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検索対象: SFマガジン 1968年4月号
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1. SFマガジン 1968年4月号

チチマルシ = は艇長をうかが 0 た。艇長はむぞうさにかぶりをふたはだかのからだは、着陸晞の衝撃に対してもっとも安全な位置に 固定された。 「手術のじゃまになる」 つぎに少女が手術された。それを手伝いながら、チチマルシュが チチマルシュは、きくとすぐに、少女をまるはだかにし、ついで しー その金髮を手早く切りとった。 「便利な医療器具ができているものですね。片手でもてる大きさの 「きみたちを助けようとしているんだ」 セットで、こんな大手術が可能とは : とくに後の処置が実にう 彼の手はつぎにリアディーの上着にかかった。リアディーは電源まくできるようになっている。出血もほとんどない。もっとも、こ を失った自動人形のようだった。 の際血の一滴もむだにはできない。なるべくならし・ほり出して捨て - ・ またたくまに準備が完了した。艇長は、ことの手順を説明した。 たいところですがね」 艇長のかわりに、パイロット席のタンが応じた。 「辺境探険用には欠かせないセットさ。毒虫にやられたときなん トカゲ か、自分ひとりで即席に手足を切り離さなければならない。 ういうことのために、実によく 「不要物を遺棄すべき時間は十五分後にせまっている。そして、実が尾を捨てて逃げるみたいにね。そ 行はなるべく時間ぎりぎりがいいだろう。基地に着くまで体力がもできている七ッ道具だよ。このセットのおかげで生命をとりとめた たないと困るからだ。それから、手術のトップはむろん密航者だ。先輩の話をよく聞かされたもんだ。足の指をつかって両腕を切りお 女は二番めにする。つぎがチチマルシ = で最後をタンにする。タンとした豪傑の話なんかな」 チチマルシュは、あいかわらずの冷静さで、少女の脚をうすい膜 は、逆噴射の直前まで操縦装置を見守り、自分の番がきたら、すべ につつみながら、 てをひとりでやらなければいけない。そのかわり、肉体的な損害は 最小にする」 「おれが、この切られた腕や脚をみて感じるのは、どうしてこれら ホータブルのディス 艇長はそれから、さらに詳細な手順をたてた。そして、指示どおが燃料に変換できないのかーーーということだ。。、 り、時間どおりことをはこぶことを、全員に誓わせた。 ポーザーみたいなもので、つぎつぎに液体燃料に変えて、ロケット リアディーが、まず簡単なマスクで顔を覆われ、麻酔をかけられのノズルから噴き出させれば、ずいぶんと効率がいいんだが : ・ た。全身麻酔のため急速に意識を失っていく、このおろかな密航者まのところ、それには大型の装置が要るようだな」 ホムンクルス に、艇長のレーザ・メスがあてられた。 「小人間の話を知っているかね ? 」タンが、むこうをむいたまま 両腕と両脚がまたたくまに切断され、その跡には、発達した医学で、話題を転じた。声がふるえていた。「うすぐらい実験室の蒸溜 がもたらした簡便でしかも効果的な後処置がなされた。四肢を失っ器の中から、錬金術士の手によって生まれてくる、恐るべき小さな 6

