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検索対象: SFマガジン 1968年6月号
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1. SFマガジン 1968年6月号

もともと、どうしようというための議論でもなかったのである。 そのテーマは、最近のぼくらの間における、一つの流行にすぎなか った。そんなことは、ずいぶん前から、何百人という人々がいった ニバ . ーシティ・タウ ことだ。 だ : 、ぼくらの世代、そしてヴァージニア大学都 チャーリイを殺す : 市のサティカル・クラスでたまたま一年をいっしょにすごすこと ・た、れ ? ・ になった仲間たちにとっては、それは何度もむしかえしくりかえす 期限は、今のところ、つけない。だがいずれ通告することに ことのできる、新鮮な発見だったのである。 なるだろう。 チャーリイを殺す・ : 人類は、完全じゃない だれだ、君は , こんなことを、今さら、・ほくたちの仲間のいったい誰がいい出し だれでもしし 君たちみんなに、たしかに予告した。 たのだろう ? ーーー今となっては全然思い出せない。だが、誰かがそ チャーリイを殺す : れをいい出した時、それはたちまち・ほくらのお気に入りのテーマに なぜだ ? チャーリイになんのうらみがある ? うらみなそない : ・ : たまたま、チャーリイがふさわしいと思なった。午休みの芝生の上で、ダウンタウンの喫茶店で、寄宿舎の ったからえらんだまでだ。そして、彼の仲間である、君たちパーティで、・ほくたちはよるとさわるとそのことについて議論し た。しまいには、めいめいがその議論のはてに、最後にいう結論め みんなに通告した・ : いた一言葉さえきまってしまった。 まて ! 君はいったい : 「たしかに、人類は完全じゃない」と神学者みたいな顔でいうの これはゲームなのだ。同時にテストでもある。ちょっとした は、アドルフ・リヒターだった。「だが、人類が完全じゃない、と あそびだよ : 。君たちみんな、力をあわせ、知恵をしぼっ いうことを理解できるということは、とりもなおさず、〃完全〃と てチャーリイをまもってやるんだな。私は : う尺度を人間が知っている、ということだ。 これはどういう リイを殺す : ことなんだろうね ? 不完全な人間が、 はたして本当に完全なもの を表象できるのか ? それとも、人間は自分は不完全でも、その不 完全な存在を超えて、完全なものを考えることができるようになっ 人類は完全じゃない ] ー それが、最近・ほくたちの間で、何度もむているのか ?. しかえされる議論のテーマだった。そんなことはむろんわかりきつ「何回いったらわかるんだ。そんなの古くさい問題だよ」いらいら たことだし、それをいったところで、どうなるというものでもなかしたみたいにいうのは、赤髮で大男のデイミトロフ・ポドキンだ。 っこ。 「人類は、完全じゃないけど、向上するさ。 時代をこえて : 2

