それからというもの、毎日、機械の傍には何キロもの行列ができた。彼らは みな、無料で欲しい物を手に入れようとして集まってきた連中だった。キーは ひっきりなしにたたかれ、レ・ハーは休みなく引かれ、あの鋭いうなり声は銀座 の名物となった、いや、もうそこには銀座という区画は存在しなかった。銀座 は、今や巨大な待合所へと変わりつつあった。 もちろん、政府が黙ってこれを見逃しているわけはなかった。こんなことを されては、日本の経済は狂ってしまうかもしれない。そう考えた彼らは、なん とかしてその機械を政府の統制下におこうとした。しかし、彼らの力も欲に狂 った人々には通用しなかった。 こうして、機械は連日連夜、動かされ、ビルや商店は、次々と待合所に改良 されてしまい、銀座は、世界一の騒音地帯となってしまった。 そんなある日のことである。いつものように、機械の前には、順番を待つ人 、一人の行列が長く続いていた。そして、その雑踏の中で、突然、誰かが叫んだ。 「おい、どうだい、そのキーで、ニンゲンと押してレ・ハーを引いたらどうなる と思うかね ? 」 誰かが、ふざけ半分にいわれた通りレ・ハーを引いた。 みな、かたずをのんで機械を見守った。 うなりが止った、そして : 人々は悲鳴をあげた。なぜならば、そこには生きた一人の人間がいたからだ 長い静寂の時が過ぎ、やがて人々は知った。遠い昔、地球上に始めて人間を 創造したのはこの機械であることを、そして、人間はただの商品にすぎないこ とを : 空の彼方で誰かが笑った。 ☆コンテス - トについての詳細は、八九ページの募集要項をごらんください。 東海・毎週土曜午後十一時三十分からの〈モダン・ジャズⅡ〉をお聴ぎください。当選作品が放送されます。 ( 作者の住所は、神奈川県鎌倉市雪の下四の一の十四 )
世界最高最大のミステリ・シリーズ 既刊 し ちがっこ 発 オ空 日 ギャビン・ライアル松谷健二訳 曜『深夜プラス 1 』で好評を得たライアルが自信をこめて ・ミステリ〈十ニ月七日発売〉 三六〇円 木放つアクション 週 罠は餌をほしがる < ・ < ・フェア乾信一郎訳 《十大女バーサ・クールと小男で敏捷なドナルド・ラムの名 一斤コンビ、久し振りに登場〈十ニ月十四日発売〉二七〇円 立木 キルマスター④ の / 番目のスパイ ニック・カーター 小菅正夫訳 月中間のス〈イの死の真相を探るため、 = 「クはソヴィエ トに侵入していった ! ^ 十ニ月十八日発売〉二七〇円 ナポレオン ノ。⑩ / 人間改造機 トーマス・ストラットン多田雄二訳 人間の頭脳の改造を図るスラッシュ陰謀団 , 受けて立 っソロとクリヤキン ! 〈十ニ月ニ十三日発売〉二七〇円 ハニー、ナチスに挑戦 ()5 ・ (5 ・フィックリング川口正吉訳 しヒットラーは本当に生き残っていたのか ? 美人探偵ハ 、なぞの怪人に挑戦 ! 〈一月五日発売〉予二七〇円
石川ぼくもそう思うな。 大伴『幼年期の終り』は。 筒井たとえば今純文学、中間小説、 《ろいろあるけれども、いわゆる三大誌にの斎藤 ( 守 ) せんせんだめとはいわないけ星目の鱗が落ちたのと、飛びこんだの とはどこで見分けるんだ ? 本人は落ちて ど、まあ ってる作品の中にも発見性はありますか。 新らしいものが見えだしたと思ってるけ ~ 斎藤 ( 守 ) まあ比重は少ないけどあるこ大伴プラ , ド・〈リなんかは ? ど、じつは飛びこんだから見えだしたん とはありますね。まあ、具体的に作品をこ斎藤 ( 守 ) あれもだめだなあ。 だ。 ( 笑 ) こへ持ってきてこうだといわなければ判ら矢野要するにはっきりいえなけりゃな いものとみなされるそ。