に近づけないのである。 くなくとも、われわれがつねに夢見てきたあの無存在がある。この この部分の終わりで、 丿ーナが、タキオン推進の自動・フーストに 一万四千年のあいだにわれわれがまなんだ数多くのこと、それを話 3 よって・フラック・ギャラクシーからの脱出をはかろうと、決意したしてやってもいいが、むろんきみにはよくわからないだろう。われ ことが明らかになる。リー ナは自分がどこへどんなふうに出現するわれは諦観というものをまなんだ。われわれは偉大な洞察力を手に かは知らない。しかし、こんな状態に自分がこれ以上耐えられない 入れた。もちろん、これらのすべては、きみのカのおよばないむこ ことは知っている。 うにある」 丿ーナは制御装置のセットにとりかかるが、その前に死者との対「わたしのカのおよばないものは、なに一つないわ。なに一つ。で 話を書いておく必要がある。 も、それはどうでもいいことよ」 「どうでもよくはない。あらゆることが重要だ。ここにだって、物 2 事の結果や、因果性、人間である意識、責任感、そうしたものは存 在する。いくら物理的法則が停止しても、また生命そのものが停止 一人の死者が、おそらく一同の代弁者を自任して、リー ナの眠しても、人間の道徳的義務を切り離すことはできない。この世には 前、この新空間の中へ、まるで夢の中の姿のように現われ出るだろ絶対至上のものがある。ここを捨てて脱出しようとするのは、いわ ば背教だ」 「まあよく聞きなさい」と、彼はいう。三三六一年に生まれ、三四「人間は脱出しなくてはならないのよ」リー ナはいう。「人間は闘 〇一年に死に、そして八世紀のあいだ、未来社会が彼の死体をとり わなくてはならず、自分のおかれた条件を支配しようとっとめなく だし、白血病を治療してくれるのを待ちつづけていた男だ ( あいにてはならない。かりにそうすることによって、より悪い消減の道を く、彼の期待は果たされそうもない ) 。「きみはここでの状況をあり たどったとしても、それもやはり人間の運命なんだわ」 のままに見つめなくてはいけない。 ここをあっさりと出てゆくこと たぶん、このあたりの対話は、すこし美文調にすぎるかもしれな はむりだ。きみがわれわれに与えるだろう死よりは、素性の知れた い。にもかかわらず、ここが泣かせどころなのだ。注意してほしい 死のほうがいい」 のは、一人の女性の性格にこの因習的な見かたをとり入れることに 「決断はもうくだしたわ」 丿ーナは制御装置の上にまっすぐ指をのよって、この物語にどうしても必要な、アイロニーというもう一つ ばしていう。「いまさら後もどりはできません」 のレベルが加わることになる。そういうものがないと、この物語は 「われわれはいま死んでいる」白血病の死者はいう。「せめてこの たんなるカーニ・ ( ルの見せ物、テントのかげで第ずかしそうに披露 死をつづけさせてくれ。すくなくとも、この時間のない島宇宙のはされる見えすいた驚異の陳列におわってしまう : ・ : だが、アイロニ らわたの中で、われわれは一種の生命をさずかっている。いや、す 1 がそれに正当性を与えてくれるのた。
めて、考える必要があると感じたとしよう。きみはここにの・ほってできると、信じている。そうじゃないか」 きた。ライアはドライ・フに出た。たぶん、シュキーンタウンを一日 わたしはうなずいた。 さすらいたかっただけなのかもしれない。きのうも、そのようなこ 「いつぼうで、わたしたちは洞窟を担当する。わたしはまだ。その とをしたのではなかったか」 底におりて行きたいのだ」 「しました」 「なんの役にもたたないでしよう」反論した。「ライアぬきでは。 「では、同じことをまたやっているんだ。問題はない。だいじよう彼女は〈大能力者〉で、わたしはーーわたしにできるのはたかだか ぶ、彼女は夕食前にはもどってくるだろう」わらった。 感情を読みとることだけだ。彼女にできるほど深く掘りすすむこと 「では、なぜわたしに言いおいていかなかったのですか。