アンドロイド - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1968年2月号
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1. SFマガジン 1968年2月号

ニグロは相手を倒す確実な手段を選んだ。腕の破片をたたきつけ っていた腕が肩までしびれた。 ると、身をひるがえし、刑事の落した熱線銃めがけて三十メートル 「掴まえろっ」 警察アンドロイドは、すでに行動を起こしていた。鋼鉄色の巨体ほど一気に跳んだ。身体が着地しないうちに、熱線銃を拾い、射っ た。すべてが一挙動であった。 が地響きをたててニグロに突進する。強力無比な腕が伸びてきた。 = グロは身をひねり、両脚を交叉させて、警察アンドロイドの足鮮やかな青紫の閃光が噴いて、警察アンドロイドを射ち抜いた。 の間に滑りこんだ。前のめりに巨体が転倒すゑ = グロは相手の後 = グロはアンドロイドの構造を熟知していたようだ。熱線は正確に 頭部に当る部分を手刀で一撃した。人間ならひとたまりもなく頭が電子頭脳だけを貫いた。巨体が崩れ落ち、スクラ , プの山と化し ちぎれとんだろう。しかし重合鋼の骨格を持っ警察アンドロイド は、戦車より頑丈だ 0 た。平気な顔で = グ。を背中に載せたまま立「や 0 たな ! よくもや 0 たな ! , 刑事は子どものように手足をば たばたさせて泣きわめいた。「逃がすもんか、逃がしてたまるか ちあがってきた。 警察アンドロイドは、体内に蔵した原子力電池をエネルギー源に ニグロは無力な呪詛を吐きちらしている刑事を黙殺し、黒い風の 一千馬力に及ぶパワーを発揮する。当の相手が人間ではないと知っ ように走り去った。ロポット機動部隊の包囲を切り破ろうというの ているから、容赦のない苛烈な力がこもっていた。ニグロは警察ア ンドロイドの腕を掴んだまま、猛烈な勢いで振りまわされた。怪カナ に逆らわず、警察アンドロイドの肩を支点にニグロの身体が一回転 2 した。重合鋼のもっとも弱い関節の部分が折れ砕けた。ニグロはそ のまま急激な力を加えて腕を引き抜いた。ポリスチロールの骨や着 色された電子神経系の色とりどりのコードをぶらさげた腕がすっぽ念爆者は、念動力者の非常に特殊な変種だーーとタイガー ウは思った。ふつう各種の超能力はひとりの超能力者に並存するこ りもぎとれた。 テレ・ハス いまや隻腕となった警察アンドロイドの頭へ、 = グロはもぎとっとはないといわれている。感応者は透視や念動力の能力を持たない た腕を降りおろす。 ( イボリマーの頭蓋はみごとにひしやげてしまし、その逆の場合も同じことがいえる。ひとりが何種類もの超能力 った。衝撃で電子眼がとびだした。だが、このくらいで複合電子頭を備えている例も絶無ではないが、その場合平均して能力はうんと 小さなものになる。とびぬけた超能力者は、まず単一能力しか持た 脳を備えたアンドロイドは参らない。大きく陥没した頭部ががつく りななめに傾き、それでも警察アンドロイドは = グロに掴みかかつないと考えていいだろう。 5 サイコ・プラスター 6 念爆者にしたって、そのずばぬけた特異な能力からすれば、当 た。これだけ損害を受けながら、戦闘力はいっこうに減殺されてい 2 然テレバシーは持たないはずだ。それがこっちのつけめだ。テレバ 【」 0 サイコ・・フラスター サイコキノ コ

