参加者 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1976年9月号
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1. SFマガジン 1976年9月号

インスビレーションを受けた。「 いくつの心があるんだ ? 」 わかりますか」なにもわからない顔つきで、三人が振りかえった。 4 「四つ」こたえた。 「どういうかたちでか、つなぎあわされているけれどもう一人の、グリーシュカが波のようにうねって赤いケー。フ 6 わ。けれど、ほんとに一つのものになっているわけじゃない」言い になっている小男が、頭を上下にはずませた。 よどみ、とほうにくれて、頭を振った。「つまり、あの人たちは、 「はあい」かすれた笛のような声でこたえる。 あなたみたいにして、おたがいの感情を読みとっているようだわ。 わたしはとっぜん、なにをたずねたらよいのかわからなくなって けれど、思考は読みとれないし、こまかいこともだめ。わたしはあしまったが、ライアが助け船をだした。「人間で〈参加者〉になっ た人のことを、ご存じですか」ライアがきいた。 の人たちの心を読めるけれど、あの人たちどうしは読めていない。 それぞれの人格は独立しているの。さっき、鐘を鳴らしていたとき 男は歯をむきだした。「〈参加者〉はみな一つです」 のほうが密接だったけれど、それでもずっと四人はそれそれ別の存「それは」わたしが言った。「ええ、それはそうだが、わたしたち 在だった」 に似た外見の者を知りませんか。背が高くて、それに、髪があり、 わたしは、ややがっかりした。「それでは、四つの心があるわけ肌がピンクか褐色なのですが」このシ = キーの老人がどれだけの地 球語を知っているのだろうかと心配になり、とまどってくちごもっ か、一つの心ではなくて」 た。そして、やや不安な思いで彼のグリーシュカに目をやった。 「ええ、そうよ。心は四つ」 「で、グリーシュカは ? 」またすてきな考えを思いついた。グリー 頭が左右に揺れた。「〈参加者〉は、みんな別、けれど一つ、み シュカが、自身の心をもっているとすれば : んな同し。あなたのような人、いる。あなた、〈参加〉しますか」 「なにもないわ」ライアはこたえた。「植物か、衣服でも読んでい 「いいや、けっこう。人間の〈参加者〉には、どこに行けば会えま すか」 るみたい。生きていますの意識ももっていない」 混乱をまねく事実だった。下等動物でも、なんらかの漠然とした さらに頭を横に振った。「〈参加者〉、聖なる都市を、歌って、鐘 をも 存在意識ーーー〈能力者〉が、生きています意識とよぶ思い ならして、歩く」 っているものだ。それはふつうおぼろなひらめきで、一流の〈能力 ライアは、読んでいた。「彼は知らないわ」わたしにったえた。 者〉だけにとらえることができるのだが、ライアは一流の〈能力「〈参加者〉はたださすらって鐘を鳴らすの。きまった方式などは 者〉なのだ。 ぜんぜんなくて、跡をたどることはだれにもできない。系統性がま 「話しかけてみよう」わたしが言うと、ライアはうなずいた。しきるでないのよ。何人かで行くこともあれば、一人で行くこともあ りにあごをうごかして ミートロールを食べている〈参加者〉たちのる。二つの群れがであえば、すぐにそこで新しいグループができて ところへあゆみよった。「こんにちは」とわたしは、どうきりだししまう」 たらよいのか考えながら、まの悪い思いで話しかけた。「地球語が「さがさなければならないんだ」わたしは言った。

