ゲルセン - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1968年3月号
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1. SFマガジン 1968年3月号

だした。なんと、この爺さんは、デビイ・クロケットである。最近かの間違いじゃないか。だいたい、予言者なんてものは、白髮をポ リ。 ( イルで封切りした、ジョン・ウェイン主演のアラモの砦、あウ、ボウ生やして、曲がった杖でもついているものと、相場がきまっ ている。 の映画にもでてくる。 ーゴーも好きだし、 ・ほくは、そんな年齢じゃない。まだ若い。ゴ 盟主ゲルセンとザルム教導師は、妙ちきりんな質問に目を白黒さ ス。ハイダースやタイガースだって知ってるし、それに、スビードに せている。 も興味がある。もっとも、平井和正に言わせれば、それは、もうす 「クマ ? すると、絶減した哺乳類ウルスのことか」 ぐ三十になるので、必死になって若いようなふりをしているだけ 「たぶん、そうでしよう」 ・ほくは、ふきだしたくなった。ウルスというのは、クマの学名でで、空しいあがきだというのだが : それとも、マクルーハンかなにかと間違われたのかも知れない。 ある。この三十一世紀人たちは、僅か三つでクマ退治、というデビ イ・クロケットの歌を知らないのだ。この爺さんは、宇宙人と言わ「あの偉大な予言の書について、お話をおききしたいので、まず れても、。ヒンとこないらしい。ゾンダール星人の科学力がどうのこは、こちらへ」 二人の未来人は、先にたって歩きだした。キツネにつままれたよ うのといっても、さつばり判らない。もっと身近な例で、クマとく うな気持だったが、とにかく、ぼくは二人のあとから、ついて行っ らべてどっちが強いかのほうが、すっと重要なデータなのである。 「たしかに、肉体的な能力は、クマのほうが、ゾンダール星人より 大広間をでると、そこからスライド・ベルトがつづいていた。べ 優れている , ろいろなに、よく やっと、盟主ゲルセンが答えてやると、爺さんは、ヒゲだらけのルトウェイ、自走路、動路などと呼ばれ、い 登場する例のやつだ。どんな材料でできているのか、さつばり判ら 顔をクシャクシャにして笑った。 「そうかい、そんじや問題はねえ。おら、やつらと戦うだ。な、みないが、とにかくここにあるべルトウェイは、新宿地下街と 0 デ。ハ なの衆、力を貸してくんろ。うんだば、そんな化物野郎なんそ、び ートのあいだに申しわけ程度にこしらえてあるやつより、文句なし とひねりだ」 に立派だった。 デビイ・クロケット爺さんは、ラッパ銃をたたいて、うけあっ ベルトウェイの終点にある一室に入ると、盟主ゲルセンとザルム 盟主ゲルセンとザルム教導師は、あっけにとられて、目を白黒さ教導師は、うやうやしく椅子をすすめてくれた。ソフアにくつろぐ と、テーブルの真ん中がひらいて、マジックハンド : せていたが、やがて、ツカッカと・ほくのまえに歩みよった。 似た香りのいい飲物を、・ほくたちのまえにおいた。ちょっと子供だ 「二十世紀の偉大な予言者よ , 呼びかけられて、ぼくは、びつくりした。予言者だって ! なにましだが、こんな便利なことはない。 女房とケンカをして、いつも こ 0 4 6