2. SFマガジン 1968年2月号

刑事は顔をゆがめて不自然に微笑した。ニグロの胸もとに熱線銃 る。さあ、行こう。私は黄色い眼をした少年に用があるんだ」 平然と殺人を犯すアンドロイド。本田の腹の底に氷塊のようなしのグロテスクなノズルが突きつけられていた。 こりが生じた。これはあきらかに通常のアンドロイドではない。人「あんたを逮捕しなきゃならん。アンドロイドを逮捕するという言 い種も妙だが : : : 」 類文明の未知の暗闇から現われた怪物的存在だ。蛇″にも似た、 「私は特捜官といったろう。殺人にも正当な理由がある」 異質な心を持つアンドロイド。 。しナ「こわいのか ? それなら後から「アンドロイドの特捜官とはこれまた妙な話だ。ともかく本部へ連 「どうした ? 」ニグロま、つこ。 れていく、市警ビルの爆破現場近くで、制服警官がふたり負傷した ゆっくり来たまえ。私は先に行く」 = グロは瞬く間に姿を消してしまった。人間やアンドロイドとか事件を思いだしたんだ。犯人は、べしゃんこに潰れた車から無傷で けはなれたとほうもない行動速度であ 0 た。取り残された本田の心這いだすような不死身でね。あんたの正体を調べあげてみる必要が ありそうだ : は、さながら恐怖と疑惑のるつぼだった。 サイコ・・フラスター 「私が念爆者だと思うのか ? 」 「いや。しかし、警官をふたりも鮮やかにぶちのめした手並みは、 一特間後ーー 建物から姿を現わした = グロの前に、二級刑事本田と、見上げるなんとなくあんたを連想させる。説明をと 0 くり聞かせてもらう ばかりの警察アンドロイドの巨体が立ちふさがった。 ニグロはなにもいわなかった。表情すら変えない。 「なんとか脱出して、相棒と再会したようだな」ニグロはいった。 「抵抗してもむだだ」 「無事でなによりだ」 「ああ、たったいま、な。迷路みたいになっていて、出るのも容易刑事は油断なく身構えて、警告を発する。 「いくらあんたでも、警察アンドロイドの怪力と、この熱線銃には じゃなかった」 ロポット機動部隊の救援ももとめてある。逃げきれや かなわない。 刑事は緊張しきった表情で応じた。 「あんたのどえらいス。ヒードにはとてもついていけない。あんたのしない」 刑事には警察アンドロイドへの過信があったようだ。ニグロの恐 ほうはどうした ? ・」 ろしいス。ヒードを見ていながら、安心感が油断を生んだ。ニグロに 「黄色い眼の餓鬼か ? 残念ながら捉えそこねた」 接近しすぎたのが誤りだった。 「そのために、あんたはすくなくとも六人殺したことになる」 ニグロの顔が刑事の視界から消失した。棒のように後ざまに倒れ 「やむを得なかった。跡始末はきみにまかせるとしよう。私には急 事は喚 ながら、はねあげた足先が刑事の熱線銃をはねとばした。」 ぎの用があるんだ」 きながら尻もちを突いた。あまりに強烈なショックに、熱線銃を握 。し力ない」 「そうよ、 264