具体的にいえなき斎藤 ( 守 ) いや、飛びこんだんなら、過 去にある何かになっちゃうんだ。この前の 豊田それじゃ、日本のにはなくてやゼロだぜ。 手塚少し権威主義じゃないのかな。芥宇宙原点論にも書いたように、今の時点と 〉外国のにはある、とお考えですか。 いうのは古い伝統社会が崩れて新しい社 川賞、直木賞をとったものは認めるという 一斎藤 ( 守 ) あるのもあるしないのもあ 会が出てきつつある。新らしい社会の持っ んじゃ : そもさん 二重の意味ですよ。近代社会の崩壊と超近 平井禅問答だなまるで。什麼生説破斎藤 ( 守 ) いやそんなことないですよ。 代社会、脱近代社会が生まれつつある。そ 人間に対する切り込みのあるものならいい こにおいて人間のものの考え方が変りつつ 斎藤 ( 守 ) ふつうの小説界の場合は、そんだ。 ある。また人間に対する感じ方も変りつつ ~ れが出ればプロとアマの境い目になると思矢野たとえば一つあければ ? うんですよ。純文学の同人雑誌なんか読ん斎藤 ( 守 ) 誤解をまねくかもしれないけある。 そうした考え方や感じ方が出ていないと 宀でも、やつばり、上へ出ていく人のには、 ど、石原慎太郎なんかそうです。今じゃな いままでのやつは過去の いうことですよ。 ( 発見性がありますね。微妙な違いですよ。 いけどね。あれは当時の文学のパターンを 伝統社会における価値観でなり立ってる。 破った・ーー人間の見方をね。 眉村作家によって違いはありますか。 斎藤 ( 守 ) 違いはあるけど、作家の資質石川だからクリ = イティヴだというこそれじゃいくら書いた 0 ていくらストーリ イをひねくったって何のショックもないわ とじゃないの。 ~ どして必すあるものです。 ういう意味で新らしい目が必 けですよ。そ 斎藤 ( 守 ) ちがうなあ。 ~ 森それじや文学精神ということじゃな 要だといってるんですよ。 筒井人間性への切り込みというのは、 いか、けつきよく。 いやしくも作家と名がつけばだれでもそれ手塚最近のアンダーグラウンドとか、 ( 矢野要するに守ちゃん自身にははっき を目指しているわけであって、にはそああいう新らしい方式が出てきてるけど、 りいえんことなんだ。 ということがいいたいわけなあれも発見というわけ ? 斎藤 ( 守 ) はっきりいえないからみんなれが少ない、 斎藤 ( 守 ) いや、あれは発見じゃなく破 文学に書くんでしよう。それをはっきり実んだな。 証的に立証するのが批評家で。 矢野しかし慎太郎なんて新らしいんじ壊だ。 ういうものをもってやなく繰り返しだよ。 野田それじゃ、そ 筒井あれ、破壊じゃいけないわけ ? るとはどんなものですか、例えば。 眉村あんなものは当時の文壇にとって斎藤 ( 守 ) 判断の基準が変ってくるんで 7 7 ( 『宇宙の戦士』はどうですか。 新らしかったんであって文学としてはべっすよ、時代時代によって。 に新らしかったんじゃないな。 星それじゃ、斎藤さんの満足のいく状 一斎藤 ( 守 ) ないな。 」 0
た。全電子脳ネ , トワークーー地球をおおう巨大な " 大脳組織。とは、まだ = ーモアのセンスはありませんからねーー・・そのわれわれに 考え、蜘蛛の巣システムを、この " 地球脳。にとりつけられた、新したところがー・・・あの時会議場にいた三千人の人々が、やはり意識 しい知覚器官だと考えてください」ミツオはちょ 0 と舌をしめしの奥に、何か強烈な印象をやきつけられてはいたのです。ですか た。「そして、この " 大脳。は 1 ー、あの三カ月前の国際会議の、全ら、 0 , クフ・オール教授は、三カ月目には何となくおちつかない気 分で、センターに現われた。