「じようだんじゃない ! 」 スーザンが悲鳴に近い声をあげた。 「とにかくからだを横にして ! 」 「五秒じゃとってもむりだわ ! 」 シオダはこう叫ぶと、みずからのからだを、スーザンの下によこ 「とにかくはやく ! 」 しささかふりまわされ、たえた。自分がクッションになろうというのだ。悲壮な覚悟であ ふたりは試験官マシンのいじわるさに、、 せつかく生活必需品をつめこんだパックをおとし、中身を散乱させる。しかもせまいからたいへんだ。しかしとにかく五秒以内にその てしまった。それでも、とにかく両腕にかかえられるものはかか姿勢になった。そして、カプセルは着地した。 え、カプセルになんとかとびこんだ。 とびこんだとたんに、ドカン、カプセルは発射された。ふたり は、せまい、くらい球形のカプセルの中で、しつかりと抱きあっ た。もっとも、そういう姿勢をとらないかぎり、そのせまいカプセ はけしいショックに、骨格がララになったような苦痛をお・ほ ルに入ることはできなかったのである。 えたとはいえ、ふたりとも、ぶじ、カプセルからはいでることがで キスがおわるととたんに、スーザンは大きくため息をついた。シ きた。シオダの犠牲的な姿勢が効を奏したのだ。 オダを信頼している彼女も、前途によこたわる困難性についての認 重かったでしよう ? 」 「ごめんなさいリチャード、 識を新たにしたのだ。 息をきらしながら、スーザンがいった。少々はずかしそうな顔つ 「ねえリチャード」彼女は婚約者のたくましい胸に人さしゅびをはきである。シオダはしかし、それにはこたえず、着地したカプセル しらせながら、甘えた口調でいった。「 : : : いくらいじわるな試験の破損状態を調べ、それから周囲の地形の入念な観察をはじめた。 スーザンのからだの凸凹が、アザになって全身にのこっていること 官マシンでも、これ以上へんなことはいわないでしようねえ : : : 「確率からいえば、ごくわずかだろう。しかし油断はきんもつだ これが調査員魂なのだ。 など、意にも介していない。 スーザンもそれつきりだまって、服装や髮のみだれをなおした シオダは闇の中で小首をかしけながら答えた。そのとたん、カプり、働いているシオダの服のホコリをとりのそいたりしはじめた。 セルの上のほうで、声がした。音質のわるい機械の声である。 この惑星は、たしかに、そうくらしにくいタイプではないようだ った。気候、大気、気温、地質なども、地球人の常識からたいして 〈緊急事態が発生した。パラシュート の紐が一部分発射時のショッ クで切断されていることがわかった。したがって、着地時にはかなはずれてはいないようにみえた。ふたりが着地させられた地点は、 りのショックをともなうことになる。注意せよ。あと五秒で着地す岩の多い砂地で、見とおしは比較的よく、遠景は四方八方すべても り上がりをみせ、空との境界はなだらかな陵線をなしていた。 る。下は岩だ〉 空はあおく、空気は冷たく新鮮だった。有害な物質は含まれてい 「また五秒しかないのよー 3 5
減速を開始したらしい 「故障している様子はない。それに、もしそうだとしても、まだ直 スーザンが叫んだ。 すチャンスはある。オレにやらせてくれ」 「まあ、リチャード、 惑星よ ! きっと『ウォーム・ハ ート』だわ円孔は機械の声でこたえた。 〈試験官を侮辱してはいかん。ほんとうに故障させたらこのボート シオダは、しぶしぶといった態度で外を眺めた。 をつぎの候補生の試験に使うことができなくなるではないか ! お 「逆噴射をしているところから判断して、自動操縦装置は目的地ままえがあまりパネルをいじりまわすから、本官は身に危険を感じ でセットされていたようだ。調査が終了しないうちに、到着してして、予定よりも少しはやく故障をなおすことにしたのだ〉 まってざんねんだよ」 「よくわかりました」 「つきさえすればいいでしよう ? 