アセト - みる会図書館


検索対象: 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)
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1. 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)

だが、彼らはそうは思わなかったようだ。 四名のロープを羽織った男女がいつの間にかアセトを取り囲んでいた。 じようきよう おく アセトの部下達がかなり遅れてからその状況を察し、ロープの男女へ向かって剣を抜く。 アセトは手を上げ、部下に下がるよう指示を出した。 ロンシュータンせんけっ ンユの唇で、不気味な笑みを作る。 陰気な女は鮮血に似た鮮やかなルー ) もら じんし ていけっ 「街を包囲、そして議会との協約も締結、オードビー国に許しを貰った上で陣を敷いてい ると信用もさせられた : : : あとの仕事は捜し出すだけですよ、アセト大隊長殿」 お前の仕事はそれだけだ。そう言っているのだと、アセトは思った。 腹立たしい女だ、必ずどこかで鼻を明かしてやる : : : アセトはそう心の中で唱えるも、 大人しく頷いてみせた。 その心内も彼女は察しているのではないか、そんな疑いを抱きながら。 アルコ・ホールはもちろんのこと、リキュールの街全体は包囲の一報以降、どこもかし ちゅうけい さわ こも騒がしくなっていた。それもそのはずで、旅の中継地点であるリキュールの出入りが さが

2. 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)

飛び上がったサシャの目にも留まらぬ斬撃によって斬り飛ばされてしまう。 「行け、モルト ! 矢は私が受け持っ ! 」 ごとはじ 数人の兵が一斉にモルトへ向かうが、その全てが長柄刀で紙切れが如く弾き飛ばされた。 だれ にくはくさえぎ かか アセトへと肉薄。遮る者は、もはや誰もいなかった。 得物を掲げたモルトが、 ごくあっ アセトもまた剣を抜く。頭上から迫る極厚の刃を有した長柄刀。それを目にした瞬間、 これをまともには受けきれない アセトは察した。 力を逸らすしかない。アセトは頭上で剣を寝かせて受けの体勢を作るものの、同時に刃 けいしゃ に傾斜をつけて長柄刀の剣圧を少しでも逃がさんとした。 これは無理だ、と。 だが、わかった。剣に長柄刀が触れた瞬間に 剣か菓子のように、叩っ斬られた。 ひね アセトは身を捩って迫り来る刃をかわそうと試みたが、それでも右のショルダーアーマ くだ ーにわずかに触れた。装甲が、弾ける。そしてその衝撃だけで骨まで砕けたのがわかった。 くっぞこ たカ、かわせーーー追撃が来る。蹴り。モルトのやたらとゴッく、肉厚な靴底がアセトの よろい 腹部に打ち込まれた。鎧が砕け、全身におぞましいほどの衝撃が走り、足の裏から地面の じゅうりん ひしよう かんしよく 感触が消える。・ーー・飛翔感。そして、荒野の地面に落ちる衝撃がアセトを蹂躙した。 きはくつな 飛びかかった意識を気迫で繋ぎ止め、立ち上がろうと地に手をつくが、体は勝手に血反

3. 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)

きようふ の一割以上を損耗する事件が起こったことに、アセトは恐怖を禁じ得なかった。 ちんもく 嫌な沈黙が幕舎内に流れた時、新たな報告をするために兵が入って来る。 どの 「アセト大隊長殿、女です ! 女が一人、向かって来ます ! 」 どうよ・つ 忘れ物でも取りに来たのか ? 動揺しているのか、そんなありえないことを口にするも ひめ 「姫のようです , との言葉に、アセトは目を見張った。 幕舎を飛び出してみれば、未だ夜に支配される街からゆっくりゆっくり、地を踏みしめ るようにして歩んで来る女の姿がある。 まちが : 間違いない。彼女だ。かがり火に照らされる、その、この世のものとは思えぬ美し はな き緑の瞳はどれだけ離れていてもはっきりとわかる。 「エンガディナ・ヌストルテなのです ! 大隊長アセト・バクター、前へリ」 だいおんじよう どアセトも初めて聞くエンガディナの大音声だった。 うむ a か細いひ弱な少女の声しか出せないものとばかり思っていたが、今の声には有無を言わ 都せずに人を従わせる力が込められていた。 雄 英「小娘め、ここに来てヌストルテの血に目覚めたか。 ・ : おい、兵を誰も近づけるな。自 身の足で俺の前に来させろ」 出向いた方が格下だ。どちらが優位であるのかを示す必要があった。 だれ

4. 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)

