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検索対象: 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)
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1. 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)

286 めぐ 。再びの違和感にアセトは街を見ながら頭を巡らせる。 夜明けに鳴らすものではない : すみ その視界の隅に、地に顔をこすりつけて猿ぐっわを外したエンガディナの姿が映る。 「モルト殿サシャ殿、逃げてリわたしはもういいのですリこれで、もう : エンガディナが口を大きく開け、そして舌を出す。噛み切る気だ。 もんぜっ しかし、そうはさせなかった。アセトは彼女の腹を激しく蹴りつけ、悶絶させた。 「てめえ俺の : : : 俺女に何をする " " 」 どせいとどろ さきまど ながえとうつえ つくば 先程までい蹲っていたモルトが長柄刀を杖にして立ち上がり、怒声を轟かせる。 何だ、あの男は。一度か二度抱いたから自分のものだとでも言いたいのか。子供のよう あき どくせんよく な独占欲か。アセトは呆れて思わず笑ってしまった。 「何をしたかわかってんのか、てめえ : : : 訃反だぞリ」 「何を言ってる ? この女は街の人間ではない。何より、ここは協約適用外領域だぞ」 「いいや、ディナは街の住民だ。 : : : 俺の女だからな " 】」 しゅんかん そう言ってモルトは左手を掲げた。その瞬間、反射的にアセトも目を見開く。 かがや 朝日を受けて輝いていた。 彼の薬指が、 だんな たび こうけいしゃ ヌストルテ家の後継者が生まれる度に造られ、その全てが国宝、そして旦那とすべき相 手のみ指に填めることを許されし指輪が、今、何でも屋の薬指にあるのだ。 どの か すべ

2. 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)

住民達の中で本腰を入れて動き出している者達がいる、ということだった。 ごうもん 「街から出た以上、協約は適応されない。俺の部下が拷問にかけている。情報は出る いかが きゅうえん 「どうせロテ国及びオードビー国への救援でしよう : : : 如何なさるおつもりで ? 遅くと そくおう も五日もすればロテ国に救援依頼が届き、それから三日とかからず即応の部隊がこちらに はけん 派遣されるはず、それまでに目的を果たした上で脱出できますか ? 「それをうまくやるのがお前達の仕事だろう、ロンシュータン。メチル大隊商組合、伝説 キャラバン となりし第六隊商の水先案内人よ。その力を見せてみろ」 : しかしこうなった以上、もはや我々は責 「元、です。アセト殿、今はもう存在しない : 任が持てない、当初の予定からあまりに大きく逸脱してしまっている」 いまさら . なに、作戦を今更ど、つしろとい、つ 「仕事だ、ロンシュータン。逃げることは許さん。 ほうしゅ・つ どわけではない。お前の部下を街に放って目標を探し出せ。それで約束の報酬は払ってやる。 : お前があくまでもこの街にこだわったのだ、最後まで責任を持て」 都「 : : : 後ほどこの状況に至った経を記した書類をお持ちしますので、それにサインを , : 明日からは丘 ( 達にもっと強く出るよ、つにやらせる。 英「構わん。責任はこちらが持つ。 いはん それで向こうが協約に違反しても良し、しなくとも結果として見つけられる」 ゆが ロンシュータンは顔を歪め、深く頭を下げると、その体勢のまま幕舎を出て行った。 およ ほんごし いつだっ おそ

3. 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)

かんべき イベントのシチュエーションはもちろん客のどんなオーダーにも合わせて完璧な作品を 作り上げることで有名なリキュール唯一のケーキ屋。 とどろ 街が封鎖されたと同時に価格を三倍に跳ね上げたことで悪名を轟かせた宿屋。 よめあせのうしゆく 美女の香りとして自分の嫁の汗を濃縮したおぞましい商品を売り出したことで一度潰れ こうすい かかった愛妻家の営む香水店。 ・ : 等々、よくよく考えてみると割かしろくでもない店々を彼女達は覗いて回る。そし ろてんしようなが て、これらに加えて雑多なものが並ぶ露天商を眺め、たまに買い喰いまでしたりしたこと たどっ けん で、安美亭に辿り着いたのは結局夕暮れ時であった。朝食兼昼飯のはずが、夕飯である。 こづか ほど ふく ハイト代とお小遣いを持っているディナとリツツは腹も程良く膨れて楽しげではあった が、二人と違って手持ちがないモルトからするとかなりしんどい付き添いである。 どしかも行く先々で「伝記本、予約したぜ ! 」「次はいっ脱ぐんだい ? 、と異常な速さで うわさ じんじよう 広がった噂の相手をさせられるので、モルトの心のすり減り方も尋常ではなかった。 都「 : : : 何でもう本の予約始まってんだよ : : : 今朝の出来事だぞ」 きちじつみよう 英思い立ったら吉日。妙な行動力があるのもまた、リキュール住民の特性である。 とびら そんなこんなでようやく辿り着いた安美亭の扉を開けば、店内はすでに多くの客の姿。 食事のため、酒のため、というより封鎖されてすることがない、行き場がない、そんな