2. SFマガジン 1968年3月号

ちかい服装だった。 れた知識を理解していないらしい。もっとも、地球が丸いことすら 「過去からやってきた諸君、わたしは、この三〇二三年の地球連盟判らなかった時代の人間に、宇宙人の侵略だと言ってみても、判ら の盟主ゲルセンです。あなたたちをお迎えしたのは、すでに催眠教ないのが当然なのだが : ・ そのくせ、当人は、しかと相判ったと 育器でご承知かと思いますが、この地球を侵略しようとしている異か言って、大見栄をきっているのだから、始末がわるい 星人と戦ってもらうためです」 ローランの言葉がおわるかおわらないうちに、うしろのほうにい 盟主ゲルセンの言葉は、ちゃんと日本語にきこえた。どうしてだ た別の騎士がおどりだした。この男は、革の肩当てと胴鎧をつけ えん ろう ? ・ほくが、ちょっと疑問に思うと、自然に解答が、・ほくの表て、ローランをハッタと睨みつけて、偃月刀を引きぬいた。 層意識に浮かびあがってきた。ぼくは、時空転移装置によって、こ 「おのれ、アラーの御教えに従う人々を悪口いたすと、そのままで の三十一世紀に連れてこられた。そのとき、三十一世紀の公用語をは捨ておかぬぞ」 ジンギスカン はじめとして、ここにいる種々雑多な人間の言語を、子の虎の巻の催眠教育にきいてみると、この騎士は、成吉思汗と戦っ 形で脳細胞に注入された。ぼくが、この新しい言語能力に慣れてい たホラズム王国のジェラル・ウッディンという王子である。そんな ないため、インディアンが日本語をしゃべったりしていると、不自ことなら、なにも催眠教育でおぼえた知識をひつばりださなくて 然に感じているのだが、実際は、インディアン語で考えたことを一一一も、《モンゴルの残光》を書いたとき調べたことがあるから、ぼく にも判っている。 十一世紀語になおして喋っているわけである。と、催眠教育で覚え た知識が、教えてくれた。 盟主ゲルセンと、もう一人のザルム教導師という男は、あたふた そのとき、ぼくたち棺桶組のなかから、一人の男がすすみでて、 とあわてるだけで、なにもできない。二人の三十一世紀人は、騎士 盟主ゲルセンにむかいあった。全身を鎧にかためて、大剣を腰につ同士が対決しはじめる場合など、、予測もしていなかったのだろう。 けている。どうやら中世の騎士らしい。ぼくは、催眠教育で得た新「ザルム教導師、はやくも、この始末だ。早くなんとかしてくれ。 しい記憶に、この騎士の正体をきいてみた。騎士は、シャルル大帝この過去からやってきた野蛮人どもは、残酷な殺しあいをはしめる の臣下のローランだった。ぼくは、以前、マガジンに、当時のつもりだぞ。ああ、なんという野蛮なことだ、なんという残虐なこ とだ。だから、はじめから、私は反対したのだ」 英雄叙事詩を茶化して、騎士ローランの悪口を書いたので、内心ビ クビクしていた。 盟主ゲルセンは、ブルブルふるえながら、頭をかかえた。指導者 「お話のむき、しかと相判った。して、その侵略者とは、イスラムらしくもなく臆病な性格らしい 教徒の豚めらであろう ! 神とシャルル大帝の栄光にかけて、拙者「盟主、この計画は、私が立案しました。過去人たちは、われわれ は、誓って侵略者と戦うであろう」 三十一世紀人が、とっくの昔に失ってしまった、闘争本能を持ちあ 騎士は、大剣をぬいて、さしあけた。どうやら催眠教育で与えらわせています。そうでなくては、役にたたないのです」 2 6