その声に跳ね起きたアセトは、暗い幕舎の中で胸を掻きむしるようにして、床の上を転 がっている従者を見つけた。 まさか、愚かにも毒を盛ってきたか。酒ではなくケーキの方が本命だったのか 「丈たか ! おい、気を確かに持てリクソ、あのケーキに何か入 0 ていたのだな。誰 かこの者を : : : お ? 」 だ うるひとみ 抱き起こした時、従者の潤む瞳がアセトを見つめているのに気が付いた。 「そ、そうか、ようやく、わかった。この胸の苦しみは間違いない きれい 大隊長、本当はこんなに綺麗だったんですね。知らなかったな」 「 : : : は ? お、おい、よせ、何だ、貴様、な、何を : ・・・・何をする」 いっしょ 「今までずっと一緒だったんです。 : : : もっと一緒になっても : : いいじゃないですか」 ど「よ、よせ、あっ、お、お前 : ・・ : お前そういう趣味で : ・・ : あつああ、ああ しよ、つげ・き の 今までに感じたことのない衝撃と恐布に、アセトは腹の底から叫びを上げた。 そうらん 都周囲の幕舎でもくぐもったわめき声や騒乱の気配もあったが、今のアセトにはそれらを みじん 英気にしている余裕など、微塵もなかった。 よゅう しゆみ : これはク恋 - だ。

5. 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)

歩むだけで大きく揺れる程の胸を有し、息を呑むほどに柔らかな笑顔を見せる美しい女 だった。そのせいか、甘い物などほとんど好まないはずなのに、アセトは思わず彼女が差 し出していたケーキの皿を受け取ってしまった。 みよう 妙な街だ。初めて街に入った時もそう感じたが、今もまたそう思う。 酒を差し出すというのはわかる。女もわかる。しかしながら酒が飲めない者、または酒 を飲んではならない者のためにとケーキまで用意するなど、聞いたこともない 酒を飲む人間は甘味を苦手とし、飲めない人間は甘味を好む場合が多いので、もてなし かな としてはその両方を用意するというのは実に理に適ってはいるのだが : アセトは幕舎に入ると、報告書に目を通させていた従者にケーキをくれてやって、自分 とこっ は早めに床に就くことにした。 「やった ! オレ、甘い物には目がなくて。ありがとうございますー あか 「喰い終わったら幕舎の灯りを落としておけ」 まぶた アセトは横になって瞼を閉じる。寝ようとも思えばすぐに寝られるよう訓練を積んでい うす るためにあっという間に意識は薄れていくのだが : : : 深みに入る前に、呼び戻される。 だれ 誰かが自分を呼んでいる気がしたのだ。 「アセト大隊長、ああ、大隊長 : : : ああ、苦しい : : : 苦しいです : ・ やわ

6. 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)

めるだけでも悪くない。 くろかみ 長い黒髪を持ち、色白で細長い体をしている女 : : : そこだけ取ればクリミオもロンシュ ちが ータンもあまり差はないが、こうも印象が違うものか。 女の奥深さにアセトは思いを馳せた。 「しかしながらあの役立たずの水先案内人はどこに行ったのだ、ろくに仕事もせずに : ・と、お考えで ? 」 これで報酬を受け取ろうというのだから、恥知らずもいいところだ : いまさらおどろ アセトの背後からあの不気味な女の声が聞こえてきたが、今更驚きもしなかった。 「申し訳ないのですが、ちょっと急用ができてしまいまして、外しておりました」 「 : : : ほう ? 我が君でも見つけてきたのか ? 」 : ええ : : : ですが、それはこちらの話で、 しいものを見つけました、ええ、ええ : 「もっと ) さらに新たな急用ができてしまいまして : : : お暇をいただきたく アセトはようやく振り返ってロンシュータンの顔を見る。何とも楽しそうな笑みを不気 とちゅう 味に浮かべながら、手に書類とペンを持っていた。目を通せば今回の作戦について途中か コンサルタント ら作戦顧問の意見を無視しアセトの独断で行動を為した、とする証明書のようなものだ。 ていは / 、 せき また、払うと言っていた報酬の代わりに馬車と南の港に停泊している船団の一隻を先に帰 じゅだく むね 国するために好きに使わせて欲しいのでその受諾を願う旨があった。 いとま

7. 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)

夜明けの太陽が顔を出す荒野の中に、ありえないものが存在している。 なぜ 「な、何故 : : : 幕舎の東側に、見張り台が建っている : 街の北東・南東に建っている見張り台は、東の国境線の外にある幕舎から見れば当然、 北西・南西に建っていたはず。 何よりエンガディナやモルトが現れた時に、念のためにと位置を確認し、そこから十分 にはみ出たと確認したからこそ、何の不安もなくいたぶったのだ。 と・つ では、今アセトが見ている東側にある二本の塔は何だ ? 自分達の幕舎が知らぬ間に街 側に移動していたのか ? 疑問を解くため、アセトが西側・ーー街へと顔を向ける。 : バカな、そんな、バカな : : : そんなバカなことがリ」 、、、、みまちが ど街の北側と南側には、そこにも見間違いようなく、見張り台があった。 そう、あったのだ。アセトが見るその瞬間まで。 あらなわ 都見張り台の下で数十人もの男達が、幾本もの荒縄を引いているのがかすかに見える。 ごうおん 英そして一〇〇〇年もの間立ち続けた二つの見張り台は今まさにアセトの視界の中で轟音 くず もうれつふんじん と共に崩れ落ち、猛烈な粉塵を巻き上げ、その姿を永久にこの世から消し去ったのだった。 まるで : : : 初めからそこには何もなかったと一言、つかのよ、つに。

8. 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)

