時間 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1976年8月号
122件見つかりました。

1. SFマガジン 1976年8月号

てもらえるかな」 「こんなところだ」 ジョニイは棚に近づき、大きな荷物をおろした。罠がいま閉じた と、彼は言った。余計なことは言わない男である。 のがわかった。 「太陽はあとどれくらい空にいるのかね ? 」 . 。、ツトン、わたしもいっしょに行 「あんたさえよければ、カール 「五十時間。もう少しすくないかもしれん」 つまり、おれは六時間ちかく気を失っていたことになる。それもこう」 また気に入らなかった。時は金なり、だ。それに、おれのスケジュ ジョニイ・サンダーが先導した。背にかついだ大きな荷物など意 ールはびっちり詰まっている。 に介さぬふうで、驚くべき速度で軽々と歩いていく。彼の持っ武器 「誰かに連絡したかね ? 」 おれは壁ぎわにおいてある、大きいが、決して最新型ではないスは鉄の石突きがついた杖だけであった。そのかたわらを、鼻を地面 につけて、大きな犬がついていく。そのうしろをおれが歩く。おれ クリーンを見つめて説いた。二百万分の一のタイムラグがでる・ハ の荷は軽かった。軽ければ軽いほど速く進めるとジョニイが言った ンド式標準型通信機である。つまり、四時間ごとにリング 8 ステー のだ。骨はまた少し痛んだが、気分は爽快で、若駒のように元気た ションと連絡がとれるはすなのだ。 った。木々の間をぬけ、長い斜面を黙々との・ほった。おれたちは小 「あんたが無事着陸したとモニター・ステーションに伝えておい 山の頂上に着いた。ジョニイと犬はそこでとまり、おれが追いつく のを待った。おれはちょっと息をきらせていたが、まだまだ元気だ 「他には ? 」 「何も言わなかった」 おれは立ちあがった。 「ここで休もう」ジョニイが言った。 「もう一度、連絡をとってくれ。そして、おれがポッドの回収に向「休むもんか」おれは言い返した。「一分でも休めば、それだけ十 人の生命が危険になるんた」 かったと伝えてほしい」 おれは毅然として言った。彼がうなずくのを横眼で見とめたおれ「人間は休まなけりやいけない」 彼は言って、坐り、むきだしの両腕を膝にのせた。これで、彼の は、一瞬、決してあやまたないアルリックの分析能力も今度ばかり は間違えたのか、彼はこの家を動かず、おれひとりを山へ行かせる眼の高さが立っているおれと同じになった。気にいらなかった。 で、おれも坐った。 つもりなのではないか、と思った。 ジョニイは十分間やすみ、また歩きだした。彼はちょっとやそっ 「決して歩きやすい道ではない」ジョニイが言った。「風は強く、 7 とでやつつけられる人間ではなかった。彼は自分の最良のペースを 0 クークレン高地は雪に埋もれている」 「おれのスーツには強力なヒーターがついている。少し食料をわけ知っていた。例の計画を遂行するには、両手を使わねばならなくな

2. SFマガジン 1976年8月号

「みな順調です。わたしたちのばあいはちがいます。現実をうけい のうまであった四柱つきの大寝台のかわりに寝棚があり、絨毯もな れますから」 ければ、頭身大の鏡も、安楽椅子も消えうせていた。 「人間には、それはできない」 みんなまぼろしだと、さっき自分で言ったが、心から納得してい 「人間は、現実から目をそらしているほうがいいときもあります」 たわけではない。だが、ここには、ま・ほろしはかけらもないのだっ 「だが、今はもうちがうというわけか」 た。部屋は冷ややかで、身震いのでるような現実ーーー長い間かくさ 「はい」ジョブが言う。「いまや、現実に直面していただく時期がれつづけていた現実が、身にせまった。この小さな部屋のなかで、 来ました」 たった一人で現実と向きあうと、失ったものを思い胸がいたんだ。 ウインストン・カービイは皿を食卓におき、ロポットに向きなおできるかぎりさきへとのばされていた決算日がついに訪れたという った。「部屋で服を着かえてくる。すぐにタ食なのだろう。もちろわけだ。しかし、そういうふうにさきにのばされたというのも、単 ん携行食料なのだろうが」 純に慈悲とか思いやりの心からではない。その必要性が冷厳に計算 「今晩はごちそうです」ジョブが言った。「へゼキアがこけをみっされ、実用上、人間の弱さに譲歩しておこうというだけのことだっ けてきて、スープをつくってみました」 「すばらしい ! 」ウインストン・カービイは、茶化してしまいたい どれほど適応能力のある者でも、そしてたとえ不死人であってす という気もちをおさえて叫んだ。 ら、人間であるかぎり、彼が今成功したこの宇宙旅行に耐えきって 階段をの・ほり、つきあたりのドアへと向かう。 精神肉体をそこなわれず生きながらえることは不可能なのだった。 部屋に入ろうとすると、別のロポットがどたどたと廊下をやって一世紀にわたる宇宙旅行を生きのこるためには、まぼろしや、安心 きた。 感を与えてくれる仲間たちゃ、ささいな日常的な仕事などが、ぜひ 「おかえりなさい」 とも必要なのだった。そしてその仲間も、なみの人間では失格だ。 生身の人間の乗組員であれば、どんなに理想的な組みあわせをつく 「きみはだれだったつけ」 ってみても、おたがいにたいするいらだちがあとからあとからひき 「ソロモンです」ロポットが答えた。「育児室関係の準備をしてい おこり、けつきよくはうちわもめにまで発展してしまうからであ る者です」 る。 「防音装置をつけてくれるとありがたいが」 「いや、それは無理です。材料もなければ、時間もないですから」 そこで解答が、立体幻影による乗組員だった。人間の気分や欲望 「まあ、自由にやってほしい」ウインストン・カービイは言いのこのすべてに対応できるようなま・ほろしの仲間たちをつくりあげる。 し、部屋に入った。 そしてその背景として、絶対に不満のでてこないような生活を与え 4 部屋の様子はがらりとかわっていた。小さくて簡素なものだ。きるのだ。ふつうの人間であれば生涯であうこともないような状況の こ 0