2. SFマガジン 1976年9月号

がいないわ。そうではなくて、ほら、彼らがわたしたちを愛してい いた。別のシュキー人が、小さな裸の女の子だったが、駆けよって ることを、わたしは感じた。そのうえその思いは、とても深いの。水をいれたびんをさしたし、〈参加者〉はだまったままそれを回し 読みとれるより深いところで彼らはわたしたちを愛していて、それ飲みした。 よりまだもっともっと深いのよ。あの人たちの思いは、とても深「なにをしているんだ ? 」ライアにたずねたが、こたえるよりまえ く、そしてとてもあけっぴろげなの。わたしは人間の心をこれほど に、おもいだした。・ヴァールカレンギがおくってくれた文書のなか 深く読んだことはないと思う。すべてが、表面の層にあるとおり にあったのだ。〈参加者〉は労働しない。地球の時間で四十年のあ で、そこに、生活の全部と、すべての夢と感情と記憶がでているー 、だ、シュキー人は一生懸命にはたらいて生活するが、最初の〈参 ー一度読むだけで、一目見るだけで、すぐにそれはわかるわ。人間 加〉から〈最後の結合〉まで、彼らは喜びと音楽とでみたされ、通 のばあいーーー人類のばあいだと、それはとてもたいへんな作業で、 りをさすらって鐘を鳴らし、語り歌って、ほかのシュキ 1 人に食物 掘りおこし、一生懸命努力しなければならないのだけれど、それでと飲みものの提供を受けるのだ。〈参加者〉に食物をあたえるのは ミ 1 トロールを提供した男は、誇りと喜びと もそんなに深くまでは読むことができない。わかるでしよ、ね、ロ名誉なことであって、 ・フ、わかるでしよう ? 」ライアが身を寄せて、しがみついてきた。 でいつばいなのだ。 わたしは両腕で抱きしめた。わたしの心をあらいながそうとした感「ライア」わたしはささやいた。「今、読めるかい」 情の奔流は、ライアにとっては津波のように大きなうねりだったに ライアはわたしの胸のところでうなすき、身をはなして、〈参加 ちがいない。彼女の〈能力〉は、わたしよりずっと広く、深いの者〉をみつめた。目もとは鋭くなり、そしてやわらいだ。振りかえ だ。今、ライアは身をふるわせていた。腕のなかの彼女の心を読 ってわたしを見た。「こんどは、ちがう」いぶかしけな口調だっ み、そこに、愛ーーとても大きな愛と、疑問と、幸福感とを読んだ が、そこにはなお、恐れの思い その全部を巻きこんで渦となる「どういうふうに ? 」疑問に目を細めた。「わからない。たしかに 神経質な恐れもまた読みとることができた。 みんな、わたしたち全部を愛している。けれど今、あの人たちの思 周囲では、とっぜん鐘の音がやんだ。一つ、また一つと、鐘はお いは、そう、すっと人間らしくなっているわ。ほら、心が層にわか ろされ、しばらくのあいだ、四人の〈参加者〉は静寂のなかにたたれて、読みとるのがむずかしいわけ。隠しごとまであって、自分自 ずんだ。近くにいたシュキー人が一人、布をかけた大きな籠を手に身の思考からもそれをかくしてしまっている。さっきみたいに、す して近寄った。いちばん背の低い〈参加者〉が布をとりさると、暖べてをあけひろげてはいなくなった。今、食べもののことと、それ かなミートロールの芳香が街路にたちこめた。〈参加者〉たちはそがおいしいということを考えているわ。とても生き生きと考えてい れそれに、籠からいくつかのミートロ 1 ルをとり、幸福そうなおもる。わたしまで食べたくなってしまったわ。でも、それは同しこと 3 もちでむしゃぶりついた。寄進者は歯をむきだしにしてよろこんでではないけれど」

