言った。それからブレインに向きなおった。「スティーヴにここにで、それが完全な直線をなして突進してきた。 くるように言え」 先頭の一隻がこちらを認め、僚船に指令を発したことはまちがい ない。四隻は同時にわれわれを見、同時に行動を起こした。そのみ ごとな統一のとれた行動は、わたしにある大きな学問上の謎を思い このタフな潜在力を秘めたやつがあっさり降伏した不思議さは、 、いかにして空を飛ぶ鳥の群は、さながらひとっ ださせた。つまり 気閘を閉め、永遠にここをおさらばする準備に忙しいわれわれの心 しっせいに針路を変更 を占めていた。けつきよくのところ、彼らは集団では戦えるが、個の共通した心に支配されているかのように、、 体としては戦えないのだ。われわれはだれもその棺桶の心ーーあのし、隊形を変え、方向を転じ、列を組みなおし、旋回するのだろう 共通の意識のほかに、心と名づけられるものをそいつが持っているか、ということである。これらの船は、その鳥の二倍もみごとな演 として、だがーー・・をのそくことはできなかったが、もしかりに釈放技を展開した。それらは同時に方向を変え、梯形編隊でわれわれの されたとしても、そいつはあの海老とおなじように、名折れとして針路につつこんできて、あのうすみどり色の光線を浴びせかけた。 それは例によって効果を発揮しはしなかったが、またしてもスティ 仲間の手で殺されるのではないかと思わずにはいられなかった。 ーヴ・グレゴリーに癇を起こさせるにはじゅうぶんだった。それ 彼らのものの見かたというやつは狂っている。が、なかでももっ にしても、それほどまでに完全なチームワークをわたしはまだ見た とも狂っていたのは、われわれの所有するような進取の気性という ものへの、彼らの不寛容さという点だった。それともそれは、人間ことがない。 だが悲しいかな、そのチームワークは、彼らの勝利には貢献しな の倫理にくらべて、ほんとうにそれほど狂っていたろうか ? ひょ かったし、われわれの敗北にもつながらなかった。もしもその光線 っとすると、すべては〃人間的″という言葉の意味するところにか かっているのかもしれない。わたしはお偉い学者でもないし、歴史が期待通りの働きをしめしていたら、当然われわれは地上で煙を吹 に詳しいわけでもない。が、なぜかそのとき、ある遠い遠いむかしきあげる灰の山と化していただろう。だが、その光線をくぐり抜け にあったという戦争を思いだしていたようだ。ニッポン人が一人のて、われわれは平然と飛びつづけた。敵は数学的正確さで一列横隊 に隊列を組みかえると、ひとりの人間がリモート・コントロールで 行方不明者も認めようとせず、冷酷に彼らを戦死者の列に加えてい 四隻ぜんぶを操ってでもいるように、まったく同一の角度で上昇し たという戦争のことだ。 だが、共有意識というやつには、不利な点ばかりでなく利点もあつつ追いすがってきた。同時に彼らは補助噴射管をふかし、われわ れの航跡を追ってしだいに差をつめてきた。 ることをわれわれが知るには、さして長い時間はかからなかった。 「たいした速度だ」と、ジェイが言った。「通常推進のときのわれ これを最後に黒と赤の大地を飛びたち、雲のなかを爆音も高らかに 飛翔しはじめてまもなく、われわれは四隻の長い、黒いロケット船われの半分ちかくある。せ。やつらのエンジンと操縦装置を見てみた 9 に遭したのた。それは最初の日にわれわれが見たのと伺型の船いよ」
さいえんす・とひっくす うなくふうがなされている。しかしこの方法も、最後の落ちても平気。一〇の加速度、毎秒五〇 0 回の振動に も耐える 瞬間の状態がわかるだけで、事故の原因をつきとめると 熱については一一〇〇度の猛火のなかでも三〇分間は いうわけこま、 ~ : ーし。カ十′し そこで英国のダ・ハル・アンド・サンズ社は「赤い卵」大丈夫。外殼の断熱材は二重になっているせいという。 実際にこんな赤い卵が役立っことのないよう望みたい ( レッド・エッグ ) と呼ふ墜落記録計を開発した。 文字通り卵型の赤い鋼鉄製の外穀の中には、さまざまのだが : ・ な計器の記憶装置がはいっている。 ◇あすのマイホーム電信 ( 英 記憶するのは直径〇・〇五ミリの細いステンレス・ス テレビ電話、宇宙通信など、新しい通信手段がそくそ チール・ワイヤで、墜落するまで五五時間の飛行状態が 記録されている。