3. SFマガジン 1976年8月号

遺志〈いま・ほくは、の中でそろそろる〕作者の意図は内意識の図式化であったとろぐ・らぶ』 ( 『野 : 、・ほくはこれを人間行動の図式化と見性時代』 6 月号 ) ◆・◆・◆・△問題になりつつあるパターン化現象を、壊す思うカ ・・・・必要を感じはじめている。嘗ての守る人が壊る。このあたりが山野浩一と・ほくの = ーウから。 ・・・・す人になるのも面白かろうと、正月から強いエーヴ観の決定的相違であろう〉 ( 筒井康時間〈継起し、 られている病院暮らしの日々、考えつづけて隆 ) Ⅱ『日本ベスト集成』 ( 徳間書店流れるのは、時間 いる〉 ( 福島正実 ) Ⅱ『奇想天外』 7 月号 ( 文 そのものではな ・ 700 円 ) の解説から。 ◆・◆・◆・△芸家協会ニュースから再録 ) 時間の言葉で あるベスト 〈・その他の部門ー①く、 初心〈エンターティンメントとしての完 トールキン『王の帰還・下』②ポルへス『創捉えられた物の現 ( ・・・ - 成を主要な目標とすることーー = ンターティ造者』③半村良『妖星伝・二』③アダムス『ウ出と、時間の言葉 ・・艱・ - ンメントとして自己充足してしまうことは、 オータ 1 シップダウンのうさぎたち』③ヴォを語るわれわれだ より重要な可能性を自ら切り棄ててしまうこネガット『プレイヤー・。ヒアノ』③ラヴクラけだ、と言わなけ ◆・◆・◆・△とにほかならなかった。それでは、 co と いフト『全集・ 1 』⑦半村良『妖星伝・一』⑧ればならないだろ ◆・◆・◆人う形式によって、それ以外の形式では表現でキング『キャリー』⑨ファーマー『階層宇宙う。時間は、未来 ・《きないなにものかを表現しようとした。われの危機』⑩ムア「〉ク『ルーンの杖秘録 1 』日 の時がしだいに今になり、その今が過去に消 ・・ - われの最初の目的が失われてしまう。これ『マンスリ日 1 』 167 号から。 えていくといった意味では、経過したり流れ は、サイエンティフィック・フックションに 夢発見器〈筆者はテレメーターを利用し たりするものではありえない。ただ、物だけ なること以上に警戒し、回避しなければならて眼球運動と筋電図とを記録し、これを簡単が不在から現前〈、そして再び不在〈と推移 ない危険であった〉 ( 福島正実 ) Ⅱ安部公房な電子装置によって情報処理してレム睡眠期 しうるだけであり、そして時間は、そうした 『人間そっくり』 ( 新潮文庫・ 160 円の解を自動的に探知し、レム睡眠となったら自動 的に警報を鳴らして被験者を覚醒させ、その出来事を最も一般的に捉えようとするわれわ ・・説から。 ルーズ〈最近の物、怪奇幻想プームときの体験 ( 夢 ) をひとりでテープレコーダれの意味なのである〉Ⅱ滝浦静雄『時間』 ( 岩波新書・ 230 円 ) から。 ーに録音させるポータブルの装置をつくり、 ・・は大変なものだけれど、中間小説誌のかなり 熱心な一読者としての感想をひと言でいえこれを夢発見器と名づけている〉 ( 大熊輝題名〈小説のタイトルというのは、主と し・て名詞、ときには動詞や形容詞がまじりま ば、どの作品も″ルーズに過ぎる″のである。雄 ) Ⅱ『理想』 5 月号から。 ( 中略 ) 自由連想のだらしなさを、想像力と女と夢〈女もよく夢の話をするが、どうす。しかし数式をもって表題としたのは、私 ・・混同しているのに気づいていない。想像力は、 も彼女たちが関心を持つのは、さめてからのの知るかぎり一つしかありません。それは ・・外に延びていく力であると同時に、内に凝集生活に関係している夢ばかりのようだ。私の小説で『 E Ⅱ m 』といいます〉Ⅱ都筑卓 ・する力でもあることをお忘れなのである。そおなじみの夢のように、何が何だかよく判ら司『物理学はむずかしくない』 ( 講談社・ 3 ういう時、筒井康隆の作品に出合うと、心底ない抽象的な夢には興味がないらしい。 90 円 ) から。 ほっとする〉 ( 石堂淑朗 ) Ⅱ筒井康隆『俗物ファンに女性が少いのは、そういうことに関 ショック①〈天皇は宇宙人だった〉ー 図鑑』 ( 新潮文庫・ 360 円 ) の解説から。 係あるのかも知れない。 は夢みたいな『 The English Journal 』 6 月号の・ 評論〈彼 ( 山野浩一 ) の評論がしばものだから〉 ( 半村良 ) 日『女帖』 ( 文藝春・デニケンのエッセイの標題。②〈抗生物質 の大量販売が、日本人の相当な部分を抹殺し - 、しば作家たちの神経を逆なでして彼らを秋・ 890 円 ) から。 【、 - 怒らせるのは、作家たちがそれそれ自身イメージ〈最終的には、人間は、宇宙をてしまうかもしれない〉Ⅱ田丸博文『薬殺列 の持っ価値観で創造した世界を、まったく別巨大な比喩として : : : 人間的な″意味″を付島』 ( 光文社・ 550 円 ) から。 今月の収穫小松左京『男を探せ』 ( 新潮 , ◆ , ・◆・・の価値観、作家たちがまったく思っても与されたイメージとして呈示する以外に、宇 いなかったような視点から攻撃してくるから宙との間に″決着″をつけられないんじゃな社・ 850 円 ) 半村良『魔女街』 ( 講談社・ いですかね〉〈ちょっと愉快じゃないかね ? 850 円 ) 同『闇の中の黄金』 ( 角川書店・ - - ・であって、これが作家たちに「無いものねだ 960 円 ) 藤本泉『呪いの聖域』 ( 祥伝社・ - ・ - りだ」「言いがかりである」果ては「書きか私たちの、この巨大な宇宙が″前宇宙〃の、 ・・たがにくにくしい」と感じさせ、反発させる雌の腹から、快楽の絶頂を通じて、うみ出さ 600 円 ) 河野典生『鷹またはカンドオル のである。 ( 中略 ) 〔『メシメリ街道』におけれたってイメージは : : : 〉Ⅱ小松左京『あな王』 ( 深夜叢書社・ 2500 円 ) 日本セクション 担当 . 石川喬司