3. SFマガジン 1968年3月号

そこへ侵人してきたのが、強敵ゾングール星人だった。この節足 「おお、やめてくれ、もうたくさんだ、やめてくれ」 ずいぶん頼りない指導者だ。盟主ゲルセンは、頭をかかえたま動物の化物たちは、肥沃な植民星をたくさん持っている、この地球 に目をつけ、大挙して押しよせてきたのだった。 ま、泣きだした。 そのとき、もう一人の鎧武者が現われ、騎士と王子のあいだに分地球では、宇宙航空士階級が、一致協力して敵にあたることにな り、あらゆる宇宙船を総動員して、一大決戦をいどんだ。だが、ゾ けいった。 「待たれい、ご両所。いましばらく、盟主ゲルセン殿とやらの言葉ンダール星人にもかなりの打撃をあたえたものの、地球の宇宙戦隊 は、あえなく壊減してしまった。 を、聞いてみようではないか ? 」 鎧武者は、小柄だが、威風堂々として、二人の騎士を圧倒する気この三十一世紀では、宇宙をまたにかけて活躍する宇宙航空士階 品をもっていた。調べてみると、この男は、源義経だった。しまっ級と、地球のドーム都市で安全を保証されている一般市民階級と こ、・ほくは、この義経の悪口も、マガジンに書いたことがあは、まったくかけはなれたものになっている。 る。こんなに立派な男だとは知らなかった。悪いことをしてしまっ いまや、地球に残されたのは、ひとかけらの闘争本能も持たな い、温順な市民階級ばかりになった。この羊のような人たちには、 どうやら、義経の説得が効を奏して、二人の騎士は、しぶしぶ過強敵ゾンダール人と戦う気力はなかった。自動生産機構が、壊減し 去人の列にもどった。 た宇宙戦隊を再建し、たくさんの宇宙船が出発を待っていたが、そ やっと胸をなでおろした盟主は、数百人の過去人を前にして、説れに乗りこむ搭乗員が、もはや見あたらなかったのである。 明をはじめた。 盟主ゲルセンは、説明をつづけた。 催眠教育でうけた知識と重複している部分があるので、・ほくに ここは、三十一世紀の地球連盟の首都テラボリス。緑地化された かってのタクラマカン砂漠のまんなかにあるドーム都市のなかであも、よく判った。 る。 その時、一人の男が、三十一世紀人のまえにとびたした。背のた 科学文明の進歩によって、地球人類は、巨大な自動供給機構をもかい初老の男で、鹿皮の服をきて、頭に洗い熊の毛皮の帽子をかぶ って、銃身のながいラッパ銃をもっている。 っドームのなかで、なに不自由なく暮らしていけるようになった。 その男は、片手をあけて挨拶した。 宇宙旅行の技術もぐっと進歩して、アルフア・ケンタウリ、シリウ 「ハオ ! おら、むかしインディアン・スカウトをやってた時分の ス、プロキオン、タウ・ケチなど、 ()n でおなじみの比較的ちかい 恒星系は、地球人の支配下におかれた。 癖でな、こうやって挨拶しねえと、気がすまねえだよ。ところで、 もう二百年ちかくも、天下泰平がつづいていて、地球人類は、すあんた、ゾンダール人ちゅうのは、熊より強えだか ? 」 つかり平和に慣れきっていた。 ぼくは、その爺さんを見つめながら、与えられた記憶をひつばり こ 0 3 6

4. SFマガジン 1968年3月号

んでおいた」 ぼくは、参謀に任命され、長官の作戦に協力することになった。 盟主ゲルセンは、ふりむいて、ドアのほうへ手をかざした。する偉大な予言者だと思われているのだから、待遇は悪くなかった。 と自動ドアがあいて、一人の偉丈夫が入ってきた。 ぼくは広大なドーム都市テラボリスの一角に住まいを与えられ 全身を白い軍服につつんで、腰に軍刀をさげている。ぼくは、ど た。この住まい 的にムードをだすためには、フラットとか こかで見たような顔だと思ったが、よく思いだせなかった。 この エレクトローボとか片仮名をつかったほうが良さそうだが 「司令長官、作戦は決まりましたか ? 」 場合には、住まいとしか呼びようがなかった。・ ほくが住むことにな 盟主ゲルセンが尋ねると、司令長官は、書類の東をテーブルにおったのは、王朝風の古色蒼然たる・ ( ロック建築だからである。 いて、カづよい声で喋りはじめた。 三十一世紀、天にとどくようなメカニックな塔がそびえたち、超 「いかにも。あらゆる資料を検討した結果、とるべき作戦はただひモダンな = アカーが走りまわり、メタリックな金属繊維のファッシ とっしかないことが、判明しました。ゾンダール星人と地球の工業ョンを着た人たちが行きかう そんなでおなじみの光景は「 ひが 生産力を比べると、彼我の差は、十対一になります。すなわち、遅どこにもなかった。 れれば遅れるほど、われわれに不利となります。わたしはゾンダー 二十世紀から三十一世紀まで、約千百年間。このあいだに、人類 ル星人の基地となっているレグルース第三惑星を、奇襲攻撃するこは、建築や乗物やファッションなどあらゆる人工造型物のデザイン とを提案します」 に関して、ありとあらゆる。 ( ターンを使いつくしてしまったのであ る。 「それで、成算は ? 「成功する確率は、三割しかありませんが、不肖、この山本、全力二十世紀にも、すでに、これに似た傾向があらわれていた。乗用 をつくすつもりです , 車のデザインは、大同小異の四灯型フラット・デッキ・スタイルに びつくりして、なにも言えなくなった。・ほくの目のまえおちつきかかっていた。また、テレビ界の少年番組の製作者たち で喋っているこの人物こそ、連合艦隊司令長官山本五十六元帥だっは、怪獣の次は何がきますかねえという言葉を、挨拶がわりに使っ たのである。 ていた。 流行というものは、ありとあらゆるパターンの浪費であり、パタ 司令長官に任命された山本五十六元帥は、一九四九年、プーゲン ーンが浪費されればされるほど、ひとつのパターンの寿命が短くな ビル島上空で、ライトニングに待伏せされ、愛機一式陸攻もろり、そのサイクルが短縮される。つまり流行のパターンは、イタチ ごっこの自転車操業になりさがってしまうのである。 とも、南海のジャングルに散華したことになっている。だが、元帥 は、この三十一世紀の高度の科学技術によって蘇生され、対ゾンダ 三十一世紀になるまでに、、 しろいろなパターンが生まれては消え ール星人作戦の指揮をとることになったのである。 た。二十世紀において、観念的に未来のものとして考えられてい

