てつけだ。操縦席は翼の上部の中に作ってある。モーターは前方に みはわしに感謝してしかるべきだよ、デヴィッド」 ヘリーはあくまでによっきりと突き出ている。そして後部には、エンジンと・ハランス デヴィッド・イネスは徴笑を禁じ得なかった。。 も天真爛漫なのだ。 をとるように設計されたとおぼしき長い尾部がある。そしてそこに 「そうだな」イネスはいった。「きみを失望させたくないから、アは、水平安定板、垂直安定板、方向舵、昇降舵がついている。 エンジン ベルシダー最初のガソリン・エンジンーーは第一級 ブナー、ひとっテストしてみるか ただ飛ばないという証拠をき の出来ばえだ。これはペリーの指導のもと、精密機械なしで、石器 みに見せるためにね」 時代の人々がほとんど手でこっこっと作り上げたものだ。 「驚くなよ。揚げひばりさながら天空高く舞い上がるからな」 飛行機を見分し、飛行ぶりを見物するためにすでに大勢のサリ人「エンジンは掛かるかい ? 」イネスが尋ねた。 が、集まっていた。彼らはみな一様に懐疑的だった。だがその理由「むろん掛かるさ」ペリーが答えた。「もっとも、いささか騒々し はデヴィッド・イネスのそれとはまた別のものだった。彼らは航空いきらいはあるよ。それに、いくらか改善の余地はあるがね。それ にしても調子はいいよ」 学に関しては何も知らない。しかし人間は飛ぶことができないとい うことは知っている。群衆の中に美女ダイアンの姿があった。ダイ「そうだといいがねーと、イネス。 . をしし力い、デヴィッド ? こ発明家は尋ねた。 「用意よ、 アンはデヴィッド・イネスの妻だ。 「いいともーイネスは答えた。 「あなた、あれが飛ぶと思いになって ? 」彼女はイネスに尋ねた。 「では操縦席にのぼりたまえ。操縦装置の説明をしてあげるよ。何 「ではなぜ生命を賭けるのです ? こ もかもごく簡単だということがわかるから」 「もし飛ばないのなら危険はないじゃよ、 ・ , しか。それに・ほくが試し 十分後、イネスが、この飛行機の操縦法でわかることは全部会得 らアブナーが飛ぶよ」彼は答えた。 したよ、というと、ペリーは地上に降りて行った。 「みんな、どいた、どいた」。ヘリーはどなった。「今やきみたち 「名誉にはならないわ。だってこれはベルシダーを飛ぶ最初の飛行 機じゃないんですもの。あなたが飛行船だといっていたあの大きなは、まさにベルシダー史における新時代の開幕に立ち会おうとして いるんだそ」 乗り物が飛行機を持って来ましたわね。あれを操縦していたのはジ ェイスン・グリドリーじゃなかったかしら。シプダールが墜落させ 一人の整備員がプロペラのところの位置についた。プロペラは地 てしまったけど」 面からずいぶん上にあるので、彼は特別製の梯子の上に立たなくて 二人は飛行機を入念に調べながら周囲をめぐった。パラシュート はならなかった。機体の左右にそれぞれ一人が立って、車輪の下か に似た単葉の翼の骨組は竹製だった。外皮は大恐竜の腹膜で作ってら車輪どめを取りのける態勢をとっている。 ある。恐竜の腹膜というのは、薄い透明な膜で、この用途にはうつ「始動」ペリーがどなった。 7
「またにきまってるじゃないか。処女飛行の日は、ベルシダー年史を拝見しようじゃないか」 ペリーはせまい格納庫に案内したーーー石器時代のベルシダーには に新時代を劃する日となるんだ。きみの御臨席を仰がずに飛ばすと 妙な取り合わせだ。「ほうら ! , 彼は誇らしげにいった。「あれが 思うのかい ? こ 「そいつはかたじけない。有難く感謝するよ。で、いっ飛ばすんだそうだ。ベルシダーの空を最初に飛ぶ飛行機だよ」 「あれが飛行機かい ? ちっともそれらしく見えないぜ」 「それは、ある種のまったく新しい原理にもとづいているせいだ 「今、たった今さ。見に来たまえ」 よ」。ヘリーは説明した。 「いったい飛行機を何に使うつもりだい ? こ 「爆弾を落すためだよ、きまってるじゃないか。