ている : : : のだが、 そうでなくてもカルジャガが勝手に盛りつけに来るというサービスか とくしゅ ごうもん 拷問かわからない特殊システムが存在していた。 主に若者が対象とされるが、モルトとライは特に凄まじい。 むだ ちなみに余った茹で豆は次の食事で活用されるのでまったく無駄が出ず、また豆は低価 こくし きわ 格で保存も利き、さらに高タンパクという体を酷使する男達にとって極めてピッタリな食 だれ 材ということもあり、誰も文句は言えなかった。 ビーンズ ある意味で食事は戦いだが、モルトとライの場合、追い豆が来てからが本番と一言える。 モルト達は一度豆と、そして対面に座る相手の目を見て : : : 息を大きく吸う。 そして、二人一斉に豆の山へと挑むのだった。 しし喰いつぶりだね。 ・ : はい追加 ! 」 「「ちょっと」」 二人が同時に声を上げる。 おもしろ それを面白がったのか不服だったのか、カルジャガがさらにもう一杯追加し、モルト達 の心と腹を完全に打ち砕いたのだった。 いっせい くだ すさ
「お前を信じよう、モルト。・ : ・ : 調査部とは別に、我々も動く。グリコウ国の敗残兵だと やっかい いうのなら、ヘタをすると厄介な装備を : : : 何だ、ライ、その顔は ? 」 かたむ 先程、プレンデッド達と共にグラスを傾けたライは : : : 苦虫を噛みつぶしたような顔を かた したまま、体を硬くしていた。 : このクソまじいのは : 「な、なんだよ : ・ : ど、毒か ? 何でこんなのを飲んだんだ ? 「お酒よ、ライちゃん。凄く強いお酒。 : これはね、プレンデッドの家に伝わるおまじ あお ないみたいなものよ。お酒を呷ってその味の変化で真実を探るのー あたい 「 : : : 酒は、酒そのものよりも相手次第。それがウチの家訓だ。モルトが信じるに値しな い男ならば、味はる。別に酒は強烈であれば何でもいいと言われているが、スピリタス が一番変化がわかりやすいー つぶや プレンデッドは独り言でも呟くように言って、自分とコーンのグラスにも、つ一杯ずつ注 すす いで、また一息に飲んだ。モルトも勧められたが、体がすでに熱くなり、頭がふらついて きたことを告げて断った。 第打くとしよ、つ、コーン。 : 牢は酔いが醒める頃には出られるように手続きしておいて やる。ただし、ライを押さえておけ。いいな、モルト。それから我々と行動を共にしても やまが ら、つ。ともすると山狩りになる : : : 人手が必要だ すご しだい ころ さぐ にがむしか
「違う、そんなルールは設けてないし、そもそも私は : つら 「選ぶ立場の人間も辛い、というわけだな。うんうん、わかるわかる」 なっとく まどぎわ その客は勝手に納得すると、出されたビールを手に窓際の席へと移っていった。 おたけ とどろ 二人の雄叫びが轟いたので、モルトもまた窓際の空いていたテープル席に移って二人の 様子を見やる。 きようれつつ 初撃から事態は動いた。モラセスが棒で強烈な突きを放つ。それは前動作がほとんどな とつじよ 、突如として棍棒が伸びたかのような見事な一撃。どう考えても一三の少女に放つよう わざ まめか な技ではなく、本気のそれ。当たり所によれば重傷は免れない。 あまりに大人げなく、思わずモルトは声が出そうになった。 、次の瞬間には別の意味でまた声が出そうになる。 せま たた クアトロが迫り来た棍棒の先を左手で上から叩く。そして、頭を下げた棍棒の先に彼女 が飛び乗り、そこを踏み台として、モラセスの側頭部に見事な蹴りを放ったのだ。 モラセスはこれを腕で受けたのだが、そのまま押し込まれるようにして吹っ飛ばされた。 くっ てぶくろ クッ 小娘、貴様、靴に いや、某の棍棒を捌いたその手袋にも : : : 仕込んで だれ いるな 誰が徒手空拳でやるって言ったっすかねえ ? 足りないウェイトを靴底に こう すで 入れて、そして手袋の下には手つ甲っす。 ・ : まさか素手の女の子相手でないと勝てない
