クラウン - みる会図書館


検索対象: 剣刻の銀乙女 1 (一迅社文庫)
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1. 剣刻の銀乙女 1 (一迅社文庫)

たヒースには、今さら反応できない。 リに、どうでも良し ヒースは、クラウンを見てはいなかった。 「ーーぶっ飛べ , 振りかぶった《シュタインボック》を、ヒースは自分の足下目がけて打ち下ろした。 『なっ むくろ 地面と衝突し、行き場を失った《剣刻》の衝撃は、ところかまわず吹き荒れる。骸の群れが 有象無象に吹き飛ばされていく。 すぐ後ろに迫ったクラウンは、避けよ、つもなかった。 吹き荒れる魔力と土砂岩石の嵐に巻き込まれ、形のない道化師はまたたく間に蒸発した。 使い方かわからないものが、当たるわけない。 そんなことは、ヒースにもわかっていたのだ。 ただ、ルチルもエステルも《剣刻》の力はずいぶん広範囲に放たれていた。ヒ 1 スのそれも 女きっとそうだろうと信じ、絶対に巻き込める場所に撃ち込んだのだ。 乙 銀 挑発に乗ってくれて、助かった。 の げつこう 刻 激昂すれば、クラウンも自分の手でいたぶりに来るだろうと踏み、ヒースは挑発をかけた。 剣 ヒースを見下しているがゆえに、クラウンはそれに乗ってくれた。 しようげき

2. 剣刻の銀乙女 1 (一迅社文庫)

その安つほい挑発は、この上なくクラウンの神経を逆撫でしたらしかった。 道化師を自称するクラウンだ。その言動には少なからず誇りを持っている。 それが、自分が見下している男から鼻で笑われたのだ。頭に来ないわけがない。 『残念でございますなあ。あなたさまはわたくしめにとって価値のあるお方ではございませぬ ゆえ、楽に死んでいただくつもりでしたが、気が変わりました』 ね それから、ゾッとするほどの悪意のこもった目で睨めつける。 こんがん 『死なせてくれと懇願されても殺してはやりませぬ。そのつもりでのたうって苦しまれよ ! 』 その言葉と同時に、ヒースは《シュタインポック》を振りかぶっていた。 つらぬ 「貫けーー《シュタインポック》 ! 」 ヒースは見たのだ。 けんこく ルチルが《剣刻》で魔術の斬撃を飛ばすのを。そしてエステルの翼も刻魔の天敵的な力を秘 めていた。 ヒースの《シュタインボック》にも、そんな力があるはずなのだ。その力を頼れば、この形 のないクラウンでも倒すことができるはずだ。 みなぎ 槍が輝き、カが漲るが 『たわけでございますなあ。それの力は、わたくしめの方が熟知しておりますぞ』 そう言ったクラウンは、不気味に宙を舞い、ヒースの背後を取っていた。大きく振りかぶつ さかな

3. 剣刻の銀乙女 1 (一迅社文庫)

ヒースは一度大きく深呼吸をした。そしてハッキリとした口調で、こう問い力した 「あんたは、なんだってそんなにエステルを怖がってるんだ ? 」 学園でエステルを撃ったのは、恐らくクラウンだ。そして彼女が罪禍であることを告げたの も、この男だったはずだ。 ギャレットを死なせたときや、ヒースに大男をけしかけたときと比べて、ずいぶんやり方が こわだか 直接的だ。先ほどに至っては、すぐにバレるとわかっていなから声高に叫んでいた。 おび ヒースには、それが法えているように見えた。クラウンは困ったようにため息を漏らす。 『これは困りましたな。なにゆえ《剣刻》が凡なるあなたさまを選んだのかと思えば、存外に うが 穿ったことを仰る』 「 : : : 答えろよ」 エステルは今も怪物を止めるため、《剣刻》を封印しようとしている。ルチルもそんなエス テルを守るため戦っている。 ヒースには力も技術も知恵もない。そんな自分が、エステルやルチルたちの役に立てるかも 女しれないのだ。クラウンはクックと笑い声を漏らした。 銀『よろしい。お答えしましよう。あなたさまの仰る通り、わたくしめはエステル・ノルン・シュ 刻 テルンを恐れております。、なぜならーー』 剣 クラウンはヒースの顔を覗き込みながら、こ、つ言った。 さいか