2. SFマガジン 1968年6月号

ことであった。第一次探険隊のメイ ( ーをきめるために、われわれつくりするほど重いのを知った。まじりけのない金属だ、わたしの はくじを引いた。マクナルティと政府のお偉方連中は、みんなはず知るかぎりでは。 れた。これはお笑いだったね ! 最初に帽子からとりだされた名その塊りを、留守番役の連中が分析できるように、わたしはひら いた気閘の扉ごしに船内に投げいれてやった。と、すぐに、クリ・ は、クリ・ヤングだった。つぎにブレナンという機関士が幸運を引 モルグが湯気のたっ頭をつきだして、なにも知らないクリ・ヤング きあて、つづいてジェイ・スコア、サム・ヒグネット、それにわた ね 「だれだって頭をごっんとやられるの を睨めつけて言ったものだ。 しが当りくじを引いた。 一時間がわれわれに課せられた制限時間だった。これは、『マラはいい気持ちのものじゃないぜ。いま地球人の連中といっしょだか ソン』号から二マイル以上は離れられないことを意味する。宇宙服らといって、おまえまでが子供っぽい真似をしなけりゃならんって は必要なかった。クリ・ヤングは、快適な三ポンドの気圧を楽しむ法はないんだ」 つもりなら、例の頭と肩をおおうだけの金魚鉢をかぶればよかった「なんだと、このヘ求将棋さしめ , クリ・ヤングが根っから気を悪 くしているのでもない口ぶりで言った。「言っとくがーーー」 のだが、わずか一時間かそこらなら、十二ポンドの気圧でもあまり 不機嫌にならずに堪えられそうだと言った。首に双眼鏡をぶらさげ「いい加減にしろ ! , ジ = イ・スコアが威厳をもって言った。すで た一行は、針線銃で武装した。本船との連絡を保っために、ジェイにその長い、敏捷な脚は、地球一周でもしそうな勢いで沈む太陽に 向かって踏みだされており、力強い手には、無線通話器がかるがる ・スコアが小型送受信無線電話を携帯した。 一行が気閘を通って外に出ようとしたとき、船長が言った。「むと揺れていた。 てっぽうな真似はよせよ。一時間以内に、見られるだけのものを見、われわれは一列縦隊でつづいた。十分後には、彼はわれわれより て帰ってくるんだ」 半マイルも先へ行っていて、そこでわれわれの追いつくのを待って 最後にエアロックを出ようとしたクリ・ヤングが、うらやましげいた。 「だれか やっと一行が、佇立している非常。 ( イロットの能率的な巨体のそ に見送っている僚友のほうにどんぐり眼を向けて言った。 サグ・ファーンを叩き起こして、船はもう港にはいったと言ってやばへたどりつくと、さっそくプレナンが文句を言った。「おい、忘 ったほうがいいな」それから、十本の触手のうちの四本が握っていれてもらっちゃ困るね、でかいの。おれたちは血と肉とからしかで きちゃいないんだそー た手がかりを離し、彼は地上にとびおりた。 「おれは違うね」クリ・ヤングが口を出した。「ありがたいこと 驚いたね、そこの地面の堅かったのなんのって ! 黒光りしてガ ラスのように透きとお 0 た箇所があるかと思えば、ところどころ真に、われわれの種族は、そうい 0 たいやらしいごった煮からはでき 紅の斑点をちりばめた、銀色がか 0 た金属質の箇所もある。その銀ていないんだ」彼は嫌悪をしめす細い汽笛を発すると、火星のそれ 色の露頭部から、小さな塊りを拾いあげてみたわたしは、それがびより四倍も濃い空気のなかで、くねくねと触手を泳がせて見せた。

3. SFマガジン 1968年6月号

ー MECANISTRIA メカニスト、屮ア : 工リ , ック当フランク , ラッセルも 訳☆深町真王子 . 画☆金森達 地球宇宙空港の第七管理局ビル、その中二階にわれわれは立っていた。 つも だれひとりとして、こんなに不意に呼出しを受けた理由、または、い のように朝がた地球を出発して、金星へ向かっていない理由を知っている ものはなかった。 というわけで、一同たがいに不安けな眼を見あわせて、もじもじしなが らそこに立っていた。いつだったか、三十匹の金星産グッ。ヒーが、そろっ て口をぼかんとあけ、豆粒ほどの脳味噌をふりし・ほって、ファ ] ガスとい うアパディーン・テリアが、身体の一方の端をばたばた振りうごかす理由 をさぐろうとしているのを見たことがある。このときのわれわれの顔は、 まさしくこのグッ。ヒーみたいだったにちがいない。 やがて、一同のあいだでようやく爪噛み競争が始まろうとしたころ、や っとマクナルティ船長がいつものにこやかな、押出しのいい姿をあらわし この作品は実は , 内容的には独立したものですが 本誌 61 年 8 月号で紹介した『非常パイロット』の 続篇にあたります。 41 年アスタウンディング誌に 書いた第一作が大変好評だったので , 気をよくした ラッセルが翌年早々再び発表したものです。 作者ラッセルは , 日本の読者にはまだなじみのう すい作家ですが , イギリスではジョン・ウインダム と並ぶ SF 界の長老で , 米英両国の SF ファンから は十指に入るビッグネームとして高く評価されてい ます。本誌でも , これから折を見て彼の短篇をご紹 介するつもりです。 なお , 上記 2 篇に『共生生物』 ( ハヤカワ SF シ リーズ『時間と空間の冒険』第一巻収録 ) , メスメ リカ ( 催眠生物 ) 』 ( 未紹介 ) を加えて , 連作シリー ズを構成し , 『人間 . 火星人そして機械たち』とい うタイトルで一冊にまとめられ , 宇宙探険ものとし てはヴォクトの『宇宙ビーグル号の冒険』に匹敵す る名作とされています。 ( 編集部 M )