5. SFマガジン 1968年3月号

ア入テロイド こんなわけで、とにかく、ゾンダール星人迎撃のための準備は、 しかも、章害物として運ばれた小惑星。 ( ラスは、小惑星シップに 着々と進められた。レグルース第三惑星を奇襲する、宇宙船隊の編改造される時、おもいきって要塞化されている。ここに籠城したの 成ができあがるまえに、ふたつの作戦が実行にうっされた。 は、デビイ・クロケット、ジム・プーイ、トラヴィス大佐などの勇 ゾンダール星人の根拠地から、太陽系まで一度だけリープ航法を士である。ご存知アラモの砦だ。もっとも、このアラモの砦には、 まさつら つかってやってくるためには、あるルートをたどらなければならな楠木正行などという関係のない人間も、籠城していたのであるが : いのだというリー 。フ航法をおこなうためには、ほかの天体の重力 くぎ 場の影響をうけてはならない。だから、ひろい宇宙のなかでも、考こうして、ゾンダール星人の主力が、宇宙空間に釘づけされてい えられるルートは、、 力なり限られてくる。 る間に、山本五十六元帥の率いる宇宙連合艦隊は、直線コースをた そこで、太陽系へやってくる敵の船団をくいとめるため、ス。 ( ル どることをやめ、はるかな宇宙空間を迂回して、レグルース第三惑 タ王レオニダスが、宇宙船団をひきいて出発していった。 星にむかって出発した。 このルートに、太陽系から小惑星。ハラスを運んでいって、障害物ぼくは、この奇襲作戦に同行することになった。ぼくの乗組んだ にする。そこまで、リープ航法でやってきた敵は、リー プ航法をやのは、司令長官が搭乗する旗艦ヤマトである。 めて、小惑星。 ( ラスを回避しなければならない。そこを狙って、敵・ほくたちの宇宙艦隊が、地球から二十。 ( ーセクほど離れた時、地 船団をくいとめるのである。 球に残してきた盟主ゲルセンから、「ニイタカヤマノ、ポレ , の信 スパルタ王レオ = ダスは、ベルシアのダリウス三世の大軍が、ギ号が送られてきた。盟主ゲルセンは、われわれの艦隊が出発してか リシアに侵入した時、僅か三百人の手勢を率いて、テルモビ = レのらも、局部恒星系の他の知的生命を通じて、ゾンダール星人との和 あり ゾンダール星人は、地球に太陽系以外 狭隘を守った。右手が海、左手が崖という立地条件を利用して、レ平交渉を続けてきた。だが、 オニダスと部下たちは奮戦し、全員討死した。だが、レオニダスがのすべての惑星から退去することを要求してきた。かれらの要求 時をかせいでいる間に、アテネ、スパルタ、コリントなどのギリシは、大阪城の外堀を埋めるに等しい。とてものめない要求である。 ア同盟軍は、戦力を増強し、マラソンの草原で、ベルシャ軍を敗走しかも、かれらは、艦隊の一部を地球にむけて送りだし、遭遇した させた。 レオニダスの一行と戦っている。 この宇宙のテルモビュレでは、リー プ航法を中止して、進路を変っいに交渉は決裂した。 もはや、攻撃するほかはない。ぼくたちの宇宙艦隊は、ゾンダー 更してくる敵の宇宙艦隊が、レオニダスの宇宙船団におそいかか ル星人の基地へむかって、一路つきすすんだ。 る。だが、 先に到着した宇宙船がっかえているため、さすがのゾン ダール人も、 いっぺんに全船団でレオニダスの一行を、もみつぶすレグルース第三惑星の大気圏外で、ぼくたちの宇宙艦隊が、 ことはできない。 プ航法をやめて、だしぬけに実体化すると、敵は大混乱におちい 3 7