3. SFマガジン 1976年9月号

ンの成分がきみの新陳代謝になにか影響するのかもしれない。 シュキー人は以前にもエアカーを見たことはあるが、今でもまだも 新しいツナギの服を着てから、顔をしかめて見せた。「ばかね。 のめずらしい価値をもち、とくに子どもたちは、わたしたちが飛ぶ きのう飲んだのはヴェルタアよ。ヴェルタアなんて、九つのときに ところどこでもあとを追って走ってきた。そしてまた一匹の〈うな 父に飲まされて以来飲んでいる。今までそれで頭痛がしたことなどり屋〉をおどろかせて、引いていた果物満載の荷車をひっくりかえ ないわ , させてしまった。悪いことをしたと思って、それよりあとは、高度 「今度が最初なんだ ! 」わらいながら、言った。 をあげた。 「わらいごとじゃないわ」彼女が言った。「本当に痛いのよ」 市内いたるところで、歌い、食べ、歩き、そしてあの鐘を、永 ふざけるのをやめ、彼女の心を読もうとした。本当たった。痛ん久に鳴りつづける青銅の鐘をうちふる〈参加者〉たちを、わたした でいた。こめかみ全体が動悸をうっていた。わたしまで痛みにおそちは観察した。けれど、最初の三時間というもの、見えるのはシュ われるよりまえに、急いで心をひっこめた。 キー人の〈参加者〉ばかりだった。ライアとわたしは交互に操縦と 「そのとおりだ」わたしは言った。「すまない。だが、薬でよくな観察を交代した。前日の興奮ぶりにくらべて、その日の探索は退屈 で、あきあきした。 るだろう。やらなければならない仕事があるんだ」 ライアは頭をうなすかせた。いまだかって彼女はどんなものにもけれど、ついに、発見があった。全部で十人という大きな〈参加 者〉の群れで、切りたっ丘の麓にとめたパンの荷車のまわりにつど 仕事をさまたげられたことはない。 っているのだった。なかの二人が、背が高かった。 二日目は人探しの日たった。きのうより早くでかけ、グアリイと 丘の反対側に着地し、エアカーをシュキーの子どもたちがとりか いっしょに朝食をとって、〈塔〉の外でエアカーにのりこんだ。こ の日はシュキーンタウンにつくまでエアカーを降りなかった。人間こむにまかせて、歩いて彼らと会いに行った。そこに着いたときに の〈参加者〉をさがしており、そのためには広い地域を探索しなけもまだ〈参加者〉たちは、食べているさいちゅうだった。八人は背 ればならなかった。この都市は、すくなくとも面積において、わたの高さも肌の色もさまざまなシュキー人で、全員の頭にグリーシュ しの知っているどこの都会よりも大きく、千人をこえる人間の信者力がとりついて脈動していた。のこりの二人は、人類たった。 は、何百万人ものシュキー人のなかにまじって消息を断っていた。 シュキー人と同じ赤い色の長いガウンを身につけ、同じ鐘を手に そんな人類のうち、〈参加者〉にまでなっているのは、まだ半分くしていた。一人は大男で、皮膚がたるんでぶらさがっており、つい らい・こっこ。 最近にひじように体重を減らしたように見えた。髪は白く波うち、 そこでわたしたちはエアカーの高度を低くたもち、宙に浮いたロ顔じゅうでわらっていて、目のまわりに笑いじわが出ていた。もう ーラーコースターのように、円屋根の点在する丘の起伏にそって上一人は、大きな鷲鼻で、やせた黒髪のイタチのような男だった。二 下し、眼下の町並みにすくなからぬ騒ぎを巻きおこした。もちろん人とも、頭部にグリーシュカを吸いっかせていた。イタチ男にのつ

4. SFマガジン 1976年9月号

ている寄生体はほんのにきびほどの大きさだったが、年老いた男の 「この〈崇拝〉に改宗したのは、いつでしたか」 ほうには、肩をこえてガウンの背にまで達して垂れる堂々たる個体「〈崇拝〉ですって ? 」カメンツが言った。 がとりついていた。 「〈結合〉のことです」 今回のばあいは、なんとなくおそましい気分におそわれた。 相手は頭をうなずかせたが、その揺れる頭が、きのう会った年長 ライアとわたしは歩みより、なんとかほほえみを浮かべた。心をのシュキー人と気味悪いほどに似ていることに、おどろいた。「わ 読みはしなかったーー・すくなくとも、最初は。近づいていくと、みたしは、ずっと〈結合〉のなかにいました。あなたも〈結合〉のな んなにこにことわらった。そして手を振ってくれた。 かにいます。ものを考える者は、みな〈結合〉のなかにいるので 「こんにちはーわたしたちがつくと、イタチ男がうれしそうな声です」 言った。「お会いしたことがないですね。シュキーには最近来たん「そんなことを聞いたことがない者もいます」とわたしは言った。 「あなたはどうだったのですか。自分が〈結合〉のなかにいること ですか」 しつ気がっきましたか」 これには、すこしばかりおどろいた。ことばすくない神秘的な歓に、、 迎か、あるいはぜんぜん歓迎などされないかもしれないと予期して「古き地球の時間でいえば、一年前です。ほんの数週間前に、〈参 加者〉のランクに受けいれられました。〈最初の参加〉は喜びの瞬 いたからである。シュキー人らしくなるために、人間の改宗者はな 間です。わたしは喜びにみちています。これからわたしは、〈最後 んらかのかたちで人間性を捨てているのではないかと思っていた。 の結合〉まで、町を歩いて鐘を鳴らすのです」 わたしはまちがっていた。 「どちらにしても」と、わたしはこたえた。そして、そのイタチ男「それまでは、なにをしていたのですか」 「それまでですって ? 」一瞬、・ほんやりとした表情になった。「機 の心を読んだ。彼はわたしたちに会って、純粋によろこんでおり、 満足感と歓喜とにみちあふれていた。「あなたのお仲間に会って話械を操作していたことがあります。〈塔〉で、コンビ = ーターをう をするために、やとわれてきました」それについては本当のことをごかしていたのです。けれど、兄弟、わたしの生活は空虚でした。 自分が〈結合〉のなかの一員であることを知らず、一人・ほっちでし 言おうと、心に決めた。 イタチ男は、その歯をむきだした笑いを、そんなには無理だと思た。わたしにはただ機械がーー冷たい機械があっただけです。今わ えたところまで広げた。「わたしは〈参加者〉で、そして幸福でたしは〈参加者〉です。今、わたしは」ーーー・と、ふたたびことばを す」と言った。「よろこんでお話します。名前はレスター・カメンさがした。「孤独ではないのです」 彼の心をさぐると、幸福感が依然としてあり、愛もあった。けれ ツ。なにを知りたいのですか、兄弟」 ライアが、わたしの横で、からだを硬直させた。質問をつづけるどそれとともに今度は、痛みも読みとれた。過去の苦痛の漠然とし た記憶、歓迎できない不愉快な記憶だった。それは薄らぎ消えたの あいだ、深いところまで彼女が読みとれるようにしてやろうと思っ プラザー プラザー 2 7