4. SFマガジン 1976年8月号

の周囲には、数カ月後に農場と庭とになるはずの平地が広がり、そ クランフォード・アダムズは暖炉の前に大きな椅子をすえ、炎を してその北端に、長い航行に耐えてきたあの宇宙船がそびえる。みみつめてものおもいにふけっていることだろう。哲学者タイプの男 つめれば、宇宙船の先端のあたりに一番星が明るくかがやき、まるなのである。たちあがったオーリン ・・ハべッジは、暖炉棚にひじを でクリスマスのろうそくを見るような光景だった。 つき片手にグラスをもって、ひょうきんに目をかがやかせている。 丘をくだる途中、夜の最初の風がなっかしいヒースの香りをはこその彼と語りあいながら、コーゼット・ミルトンが笑いころげてい んで頬をかすめ、喜びと幸せとで彼の心をみたした。 るにちがいない。妖精の心と黄金色の髪をもつ、快活な娘だ。アナ あまりの幸福感に罪悪感すら感じてしまう、と彼は思うが、それ ・クインジーは椅子の上で身を丸めて読書にふけり、メアリ・フォ も理由のあることだった。楽しい旅行だったし、着陸も順調だつイルは自分が生きていることとみんなといっしょにいられることだ た。今や、惑星一つまるごとの所有者となり、一家を築いて王朝をけを喜んで、何をするでもなくだまって彼の帰りを待ちつづけてい つくりあげるのに、時間はいくらでもあるのた。時間は充分。急ぐるだろう。 ことはない。必要とあれば、永遠のときのすべてをついやすことす長い旅の仲間だ、そう彼は思う。完全に理解しあい、ゆるしあ ら可能なのだった。 、そして仲よく、一世紀というときの流れすら、この友情の美し そしてそのうえに、すばらしい仲間たちがいた。 さにひびをいらすことができなかったのだった。 ドアをあければそこに待っているはずだった。笑い声がまきおこ はやくみんなといっしょになってこの荒野横断行についてしゃべ り、そして酒盃がまわるだろう。楽しいタ食。明るく燃える炎の前 りたい、そして計画のこまかなことをまたもう一度検討したい で・フランデーがくみかわされる。愉快で、まじめで、そして親しけ待っている五人を思うと、そんな気もちが急にこみあげてきて、ウ なおしゃべりが始まる。 インストン・カービイは足を早めた。今までにはない経験だった。 航行中の一世紀のあいだ発狂者の一人もでなかったのは、この団 小道へと折れる。いつものとおり、夕暮れの風がとっぜん冷たさ 欒のおかげにちがいない。それに、おたがいの間の愛情、人類文化を増した。上着のえりをたててみても、効果はない。 の美しい面に対する愛着ーーー言ってみれば、芸術を理解し、文学を ドアにたどりつき、寒気のなかでしばしたたずんだ。館の建材の 愛し、哲学に興味をもち、・ーー等々のおかげもある。一世紀にわた重量感と、截然と天をつくその力強さとに、つきることない満足感 る期間、たった六人の人間が、一度として喧嘩もうちわもめもおこ がこみあげてくる。数世紀にわたってこの建物は腐ちることなくた さずに仲よく暮らした例など、そうめったにはないだろう。 ちつづけるだろう。彼は思った。王朝は永遠に減びることはないだ 館では、仲間たちが、炉とろうそくの火を囲み、飲みものの用意ろう。 も万端ととのえ、おしゃべりを始めて彼を待っているだろう。連帯掛け金をはずして体でドアを押すと、ドアは音もなく開いた。一 感と仲間意識とで、部屋は暖まりきっているにちがいない。 陣の風が暖かく吹きぬけ、彼をむかえた。玄関に入ってうしろ手に