4. SFマガジン 1968年6月号

2 実は、もう十年以上も前から検討されつづけている計画があった。地球が天体観測にふさわしくないことは一 九六〇年代から認識されていた。月に置かれた試験的な小型計器すらも、大気圏というもやと暗黒を通して虚空 をのそきこむ地球上の望遠鏡よりは、はるかにましな成果をあげていた。マウント・ウイルソン、 リニッチ等が活躍する時代は終りに来ているのだ。これらの天文台は依然として訓練用には使われるであろう が、調査活動の第一線は宇宙へ進出しなければならない。 それとともに、わたしも移動しなければならなかった。事実、わたしはすでに裏面天文台の副台長の地位を 提供されていた。二、三カ月以内に、わたしが長年、手がけてきた研究は一段落するはずであった。大気圏の彼 方では、わたしはまるで突然視力を与えられた盲人のようなものであろうが。 もちろん、ライカをいっしょにつれてゆくことは、まったく不可能であった。月上の動物は実験用に必要とさ れるものだけだ。ペットの持込みが許されるのはまだ数十年先のことだろうし、よしんば、その時代になったと しても、動物を月へ持ちこんで飼うのには、ひと財産かかるだろう。比較的恵まれたわたしの俸給をもってして 」も、ライカに一日二ポンドの肉を食べさせる費用の数分の一にしかあたらない。 。。一選択は単純あり、簡単あ「た。地球 = とどまり、出世をあきら 0 るか。それとも、月〈行き、 , イ「をあ 所栓、彼女は大にすぎない。何年かたてば彼女は死ぬたろうし、わたしは職業上の出世をきわめるたろう。正 気の人間なら、なにも迷いはしないはすだ。それなのに、わたしは迷ったのだ。そしてその理由はとてもあなた には理解してもらえないだろう。今でも、わたしにはそれを説明する言葉がみつからない。 み ~ な、、結局、わたしは解決をなりゆきに任せた。出発日の一週間前にな 0 ても、わたしはまだライカについては何の 0 計画も立てていなか「た。アンダースン博士が彼女を引きとろうと申し出てくれたとき、わたしは無感動に、ほ 第 ( 黷立とんど感謝の言葉も述べすに承諾した。博士夫妻はいつもライカを可愛が 0 てくれていた。二人とも、わたし 0 一を、さそや、無神経非情な人間だと思 0 た = とたろう。真相はまさ = そ 0 反対だ 0 た 0 だ。 わたしとライカはもう一度、いっしょに山歩きに出かけた。それから、わたしは無言のまま、彼女をアンダー スン博士夫妻に渡し、二度と会わなかった。 大型照明弾を集中的に打ち上げて地球の軌道上の障害物を除くまで約二十四時間、出発は遅れた。そうして も、まだバン・アレン帯の活動が強く、わたしたちの宇宙船は北極上空の間隙を通って出て行かなければならな っこ。 みじめな飛行だった。無重力による通常の苦労はさておき、抗放射能薬でわれわれはみんなふらふらになって た。途中での出来事に興味を持つひまもなく裏面に着いてしまい、おかけでわたしは水平線の彼方へ地球が ファーサイド ファーサイド 5 8