5. SFマガジン 1976年9月号

を振り、そこで別の〈参加者〉が鳴らしはじめ、またつぎの男も加ていた。はいりこむやいなやわたしは当惑し、不安な気持ちになっ わって、ついには全員が鐘を振って音をたてていた。その鐘の音は た。その霧のなかのどこかに、底知れる深淵が口をあけて、わたし 7 わたしの鼓膜をはけしくうち、わたしの心はまた、喜びと、愛と、 を飲みこもうと待ちかまえていた。とにかく、そう感じられたの 鐘の思いとに強襲されていた。 それを味わいたい思いで、立ちさりかねた。そこに存在する愛「ライア」わたしは言った。「どうしたんだ」 た首を横にふり、恐れと切望とが半々の表情で〈参加者〉たち は、息を飲むほどに、すさましく、その熱気と強烈さとでほとんど 恐怖を感じるほどたった。そして、とびはね、さまよいでてくるほをみつめた。質問をくりかえした。 どに多量の分かちあいがそこにはあり、それは人の心をしずめ、よ「わたしーーーわたし、わからないわ」こたえた。「ロ・フ、今は話し ろこばせる、すばらしい感情のつづれ織りだった。鐘を鳴らしてい かけないで。行きましよう。考える時間がほしい」 る〈参加者〉たちに、なにかがおこった。何者かが彼らに触れ、高「わかった」わたしは言った。ここでは、なにが進行しているのだ め、輝きをあたえたのだ。奇妙に光輝あるもので、普通人には、はろうか。彼女の手をとり、ゆっくりと歩いて丘をまわり、車をとめ げしく鳴らされる鐘のために、聞こえなかっただろう。だが、わた たところにもどった。シュキー人の子どもたちがその全面によじの ・ほっていた。わたしはわらいながら、追いはらった。ライアはそこ しは普通人ではない。聞きとることができた。 に立ちつくしており、視線はわたしをこえてはるかかなたを見てい いやいやながら、ゆっくりと、わたしはその場所から身を引い た。また彼女の心を読みたいと思ったが、なぜか、それは彼女の内 た。カメンツともう一人の人間は、今、元気に鐘を鳴らしていた。 こ・ほれんばかりの笑みに、かがやきまたたく瞳が高貴さを添えてい面を侵害する行為のように感じられた。 た。ライアはまだ身の硬直を解かず、読んでいた。そのロもとはす離陸すると、こんどはさっきより高い高度で、速く、まっすぐに こしばかりゆるみ、立ちつくしてふるえていた。わたしは彼女のか〈塔〉へと帰還した。わたしが操縦し、ライアは隣にすわって遠く らだに腕をまわし、鐘の音を耳にしながら、忍耐して待った。ライをみつめていた。 アは読みつづけた。ついに、数分後、わたしはやさしくライアをゆ「なにか役にたっことがわかったかい」彼女の心を使命のほうに向 すった。彼女はふりむき、硬い、遠いものを見る目つきでわたしをけようと、わたしはたずねた。 しいえ、たぶんためだったわ」とりみだしたような口調 見た。そして、目をしばたいた。それから目を見ひらき、頭をふり「ええ。 で、まるで心の一部たけでしゃべっているようだった。「あの人た 眉をしかめながら生気をとりもどした。 とまどいながら、わたしは彼女の頭をのそきこんだ。とても奇妙ち二人の人生を読んだの。カメンツは、自分で言ったとおり、コン だった。感情が霧となってうずまいており、名づけることすらためビューターのプログラマーだった。けれど、とても優秀な人間とい うわけではなかったの。みにくい小さな人格の、みにくい小さな男 らわれるようないくつもの感情が層厚くないま・せになってうごめい