5. SFマガジン 1976年8月号

ツリ . ーーミレノ 造の家が三軒か四軒、樹々の間に見えかくれするのが、居住地区な地に入り込んで行く感覚を作ろうと、ツララスーハ・ハ リーツラビスというコースを設定したのだ。この廱覚のうちに、先 2 のだ。それらのあるものは田畑を持っているが、樹を伐ったり野生 動物を狩ったりして生活しているところもないではなかった。そし住者の言動のどこかから、もっと望めるならば先住者自身の口か て、それらの家々がここでもやはり、粗野な塗り分けではあるが白ら、かれらの根底にあるものをつかめるかも知れない。人間たちと の対応に馴れて、愛想はいいが何ひとっ本音をいわない連中から、 と黒を基調にして、塗られているのである。 人間そのものとほとんど接触を持ったことのない連中へと : : : その マセたちは、そうした居住地区をいちいち訪問はしなかった。 うちには、何か手がかりが得られるのではあるまいか ? そんな余裕はないのだ。 だからもちろん、マセは、このツララスででも、先住者たちと会 定期巡回のスケジュールは、ツラツリ大陸で三十五ルーヌをかけ 、・、ツリ・ミルツリの三大陸では、そう るのと対照的に、ツララス・ / ノ 予定にしている。が、行き当りばったりあちこちの居住地区を訪 れそれ十ルーヌずっしかとっていないのであった。最後のツラビスねても、うまくは行かないだろうし時間のロスも多いだろう。とい だけは十六ルーヌをあてているのだが : うわけで、彼は、とりあえずッラビスットに到着し、ツラビスット ひとつの大陸あたり十ルーヌというのは、あまりにも少いかも知を足場にして、周囲の、この大陸にいるロポット官僚たちが、何ら れない。 かのデータを持っている、その予備知識の活用可能な居住地区を廻 ってみることにしたのだった。 だが、これでいいのだ。 これでも、多い位なのである。 地上走行と空中飛翔を併用したので、かれらはツララスットに、 これ迄の司政官は、ツラツリ以外の四大陸に、それそれ三ルーヌ六時間足らずで到着した。 ッララスット。 か四ルーヌをかけただけであった。なぜならッラツリ大陸以外のこ それは、都市というよりは町である。しかも特異な町であった。 れらの大陸に住む植民者は、ごくすくなく、かれらは勝手に生きて ッララスットは、ラクザ 1 ンの南回帰線を出ないぎりぎりの地点 いるだけで、ツラツリット文化とは無縁であった。また、先住者は これらの大陸にある。ラクザーンの先住者たちが持っている優者赤道占拠の意識 先住者で : : : 決してッラツリ大陸に来ようとしない。 を尊重しながら、それ以南の調査も出来るようにとの目的で作られ の先住者たちは、人間が植民する前の暮らしを、そのまま続けてい た、いわば拠点なのだ。だから、ここの建物や設備は、司政庁やそ るのだった。 そんな、ツラツリ以外の大陸に、各十ルーヌもかけるというのはの他の科学センター等の出先機関のために建設されたものがほとん どである。その意味では一種の役所町ともいえるのだが : : : そこ : マセに、あわよくば先住者たちの心の中にある何か、人間には に、以前は他に散在していたユラを採取する業者たちがいっしか集 いまだにつかみ得ない何かをつかめるかも知れないという、はかな い期待があったからである。それも、ひとつひとっと、しだいに奥まって来て、住民となったのた。ギギどころかダラにも駆逐される