ほかの電波天文台の連中も、みんなそ 過程もやはり、記憶していたのです・ : うだったでしよう。この老人の堂々たる態度、朗々として、人を強 「すこしわかりかけてきた : ・ : ・」とロックフォール教授はうめい く魅了するような音声は、三千人の関係者の意識の底に、強い集団 「まだよくわからん : : ・・」とヤン博士は首をふ 0 た。「そのこと暗示をかけた。そのことが、また電子脳ネ , トワークに影響もした なによりも、重要なのは、おそらくその時、会議を でしようが が、どうして、電波のま・ほろしと関係がある ? 」 記録していた電子脳が、同時に強烈な暗示にかかってしまい、三カ 「いいですか ? ー、・・今の″地球脳〃は、昔の簡単なコン。ヒ = ーター とちがって、その大規模な集積効果によ 0 て、人間の大脳と、きわ月後、老人のいったあの時刻に、一種の後催眠現象を起してしまっ めてよく似た機能をもちはじめている、ということを考えてくださた、としか考えられません」 。無差別的にはい 0 てくる情報の重要性の等級判断もする、。 ( タ「信じられん : ・ : ・」ャン博士は首をふ 0 た。「この人はーー電子脳 ーン認識もやる、未解析問題の、一時棚上げなんて芸当もやってのに催眠術をかけたのか ? 」 ける。ーーー規模こそバカでかいが、人間脳にそっくりなはたらきを「彼ぐらいの、何というかーー・強烈な説得力、精神力をもっている この″地球脳〃はやりはじめているんです。ところでーーー人間の脳人間なら、そのくらいのことはできたでしよう」ミツオは、ちょっ ニイ・ガールに鼻毛を切ってもら の働きの中で、一つ、奇妙な現象があります。人間が本来、知覚しと老人をながめた。老人は、。 ( ー いながら、気持ちよさそうに眼をつぶっている。「″地球脳〃には、 ないものを、知覚したように感じたり、実際に起らなかったこと を、まざまざと見たりするのは、いったいどういう場合でしよう ? 」冗談やナンセンスについてのセンスがありませんからーーーおそら 「錯覚・ : : ・幻覚 : : ・・」ャン博士はつぶやいた。「いやーー・・わか 0 く、その記憶を消去しないで、未処理ということで、どこかに おそらく宇宙通信ーー・蜘蛛の巣計画に関係のある項目として、記録 た ! ・・ : : 催眠術だ ! 」 計画そのものに、電子脳はかなり動員 「その通りです」ミツオはうなずいた。「直接的な証拠はありませしておいたのでしよう。 ん。しかし、追試をや 0 てみたらー・・、き 0 とその可能性が立証されされたし、そこで計画に関係ある情報一切が、動員されるたびに、 この記憶もひつばり出されては、また棚上げされ、次第に表層ちか ると思います。あの国際会議の席上で、この老人が登場した時は、 われわれくに出ていたんでしようね。時刻が近づくにつれて、その記憶は、 われわれも一種異様な、そして強烈な印象をうけた。 はすぐあとで、それを笑いとばしてしま 0 た。しかし : ・ : ・電子脳に重みをましてきた、と考えられます。 " びくびく屋。が、計画され 9 4
のためになるように、社会の悪を作り出している人間を殺す : : : こ なたには人を殺す能力があるのよ。犯罪者になることもなしに : ・ それを、社会正義のために使うのよ。世の中の不正のもとになってれは、立派な使命じゃないかしら。あなた、今の生活で満足 ? 今 いる人間をとり除くのよ」首にかかった手に、カが加わった。「わの世の中で満足 ? そうじゃないでしよう。どこか不公平だと思わ ない ? 何かがおかしいとは思わない ? その原因を突きとめて、 たし、協力するわ。津島さんのその使命に協力する」 相手に引き寄せられるまま、私は恵子の顔に顔を重ねた。