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0 イ / 第を気 を思いだした。二人とも、かろうじて腰のあたりだけを覆う布きれをつけていた。あまりメチャ メチャな服装がまかりとおっているので、あのもっとも簡単な布きれが、この時代の公式な服装 ということになっているのだ。われわれの礼装であるモーニングは、もともとフロックコートか ら派生したもので本来はヴィクトリア朝時代の礼装である。それなら、古今東西を見わたせ かみしもながばかま ば、上下に長袴でも、羽冠りにフンドシでも良いわけで、統一がっかない。だから、あの簡単 な服装が、いちばんの礼装ということになる。 ぼくは、作戦のうちあわせのため、盟主や教導師の住宅へも行ってみた。 盟主ゲルセンは、少女小説が大好きで、いつも涙ぐんでいた。その住宅は、テラボリスの はずれにある広大な城で、人工の湖のそばに立っていた。湖には、ロポットの白鳥がい て、その背中のボタンを押すと、美しい王女にかわるというシロモノだった。 ザルム教導師は、学者肌の男で、プラスチックの象牙を組みあわせて、塔をつくって住 んでいた。ふだんの時、この男は、房のついた角帽をかぶり、長いガウンを着ていた。 そのほか、テラボリスの中には、平安朝の邸宅あり、モンゴルの天幕あり、インカの 宮殿あり、クロマニョンの洞穴あり、さまざまな時代と地域の住宅が、メチャメチャ に建っていた。 過去から呼びさまされた人たちにとって、それがかえって好都合だったようで、そ れそれ、たいした抵抗もなく、この三十一世紀の生活をうけいれ、ゾンダール人と の戦いに没頭できたようだ。 ・ほくは、軍師というにはほど遠いが、とにかく、こういった環境に適応する能力 は、案外すぐれていたようだ。さっそく参謀として動きまわりはじめた。 参謀というと聞こえがいしが、早くいえば雑用係である。・ほくは、さまざまな 時代からやってきた過去の英雄たちの不平不満をきき、その対策を考えてや らなければならなかった。 ここにいる英雄たちは、それそれの属する時代において、死亡したことに なっている。もともと死すべき人間なのだから、ここにいるのは、言って みれば人生のおまけのようなものである。だから、かれらは、なにかとい ォルド

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「ばか野郎、気をつけろ ! 」 るだろう。 ダンプの運ちゃんは、大声でわめいてから、車を動かした。 ぼくは、盟主ゲルセンのところへ行った。「二十世紀に帰してく そうだ、ぼくは、三十一世紀から戻ってきたのだ。きっと、時空 ださい」 「いやいや遠慮なく、この時代に滞在してください。あなたは、今転移装置によって、もとの時間に送りかえされたのだ。 ・ほくは、うしろの車にフォーンを鳴らされていることに気づい 回の勝利の功労者なのですから・ : この未来人は、まだ、・ほくが遠慮していると思っている。べつにて、エンストしたエンジンをかけた。二本の排気管から、チューン ノイズ 謙譲の美徳を発揮しているわけじゃない。ほんとうに帰りたいだけアップしたぼくのグロリアのエキゾースト音が、ここちよく湧きあ なのである。 がってくる。 「ぼくは、まだ、マガジンの原稿を書いていません。・ほくが原ぼくは、おもいきり、アクセルを踏みこんで、車をスタートさせ 稿を書かないと、予言の書は、後世に伝えられなくなるんですよ」 「なんですと、予言の書は、まだ書かれていないと ? それは、困 る。あの書が、この時代に伝わらぬとなると、ゾンダール星人と戦渋谷の契茶店カーネギー・ホールに入ると、眉村卓氏が待ってい う方針がたたなくなるのですぞ」 いつも深刻な顔をしていた た。を連載していた時は、 盟主は、ほんとうにびつくりしたようだ。「方法は、ひとっしか が、さすがに肩の荷がおりたのだろう。とても機嫌がよかった。 ありません。・ほくを二十世紀のあの時間にもどして下さい」 「今度の上京は ? 」 「仕方がありませんな。ほかの過去人は、もともと天の世界では戦 「第二短篇集のリストを持ってきたんです。あれから短篇がたまり 死しているはずですが、あなたは違う。よろしい、お帰ししよう ましてね、七百枚ちかくあるんです。 0 が終って、ほっとし 未来人は、やっと承知した。 ましたよ。長篇を連載していると、やけに短篇のアイデアばかかり 浮かんできて、困るんです」 眉村さんは、嬉しそうである。きっと、連載を終って、短篇を書 けるのが、たのしくて仕方がないのだろう。とても仕事のすきな人 ぼくみたいな怠け者は、眉村さんを見習わなければいけない。 学習誌の編集者を待っているという眉村さんと別れて、ぼくは、 カーネギー・ホールをでた。 早川書房について、福島さんとあって、原稿の相談をする。 「こんちくしよう、どこに目をつけてるんだ ! 」 ぼくのすぐまえに、巨大なダンプカーが、急停止して、運転手が ー・ミラーが、あと十センチくらい どなっている。左側のフェンダ でダンプの前輪にぶつかるところだった。 「ここは、どこだ、いったい、どこなんだ」 6 7