」 さすがのシオダも、試験官マシンにはかなわないので、おとなし スーザンはいそいそと、ロッカーの食糧を。 ( ックにつめはじめくうなずいた。 た。持てるだけ、もっていこうというのだ。 それからふたりは、競争のようにロッカーに首をつつこみ、手あ ところがそのとき、 ( ッチの上部にある赤いラン。フが明滅し、すたりしだいにいろんなものをかきあつめだした。だが、それも長く るどい断続的なブザーの音が、ポートの骨格をふるわせた。スーザはつづかなかった。ふたたび円孔が冷たい声をだしたのだ。 ンはあわてて、シオダにしがみついた。 〈さらに危険な状態になった。エンジンが火をふきはじめたのだ。 「すでに周回 = ースに入 0 ている。危険はないはずだ。安心しろ一分以内に燃料タンクが爆発する。二十五秒以内にカプセル内に退 よ。スーちゃん , 避せよ ! 〉 シオダはさっきはずした通信機を片手に、い、 しところをみせた。 「いじわるな試験官ね、着換えもできないわ」 しかし、ランプのそばにあったスビーカーらしい円孔から、冷たい スーザンが非常食を左右の手につかんだまま、頬をふくらませ 声がきこえてきた。 こ。 〈逆噴射 = ンジンが故障した。、なおす方法はない。《助かる手段はた「あまり文句をいうと点がわるくなる。しかたがないから、いわれ だひとつ、大気による制動を利用することだ。ふたりとも座席後部たとおりにしよう。あと十五秒だ」 の力。フセルに至急のりうつれ ! 五分後に本体と切りはなし、。 ( ラ シオダがこういって、工具やテント、燃料などをいれたパックを シュートで落下する〉 カプセルに投げ入れようとしたとき、またも円孔が声をだした。 「どうしましよう、リチャード 〈本官の最後の出題だ。惑星『ウォーム・ハ ート』上における行動 スーザンはあおくな 0 た。シオダはきっとなって円孔にいいかえは、歴史に基礎をおいたものとするように : : : ア、さらに歴史が増 大した。あと五秒でカプセルを発射する ! 〉 0 5
やってあの小島にまで到達するかという 、その方法を考えるだんど「少し疲れてぎたんだわ、リチャード、朱んでいてちょうだい」 りとなったわけだ」 スーザンは非常食の包みをとりだし、その中にある粉と水とをま シオダはスー 「どうやってですって ? 簡単じゃないのかしら ? ただ歩いてい ぜはじめた。飲料水の確保がじきに問題になるな けばいいんでしよう ? 」 ザンの手もとをみながら、こうつぶやき、メモをつけだした。 スーザンは、あまりちゃんとしていないルーム・ウェアーからこ陽はゆっくりと西の空に沈みつつあった。タ焼けの空は、地球の ぼれおちそうな。ハストを左手で押え、右手で亜麻色の髮をかきあげそれと同様に美しかった。地球よりやや長いと思われるこの星の夜 ながら、こうたずねた。シオダはかんでふくめる解説調でこたえが、やがて、若いふたりの受験者をおしつつんでいった。 「『中性子燃料』のタンクはものすごぐ重いものなんだ。とてもふ たりで持って運べるようなしろものじゃない。それをどうやって運 搬するか これがおそらく、この試験の第一段階にちがいない」 抱きあってねるしか、ほかに姿勢のとりようのないカプセル内 「まあ、そうかしら ? 曳きずってもだめなの ? 」 で、一夜をあかしたふたりは、翌朝、食事をすますと、さっそく脱 「実験してみてごらん」 出行の相談をはじめた。もっともこういうことになると、スーザン シオダはしんぼうづよくいった彼女はカプセルの中に入ってい はただ聞いてうなずくだけで、シオダがひとり、爽快な気分でしゃ った。そしてじきに出てきた。その顔には、婚約者への再認識がはべりつづけることになるのだった。 つきりと現われていた。 「さっき眼を覚ましたとき、この朝もやの中で、かすかにゲゲッと 「びくともしなかったわ、リチャード」 いう唄声がきこえた」 「だろう ? そこで、動かす方法を考えるってことになるんだ」 シオダは体操でもするように、腕を湿った大気の中にのばした。 