刀と体で受け止め、また呻き、地を転がるを繰り返す。 じよじよ アセトは再度、南北の見張り台の位置を確認する。徐々に下がって国境線内側まで引き いはん 込み、協約違反だとしたいのかとも思ったが : : : モルトは、むしろ前へ出ようとしている。 「ディナ、すまない。君を守る、そのはずだったのに : : : そんな、傷だらけにーー・」 よこなぐ あばら きようれつ 雄叫び上げる兵の横殴りの一撃がモルトの肋に入る。彼の体を吹き飛ばす程の強烈なも の。地に手をついたモルトの口から血が噴き出た。そこをさらに四人がかりで蹴りつけ、 なぐ 薪でも割るかのように剣を雑に叩き付ける。もはやタコ殴りだった。 「アセト・バクター わ、わたしを殺しなさい " " それが望みのはず : : : 早く " " 」 「エンガディナ、あなたの命令は聞かないと、先程お伝えしましたが ? なみだ 涙を流して叫んでいたエンガディナがハッとする。そして顔をくしやくしやにして歯を 喰い縛り、縛られた体のまま、アセトの足先に頬を寄せた。 「こ、殺してください : : : お願いなのです。どうか、殺して欲しいのです ! 」 さる 兵達が十分に見ているのを確認し、アセトは彼女の顔面を蹴りつける。兵に猿ぐっわを 命じて、舌を噛み斬れぬようにし、モルトが嬲られるのを最後まで見せることにした。 彼女の心が折れる姿を兵達に存分に見せつけてやるのだ。 肉を叩く音が響き続けた。なかなかにしぶとい。しい加減倒れたままでいればいいもの まき おたけ ほお

9. 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)

286 めぐ 。再びの違和感にアセトは街を見ながら頭を巡らせる。 夜明けに鳴らすものではない : すみ その視界の隅に、地に顔をこすりつけて猿ぐっわを外したエンガディナの姿が映る。 「モルト殿サシャ殿、逃げてリわたしはもういいのですリこれで、もう : エンガディナが口を大きく開け、そして舌を出す。噛み切る気だ。 もんぜっ しかし、そうはさせなかった。アセトは彼女の腹を激しく蹴りつけ、悶絶させた。 「てめえ俺の : : : 俺女に何をする " " 」 どせいとどろ さきまど ながえとうつえ つくば 先程までい蹲っていたモルトが長柄刀を杖にして立ち上がり、怒声を轟かせる。 何だ、あの男は。一度か二度抱いたから自分のものだとでも言いたいのか。子供のよう あき どくせんよく な独占欲か。アセトは呆れて思わず笑ってしまった。 「何をしたかわかってんのか、てめえ : : : 訃反だぞリ」 「何を言ってる ? この女は街の人間ではない。何より、ここは協約適用外領域だぞ」 「いいや、ディナは街の住民だ。 : : : 俺の女だからな " 】」 しゅんかん そう言ってモルトは左手を掲げた。その瞬間、反射的にアセトも目を見開く。 かがや 朝日を受けて輝いていた。 彼の薬指が、 だんな たび こうけいしゃ ヌストルテ家の後継者が生まれる度に造られ、その全てが国宝、そして旦那とすべき相 手のみ指に填めることを許されし指輪が、今、何でも屋の薬指にあるのだ。 どの か すべ

10. 英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~ (富士見ファンタジア文庫)

街の鐘が、鳴っている。けたたましい音で鳴り続けている。 しら 夜明けを報せるように。人々に目を覚ませ、仕事の時間だと : : : そう告げるかのように。 ぞうえん 「アセト大隊長、敵に増援です ! 街から来る数は五、六〇人程度 : : : ですが : : : ですが、 なっ、何だ、あれは±: 」 とうかい 兵の声にアセトは今一度街を見ようとするが、その増援を見つける前に、倒壊した見張 つなみ おおっ り台が生み出した、津波の如き猛烈な粉塵が全てを覆い尽くしてしまう。 何デエリもう本格的に始まってるじゃねえかリ モルトの奴、先走り過ぎだ ろ これだから我らが英雄様はリ じようきようしようあく わけがわからなかった。何が起こっているのか、わからない。状況を掌握できない。 周囲を取り囲まれてなお平然とするサシャが、慌てふためき出した兵達を鼻で笑った。 ど「このサシャ、議長マドラーからアセト大隊長に伝一言を預かっている。 : : : 我らを辺境の だいしよう おそ りんごく 田舎者と甘く見たその代償、高くつくと知れ。我らは恐れぬ、たとえ隣国にヌストルテ帝 の 亠Ⅲ - こく 都国、そして世界の全てを敵に回そうとも絶対に屈しはしない。 : だ、そ、つだ」 雄はだか 英裸同然のエンガディナに革コートを掛けると、自分はネクタイも上着をも脱ぎ捨てて肌 さら かっ を晒し、何でも屋モルトは長柄刀を担ぐ。彼はアセトを見つめていた。 けんか 「誰に喧嘩を売ったかを教えてやるぜ。 ・ : この街は一〇〇〇年の昔から不可侵たる不落 か くっ ふかしん はだ