6. SFマガジン 1976年9月号

『まあ、・フ』 はいた。彼女の大好きな詩の一節の情景だった。わたしは一人ぼっ きみはどこにいるんだ。 ち、永遠に一人で、それがわかっていた。自然の法則だった。わた しが、宇宙で唯一の実在物で、寒く、空腹で、ふるえていた。黒い 『わたしはーーーどこにでもいる。だけど、ほとんどは洞窟のなか。 影がわたしにおおいかぶさったが、それは無情な、逃れられないも準備ができたの。ほかの人たちよりもう心がひらかれている。〈集 のだった。呼びかけようにもだれもおらず、たよるべき者もいなけ会〉も〈参加〉も抜きよ。〈能力〉で分かちあいに簡単にはいれ れば、わたしの叫びを聞く者もいないのだった。だれもいたことが た。受けいれられたの』 ない。これからも、だれもいないのだ。 〈最後の結合〉にか。 そのとき、ライアがもどってきた。 『そうよ』 星のない空から、ただよいおりてきた。青ざめて、か・ほそく、も ライア、なんてことを。 ろい様子で、わたしとならんで平原に立った。髪をうしろにかきあ『ロ・フ、おねがい。わたしたちにくわわって。わたしに。幸せなこ げ、かがやく大きな瞳でわたしをみつめ、そしてほほえんだ。これとなのよ。永遠に、属しあい分かちあいそしていっしょにいるの。 が夢ではないことが、わたしにはわかっていた。どうしてか、彼女わたしは愛している、ロプ、大勢の人を愛している。みんな、これ がわたしのそばにいる。話をした。 まで知ってきた人たちよりよい人々よ。彼らはわたしを知ってくれ 『こんにちは、ロプ』 る、わたしのすべてを。そして、愛してくれている。それが永遠に ライアだね。ゃあ。きみはどこにいるんだ ? わたしをみすててつづくの。わたしも。わたしたちみんなも。〈結合〉も。わたしは しまって。 わたし、でも、彼らでもある。彼らがわたしでもある。〈参加者〉、 『ごめんなさい。それ以外になかったの。わかってくれるでしょ 心を読むこと、ひらかれたわたし、そして毎晩よびかけてくれる う、ロ・フ。わかってくれなくては。わたしはこれ以上ここにいたく 〈結合〉。だって、わたしを愛してくれたから。ロ・フ、くわわって。 なかった。この、おそろしい場所には、もう。いるはずだった。人くわわってちょうだい。あなたを愛している』 間は、いつもここにいるわ、ロ・フ。ほんのつかのまだけれど』 〈結合〉だって。グリーシュカのことだ。ライア、愛している。も 手を触れ、声を聞くのか。 どってきてくれ。グリーシュカはまだ、きみを吸収することはでき 『そうよ。それからまた、暗黒と沈黙に落ちいる。そして、暗黒の ない。どこにいるのか、おしえてくれ。そこに行くから。 平原に』 『そうよ、わたしのところに来てちょうだい。どこでもいいの、ロ ぎみは、二つの詩をいっしょにしている。だが、それはいし 。き・フ。グリーシュカは一つ、洞窟は丘の下で全部いっしょにむすばれ みのほうがそれにはくわしいのだから。だが、何か落としていやしているのよ。小さなグリーシュカは〈結合〉の一部分なの。わたし ないか。前段のほうの部分だ。〈おお、愛よ、真摯な気持をもち : : : 〉のところに来て。わたしといっしょになってちょうだい。前と同じ 6 9