2. SFマガジン 1968年4月号

も、やはりナマの部分も必要なので、最後の何日間かは、マストの 折れたヨットで、実際に太平洋を漂わなければならない。あんたの が、指令書のゼロ点からスタート 仕事は、帆をうしなったヨット し、北赤道海流に流されたことにして日本に接近したのち、黒潮お西太平洋上のささやかな島のひとつ。 どる中で救助船に迎えられるまで、お客のおもりをすることだ」 委任統治国をどうロ説いて借り受けたのか知らないが、金と技術 「ぼくは公園のポートも漕げないんだぜ」 のカで岩を削って固め、強引に作りあげた滑走路とサービス施設。 「関係ないさ。いつもと同じだよ。安全システムは完成してるん「こらええ。こら凄い。本物の漂流や ! 」 急速な暮色の中、いちど。フロペラ機に乗りかえて島に運ばれ、実 コミ = ニケーターは・ほくの手のうちの指令書をゆびさした。「そ感装置にかかってから、踊るような足どりで港へおりて来た中年紳 いつにもくわしく書かれているが、浮上部分はみじめなョットで士ーー、坂本氏は、あわれな姿で浮かぶョットを一目見るなり、奇声 も、実は無人操縦機構をそなえた高速の原子力潜水艦でね、ソーナをあげた。「今のつづきそのものみたいな船やないか ! 」 ー連動暗礁回避装置や乗員自動救出装置などもついている。さら「アホとちゃうか、。 ( , 小学校五年生ぐらいの、すばしつこそうな息子がわめく。「あれ に、こちらからは偽装されたアンテナを利用して船の位置を確認す はポロみたいやけど、本当はごっつい高性能船やねんで。ぼく、 るいっぽう、航路のフィード・ハックもおこなう。つまり、あんたは 漂流と潜水航行のスイッチを切りかえるほかは、お客に、大変なこ映画で知ってるわ ! 」 とになりました絶望ですとわめいていれば、それで消費カードの残「やめなはれ . 高が増えるというわけだ」 痩せた坂本夫人が、鋭く制した。「夢は、こわさんほうがよろし おます。わてらはほんまに漂流しとりますんやでー 「おえらがたのロ真似はやめてくれ」 「急いだほうがいいぜ。あと三十分で、そのゼロ点に連絡するわが坂本氏は、太鼓腹をゆすって吠えるように笑った。 「そゃ。ママのいうとおりや。せつかく高い金払うとるんやさか 社の定期ジェット便が出る」 現実を思い出したらえらい損や」ペこりと、ぼくに頭をさげ それから、退屈そうに、きまり文句をつけくわえた。 「汝は、ガーディアンとして、服務規程を遵守し、顧客の心胆を寒た。 「ほたら、カーディガンさん」 からしむべく、誠意と熱情をもってサービスすることを誓うか ? 」 「ガーディアンや、 「よいよ、、 誓います」 「ーーよろしゅう願いまっせ」 まったく、よく出来た船だった。ここへ来る前に指令書を読んで 9

3. SFマガジン 1968年4月号

平凡な、やせ型のこの青年の顔には、三人の聞き手の胸中を察してり やすく話そう。話すだけで、もう規則違反なんだが、わたしは話 いる様子は、まったくみられなかった。 すことにする。 「この艇がどんな目的をもっているか、知っていてもぐりこんだの「知っていると思うが、われわれの母船は、最新型の超空間基幹航 か ? 」 路用宇宙船だ。ス。ヒードは光速に制限されないし、千人をこえる人 艇長は冷たくきいた。リアディーは、ふしようぶしようといった間を運ぶことができる。しかし、欠点もある。それは、小廻りのき かないことだ。だから、航路に沿って位置する惑星に用事ができて 語調で、こたえた。 「緊急の場合に発進する、緊急発進艇でしよう ? 『ー 8 』にも、ちょっと立ち寄るーーーというわけには、とてもいかない。それ 急用ができたので、母船から離れたんです。でも、その急用がどんがさほど急を要しない用件の場合には、ローカル線がある。しか なことかは知りません。整備員の友だちから教えてもらって、格納し、人命にかかわる緊急事態の場合には、間隔のあいたローカル線 庫にもぐりこんだだけなものですから : : : 」 を待つわけにはいかない。そんなときのために、緊急発進艇〃コン 「格納庫の入口になんと書いてあった ? 」 ドル号〃が備えられているのだ。この艇は超空間を飛ぶようなエネ ルギーは、とても持ちあわせていないが、手ちかの惑星に着陸する には便利だ。むろん、母船を出てしまうと、あとからそれに追いっ 「いってみたまえ」 くことはできない。次の便をまって、ひろってもらう以外に方法は 「ーー立入禁止ーーとありました。でも : よい。しかし、人命にかかわる用件が生じれば、そうせざるをえな 「罰則は知っているのかね ? 」 いのだ。それが、わたしたち三人の仕事なのだ。 「よくは知りません。でも、ふつうは一週間とか、一カ月とか、そ 冫ししが水に乏 の船で働けば、許してもらえるんでしよう : 「惑星『ー 8 』は、景色はきみのいったようこ、 艇長は、黙想しているチチマルシ = に、「計算してみてくれ、念しい星だ。したがって、有毒の海や大気や地殻から、飲料水をはじ めとする水をつくりだす、給水装置はなによりも大切なものだ。そ のためだ」と命令すると、からだをちちめてひたすら下手に出よう としているリアディーと、心細げにふるえている少女ヒルを、すぐの給水装置が、予備も含めて故障してしまったのだ。貯蔵されてい アストロノート れた宇宙飛行士が危機に見舞われたときに必ずみせゑ沈着さと激た飲料水をいくら節約してつかっても、つぎのローカル線まではも / / し O が発せられた。″コンドル号みは、『ー 8 』に 情との入りまじった眼差しで見すえ、そしていった。 「ここにいる連中はみんな、きみたちふたりも、われわれ三人も、住む二十名の生命を救うために、修理器具ともてるだけの飲料水を サプ・スペース・シップ 同じ超空間宇宙船ーーっまりこの〃コンドル号の母船ーーの住人積みこんで、母船をはなれた。われわれ三人は、遊びに行くのでは だった。みんないっしょに地球に帰る途中だった。ちょっとまえまない。人を助けに行くのだ」 では、伺じ鉛の仲周だったんた。から、んとうのことを、わか「それはよくあかっています」リアディーが口をはさん「にく スペア 8 7