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ぼくのほうが折れるのは、チョンガー時代みたいに、一人でメシのとやらいう言葉が、道徳の規範となっていたのだそうですが、ここ 仕度をしたりするのが嫌だからだ。こんな重宝な機械があれば、ぼでは、その必要はありません」 くだって、もっと強気になれる。 。しろいろなことを言って、相手に判らせようとした。だ 「あなたが書かれた予言の書は、われわれにとって大変に貴重なもが、二人の未来人は、ただひたすら、ぼくの態度の奥ゆかしさをほ のです」 めたたえるばかりで、いくら知らないといっても、ぜんぜん信用し ザルム教導師は、そう言いながら、一冊の本をとりたした。・ すいてくれない。 ぶん古いものらしい。野田宏一郎氏のアパートの壁という壁、空間「仮りに、・ほくが知っているとしても、そのゾンダール星人に対す しくらなんでも変じゃありませ という空間を占領している。 ( ルブマガジンより、ずっと古めかしくる対策まで論じているというのは、、 見える。 んか ? 」 「いや、すこしも変ではない。われわれは、宇宙航空士階級が最初 ・ほくは、その表紙をじっと見つめた。マガジンという字が、 かろうじて読みとれる。三月号というナイハーも判る。一九六八年の戦闘で全減して、まったく絶望していました。そのとき、この予 の三月号だ。 言の書は、天の啓示のごとく、われわれのとるべき方法を教えてく ぼくは、びつくりした。この本は、千百年も後の時代まで保存されました。時空探査針で、時空連続体に穴をあけ、そこから、時空 れていたマガジンなのである。古・ほけて、いまにも。ハララに転位装置をおろして、過去の英雄を、この時代に連れてくるので なりそうだが、これでも、保存がいいほうなのだ。残っているだけす。あなたの予言の書は、過去を乱し時空エネルギーの歪みをつく りだすことのないように、過去の歴史において死亡する運命にある でも、奇蹟に等しい 「この雑誌のなかで、あなたは、三十一世紀にゾンダール星人の侵英雄のみを、選ぶようにと教えています , どうやら、・ほくにも、判りかけてきた。 略がはじることを、予言された。しかも、あなたは、その対策に ついても、論じておられた」 あの大ホールの。フラスチック棺桶のなかにいた英雄豪傑たちは、 盟主ゲルセンは、意外なことを言う こんなわけで連れてこられたのだ。ジェロニモ、ローラン、ジェラ ル・ウッディン、義経、デビイ・クロケットなど、いずれも志なか ・ほくは、知らない。ほんとうのところ、なんにも知らないんだ。 ゾンダール星人という名前だって、ここへ連れてこられて、催眠教ばにして死んだ人たちである。これらの英雄豪傑は、戦死した際 に、時空転移装置によって、ここへ連れてこられ、高度の医術によ 授とやらいう方法で、はじめて教えこまれたくらいだ。 「いや、これは、なにかの間違いです。ぼくは、知らない。なにもって傷を治癒され、催眠教育の知識を与えられ、ここに蘇ったので ある。 知らないんです」 「いやいや、ご謙遜には及びません。二十世紀の頃は、謙譲の莞徳「さらに、戦闘の指揮者も、あなたの予言の書の指定によって、選 5 6