「おねがいするわ、リチャード」 昼間は乾燥していたが、明けがたの大地はしっとりと露を含んで、 「まあ、ぼくのいまの考えをきいてくれたまえ」 まことにすがすがしい。シオダはうっとりした表情で、耳をかたむ 「そのまえに、お食事にしましようか ? 」 けているスーザンに微笑してみせた。 「その点はまかせるよ。女性はもともと、食事のしたくをするとい 「スーちゃんも聞いたかもしれないが、むろんその声は、あの大ガ った非論理的な作業にむいているんだ。しかし頭脳の働きのエネル エルのものにちがいない。声はひとつのものではなかった。あちこ ギー源もまた食事がもとになっていることを考えれば、非論理的なちからきこえてきた。遠くからもだ。つまりあのカエルはこのあた 7 作業もまた論理の源泉であるといえる。その辺の理屈が、ぼくには りにたくさん棲息しているということだ。そこでぼくは、『中性子 5 なかなかわからない : 燃料』の運搬をこの大ガエルと結びつけてみた」 4
「第五の話はそこまでとして、第六の問題にうつろう。ぼくの考えやさきに、ほうり出されたからだ。シオダは、そのちゃんとしてい では、つぎに整理しておかなければならないのは、ぼくらふたりのない服装から、はみだしそうにな 0 ている、スーザンの天然の部分 5 所有品と利用可能な品々のリストだ。これは事実をありのままに見を目測しながら、いった。 ればいいんだから、簡単だろう、スーちゃん。きみがも 0 てきたも「その程度の服装なら、満足しなければいけないな。体熱の放散は のに何がある ? 」 それほどの量にはならないたろう。それに、覆っている部分の布地 シオダにこう聞かれて、スーザンは急にあかくなった。彼女はしよ、、 。しろいろな用途に使えると思われる ばらくもじもじした末、小さな声でいった。 「お役にたてばうれしいわー 「なにしろ試験官マシンが、いろんなことをいったでしよう ? だ スーザンは眼をつぶったままいった。シオダは自分のリストづく から、あわてちゃって、ろくなものはもってこなかったのよ。恥し りをはじめた。 いわ」 「ぼくがなんとか身につけた品は、無格子欠陥鋼ナイフ一丁、例の 「この際、感情の表現は省略することにしよう」 パネルのうしろからとりだした。アンテナつきの通信機の一部分、 「個条的表現によわいのよ、わたし 0 て。でも、いうわ。非常用食それから、最初からポケ , トに入れてあ 0 た惑星調査用ポケ , トブ 糧の包みがパックに一ばい。 四キログラム程度ね。それから、万能 ックーー科学技術全般の公式集みたいなもので〃キラカ人〃の宇宙 外傷薬つきの包帯が、やつばり四キログラムぐらいかしら : : : 」 船の一覧表もできているーーが一冊、あとはごらんのとおりの調査 「包帯がとても多いな」 員服と、スーちゃんがプレゼントしてくれた下着一揃い、それに、 「ごめんなさい。救急箱を全部もとうと思 0 たんだけど、まにあわきみの体重にもかかわらずぶじのままでいる肉体一式だね、 なくて、結局包帯たけになってしまったのよ。百人分ぐらいあるわ「さすがね、リチャード。 みんな役にたちそうなものばかりだわ」 「さらに忘れてならないのは、カプセルの中にある『中性子燃料』 「それだけかい ? 」 のタンクだ」 「カプセルそのものたって使えるわね , 「厳密にいえば、きみ自身のからだ、それから身につけている服や「みなおしたなあ、スーちゃん。力。フセルはタンクを除けば外殻だ 下着も入る。みんな役にたつだろうからね」 けだが、住居になるし、。ハラシュ】トも何かの役にたつだろう。テ 「たしかにそうね、もっとちゃんとした服装をしてこれなかったのントなんかっくれるかもしれない。さて、もうこれでおわりかな が残念だわ」 スーザンは、けなげな態度でこたえた。たしかに彼女の服装はち「おしまいのようね。ちょっとむ細いわ」 ゃんとはしていなかった。部屋着を宇宙服に着替えようとしていた「いやいや、これだけあれば充分だよ。さてつぎはいよいよ、どう