4. SFマガジン 1968年4月号

「とにかく誰かに起る運命だったのさ」。ハ ートランドが哲学的ない ったからだった。 い方をした。「ところで、今のところは、段階的な接触手段を追わそうしている間も、故国からのニ = ースは次第に悪いものになっ なくてはならん。もし尺ポットを村に連れこんだら、ちょっとしたていた。ここ、宇宙のはしにいるという遠隔感が、その衝撃を弱め 騒ぎになってしまうだろうー てはいたけれども、それは彼らの心の中に重苦しくのしかかり、時 には空虚感が彼らを圧倒するのだった。いつなんどき、ぎりぎりの 「それは」と、アルトマンがいった。「ずいぶんひかえめな表現だ ね。われわれのしなければならないことは、住人の一人をつかまえ窮地に追いこまれた帝国から、その最後の資源を招喚するための呼 て、われがわれが友交的であることを証明してみせることだよ。ロびもどしの信号が送られて来るかもしれないことを、彼らは知って いた。しかし、その時が来るまで、彼らはまるで純粋な知識のみが ポットを隠すんだ、スリンダー。みつからずに村を監視できる森の 中の適当な場所にかくせ。これから一週間、人類学を実地に勉強す問題であるかのように、仕事を続けるのだろう。 るんだ」 着陸して七日目、彼らは実験の準備を終えた。今では村人たちが ートランド 細菌テストに船を離れても安全たという結果があらわれたのは一一一狩に行く時、どの道を通るかを知っていた、そして、 日後だった。そうなってもなお、・ハ ートランドは自分一人で出かけは他より往来のすくない道の一つを選んだ。それから、彼は道の真 ることを主張したーー一人といっても、立派なロポットのお供を無ん中にどっかりと椅子をすえ、本を読むために腰をおろした。 言うまでもないことだが、それはロでいうほど簡単なことではな 視した場合の話だが。 こういう同僚といっしょにいる限り、彼には ートランドは予想できるすべての予防措置をおこたら この星の大きな獣を怖れる必要はなかったし、一方、微生物の方かった なかった。ロポットは五十ャードほど離れた下ばえの中にかくれ、 は、彼の体の中の持ちまえの抗体が面倒をみてくれるはずだった。 すくなくとも、分折装置はそう彼に請け合ってくれたーーそして問望遠レンズを通して監視していた、そして、その手には小さいが致 題の複雑さにもかかわらず、彼らは驚くほど間違いを犯すことがな命的な武器がにぎられていた。宇宙船からロポットを操縦している スリンダーは、鍵盤の上に指を止め、必要になるかもしれない事件 に対処すべく待ちかまえていた。 彼が一時間ほど、外で用心しながらも楽しい時を過している間、 仲間たちはうらやまし気にそれを見ていた。・、 , ートランドの実験に以上は計画の否定的な面であった 1 ー・肯定的な面はもっとはっき りしていた。バ ートランドの足もとには、さい角のある動物が横 参加しても安全であることが確証されるのは、あと三日待たねばな らないはずだった。その間、彼らはロボットのレンズを通して村をたわっていた、それはこの道を通る狩人のための格好の贈り物にな 監視したり、カメラにおさめることのできるすべての物を記録したるようにと用意されたものだった。 りすることで結構忙しい時をすごしていた。夜、宇宙船を森の奥に 二時間後、服に装備してあるラジオがひくい警報を告げた。血管 隠すために移動させた、準備ができる前に見つけられたくないと思 9