3. SFマガジン 1968年2月号

る匂いはしなかった。 た。交換が終ると、間髮を入れず眼が開き、唇が動いた。素早く身 本田の眼がとびだすように見開かれた。彼がそこに見出したのを起こし立ちあがってくるニグロの動作に、本田は気押されて後退 は、筋肉組織でも白い骨格でもなかった。 りした。死者が生ぎかえったさまを見るような、薄気味悪さがあっ こ 0 このニグ シリコン膜に保護された見慣れぬ形状のメカニズム ロの身体に詰まっているのは血肉ではなく、すべて電子装置だった「よくやってくれた。・ とうやら間にあったらしいな」 のだ。 ニグロは右肩の破れ目を気にしながら、上衣を着た。 これほど精巧なアンドロイドを、本田は見たこともなかった。外「レーザー・ナイフをかえしてくれ。きみは役目をはたした。つい 見はどう見ても、完全な人間以外のなにものでもない。触感もまぎてきたまえ」 れもなく人肌のものだったし、体温すら備えていた。驚異的な精巧 このニグロのアンドロイドの身のこなしは、実に見事だった。優 さだった。彼の見慣れた警察アンドロイドは二メートルを越す無骨美でむだのない動きだ。体技の訓練をじゅうぶんに受けた人間で な巨体を持っており、たとえ酔眼もうろうとしていても、人間と見も、こうはいくまいと思えた。 まごうことはない。なによりも移動可能の電子頭脳の制約を受けて ニグロが先に廊下に出ると、待ちかまえていたように攻撃がかか いるために、この = グロのアンドロイドのような、明確な。 ( ーソナってきた。ジ = ウッとすさまじく空気をイオン化して熱線が伸びて リティを発揮すべくもない。話しつぶりにも、本田をしのぐ知性を きた。縦横無尽にかきまわされたら、逃れるすべはない。 感じさせた。こんなアンドロイドが存在するものだろうか : : : 本田 ニグロは無一言でレーザー・ナイフを投けた。熱線の向きがぐらり は深い驚きと布れにうたれた。 とそれて、天井を焼いた。ニグロは廊下の床に身を倒して腹這いに なると、蛇のように迅速に滑って、本田の視界から消えた。短い叫 びが湧いて、ぶつつりと途絶える。 ニグロに呼ばれて、本田がおっかなびつくり行ってみたときは、 「指示の通り、早くやってくれ。熱線銃を持った物騒な餓鬼に踏み四人の非行少年が折り重なって転がっていた。ものの十秒とかかっ こまれたいのかー ていない。その鮮やかな手際は、神わざにちかかった。 「アンドロイドか : : : アンドロイドだったのか」本田はくりかえし ニグロは本田に熱線銃を握らせた。本人は刑事の見ている前でレ た。「妙なところがあるとは思ってたが : ーザー・ナイフを呑みこみ、喉におさめた。本田はそくっと身ぶる 「そんな述懐は、ぶじに逃けだした後にしてくれ。時間がないんだ」 し / 本田は右肩部に三基配置された。 ( ック式の超小型電子頭脳を抜き「殺したのか : : : 」 とり、指示に従って入れ替えた。その間、ニグロは死体と化してい 「死んだのはひとりだ。あとの三人は、重傷だが、まだ生きてい 263

4. SFマガジン 1968年2月号

タイガー ・コウの表情はすさまじいものになった。 がら太い指でショウの首をがっちりつかみ、虎罠のような力で絞め 「おまえの手下は残らず捕えられた。警官がおまえを捜している」 つけた。・もりあがった両肩の筋肉を波うたせ、渾身の力をしぼる。 声はいった。 ショウの眼は加えられる攻撃を無視して、冷然とスロット・マシ サイコ・プラスター タイガー ・コウの背すじの毛は逆立った。あのニグロだー かたンの前に立っ念爆者を注視していた。 づけたと思っていた大統領特別補佐官。彼の心はふたつの激しい衝少年は両掌にいつばいコインをかかえたまま身じろぎもしなかっ 動がせめぎあった。ふりかえって、ニグ・ロに跳びかかるか、それと た。お蘭は床に倒れたままだ。 サイコ・デラスター も、このまま念爆者に殺到するか。拮抗する力にもみしだかれ、 少年の眼はほそい裂け目みたいだった。 彼のたくましい肉体は荒々しく震えた。 お蘭の超知覚の眼は、少年の燐光を放つような心が緊張し、恐ろ 「逃げろ。おとなしくこの場をひきさがるんだ」 しい力を解放するさまを見た。少年は警察の目的を誤解したのだ。 帝王の誇りが、タイガー ・コウの行動を誤らせた。彼はポケット 駆けてくる警官の先頭のひとりが、鋭い閃光につつまれた。たち のカプセル拳銃をひきぬきながら、すばやく身体を回転させた。 まち炎は無数の枝をひろげた。プラズマ・ジェットはまるで生物だ カプセル弾丸はニグロの胸に突き刺さった。 った。先端のひとつが、そばにいた警察アンドロイドに突き刺さる ショウはびくともしなかった。 と、そいつもみるみる炎のサンゴと化した。一瞬にして、警察の一 「むだなことはよせ。騒ぎが起きないうちにさ 0 さと消え失せろ」団が火炎に包みこまれてしまう。 タイガー 麻薬が効かないー ・コウはついに惑乱した。しやにむ連鎖反応はそれにとどまらなかった。プラズマは稲妻のように走 にニグロを倒そうと残りの貴重な一発を浪費してしまった。カプセ って、次々に波及した。 ル拳銃を足もとの床にたたきつけ、恥辱と憤怒に眼がくらんで、ニ 悲鳴と絶叫が渦巻いた。賭博場内は仕かけ花火を点火したようだ グロにとびかか 0 てい 0 た。異常に発達した筋肉で相手をひき裂こ 0 た。数千人の群衆はそれそれが火薬だ 0 た。ど 0 とひしめいて一 うとする。 時に出口に殺到する。火炎が追いすがって、数百人をひとまとめに 場内の喧騒を圧して、警察のサイレンの叫奐が響きわたった。あ炎に変えた。ぐわっと爆発的な勢いで成長を遂げる。 らゆる出入口から、警察アンドロイドと制服警官が姿を現わした。 ショウはタイガー ・コウの腕を無造作にふりほどいた。腕をひと 賭博機械の活動がいっせいに鳴りをひそめた。あらかじめ位置がわふりしてはらいとばしてしまう。プラズマ・ジ = ットのネットワー かっていたのか、警官とアンドロイドは、タイガー ・コウとショウクが間近に迫っていた。出入口は火炎の樹林に完全に封鎖されてい をめざしてまっすぐ進んでくる。 る。 タイガー ・コウは、まさに狂いたった虎だった。すべての計画を ショウは床のお蘭の身体を抱きあげた。お蘭は死にものぐるい ご破算にした憎い = グロを殺すことしか念頭にない。兇暴に唸りなで、彼に抱きついてきた。恐怖に歯を隝らし、すすり泣いている。 272