つまりこのワイヤを取り出して再生すく登場しているのに、いまごろ電信とは ごもっとも。しかし庶民の生活を考えていただきた れば、エンジンの故障か、それとも。ハイロットのミス 電話はいずれダイヤルひとつで、ニ , ーヨークにで か・不可抗力かなどがわかるというわけだ。 記録はつぎつぎと自動的に新しく入れかえられるのもロンドンにでもつながるようになる。 だが電話料金は莫大なもの。毎秒毎秒、蛇口から流れ で、手はまったくかからない。外殻がこわれてしまって はせつかくの記録も役に立たなくなるが、この方も絶対る水のように、財布からお金が出ていくのを、気にしな がら話をするのはまったくつらい といっていいほどだそうだ。 ・三トンの重さのものが上に そこに、手紙という旧式な連絡手段が、いまなお残っ まず衝撃については、二 ている理由があるわけだが、この手紙は確実という反 面、伝達速度はお話にもならない。 こうして考えられたのが、電話線を利用して、話すよ りも早く、手紙と同じほど確実に、通信文を送ろうとい う装置だ。開発したのは英のザ・ = クスチンジ・テレ生活自体もおびやかされるにちがいない こうした動物の被害を防ぐために、殺鼠剤などの毒物 赤グラフなる電子機器メーカー。まずタイプ通信文を紙テ ープに打つ。ついでこのテープを装置にかけ、電話線でが使われているが、危険であるうえ、相手に感知される る という欠点があって、思ったほど効果があがっていない え相手側の受話機に送り込む。受信器はテープをタイプに のが実情だ。 かけると、通信文が出てくるという仕組み。 そこで考えられたのが動物撃退剤。人間には何の匂い 何しろ一秒に二〇字を送り込むというから、相当のス 熱 もしないが、動物にはひどい刺激を与えるという特殊の 高 一分もあれば、葉書一枚分の手紙を届けること 化合物を、英国のスフィア研究所が開発した。 度ができる。 これを植物や家具などにぬりつけておくと、鳥やイ 0 本店から全国の支店や、海外の支店に同じ文書指令を ニワトリよ ヌ、ネコ、ネズミなどは決して近寄らない。 送ろうというときなどは、一度に電話をかけて、一挙に どの家きんにスプレイすれば、羽をついばんだり、共食 撃送ることができる。 することがなくなる。柵につけておけば、馬や牛がか 予想される景気変動を前に、経費節減に頭を痛めておい の じることを止めるので、手入れする必要がなくなる。 られる重役さんには耳よりのお話ではないかな。 丘 毒性はまったくなく、濃度を少なくすることによっ 以 ン ◇被害防ぐ動物撃退剤 ( 英 て、一定時間だけ効果を発揮させることもできるとい せつかく育てた木の芽を鳥に食い荒されたり、大事な そのうちに人間が近寄らなくなる薬剤も開発され、デ : という経験を 家具を飼い犬やネズミにかじられたり : いや、胡像 お持ちの方も多かろう。農作物が動物から受ける被害はモの鎮圧や警備に使われるようになって : 莫大なもの。動物が突然、大増殖をはじめたら、人類のをエスカレートさせるのは、作家におまかせしておきま ツいを元 , 、蕋噬帋臨第 毎秒字を送信する高速電信機
している ( 写真⑩ ) 。 冬眠カプセルは、フードをとると、べッドになる。、 しま隊員の一 人フランクが、太陽灯をあびながら、のんびりと地球の両親からの テレビ電話を見ている。電波の往復の時間がかかりすぎるので、一 対一の会話ができない ( 写真⑩ ) 。つねに電話は一方交通だ。 ケンカも不可能だ。 隊長のディヴィッドは、ひまなときは電子オルガンでジャズを演 奏する。モダンジャズも古典音楽の一つだ。 ( 写真⑩ ) 製品。 〈コン。ヒューター『ハル 9 0 0 0 号』〉 このディスカ。ハラー号は、巨大なコン。ヒューターによって、自動 的に管理されている。 オールマイティのコン。ヒュ ターは『ハル 9 0 0 0 号』と命 名され、隊員たちと自由に会話 し、冗談を言いあう。ディヴィ ド隊長は、チェスの試合を申 しつも敗けてばかり 込んでは、、 ン いる ( 写真⑩ ) 。『ハル 9 0 0 0 の号』の実力は名人なみなのだ。 ハルは嘘をついたのか ? どこかが狂ったの らない。 とすると、 一人生みの親は社と CDL.@社。 か ? 