5. SFマガジン 1968年4月号

いんだ。三十パーセント程度は捨てる計算をしたんだから [ 艇長は蒼白な顔でうなすき、メスをとりなおすと、脚の残った部 分をえぐりとった。 チチマルシュがすむと、こんどは、逆上した表情のまま凍りつし リアディーじいさんは、今日も、せまいべッド・ルームの壁にむ たような奇妙な姿勢で倒れている、タンの四肢が切りとられた。胴 かって、その話をはなしていた。若者たちが聞いてくれる時間は、 体はテープで床に固定された。 ますますみじかくなってきていた。この頃では、日に一度、申しわ 艇長はさいごに、・自分自身にとりかかった。最小限の選択性の麻け程度に顔をみせるだけだった。じいさんは不満だ 0 たが、それで 酔処置をすると、まず右脚を切断し、つぎに左腕を切った。それかも、ほかの老人たちにくらべればまだましというものさーー・そう自 ら、顔をしかめて少し考えると、一本の腕と一本の脚で、そこにあ分にいいきかせては、のこりの時間を独りで話しつづけた。 るすべてのもの、腕や脚や通信機や少女の ( ンド・ ( ッグ、排泄物や「手術がはじまってからあとの話はな」じいさんはぶつぶっとつぶ 嘔吐物を、超人的な努力で = ア・ロックへ押しやり、そして、ボタやいた。「ーーみんなずっと時間がたってから、テレビだの雑誌だ ンを押した。艇のゆっくりした廻転の遠心力によって、それらはは のをとおして知ったことなんじゃ。だが、そのときの雰囲気は、じ じめのうちはひとかたまりになったまま、それからしだいにばらば つによくわかるんじゃ。気を失っていたとはいえ、その場にころが らになりながら、虚空にただよい、散っていった。 っていたんじやからな、このわしは : 。とにかく、艇長と機関士 アストロノ それをすますと、艇長はエア・ロック用の。 ( ネルに身をつけた姿はえらかったよ。宇宙飛行士のかがみみたいな人物だった。いまで つわもの 勢のままからだをテープで固定し、右の手で左脚を切った。それは、ああいった人間味のある強者は、すっかりいなくなってしまっ を、手術用のセットと一緒に、ただ一本の手で宇宙へ捨てた。おど たなあ。えーー五人はそれからどうしたって ? うむ、このわしが ろくべき精神力でそれだけやってのけると、艇長は意識を失った。生きながらえているくらいじやからな、艇長もほかのふたりの乗組 手足のないからだで、横になったまま見守っていたチチマルシ = の員も無事じゃったよ。『ー 8 』のドクターが必死で腕をふるつ サ・フ・スペース・シップ 眼が、はじめて、瞑想から解きはなたれたようにギラギラと輝い たし、つぎの超空間宇宙船でも、当時の医学のすべてを傾けて英雄 たちを治療した。わしもそのご相伴にあずかった。みんな最高級の その直後、逆噴射がはじまった。自動着陸装置は、忠実に働きだ電子式の義肢をつけてもらい、生体内反応の補助コントロール装置 した。チチマルシュの計算どおりに、艇は減速をはじめた。 ()5 が増を備えてもらって、ほとんど普通人とかわらない活躍ができるよう 加し、ただひとり意識を保っていたチチマルシュの口からきれぎれになった。三人の乗組員は、緊急発進艇にこそ乗らなくなったが宇 5 のうめき声がこぼれた。 宙局の重要なポストについた。タンだって同じことじゃ。あれか 8 ら一度も逢っていないが、義手、義足の大変な進歩と医学の発達 7