196 あしもと 刺さっていたナイフを地面に捨て、背中から噴き出た血を足下に垂らすシロだ。 「一人残らずだと : : : ありえん、ありえるものか ! グリコウ国は : : : ふざけるなリ」 「戦時中だったとはいえ : : : すまないと思っている。だが : ぜっきよう ふざけるなリ 今一度の絶叫と共にシロは腰に下げていたホルダーからナイフを抜く。 あっとうてき 右手で逆手に握ると、体ごと突っ込んで来た。リー チの長さでいえば長柄刀は圧倒的に有 利だ。しかしながら今モルトの首にはリツツの腕が巻き付いている上、あのナイフが相手。 リキュールの人間がどれほど誇りに田 5 っていようとも、長柄刀の刃ですらあのナイフは 切断するかもしれない。そうでなくても木製柄を狙われれば確実に斬り飛ばされるだろう。 めぐ 一瞬。しかし、その間に多くの可能性がモルトの頭を駆け巡り、一番生き残れる可能性 が高いと判断した行動を取らせる。ーー長柄刀を、投げつけたのだ。 ちが シロが飛来した得物を弾く、その一瞬のにモルトは彼とすれ違い、地面に落ちていた ざんげき 己のナイフを拾い上げた。そしてそのまま動きを止めることなく、振り向きざまに斬撃を ひび かんだか 放つ。甲高い音が響く。モルト同様、振り向くと同時にシロが放ってきた一撃と刃がぶつ たが かり合ったのだ。互いに一撃は弾き飛ばされ合ったが、体は残っている。シロはふらつい モルトの足は地を離れもしなかった。この三年、リキュールでライと共に長柄刀を 振り続け、そしてカルジャガの豆料理をたらふく喰わされたことで身についた筋肉から成 はじ
段の張るワンピース姿。左側にだけある三つ編みには、こちらも普段より大きめのリボン でか が一つ 。リツツのおめかし & お出掛け仕様である。 「お、おう。仕事探しに行こうかと思ってたんだが : : : それより、だ。どうしたんだ、リ ツツ、今日何かあるのか ? 「え ? 別に、その : : : ちょっと、お買い物に : 。ふ、普通の買い物だし、何もないよ」 ほおしゅにじ 勝ち気なリツツらしくなく、少しばかり頬に朱を滲ませ、モルトから視線を逸らして、 口をとがらすよ、つにして、そんなことを一言、つ。 彼女の指先が三つ編みを弄る。 ためら ぎこちない仕草に躊躇うような言い方、おめかしした姿 : : : 何よりモルトを野放しに寝 かせているという状況からするに、普通の買い物であるはずはなかった。 「まさか、リツツお前、今日 : : : デートか」 ちが 「違、つ ! ・ : あ、でも違わない : 「お、おいおい : : : 色気づきやがって、お前まだ一二歳だろ : : : 」 ねんれい 「年齢は別に問題じゃないでしよ。学校の友達には付き合っている人、結構いるよ ? 」 だれ おやじ 「相手はどこの誰だ ? まさか、どこぞの中年変態親父とかじゃないだろうな」 「仮にそうでもモルトに言う必要ないし。 : デートの相手はオリービーさん」
っとか、そういうのは : 「できるだけいい感じにあたしを紹介していただければと思うっす 「それだけ ? ちよとつもうしん 「これでも落ち着かせて、よーく考えさせたんだけどね。クアトロ、猪突猛進タイプだか ら。オリービーさんのお店に来るなり他のお客さんいる前でいきなり告白してたし」 「ウッス。ちなみにその時居合わせたのが縁で、リツツんと仲良くなったっすー 「 : : : ああ、うん、そう・・ ともかく、片想いの相手を連れてくるなりして、クアトロ というわけだな ? わかったわかった、いいだろう。モラ をいい感じに紹介すればいし セスさん、すみませんが少しお待ちを。 ・ : で、その相手は誰だ ? ながえとうかたかっ モルトは席を立っと、長柄刀を肩に担いだ。 「ウッス、何でも屋のサシャさんっす」 「 : : : つまんねえな : : 。普通、こういうのって、見るもおぞましいマッチョとかプ男と かれいしゅう こうそく か、加齢臭を放ちまくってる中年太りで拘束具を下着代わりに身に着けて少女のペットに なっている変態オッサンとかじゃないのか」 スパンツ ! と、モルトの尻をリツツがひつばたく。 「女の子好きな娘がいきなりそっちいったら、さすがに止めるっての ! 」 しり えん
何だ。一応伝えておく。私が今、心を向けている相手 : : : それは、このモルトだリ」 「「なんと : きようがく 二人が驚愕し、野次馬からどよめきが起こった。 同業ということもあり、傍から見ても仲は悪くない二人。一緒に酒を飲むこともあれば、 仕事をすることも多々ある。そんな二人が、実は : おどろ そんな驚きの中、モルトは照れるように頭を掻いた。 うそ このサシャの発言は当然、嘘である。 さきほど だれ これこそが、先程安美亭で受けた三つ目の依頼なのだ。サシャが誰かに心を奪われてい る、とすればモラセスとクアトロでは最悪暗殺に動くかもしれない。だからへタに適当な うんめん 人物の名を挙げるわけにもいかず、かといって遠方の地にいる云々としてしまうと、モラ しゆったっ どセスはともかく、クアトロが家を飛び出し、殺しの旅に出立しかねない。 こうりよ そんな様々なことをサシャが考慮した結果 : : : モルトに白羽の矢が立ったのだ。 やしゅうしか 市モルトなら最悪二人に夜襲を仕掛けられたとしても対処できるだろうし、万が一があっ : らしい 英たとしてもサシャの心が痛まない相手ということで丁度良かった : ひど 改めて考えてみればいろいろと酷い話ではある。 ちゅうかい 「何ということだ、某は恋のライバルに仲介を依頼してしまったというのか : : : 」 はた いっしょ