まあ考えてもみた「飛行機というよりか、モーターと操縦席がてつべんについた。 ( ラ まえ、どんなにすさまじい暴威を発揮するか ? そいつが頭上を旋シ = ートみたいだ・せ」 ところが見た わかりがいいねえ、きみは 回する。飛行機を見たことのないここの気の毒な連中が、穴からと「いかにもさよう ! 、ところがあるんだな、これには。きみも知っ び出してくる。そこを想像してごらん。そういう連中がこれで長足目にはわからないいし の進歩を遂げることになるんだよ、考えてもみたまえ ! わずかての通り、飛ぶってことの危険の一つは、当然のことながら落っこ の原理にもとづいて設計 二、三個の爆弾で、一つの部落を吹っ飛ばすことができるんだからちるということだが、こんど。 ( ラシ = ート することによって、わしはその危険を大幅に減少させたんだよ」 ね」 「しかし、いったいどうやって空中にとどまっているんだい ? 何 「一九一八年に終った第一次大戦のあとでぼくが地上に帰った時、 によって浮かび上がるのかな ? こ 戦争に飛行機を利用するという話をずいぶん耳にしたが、その折、 爆弾よりもはるかに大きな被害と死をもたらすという兵器のことも「機体の下に送風装置があるんだ。エンジンによって作動するんだ がね。そいつが〈翼〉の下からまっすぐ上に向けて強力な空気の流 聞いたよ」 れを間断なく噴出するんだ。むろん、飛んでいる間は気流によって 「そいつはなんだね ? 」ペリーは熱っぽい口調で尋ねた。 機体を支えられているわけだ。この点は他のこれほど進歩していな 「毒ガスさ」 「ははあ、なるほど。ま、そいつはあとで考えてみることにしよい設計のものと同様だ。そしてまた送風装置は急速に高度をあげる 助けをする」 「で、きみはそのしろものに乗っかって上がろうっていうのかい デヴィッド・イネスはにやりとした。アブナー ・ペリーほど心の 優しい人間はいないということを彼は知っている。ペリ】の大量殺 ? こィネスが尋ねた。 リ . 1 ー 「どういたしまして。その名誉はきみのためにとっといたんだよ。 人計画が純粋に学問的なものだということもわかっていた。ペ ベルシダーの天空を最初に飛んだ人間 ! き 、、いだろう。きみの飛行機考えてもみたまえー は純粋かっ単純な理論家なのだ。「ま 6
やって避けるか、その機動性を考えてみたまえ ! なんてことをし 「始動」イネスが応じた。 プロペラのところにいた男が。フロ・ヘラを回した。と、エンジンはてくれたんだ、デヴィッド ? 」 「この名誉はすべてきみのものだよ、アブナー。これはきみがやっ 掛りそうに。 ( タ。 ( タと音を立て、ついでばったりと止まった。 いつは驚きだ」イネスが叫んだ。「ほんとうに点火したそ。もう一たことなんだから」 「わしがやったことだって ? そいつはまたどうして ? 」 度やってくれたまえ」 「きみはプロペラのビッチを逆に向けたんだ。この飛行機は後ろ以 「もっとスロットルを開け」ペリーがしった 整備員は再びプロペラを回した。こんどは = ンジンが掛かった。外の方向に進めないわけさ」 整備員は梯子からとびおりて、梯子を引きずりながら離れた。デヴ「ああ、そう」ペリーは弱々しくいった。 ィッドはスロットルを今少し開いた。すると = ンジンは機関座から「それでも動くんだから」イネスは慰め顔でい 0 た。「それに簡単 とび上がりそうになった。まるで百人の人間が百台のポイラーを一に直せるよ」 。ヘルシダーには時間というものがないから、プロペラを改変する 度に製造しているような音がする。 デヴィ , ドは一一人の男に車輪どめを引けとどな 0 た。だがモータのにどのくらいかかるか誰も気にするものはなか 0 た。ペリーと彼 ーの騒音越しでは誰にも聞えない。手を振り、指をさして合図をすの整備員二人を除いて全員が木蔭や飛行機の陰に横になり、プ 0 ペ ると、ようやくべリーが彼の望んでいることを理解して車輪どめをラの。