6. SFマガジン 1968年4月号

「出ていきたくても、いかれませんやージョウは言った。「まった「わし自身、罪を犯さずに、どうしてきみを助けられるんだね ? 」 ひきだし ヘンドリックスは机に歩み寄り、抽斗をあけて、黒い表紙の小さ くの文無しなんでね。あんたがたの (-)A< の制度のおかげで、 e は職らしい職につけないんでさ」 な帳面を取り出した。「こいつでも見るかい ? この中には、ニュ ーヨークの住民で、まだ適切な保護措置の講じられていない人間の ヘンドリックスはポケットに手をつつこみ、数枚の紙幣をひつば姓名、住所が洩れなく記載されている。そうした保護措置の講じら アイ これは り出して、つきつけながら言った。 T ほれ、金なら貸してやる。借れていない人間を、われわれは毎週のように発見するが われわれの防護装置の盲点だ。発見ししだい、すぐにも強盗防止装 用証書にサインして、ときどきすこしずつ返しそくれりやいい」 置を取り付けるようにし・ているが、なにしろばかでかい都会のこと ジョウはその金を、払いのけるように手を振って、「それより、 どし、ときには仕事を片づけるのに何日もかかることがあるんだ。 ちょっとした好意を示してくれりやいいんだ。ちょいとおれに罪をナ しっそうした連中のだれかが強盗に きせてくれないかね ? そんなにおれがうるさかったら、どんな罪「ぐずぐずしているあいだに、、 押し入られんとも限らん。だが、わしにどうすることができる ? でもいし おれに有罪のレッテルさえ貼ってくれればーー」 この帳面をきみの鼻先につきつけて、『さあ、ジョウ、好きな名前 「それはためだ。犯しもしない罪状で人を犯罪者扱いすることは、 をえらび出して、そいつのところへ強盗にいけ』とも言われんし まぎれもなく市民権侵害で、それ身体、犯罪になってしまうわー な」へンドリックスはカのない笑い声をもらし、「そんなことをす 「ふうむ」 いつまでもでれば、わし自身が罪を犯すことになる ! 」 「どうして無料の精神治療を受けないんだ ? いることはあるまい。無料で治療を受ければ、心理学者の先生がき彼は帳面を机の上に置き、ポケットからもういちど ( ンカチを引 つばり出して、顔の汗を拭った。「ちょっと失敬する。咽喉がかわ みの犯罪性向をきれいさつばり取り除いてーー」 いて死にそうだ。隣りの部屋に冷水器があるのでね」 「あの脳天修繕屋へ行って、腑抜けになれってのかい ? 」 ジョウは隣室との境のドアが警察部長の巨大な背中の後ろで閉ま ヘンドリックスはふたたび肩をすくめた。「好きなようにするん るのを見た。ヘンドリックスはーー・信じがたいことだが、 1 ー犠牲と だな」 なる相手を提供してくれたのだ、犯罪の機会をそれとなくあたえて ジョウは笑って、「あんたらのがそこまで万能だってんな ら、どうしてむりにでも、おれをそこへ行かせられないんだい ? 」くれたのだー ンヨウはほとんど走り寄るように机の側へいき、帳面を開いて、 「市民権の侵害になる , なにかあるでしよう、おれを助け一人の姓名と住所をえらび出し、記憶した。ジョウ・グラリュース 「そんなもの、くそ喰らえだ , 二〇四号。 二一四一番地、アパート る方法は。おれたちはおなじことを望んでるんだ。おれが有罪と認キー、オレンジ・ストリート ヘンドリックスがもどってくると、ジョウは言った。「ありがと められることを、二人とも、望んでるんだ」 3 3