それとももできない。あなたのお役には、。せんぜんたてないでしよう」 メモをのこすなりなんなりして」 彼は肩をすくめた。「そうかもしれない。しかし、洞窟に行くこ 「それはわからない。重要な問題ではないー とは計画されてしまっており、行ったからといってうしなうものは そうなのだろうか、たしかに ? わたしは椅子にすわり、顔を両なにもない。 ライアがかえってきてから、いつでももう一度でかけ 手に埋めて、顔をしかめ、汗をながしていた。とっぜんわたしは、 ることができる。それに、これは、そちらの問題からあなたの心を 自分が知らなかったことについて、とてもおそろしくなった。一人そらすという役にもたつ。今、ライアのために、あなたができるこ でのこしたりしてはいけなかったのだ、と自分に言いきかせて いとはなにもない。つかえるだけの人間すべてを、捜索に出してあ た。上のここでわたしがローリイと二人でいたとき、暗い部屋のな り、もし彼らにみつけることができないとすれば、あなたにみつけ かで彼女は一人、目をさまし、そしてーーーそしてなにがおこったのられるはすがない。だから、あなたがうろうろしても、なんの意味 か。彼女は出ていってしまった。 もないのです。行動にもどって、いそがしがりましよう」振りかえ 「いつ。ほうで」ヴァールカレンギは言った。「わたしたちにも、しって、昇降管に向かった。「行きましよう。ェアカーを待たせてあ なければならない仕事があります。洞窟をたすねようという話は、 る。ネルスが同行します」 準備がととのっているのです」 しぶしぶと、わたしは立ちあがった。シュキー人の問題を考える わたしは目をあげた。信じがたい気持ちだった。「洞窟だって ? 気分ではなかったが、ヴァールカレンギの議論は説得力をもってい 行かれないです、今は、一人では」 た。そればかりでなく、ライアとわたしは彼にやとわれたのであっ 彼は怒りのため息をついた。自分の言ったことばにそんな答がかて、いまだにわたしたちは彼にしたがう義務があるのだった。いず えってきたことを、・いかっていた。いや、そんなばかな、ロ・フ。世れにしても、試みることだけはできる、とわたしは思った。 界の終わりが来たわけではない。ライアなら、だいじようぶだろ ェアカーでは、ヴァールカレンギは、大理石に彫られたような表 9 う。彼女は完全に分別のある娘のようだ。自分のことは自分で始末情の大男の警部が運転する前の席にならんですわっていた。今回は チュープ
の答にはなんの意味もない。こわいのはなにと聞くと、なにもこわだ。「そしてきみもだ。きみの愛を読みとった。あの、最初にタ食 くないと答えて、信じさせてしまう。とても理性的で、冷静なの。 をいっしょにとった晩に」 「そして、ディ / は ? 怒りを見せることなどないし、今までにもなかったと言う。彼は、 人をにくまない。憎しみは悪だと思っているからよ。それに彼は苦ことばが、のどのとちゅうでからまった。 痛を感じたこともない、自分でそう言っているわ。心の痛みのこと「彼はーー・奇妙だ。ライアが一度そう言ったことがある。彼の表層 だけれど。それでいながら、わたしが自分の生活のことを話せば、 の感情は、ごく簡単に読みとることができる。その下は、何も読め 理解してくれる。一度、自分の最大の欠点は怠惰だと言ったことが ない。とても自己抑制が強く、壁をつくっている。まるで、彼の感 あるの。けれど彼は絶対に怠惰なんかじゃない。彼は本当にそれほじる感情は、自分でゆるしたものだけにかぎられているようだ。自 ど完璧な人間なの ? いつでも自分を信じていると、彼は言うわ。信と、喜びとを感じとった。心配な気持ちも感じたけれど、それは 自分が善良な人間だからだと。でも、そう言うときに彼の顔はわら真の恐怖ではなかった。きみのことをとても好きで、きみを保護し っているから、それがむなしいことばだと言って責めることもでき たいという気持ちが強くある。