きをとりもどした。 / 彼女はすまなさそうに、 「なるほどね、あんな最中によく観察できたものね、すごいわ、 「ごめんなさい、リチャード。またとりみだしちゃって。こんどかチャード」 ら悲鳴なんかあげないわ。でも、資格試験って、とってもたいへん「第三は局所的な問題、すなわち、ぼくらがいま立っている、この なことなのね」 ほくの判断するところ、ここは巨大な旧い噴火 地形についてだが、・ 「そりやたいへんさ。だからぼくは、婚約するまえに、たいへんな口の中央部で、お皿の真中にいるようなものだと思う。起伏の少な 試験あるぜっていっておいたんだ。もし、この先つづきそうにない 、岩や砂の多いこの土地はカルデラの火口原で、周囲をとりかこ と思ったら、はやいうちにいってほしいな。プロリーダーをあきらんでいる低い山々はいわゆる外輪山、その屋根からカルデラ壁をへ めるか、結婚をあきらめるか、ぼくも決断をくださなきゃならんかて、火口原まで砂岩がつづいているのだ。この判断は今後の脱出行 らね」 に役立つだろう・ 「いや、いや、いや。いじわる、いじわゐ ! 」スーザンはシオダの「気持ちが明るくなってきたようよ、リチャード」 このことまこ、、、、。 カせん活気をとりもどした。「やるわよ。ぜったい 「第四に把握しなければならないのは、動植物の性質だ。なにが利 やるわよ。死んでもやるわよ ! カエルがなによ。十匹 . でも二十匹用できて、なにが害をおよぼすかを判断しなければ、これから脱出 でも、抱いてねちゃうわよ、あたし ! 」 まで生きのびることはできないだろう。さいわいなことに、・ほくの 「では、現在の状況を整理してみようー 見るかぎり、植物は地球とほとんどかわらないようだ。こういう乾 シオダは、スーザンの ( ッスルぶりを見て安心したように説明調燥した温帯地方の植物は、豊饒ではないが、有害な性質もまたもっ にもどった。彼はメモを横眼でみながら、わかりやすく話した。 ていないのがふつうだ。雨露をしのぎ、生活の道具をつくるのには 「第一は惑星のタイプだが、これは、ごらんのとおりの地球型で、好適だろう。つぎに動物についてだが、これはちょっと変わってい さっきから注意して観察しているんだが、例の大 心配はあまりなさそうだ。カプセルが発射される直前に観察したんるといっていい。 だが、惑星表面の九十。 ( ーセントは海で、散在した形で陸塊が浮かガエル以外の動物がさつばり見あたらない。むろん、大きな動物が んでいる。ぼくらは、その中緯度地方の小さな陸地の海岸近くに降のそのそしていない点は、安全でいいんだが、鳥や昆虫のたぐいま りたったらしい。さらに、第二として、カプセルが落下する直前にで見られないのは、少々妙な気がする。おそらくーーーそう、試験官 求ートホールからちらと眺めたんだが、海岸近くの小島に、くすんマシンのいいぐさなどから考えてーー・この惑星の動植物は資格試験 だ銀色の物体があるようだった。おそらくそれが、試験官マシンののために選択され、育成されたものだからなんたろう。もっとも、 カエル以外に動物が見あたらないという結 いった、〃キラカ人″の宇宙船なのだろう。だから、ぼくらは、あ原因はいずれでもいい。 の山を越えて海岸に出、それから海をわたって小島にたどりつけ果のほうが、この際かんじんだろう」 ば、一応脱出の可能性にめぐまれるってことになるわけだ」 「頭がすっきりしてきたわ、リチャード」 3 5