吸い込みんなのしあわせのために、社会に有害な人間を倒すのよ」 「きみのいうことは、わかる . まれて行きながら : : : どこか金属の味のする接吻であった。 私はうなずいた。「だが : : : それはむつかしいことだよ。何が社 : かりにそれがわかっても、ぼくの超能力は、そう簡 会に有害か : 衰弱し、漂流していた毎日に、ふたたび光が射し込んで来た。 ほとんど毎日、仕事が終ると、ふたりはどこかの喫茶店で会っ単には動かないんじゃないかな。今までにだって、たった三回しか た。店は恵子の指定。巧妙なので決して他の社員に出くわすことが経験がないんだ」 「勉強して」 なかった。 腹の底へしみ込むと、アベック喫茶特有の灯溜りの中、恵 「秘密にしなければ」 と恵子はいう。 「ただでさえ噂がひどいんですもの。わたしたち子は澄んだ目を私に向けるのだった。「勉強して、何が本当に害に の仲が噂どおりの不真面目なもののような印象を与えることは、避なるのかを知って : : : 真実の怒りを向ければいいんじゃないかしら けなくちゃいけないわ」 ・ : ね、津島さん」魅力が歯とともに開く。「わたしね、実は、本 最初の日、恵子は一冊の本を持って来た。 当に尊敬できる人と結婚しようと、そう決心していたの。世間には いろいろ尊敬に値する人はいるけど、これほどの仕事をやりとげる 超能力の謎。 会社の仕事に関係のないそんな書物は、読もうという気になった津島さんにくらべたら、ものの数じゃないと思うわ」 「ほくに出来るだろうか」 こともなかった。 恵子が読めというので、私は読んだ。生物が発声器官や視覚や嗅「やって」 覚などの通信器官によらずに信号を遠隔伝達するというテレ。 ( シ恵子は私の手に手を載せ、「それがやれるかどうか・ : ー、にはじまって、予知とか念力とか透視とかのことが、漠然とししの返事」 た説明のしかたで書かれてあった。漠然とはしていたが、私が超能「プロポーズの ? 」 「そうよ」 力者のひとりだと恵子のいう意味は、理解できた。 抗し得ぬ微笑。「わたしも協力するって約東したでしよう ? 」 「その力を、有意義に使うのよ , 恵子はささやいた。「それも、私怨では不公正よ。本当に世の中 : ・が、わた
面写真を、レンジャー、サーベイヤー、ルうすがない。 グの計画があったが、一八七号と一八九号 ナ・オービターなどのものにくらべると、 人間の宇宙飛行も、一九六五年三月のは、不成功に終ったのではなかろうかとに 問題にならないくらいお粗末であることでレオーノフの宇宙遊泳以来 ( ポスホート二らんでいる。 ( このあと十一月七日の革命 わかる。もう一つは、ソビエトが本腰で月号 ) 、ずっとなりをひそめていて、今年四五十周年記念日にも、なにもやらなかっ へ人間を送りこむ準備をしているのかどう月ソューズ一号、やったなと思ったら失た。さすがのソビエトも、かなり高度の技 か、疑わしかった。アメリカが、ジ = ミニ敗。ソビエトも人命の尊重と、電子技術の術開発のために、恒例の記念日打上げのタ 計画で開発したランデブ ー、ドッキングのおくれには、反省するところがあったんだイミングが、多少ずれたのかも知れない ) 技術など、ソビエトはまったく実験したよろ・うな。以来、半年間なりをひそめて、こ いずれにせよ、一八六号と一八八号の間 の方面の改良に力をつくしていたと思われにおこなわれた無人ドッキングは、たいし 成功したソ連の無人ドッキングの模型図 る節がある。 たものであゑ一八六は、一八八の三日前 そして、スプートニク打上げ十周年記念 ( 少くとも、四十八時間以前 ) に打上げら 日の十月四日、なにかやるかと思ったが音れて軌道をめぐっていた。