クアトロは腕を後ろで組み、無い胸を張るとそこから直角になるほどに深々と一礼をし れいぎ た。彼女も武道か何かをやっているのだろう。暑苦しい礼儀がしつかり身についている。 「お言葉に甘えさせて頂くっす。・ : ・ : 実はこう見えてあたし、恋しちゃったんす ! 」 「 : : : 気のせいか、最近どこかで似たような話を聞いたな : 「その相手がなんと : : : 男の方なんっす ! 」 「うん、だろうな」 「あ、モルト。クアトロね、今まではずっと女性が好きだったんだよ」 「ウッス。初恋の相手はアルコ・ホールでお花屋さんをやっているオリービーさんっす」 ただよ じゃっかんめんどう リツツ、本当にすぐに終わる仕事か、これ」 「お、おう。若干面倒な気配が漂ってきたが、 「いいから最後まで話聞いてあげてよ」 ど「男性を好きになったのは初めてなので、どうアプローチしていいかわからなくて : バなので、これはもうド直球に気持ちを伝えるのが手つ取り早いかと思い、お知り合いだと 市 いうモルトさんに彼を紹介していただこうかと思いましたっす。依頼料はこれを」 都 こうか かわぶくろ 英彼女が取り出した革袋を受け取ると、そこそこの金額の硬貨が詰まっていた。子供の小 づか 遣いにしては少々額が大きいが、それだけ本気だということなのかもしれない。 「紹介するだけで金が貰えるんならありがたいが : : : それだけでいいのか ? 仲を取り持 もら
めつぼう 本も並んでいるという : : : 三年前に滅亡したグリコウ国の刻印 あまりに予想外の得物に思わず息を呑んだ。そしてそれは向こうも同じだったようだ。 せつな : だが、それは互いに刹那だけ。 彼の目がこれでもかと見開かれていた。 一 ) うぼ - っ 火花による一瞬の明るみが消えると、闇の中での激しい攻防が始まった。 互いに一言も喋らず、ナイフのみならず手足による体術を駆使して相手を攻め、同時に 相手からの攻撃を受ける。 目に頼らず、全て耳と空気の流れを肌で読み合い、刃を、そして手足をぶつけ合った。 ひび 肉を打っ鈍い音が立て続けに起こり、時折金属音が響く。 まるでべッドの上の男女のように、体を激しく動かす際の床の軋みや空気の乱れを生み つつ、モルトは彼と激しく絡んだ。 わざ どそして、知れた。この男が身につけている技を、モルトは過去に経験している。 「お前、グリコウ国の : の すき 都ようやく喋ったその一言が隙となり、モルトは彼から蹴りを受けて血だまりの中に倒れ 英る。追撃が来るかと身構えたが、それがない。 「こちらもお前を察したぞ。・ : ・ : 運命なのか、これは : その言葉を最後に裏口の扉が激しく開かれ、篠の気配が本当の意味で消え失せた。 ほん たよ しゃべ から たお
異常なまでの盛り上がりを見せた。 しゅはい 人々はこの事態を一晩中語り明かし、酒杯を重ね : : : そしてまたある者は、朝までやっ ている賭場でその熱気を財布の中身と共に発散したのだ。 その時に派手に散財した者が多数いる : : : というのは、サシャも噂に聞いていた。 とばくか しろうと さそ 賭博の駆け引きを知らぬ素人が、祭りの陽気に誘われて足を踏み入れてしまうのは仕方 じごうじとく ないが、程良いところで切り上げられないのは自業自得としか言いようがない ばくち 胴元や博打打ち達は浮かれてやってくる素人を待ち構えているのだから、当然そうなる。 ガーナもそんな一人だったのだろう。 しかし、とサシャは田 5 う。ジンとかいう男をはじめとした、この街のゴロッキ達はそれ あせにぎ ほどにあくどいやり口はしないはずである。程良く勝たせ、程良く負かす。手に汗握る勝 きんちょうかん ほうしゅ・つ ど負の緊張感、期待や興奮、勝利の快感、そんな博打の楽しみを与え、その報酬として最後 にコロリと負かして金をいただく。場合によっては最後にもう一度ぐらい相手に勝たせて よいんみやげ やって、勝利の余韻を土産としてくれてやったりもする。 英有り金全部せしめ、その上借金までして喰らい付いてくる素人を相手にするものだろう とくしゅ みのが か。祭りという特殊な状況だし、べテランの胴元とて、人が多くてガーナの存在を見逃し てしまっただけなのかもしれない。しかし : あた うわさ