7. SFマガジン 1968年4月号

欠落が示される。といっても、きわめて漠然とした意味でしか、活装置類の力をかりねばならないからだ。増幅された思考は手に入っ 動の質の違いは表現できない。むろん、対比グラフや、いろいろ統たが、分析ができないんだ。 それをやりとげるだけの敏感さと精密さを備えた単一の装置は、 計的な方法でそのデータを分析すると、たとえば初期の精神異常の 診断もできる。だが、それだけのことにすぎなかったーーわれわれただ一つあるー、ー別の人間の脳だー 私は手を振ってさえぎった。 がこのペンタゴン病院で研究をはじめるまではだ。 われわれは浸透と誘導のビックアツ。フを改良し、脳内のあらゆる「そろそろ、わかってきた。つまり、読心機械を作ったというんだ 既知の部分を探査できるまで、選択性を鋭敏化した。目的は、心像ろ ? 」 「それ以上のものだ。こないだのテストで、助手のひとりが極性反 を作り上げる何百万もの小さな電流の中から、判別可能な。ハターン つまり周波数ーー・を、うつかりして上げた。その をみつけることにあった。つまり、もし被験者がなにかをーーーたと転のスビード えば数字でもいし 頭に思いうかべた場合、装置はそれにしたがとき、ぼくは分析医として付きそっており、被験者は麻酔にかけて って反応し、被験者がその数字を思いうかべるたびに、おなじパタあった。 ーンがくりかえされるだろう、というのだ。 患者の思考の鈍いうわごとを『聞く』かわりに、・ほくはとっぜん むろん、われわれは失敗した。脳の主要部分は単一体として働くその一部になりきってしまった。患者の脳の内部に入ったわけだ。 ので、簡単な心像にしろ、複雑な心像にしろ、一部分だけの責任とまったく悪夢の世界だった。相手が明晰な思考者じゃないだけに いうことはありえず、つねに一部分の活動が、ほかの部分に活動をな。その中で、自分の個性だけがはっきりわかる : : : 麻酔からさめ 誘発するのだーーー自動的な刺戟と関係する部分は別だがね。だかると、患者はぼくにつかみかかってきた。ことわりなく、彼の心に ら、さっきいったパターンを手に入れるためには、何千もの。ヒック踏みこんだといってな。 マーシャムの場合は話がべつだ。彼の昏睡中の夢は、むかし読者 アップが必要になる。そんなことは現実には不可能だ。それはまる で、セーターの毛糸の切れはしを顕微鏡でのそいて、そのセーター に対して彼が創造してみせた夢の世界とおなじように、細密で迫真 的なのさ」 の色や模様を言いあてようとするようなものさ。 私はいっこ。 逆説的にいえば、うちの機械は選択性がありすぎるともいえる。 われわれに必要なものは消息子ではなく、思考パターンを作り出す「ちょっと待った。なぜきみがのぞいてみない ? 」 スティーヴ・ブラキストンはにやりと笑い、大きな灰色の目から 無数の電流に同時に反応する、包括的な場だった。 そうした場はみつかった。だが、それはなんの前進にもならなか私に高圧電流の一撃をよこした。 った。ある意味では、出発点に逆もどりしたともいえるーー・なぜな「理由は三つだ。まず、ぼくのような、彼の夢想する種窺のものに ら、場がピックアツ。フしたものを分析するには、何千という複囃なぞっこん惚れこんでいる男だと、その世界に同化されてしまう危険 9