不安を覚えた隊員たちは、ひそかにハルの機能を停止しよう とはかるが、その直後、またも不可解な事故がおこった。 も人間より数万倍も知能がすぐ で れ、あらゆることを予測するハ どうしたことか、船外に出た隊員が突然動きたした無人の子宇宙 チ「 ルは、巨大な通信用アンテナが船に突き飛ばされて、宇宙に放り出されたのだ。 数時間後に故障を起すだろうと そのうえただちに救出にむかった隊長もまた、宇宙船内に戻れな 予言する。 ( 写真⑩ ) くなった。 すぐに修理のため子宇宙船が これは一連の妨害エ作だ。いったい誰が、何のために ? コン。ヒ 5 3 出動する ( 写真 3 ) が、ふしぎューター ・ハルは解答を拒絶し、不安は、次に恐るべき戦慄となっ なことにどこにも故障は見つかて、ディスカ。ハラー号内にひろがってゆく。 ⑩これが「ハル N00 号」の心臓部。 緊急修理に出動する子宇宙船を格納庫 内部から見る。
日本 SF シリーズ 載夢の的を 新人問そっ ( り安なハ【、 : 、よ・で : 透明受第洋・を一 をまこ : 、第エスパイ第を第をー : を 3- 幻影の購成【 : ・ ・の億の物幻第 ! : し第モンゴルの残光 ! 、 : 空間と時間と、無限大と無限小 と、機械と人間と、文明と未来 と、死と生と・・・・・・現代人の知性 と感覚に訴えるあらゆるイマジ ネーションの世界を描く、本邦 初の本格的 SF 長篇シリーズ !. 好評発売中 丐の首風雲金求筒井康隆 暗黒星雲中に群がる三百の惑星世界、馬の首星域の風雲 は急を告げた。そしてその夏、地球人の支援を受けたト ンビナイ共和国軍が国家軍を襲撃、ついに戦争が始まっ た。期待の新鋭作家がはなっ異色長篇 ! Y 4 0 0 モンコンレの残光 豊田有恒 人間そっくり 安部公房 ¥ 300 百億の昼と千億の夜光瀬龍 幻影の構成眉村卓 果なき流れの果に 小松左京 \ 400 48 億の妄想筒井康隆 \ 340 透明受月台佐野洋 工 . スノヾイ 小松左京 光瀬龍 たそカに還る 夢魔の標的星新一 復活の日 小松左京 ¥ 390 地球強奪計画都筑道夫 290 重版出来 ¥ 380 \ 400 ¥ 370 330 ¥ 390 380 320 続刊
たくさんいるはずだ。この風に巻きこまれたものは、ほとんどいつずに地上に落ち、四分の一も砂に埋っていたーー・まてよ、そんなこ トムはすぐに思った。田 5 い違いをしていたのだ。 とはあり得ない、 も、ずっと未来か過去に吹き飛ばされてしまう。 揺れる岩のところは通りすぎてしまっているのに、その姿が心に焼 これは人間にも昔から起っている。アンプロウズ・ビアスという 人はアメリカを立ち去って、そのままこの世から消えてしまったきついていたにちがいない。 トムはすっかり気が動 こうしてつじつまを合わせてみたものの、 し、ほかにも跡形もなく蒸発してしまった人は何千となくある。と タイム・トーネイド いっても、その多くが時間旋風に吹きとばされたとはいえないかも転していた。カメラの吊り革がゆっくりと腕をすべり落ちるのも気 セレスト号のデッキに時間疾風が吹いたかどづかなかった。ちょうどその時、目の前の巨大な筒形の岩のかげか 知れないし、マリー・ ら、おそろしくきれいな若い女があらわれた。髮の毛もすばらしく うか、わたしには受け合えない。 時には時の風が悪ふざけして、ある物体をびっさらい、一季節きれいな。ヒンクがかった銅色だった。 その女は素足で、どことなく古代ギリシャ人のチニックに似 ももてあそんでから、もとの場所に無傷でもどすこともある。時に タイム・ウインド はわれわれだって、気づかぬうちに気まぐれな時の風に吹かれてた、薄青色の遊び着をきていた。そして、乱れた砂の上に落ちてい いることもありうるのだ。たとえば記憶も、小さな時間の微風なのるトムの影を踏んで立ち止ったのだが、なによりもトムの目をひい たのは、その女の実に自然な態度だった。ちょうど、谷間が一瞬の だが、ただあまり弱いので心にさざ波を立てる力しかないわけだ。 ごくまれには、モンスーンのように一定の期間をおいて、まずあうちに永遠に向 0 て一歩前進してしま 0 たように見えるのと同じ く、まるで女の人柄が、年をとらずに風化して、鋭い角がなくなっ る方向に吹き、つぎに反対方向に吹く時の風もある。アメリカ南 西部には赤石の谷間があり、そこの揺れながら落ちずにいる大岩のているようにみえるのだ「た。 