一八八はこれを 沙汰なし、十月十八日に金星四号のニュー追って打上げられており、地上からの誘導 ス、十月末ごろから、例のコスモス衛星のによって、また衛星同士の信号電波も使っ 打上けがいやに、にぎやかになってきた。 てみごとなランデブーとドッキングに成功 するというのは、なみなみならぬ腕前であ 十月二十七日コスモス一八四、一八る。そして、一八六も一八八も、無線誘導 五、一八六号を打上げ。一八四号は、ソ によって地上への回収をおこなって成功し ューズ型の宇宙船らしいと伝えられた。 た。ジェミニのように、人間がのっている 十月二十八日コスモス一八七号打上場合とくらべると、比較にならないむずか げ。 しい技術を開発したのだ。 ソビエトはやつばりすごいものだ、と感 十月三十日コスモス一八八号打上げ。 この技術は、ま 心ばかりしていられない。 一八六号と無人ドッキング成功 十月三十一日コスモス一八九号打上さしく将来、宇宙ステーションを地球周囲 げ。 の空間に建設する際には、たいへん役に立 っ実験であることは疑いない。と同時に、 実におどろくなかれ、五日間で六個のコ地球をめぐる衛星の一部を切りはなして、 スモス衛星を打上げているが、私は、この地上へ落下させるという技術も可能になっ うちの一八六と一八八以外にも、ドッキン たということだ。この数日あと、アメリカ
絶え間なく、数かぎりない人間の思考の断片が、彼女の超感覚をた。 うちつづけ、潮騒のざわめきを奏している。なんの意味も持たぬ騒 音だ。 サイコ・ゾラスター 念爆者を探せ : : : タイガー ・コウの命令は、彼女を自動探知器 に変えた。目標を見出したとき、彼女ははじめて反応をおこす。 タイガー ・コウは苛立ちはじめた。お蘭はいっこうに反応をしめ とっぜん、あいまいなとりとめもない呟きの混沌に、明確な核をす様子がない。空虚な眠を見ひらいて、大理石像のように坐してい 持った思考が浮かびあがってきた。 るばかりだ。もとより彼にはお蘭をめぐるテレバシーの葛藤を知覚 その意識は、はっきりした志向性を持 0 て、お蘭の心に侵してきすべくもないのだった。 テレ・ハシ サイコ・プラスター た。正常人の脈絡を欠いた孤独な思考ではない。精神感応だった。 ほんとうに、 こいつには念爆者を見つけだす能力があるのか ? お蘭と同じ感応者の超感覚の触手だ。 あるいは投与した麻薬の量を誤って、超感覚を麻痺させてしまった テレバシーは、しきりに問いただす感じであった。お蘭はなんののではないか ? サイコ・・フラスター 反応もしめさなかった。その意識が念爆者のものでなかったから執拗に探索行を続けながら、タイガー ・コウはしだいに昻まって だ。意識遮蔽があがりつばなしの彼女の意識の深部へ、超感覚の触くる疑心に悩まされた。 手は浸透した。凍結した記憶をさぐりにかかる。 すでにイオノクラフトは、人口の密集区域に入っていた。高速交 お蘭とテレ。 ( シーによる交信をはかる試みは徒労に終った。お蘭通機関は大量の人間を呼吸し、ビジネス街、劇場や賭博施設、ショ はただ無関心にテレバシーを聞き流した。 ツ。ヒング区域には何百万もの有象無象がひしめいているのだ。地下 テレバシーは一度引きさがり、次はさらに強力な複合体となってから地上数千メートルにわたって構成された都市空間は、脳組織の ふたたび仮死状態の心を叩いてきた。 ようにおびただしいセルの集積なのだ。何十万もの隔壁を透過し 〈眼をさませ ! 〉テレ。 ( シーは叫んだ。〈眼をさますんだ ! 危険て、充満する意識の海水から、特定の一分子をどうやって探し当て がせまっている ! 逃げろ ! 隣りにいる悪魔から逃けろ ! 