4. 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)

「いや、何だ貴様はって言われても : : : その、と、とりあえず服を : らたい んまあ ! と、近隣のおばちゃん達がモルトの裸体に見入る。顔見知りだからこその恥 おそ りようわき ずかしさがモルトを襲うのだが : : : 両脇をつかまれているので隠すに隠せない。 放せ、と力を込めるのだが、住民達の腕の力は強い。その上、兵はもちろん、野次馬達 にも聞こえるように彼らは声を張り上げ始めた。 モルトはアルコ・ホール三番街の何でも屋だ " " 彼はあえて武器を捨て、服を はなわざ 脱ぎ、無防備な状態で空からダイプするという離れ業をやってのけたリ これは非暴力・ 不服従という主張に他ならないリ そう、彼は協約を守りつつ、平和的に、かっ、こ こうぎ やばんきわ たた の野蛮極まる兵達に強力な抗議を叩き付けたのだリ モル , 「は田 5 、つ 0 あ、これャパイ流れだ、と。 むぼう ど リキールは強い漢が好きであり、無茶・無謀が大好きで、ノリがいい。その性格が カ きよう かんちが ヾ、 えいゅう 響して、勘違いや思い込みだけで誰かしらが英雄に祭り上げられる事件がたまにあるのだ 都か : : : まさに、今、それが自分の身に起ころうとしているのをモルトはひしひしと感じた。 雄 英「いや、あのな、みんな・ : : これは、その : : : 抗議っていうか、単にリツツに : なみだ リツツちゃんを助けるため : : : 幼い少女の涙を止めるためにモルトは自ら危険を ーー感動的だ " " 今、後世に語り継がれるべき英雄譚が生まれたのだ " " っ たん は

5. 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)

おそ 、は′、はっ ばくだん な内容であった。遅かれ早かれいっか必ず爆発する : : : そんな時限制の爆弾だ。 のうみつ いっしよくそくはっ モルトと兵達の間に緊張が走る。一触即発。その気配が濃密になった時、状況を察した らしいディナが自らモルトの背から出ようとするのだが : : : それをモルトは手で制した。 こぎ 槍をる兵士達の手に力が入った。モルトもまた、長柄刀を握る手に力を入れる。 そくおう 互いに即応できるよう、心と体に気合いを入れ、静かに、ゆっくりと、臭わすように覇 気を放ち合う。兵を下ろしていた馬が場の空気におののき、低く鳴いた。 何か面白そうなことやってるじゃねえか ! ついにロ火を切る奴が出たか ? びんかんとうそう 敏感に闘争の気配を感じ取ったらしい住民達が一人また一人と大通りに現れてくる。 みよう いつばんじん 殺し合いになりかねない状況を察した上で、堂々と物見に一般人達が現れ出すという妙 な事態に、兵士達は少しばかりたじろぎ出した。 ど「どうしたんだ、モルト。やるのか ? おい、なら、どうしてオレを誘わないんだよ」 少年のような声がモルトの背後から聞こえる。 すご 市静かな、落ち着いた声ではあったが、それ故に妙な凄みがある。振り返るまでもなく、 英その男は今にも爆発せんばかりの怒りを内に秘めているのがわかった。 こがら モルトの脇を抜け、兵士達に小柄な体が触れるほどに近づくのは : : : 若干一八歳ながら そうこうよろい 自警団団長のライである。今は軽装甲の鎧も着けておらず、私服だった。 たが わきぬ さそ じゃっかん やっ

6. 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)