5. SFマガジン 1968年6月号

美女と五人の男たち フリツツ・ライ / ヾー ; 沢☆岡部宏之 画☆真鍋博 N 工 C E G 工 R L W 工 T H F 工 V E H U S B D S 、 つむじ風は、一瞬彼をまきこんですぐにお さまった。だが目を開いてみると、あたり の景色は、以前とどこかが一変していた / 費用むこう持ちの、自由な製作時間が与えられ ながら、いっこうに作品ができあがらないと なれば、どんな画家でもくさってしまうも のだ。まして、同じ身の上にある十二人の 孤独な連中といっしょに、砂漠の・ハンガ ロー村に罐詰めになっているのだから、 なおしまつが悪い。だから、トム・ドー セットが右回りに迂回して、赤石の谷間 に登っていきながら、自分とトスカー ヴァをイショシ・フェロウシップ ブラウン休暇奨学会に愛想をつかし た気持もわかろうというものだ。トムは カメラの吊り革が肩をごしごしこするの を、良心の呵責と感じ、ゴム底のズック靴 の下で、砂粒がギシギシ鳴るのを、わが身に 対する非難の声と聞いた。そして、やはり自分 を責めるようなかすかな音をたてて、時たま吹 いてくるそよ風が、もっと住みよく、ねたみ心の ない時代に自分を吹きとばしてくれればよいと思っ だが、空間に吹く風があると同様に、時間に吹く風があろう とは、トムも知らなかった。この種の風には、強いのもあれ ま、弱いのもある。強いのはめったにないし、限られた範囲に、た まに吹くだけだ。さもなければ、この風のことを知っている人がもっと 2 3

6. SFマガジン 1968年6月号

同でグラーフ氏小胞の組織培養に成功し、フラスコの中の人工卵巣いて、それそれの母親に、幼児保育を分担させる、一種の強制シン は、卵子を排出し、その卵子が受精させられて、三カ月まで順調にポルとなっていた。 これはあなたのお子さんなんですよ。ここ 胎児に成育し、それが自然児ーーらまり母親の胎内で成長した胎児から先は、あなたがお育てにならなけりや : : : 。集団的な保育、教 と、なんらかわりがないことがたしかめられた。実験は、いまのと育は、むろん古くから、社会が負担している。しかし、スキンシッ ころ成長三カ月までにとどめられているが、それは、その成長過程。フや、こまごまとした世話、集団化によるストレス解消といったや をたしかめるために解剖に附される被験体が、三カ月をすぎると、 つかいな、それこそ個別的なインファント・ケアは、家庭で、それ 一応慣行上、「人間生命」とみなされる、という理由にすぎない。 ぞれの母親に分担してもらうほかない。かって、保母や、教師とよ ソシアル・マザー 噂では、すでに六カ月まで実験がすすんでいるが、まだ秘密にばれていた社会的母親たちの数は需要においつけず、施設の数も足 されている、ということだった。もっとも新しいニュースでは、ヨらない。先進諸国における当才から満五才までの、幼児保育時間の インターフニロン ハネスプルグ大学医学部では、細胞分裂の誘導物質や阻害物質をた分担率は、社会 1 、家庭 2 で、保育社会化は、この三分の一の壁を くみにつかい、組織培養中の細胞を「特殊化誘導ーすることによっ長らく突破できないでいる。 それはまた、三カ月で人工子宮移 て、一片の表皮細胞から、生殖細胞をつくりあげた、という。もし行を行う母親たちの数 ( 七ないし八カ月で人工早産し、保育箱を利 この方向が成功すれば、人間はーー男であろうと女であろうと 用する母親たちをふくまない ) と、そうでない母親たちの数との比 むろん、日本やアメリカといった 皮膚の一片から、次の世代を再生産することができるようになるだ率と、奇妙に一致している。 ろう。半世紀前、 , 大根や人蔘など根菜類の表皮細胞の一個から、組所では、人工子宮そのものの数が、可妊女性全体数に対して圧倒的 織培養によって、完全な大根、人蔘をつくり出したように : にすくないが、人工子宮台数の対母体人口比が圧倒的に大きい」 「受精ーという、遺伝子かきまぜの単元行為さえ、皮膚の一片と一欧諸国およびヨーロツ。 ( の一部の国々において、この数値は、はっ 北欧諸国では、人工子宮の回転率が 片とのかけあわせーーーっまり培養の途中に「減数分裂 , というプロきり姿をあらわしてくる。 セスを誘導し、半分になった染色体同士を合わせるという過程を挿悪い。母親たちの二分の一が、人工子宮利用できるほどの施設がと 入することによって、達成されようとしているのだ。 とのっていながら、実際に利用を希望するのは、妊婦の三分の一な 技術の方は、この通り進みつつある。 問題はそれをうけいれのだ。 この〃三分の一〃という数字に、なにか意味があるのだ る、人間社会の組織の方だ。三カ月胎児の人工子宮内での成育の場ろうか ? かって、中世の世界に猛威をふるった伝染病も、それが これが我が子 合は、まだ、母親がーー一応形骸化しつつあるが いかに大流行しても、流行中心地域の人口の三分の一が死亡すれ とマークする意識をもっていた。その意識は、哺乳期間をすぎ、赤ば、 いかなる兇暴な伝染病も終結にむかった、という現象と、なに ン坊たちがそれそれ個性を発揮して動きまわる段階においてーーーっか関係があるのだろうか ? まり、社会施設における集団管理が、困難になりはじめる段階におそして、一方では、ミナのような知的な女性たちの間でーー独身 シャッフル 9