7. SFマガジン 1976年9月号

改宗者が、〈結合崇拝〉にくわわっています。もうすでに数十人れよりも長くここの司政官をつとめました。彼は人々に愛され、出 ていったときには、たくさんの友人がしたがいました。今や改宗者 が、〈参加〉しました。まだ一人も完全な〈結合〉をした者はない けれど、それも時間だけの問題です」椅子にすわり、グアリイに目の率はウナギの・ほりです」 ーセントまではいきませんが、上昇中です」ヴァールカレ をやった。わたしたちもグアリイを見た。 「たいした割合ではないと考えるかもしれません のっぽで金髪の副官が、話をはじめた。「最初の改宗は、七年ほンギが言った。 シが、それのもつ意味を思いだしてください。わたしの植民地の人口 どまえにおこりました。わたしがここに来るより一年ぐらい前、 = キー惑星が発見され植民地が建設されてから、二年半のちのことの一バーセントが、とても不愉快な自殺方法を選択しているので です。マグリイという名の男でした。超能力心理学者で、シ = キーす」 ライアは、視線をグアリイにうっし、またヴァールカレンギを見 人と身近に接触していました。二年ほどです。それから、〇八年に た。「なぜこの事件を報告しなかったのですか」 一人、翌年にも一人。それ以来参加の率は上昇するいつぼうです。 そして大物が一人出ました。フィル・ガスターフソンです」 「報告すべきだったのでしよう」ヴァールカレンギが言った。「だ が、ガスターフソンのあとを継いだスチュアートは、スキャンダル ライアがまばたきした。「あの惑星司政官ですか。 「その人ですーグアリイが言った。「司政官は何人もかわりましをひじようにおそれました。人類が異星の宗教に改宗することは法 た。ガスターフソンは、ロックウッドが耐えられなくなったあと赴律で禁じられておらず、だから問題にすることはないと、スチ、ア ートはみなしたのです。そして事務的に改宗者の数を報告し、上官 任してきたのです。体格のいい、無愛想な老人で、みんなに好かれ ました。前任地で妻子に死なれたのですが、そぶりにもそんなことのだれも、相互関係など考えわすらうことなく、その人々の改宗し は思わせませんでした。いつも元気で、快活だったのです。それたのがどんな宗教であるかなど、思いだしもしなかったのです」 わたしはグラスをあけ、下においた。「つづけてください」ヴァ が、シュキーの宗教に興味をもち、シュキー人と話をしはじめまし ールカレンギに一一 = ロった。 た。マグリイや他の改宗者たちとも話したのです。グリーシュカを 「わたしは、これを問題にしなければならないと考えます」彼は言 見にまで行きました。そのあとしばらくはとても動揺しましたが、 った。「まきこまれているのがたとえどんなに小人数であろうと、 けつきよくはそれものりこえ、研究をつづけました。わたしもいっ しょに研究したけれど、彼が何を思っているのかはまったくつかめグリーシ力が自分をほろぼすのに人間が甘んじると考えるだけで なかったのです。一年ちょっとで、彼は改宗しました。いまや〈参も、わたしはおそろしい。着任してから、心理学者の研究チームを 加者〉になっています。そんな短期間でうけいれられた者はほかに編成しましたが、彼らには解明できそうもない。〈能力者〉が必要 はいません。シ、キータウンで聞いた噂では、早くも〈最後の結でした。あなたがた二人に、みんながなぜ改宗するのかをみつけて 9 合〉をゆるされさえするだろうということです。それに、ほかのだほしい。そうすれば、やっと対策がたてられるのです」