5. SFマガジン 1968年2月号

ーマン、ラッパの音も勇ましげな騎兵隊の役割を果してく みを従わせるためなら、いますぐ、この場でその気になってみせ方スー る。きみは美しい娘だし、男なら喜んできみを自分のものにするだれるとはかぎらない。 ろう」 首都圏警察本部殺人課の一一級刑事本田は、非行少年どもを相手 娘は張り裂けるほどみひらいた眼で、歩み寄る黒人を見つめ、悲に、いささか深追いしすぎるという誤りを犯した。悪辣なちんびら 鳴をあげて屈服した。 どもは、先夜公園地区で罪もない散歩中の老人を殴り殺したのだ。 下手人どもはすぐさま逮捕されたが、主犯逮捕の際の本田刑事のふ るまいがいたく非行少年団〃血まみれモーガン〃一味の不興を買う 5 ことになったようだ。 たとえ警察アンドロイドの相棒がついていても、刑事の身が危険〈仁義知らずの若造の刑事をあっためて、一汗掻こうじゃないか〉 に曝されるのは、非行少年どもが相手の場合だ。犯罪組織はめ 0 た " 血まみれモーガン。一味の首領はおそろしく悪知恵のまわる少年 に刑事を殺さない。警察機構をそんなことで刺激するのは割にあわであった。ただ若造刑事をのしてしまうだけではおもしろくない、 ないからだ。大家族主義の伝統を持っ警察は、身内を殺されると実見せしめに、悪どい罠をかけて世間に顔向けできない哀れな身の上 にしてしまおうと決めた。 に執拗な復讐心を発揮する。見ちがえるように手ごわくなって、犯 いかにも功名心に燃えた若い刑事が陥ちこみそうな罠だった。 罪組織を苛烈に絞めあげにかかる。犯人が挙がるまでは、狎れあい モンスタ たれこみ の取引きも効かなくなるし、あらゆる意味でやりにくくなる。買収「刑事野郎に、超能力者の居場所を教えると密告の電話をかけるん だ。野郎、喜んでのこのこ出てくるだろうぜ」 していた警官までがいうことをきかなくなるのだ。 刑事を誘う餌に、超能力者を使うことだ しかし、非行少年はそんなことにとんじゃくしない。彼らは野獣この陰謀の巧妙な点は、」 の兇暴な衝動だけで行動するからだ。 テレバス ナイフや手製拳銃だけが得物だった時代はともかく、ちかごろで とくに相手が感応者なら、逮捕に向う刑事は心理的トリックを用 は非行少年の武装も強力になった。熱線銃からハンド・ミサイルま いなければならない。刑事の匂いがぶんぶんする意識が身近に来る でとびだしてくる。電磁バリャーといったとんでもない代物まで繰まで、テレバスはのんびり待っていない。雲を霞と逃亡してしま う。したがって逮り手のほうも意識をそれとわからぬように擬装す りだされては、小規模の戦争に近い様相をおびる。 小型の麻痺銃ひとつが頼りでは、刑事たるもの、うかうかしてい る必要があゑいわば、催眠技術による意識の変装だ。獲物を射程 られない。ひょっとすると彼我の戦力において、いわば野戦砲に対距離内におさめるまでは、無害無臭の意識の雑踏にまぎれこんでい しパチンコで応戦しなければならないのである。警察アンドロイドるのだ。それに、人目に立っ警察アンドロイドとは同行できない。 用事を無防備の状態に置くのが狙い はたのもしい相棒だが、常にデウス・エキス・マキナーー・正義の味″血まみれモーガン〃一味は、」 239