7. SFマガジン 1968年6月号

「チェッー けない」 ヒノはが 0 かりしたように、ドアにかけていた手を離し、受験者「感じわるい試験官ね、不親切だわ、人でなし ! あらいやだ。も のふたりを眼でうながした。スーザンはヒノにつられてドアの方にともと人間じゃなか 0 たんだわ。あたしとしたことが : : : 」 進みかけたが、シオダがまだ腰をおろしたままなのに気づいて、途「さしあた 0 ての問題は避難用ポートの操縦法にある。完全自動で 中でたちどま 0 た。進むべきなのか、もど「た方がいいのかわからないとするとちょ 0 と苦しまなければならない」 ず、もじもじしている。 「このままじゃなんだか不安だわ、だって部屋着のままなんですも シオダはそれには眼もくれず、声の方をにらんでいった。 の、訪問着に換えて行きたいんだけど : : : あら、待って、リチャー 「その惑星の位置は ? 」 声が答えた。むろん機械・・ーー試験官マシン は聞く耳ももって しろいろなことをいいながら、とにかくふたりは避難ポートに乗 いるのだ りこむべく、キャビンを出てせまい通路にむかった。 〈Ⅲーー・一一三六八九七ーー尸Ⅳーー九七六二一九ーーの—、ーー八「とにかく、幸運を祈るよ , 八三二七五〉 ヒノはくやしそうな顔で、その後姿を見送った。 「そこで待てば救援隊がきてくれるのか ? 」 〈本船の記録によれば、『ウォーム・ ート』には巨人族″キラカ 2 人〃の残した宇宙船が一台あるはずだ。それをたよりにしたまえ〉 シオダは再度たずねた。 どんなデラックスな宇宙船でも、緊急避難用のボートにまで賛沢 「それがもし使えないとすると、どのくらい待っことになるのだ 品はつかっていない。機動性や安全性が第一だからだ。とくにこの 資格試験用宇宙船のそれは、質素にできていた。無格子欠陥鋼のア 試験官マシンは冷たくいった。 ングルにプラスチックを張りつけただけの、いたってぶあいそうな 〈本船はエンジンばかりでなく、サブ・エーテル波通信装置も故障しろものである。 した。ふつうの電波で cnor-n を発信したのでは地球にとどくまで四 、ポートにもぐりこむと、スーザンは、さすがに吐自 5 をもらした。 十年はかかるだろう。これ以上の情報は与えられない〉 「そうとうなものねー これを聞いて、スーザンがかん高い声をだした。 シオダは、せまい、ポート内を見まわし、無一言のまま眉をしかめて 「あんまりだわ、四十年だなんて ! 」 腕をくんだ。スーザンは無邪気に彼をせかした。 「さあ、ぼつぼつ行こうか。さっき試験官マシンは三十分以内とい 「ねえ、リチャード、はやく出発しましようよ。試験官マシンには ったが、もうすでに五分を経過した。時間は有効に使わなけれま ~ いまたなにかいわれるといやだわ」