その保護意識を、彼はとても楽しん ないの。神を信じていると言うけれど、そのことについてけっしてでいる」 しゃべることはない。もし真面目に話しかければ、忍耐強くただ聞「それだけなの ? 」希望を抱いていた。痛手だろう。 くか、茶化してしまうか、それとも話題をそらしてしまうのよ。わ「残念ながら、それ以上は読みとれなかった。壁でさえぎられてい たしを愛しているというけれどーーー」 るんだ、ローリイ。彼が必要とするのは自分だけ、自分一人だけ わたしは頭をうなずかせた。何が来ようとしているか、わかって だ。もし彼のなかに愛があるとすれば、それはその壁のうしろにか ローリ . くされている。わたしには、そこまで読むことができない。 それは来た。彼女は、うったえるような目をあげた。「あなたは イ、彼はきみのことを、とても思っている。けれど、愛となると、 〈能力者〉よ」と言った。「彼の心を読んだでしよう。彼のことを話がちがう。愛は、もっと強く、もっと不合理なもので、奔流のよ 知っているの ? おしえて。おしえてちょうだい」 うにほとばしるはずのものだ。ディノはそんな人間ではない。すく なくともわたしに読みとれた外側の部分に関するかぎりは」 彼女の心を読んでいた。彼女にとって知ることがどれほど必要 か、どれほど心配し、おそれているか、どれほど彼女の愛が強いも「閉じているのよ」彼女が言った。「彼の心は、わたしに対して閉 のであるかが、見てとれた。彼女にうそはつけなかった。けれどそじられている。わたしが、すべてをあけひろげたのに。彼はそうし ようとはしなかった。彼はいつでもーーーわたしといっしょにいると の答をあたえるのは、むずかしいことだった。 「彼の心を読んだことがある」わたしは言った。ゆっくりと。気をきですら、こわがっていた。ときどきわたしは、彼がそこにいない つけて。高価な液体をはかりわけるようにして、ことばをえらんんじゃないかと感じることがあったーー、こ 7 6
ひじように近くに彼女は立っており、わたしの顔のほうを、わた ただ感じていた。自分が冷たく、孤独で、ちつぼけなものだと感し しの顔をとおして、外の星をみつめていた。「わたしにはわからな 8 ていた。 いの。ときどき、愛とはなんなのか考えてしまう。ディノを愛して するとうしろから、こんにちはというやさしい声が聞こえた。ほ いるわ。彼がここに来たのは二カ月まえで、だからそんなに長く知 とんど聞きとれないほどの声音だった。 りあっているわけじゃない。でも、もうわたしは彼を愛してしまっ 窓から振りむいたが、反対側の面の星がわたしの目を射た。ロー リイ・・フラック・ハ 1 ンが、低い椅子にすわって、暗闇に身をかくしている。彼のような人と会ったことがなかったの。やさしく、思い やりがあって、どんなことでも、うまくやる。彼がやろうとしたこ ていた。 「やあ」こたえた。「じゃまするつもりはありませんでした。だれとで失敗したのは、見たことがないわ。それなのに、彼は、ときど きいる人たちみたいに熱狂に駆られるわけではない。とても簡単に もいないと思っていた」 ほほえんだ。まばゆいばかりの表情に、まばゆいばかりのほほえ勝利をおさめてしまう。自分にとても自信をもっていて、それが魅 み、けれどわらっているのは顔だけだった。赤褐色の髪が肩までな力なの。わたしがのぞめるだけのものを全部をくれるわ。全部を、 がれ、なにか薄い生地の長い衣服を身につけていた。そのひだをとよ」 おして彼女のやわらかな曲線があらわに見えたが、彼女はかくそうわたしは彼女の心を読み、愛と心配とを見てとった。そして、わ かった。「彼自身以外のすべてを、だ」わたしが言った。 ともしなかった。 「ここにはときどきあがってきます」と彼女は言った。「たいてい おどろきの表情を浮かべて、わたしを見た。そしてほほえんだ。 は、夜に。ディノがねむってしまってから。考えごとをするにはい 「わすれていた。