ヒ , チの方向が直 0 たとペリーが告げるまでそうしていた。 ィネスが操縦席につき、整備員が。フロペラを回し、エンジンが始 どけさせた。みんなが目を皿のようにして見守るうちに、デヴィッ ドはスロットルをさらに開いた。 = ンジンの回転が上がった。そし動し、車輪止めがぐいと引きのけられた。 = ンジンは咆哮し、ボコ ただし後ろに向かって ! 飛行機はぐるボコと音をたてて踊った。機体はその震動に合わせて地面から跳ね て飛行機動き出した ! りと回った。そしてイネスがモーターを切ることができないでいる上がらんばかり。ィネスは操縦席の中であんまりはげしく振り回さ れるので、操縦装置に見当をつけることも、その上に手足をのせて うちにサリ人の群衆の中へ突っこむところだった。 いることもほとんどできないありさまだった。 ペリーが頭を掻きかき近づいてきた。「いったい何をしでかして くれたんだね、デヴィッド。きみは飛行機を逆立ちさせるつもりか突如として飛行機は前進を始めた。惰力がついた飛行機は、ペ ーが格納庫を建設するために選んだ長い平坦な土地の上を猛然と駆 け出した。ィネスは懸命に操縦装置に取っ組んだが、飛行機はいっ デヴィッド・イネスは声を立てて笑った。 「何を笑 0 てるんだ ? 」ペリーが問い質した。「われわれは偶然、かな飛び立とうとしない。まるで嵐の海にもまれる船のように跳ね 回るのでしまいには目が回ってきた。と、不意に外皮が啗と化し 気体力学において何かセンセーショナルな発見をしたかもしれない んだよ。前にも後にも進む戦闘機を考えてみたまえ ! 敵機をどう コンタクト
輪が地面に接触した瞬間、大きな衝撃があった。だが少くとも、お 6 りることはおりたわけである。数秒もしないうちに、私の気分は回 7 6 アジタート ( 承前 復した。 私が科学に無知だ 0 たのが好都合だ 0 たのか、そうでなか 0 たの滑走路を走る機のなかで、私は奇妙な考えにとらわれた。もしか か、今にな 0 てもは 0 きりしない。眼前に起 0 た出来事を合理的にしたら、今まで私は夢を見ていたのかもしれない。何の変哲もない 説明するなど、私にはま 0 たくできないことだ 0 た。そんなわけ飛行のあいだ、ず 0 と居眠りしていたのだ。。 ( イ 0 , トが機を最終 で、異様なイメージと奇怪な解釈に頭を混乱させたまま、ひとり取的な停止位置〈と動かすのを見ていると、それ以外のことを考える のはむずかしかった。 り残されることになった。 タラップが現れ、後部ドアが開くまでに、不当に長い時間がかか まるで子供時代のように、十分間は一時間にも思えるほどゆっく った。私たちは立ちあがると、身の回り品をまとめ、いつもと少し りとすぎていき、やがて長い年月がたったころ、頭上にあるス。ヒー も変らぬ様子で通路に行列をつくった。前の人びとがゆっくりと動 カーがカランと音をたてた。声の主は。 ( イロットで、機はアイルラ ンドの西海岸上空を通過し、四十五分ほどで 0 ンドン空港に着陸すきはじめた。一分後には、私は外気のなかに立 0 ていた。若い女の るとっげた。彼の声から溢れでる感情、安堵の様子は、ス。ヒーカー案内で、私たちは待 0 ているパスへとむか 0 た。またしばらく待ち 時間があり、やがて飛行機の乗員たちが合流した。 の荒れた音調を通しても聞くことができた。 出入国管理と税関を通る前に、会議室とか待合室とか、そういっ ロンドン空港は、あらゆる点からみて、正常な活動をしているら しか 0 た。機体の傾きから、降下していることがわかる。月が、下たところへ連れていかれるものと思 0 ていた。だが・ ( スは、空港を に見える雲海に光を投げかけていた。やがて私たちは雲の高さまで出る門のところへ来た。門はあいていた。。 ( スはとめられ、二人の 降り、内部に突入した。。イギリス諸島にいつもかかるあの雲、太陽警官がのりこんできた。私の右側、遠くに見える空港は、何万とい を隠し、見慣れた天色の空をつくるあの雲である。