6. SFマガジン 1968年2月号

6 サイコ・・フラスター たとえ念爆者でも、肉体的には十才の子どもにすぎない。ショ ウが追いつくのは時間の問題だった。追うもの追われるもの両者と ないわ ! 〉 も走路の上にいこ。 サイコ・プラスター 〈論議する余地はないー ショウに協力してはならん ! 〉 「念爆者は、自分が警察にマークされたと信じこんでいる。早く お蘭は拒否した。 おさえないとなにをはじめるかわからない」 〈いかん ! 遮蔽をおろすな ! おまえはまちがったことを : : : 〉 ショウの足の早さに追いつくために、お蘭は息を切らしていた。 テレス お蘭は意識の遮蔽をおろした。きつばり感応者たちの思念を閉め顔をまっかにして懸命についてくる。 だしてしまう。 だが、もう一息というところで、邪魔が入った。走路の群衆に混 サイコ・・フラスター サイコ・プラスター お蘭は、ショウに念爆者の位置をおしえた。念爆者はすでに乱が生じた。 走路の混雑にまぎれこんでいた。 「警察よ ! ショウーこ 〈各地区へ。お蘭が裏切った。至急応援を送ってくれ〉 お蘭はショウの腕をつかんだ。ふたりの前方に、フォノン・メー 〈お蘭の遮蔽はすごくかたい。人数を増やすか、よほど接近しない ザー砲を昆虫の触角のように振りたてた警察ロポットが走路の端か サイコ・プラスター とむりだ〉 ら三台現われた。念爆者との中間に立ちふさがった。人びとを排 〈最高委員会より中継。接近は許可しない。各自現場位置を維持せ除しながら、走路を逆行してくる。 グロテスクな姿がせまってきた。小わきにかかえたミサイルの色 〈お蘭はな・せ裏切ったんだ ? ショウに心理特性を変えられたのか彩が赤く毒々しい 「きみははなれていろ。きみには関係ない」ショウはお蘭を押しの 〈ある意味では、そうだ。お蘭はまだ自覚していないが、あのニグけた。 口に惚れちまったんだ〉 「ショウー ロポットはあなたが目的なのね引」ショウの心を読ん 〈そんなばかな。ショウはアンドロイドじゃないのか〉 だお蘭は驚きをこめて叫んだ。大統領特別補佐官だなんて、うそだ 〈どうもちがうようだ。アンドロイドが心を持っているはずがな 0 たのだ。さもなければ、警察に追われるはずがない。テレバスの 。お蘭はショウを人間だと信じている〉 自分をさえ、みごとにあざむいたこのニグロは何者なのた引 〈いったい、 ショウ・ポールドウインってなにものなんだ〉 ショウの表情は平静だった。くるみ色の眼が重々しい光をたたえ ていた。 とっぜん、ショウの指のあいだから、ほそい銀色の閃光が噴い た。三筋に分れ、警察ロポットに向った。ハンド・ミ サイルだ。フ オノン・メーザー砲を備えた頭部が爆発し、吹っとんだ。 ショウの行動は眼にもとまらぬ迅速さだった。警察のロポットの ベルトウェイ よ〉 274