あなたは〈能力者〉だったのね。もちろん、あな い場所なの」 たにはわかるはずよ。あなたの言うとおり。なにを心配しているの かわからないのだけれど、わたしは心配なの。ディ / は、あんなに 「そう」ほほえんで、言った。「わたしもそう思った」 完全な人だわ。わたしは彼にーーすべてのことを話してきた。自分 「星が美しいでしよう」 のことと、生活のことを全部。彼はそれを聞き、理解する。彼は感 「美しい」 受性が豊かで、わたしが必要とするときはいつもそこにいる。でも 「そう思うわ。わたしーー」ためらった。立ちあがって近よった。 「あなたは、ライアを愛しているの ? 」たずねた。 強烈な質問だった。おそろしいほどに、ときを得ていた。けれ「それは、つねに一方的なんだ」わたしは言った。断定した。わか っていたからだ。 ど、うまく受けとめられたと思う。わたしの心はまだ、ライアとの うなずいた。「彼が秘密をもっているというんじゃない。そうで 会話の上にあった。「愛している」こたえた。「とても。なぜです はないの。たずねれば、どんな質問にもこたえてくれる。でも、そ か」
ヴァールカレンギとグアリイはわたしたちを待ちかねており、ヴ いれかわったのかが不思議たわ。それに、なぜわたしたちが呼ばれ たのかが」 アールカレンギみずから・ハーテンの役をつとめた。なんだかわから 「わたしたちが〈能力〉をもっているからさ」そう言ってわらっ ない飲みものだったが、冷たくて香りがよくすてきな味の、刺激の た。カッコの部分は正しい。ライアナもわたしも、試験を受け、超あるものだった。気持ちよくわたしは味わった。どういうわけか、 能力者として登録され、それを証明する免許証をもっているのだ。 元気づけになるものが必要だったのだ。 「あ、は」彼女は言い、横向きになってほほえみかえした。今は、 「シュキーのワインです」ヴァールカレンギは笑みを浮かべて、ロ 吸血鬼型の半分ばかりの笑みではなかった。セクシイな、小娘のほ にたさなかった疑問にこたえた。「名前はあるが、まだ発音できな ほえみだ。 。もうすこし時間をください。ここにきてわずか二カ月だし、シ 「ヴァールカレンギは、わたしたちを休ませたがっている」わたしユキーの言語は不規則でなずかしいのです」 が言った。「それもそれほど悪い考えじゃないな」 「シュキー語をならっているのですか」ライアが、びつくりしてた ライアはべッドからとびおりた。「いいわよ」と言った。「でずねた。なぜだかはわたしにもわかる。シュキー語は人間には発音 も、そのツウイン・べッドをうごかさなければ」 がむずかしく、そしてシュキー人はおどろくほど簡単に地球語をお ・ほえてしまうのだ。ほとんどの人々はよろこんでその事実を受けい 「押してくつつけよう」 もう一度彼女がほほえんだ。べッドを押してくつつけた。 れ、この異星の言語を発音することのむずかしさなど、まるでわす そしてけつきよく、 本当にひと寝いりしてしまった。 れてしまう。 起きてみると、荷物がドアの外にはこんできてあった。ヴァール 「ことばを知ることによって、彼らの考えかたを知ることができま カレンギが服装などにこだわらないことは有名たったので、着がえす」ヴァールカレンギが言った。「すくなくとも、理論上はそうで には・ほろの普段着をえらんだ。チュー・フにのり、塔の最上階へと向すから」わらった。 ふたたび彼の心を読んだが、前よりもむずかしかった。肉体的な 接触が読心力を鋭敏にするのだ。また、表層近くに、単純な感情が 惑星司政官の事務室は、およそ事務室らしくないものだった。机読みとれた。こんどは、自負心だった。満足感がともなっている。 ーと、くるぶしわたしはそれをワインのせいにした。それより深いものではない。 もなければ、ふつうの装飾物もなかった。ただ、・ハ 「名前の呼びかたはどうでも、おいしいワインです」わたしが言っ までしすむやわらかい青い絨毯と、六、七個の椅子がちらばってい るだけ。それに、広い空間と降りそそぐ日光、兄もとには淡色のガた。 ラスごしにシュキーの大地が広がっているのだった。こんどは、四「シュキー人はじつにさまざまな酒と食品をつくります」グアリイ 7 が言いだした。「もうすでに、ずいぶんいろんなものを輸出した 面の壁全部だった。