〉 るというのだ ? たとえどれほど優秀なテレ。 ( スでも、それは不可 〈危険 ! 危険 ! 危険 ! 〉 能ではないだろうか。 テレバシーによる警報は、具体化されたイメージの連打であっ タイガー・コウの自信はぐらっきはじめた。はじめは造作もなさ サイコ・プラスター た。警察、私刑、むごたらしい死。 そうに思えた念爆者狩りも、圧倒的な人間と物質の質感と対決に 警報はしだいに脅迫的な荒々しさをおびてきた。殴りつけるよう及んで、至難なわざに思えてきた。 7 な激しさだ。 6 網状に織りだされたスカイウェイの大量の車群の流れに入りこむ 2 それでもなお、お蘭の凍結した心を呼びさますことはできなかっと、その感じはさらに増幅された。巨大な組織力を持っ警察にして テレスス 3
もの、知的生物のしわざだと考えることだろうー ると、想像力もすっかりお手あげみたいだ」 「宇宙計画の大きなっきあげ要素になるなーーえ ? 」 「こっちだって、はっきりした出発点があるわけじゃないさ。ミッ 「おっしやるとおり、宇宙計画の大きなっきあげ要素だねー クル・フェルからおりたあと、あの荒れ野で起ったことを別にすれ ばな」 ジョンがそれを本気では信じていないらしいのに、私は気づい た。短刀直入に質問を向けると、彼はこう答えた。 「まだあの記憶喪失がこれに関係あると思ってるのかい ? 」 「奇怪な状況に合うように作られた突飛な解釈だよ。だが、これ以「わからないんだ。一つだけ、わかっていることがある。あの十三 あざ 外を考えようとすると、もっと気違いざたになる。要するに、自分時間の空白と、背中にむかしあった斑について思いあたる解釈は、 がどんな立場に立って眺めるかという問題なんだ。今までなかったどれもこれも宇宙生物なんかよりずっとものすごいものだというこ ような出来事が起ると、たいていの科学者はもっとも抵抗の少ない とさ。われわれの持っている概念が、とんでもない方向に迷いこん でしまう危険を感じる」 思考の筋道を辿る。先入観の訂正のもっとも少ない解釈を認める。 ・ほくが今やっているのも、それさ , 「つまり、どんなふうに ? 」 「だが信じてはいないんだろう ? 」私はさらに押してみた。 「普通にあるを考えてみたまえ。その現状を分析してみよう。 「・ほくにとって、ある特定の解釈を信じるか信じないかは、感情とはほかの何にもまして、人間以外の生命形態について関心を示 いうよりも方法の問題の問題だよ。ぼくが感情的な人間だったら、す分野だろう。地球に現在ある生命形態は、もちろん博物学とか動 今きみに話した考えにたぶん全面的に賛成しているね。だが、ぼく物学の領分なので、は空想上の生命形態を扱おうとする。とこ はいつもこういうふうに考える。ある物事がこちらの予想通りに展ろがを読むと、そこにあるものは何た ? 人間以外のなにもの 開したら、もっとも抵抗の少ない筋道に沿って考えをすすめる。こでもないじゃないか。に登場する生物の脳みそは、本質的には こまでは、みんなと同じだ。だが、推論が大きく狂うようだった人間の、のなんだ。そんな脳みそを大きなトカゲのなかに放りこ ら、おかしい点をこう説明する。そもそも発想が正しくなかったんむ。そしていっちょう出来あがりだ。また、トカゲみたいな恰 だと。つぎはぎ仕事はやらないよ、今までの立場をすこしだけ変え好に関心がないときには、ただ人間そっくりの生物のなかに人間の ヒューマノイド ヒューマノイド てすませるようなことはね。ぼくは網をひろげる、できるだけ広げ脳みそを入れて、類人生物と呼ぶ。話を進ませるために、類人生物 るようにする・ は普通、人間より知能が高く、工学技術もより優れていることにな そのころには、ー , 私の目も暗闇になれた。私たちはさっきよりずつ っている。さて筋書きはとみれば、わが愛すべき優秀なる人間種族 と確かな足どりで広い草地を進んでいた。 が、外敵の脅威をいかにまぬがれたかだ。つまるところ、インディ 「あまりしつつこくききたくないんだが、その網というのはどんな . アン対カウボーイの新版だな。 ここから、すこし話はまじめになる。こういう単純な考えが 恰好なんた ? 他の世界の生物以上に常識はずれで奇妙なこととな 303