ただ、それは驚う人で埋ま 0 ていた。群衆は何かを待 0 ている様子だ「た。着陸し くほど薄かった。おそらく数百フィートしかなかったのだろう。ふてくる飛行機を見たいのだろう。 まもなく、私たちをハイウェイへと導く交通信号が見えてきた。 いに私たちはその下に出ていた。地上には、無数の光の点があっ スはロ - ンドンの中心部へと走りはじめた。ここもホノルルと同 た。もはや道を辿るのは簡単だった。あまりにも正常なその光景 に、私の心は鋭く反応した。私は慌てて席に戻ると、吐き気のよう様、交通はまばらだった。群衆を避けるため、またおそらく報道関 係者やテレビ・カメラを避けるため、こんな道筋が選ばれたと考え なものを感じながら腰を沈めた。それは、飛行機酔いというより、 安堵による失神に近いものだった。ややあって機がとうとう着陸態ても間違いではないだろう。今までの出来事は、確かに夢ではなか 勢にはいったことがわかった。着陸はうまいものではなかった。庫ったの。
間が決定的にずれている可能性は大いにあるはすだった。 二、三度、超低空飛行をしてみたが、人影は見えなかった。とい っても驚くにはあたらないだろう。飛行機の轟音を聞いて隠れてし アルメニアを経てカスピ海に来た。カスビ海の対岸で、私たちは 目的の一つ、輝くガラスの平原を見つけた。もう一つの境界線は、 まったということは充分にあり得るからだ。西へと帰る道には興味 この近くにあるらしかった。アラル海があった場所のすぐ南で、はを惹くようなものは何も見つからず、私たちはしだいに憂うつにな じめて実際の線を見る機会を得た。海そのものは、痕跡すらなかっ っていった。メソボタミアに、一九一七年の軍隊は見えなかった。 た。機はそこからタシケントとサマルカンドのある南へ向きを変え私たちはパレスチナへと飛んだ。エルサレムを捜すのが目的だっ た。まったくとっぜんガラスが砂に変った。ガラスを作りだす薬品た。これは死海が見つかれば簡単である。死海の北端から、ただ西 がある点まで達したあと、急にそこで流れるのをやめてしまったよへと進路をとればいいのだ。 うだった。あたりは正真正明の砂だけの砂漠だった。 最初の飛行では、死海を見逃してしまった。コンパスだけが頼り 北緯四十度のあたりだっただろう、私たちははじめて人間の存在なので、風のために百マイルぐらいコースがすれる可能性は常にあ する形跡を発見した。大した成果ではない。ときおりごく小さな村るのだ。広々とした水面に出たのは確かだが、地中海であることは が見える程度だった。だがこの地味な発見で、私たちは大きく力を明白だった。そこで南へ曲り、。 ( レスチナの沿岸をエジプトの方向 得た。タシケントがあったはずの場所には、何も見あたらなかっへ飛ぶことにした。飛行は、海岸線が西へと曲るまで続いた。ガザ た。そこで、・ ( グダードとチグリスⅡューフラテスの谷を調べようの近房である。そこからはじめると、簡単に死海は見つかった。私 と、ふたたび西へ機首を向けた。人間の居住地は点々と見つかった たちは、北端から西へと飛ぶ初めの計画を実行に移した。五分ばか が、どれも非常に小さな規模のものだった。いま見おろしている世りの後には、エルサレムがあってよいはすの場所へ来ていた。居住 界が一九一七年のものでないことは、・ ( グダードに着くまえにわかの跡はあったが、これもまたいくつかのあばら家にすぎなかった。 っていた。 紀元前一〇五 0 年ごろ攻め取られたダビデの都市は、そこには存在 しないのだった。ヘブライ人がまだこの土地へ来ていないことは、 ・ハグダードの位置にはーー河のかたちから見て、それは疑いなか この新しい世界 ったーー・あばら家がすこしまとまって存在するだけだった。巨大なそして将来も来ないであろうことは、疑いない。 二つの河の堤でも、小さな集落を発見したにすぎなかった。この地に、キリストは生れないのだ。 域に今まで来たことがないので、私には比較する術もない。だが河私たちは地中海へとびだした。。 キリシャの濃紺の海がすぐに見え の水量は、予期した以上に多いように思われた。。 ( イロットのほうてきた。とっぜん腕を担まれて、私の空想は中断された。 は知っていた。 「おい、あそこを見ろー 「ガンジスの河口みたいに、一帯が泥沼だ。完全に変ってしまって 二万フィート下に岬があり、波がそのまわりに寄せている。その る。飛行艇がないのが惜しいな」 岬に、堂々たる神殿が建っているのだ。たちまち私たちは元気づい 円 8