「着陸しました。ドアを開けます」 だけである。その瞥見のうちに彼は、視野のうちには先住者の姿が が告げた。 ないことも確認していた。そして、視野のうちのみならず、全群衆 マセは無言で頷く。 の中にもひとりもいないのではないか、という気が、なぜか、した 機を出てから司政庁に着く迄の段取りは、すでにと細部迄のである。 打合せてあった。 雑多なわめき声の散乱のうちに、マセは三、四秒、その場に立っ ドアがゆっくりと開いて行く。 ていた。まっすぐ前方の司政庁の建物をみつめたままで、である。 それと同時に、今迄遮断されていた外部の音が、彼の耳に入って群衆が、少し静かになった。このような状態を前にした司政官 が、何か呼びかけなり声明なりをするのではないか 来た。 と、予期し たのである。 音というよりは、騒ぎである。 人々が口々に叫んでいるのだ。わあわあと入りまじり、ののしつ マセが眸を据える前方の司政庁の、そのポールに、大きな旗がゆ ている声なのだ。むろん歓呼のそれではなく、指弾し非難しているるゆるとあがりはじめていた。ゆるやかに : : : しだいに上へ : 叫びである。それらが、ロポット警備陣に近い デモ隊のもので・ほり切って風にはためくその旗には、連邦のマークがあった。 連邦旗である。 あることはたしかであったが、それでも騒がしいことには違いない のである。騒いでいない人もいるはずであるが、そうした人々は黙このラクザーンはもとより、全版図の全世界を象徴する連邦旗。 ここへ送り込まれて っているだけなのであろう。黙って、好奇の目で、あるいは冷やかそしてその旗は、司政官が連邦の命のもとに、 に、またあるいは無感動に、こちらを眺めているのであろう。 いることを、無言のうちに示していた。 マセはドアを抜けて、機外に降り立った。 群衆が、再び騒ぎだした。怒号が交錯し叫びが天にあがり、人々 降りてみると、上方から見ていたのとことなり、見通しは利かながまた動きを開始していた。ロポットの警備網にまともにぶつかっ くなる。 て行き、突き破ろうとする集団も出て来た。このあたり、この広場 を含めて、司政庁の管理下にあり、かっては勝手に立入ることさえ それでも、警備に居並ぶロポットたちのかなた、何十、何百とい うプラカードや旗の類が動いているのを見ることは出来た。そうしむつかしかったという事実も、かれらの念頭にはなかった。という たプラカードには、かれらのスローガンーーー司政官は過去のものより、そんな時代は終りを告げたのだという、かれらにとっては当 だ、とか、私生活への干渉反対、とか、重税新設を許すな、といっ然の感覚のうちに、ロポットたちにぶつかって来たのだ。ロポット た調子の文句が書かれており、旗は旗で、それそれ強烈な原色の組が人間に危害を加えて迄も警備を遂行することなどあり得ない、 合せに染められているようであった。 ポットは人間に道をあけるべきだと、殺到したのだ。 しかしながら、マセは、それらの光景をちらりと眼の隅で捉えたその瞬間、防護ラインを作っているロポットたちが、同時に、全 3 2
