」 ダ 1 だとい れるまでロをひらかなかったのは、こっちのほうがリー 「だめです ! 」叫び声ではない。が、異星人の脚と鼻孔のふるえか うことだろうか ? ここで、彼は、自分の思考の声に気づいて、ふ ら、レイノルズは、自分が深刻な誤りをおかしたらしいことを知っ とおかしくなった。あたかも相手を人間のように考えはじめてい
で、レイノルズは答えた。「よ、、 をしよろこんでーとはいうものかりでなく、真に非凡なものであった。全体として、ジョナソンの の、太陽に関するどんな情報を彼らが求めているのかは、皆目わか話しかたは、敬虔なユダヤの族長が旧約の神について語るのと似て 3 らないのだ。しかも、彼の使命は、人間に関する重要な情報を洩ら いた。このときになってレイノルズは、テープレコーダーをこわし すことなく、相手についてできるかぎりのことをさぐりだすことにてしまったことを悔やんだ。この話しあいの内容を、そのままケリ ある。この、主星に関する情報交換なら、どこまでいっても安全なイに報告したところで、一語たりと信じてはもらえまい。しかもそ ことだけはたしかであろう。 の話のあいだ、異星人は一度もまばたきをしなかった。レイ / ルズ 「では申しますージョナソンがいう。「わたしたちの星は、あなたは注意ぶかく見つめていたが、その気配もみせなかったのである。 やがて異星人は話を終えた。「しかし、これはほんのいとぐちに がたの星と兄弟なのです。それとも、姉妹というべぎでしようか ? こ、知らせあうことは山ほどあると思いま その親交のもっとも厚い時期のあいだ、かれはーー・あるいは彼女すぎません。おたがい冫 は ? , ー・・全智全能です。時たま、かれは怒りを発しますーーあなたす。いっか、あなたがたの特別な用語にも通じたいものです。遠く がたの星には見られないことですが・ーーしかし、そういうことが、そ離れたもののあいだの対話ーーーことばの障壁は大きいのです : : : 」 うたびたびあるわけではありません。また、その期間が、さほど長「よくわかりました」とレイノルズ。 「わかってくださると思いました。さて、あなたの番ですあなた くつづくわけでもありません。二度、かれは、その怒りの期間に、 わたしたちの文明を絶減させることを予告しました。が、実際にそがたの星について話してください」 の予言を実行するつもりはなかったのです。はっきり申しますが、 「わたしたちは、それを『太陽』と呼んでいます」レイノルズは、 が、他 かれの慈悲はその怒りより強く、恵みは無慈悲さをおぎなって余り話しだしながら、少なからぬ馬鹿馬鹿しさを感じていた があります。かれが真に、そして全面的にわたしたちを愛しているに道があるたろうか ? ジョナソンの知りたがっているたぐいのこ ことを、わたしは信じます。全宇宙の星のなかで、かれの地位は、 とは、何ひとっ知らないのに、どう話をつないだらいいのだろうー 高いほうではありませんが、わたしたちは、みずからの主星とし太陽について、彼の知っているのは、科学的な事実だけた。その温 て、かれをあがめなければなりませんし、当然そのようにしており度や、生まれてからの年齢や、大きさ、質量、それに輻射量といっ ます」 たことばかりである。その黒点、太陽風、太陽大気などのことなら っこ、太陽は慈愛ぶか 「もう少し話してくださいませんか ? 」と、レイノルズ。 わかっている。しかし、それだけなのだ。いナし ジョナソンは、話しつづけた。レイノルズはそれに聞きいった。 い星なのか ? それとも永続的に怒りをふりまいているだけなの 異星人は、その主星との個人的な関係に立ちいり、自分の失意の時か ? それに対して、そもそも人類全体は、ちょうどそれに見合う 期をかれがいかに助けてくれたかを語った。正しいつれあいをえらだけの親愛と信仰をささげているといえるのだろうか ? 「『太陽』 ぶのに助言を与えてくれたこともあり、その選択は完璧であったばというのは、ふつうの呼び名で、昔から学術的には『』とよ