8. SFマガジン 1968年6月号

このかんずっと、マクナルティは隠そうとして隠しきれない憂欝「ここではわれわれは新しい要素だってことを忘れるなよ」と、ジ と、上機嫌とのあいだを往復していた。前者は、修理が終わる前に ェイ・スコアが念を押した。「彼らがそれをどう受け取るか見てや 二度目の攻撃を受けることへの恐れであり、後者は、作業が着実にろうじゃないか」 はかどって、まもなく出発できる見通しがたったためか、さもなく わたしは時計で時間をはかった。攻撃はきっかり三十七分後に始 ばまた、三個のこわれた球体と二個の棺桶という標本を、まんまとまった。 手に入れたためであったろう。攻撃軍は、その他の残骸はぜんぶ回 へつの表現をすれば、戦場から負 収していっていた。でなければ、、、 ここでの戦法はまた変わっていた。まずあらわれたのは、あの記 傷者をぜんぶ運び去ったというところか。 者どもの一団で、われわれをあらゆる角度から観察したあげく、都 翌日の午後一一時、やっと単調な修理作業は終わり、喊声があがっ市へ引き返していった。つぎに、一ダースもの。フルマン・カーがあ た。われわれはさっそく出発した。下の船倉では、 - 政府の派遣員たらわれて、いっせいに円盤をこちらへ向け、うすみどり色の光線を ちが獲物をながめ、 = タニタしていた。忌まわしい思い出の地を離浴びせてきた。たちまちスティーヴ・グレゴリ ーが無線室からとび れて、船は南方の第二の都市に向かい、やがてその郊外に着陸し だしてきて、おれの機械の邪をするのはどこのどいつだと喚きた てた。その故障を説明するのに、彼は激しく眉を上下させることで 言葉に代えた。 外では、役立たずの円盤操作機に加えて、さらに何種類かの機械 がふえていた。巨大な手のあるやっ、無数の造りつけ式の道具を体 内におさめたやっ、すべてがわれわれの船尾を狙って押しよせてき フのす 製つま円 た。棺桶と球体の一隊が、油断なくそのまわりを徘徊していたこと 特ずき な冊で鄲 牢 6 が はいうまでもない。 堅でと料 作こ 二頭のキリンがあらわれて、そうとは知らずウイル・スンの恰好の 髴操る送 美なす 被写体となった。このころまでには、さすが気のいい船長も、これ の単に 用簡本円 以上やっこさんたちに時間を与えて、またまた噴射管をいたずらさ ン . 合 ジすな と思いはじめていた。轟音一発、われわれは濛 ガでト れてはかなわない、 イ価 ~ 濛たるほこりのなかに、呆気にとられて口惜しそうに見送っている TJ アス 機械の群れを残して、空へ舞いあがった。 二十分後、船はとある幅の広い、たが交通量の比較的すくない道 こ 0 7