同 , イラストー一生仏疑なき空中葬式 で上昇可能。 て、花びらが落ちなければローズ嬢はぶじにちがいな い。いわれたカルキーが、・ハ ラを落すと、一枚の花びら いよいよ、悪漢・フヘールを追って、一条の飛行艇は空 中高く舞いあがることになった。 も落ちない。元気づいた一行はプへール博士を追って一 路アフリカへ。 それにしても、この天才科学者も、ずいぶん無茶をや 時はこれ春風吹き送る六月一日のこと、パリ数百万の 人びとはいずれもその前途を見送らんと、一様にローズるものだ。もし、花びらが落ちちゃったらどうするつも 嬢を記念する白パラの花をば挿み、雲霞のごとくセイヌ りでいたのだろう。 の河畔にと集まった。 飛行艇の四人、せつかくメン・ハーがそろっているのに リ′ 1 ー セイヌの河畔では、一条理学士、カルキー伯、パ マージャンもしないで、ひたすら悪博士を追ってサルマ 毎朝新聞特派の有田有男、警視総監撰抜の大探偵轟十湖に到着した。しかし、時すでに遅くプへールは二週間 目にここを去った後。残念無念と、ふたたび追跡をして 蔵、いずれも武装してビストルを腰に帯び、食糧品を積蔔 込む、連射砲を搭載する、準備万端を終れば、驚くべきくると、とある湖に・フヘールの飛行艇がつい落してい 火薬爆発機関の運転は、秒一秒、爆発浮動ガスを大気筒る。 にと送り、艇は今にも風を劈いて飛行せんばかり。数百博士の死体もローズ嬢の死体も見当らない。湖にふた 万の群集はその周囲に雪崩をうち、万歳を連呼する、帽りとも沈んでしまったかと嘆いていたが、神は四人を見 を飛ばす、手を拍ち足を踏鳴らす、美人を救けよ、悪人捨てない。電報が届いたのだ。それによれば、死んだと を斃せ ! と呼ばわる声は、。、 / リより七里離れし、ヘレ思った・フヘールは、例のチェスター姫をさらってトルコ ナ城趾まで響いたと伝えられた。 正三時、四人は艇に乗組んだ。艇は忽然として推進螺 旋翼の音妻じく昇騰を始めた。 四人は一斉に帽を脱して下界を瞰る。数百万の群集も ・一斉に帽を挙げ、歓呼を挙げ。空を仰いで、数百万の白 ハラの花を流星のごとく天に投げた 白パラの花ふたたび地に落つる時、四人を乗せたる大 飛行艇は、電光のごとくアフリカ大陸のほうへと飛び去 飛行艇の中で恋人の身を案じるカルキー青年に、一条 武雄はこんなことをいう。 一輪の白・ハラの枝を床に落し 5
「なのに、冷凍にしてくれという」 り返せるんだ。頼む、ヴィクトル ! 」 「二人ともだ」 物理学者は言葉もなく見つめた。そして老婆を見やった。彼女は ヴィクトルは信じられぬといった顔で見つめた。「なんてことをほほえみを返すと、関節炎を病む指で着ているものをぬぎすてた。 いうんだ、ラリイ ! 」 ナジャは、聞えぬかのように、ひっそりと立っている。 彼女がつぶれた管腟をくぐりぬけたとき、タルポットはそこで待 「ヴィクトル、聞け。マ 1 サ・ネルスンはこの中にいる。一生を無ちうけていた。ひどく疲れているようすなので、オレンジ色の山脈 意味に消費して。ナジャはここにいる。なぜとか、どんなふうにとを越える前に、しばらく休ませることにした。手をさしのべ、洞窟 の天井からおろすと、彼女をやわらかな薄黄色の苔の上に寝かせ か、何のせいでそうなったのか、そんなことは知らん : : : だが : た。その苔は、マーサ・ネルスンとの長い旅を経て、タルポットが 無意味に消費された人生がある。ここにも一つ。おれの小分身を創 ったみたいに、彼女の小分身も創ってくれ、そして中に送りこむんランゲルハンス島から持ち帰ったものだった。二人の老婆は肩をな だ。彼は中で待っている、彼ならできる、ヴィクトル。すべてをあらべて苔の上に横たわり、ナジャはたちまち眠りにおちた。タルポ ットはそばに立ち、二人の顔を見比べた。 るべきとおりにすることができるんた、はしめて : : : 。彼女が赤ん ばうのときには、彼はーーーおれはーー父親になり、子供のときには瓜二つだった。 やがて彼は岩棚に出ると、オレンジ色の山脈の尾根を見わたし 遊び友たちになり、大きくなるあいだは親友になり、思春期を迎え ればポーイ・フレンド、成熟した若い女性になったときは求婚者、た。今では白骨に何の恐怖も感じなかった。とっぜん肌を刺すよう つぎには恋人、夫、そして老いてゆく彼女の連れあいになる。経験な冷気を感じ、ヴィクトルが冷凍保存を始めたことを知った。 タルポットは長いあいだ、そのまま立ちつくしていた。左手に握 できなかった人生を送らせてやってくれ、ヴィクトル。