8. SFマガジン 1976年9月号

ため息をついた。わたしは彼女の絶望と、あふれてくる孤独感とた、いわれのないものに思われた。橋をかけることができた、と思 を読んだ。どうしたらいいのか、わからなかった。「泣きたいのなった。 ライアとわたしとのあいだに。たとえそれがなんであっ ら、泣いていい」わたしは、むなしく言った。「ときには、泣くこたにせよ、わたしたちはそれを処理することができた。そして今日 とも助けになる。そうだ。わたしも、自分のときにはおもいきり泣は、同じように簡単に、グリーシュカを処理しよう。二人いっしょ いたものだ」 泣かなかった。目をあげ、すこし笑顔を見せた。「泣かないわ」 部屋にもどると、ライアは行ってしまっていた。 と言った。「泣くことはできない。けっして泣かないことを、ディ 「シュキーンタウンの中心部で、エアカーを発見しました」ヴァー ノにおそわったから。涙ではなにも解決されないと、彼は言った ルカレンギが言っていた。冷静、適格で、人を安心させる態度だっ わ」 た。彼の声が、ことばなしでも、なにも心配することはないと言っ 悲しい哲学だ。たしかに、涙では何事も解決されないかもしれなていた。「部下の者たちを、捜索に出しました。だが、シュキーン いが、涙をながすことは、人間であることの一部だ。そう言いたかタウンは広い町た。どこに行ったのか、あなたには当てはありませ ったが、ただ彼女のほうに笑顔だけを向けた。 んか」 ほほえみかえし、頭をそらせた。「あなたは、泣くのね」とっぜ「ありません」・ほんやりとした声で言った。「ほんとにわからない ん、奇妙にもよろこんだ口調で言った。「とてもおかしい。ディノ のです。たぶん、もっとたくさんの〈参加者〉に会いにかもしれま の口からは、まず聞けないことばだわ。ありがとう、ロ・フ。ありがせん。彼女は〈参加者〉たちにーーその、とりつかれている気味が とう」 ある。わたしにはわからない」 そして口 1 リイは立ちあがり、期待をこめて目をあげた。彼女が 「わたしたちには、強力な警察組織がある。彼女はみつかるでしょ 何を期待しているかを読むことができた。だからわたしは彼女を抱う。それには確信がある。ただ、すこしは時間がかかるだろう。あ きよせて、キスし、彼女はからだをおもいきりわたしに押しつけてなたがた二人は、喧嘩をしましたか」 きた。そのあいだじゅうずっと、わたしはライアのことを思いつづ 「ええ。いや、喧嘩のようなものだが、本気の喧嘩ではない。奇妙 けており、彼女は気にしないだろう、わたしのことを誇りに思ってなものでした」 いるのだ、理解してくれるだろうと、自分に言いきかせていた。 「わかりました」ヴァールカレンギは言ったが、わかってはいなか それよりあと、わたしは一人で事務室にのこり、夜の明けそめるった。「昨夜、あなたが一人でここにの・ほってきたと、ローリイが のをみつめた。心は乾いていたが、ある意味では充足していた。地言っていた」 平線からゆっくりと姿をあらわす光が前面にたちこめる影を追いは 「そうです。考える必要があったのです」 らうと、夜にはあれほどにおびやかされた恐怖感がみな、ばかげ「けっこう」ヴァールカレンギが言った。「そこで、ライアも目ざ

9. SFマガジン 1976年9月号

いうべきものだった。巡礼はいつの日にも、この丘の都にあふれて それから酒場に行った。ここでまた飲み、土地の芸能を見たが、 いるが、〈集会〉は〈参加者〉になろうとする人たちがじゅうぶん 期待していた以上のできだった。 なたけの人数の・ほってくる、年に三、四回の機会にだけ、ひらかれ そこを出ると外はまっ暗で、もうそろそろおひらきなのだろうと 思った。ヴァールカレンギがわたしたちをおどろかせた。車にもど ェアカーはほとんど音もさせすにこうこうと灯のともる植民都市 ると、彼は制御盤の下に手をやり、脱酔薬の箱をとりだしてみんな こ′・よっこ。 を疾走したが、大きな噴水は十二色にかがやき、美しいアーチのか たちをつくって、液体の炎のようにながれていた。ほかにもいくっ 「いや」わたしが言った。「あなたは運転しなければならないが、 わたしが飲むことはないでしよう。わたしはここでなんとかおきてかのエアカーが飛んでおり、またそこここで、広い遊歩道をぶらっ く歩行者たちの上をぬけた。しかしほとんどの人々は家のなかにこ いますー 「シ = キ 1 文化の本物の行事を見につれていこうと思っているのでもり、とおりすぎる多くの家々の窓から、光と音楽とがこ・ほれてい す」ヴァールカレンギが言った。「ばかなことを口ばしったり、現た。 それから、とっぜん街の様相が一変した。地面は坂になってうね 地人に向かって吐いたりしてほしくない。薬を飲んでください」 りはじめ、前に後に丘がもりあがり、そして灯火は見えなくなっ わたしは薬を飲み、頭のなかの騒音がおさまりはじめた。ヴァー ルカレンギはエアカーをもう離陸させていた。わたしがうしろにもた。眼下で、遊歩道は砕石とほこりの暗い道へとかわり、シキー のものに似せた流行のガラスと金属でできたドームは消えて、その たれて、腕をライアにまわすと、彼女は頭をわたしの肩にもたせか 原型が姿を見せた。シュキー人の都市は人類の街よりも静かで、ほ けた。「どこに行くんですか」 「シ = キーンタウン」振りかえらすにこたえた。「彼らの大殿堂でとんどの家は暗くしずまっていた。 それから前方に、とりわけて大きな塚があらわれたが、丘とよん す。今日は〈集会〉がひらかれるので、あなたがよろこぶだろうと でもおかしくないほどのもので、大きなアーチ型の扉と、切れ目の 思ったのですー ような一連の窓がついていた。ここでは灯がもれており、ざわめき 「もちろん、シュキー語でおこなわれるんですが , とローリイが言 が聞こえ、そして外に出ているシュキー人がいた。 った。「ディノが通訳してくれます。それにわたしもすこしはわか とっぜん気がついたのだが、わたしはこれでほ・ほ丸一日この惑星 りますから、彼が聞きのがしたところはおぎなってあげます」 ライアは興奮の様子だった。もちろん〈集会〉については読んだ上にいるが、シュキー人を目にしたのは、今が最初なのだった。夜 ェアカーの窓ごしのことだから、それほどはっきりではない ことがあるが、まさかシュキー到着の第一日目に見に行けるとは思 いちばん高い 3 ってもみなかった。〈集会〉は宗教行事の一つで、〈参加者〉の列が、とにかく彼らを見たのだ。背は人間より低く 目が大きく、腕が長い。上から見て 前後だった にくわわることがゆるされようとする巡礼たちの、集団告解とでも者で五フィート