は月の周回軌道にはいり、 地球への脅威のないことがはっきり裏づ 「天文学で、神学の説明を ? 」ケリイが鋭くききかえした。「太陽 けられると同時に「全責任が、ケリイの膝の上に、どさりとのしか崇拝なら、当然のことでしよう。地球の原始宗教の一形態でもあっ かってきたのであった。異星人が、太陽について詳しい人間に会い たし」隣りの男が大きくうなずいてみせた。 たいと伝えて来、ついでその適任者としてレイノルズが指命され「そうはいいきれない。われわれの主星は、ジョナソンのいうとお た。そこでーーー事実上そのときはじめてーーー彼は異星人への関心をり、比較的安定している。そしてわが惑星は、ほとんど円に近い 示したのだった。その日、この六年間にはじめて、彼は地球からの好もしくかっ安穏な就道をめぐっている」 ニュース放送に本気で耳をかたむけた。そうしてようやく彼は、も「彼らのは、そうじゃないの ? 」 う彼以外の人びとの関心がーーきして驚くほどのことでもないがー 「ああ。おまけに、地球の二十三度よりも、ずっと大きな地軸傾斜 ー異星人から離れかけていることを知ったのである。ニュースは、 がある。ジョナソンのことばづかいからみて、おそらく四十度かそ また戦争がくすぶりだしていることを伝えた。今度はアフリカで、 こらはありそうだ」 場所こそ変われ、内容は同じようなものたった。途中で異星人のこ 「夏が暑いわけですか ? 」名前を知らない男のひとりが口をひら とも話に出たが、それがもう本当のニュースとして扱われていないき、レイノルズは、おやっと思ってその顔を見あげた。とすると、 でく ことは、明らかだった。アメリカ月面基地の代表と異星人との会見この部下どもは、はじめ考えたような、まったくの木偶というわけ がとりきめられました、と解説者はいった。それは軌道上にある異ではなかったのか。まあ、それもよかろう。 星船の中でおこなわれるもようです、ともつけ加えた。が、プラッ 「そうだ。地軸の傾きが大きいだけ、両半球の主星に対する角度 ドレイ・レイノルズという名前は出なかった。おれのことをもう忘は、極端に変化することになる。われわれよりも、夏は暑く、冬は れてしまったのだろうか、と、彼は思ったものだった。 寒いわけだ。しかし、わたしの推測では、それ以外にも要困がある 「星が神だなどというたわごとのほかにも、もっと何か、収穫がならしい。ジョナソンは、自分の世界が、『完全な径路をたどってい かったものかしら」ケリイは、そういって立ちあがると、片手を腰ない』といし 、そして地球はほとんど完全に近いというのだ」 にあてて、室内を歩きまわりはじめた。不信をよそおって頭をふる「完全な径路 ? 」ケリイは眉をひそめた。「八つの徳目とか、教化 と、カ 1 ルした褐色の髪が、低重力下における黒っぽい蜂蜜のようへの道とかいうこと ? 」 に渦巻き流れる。 「また神学か」さっきの男が、ふたたび口をはさんだ。 「ちがうね」とレイノルズ。「ビタゴラスは、円を完全な図形と考 「ないことはない」彼は平然といった。 えた。あらゆるかたちの中で、いちばん美しい図形だとね。ジョナ 「何を ? 」一瞬に、室内が緊張につつまれたのがわかった。 ソンが同じように考えないとは思えない」 「彼らの惑星について、少々ね。ことばの端々からつなぎ合わせた 「天体は円形にみえる。。ヒタゴラスは、月を見ていたのよ」とケリ だけだが。それで、彼らの神学も説明できそうに思える」
「ユートビア全集」表紙 守田有秋著 ュートヒア全集 解敵群書ー 困っちゃう。 はしようがないとして、記者氏は、正体のよくわからな そのひとにもよるだろうけど、・ほくはなるべくなら、 い職業の「青年実業家」と「作家ーが、結構、派手に遊 んでいるらしい、というのだけど、どんな職業でも遊ぶ いつでも正体をわかっていてほしい。うー、わんわん。 この記者氏の書きかただと、どう読んでも「青年実業ひとと遊ばないひとがいるから、この職業は遊ぶ職業な 家」と「作家」は、正体のよくわからない職業というこどと決められると困っちゃう。その証拠に、・ほくなんか とになってしまう。そうかなあ。どちらも、そんなにわ両方の職業を兼ねているにもかかわらず。地味にも遊ん でいない。遊びたいなあ。 からない商売かなあ。 そんな世間の風潮をなかなか巧みに逆用したのであ で、さらにこの記者氏は、このふたつの職業の人間 っていうんる、というのは、このふたつの職業の人間が派手に遊ぶ が、どうやって金をし・ほり出すか知らない 風潮ということなんじやろか ? へえー、世間にはそん だけど、ほんとだとしたら・ほくよりももっと頭が悪い。 まあ、前者はひと口に実業家といっても、いろいろな職な風潮があったのか、知らなかった。 種があるから、頭が悪いと迷うかもしれないけど、老年本文を読むと、生命保険に入りたいと連絡を受けた だって中年だって青年だって、実業家っていうのはみん県農協の保険担当者が、その連絡をしてきた男の家に行 な経済的事業をいとなんでお金をもうけているってことってみると、テープルと座プトンと国語辞典と用語辞典 が置いてある八畳間に通された。男は、「私は作家でそ ぐらい知らなきや。 「どんな作品をお それにしても、よくわからないのは、作家が、どうやうとうの収入がある。云々」といし ってお金を得るか知らないということ。