6. SFマガジン 1976年8月号

も、貨物ポッドも、わたしの指示に正しく従わねばならん・ーー・それ「・ハ力な ! 」おれは叫んだ。「調べたんだ。たしかに、この星には 植民がなされた。でも、みんな死にたえたはずだ。ヴィールスにや しか生き残る可能性はないのだ ! 」 モニターの航行指示に従わないのは罪になる、とはつけ加えなかられてーーー」 「ひとり生き残った。さあ、おしゃべりはやめて : : : 」 った。その必要がないからだ。そのことは、おれも承知している。 おれはそのことも考慮にいれておいたのである。 おれたちはもう少ししゃべったが、重要なことは、すでにすべて 「しようがないな。貨物ポッドには標識電波発信機がとりつけてあ語られたあとであった。おれは指示に従い、言われたとおりのこと る。だがね、救命艇がこの星につくのはいつごろのことだい ? 」 をした。余計なことはしなかったし、やらずにすませたこともなか った。一時間もすれば、このセクターの監視機構は、どうなるかわ 「救命艇はすでにそちらに向かっている。そちらへは : : : 三百時間 冫とかかる」 からない十人ーーーおれも含めれば十一人をのせてヴァンガードに下 「地球日で十二日以上じゃないか ! 」 降していった病院船のことを知るだろう。おれは敵地に入りこん おれはちょっと言葉を切り、相手がそのことの意味を考える時間 だ。いよいよ第二段階であった。 を与えてやった。 地表一万マイルで、音が聞こえはじめた。空気の分子が五千トン 「もし、冷凍装置がいかれちまったら、冷凍ケースだけじゃ、そん のオンポロ貨物船によって切り裂かれる、かなしそうな泣き声であ なに長く完全零度は保っておけないそ。それに る。思ったよりはやく大気圏に突入した。逆噴射を使うひまもなか また言葉を切る。 「それに、おれはどうなるんだ。あんな星で生きていけるのかねった。おれは姿勢制御ロケットを使って、尾部が下にくるよう船の 位置を変えた。望む位置にきたときには、もう八千マイルしか離れ 「歩いて援助をうけられる程度の地点におりられるようコースを選ておらず、かなり重力が強くなっていた。おれは座標盤にかがみこ み、着陸予定地を正確に定めた。その間も、船は内臓を撃ちぬかれ 定してあげよう。ではーー」 「この星にはた獣のような咆哮をあげて地表に向かっていた。 「援助だと。何の援助だ ? 」おれはくってかかった。 二百マイルで中央エンジンを切る。すべては赤い灯に照らされ、 この百年間、人っ子ひとりいないはずだ」 誰もいない。 ・フーツに押しつぶされようとするひきがえるのようた。圧力が消え 「指示に従えばいいんだよ、キング・アンクル」 その声から、わずかではあったが同情の気配が消えた。英雄でさるまでには、ひどく長い時間がかかったように、おれには思えた。 その力はくりかえしくりかえし、おれを襲うのたった。と、ふい え、生き続けることになにがしかの配慮を払うものだ。ましてや、 に船は自由落下にはいった。もう数秒しか残されていない。ポッド その英雄が一介の兵士からたたきあげた人間たとなると 放擲レ・ハ 1 に手をそえるのは非常に困難だった。かなとこを持って 「下には : : : 人がひとり住んでいる」 円 2