9. SFマガジン 1968年6月号

「おかしなひと」とロイス、「沈んでいらっしやるわね。まるで悲間の様子が変っている、今までよりなまの感じなのだーー若い感 しい時代の人みたい。二〇五〇年にはみえなくてよ , じ、といってもよいだろう。 「にせん ? 」トムははっとわれに返って、くりかえした。「いま何日没後、何時間もたってから、トムはトスカー・ブラウンにたど 時 ? 」心配になって尋ねた。 り着いた。二、三のスンガローのカーテンの陰から明りがもれてい 「二時だ」とジョック。その言葉が葬鐘のように響いた。 た。かれは足が痛み、途方にくれ、おびえていた。午後からタ方に 「元気を出しなさい」ロイスがきつばりという。 かけ、夜に入って、月明りで赤い岩が黒く見える時間になるまで、 地面から吹き返す風のまん中に、機は細かく震えながら、静かに とこにもウォルヴァー一家の黒 トムは谷間を探していたのだった。。 着陸した。ロイスがびよんと跳び出した。「いらっしゃい」 屋根の家はみつからなかった。それに、ロイスに出会った、あの巨 トムは後を追った。回転翼でかきたてられた砂ぼこりが降りかか大な筒型の岩のありかさえわからなかったのだ。 る中で、あたりの赤い岩を見まわしながら、トムは「どこへ ? 」とその後、幾日も、トムはその谷間に度々もどってみた。だが、何 もみつからなかった。そして、十時と二時に時の風が吹いている 間の抜けたことを尋ねた。 「カメラよ」と笑いながらロイス。「あそこ。さあ、競走しましょ時には、たまたまあの揺れる岩のそばにいなかった。こだ、 度小さなつむじ風を見ただけだった。やがてトムは村を去り、とう 二人はいっしょに駈け出したが、やがてトムは不安を押え切れなとうこの事件を忘れてしまった。 くなった。だんだん足が速くなる。ロイスが岩につまずいて、うつ なにげなく読書している時に、トムは電子計算機に使われる二進 伏せに倒れるのが見えた。だがトムは足が止まらなかった。めちゃ 法の数組織を解説した、通俗科学記事に出会った。それには一プラ くちゃに走って、例の岩の角をまわると、一じんのつむじ風が砂塵 ス一は一〇になると書いてあったのだが、この種の記事は、トムは を巻き上げている中に、とびこんでしまった。それが、あまりだし 必らずとばして読むことにしていた。それに、次のようなアインシ ぬけだったので、トムは恐ろしくなった。刺すように痛い、目も開 ュタインの一般重力理論をあらわす四つの方程式 けられぬ突風から、かれは脱け出そうとした。だが、まるで悪夢に でもうなされているようで、いくら足を動かしても、少しも前へ進 5 まなかった。 やがて砂塵がおさまった。トムは走るのをやめて、あたりを見まを目にする機会も一度ならずあった。 だがトムは、この式が、あの少女が唱えていた呪文 , ーー「ジク・ わした。かれは、あの揺れる岩のところに立っていた。息が切れて いた。足もとの砂の中から、カメラの色あせた茶色の革ケースが覗ロ、アイ・オ、リク・オ、ジス・ソ、と関連があろうとは夢にも思 いている。ロイスはどこにも見えない。ヘリコプターもいない。谷わなかった。 タイム・ウインド 2 4