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た、おなじみの銀色のメタリヅク・スーツも現われた。いかにもアルフア・ロメホ・グランスツルの再登場などが、大きな話題を 的な、海上都市群の巨大な支柱に懸垂された、蜂の巣を思わせるよんでいた。今にして思えば、この現象なども、カーデザインの。ハ 住宅群も現われた。 ターンが出つくしたため、必然的におこってきたものとも考えられ テクノロジ だが、人類のイマジネーションは、科学技術の進歩には、とてもる。 サイバネーション イノベーショソ ついて行けなかった。高度の自動管制化によって、技術革新が進め念のため、新知識をひつばりだしてみると、フェンダーからへッ ドライトがとびだしたクラシックのカーデザインは、四十年あまり られたが、それは、もはや人間の関知しないところでおこなわれ る、あらゆる物質生産の自動的なプログラムでしかなかった。 の循環期周で出現するとあった。 あらゆる流行の。ハターンは、リ・ハイ・ハルもふくめて、全てが図式とにかく、この千百年間に、人類は、リ・ハイ・ハルもふくめて、考 オリジナリティ 化され、消費者の要求するもの、そして科学者が推薦するものを、 えられるかぎりの独創性を、ことごとく使いはたしてしまったので ある。 ことごとく分析した結果によって決定されるようになった。 ミニスカートとロングスカートは、経済学でいうジュグラー・サ そして、この三十一世紀にやってきたのは、古今東西のありとあ イクルの恐慌理論と同じように、ある周期をおいて、交互に流行しらゆる。 ( ターンのミックスした、とんでもない社会だった。それ コソ . ビュータ た。しかも、その循環周期までが、電子計算機によって、厳密には は、オリジナリティを失った人類が、やけくそになって造りだした じきだされてしまったのだ。 模倣、盗用、折衷、融和、同化、混合、そして引ったくりの文化 ミニスカートの周期は三十七年九カ月十一日。つまさきのとがっ た靴は、八年十カ月二十六日。こんなふうに、すべての。ハターン かってのタクラマカン砂漠いつばいに建てられた巨大なドーム。 が、購売心理や生産経済の現象としてとらえられるようになった。 そして、その中枢にあたる連邦政庁の行政区。このなかにある、自 はんすう ぼくは、催眠教育の知識を反芻するうちに、二十世紀において動道路や冬眠センター。そういったものを除いては、ドームの中に も、このような未来社会の現象が生まれる萠芽とな「ていた事例が建てられた住居や、乗物や、ファッションなどは、ことごとく千差 あることに気づいた。 万別、支離減裂だった。 ェクストラボレート 早い話が、カーデザインを見ても判る。以前冫 こよ、アメリカ車と 二十世紀の風俗から外挿しても、なるほど、こんな未来も考 ヨーロッパ車のデザインは、まったく違っていた。ところが、アメ えられるかも知れない。・ほくは、ビートルズとローリングストーン リカ資本がヨーロツ。ハを席捲すると、デザインの融合がはじまっ ズが好きで、よくレコードを買ったりしたが、考えてみると、あの た。そして、またたく間に、四つ眼のヘッドライトをギラつかせ、 ヘアスタイルは、エドワード王朝の小姓のものであり、まさしく、 ノッペリしたフロントデッキの没個性的な車が、あふれたした。 過去のパターンが現在に挿入されたものであったわけだ。 その一方では、幻の名車デューセイ、 、 / ーグのリイ・ハル生産や、 ・ほくは、盟主ゲルセンとザルム教導師にはじめてあった時のこと 0 、」 0 7 6