【まえがき】 デヴィッド・イネスはサリへ帰って来た。一週間留守にしていた のか、あるいは何年もいなかったのか、それはわからない。ベルシ 地球の内部の空洞に、もう一つの太陽の輝く世界があった。 ダーは相変らずの真昼だった。しかしペリーはその間に飛行機を完 その太陽は不動で、したがってこの世界には時間というものが 彼よ鼻高々で、デヴィッド・イネスに見せるのを今や なかった。若き鉱山主デヴィッド・イネスと、老技術者で発明成していた。 , 。 丿ーの手になる地下試掘機の故障遅しと待ちかまえていた。 リーよ、。へ 狂のアブナー 「飛ぶのかい ? 」イネスが尋ねた。 から、はからずもこの地底世界〈ベルシダー〉にやってぎて、 石器時代そのままに大爬虫類や怪獣のひしめく原始世界で冒険「きま 0 てるじゃないか」べリーがびしやりとい 0 た。「飛行機が 飛ばないでどうする」 を重ねることとなった。 「どうにもならないだろうな」イネスは答えた。「もう飛ばしてみ 穴居人の族長の娘、〈美女ダイアン〉を妻としたデヴィッド ール一族を追放したのかい ? 」 は、当時地底世界を支配していた爬虫類マハ て。ヘルシダー皇帝となり、主都をサリに置き、第一副官でサリ 人の〈毛深い男ガーク〉を片腕として、ある時は未踏の大陸を、 海を探検し、ある時は未知の種族と戦いながら波瀾万丈の生活 を送っていた。
冫いたいという気持があった。 タミアからも、通信がまったくはいっていないことが明らかにされまこ 首相は、国民に発表するために出かけていった。放送の時間が来 た。これは早急に調査されることになった。ふたたび石炭へと、エ たときには、一人残らすテレビの前に群がっていた。首相は重々し ネルギー源の大規模な変換が行なわれることは間違いない。だが一 い口調で、事態を正確に明瞭に説明した。私は一般聴視者の反応を 九六六年の石炭のたくわえなど、お寒いものである。それ以上に、 食料の輸入はどうするのか ? アメリカ合衆国とカナダが計算され考えずにはいられなか 0 た。二カ月前なら、完全に狂 0 ていると思 ない今、この問題の簡単な解法はなか 0 た。オーストラリアの事情われるところである。だが今なら、ある程度の心の準備はできてい は、今のところ何もわか 0 ていない。だから食料の点では、まだ対るだろう。前夜、ロンドン空港で見た群衆のことが頭にうかんだ。 蹠地に希望はあるわけだ 0 た。だが、それとて希望にすぎないの私の知るかぎり、あいまいさの解消は、ほかの何にもまして人びと だ。ヨーロツ。 ( の労働力の利用が、明日の世界をつくるための唯一の心に安心感をもたらすはずなのだから。 私たちは、首相の報告に続く番組も見た。いつもながらのねばり の申しぶんない方策であることは明らかだった。戦争が終ったら、 農耕に適するヨーロッパの土地はすべて食料の生産にふりむける必強さで、真相を発見した通信社があるらしい。の放送記者の 要がある。また、中東での石油生産も、これ以上遅らせることはで一団が、フランスへ渡るのに成功していた。よく知っている顔が現 れた。いつものおちついた手際のよさは、そこにはなかった。彼ら きないのだ。 ジ , ンと私がこの絵のなかでどんな役割をはたすのか、私にはよは半狂乱の状態で、イギリス叫とともにイー。フル〈 ~ ギー北西部の都 くわからなかった。九時ごろ、すこしの休息をとるために会議が中戦地。