10. SFマガジン 1968年6月号

「さて、第五に問題にしなければ 無重量状態への挑戦 ならないのは、その小島に″キラ 5 有人衛星船や宇宙船の中につくりだ宙船航路の前方を相当範囲にひろがる結びつけた個所の真下に太目のマグネ 一一カ人。の宇宙船があるとして、そ 一される無重量の状態は、未来の犯罪者隕石群がゆ 0 くり横断中との報告があシウ、線の一端があるということにな してそれがまだ生きてるとして、 にきわめて恰好の舞台を提供するたろり、衝突を避けるため、宇宙船をしばる。この球と針金の双方に、接触すれ いや、少くともこの特殊な状況をらく減速し、隕石群の通過後再び宇宙ば発火する薬品を塗付しておく。 はたして・ほくらに使いこなせるか 巧妙に利用した、秀抜な完全犯罪を描船を加速した事実がある。 さて、こうお膳立てをして、鍵を外〃 ″どうかということだ。これにつし いた推理小説が遠からず出現するにち とすると、ちょうどその加速直前に側からかけて出てきた乗組員が、キー ″力しオし 被害者の真上まで来ていた短刀が、加を船長に預け、たえず仲間から見える ては、ぼくはつぎのように推理し たとえば、次のような例が考えられ速と同時に重さを生じ ( 加速と同時位置にいるようにした上で、頃合を見一一 る。 たい。宇宙開発の歴史が教えると に、これまで無重量の状態にあった宇計らって「前方に低速度で横ぎる隕石 宇宙航行を続ける宇宙船の中で、ち宙船内のものがすべて重さをとりもど群を発見 ! 」と報告、船長はその報告 ころによると、〃キラカ人〃の文 よっとした原因から他の乗組員と大喧す ) 偶然にも刃先を下にして被害者のに従って宇宙船をしばらく減速する。 嘩をして打撲傷を負 0 た男が、睡眠薬心臓の上〈落下したのではないか ? ・・・その後再び「隕石群は通過した模様一一明や技術は、地球人のそれと酷似 を与えられて鍵のかかった自室で眠り ・ : と、推論されたわけである。 ! 」と報告すれば、船長は加速を命 している。宇宙船の技術にしても についたが、翌朝心臓を一突き、大き しかし、ちょっと待った、このようじ、その瞬間、船内のすべての物に重 そうだ。もっとも、われわれの数 な短刀で突きさされて死んでいるのがな状況を故意にーー・つまり、完全犯罪さが生じる。このとき今までマグネシ 発見された。その短刀は、昔の著名な的につくりだす方法がないだろうか ? ウム線に支えられて宙に浮いていた短 倍の背たけをもっ巨大族だから、 一一探険家が愛用していたもので、装節用お安い御用、例えばこんな方法がある刀は、その重さでトーと降下、哀 としてその船室の壁に節られていたものだ。 大きさのちがいがあり、それがど れな乗組員の心臓をグサリと一突き。 のだった。 最後にこの部屋を訪れた者が、ポケ同時に、その針金の他端の真上に浮い一んなめんどうを起こすか予断はゆ その部屋に人が最後に訪れたのは、 ットの中にかくし持ってきたマグネシていた球も、重さが生じたため細目の るさないが、それはサブの問題だ 一一三時間ほど前 0 ことだが、死んでからウ、の太目 0 針金をま 0 すぐに伸ば「グネ〉ウ、線をひ 0 ば 0 て垂れさが はわずかに半時間しか経過していなし、一端をベッドわきの棚か固定用のり、真下の針金と接触する。とたん ろう。ということになると、ぼく 。部屋の鍵は、最後に見舞いに訪れ釘 ( 無重量時にそなえて固定用の釘がに、この球と針金が発火して陷に包ま = らがそれを使いこなせるかどうか た者によって、部屋の外からかけら壁面にいくつもついているはずだ ) にれ、まず球とそれを吊ってあった細い れ、キーはその後船長の手許に保管さ固定し、他端をベッドに寝ている ( と線が消減、つづいて短刀を支えていた は、それがふたりで操縦できる程 れていた。最後に訪れた者も、その後 いっても無重量状態下だから、くくり太い線の方もどんどん燃えていき、あ ずっと他の乗組員と一緒に仕事をしてつけてあるのだが ) 乗組員の心臓の真とはただ、被害者の胸につきささった = 度に簡単なものであり、人力で操 一一おり一瞬たりとも持場を離れていな上までも 0 てきて、そこ〈重い短刀を短刀だけが残る = ・ 縦できる程度に手動的なものであ 刃先を下に向けてくくりつける。もち ところで、こんな犯罪を遂行するた るかどうか、そして、燃料がわれ このような状況から判断すると、出ろん無重量だから、短刀は宙に浮いためには、加害者は必ず宇宙船の前方監 発時の衝撃ないし航行途中の加速減速ままの形となる。それから針金のもう視係である必要があるだろうか ? われのものと同じでいいかどうか で壁からはずれた装飾用の短刀が、無一方の端の上方に、細目のマグネシウや、そうとは限らない。まだそのほか 重量の状況下で部屋の中を漂いまわム線の末端にマグネシウムの小さな球にも宇宙船を慣性飛行中に加速させる : まあ、こういったことできま 不幸にも偶然その男の胸に突きさをくつつけたものを、やはり固定用の口実はいろいろある。 一一るだろう。そしてそれは、一種の さった・ : ・ : としか考えられない。 釘か何かに結びつけて、宙に浮かせて例えば、慣性航行中に何かの重さを = 現に、死亡時刻と思われる直前、宇おく。地球上での見方でいえば、その測らねばならなくな 0 たとすれば、ど カケになるわけだが、ぼくは試験