10. SFマガジン 1976年9月号

「食べなさい」さっきのシ = キー人が言った。地面においた籠に手た」いつもの気やすい調子にもどっていた。〈参加者〉の心を読ん をのばし、湯気をたてているミートロールを二つつかみだした。一でうけた後遺症は、消えうせているようだった。 「な・せなんだ」大声で一人言が言った。「彼は死のうとしている。 つをわたし、一つをライアの手にのせた。 それなのになぜ幸せなのだ ? 」 ためらってそれに目をやった。「ありがとう」わたしは言った。 「こまかいところまで分析的に考えてい ライアは肩をすくめた。 あいているほうの手でライアを押し、いっしょにたちさった。歩い るわけではなかったわ、残念ながら」 ていくわたしたちに歯をむきだしてわらいかけ、通りを半分も行か 手にのこった脂をとろうと、わたしは指をなめた。交差点に出る ないうちに、また鐘をうちならしはじめた。 まだミートロールをも 0 たままで、その熱い皮のために指をやけと、さまざまな方向からシ = キー人が急ぎ足で横をとおりぬけてお り、また別の鐘の音が風にのって聞こえてきた。「あっちにも〈参 どしそうだった。「食べなければいけないだろうか」ライアにきい 加者〉がいる」わたしは言った。「見に行ってみようか」 「行ってなにがわかるの ? まだ知らないことがわかるかしら。人 ライアは自分の分にかじりついた。「なぜ食べられないの。きの 間の〈参加者〉をみつけなければしかたがないでしよう」 うの晩レストランで食べたのと同しものじゃない。それにもしこの 土地の食べものが毒なら、ヴ , ールカレンギが注意してくれたはず「この一団には、一人いるかもしれない」 ライアの視線にたじろいだ。「どれだけの確率があるわけ ? 」 「引き なるほどと思い、わたしは歩きながらミートールを口にも 0 て「わか 0 た。みとめた。もう午後も遅い時間にな 0 ていた。 かえしたほうがいいかもしれない。あしたは、もっと早く出かけて ゆき、食べた。とても熱く、辛くて、昨晩味わったものとは似ても こよう。それに、たぶんディノがタ食をいっしょにしようと思って 、くールドア産のオレ 似つかなかった。きのうのは黄金色で、薄くノ いるだろうし」 ンジ香辛料でおだやかな味にされていた。シュキー人がくれたほう のは、ばりばりで、中味の肉は脂をしたたらし、ロのなかをやけど させた。けれど味はよく、それに空腹だ「たから、そう長くはもた今回は、ヴァールカレンギの事務室に、家具をいくつかもちこん での夕食だった。こんどわかったのだが、彼の居室はすぐ下の階だ よ、つこ 0 ノ、カ守ー った。しかし、〈塔〉からの雄大な展望を楽しませようと、上の階 「あの小男の心を読んで、なにかわからなかったかい」熱い で客をもてなすのだった。 ロ 1 ルでロをいつばいにしたまま、ライアにたずねた。 ライアは、ロのなかのものを飲みこんでから、うなずいた。「わ全部で五人、つまり、わたしとライア、ヴァールカレンギに 0 ー リイ、プラス、グアリイだ。ロ 1 リイが、ヴァールカレンギ・コッ 5 かったわ。あの人は、ほかの三人よりもっと幸せだった。いちばん ク長の監督のもと、料理した。古き地球の種牛からシキー惑星で の年寄りだったわ。〈最後の結合〉が近いので、浮き浮きしてい こ 0