7. SFマガジン 1976年8月号

うやら。フフェイフアが一番気に入ったのはこいつらしい。書いてる見送っていた。しなやかな姿が建物の陰にかくれると、目を落し、 ーゲンペックの目録に気がついた : : : あわててそれをひろい上げ 7 ことを読むそ、『参考資料によればチンパンジー・チェゴは体が大 きいことに特色があり、ほ・ほゴリラに匹敵する。したがって力も強ると後を追おうとしかけたが思いとどまって、まるでこそ泥みたい く耐久性もある。チン。 ( ンジー・チェゴを百五十頭発注のこと』今にあたりをうかがってから、いそいで目録をふところにすべりこま 度はそれに加えて赤鉛筆でも書き込みがしてある。『雄の方がよりせ、こちらへやってくる仲間達の方へ歩きだした。 すぐれ、忍耐力があることを忘れるな。雌はできる限り少なく』そ 三祖先と子孫 の下にインクで、『ハーゲンべックに照会のこと。スマトラ、ポル ネオ、ハワイからの捕獲料および輸送費こみの概算見積』とある。 このメモは全部ちがった時に書きこんである。これがどういう意味 ハミーは退屈していた。ソフアに体を横たえ、エアーコンディシ か分るかい ? ー アンドレイは目録を砂の上に投げだしながら、最後ョナーに蠅が吸いこまれるのを無関心な眼で眺めていた。遮蔽物の に問した。 陰にかくれて見えない小型のモーターがコンペアーのベルトを動か 「わからないわ。暗号かなんかかしらーードーリイは立ち上りながしていたが、バケットの中は空だった。発電機の単調な歌声に類人 ら言ったーーアンドレイ、時間だから行くわ」 猿はいらいらしているようだった。ソフアから体を滑らせて、まる 「もう ? ・ アンドレイもいそいで立ち上った ドーリイ、悪かで人間のように立ち上った。こうしてみると、広い肩、前かがみの った。喋りすぎたようだ。でも信じてほしいんだ、たたできれば : ・背中、ひざの下までたれ下がっている、すっかりすり切れた毛にお おわれた手がとくに目についた。一杯機嫌の人間みたいに千鳥足で 「そんなこと言わなくていいのよ、アンドレイ」 遮蔽物の裏へまわりこむと、ナイフ日スイッチを手前へ引っ張っ 「今度はいつ、どこで会えるんだ ? 」 「よかったら、今夜クラブ〈カジ / 〉で。九時過ぎにそこへ行って発電機のうなりがやんだ。オランウータンの灰色がかった青い、 るわ」 無毛の顔に満足そうな表情が広がった。ところどころまばらに灰色 がまじっていた白いあごひげが、どういう訳か特に挑戦的に一本一 「どうしてあんな不健康なところへ出入りするんだ、ドーリイ」 「パパを一人でほっといたら、いつまでたってもカードをやめない本逆立っていた。『見ろ、たいしたもんだろう ! 』とでも言いたし ドーリイは深い溜息のだろうが、喋れなかった。 ことは知ってるでしよ。ほっとけないのよ いっかきっと完全に狂っちゃうわ。じゃこれで : : : よ をついた ひどく憂うつだったのが、たちまち持前の移り気の早さでうぬぼ かったらまたあとで」 れに変った。『退屈でかなわん ! なにかやることはないのか ? 』 アンドレイは血が出るほど唇を噛んで、彼女の後姿をながいことと身振りで言いながら、のろのろと部屋の中を歩きまわっていた。 から