ケツアルコアトル よ、 0 アステカのように、文化の混合のない場所で育成された宗教は、 この男は、やはり翼ある蛇の神の化身に違いない。もはや 新しいパターンを付加されることがないため、それ自体のなかで複この男を追いはらうことはできまい。このうえは、客分としてでき 雑で難解なものに変わ 0 ていく。人身御供の儀式は、複雑化した宗るだけ丁重に扱い、怒りをやわらげるべきであろう。 教が、ひとつの典型として作り出した極端な例である。アステカを モンテスマは、簡単な挨拶をかわすと、スペイン人を、首都テノ テスカトウリポカ インティ 支配する墳煙の鏡の神は、インカの太陽神と同じく太陽を象徴とすチテイトランの市中〈案内するよう命じた。 るものでありながら、ある意味では軍神であり、闇の神でもあると人口三十万の大都会は、スペイン人の眼を見はらせる広壮な眺め う多様性をそなえている。人間を犠牲にするのは、ささげた心臓だ 0 た。田舎貴族の = ルテスはもちろん、 = ー 0 , パを転戦したと の血をエネルギー源として、神々が宇宙をうまく支配するように、 自慢する部下のアル。 ( ラードさえ、これほどの大都会を見たことが 便宜をはかるためである。 ないと驚嘆するほどであった。 この日も、コルテスと会見するまえに、モンテスマは、十数人の テ・ノチテイトランの島の中央には、神殿や宮殿が立ちならんでい 捕虜を犠牲にささげ、まだ見ぬ異国人との会見に禍なきよう、神に た。当時のヨーロッパには、これに比肩する大都会は、僅かにコン 祈ってから出かけたのであった。 スタンチノー。フルひとつに過ぎなかった。たかだかセビリアやカジ ししゅう モンテスマは、金糸銀糸の刺繍のある緑の羽毛の天蓋の下で、二 スのような、地方都市や漁港都市を見かけたくらいのスペイン人の 人の貴族に腕をささえられ、堤道をすすんでいった。 経験では、この大都市の規模は、まったく予想できないほどのもの 天蓋の四隅につりさげられた、鳩の卵ほどもあるエメラルドが であった。 陽光を受けて輝いた。だが、宝石を飾ったモンテスマの靴は、いっ スペイン軍は、軍神ュイチロポチトリの大。ヒラミッドを挾んで、 はすかい もより重かった。 国王モンテスマの宮殿と斜交の場所に、宿舎として豪壮な邸宅を与 ケツアルコアトル 海の彼方からやってきた白い人は、はたして翼ある蛇の神の化身えられた。この建物は、先王の宮殿として使われていたものであ であろうか ? モンテスマの念頭には、この疑問だけしかなかつり、ただ古いというだけで、規模や設備の点では、現在モンテスマ が使用している宮殿に、優るとも劣らない豪華さを備えていた。 やがて、堤道の彼方から、スペイン人の一行が近づいてきた。白宮殿は、火山岩をモルタルでかためたプロックを、高く積みあげ ケツアルコアトル い肌と黒い髭は、伝説に伝えられる翼ある蛇の神そっくりである。 て造られ、石火を塗って仕上げられ、清潔そのものである。花園や モンテスマのそばに近よったコルテスは、うやうやしく一礼して噴水で飾られた建物のなかには、浴場も完備している。 から、王の両肩をかかえ、親愛の情をこめて抱きしめた。 この宮殿の西側に、恐ろしい軍神ュイチロポチトリの大ピラミッ モンテスマは、感じた。これまで、偉大な王である自分に、これドが、そそり立っている。この。ヒラミッドは、チョルーラのそれよ 0 ほどなれなれしくした人間はいなかった。だが、決して悪い人間でりはるかに大きく、一辺の長さが五百メートルにも達し、頂上に こ 0