むだ イベント お祭り好きで、強い漢が好きで、知よりカ、カより心、そして無駄に持ち合わせるノリ の良さと正義感 : : : そんな連中が取り囲む中で、悪党がナイフを突き付けて美女を泣かせ る : : : それがどれだけ自殺行為か。 たんけん 小男の背後の群衆、その幾人かはすでに護身用の短剣を抜き、中には仕事道具であろう おののこぎり カナヅチや斧、鋸、果ては注射器を手に謎の液体を打ちこまんと準備を始める者までいる。 くしゃ さらには串焼き屋さえも長い鉄串を指の間に挟んでおり、もはや調理器具が暗器にしか見 あらなわ えない。 とどめに、武器を持っていなかった者達は魔法のようにどこぞから荒縄を取り出 せんたん し、先端を輪にして頭上で振り回し出している始末である。 じごく モルトから見ると、小男の背後にはちょっとした地獄の軍勢が足並み揃えて鬨の声を待 っているようなおぞましい光景となっていた。 とちゅう あき 呆れてモルトが空を見上げようとすれば、途中、家々の上から観戦していた老人達が迷 さいがら 彩柄のマントを羽織り、気配なく弓を引ききっている姿が見えてしまう。 : : : 狩る気満々 である。最近ではほとんどいなくなったとされる魔獣猟師なのかもしれない これが軍属でもなければ自警団でもない、ただの民間人なのだからわけがわからない。 てがら もはや美女に危険はないだろう。あとは手柄が誰に行くかだけだ。住民達か、モルトか、 うやむや それとも小男が状況を察して平謝りして有耶無耶になるか : : : それらの三択だ。 なぞ はさ さんたく とき

7. 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)

リツツの奴め、的確に急所を攻めることを覚えやがって」 「・ : ・ : 目が赤いな : モルトの前ではいつも勝ち気で生意気だが、あれで実は病弱で、学校にも通えていない というのだから世の中は不思議だ。肌の白さこそ何となくそれを思わせるが : : : それにし たって朝、元気いつばいの男に跨がりながら目潰しを放つのは何かがおかしい 「 : : : 大人しく、仕事を探すか : : : 」 ふだんひかく 普段と比較するに、モルトが動き出すにはいささか早い時間帯だ。けれど、嵐が去って にぎ あふ から一夜を経た街はいつも通りに朝から賑やかで、大通りには人が溢れていた。 ろてん しようぞく いくつも並んだ露店や商店では旅装束の者達の出入りが特に激しい。これからロテ国か しゆったっ オードビー国へ出立しようという者達なのだろう。どちらの国へ向かうにも、これから数 たくま こうや 日間は何もない荒野が続く。この先食料を手にするには逞しく生きる野生動物を捕まえる か、バカな旅人を喰い物にしようと待ち受けている悪徳商人から買う以外にはなく、飲み 水ですら知識がないとまともには手に入らない。きちんとした備えが必要だった。 だれ モルトとすれ違う者達の顔は誰もがやる気に満ち満ちている。この街の住民であればこ どき れから稼ぎ時、旅人にとっては出立の時、子供は学びの時 : : : 活力があるのは当然だ。 ゃんわりと二日酔いで、ふらふらと不景気な顔をして歩く者はモルトだけである。 おとな ちょっと元気を注入するためにも、と、モルトは大通りに面した花屋を訪うことにした。 やっ つか

8. 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)

けん 「ああ、構わんさ。剣だけが武器なんじゃない。街を、そして誇りを守りたいとする、そ こぎ の心こそ俺達リキュール住民が持っ真の武器だリそれを撼りし時、誰もがかってこの地 えいゅう で戦った英雄と同じ姿になると言っても過言ではない " " 」 ぶじよく 「モルト、お前が今一番リキュールを侮辱していると思うぞリ」 ふだん きた 「おいサシャ、失礼だな。そりや軍属でもないし、普段から鍛えていない人も多いが、み んな本気だぞ。よく見ろ、あんなに誇らしげな男達が他にいるか。あんなに堂々と : : : 」 いらだ モルトはサシャに苛立ちを感じながら振り返り : : : そして、アセト達と同じ顔になった。 「堂々と : : : フリ、チン : : : だと : ぜんら モルトの視界に飛び込んできたのは六〇人あまりの、全裸の男達。 裸英雄モルトと共に、かってアルコ・ホールで服を脱ぎ捨て非暴力・不服従に身を捧げ おとこ はしゃ りんり た英傑、そして『漢祭り』の覇者であるピンガとグレーンという、力強くも倫理面に重大 すあし ゅうもう な欠陥を抱きし男達が、素足を大地に突き刺すが如き勇猛な歩みによって、吹きすさぶ粉 じん 塵の中を進み来ていた。 : ほろ酔い気分で。 おいグレーン、見ろよ。帝国の連中、ビビってやがるぜ。ーー・ああ、どいつもこい つも、弱そうだ。 自警団の連中が来る前に全員蹴散らしちまうか ! いいな。一 人、一〇人、ヤればいいたした はだか えいけっ けつかん ささ ふん