4. 剣刻の銀乙女 1 (一迅社文庫)

意図が読めない言葉に、クラウンは興味深そうな声を漏らす。関心を抱かせたことを確かめ て、ヒースは問いかけた。 「クラウン、あんたはその名の通り、道化師だ。そうだよな ? 『左様でございますな』 「俺はあんたが言うように凡人だし、取り柄らしい取り柄もない。だけど、エステルは俺を必 要だって言ってくれた。人を笑わせられるって言ってくれたんだ」 わからないとい、つよ、つに、クラウンは首を傾げた。 そして、ヒースはこう告げた。 「あんたはきっと俺より強いんだろうけど、あんたはつまならい。あんたの芸は、誰も見たがっ てないよ」 それは、ただの安つほい挑発だった。 女正論らしく主張したところで、ヒースにはなんの力も実績もない。くだらないと一笑されれ 乙 銀ばなにも言い返せない、その程度の罵声だ。 刻 そのはずなのだが 剣 『 : : : ふむ。これが、俗に一言う、ムカックというものでございますか』 かし

5. 剣刻の銀乙女 1 (一迅社文庫)

繝『ひひっ、これはこれは、なんとも図星でございます。よろしい。ではお相手つかまつりましょ 、つぞ ! 』 むくろ その宣言とともに、その場にあった騎士や兵の骸が起き上がる。エステルの羽根も、今は怪 物に集中しているのだ。ここに吹いてはいない。 死体を操るクラウンにとって、ここはいくらでも手駒を用意できる陣地なのだ。 それでも、ヒースは無策で挑んでいるわけではなかった。 俺が弱いのと、勝ち目がないのは別の話だ。 クラウンはヒースを格下と見ている。もちろんそれは事実だが、勝負にもならないと、完全 に見下してしまっている。 力なんて、案外頼りにならないもんだよ そう言ったのは、次期魔王たる罪禍だ。 けん そそのか クラウンとて、それは知っているはずだ。弱くて狡猾な人間を唆し、力ある騎士から《剣 こく 刻》を奪わせたのだから。 行くぞー ヒースの決意に応えるように、手の中で《シュタインボック》が熱を帯びた。 「ひとつ、言っておきたいことがある」 『ほ、つ : さいか こうかっ

6. 剣刻の銀乙女 1 (一迅社文庫)

220 ルチルの表情に苦いものが浮かんだ。 おうか さいか 「エステルが魔王級皇禍ーー魔神に次ぐ力を持っ罪禍のひとりだという情報があったの。もっ とも、それはクラウンからもたらされたのだけれど」 クラウンの言葉ーーーそのセリフに、ヒースは胸をなで下ろした。 「じゃあ、嘘だったってことだよな」 しいえ。残念ながら、あの男の情報だからこそ、信憑性は高いの」 「どうして ? 敵なんじゃないのか ? 」 うなず ルチルは頷く。 まど 「敵だわ。そして真に人を惑わすのは、虚実ではなく事実よ。そして事実は必ずしも真実では ない。クラウンは人を惑わすために、事実しか口にしないー 嘘だとわかっていれば、耳を貸さなければ良いだけだ。 しかしそれが事実だとしたなら、惑わされない者など存在しないだろう。 言葉を失うヒースに、ルチルは「それに」と手の平に宝石のようなものを乗せた。 「あなたには、これがどう見える ? 」 「宝石 : : : か ? 」 かし ヒースが首を傾げると、マナが「あっ」と声を上げた。 オーメン 「〈占刻〉の原料 : : : 魔力の結晶 : : : ですよね ? 」

7. 剣刻の銀乙女 1 (一迅社文庫)