7. SFマガジン 1968年2月号

〈遠隔操作はむりだ。肉体的な接触が必要だ〉 〈タイガー ・コウの排除は可能か ? 〉 〈きわめて困難。監視システムにびつかかる恐れがある。″組織″ 全体に危険が及ぶ〉 サイコメトリ 〈精神測定によれば、 , お蘭には警察と別系統の捜査機関の接触がみ とめられる。大統領特別補佐官にショウ・ポールドウインなる該当 サイコ・プラスター 人物なし。未知の秘密機関エージェントらしい〉 お蘭はついに念爆者の意識を探り当てた。もし彼女の精神が麻 〈中継。最高委員会で調査を行う。当該人物の接近に注意してほし酔にしばられたテレ。 ( シー探知装置でなかったら、あまりにも多量 な情報の洪水に呑まれたその意識をとらえられなかったかも知れな 〈通報。ショウ・ポールドウインは、すでに監禁状態を脱してい る。本田刑事の意識走査により、ポールドウインはアンドロイドと タイガー ・コウの両眼は黄色い炎となった。 わかった。驚異的な機能を備えている〉 「どこだ野郎はどこにいる ? おれをそいつのところへ連れて 〈透視者を二、三人大急ぎでよこしてくれ ! アンドロイドの意識行け ! 」 は読めない ! 〉 彼はあやうくお蘭の耳たぶを噛みとりそうな勢いだった。お蘭の テレポータ 〈第地区から連絡。遠隔移送者を派遣した。生体中の化学薬品除腕を掴んで強引に立ちあがらせながら、残る片手でポケットのカプ 去の専門家だ。三十分以内に到着する〉 セル拳銃を握りしめた。高圧ガスで射ち出す力プセルは人体に刺さ 〈最高委員会より中継。タイガー ・コウには手を出すな。警察はすると内容物を注入する。彼はカプセルに、お蘭に用いたのとほぼ同 サイコ・プラスター でに彼をマークした。お蘭救出に全力を尽せ〉 じ麻薬をしこんだ。たとえ念爆者でも、不意を襲って音もなく飛 サイコキノ 〈そんなばかな。なぜ強力な念動者をよこさないんだ心臓をひ来するカプセル弾丸は防げまい。寸秒にして、有機質ロポットと化 とひねりしてやればかたがつく すのだ。 タイガー 〈急場に間にあわないのさ。それにおかしな細工をすれば足がつく ・コウは虎の笑いを浮かべ、お蘭をひきずるように、展 からな〉 望室の雑踏を突っ切った。たくましい肩で遠慮会釈もなく、さえぎ 〈お蘭が念爆者を嗅ぎだしたⅡ〉 る田舎者をつきのけ押しとばし、憤慨と非難の航跡を曳きながら、 一瞬、すべてのテレバシーは深刻な驚愕と危惧に支配された。 重力リフトへ向う。 サイコ・・フラスター 〈念爆者に警告しろ ! 〉 サイコ・プラスター 〈タイガー 〈だめだ ! 念爆者は″組織を軽蔑している。やつはヒロイズ サイコ・・フラスター モニター ムの化物だ。警告しても逆効果になる ! かえってお蘭の身が危な 火花を散らすように、感応者たちの思念が交錯した。 4 ・コウはお蘭をともない、プレイランドへ向っている。 テレ・ハス 269