ここで初めにいるのだ 0 た。 断されると、ジョンは私を部屋の隅 , へ連れて行った。首相の承諾を彼らの大部分が陸軍当局によって逮捕されたことを私たちは知っ 得て、世界の調査をはじめる手筈をつけた、と彼はいった。ヨーロ た。だが、彼らの撮したフィルムは、軽飛行機の助けを借りたかど ッ 0 、、、、 , カ一九一七年、北アメリカが一七五〇年なら、地球のほかの部 うかしてフランスから持ちだされたらしい。私にとって、第一次大 分はどうなっているかわからない。 戦は常に、昼間の明るい光のなかで見る悪夢のようなものだったと いえる。だが今、それは悪夢の要素を何一つ失うことなく、しかも 最初の機会にはいずれにしても、長距離飛行用の大型機を使う。 それで着陸できそうな場所を調べる。見つからないときには、あと現実の緊迫感をもって展開しているのだった。カメラは、泥も砲火 、カ は飛行艇を使わねばならないだろう。頼めばすぐに用立ててくれるも死傷者も見逃さなかった。生きているものとのインタービ = ー はずだ。そうなれば水面への着陸は、天候の許すかぎり思いどおあり、地獄の光景を完全なものにした。そして、まったくとっぜ りになる。まさにすばらしいアイデアであり、私としては不満は何ん、それは終っていた。大人らしい分別をもって、は夜間の いっさいの放送を中止すると発表した。今のフィルムに続くもの もなかった。だが一方で私は、ヨーロツ。 ( の状況、その内部の心理 状態に魅了されていた。だから、事態が展開していくとき、そのそが通常の番組のなかにありえようはすはなかった。 円 0
ィネスが烙に気がついたとき、機は滑走路の終りに迫りつつあっ時間というものは意味がなく、水入れを頭にのせて運ぶことによっ た。彼はモーターを止め、ブレーキを掛け、そして跳んだ。一瞬遅て姿勢がよくなるというわけだ。 しかしそれでもなおペリーはやめなかった。彼は絶対に悲観した ーの最新の発明 れてガソリン・タンクは爆発した。アブナー・ペリ りしないのだ。ほとんど年中機嫌がよく、お祈りをしていない時は は煙と消えたのである。 さかんに毒づいている。ディヴ・イネスは彼を愛した。〈美女ダイ アン〉も、サリの王〈毛深い男ガーク〉も同様だった。事実アブナ ・ペリーを知っているものは誰でも彼を愛した。彼のもとで働い アブナー・ペリーの最初の火薬は燃えす、飛行機は地上から離れているサリの若者たちは、彼を尊敬し、さながら神のごとく彼を崇 ・ペリーは非常に幸せだった。 ようとせす、最初の船は進水の際に転覆した。しかしそれでもなおめた。アブナー 飛行機が失敗に終ったあと、彼はここしばらく胸中に暖めてあっ 彼は、運命の女神と〈鉄製もぐら〉が彼を地球の中心にある世界に た別の発明にとりかかった。その結果、何が起るかをあらかじめ知 運んできて以来、非常に数多くのことをなしとげたのだった。 っていたなら、彼としてもおそらくは計画のすべてを放棄したこと 彼は鉱石を発見して精錬した。鋼鉄を製造した。セメントを作っ を製造した。また、サリで石油を発見だろう。だがむろん、彼には知る由もないことだった。 て非常に良質のコンクリート した彼は、それを精製してガソリンを作り出した。また、小武器や飛行機の事件につづいて、デヴィッド・イネスは一隊の戦士をひ 大砲を製造した。金、銀、白金、鉛、その他の金属を発見してこれきいて旅立った。彼が皇帝として選ばれたベルシダー帝国を構成す らを採掘した。たぶん彼は世界中でもっとも多忙かっ有用な人間だる連盟王国のうち、怠慢な数カ国を視察するためた。まず最初にア モズに立ち寄った。アモズは、サリの北東三百キロ、海図のない未 ろう。問題は、石器時代の人々ーー少くともその大部分が、ペリ がこれまで彼らのためにしたことや、してやれることの真価を認め踏の大洋〈ルラル・アズ〉の洋上にある。アモズから九百キロ北東 にカリの国があった。カリは、この方角で今なお帝国に忠誠をつく るだけ進歩していないということなのだ。 