週刊誌に原稿書書きになるんですか」と尋ねると、「いや、まあ、いろ いているひんなところにいくつかべンネームをつかって書いている となら、まんだが、私はオモテにでるのがきらいでねえ」と落ち着 ず、わかりき払っている。それで、ほんものの作家と思いこんじゃ そうなもんったというんだけど、この話を読むかぎり、どう考えた だけど。作ってこの男を作家だと思うほうがおかしい。 家って、あ農協の担当者には悪いけど、いくら、「なにしろ、作 んまり漫才家と称する人に会ったのはあとにも先にもあのときがは やってお金じめてだったんで」っていったって、こんなのはいいわ を得ないんけにならない。記者氏は″保険金詐欺の冷血漢が「青年 社長」「作家」でまかり通る世間″というタイトルをつ だよね まあ、知けているけど、どんな立場からながめてみたってこれは らないものまかり通っているんじゃなくて、世間の一部のひとが、 解載刊 3
強すぎて受けいれられなかったようだが、 に何冊もおれの本を送ってるのに、ウンとぜい二、三万部しか売れないんだ。アメリ フランスでは、ロプ日グリエ、ビュトールもスンとも言ってこないそ」あなたまではカでは、十万、二十万と売れないとだめだ 3 など錚々たるメン・ハーが選考委員となったとても手が回らないのだという意味のことからね。だから三冊に一冊はリン・カータ 界の賞、アポロ賞を獲得している。なを、うんと遠まわしな言葉で説明し、よう ーをまぜて、これは五十万部は売れるか お原文は、三文作家の手になるものなのやく納得してもらった。 ら、それで釣合いをとっていたよ。いやに で、ひどい悪文。そのうち早川書房から出 トマス・・ディッシュは、身長が一九〇なっちゃうぜ」 る日本語版は、・ とんな悪文に移しかえられセンチ以上もありそうな、つるつ禿の大男「それじや日本とおんなじだ。売れるのは だった。一九四〇年生まれだから大した年。ヘー ているか、訳者の苦労は想像できる。 丿ー・ローダンばかり。まともな r.n 時計が十時をまわるころには、客は五十ではないが、若禿を隠すため残った髪も全は、訳すのに手間がかかるだけで、その十 人あまりにふえていた。だがパーティは朝部剃ってしまったらしい。海坊主を思わせ分の一も売れない」 ( やや大げさな言い方 まで続くらしく、人数はまだふえそうな気る。ちょうどレオニー ーグレイヴ名義だが、まんざら嘘でもない ) 配。ただし、これはスビンラッドの個人的で書いたデイケンズ風の大口マン C ミ チップ・ディレイニー絶讃、しかし売れ な友人を招いたパーティなので、関係や e ミが出版された直後で、そのことを知ゆきはさつばりだったという立派な前衛的 っていた・ほくが、彼に紹介されたついでに 者は三分の一程度だろう。部屋にはマリワ 、。 ~ 。 y 、 R ミド 1974 を書い ナとタ・ハコの煙、それにロック・ミ ーグレイヴにお目にかかれて嬉た Jean Mark Gawron という若い作家と ックが充満し、その中を・ほくはおもしろそしい」とつけ加えると、ディッシュは・ほく知りあった ( クイズ この名前を日本語 うなグループをさがしながら歩きまわる。 ジ の手をとり、 curtsy ( 婦人の会釈 ) をしてでできるだけ正確に表記せよ。答え マーヴェル コミックのシナリオ作家おどけた。だが彼と言葉が通じたのはそこ ャン・マーク・ギャヴロン ) 。ポーランド で、作家でもあるテニス・オニールまでだった。その後もしばらく話は続いた系ということなので、ポーランドの作家の のだが、なにしろ大男であり、おまけにロ話をする。 は、完全にラリっていて話が通じない。 ほくが日本人だと知ると、「おれの本をックの大音響の中なので、彼の言葉はみん「レムはどこがいいのかさつばりわからな なぜ日本で出さないんだ ? 」とからんできな・ほくの頭の上を通りすぎてどこかへ行っ い。ゴンプロヴィッチやムロージェクが好 た小柄な色黒の男がいた。大きな声でゲラてしまうのだ。これは今でも残念でならなきだな」とジャン・マーク。 ゲラ笑い、あまりにも陽気すぎるので、彼 これでは、売れるが書けないのも無 もマリワナをやっているのかと思ったら、 デル・・フックス部門の元編集者ディ理はない。 ハリスとは、うまく話があっ それが地らしい。名前をきくと、イジドアヴィッドー・ そうこうするうち、「イトーさん、イト た。彼がデルをくびになったのは、売れな ・ヘイ・フラム。すでに数冊を書いてい ーさん」という声がして、背中をたたかれ るユダヤ系作家だが、ぼくは一冊も読いを出しすぎたせいだという。 た。ふりかえると、ひとりの青年が立って んだことがない。 「ハヤカワという出版社「勢いこんで企画した立派なは、せい いる。見たこともない男だ。ニューヨークに