なるほど、とヒースは頷いた。 おうか それに加え、エステルは本来魔王級の皇禍だ。交戦意志は見せなくとも、怪物は本能的にそ の力を感じたのかもしれない ルチルの手には、彼女の身の丈よりも巨大な剣が握られていた。その剣に呼応するように、 ヒースの金色の槍が小さく震える。そこから、剣が《剣刻》のものだと、なんとなくわかった。 そのときだった。 『ひひっ、これはなんとも愉央なことになりましてございますな』 目の前に飛び込んで来たのは、クラウンだった。 「クラウン ! 」 ルチルか吼、んると、クラウンはさもおかしそ、つに笑、つ。 『立ち向かわれるとおっしやるか。ですがそれは難しゅうございますぞ、ルチルさま。今のあ なたさまには、身を守る力すら残っておりますまい』 そ・つはく 女チラリと目を向けると、すでにルチルの顔は蒼白で、呼吸も荒い。剣を握ってはいるが、そ 銀の手も小さく震えていた。加えて、今は虎の子の〈円卓の騎士〉を手放してしまっている。 そんなルチルの前に、ヒースは割り込んだ。 「君はエステルを守ってやって。俺じゃあ、手も届かないから , うなず

8. 剣刻の銀乙女 1 (一迅社文庫)

たところを蚤物に襲われたのだ。 エステルの登場で硬直していた戦場が、再び血で染め上げられる。 蚤物に立ち向かおうとした兵が無残に踏み砕かれ、ルチルの指示を信じてクラウンへと迫っ - プ、ま た騎士が、横合いから突き出された刻魔の爪に貫かれる。クラウンの言葉を真に受け、エステ ルを狙う者は少なかったが、うちいくつかは弓や槍を投げ、エステルが迷惑そうに回避する。 戦場の指揮は、完全に崩壊していた。 そして、その全ての行動に迷いがあり、怪物の包囲が見る見る崩されていく。 「狙いはこちらか : うめ ルチルが呻く。 クラウンは、本気でここで騙し合いをするつもりはなかったのだ。ただ戦場を混乱させ、包 囲を崩すことが目的だったのだ。 ま / 、り 再生した怪物が再び前進を始め、そこから離した刻魔が数を増し、困惑し統率の乱れた騎 士や兵が次々と倒れていく。 そして突き進む先には、エステルの姿があった。 巨大な爪のひとつがエステル目がけて振り下ろされ、エステルはフワリと宙に逃げる。 しかし手に入れたばかりの翼をいきなり自在に扱えるはずもなく、先回りした爪に追いつめ られてしまう。 つらぬ

9. 剣刻の銀乙女 1 (一迅社文庫)

エステルは今も戦場を引っかき回している。ヒースは、その背中にすら追いつけなかった。 「大切な人なんだ。代わりに、君のことは俺が守るから」 ルチルは手の届く場所にいて、その敵も目の前にいる。 ヒースの槍が届く場所だ。 クラウンが盛大に噴き出した。 『これはおかしゅうございますなあ。あなたさまのお力で、ルチルさまをお守りするとおっしゃ ばんゅうはな るか : よろしいー なればこのわたくしめも道化師として、あなたさまの蛮勇に華をお添 えしましよ、つぞ ! 』 そう言って、クラウンの顔から表情が抜け落ちた。 みす 意志の光を失った、暗い瞳がヒースを見据える。 「る、ちる : その声に、ルチルがビクリと身を震わせた。 「ギャレットさん・ : ・ : 」 「あれが ? 」 どうやら、ギャレットの人格を呼び起こしたらしい ギャレット兄ちゃん 俺に、本物の円卓の騎士と戦えっていうのか :

10. 剣刻の銀乙女 1 (一迅社文庫)

それからクラウンは面白いものを見つけたように、あるいは思いついたかのように、ヒース の全身を舐めるように眺める。 「そうでございますな。今宵の演目、わたくしめも実に実に楽しませていただきました。おま ほうしゅう けにこのような姿までも見られてしまいました。その報酬にひとつだけ、あなたさまの問いに なんなりとお答えするというのはいかがでしよう ? 』 ヒースは、唾を飲み込んだ。 ひとつだけ、あなたさまの問いになんなりとお答えする そう言ったということは、本当になんでもひとつは答えるのだろう。 けんこく 《剣刻》にまつわる事件は、全てこの男の仕業だとも呼べるものだ。全ての黒幕が、なんで し、力はい もひとつだけ答えると言っているのだ。無駄に消費するわけには ) 、 少し悩んでから、ヒースは確かめるように口を開いた。 「あんたが王城に現れたのは半年前だって聞いた」 『左様でございますな』 「エステルが言ってた。〈門〉が開いたのも半年前だって」 「ほう : クラウンが警戒するように片目を細めた。その反応から、このふたつが無関係でないと確信 を持っことができた。