彼の手になるライフル銃を持った戦士たちが、戦闘中にそれをほす王国の最後の一つだ。カリの西方六百キロにあるスヴィは、連盟 つほり出し、石斧をかざして敵を追っかけたり、あるいは銃身をひから離脱してカリに侵攻してきた。スヴィの王ファシ = は、以前に つつかんで棍棒の代用にしたりすることもしばしばだった。彼はサ美女ダイアンを捕虜にしていたことがあったが、その行為に対する 報復措置はいまだにとられていなかった。 リの部落の近くにポンプで水を揚げる給水場を建設し、コンクリー 北方に向かう時、このことがデヴィッド・イネスの胸中にあっ ト管を通して部落の中まで送水するようにしたが、それでも女たち ひさご しいことだ。それにたぶ の多くは相も変らず八百メートルも歩いて泉まで行き、瓢に水を汲た。ファシを一度こらしめてやるのも、 んで頭の上に釣り合いをとってのせて帰ってくる。彼女らにとってん、スヴィの王座に誰か帝国に忠実な人物を置くことも。 2 あが 9
ず軍部が立ちあがるものらしい。そんな皮肉な思いにとらわれた。 は、四日前からですよ」 昼食の前にジョンから、キャリフォーニアとハワイで起ったこ驚くのは、今度は相手の番だった。・ と、またアメリカ上空を飛行したときに起ったことの、優れた、的「アメリカ本土との接触が四日前にきれたということかね ? こ蔵相 確な説明があった。彼の話は簡潔で、論理的にも見事に一貫したもがきいた。 のだったので、あいだに意見や質問は一言も出なかった。そして一 そのとおりだと私たちは二人ともこたえた。 同は首相の意見を待った。 「おかしな話だ」 「きみはこのことの解釈もちゃんと考えているんだろう。いま話し首相は指でテーブルを叩いていた。 ジョンは続けた。「それはそれとして、いまヨーロツ。ハの話をさ たのは、事実だけだ。つまり、どういうことなのかね ? 」 「そこへ行くには、まだ早すぎます。弁護士のあいだでは常識みたれたでしよう。あちらは、どうなのですか ? こ いになっている、こんな格言があるでしよう。見解を述べるのは、 「わからないんだ」これは、国防相の返事だった。 証拠がすべて出揃うまで待たなければならない、 という。今まで「アメリカ本土と同じように音信不通だということですか ? 」 は、事実を集めていただけです。あなたがたのほうにも、われわれ「いや、そうでもない。無線の通信がはいってきている。しかし、 あらゆる点でそれがおかしいんだ」 の知らないことがたくさんあるに違いないと思います」 「たくさんあることはあるんだ。だが、どう解釈するかとなると、 「なぜ飛行機をとばしてみないんですか ? 」私が割ってはいった。 わからないとしかいえない。アメリカの状況は、きみが要領よく説首相は二、三秒のあいだ私を見ていた。その黒い瞳には、困惑が 明してくれた。今度は、こちらのことを話そう。われわれの知るか読みとれた。「もちろん飛ばしたさ。だが一機も戻ってこなかっ ぎり、イギリスでは何も変ったことは起っていない。アメリカ本土た」 からの通信は、まったく途絶えた。いまのきみの話からすると、不 この新しい憂うつなニュースを聞いたあと、私たちは昼食の席に 思議なことではないな。ヨーロッパも同じように沈黙していたが、 ついた。タイプされた簡単なメニューが出た。自分の思考に没頭し この二、三時間すこし事情が変ってきた」 ていた私は、重要かもしれない討論にも、ほとんど耳を貸さなかっ . 「いっから接触が切れましたか ? 」 た。私は・ほんやりとメニュ ーに目をやった。それには、九月十九日 「うん、二日ばかり前だね」 の日付があった。もちろん間違いに違いない。話がおさまるまで待 「午後十時三十七分です」 ってから、自分でも馬鹿なことをするものだと思いながら、私はメ 将校の一人がノートを調べていた。どこかおかしいと私は感じニューの日付が間違っているのではないかときいた。質問が些細で た。ジョンも当惑した顔をしていた。 ありすぎたためか、一同の注意がみんな私に向いた。そのまま二、 「では、まだたった三十六時間しかたっていない。われわれのほう三秒が過ぎた。誰もが心のなかで日付を数えていたようだった。や 8