10. SFマガジン 1968年3月号

ところでその跡継ぎになる〈サイエンス・フィクション・ダイジ ォルニア在住のフォレスト・・アッカーマン ( 今日、世界最大の コレクターとして知られ、また映画や怪獣、恐怖映画の研工スト〉というのがまた豪華をきわめたファンジンであった。連載 コラムに、ファンダムのニュース、作家の動向、ビブリオグラフィ 究家としても有名 ) の映画完全リスト〃の連載であった。こ 、として、 チェックリスト、 r..n 映画展望などがならぶのはいし のアメリカ版の大伴昌司先生、今日も〈フェイマス・モンスターズ ー・ミラー・メリット レギュラーの寄稿家としてスカイラ ・オヴ・スクリーンランド〉などを編集し、自ら〃アッカーモンス タ と名乗るほどのモンスター狂ぶりを示しているが、この時代ディヴィッド・・ケラー、 O ・ >-a ・ムーアなどが顔を見せ、さら の誌のお便り欄にはしげしけと顔を出し、当時からかなりの顔におそれ入ったのは、連載付録として毎号刊行された連作の作 として一目も二目もおかれていたらしい。当時のお便りマニアに者の顔触れである。・・スミス、ラルフ・ミルン・ファーリイ は、他にポプ・タッカー ( もちろんウイルスン・タッカーのこと ) ( ラジオマン・シリーズの作者 ) オーティス・・クライン ( ・ハロウ やジャック・ダロウなどもいるが、これらについてはいずれくわしズの向うをはって火星ものや金星ものを書きまくった作家 ) 、ジョ ミルトン、エアンド・ビンダ く紹介することになる。〈ザ・タイム・トラベラー〉は一貫して大ン・・キャンベル・エドモンド・ 変充実した内容を誇り、今日でも非常に高く評価されている。毎号 ( アダム・リンク・シリーズの作者 ) 、・・ケラー ・・。ハークス、・・プライス の巻頭言で、メンく / ーたるものは必らず、なにか、一筆毎号投稿せ モスコウィッツはこの〈サイエンス・フィクション・ダイジェス よときびしく要求されたが、その声にこたえたものかメン・ハーのつ ト〉をファンダム誌上最高のファンジンだとしているが、どう くったアメージングやウェアード・テールズのインデックスなど、 もこうなってくると、ファンジンの域を出てプロジン ( プロフェッ 今日でもちょっとみられないような労作がいろいろのせられてい ドカハ る。また彼等の手によって、ファンによる初のハ ーの出版ショナル・マガジンの略 ) でも通用しそうな感じがしてしまう。 が行なわれていることも見逃がせない。グレーザーの『金星の洞窟 〈ザ・タイム・トラベラー〉から〈サイエンス・フィクション・ダ 人』、ワイジンガーの『平和の代価』、メリットの『竜眼鏡の彼方』 ーの一人にチャールズ・ホー イジェスト〉にかけての熱心なメン の三編である。 ニグという少年がいた。若いにも似合わずニュージャーシーの自宅 こうして順調な歩みをつづけたかにみえた〈ザ・タイム・トラベ にはウェアード・テールズの完全揃いを持っているという凝りよう ラー〉だったが、九号の出た一九三三年夏にグレーザーがアメージ だったが、その彼が〈ザ・ファンタジイ・ファン〉というファンジ ング上で盗作問題をおこし、これがぎつかけでグレーザー対シュワ ンを発行したのはちょうど〈サイエンス・フィクション・ダイジェ ルツ、ワイジンガーの関係がくずれ、史上初のファンジンはあえな スト〉が創刊された直後のことであった。 くも廃刊を余儀なくされてしまった。 この第一号に目を通していたくおどろき、即座に当時若冠十七才 シュワルッとワイジンガーま、。、 ーマーやアッカーマンなど当時 の大物ファンを糾合して〈サイエンス・フィクション・ダイジェスであったホーニグを編集者に迎えたのがガーンズバックとそのワン ー丿ーズであった。〃 ファンダムのシンデレラ物 ト〉を出すことになるが、いずれにしても、〈ザ・タイム・トラベダー ラー〉が当時のファンダムにのこした影響は計りしれないもの語〃と呼ばれるこの出来事をきっかけに、ホーニグはプロの出版界 に投じることになる。ところがこの彼が、のちにファンを相手に大 がある。アメリカ各地にファン・グループが生まれたのはこの 頃を起点としており、全米的に見たアメリカ・ファンダムの歴戦争をおつばじめることになろうとは当時誰一人予想もしなかった のである。 ( この項未完 ) 史はここに始まるといっても言いすぎではない。 スト 9 8