ある。 で、そういってしまってから、ますます不機嫌になった。以前は、 他人の言ういや味のために不機嫌になったものだった。いや味をい 「流刑といっても、時間的空間的意味での流刑ではありません」局 サイコ・ドラマ う人間を馬鹿だと思い軽蔑した。顔つきはあくまでにこやかに、し長は法務官にそう説明した。「いわば心理劇による精神的流刑で かもへらへら笑いながらいや味をいう人間には、殺意さえ感じたもす。われわれにとっては今後の役にも立つアクション・リサチと のだった。だが、彼らにいや味を言い返せば、自分を彼ら同様のと いえましよう」 ころにまで落しめることになると思い、面と向かっていや味を言わ被告席・・・・ー・テレプロセッシング・システムの装置の前の、照明体 れても黙っていた。だが最近、それでは駄目なのだということに気を内蔵した丸いネサ・ガラスの台の上に立っている四人の被告を指 がついた。驚くべきことだが、いや味をいうような人間は、喋りなさし、局長はさらに言った。「彼らの精神機構は、ほんの少しの刺 がらも、自分ではそれがいや味だと気がついていないのである。だ戟で心因性反応を示すほど融通性がなく、しかも感情転嫁が激しい からこそ、相手を傷つけても平気なのだ。自分もいや味を言おうー のです。四人とも二十世紀人ですから、快感原則のすべてを現実原 ー紺野はそう決心した。やっと得た地位を維持しようとすれば、世 則に向けて内部改造をおこなう方法を知りません。だからこちらで モティベーション コソコミタント・セン 間とはっきあっていかなければならなかった。世間とのつきあい 動機づけしてやり、コン。ヒューターと彼らの大脳を共感覚 セーション・システム ー紺野にとって、それはいや味の応酬を意味した。 機構で接続してやり、あとは彼らの自由連想にまかせ、時折 「何か用があるのか」と、紺野は男に訊ねた。 り経過を見てはその因子分析をし、さらにまたこちらの思う通りの 「紺野正治さんですね」 刺戟をあたえてやればよいのです」 紺野はあわてて読んでいた週刊誌を机に伏せ、じろじろと男を眺被告席をはるか十メートルほど下に見おろす、デトリオ効果を使 め、警戒するような口調で答えた。「そうですが、何か。あなたは った法務局ドームの内壁の法務官席で、法務長官は唸るような声で どなたです」 局長に訊ねた。「その間、彼らの肉体はどうするのですー 「わたしは蒸発屋ですーと、男はいった。 「大脳をとり出した彼らの肉体は、もちろん、『眠りの星』の南半 蒸発屋ーー・実は時間管制第三十二局長ーーーそれは、のちの紺野た球で冷凍にして保存しておきます , ちの局長だった。 当然、その刑には刑期というものがなかった。刑という一一一一口葉から コ はあまりにもかけ離れたものだった。永久に近い時間というもの、 あの局長は、まったく何を考えているのかわからない男だ ンはいつもそう思う。眼は青味がかった黒眼で、常に何か眼の前に絶対に卒業証書など貰えそうにない、一種の教育だったのである。 ある物体を睨みつけているように見える強い視線の持ち主だった。 3 法務官により、死刑を言いわたされたコンたちの弁護をしてくれ 一同が盗賊たちの本拠から宝を奪い、桃太郎の邸へ戻ってきてか 7 て、流刑というアイディアを法廷へ提出したのもこの男だったのでら五日経った。衣類や武具を売り払うでもなく、大判小判で豪遊す