8. SFマガジン 1968年2月号

けしい姿だ。 き機械から人間に還りつつあった。 形相すごく威嚇するテイラノザウルスの巨木のような後脚の間をそうだ。爆発に逢った瞬間から、彼は思考機械の母体から切りは すりぬけて、彼は背後にまわった。後脚にしかけられた秘密通路がなされてしまったのだ。あれはただの爆発ではない , ーー核爆発だっ た。強烈な放射線の照射を浴びて、彼の体内に埋められた電子頭脳 彼をすっぽり呑んでしまう。 テイラノザウルスはなおも執拗に威嚇を続けていた。しかし、無は破壊されてしまった。 その時以来、彼はほんのわずかの中枢神経の働きをたよりに、自 人境の館内には、怪物のおどしに怯えるものはいないようだった。 重力線が彼の身体を受けとめ、落下の加速度を相殺して、ゆるや分の属する地下要塞へ帰ってきたのだ。それが記憶用電子頭脳を失 った彼になし得る限界であった。 かに彼を着地させた。約十キロほどのノンストップの降下だった。 この地下施設と地上をつなぐ通路は、そういくつもない。いった人間の部分を小量にでも有するかぎり、彼はアンドロイドではな 。しかし、彼を人間とも呼べない。彼は自我を持たぬサイボーグ ん事あれば、即座に超速乾性の補填物質が噴出してすべての通路を ふさいでしまう。たとえドリル爆弾でも、この地下施設に侵入するであり、巨大な思考機械の可動単位のひとつにすぎなかった。 のに、よほど骨を折らねばなるまい。これは文字通りの地下要塞な彼はいま、自分が所属する母体のもとへ帰りついたことを知って のである。尨大な量の土砂と岩盤と、厚さ百メートルほどのベトン いた。それで、彼の限定された思考は完結するのだった。あとは万 に塗りかためられたトーチカだ。これほど警戒堅固な場所は、地球事母機電子頭脳がうまくやってくれる。 に一カ所しか存在しない。たとえば地上のテイラノザウルスは両眼その通りだった。 にレーザー砲をしこんだ警護者だし、阻止しきれぬ侵入者は、博物母機電子頭脳の可動部分のアンドロイドが彼を見つけだし、補助 館の建物ぐるみ地上からきれいさつばり消し拭われるしくみになっ電子頭脳の修復と手術処置を加えるために、彼を連れ去った。 ーソナリティを転 彼は母機電子頭脳の意図するままに、新しいパ ている。 闇に彼の眼が淡い螢光を放った。地下要塞に照明設備は存在しな写された。修理された補助電子頭脳は母機の「声」を彼自身の思惟 。空気さえもだ。ここは人間の生存に対する配慮の一切が欠けてとして中枢神経に伝達する。 いる。気温はマイナス二七二度。ここで快適にすごせるのは電子機彼は擬似記憶を与えられ、完全な人間そのままにふるまうことが 械だけだ。 できる。神経容量こそ正常人の五十分の一だが、なんら不自由は感 「声」はオングストロームの波長でやってきた。正確にいえば、そじない。電子頭脳の補佐によって、最も有効に能力のすべてを発揮 できるからだ。 れは声ではない。極度に圧縮された情報量を持っ電磁信号である。 それがサイボーグの強みであった。 それはマシンの言葉だ。人間の知覚とは完全な断絶がある。 しかし、彼は「声」に反応することができなかった。彼はこのと彼は一時間後には、新たな容貌と記憶と任務をあたえられ、地上 233

9. SFマガジン 1968年2月号

な原作を、きわめて快調なテンボでまとめてい 製によればザナックは る。とくに後半、猿の惑星から脱出する部分が、 ファンで、『猿の惑星』の 映画的なサスペンスを盛り上けてたいへん面白くあと『地底世界ベルシダー』 、作ってあるという。くわしいストーリーは、次号『幼年期の終り』『火星年代 で紹介したいとおもう。 記』などを ミリかシネラマで 四年前ダリル・・ザナックが社長に就任して作ることを検討しているという ◆以来の世紀フォックスはめざましい業績をあことだ。もし事実とすれば、巨 げ、ついにメージャー系のトップに立ってしまつ大な資本と優秀な頭脳、技術に たが、その間『ミクロの決死圏』『素晴しきヒコよる最良の映画が生れるわ ドリトル先生不思議けだ。 ーキ野郎』『恐竜百万年』『 な旅』などすぐれた特撮映画を積極的に製作してフォックスには今年は『猿の 惑星』のほかに『気球旅行』 ( 仮題 ) 『コーターマス・シリー ズ』 ( 既報 ) の二本の特撮 映画が待機している。またテレ ビ映画部門では、『原潜シービ ュー号、海底科学作戦』『宇宙家族ロビンソン』もう一本は『海賊黒ひげの幽霊』 (B1ackbeard ・ s 『タイム・トンネル』のほかに新しく『巨人の星 Ghost. カラー ) で、都会にすむ若夫婦の家庭に ジャイアント・ランド』 ( カラー、一時間 ) を製すみついた黒ひげ幽霊が、さまざまな超能力を発 揮して若夫婦を助ける。『フラ・ ハー』をさらに面 仮作している。 白くしたような奇想天外のギャグが、ディズニー 独特の特撮で次々に現われるそうだ。下馬評では 動 ウォルト・ディズ = ーの特撮技術のすばらしさ今年のアカデミー特殊技術賞はまちがいなしとい のは『フラ・ ( ー』『メリー ・ポビンズ』などで高くわれる。 評価されているが、今年も 2 本の特撮ディズニー 映画が封切られる。 旧ろう肥月怪奇映画が封切られた。『フラ 『 The Gnome ・ mobile 』 ( 小人の自動車の意味、 カラー ) はトラベリング・マット合成をふんだんンケンシュタインの逆襲』 (Frankensteinmeets に使った現代のおとぎ話で、『メリー・ポピンズ』 theSpaceMonster) でアライド・アーチスツの のスティ・フンスンの監督。森のなかにすむ小人た製作。地球侵略のために宇宙飛行用アンドロイド ちと森林王ディー ・ジェー一家の友情物語で、毎や怪物ムルをあやつってプエルトリコ島を襲う火 星人対科学者の物語。白黒版で一般封切り用。 度ながら特撮の使い方が実に巧みで上手だ。 3 「フランケンシタインの逆襲』の宇宙怪物ムル ー 43