8. SFマガジン 1976年8月号

ハミーはいきなり歯を鳴らすと、後も振りむかないでプフェイフ きたい。あなたの工場で働くことになっている類人猿達には一度に ひとつの工程しかやれない。その方が千倍も簡単なことは言うまでアの足を引掻いた。そしてまたすぐ、まるでなにごともなかったよ もないでしよう。わたしとア・フドールが交替で昼食の休み時間を一うにもとの姿勢に戻って、コンべアの上にかがみこんでしまった。 を働かせてみたことがありま「手長悪魔め ! 片輪 ! 化物 ! : : : 」びつくり仰天したプフェイ 時入れて八時間ぶつつづけでハ しいですが一日八時間の労働があなたにころがりこむんですフナはさんざん悪態をついた。 す。 よ。 ハミーはコンべアーから離れようとさえしなかった。仕事がし はその罵詈雑言に応えてざっと振りむくと、しかし仕事の つかり身についているからです。彼がポルトで組立てた部品がすぐ手は休めずに、彼にむかってべっと唾をはきかけた。 にまたもとの状態にもどって帰ってくるのにびつくりし、頭へく「うまいそ ! 」・ハチャーノフが遮蔽物のむこうで大声をあげて笑っ る。するとぜがひでもポルトで組立てようとして、かっかとして働た。「化物なんていうから、そういうお返しをされるんだ ! まあ く。わたしのシステム全体が、実はこの動物の頑固さという点に支よく見てみるんですね、彼のどこがいったい化物なんです ? 顔立 はととのっているし、勇敢な眼差しや顔のまわりの黒い髪は悩まし えられているんです」 「あなたは天才ですよ、・ ( チャー / フ ! ーー我慢できなくなったプげな青白さを彼の表情にそえている。猿仲間じやきっとたいへんな ハンサムで通ってたんだと思いますよ」 フェイフアが、有頂天になって叫んだーーあなたのような天才的な 「ふん、だったら自分がそのハンサムなエテ公とやらとキスすりや 頭脳を持った者でなきやこの世界的な問題を解決できる人はいませ いいんだ ! 」足をさすりながらプフェイフアが言い返した。「そろ んよ。ライン地方の民話にでてくる〈黄金の頭脳〉を持った男とい そろ条件について話したいんですがね。そういうたいしたハンサム うのはあなたのことだ ! 」 「わたしが心配しているのは、その天才的な頭脳がまもなくその存を使って作業をする組立工場をそ「くり設備するとしたら、いくら 在をやめ、〈黄金の〉おとぎ話のような脳が腐ってぐしゃぐしやに払ったらいいんですか ? 」 「いささかとっぴょうしもない条件になりますよ ! たった今ここ よっこジェリー のかたまりになってしまうということだ」遮蔽物の で一万ドルの小切手を切って、明日の朝までどこへでも好きなとこ 陰から・ハチャーノフの声がした。 「おいおい、どうしてそんな縁起でもないことを言いだすんたねろへ引っこんでいていただく。わたしは今夜は負けを取り戻したい ? 」オランウータンに近づきながらプフェイフアは元気のいい声でんだ」 言った。「とんでもないことをいってないで、こいつの働きつぶり「で、そのあとは ? 」プフェイフアは警戒した。 「それからのことは分りきってるじゃありませんか ! わたしが勝 お前はたい を見たらどうです ! たいしたもんだ ! おい、ハ したやつだ」〈デブのフリードリッヒ〉はやさしい声をかけると、 って負けを取り戻せば、借りた一万ドルは返すし、死ぬまでわたし はあなたのために働きますよ。そうなれば、あなたは自分の工場で いい気になってオランウータンの頭をなでた。

9. SFマガジン 1976年8月号

はどう十 - れ・はよいのか。しナし 一世紀という時間をかけて習い 冫冫しかなかった。彼には果たすべきっとめが 想がそうするわけこよ、 ある。今や無味乾燥なものと思え、よそよそしくつまらないこととお・ほえてしまったものを忘れさることなど可能なのだろうか。い 5 さえなってしまったけれど、しかし遂行しなければならない使命。や、それとも、これはそんなに危険なことなのだろうかーー意識的 なぜならそれは、ここでもう一つ植民地がふえるというだけのことに願いつづけ心から望むことによってのみ出現するのか、それとも ではないから。それは敵陣突破であり、人類がもう時間と距離とにただ、物憂い現実からの逃避として無意識に落ちこんでしまうよう なものなのだろうか。 支配されはしないということのあかし、確かなゆるぎないあかしだ ロポットたちに警告しなければならない。相談しておく必要があ からである。 それなのに今、これまでに知られていなかった落とし穴がでてきる。願望や動揺におそわれたら即座に保護してもらえるような危険 た。人の心にしのびこみ、追いだすことのできない落とし穴であ測定規準をつくりあげ、過去の幻影にとらわれたなら思いきった行 る。症状を詳しく地球に報告して研究を依頼し、この天成の危険を動で救いだせるように準備しておかなければならない。 なんとか治療、あるいは排除してもらわなければならない。 けれど、と彼は思う。部屋を出て下に行くとみんなが待っている 効果の副作用だろうか、と彼は思った。それとも、ただ、習得しのなら、こんなにすてきなことはない。飲みものがみんなの手に行 てしまったというだけのことなのか。幻影効果が行なうのは、人間きわたり、おしゃべりが始まっていて : の心を補助するだけであった。その補助によって、奇妙な制御され「やめるんだ ! 」叫んだ。 た幻覚がつくりだされ、願望充足のレ・ヘルではたらくのである。 心のなかからきれいにぬぐいさらなければーーーぜひともそうしな 百年のあいだに、人間の心がその技術を完全に習いお・ほえてしまければならない。考えてみるたけでもいけない。激しい仕事に身を ったにちがいない。そしてその習得があまりに完全であったためまかせて考えるひますらなくし、そして寝床にたおれこんだら夢を 見すに寝いってしまうほどに疲れきらなければならない。 に、立体幻影の装置すら不要になってしまった。 途中で気がついてもよかったはずだ、と彼は思う。散歩に出れば なすべき仕事を順にならべてみるーー・・孵化器を見まわり、大地を その長時間のあいだずっと一人でいたはずなのに、ま・ほろしが薄れ耕して庭と農園をつくりあげ、原子力発電機をすえつけ、材木をは るようなことはなかった。何年もなれしたしんでいたま・ほろしの霧こびこみ、近辺を調査して地図をつくり、そしてロケットをオー ーホールしてロポットを一体のせ地球に送りかえす。 がさしつらぬかれたあの瞬間も、まだ笑いさざめきと暖かい出むか それだけを考えた。さきざきを思い行動を整理してみた。きたる えの言葉を期待していて、とっぜんの静寂と空虚とにショックをう けたのだった。今でさえ、それは心のなかにひそみ、すきさえあらべき日々、月々、そして何年もさきまでの予定表をつくりあけた。 そこでやっと満足がいった。 ばと隠れた茂みのそこここに彼を待ちぶせしている。 制御することができたのだ。 この能力はいつになれば消えはしめるのだろう。完全になくすに