8. SFマガジン 1968年4月号

が供給される現在、いかに大な電力を要する試みも幻想的ではな分の壁とちがって、そこだけは埃りもつもっていなければ染みも汚 くなった。の各種装置を作動させるに必要な電力は、納税者れもなく、塗りたてのようにきれいだった。建物はぜんたいに古 一人あたま、年平均四ドルの負担しかあたえず、いっぽう装置の発 く、ホールがばかにだだっ広いところからみて、持主はどうやらホ 明改良製造に要する費用は、さらにすくなくて済んだのであった。 ールを壁で仕切って、そこに一つ、新しい部屋をつくったものらし 持主がもしこの新設の部屋を法律の規定にしたがい登録したと そしてまた、 0 は市民一人々々の心に直接訴えかけることに より、社会そのものを通じて、犯罪に攻撃を加えた。どこの都市にすれば、の夜盗防止装置に電線が通じていたはずだが、それ がそうでないとすると、あきらかに取りつけの費用を惜しんだのだ 出かけても、「犯罪は不浄なりーの文字をあらわすネオンサインが またたき、見るものの潜在意識に働きかける。ラジオを聴いたり、 テレビを視たりしているとき、ふと局名を耳にしたとすると、その部屋はいやにこじんまりしていて、ジョウははいってからドアを 人間はかならず識閾下に「犯罪は不浄なり」の言葉を聞くか、見る閉めるのに、片がわにからだをよけなければならなかった。室内は かしているのだ。散歩やドライプに出かければ、やたらに目につく寝台と椅子と鐘付き箪笥がかろうじておさまる程度の広さしかな のは「犯罪は不浄なりーのポスターで、これがまた意識の奥に忍びく、 独り者の男が夜きて寝るだけならとにかく、正常の人間が毎日 こむ。そして新聞なり雑誌なりをひろげてみても、余白という余白暮すというわけにはいかない部屋だった。 は、「犯罪は不浄なりーの標語の文字で埋めつくされている。 実際に犯行を了えぬ前に見つかってしまってはまずいので、ジョ それは単調な繰り返しで、人はしばらくすると、その言葉を見たウはさっそく簟笥にとりつき、中を引っ掻きまわしはじめた。 り聞いたりしても、ことさらそれについて考えようとしなくなる。 だが年月がたつうちに、それはいつのまにか、潜在意識に刻みつけやっきになって抽斗を掻きまわしたが、下着類と古雑誌のほか、 られ、ついには、犯罪とは不浄と同義語で、犯罪者とは不浄なものめ・ほしいものは何一つ見つからなかった。盗んだものがたとえ下着 だと潜在的に考えるようになるのだ。 や雑誌でも、犯罪はどこまでも犯罪だが、しかし新聞はでかでかと ただし、ジョウ・ ーのような手合はべつ。どんな制度も、皮肉な見出しを掲げるだろう。そうすれば大犯罪者として尊敬され 完全とはいえない。ほかの何千という同様、ジョウはそんなるかわりに、世間のもの笑いになるにきまっている。 二一四一番地の下着類の種み重なった下に懐中時計を見つけたとき、ジョウの苛 言葉など信じようともせず、オレンジ・ストリート カラス蓋が割れ、針が一本なくなってい アパート二〇四号をさがし当てると、金鉱でも相続したような気分立ちはとたんに鎮まった。。 になった。 うまいことにはーーーー ~ 袰芸に、 て、機械は動きそうもなかったが ホールは灯りが薄暗かったが、二〇四号と番号を打ったドアの前 「愛するジョンへ」という文字が刻まれていた。これなら公判は、 まできてみると、両側の壁は真あたらしかった。つまり、ほかの部すっきりしたかたちのものになる。 O << は造作なく持主をつきと 5 3

9. SFマガジン 1968年4月号

出ましよう」 いくと、そこに坐らせた。「いい力い、よく聞きなさい。アレグザ 「落したのかもしれんよ」コールドロンは間の抜けたことを言っ ンダーはだいじようぶだ。この連中は彼を痛い目にあわせはしない て、マッチをすった。うしろの席から、しつ、しっと声がした。マよ」 イラはすでに、大急ぎで通路に出ようとしていた。コールドロン「痛い目にあわせるだと ? ばかな ? 」フィンが言った。「過去で は、場外のロビーで妻に追いついた。 彼を痛い目にあわせたりしたら、未来で彼に生皮を剥がれちまう 「消えちゃったのよ」マイラはまくしたてた。「ノ ・、ーツとね。もしよ」 かしたら、未来に行ったのかもしれないわ。ジョー 、どうしましょ「静かに」ポーデントが命令した。どうやら彼が四人の頭株である う」 らしかった。「あんたがたが協力的になってくれて嬉しい、ジョゼ コールドロンは奇跡的にタクシーをつかまえた。「家へ帰ろう。 フ・コールドロン・半人神にたいして力を用いるのは、わたしの趣 そこがいちばんいそうなところだよ。たぶんね」 味に反するのでね。なんといってもあんたは、アレグザンダーの父 「ええ。もちろんそうだわ。煙草をちょうだい」 親なんだから」 「きっとアパートにいるはずだーーー」 アレグザンダーがむっちりした手をのばすと、旋回している七色 たしかに彼はそこにいた。床に坐りこんで、クアットの実演しての卵泡立て器にさわろうとした。彼はすっかりそれに魅了されてい みせている装置に断固たる関心をしめしていた。その装置とは、四るようだ・つた。クアットが言った。「ぎえりつしゆがス。 ( ークし 次元的付属品のついたけばけばしい色の卵泡立て器で、それが、細ている。デあすていねいとしようか ? 」 い、かん高い声で喋っていた。英語ではなかった。 「早まるな」ポーデントが言った。「一週間もすれば、彼は理性を 夫婦がはいっていくと、ーデントはすばやく制動器をとりだそなえるようになる。そしたらいくらでも進度を早められるんだ。 し、まわしはじめた。コールドロンはマイラの腕をつかまえ、引きさて、コールドロン、どうかくつろいでくれ。なにか欲しいもので もどした。「待て」彼は急きこんで言った。「それは必要ない。わもあるかね ? 」 れわれはなにもしないよ」 「飲みものがほしいね」 ! 」マイラは取られた腕をふりもぎろうとした。「あなた 「アルコールのことだ」フィンが言った。「ル・ハイヤートが言って まさかこの連中にーーー」 るだろ、覚えているか ? 」 「ルバイヤート ? 」 「黙んなさい ! 」彼はいった。「ポーデント、その器具をおろせ。 きみに話したいことがある」 「十二図書館の歌う赤い石さ」 「さようーーもし邪魔をしないと約束するならーーー」 「ああ、なるほど」ポーデントは言った。「あれか。わたしはま 「約東する」コールドロンはマイラをむりやり長椅子へ引っぱってた、 = ホ・ ( の石板のことかと思ったよ、例の雷鳴効果をともなった