二度も奪う りしめた小さな金属・ハッジの表面には、あざやかな四色刷りで、架 ようなことはするな。終ったとき、それはまた始まる : : : 」 空の生き物のいたずらつぼい純真な顔が描かれていた。 「説明しろ、どういうことなんだ、どういうふうにしてそれを ? しばらくのち洞窟の中から、赤ん・ほうの泣き声が聞えてきた。泣 筋道たてて話せ、ラリイ ! その形而上的なたわごとの意味は何だ き声は一つだった。彼はくびすを返すと、これまでの人生でもっと 「どういうふうになってるのか、そんなことは知らん。そうなってもたやすい旅を始めるため洞窟にもどった。 どこかで凶暴な悪魔の魚がとっ・せんえらをとし、その腹をゆっく るというだけだ ! おれはあそこにいたんだよ、ヴィクトル、何カ 月もいた、何年もかもしれない、おれは変身しなかった、狼になるりと上に向けると、闇の中に沈んでいった。 ことはなかった、あそこに月はない : : : 夜も昼もない、ただ温かな 四二頁『ライアへの讃歌』扉で〈ネビュラ中長篇賞受賞〉とありますの 5 は〈ヒューゴー ・ : 〉の誤りです。おわびと共に訂正いたします。 ( 編集部 ) 金色の光があるだけだ。おれは改新させてみせる。二つの生命を取
つぎにその下にある文字が目にとまり、理由に思いあたった。こ った老婆、骨と皮ばかり。「 o のスーパ 1 ・。ヒンガーと、ほかに のドアを三十秒以上あける場合は、検査と安全確認を行なうこと。真空箱の一部が取り換えられました。真空もれが発見されましたの 4 タルポットの関心は、戸口の風景とヴィクトルの言葉とのあいだで」タルポットはすさましい苦痛に見舞われていた。記憶が荒れ狂 で迷った。「嵐が心配のようだな」 う波となって押しよせてくる。脳髄のあらゆる柔かい無防備なひだ 「心配はしてない」と、ヴィクトル。「慎重なだけだ。実験に障害を食い荒す蟻の軍勢。「深夜勤務においては、遷移ホールの新し がおこることは考えられない。直撃を受けないかぎりはな。その可い真空・ハル・フのコイルが故障し、二時間の照射時間が失われまし 能性はないと見ていいがーーー予防措置をとってあるからーー・しかし た」 撮影の最中に、動力が切れるような危険はおかしたくないじゃない 「母さん : ・ : ? 」タルポットは、しわがれたささやき声でいった。 か」 老婆はびくりと体をおこした。首をめぐらせ、つもった灰を思わ 「撮影 ? 」 せる目を見開いた。「ヴィクトル」その声には恐怖があった。 タルポットはほとんど動かなかったが、ヴィクトルは先まわりし 「それは全部説明する。じっさい説明しなきゃならないんだ、きみ のチビ助にも知ってもらうために」ヴィクトルは、タルポットの困て彼の腕をつかみ、制止した。「ありがとう、ナジャ。標的ステー 惑を見て微笑した。「心配するな」先ほどドアをあけたのは、実験ションへ行って、二次ビーム群の記録をとってくれ。すぐ行くん 衣を着たひとりの老婆で、いま彼女はタルポットの右うしろに立っ ていた。ヴィクトルに用事があるのか、明らかに二人の会話が終る老婆はびつこをひきながら二人のそばを離れると、反対方向にあ のを待っているようすだった。 る別のドアーーーひとりの女性技術者があけて待っているーーー・を通り ぬけて、たちまち姿を消した。 ヴィクトルは老婆に目を向けた。「なんだい、ナジャ ? 」 タルポットは老婆を見た。胃の中に酸の雨が降りだすのが感じら タルポットはうるんだ眼差しで、老婆を見送った。 れた。 「なんてこった、ヴィクトル。あれは : ・ : こ 「きのう、高磁場水平不安定性の原因を究明するため、すくなから「いや、ラリイ、そうじゃない」 ぬ努力がなされましたー何か特殊な問題についての報告書の一部だ「そうだ。そうにきまってる ! しかし、どうやって、ヴィクトル、 ろう、彼女は低い声で一本調子にいった。「付随的なビーム拡散に教えてくれ、どうやったんた ? 」 より、効率のよいビーム取り出しに支障がおこりました」どうみて ヴィクトルはタルポットの体をまわすと、自由な手で彼のあごを も、八十にはなっている。灰色の目は、匕ハ ーベーストを思わせるし持ちあげた。「おれを見ろ、ラリイ。いいから、おれを見ろ。あれ なびた皮膚のひだの中に埋れていた。「午後になって加速器は停止は違う。きみの思いちがいだ」 され、修復作業がなされました」しぼんだ、疲れきった、腰のまが ロレンス・タルポットが最後に泣いたのは、ミネアポリス美術館