った。さっき着陸にあんなに心配したことを思いだして、私たちは答えた」アメリカ恭消え、ヨーロツ。 : 、 , カ一九一七年なら、こちらは 笑った。何百万平方マイルあるか知れないこの平原全体が、一つのウェーベルンやシ = ーンベルクよりはるかに進んでいるわけだ。あ 理想的な飛行場なのだった。 とはイギリスの音楽家を皆殺しにして、図書館をみんな破壊するた 太陽が西に低く傾くにつれ、肌寒さが増してきた。離陸の前に、 けで、一躍名声を築ける。そういう考えはおかしい、と私はいっ 食事することにした。短い議論があった後、食事は外ですることに た。今の時代が要求しているのは、叙事詩的な様式で、抽象主義で なった。食物は乗員がハシゴ伝いに手渡しした。まもなく私たちは はないんだ。それは、また彼をいつもの笑いの発作に陥れた。 サンドイッチと熱いコーヒーに舌つづみをうっていた。私たちは機「なるほど、例のケルンのあれのリ・ ( イ・ ( ルを狙ってるわけか」 のまわりを最後にもう一度散歩した。十五分後には、機はうかびあ考えていることはそれ以上だが、たしかにその線だと私はいっ た。事実、私の頭は湧きあがってくるアイデアでいつはいで、それ がった。そして太陽の方向へ向きを変え、帰途についた。 地球の自転に追いつける速度で飛んだので、太陽は西の空の同じを書きとめる瑕が翌日できたのを喜んでいるくらいだった。 位置からほとんど動かなかった。雲がぼつぼっ現れはじめ、やがて アレックスがテレビを見ているあいだに、私は夕食を作った。そ 下方の景色を厚く覆った。一時間半後、私たちは東部ドイツの上空のあとは、二人で見た。は大挙してフランスに渡ったらしか にいた。下では盛んに通信がとりかわされているに違いない。それった。首相が、フランス首相ムッシュー・ブリアンと会見した、と はどんな内容だろうか、どんな外交的手段がとられているだろう彼らは伝えた。報道に見るかぎり、フランス政府の態度はかたくな か。そんな思いが、私の心をよぎった。 で、国家としての面目をたてることを主張していた。つぎには、ド ドイツの政治家、外交官。第一次大戦の終結を支持す ロンドン空港に着陸したのは、六時ごろたった。私たちは記をやイツ政府がキ = ールマン る国会演説をしたため、最高司令部に忌まれて辞職し カメラマンに取り囲まれ、窒息死させられそうになった。警官の一 た。一八匙 = ) なる人物を外相として 0 ンドンに派遣したという = = ー 隊が道を作ってくれた。この新世界の奇怪な様相は、報道員たちもスがはいった。戦場でのイギリス軍の司令官は、すべて一九六六年 見て知っているはずである。だが、私たちがそれ以上に奇妙なありの将校に置きかえられ、塹壕からの総撤退の準備がすすめられてい えないニュースをたずさえて帰ってきたことに、誰一人思いあたつるということだった。 ていないらしいのは、おもしろいことだった。 さて、ここで私の経験はひとまずおくことにして、フランスの戦 整備の都合で、翌日すぐには飛行機を探検の旅に出せないことが況が、トラン。フの積木みたいに一挙に崩れてしまった経緯を、耳に わかった。その晩は、ロンドンのア。 ( ートに泊ることにした。帰っしたままに綴ることにしたい。はじめは民衆自身、つまり戦闘に従 てみると、アレックス・ハミルトンがテレビにかじりついていた。事していた一般兵士から。一九一七年のこの数カ月間、彼らは奇妙 状勢を知っていたら話せという。私はさしさわりのない程度に少しな心理状態にあった。塹壕を現実世界として、故国の生活を非現実 9 話した。そして彼の意見を求めた。おもしろいじゃよ オいか、と彼は的な夢として見るようになっていたのだ。平常の世界から地獄へ踏