10. SFマガジン 1968年2月号

タイガー ・コウは虎みたいに笑った。二級刑事本田は、まんまと 罠に陥ちた 9 狂気の発作にとりつかれた刑事は、とめどもなく荒れ「ようすが変だわ ! 」とお蘭がいった。「お酒になにか入っていた それを知らずに飲んだのよ : : : ああ ! 」 狂い、ついには女を殺してしまうだろう。これで、刑事を葬るに足みたいー お蘭は両掌で顔をおさえた。刑事に湧きおこった色情があまりに る理由ができたというものだ。狂大は撃ち殺してしまわなければな に腰を落した。片方の膝を立て、挑発するような表情で本田を見つらない。狂犬を身内から出した警察の面子はまる潰れになる。現職 めながら笑った。 刑事が強姦殺人を犯しては、世間に顔向けができまい クスリ タイガー 「お酒より幻覚剤のほうがいいの ? 」 ・コウは逸る手下どもをひきとどめた。女のひとりぐら 本田は性欲抑制剤を服んでいなかった。そんな必要があるとは思い潰してしまうのは、最初から計算に入れてある。女が死んでから わなかったのだ。 でもおそくない。 部屋はひどく熱かった。女の大きな乳房の間に汗がたまってい しかし、さすがのタイガー ・コウもとび入りが入ることまでは考 た。本田はひらべったい腹部からたくましくはりだした腰へと視線えおよばなかった。お蘭とショウ・ポールドウインだ。 を移し、ごくりと喉を鳴らした。若い女は本田の顔を見つめなが警察アンドロイドを警戒していた手下のひとりが、ふたりを発見 ら、わざとらしく腿を動かした。疼きの感覚が腰から這いのぼり、 彼の呼吸中枢を締めつけた。呼吸が荒くなり、むやみにロが乾い 「なんだ、あいつらは ? こ て、本田はアルカードという言葉にまたひっかかった。彼は身ぶる ″血まみれモーガン〃一味の監視ラインの中にお蘭たちはまっすぐ いして酒を呑んだ。女が意味ありげに笑う。 侵入してきた。警察の手入れに備えて、監視アイと盗聴システムが ・コウはありふ 本田を錨のようにひきとめていた理性が蒸発した。もうどうにも居住区一帯にしかけられているのだった。タイガー ならない 。目前の白い肉を貪ろうとする餓狼の衝動に支配されてしれた富豪の息子が宇宙ョットに贅を尽すかわりに、たつぶり金をか まう。 けておのれの城塞をつくりあげたのだった。 女はみすから下着を引き裂いた。態度が急変して鋭い悲鳴をあけ「やつら、刑事のあとをつけてきたみたいだぜ ! 警察かもしれね る。本田はあおられた炎と化して、女につかみかかった。指が女のえな」 身体にめりこむ。女の抵抗が、いまや色情狂となった彼の残忍さを「タイガー、どうする ? 邪魔が入ったようだぜ」 ひきだし、彼は女をひどく傷つけた。 「あわてるんじゃない」 ・ ' タイガー ・コウは非情な眼をきらめかして笑った。 7 「もうすこし様子を見るんだ。おふたりさんが何者だか、いずれわ かるさ」 はや メンツ 252