まま待つ。ヴィクトルという男はいつもこうなのだ。分析の迷路を じりじりと進まなければならない。 電話が鳴り、受話器をとりあげた瞬間、タルポットには話の見当に はついた。この二カ月余、電話が鳴るたびに見当はついていたので 「生物工学を応用すれば、たぶんーーー特製の微生物なり虫なりを・ : : ・注射して : : : テレ。 ( シー交信を確立する。いかん。問題が多すぎある。「タルポットさんですか ? ウエスターン・ユニオンです。 る。おそらく自我 / 制御の対立がおこるだろう。知覚が損われてはチェコスロ・ ( キアのモルダ・ハより国際電報がはいっております」 「読んでくれないか」 。それなら、群居生物を注射して多重視点をつくれば」沈黙の 「ごく短いものです。″すぐ来い。道順がきまった″サインは " ヴ のち、「いや。だめだ」 イクトル〃とあります」 タルポットはタ・ハコをすい、神秘的な東欧の煙が両肺をかけめぐ るのを感じた。「こういうのはどうだ・ : ・ : 思いっきでしかないんだ部屋を出るまでに一時間とかからなかった。リアジ = ット しつでも飛びたてるよう待 ) よ、。フダベストから帰って以来、、 ′力しった、「自我 / イドが、精子一つ一つの中に存 が」ヴィクトレ : 、 在するとする。そういう説は出ている。その一個の精子の意識を高機しており、燃料タンクは定期的にみたされ、飛行計画は準備され めて、任務に送りだす・ : : ・くだらん、形而上的なたわごとだ。あていた。スーツケースは七十二日前用意されたままドアのわきにあ 現在通用するビザと。 ( スポートがぬかりなく内ポケットにおさ あ、くそ、くそ、くそ : ・・ : これには時間がかかりそうだ、ラリイ。 められていた。彼が出かけたのちも、しばらくのあいだアパートの 行け、考えさせてくれ。こちらから連絡する」 タルポットは手すりでソ・フラ = = をもみ消し、最後の煙を吐きだ部屋は、立ち去った瞬間のこだまを残して震えていた。 飛行は果てしなく、いっ終るとも知れす、不必要に時間をくって した。「いいとも、ヴィクトル。取り組めるだけの興味はわいたよ いることは明白だった。 うだからな」 , 力でもないかぎ税関通過は、政府最高機関の許可証 ( すべて本物と見分けのつか 「おれは科学者だぜ、ラリイ。もう夢中だよ。・、 り、こんなチャンスを : ・ : ・これこそ、まさに : : : まさに、おれの親ない逸品ばかり ) と袖の下をもってしても、サディスティックなま でに長いように思われた。ちよびひげの下っぱ役人トリオは、安心 父が : : : 」 しきって、びとときの権力の行使を楽しんでいた。 「わかったよ。考えさせてやる。待ってるからな」 地上の交通機関は、たんに遅いというだけのものではなかった。 二人は黙りこくって川をわたりおえた、ひとりは解答を、ひとり それは、温まるまで走ることができず、温まればやわらかくなりす 。別れる前、ふたたび抱擁があった。 は問題を考えながら・ : タルポットは翌朝帰国し、めぐりくる満月の夜に耐えて待ちつづぎて走れなくなる〈糖蜜人間〉を連想させた。 けた。祈るような・ ( 力なまねはしなかった。水を濁らせ、神々を怒旧式のほろ型観光自動車に乗り、目的地まであと数マイルのとこ ろへ来たとき、案の定、三文ゴシック小説のサスペンスフルな見せ らせるようなものだとわかっていたからだ。