している ( 写真⑩ ) 。 冬眠カプセルは、フードをとると、べッドになる。、 しま隊員の一 人フランクが、太陽灯をあびながら、のんびりと地球の両親からの テレビ電話を見ている。電波の往復の時間がかかりすぎるので、一 対一の会話ができない ( 写真⑩ ) 。つねに電話は一方交通だ。 ケンカも不可能だ。 隊長のディヴィッドは、ひまなときは電子オルガンでジャズを演 奏する。モダンジャズも古典音楽の一つだ。 ( 写真⑩ ) 製品。 〈コン。ヒューター『ハル 9 0 0 0 号』〉 このディスカ。ハラー号は、巨大なコン。ヒューターによって、自動 的に管理されている。 オールマイティのコン。ヒュ ターは『ハル 9 0 0 0 号』と命 名され、隊員たちと自由に会話 し、冗談を言いあう。ディヴィ ド隊長は、チェスの試合を申 しつも敗けてばかり 込んでは、、 ン いる ( 写真⑩ ) 。『ハル 9 0 0 0 の号』の実力は名人なみなのだ。 ハルは嘘をついたのか ? どこかが狂ったの らない。 とすると、 一人生みの親は社と CDL.@社。 か ? 不安を覚えた隊員たちは、ひそかにハルの機能を停止しよう とはかるが、その直後、またも不可解な事故がおこった。 も人間より数万倍も知能がすぐ で れ、あらゆることを予測するハ どうしたことか、船外に出た隊員が突然動きたした無人の子宇宙 チ「 ルは、巨大な通信用アンテナが船に突き飛ばされて、宇宙に放り出されたのだ。 数時間後に故障を起すだろうと そのうえただちに救出にむかった隊長もまた、宇宙船内に戻れな 予言する。 ( 写真⑩ ) くなった。 すぐに修理のため子宇宙船が これは一連の妨害エ作だ。いったい誰が、何のために ? コン。ヒ 5 3 出動する ( 写真 3 ) が、ふしぎューター ・ハルは解答を拒絶し、不安は、次に恐るべき戦慄となっ なことにどこにも故障は見つかて、ディスカ。ハラー号内にひろがってゆく。 ⑩これが「ハル N00 号」の心臓部。 緊急修理に出動する子宇宙船を格納庫 内部から見る。
Ⅲ人 乗りの 小型ム スは、 ゼネラ ズの製 ⑩運動不足をおぎなうため、床をかけまわる隊員。 品。月 世界の自家用マイクロ・ハスといったところだ。月で生れた子供たち の通学用にも使われるという。 いよいよテイヒョ火口。怪物体が静かに立っている。 ( 写真⑩ ) 磁力と放射能を発し、木星に向って奇妙な放射線を出している物体 は「」と名づけられる。放射能測定では、 300 万年前に 埋められたことがわかり、フロイド博士はショックをうける。しか もこの付近から、生物の遺骨まで発掘されているという。 地球の人類より以前に、月に生物が存在し、高度の文明が存在し ていたのだろうか ? 物体が発する強力な放射能には、ど されそうだ。 ( 写真⑩ ) んな目的があるりか ? 怪物体発掘中に数人の隊員が放射能にやら隊員のうち 3 人は、 9 カ月の旅行のあいだ人工冬眠カプセルで冬 れて倒れているのだ。 眠している。無駄な食物やサンソを節約し、ストレスを弱め、エネ 〈木星へ、木星へ〉 ルギーを浪費しないために、冬眠は反対で行なわれる。 ( 写真⑩ ) この秘密を解くカギは、木星以外にはない。アメリカ宇宙航空局この製品はゼネラル・エレクトリック社の設計。 は、木星探険のための原子力宇宙船を組立てる。 16 億キロはなれ起きている隊員は、やはり製の自動キッチンの作り出す特 た木星の秘密をさぐるためだ。 別料理を食べ、〃朝刊〃を読む。ストレス予防のため食事は固型で かくして、〈ディスを ( ラー号〉は宇宙へ出発した。全長 210 作られている。〃朝刊″とは地球から送られてくるテレビ応用の メートルの主胴の先端にある居住区は、ドラム状になっていて、人「ニ = ース板」で、このほかマイクロ化した書物、手紙などあらゆ 工重力を得るため、ゆっくり回転しているので、天井と床とが混同る映像を再現できるハニウエル社の製品。記事は放送が製作 洋 : : を第第当第。を物第ミ ⑩オルガンをひく隊員。後方にべッドが見える。 ⑩太陽灯を浴びながらテレビ電話を見る。 4