9. 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)

てはず むだ が気付く前に、裸英雄モルトとそのシンパをけしかける手筈だった。無駄に威圧感のある だれ けん 全裸のオッサン共が走ってきたら誰もがビビるだろう。混乱は必至。剣は抜かれ、流血は 確実だった。その犠牲でもって彼らには戦闘のロ火を切ってもらう予定だったのだ」 代わりにモルトとヌストルテ帝国の姫が出向くことで協約違反を起こさせる、と先 へんこうれんらく 程予定変更の連絡があったはずだが : : : 何故、彼らはそれでもなお、全裸で行ったのだ ? しゆみ 「知るか。趣味だろう。他には ? 本当に趣味かもしれない、とクリミオはちょっと思った。 せんとう ロ火は切られた、戦闘開始、というわけだが : 戦力差はどうなっている ? 酒屋とケーキ屋の独断でムリエルプルクラなるおぞましき酒を混入したことで、数十 こうそくおよ めがね おやじ 人が拘束及び衛生兵の元に運ばれたと眼鏡屋の親父から報告は入っているが : ・ れっせい ど「僕の予想ではもうしばらくすると、劣勢になりつつある状況を取り返そうと帝国軍は街 に火を放ち始めるだろう。 : だが、燃えはしない。こちらから何を一言、つでもなく、鐘に の みちばた 都起こされた住民はもちろん、居場所を失ってリキュールの道端をうろついている旅人連中 めぐ 英がすぐに見つけ出し、街中に張り巡らされた上下水道のありがたみを証明するだろう」 りよ、つほ . っ ばっぽん せんめつ 対症療法だな。ーー抜本的な解決 : : : 敵の殲滅にはならないのでは ? クリミオが書類を手に今のマドラーの言葉を補足する。 はだかえいゅう ひめ 0 0

10. 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)

真っ白な新雪を最初に踏みしめるかのような夢こそが、今日も仕事を頑張らせる活力を とら くれるのだ : : などと考えていると、モルトの耳は女性の悲鳴を捉えた。 ざっとう どせい 大通りの雑踏では声もろくに聞けぬほどの賑やかさだが、悲鳴や怒声を聞き逃している なおさら ようでは何でも屋はやっていけない。 ・ : それが女性のものとなれば尚更だ。 ひとご ごういん 声の出所は通りを一本挟んだ向こう側か。モルトはそう判断すると、人混みを半ば強引 ひとけ かたすみ に進み、大通りから外れる。そして、人気の少ない住宅街へと出ると : : : 路上の片隅に転 くしゃ がる喰い掛けの串焼きを見つけた。・ : 触れば、熱い。まだ近くだ。 「ほ、本当に今は持ち合わせがないのです ! ですが、後で必ずお支払いを : : : ! 」 「んなもん、信じられるわけねえだろ今だよ、せめて有り金全部出せよ ! 」 かく おど もう間違いない。聞こえてきた野太い怒声は完全に誰かを威嚇せんとする脅しのそれ。 ぐうはっ モルトはその声のした場所ーーー古い住居が並ぶ一角、家と家の壁によって偶発的に生ま きよかん うすぐらせまふくろこうじのぞ れた、薄暗く狭い袋小路を覗き込む。すると案の定、小男と二メートルほどもある巨漢、 しりもち そして : : : 袋小路の一番奥には、尻餅をついて震える若い女の姿があった。 うすよご 薄汚れた衣服からして金がなさそうなのが残念だが : : : 乱暴につかまれたのか、服が破 むなもと たんか れている胸元を見るに、体つきは悪くない。男が啖呵を切るには十分だろう。 1 て・つとう すきま そんな彼女の双瞳がモルトを見つけた。目と目が合う。長い前髪の隙間から覗く深い か ふる かべ