10. SFマガジン 1976年8月号

しがみさせてもらう。もしうまくいったら、あなたの将来は完全にネス〉である。ミスタ・・ヘックフォードの企業〈アメリカ一のギャ グマン〉はその種の〈コンツェルン〉の中では最大のものだった。 保証させていただく″ 彼は洒落を考えだしてはそれを売り、一幕物の笑劇やユーモラスな わたしは結局その提案をうけ入れました」 曲目を、喜劇俳優や寄席芸人、劇場の漫才師や道化役者のために書 「それで首尾はどうなんです ? 」スポルジングがたずねた。 いてやった。それで一財産稼ぎだすと、他人の洒落を買ってそれを 「旋律の数学的構造の美学公式はなんとかものにしました。しか 転売したり、諷刺本や、歴史的な古い一口咄や小咄を吹きこんだレ し、この研究がそんなふうにこれからもうまくいきますと : : : 」 コードを集め、それを体系化して、〈笑話世界銀行〉を作った。そ ミセス・アダムスがべランダをやってきた。遅い時間だった。べ カタログ ランダにはほとんど人がいなかった。・フルヴェルはお休みなさいをの品目一覧表には四千をこす洒落や笑劇や一口咄が収録されてい た。すべての資料がテーマで分類されており、コード番号をつけ、 言うと、部屋へ引き上げていった。 目録に載っていた。どんな笑劇だろうと二十秒で検索できるように なっていた。 この手だ ! 毎年、その目録に三千種目が追加されていった。最初の四千種目 、べックフォードは三百万点以上の笑劇や洒落の表 スポルジングは、プルヴ = ルがやっていることを知ってしまうを選びだすのに と、〈べールははぎとられたスフィンクス〉みたいに彼女にたいす題に目を通さなければならなくなった。注文者は、聴取者を一時間 につき八十回以上笑わせるような番組を要求するようになった。べ る興味をすっかり失くしてしまった。 ・フルヴ = ルと話をしてから一カ月たったある日、家へ帰る地下鉄ックフォードは、その要求をはるかに越える番組を編成した。聴取 の電車の中で新聞を読んでいると、『ペックフォード・コンツェル者を一時間に九十回から百回、最上の番組では三十分に百二十回ー ーこれが最高記録だったがーーも笑わせたものがあった。・ヘックフ ンに倒産の危機』という見出しが眼にとびこんできた。 の理論によれば、観客や聴取者という者は、次から次へと新 スポルジングは、人間の浮沈にかかわることならナポレオンの運オード 命から大財閥のロットシルドやロックフ = ラ 1 の歴史にいたるましい咄を追ってはいないし、どたいそんなに考え出せるものでもな で、どんなことにでも関心を持った。それで、彼は注意深くその新いといっている。プロに要求されていることは、古い咄を適切に選 コンフェラ / セ び出す能力があるかどうかということにすべてがっきる。 聞記事に目を通した。べックフォードは、フランスの道化師みたい その理論の正しいことを身をもって証明しているような具合いだ な道化を職業としていた〈ギャグマン〉の一人だった。それはスポ ルジングも知っていた。だがその先の話は彼も初耳だった。〈笑いったが、少なくとも〈コンツ = ルン〉の事業はうまくいっていた。 を売る商売〉はどうやらアメリカで成功したらしい。気のきいた洒・ヘックフォードはやたらに〈姉妹〉企業、つまり映画やミ、ージッ 落を考えだすことも、帽子やカフスポタンの製造と同様、〈ビジク・ホールなどをふやし、あまっさえ銀行まで抱えこんでしまった アネクドート 6 5