これは特別な用事のない人間は、まだ開発途上にある月基地には不の特製。 必要だからだ。 フロイド博士は、エアリーズ臨時便のたった一人の客となった。 ビスす ここにも美しいスチ = アデスが乗っていて、特殊な液体宇宙食をサるスチ 1 ビスしている。ここでは O 社製の自動キッチンが、コン。ヒュ ーターの指示によって二年間ちがった献立を作り、食後は自動的にスは、 処理される ( 写真⑥ ) 。 べレク ミルク、スープ、ステーキ、デザートすべてが練性の液体になっ ていて、ストローがナイフとホークのかわりだ。苦笑しながらも博う金属 ⑩み新聞〃をみながら朝食を食べる。 士はきれいに吸いあげる ( 写真⑦ ) 。いずれもゼネラル・フーズ社をつけ た宇宙船用のシューズをはいている ( 写真⑧ ) 。床や壁や天井にも ベルクロがはってあり、無重力のなかでも、空間に浮上する心配が ない。製作は。フラスチック・メーカーのグリップ社。 〈月着陸〉 さあ、いよいよ月世界に着陸た。 - ゞ大・墳・火口クラビウスには、 19 80 年代より、地球の前衛基地が設けられている。 基地の大半は地下にあり、気密状態を保っための巨大なシャッタ ーが、地上連絡道路にある。いま、シャッターが開くと、はるか地 底から、エアリーズの着陸台がせり上ってくる ( 写真⑨ ) 。ェアリ ーズは静かに台の上に降りる。着陸台は、再び地底に下り、シャッ ターが完全に閉じると、内部に空気が満たされる。これ自体が巨大 なエアロックになっているのだ ( 写真⑩ ) 。 フロイド博士は、すぐに科学者や基地隊員が待っ会議場に行く。 新発見の不思議な物体とは何か ? それは、どうやら地球人以外の 知的生物が、はるか昔に月に残した〃何か〃らしい。はたしてそれ は、どんな生物か ? その目的は ? フロイド博士は、怪物体の発掘された現場に、ムーイハスに乗っ て急行する。 ⑩ 80 万年も昔に , 宇宙の支配者マンターよって 埋められた怪物体。 ⑩人工冬眼カプセルに眠る隊員。 0 3
「うん、そのカエルは、くりかえし海水で洗い、いかにもおいしそそうむずかしいものではなかった。少なくとも起電機をつくるより はやさしかった。 うにたべた。その様子をうしろで見ていた、仲間のカエルのうち、 好奇心の強そうなのが、二匹、三匹とその真似をはじめた。真似はその日の午後には、だいたいの形はできあがり、進水式を行なう たちまち、全員にひろがった。まあ、一部始終をはなすと、こう いまでになった。スーザンは、夕方まで、カエルたちを舟にのせる訓 うことになる」 練に熱中した。 「カエルさんたちって、なかなか頭がいいのねー つぎの日の正午近く、準備は万端ととのい 一行は大型のイカダ にのって、波しずかな海を渡った。 「たしかに、地球のカエルよりは高度な知能を有しているようだ。 こういう話は、科学史の中にもみられる。しかし、ここで重要なの 小島に着いてから、イカダを岩につなぎ、荷物を陸揚げし、それ まの一件で、彼らが海にを宇宙船の下まで運搬する作業は、楽ではなかったが、これまでの は、彼らの知能や社会や進歩ではない。い 弱いことが、はっきりした。そのことのほうが大切だ。さあ、これ経験がものをいって、トラブルもなく終了した。 「いよいよ、この惑星を離れるのね」 で結論に達したよ」 スーザンが、感無量といった声をだした。 「賛成だわ、解放してやるのね」 「スーちゃん、気がはやいよ , シオダは、ちょっとおどろいたよう 「いや、解放するのではなくて、いっしょに舟にのせて、島までつ に、婚約者の安心した横顔を眺めた。「この宇宙船を発進させるの れていくんだ」 はそう簡単ではないだろうし、発進したあとどうやって救いだして 「まあ、どうして ? 」 もらうかーーーそれもよく考えなければならない」 スーザンは目をまるくしだ。シオダはしん・ほうづよく説明した。 でも、もうおまかせしますわー 「燃料をもって海をわたるのは簡単だ。舟をつくればいいんだから「それもそうね、リチャード、 ね。