10. SFマガジン 1968年4月号

また、わかりにくいものでもなかった。ただ、なんの変哲もない話「出てこい チチマルシュは低い声でいった。中で、かすかにからだを動かす 7 を、いくども繰りかえすのが、いけなかったのだ 気配がした。 「抵抗してもむだだ。そのくらいの分別はあるだろう」 艇長は、眼のまえの計器盤のひとつのスケールをにらんだまま、 たつぶり一分間は動かなかった。部厚い彼の唇は、真っ白になるほ艇長がはげしい口調でいった。それに応ずるように、舌うちが聞 こえ、タンクの陰から、人影が現われた。若い男だった。 ど強く噛みしめられていた。艇長を左右からはさむ形で坐ってい 「わかったよ、出るよ : : : お、おい、おどかさないでくれ ! 」 る、機関士のチチマルシ = と操縦士のタンの顔面も蒼白だった。 どうにでもなれーーー・といったふてくされた調子でしゃべりながら 計器盤のそのスケールの一点にとまっている青白いビームは、こ の三人に、気なぐさみをいう余地などまったくない、冷酷な事実を出てきた、その密航者は、三人の乗組員のブラスターを見て、ギョ ッとしたように棒立ちになった。 知らせていた。 三人とも、熟達した宇宙飛行士だった。だから、事態の異常さと「おい、大げさなことをするない」 重大さには正確な認識をも 0 ていた。そして、それだけに、この段眼をまるくして、おずおずと両手をあげた密航者のうしろを、艇 階にくるまで発見できなかった自分たちの迂潤さに、歯をくいしば長は鋭くにらんで、しわがれた声でどなった。 「ふたりならんで出てこい。ふざけたまねをすると、射殺する ! 」 ってくやんでいたのだ。 つぎの瞬間、悲鳴といっしょに、もうひとりの密航者がとびだ 「チチマルシュ、お連れさんにごあいさっしてくれ」 し、はじめの若い男の背中にしがみついた。 艇長が、感情をおし殺した、しわがれ声でエンジニヤにいった。 やせた、長身のチチマルシの白い肌に、かすかに朱がさした。彼「ピータ ! 」 は無言でうなずくと、腰のブラスターを右手にかまえて、ドアのま声をきいて、三人の乗組員はい 0 せいに身じろぎした。 えに進んだ。彼の目はすでにふだんの瞑想にふける行者のような奥「ビータ、だからこんなこと、よしましよう 0 て、わたし : : : ずい 深い輝きをとりもどしていた。艇長も太りぎみのからだを、ドアをぶんとめたのに : もうひとりの密航者は、女だったのだ。まだ十六、七だろう。小 斜めに見る位置に運んだ。パイロットのタンだけは、座席についた 柄で、すんなりとした手足に、まだ子どもじみた動作がのこってい 冫カかっていた。 ままだったが、これも右手は腰のブラスターこ、 チチマルシ = が、ドアを勢いよくひらいた。なんの抵抗もなかつる、金髮の少女だったのだ。 「なんて、ばかなことを : : : 」 た。ドアの中は給水装置の修理器具一式と、それに飲料水のタンク 艇長が、ブラスターを腰にしまいながら、うめくようにいった。 があった。そして、お連れさんは、その陰以外にひそむ場所はない 「すみません。あやまりますよ。このつぐないは、きっとしますか はすだった。 工ソジニア