しかし、島についたあと、どうするね ? カプセルからおろす「とにかく、どう操縦し、どう燃料を補給するべきかを、調査しょ のでさえ、・ほくたちのカでは、ずいぶん難儀をしたんだ。まして、 あの岩だらけの小島の上を通り、宇宙船の燃料室まで連ぶのは、なすっかり楽観ムードにひたっているスーザンに、これ以上論理的 みたいていのことではあるまい。カエル部隊の協力がどうしても必な説明をすることはあきらめたシオダは、行動にうつった。 彼は、眼のまえにそそりたっ″キラカ人″の宇宙船をじっくりと 要だよ」 眺めた。そしてそれが、ポケットブックに出ている標準型の三人乗 「わかったわ、リチャード。あたしってばかね , りの調査船であることをたしかめ、さらにハッチの上にある記号に スーザンはすなおにうなずいた。たしかに、シオダのいうとおり よって型式番号をあらためた。それからポケットブックをひいて、 にちがいなかったからである。 それからふたりは、イカダ状の舟の製作にとりかかった。これはまず燃料がふたりの運んだ『中性子燃料』でよいことを再確認し、 3 7
いっせいに見舞い、鳴き声が朝もやをふるわした。しかし今度は、 前回とはことなり、カエル部隊の列はみだれなかった。 スーザンに向かって前進しないと、第二のビリビリツが来るぞ と教えられているので彼らは、学習心理学にしたがって四肢を カルデラ火口原の直径は約四キロメートル、あらかじめ見さだめ 動かし、台車をひつばりはじめた。 ておいた方角への行程は楽ではなかったが、カエルたちはよく運搬 シュルシュル 部隊の役目をはたしてくれ、その日の夕方には、外輪山のふもとに シュルシュル 到着した。 シュルシュル その日の夜は、カエル部隊の編成はくずさずに木につなぎ、ふ ヒリヒリッ たりはパラシュート の残部で夜露をしのいだ。 電気ショクは、一分に一度くらいの割合いで、カ = ルたちをおそ翌朝シオダは、目をさますとすぐにひとりでカルデラ壁をよじの った。起電機をまわすシ = ルシ = ルという音だけで、長時間前進すぼり、外輪山の尾機に出て、道をさぐる一方、方角の正しさを確認 るほどうまくはしつけられなかったので、時々ほんとうのショック 1 」こ 0 をお見舞いしなければならなかったのだ。 「さあ、出発ね ! 」 それでも、うまくいったといってよかった。ソリ式の台車は、砂 もどってきたシオダの顔をみるなり、スーザンは立ちあがった。 地を選んですべり、岩の多い個所ではコロがその運動を助けた。 カエルたちが順調に働いてくれ、電気ショックも大して与えずにこ ふたりは忙しかった。スーザンは餌をふりかざしながら、ちょっ こまでやってこれたので、彼女も気をよくしていたのだ、だが、 と油断するとそっぽをむいて歩きだす力エルたちの方角をそろえるオダのほうは、慎重に小首をかしげていった。 のに、走りまわらなければならなかったし、また、草むらや灌木に 「方角はたしかにこれでよい。うまり降り坂を選ぶために、尾根づ ロープや包帯がまとわりつくのをほどいたりもしなければならなか たいに少し迂回しなければならないかもしれないが、とにかくこの っこ 0 先の離れ島に、宇宙船が着陸していることは、はっきりみさだめて シオダは起電機をまわしながら、カエルたちの様子をみては、接きた。距離はそう遠くない。しかし : 点をとじたりひらいたりし、台車のかじをとり、コロを出し入れ「しかし ? 」 し、台車上の荷物が落ちないように押さえ、さらに地形をみては進「うん、しかしだ、このまま安易な気持ちで出発してもいいものか どうかは、ちょっと疑問だな 路の指示をスーザンに与えなければならなかった。 しかしとにかく、ふたりはこうして、カプセルをあとに、朝もや「まあ、どうして ? スーザンはほどけかかった包帯と、切れぎれの部屋着とのすきま をついて、脱出行の一歩をふみだすことに成功したのである。 7 6