、くらか女にもうつったのだろう トムの持っている優しい心が、し そばに、この風が吹く。毎朝十時に百年未来に向って吹き、午後一一 か、かすかな驚きがうすれると、五年越しの友人みたいな気安さで 時には百年過去に向って吹くのだ。 時の風が吹いているのを、それと気づかずに見ている人が多トムに尋ねた。「ねえ、女は一人の男だけを愛していられるものか 。海の水平線にかすんだ点があ「たり、砂漠の砂の上にゆらゆらしら ? 一生涯よ ? そして、男の人も一人の女だけを愛していら 揺れる部分があったりする。蜃気楼もあれば、鬼火や極光もある。れるものなの ? 」 セットは面喰らって、唸った。 そして、トム・ドーセットが揺れる岩のそばに歩み寄った時に出会 かれの心は必死になって答を探した。 ったような、つむじ風もある。 「わたしはできると思うのよ」女は山のように落着きはらって、ト トムはいまいましい突風が砂を吹き上げたぐらいにしか思わず、 トリスタンとイゾ 目をつむって、暖い砂粒が目蓋にばらばらあたるのが止むのを待っムを見つめながらいった。「一人ずつの男女が、 た。 . 目を開いてみると、あの揺れる岩が、いつのまにか、音も立てルデやフレデリックとキャサリンのように、お互いのすべてになり タイム・ウインド タイム・ゲイル デリーズ 3 3
。彼女は二百インチ・ドームに入室を許された唯一の犬であったにちがいない。わたしが運転室の中で 調整をしている間中、彼女は何時間でもひっそりと物かげに横たわっていた。ときどき、わたしの声が聞こえさ えすれば満足しているらしかった。同僚の天文学者たちは等しく彼女を気に入った ( 彼女の名づけ親はアンダー ソン老博士である ) が、始めから、彼女はわたしの犬であった。彼女はほかのだれにも服従しなかった。かとい って、わたしの云うことならいつでもきいてくれたというわけでもない。 彼女は美しい動物だった。ほぼ九十五パーセント、ドイツ種セ パードだった。想像するに、残りの五パーセン トのおかけで捨てられたらしい。 ( このことを考えると今でも怒りを感じるが、真相は分からないのだから、誤 った結論に跳びつくのはよくあるまい ) 両目周辺の二つの黒斑を除けば、彼女の全身はくすんだ灰色だった。毛 皮は絹のようになめらかで、耳を。ヒンと立てると、とても利ロそうで、すきがなかった。ときどき、わたしは同 たちとス。ヘクトルの型や星の進化などについて討論し合うことがあるのたが、そんなとき、彼女はまるでわれ われの話を理解しているような態度を示した。 今でも、わたしには、彼女がなぜわたしにあれほどっきまとったのか理解できない。わたしときたら、相手が 人間であっても親しい友人は少なかったからである。わたしが何かの都合で欠勤したあと天文台へ出勤したとき など、彼女のはしゃぎようは格別であった。後足で立って跳ねまわり、前足をわたしの肩にかけーー・彼女にはそ れが容易になし得るだけの体長があったーー一方、こんな大きな犬にはまったくふさわしくない可憐な甘え声を あけ続ける。わたしには、数時間以上、彼女から離れていることができなかった。まさか海外旅行にまで彼女を 同伴するわけこよ、 冫しかなかったが、短い旅行には、ほとんど彼女をいっしょにつれていったものだ。 あのスークレイでの不幸なゼミナールに出席すべく 北へ向って車を走らせたときも、彼女はわたしといっし よミ」っこ。 長途の自動車旅行には、彼女はうってつけの同行者だった。そのときのわれわれは、テレグラフ・ヒルの大学 時代の友人の家に泊めてもらった。先方のわれわれに対する扱いは丁重この上もなかったが、家の中へ大きな大 を入れることには、明らかに気が進まないようすだった。それでも、ライカが今まで一度たりと面倒を起こした ことのない事実をわたしが強調すると、しぶしぶ、彼女を居間に寝かせることを承知してくれた。 「今夜は強盗の心配はありませんよ , とわたしが云うと、かれらは、 「ハークレイには、そんなものはいません」と、いささか冷ややかに答えたものだ。 その日の真夜中、わたしはヒステリックで、かん高いライカの吠え声で目をさました。こんな吠えかたを聞い 3 たのはただ一度ーーーライカが生れて初めて牛を見、相手の正体がわからずに . おびえたときだけだった。わたしは 8 悪態をつきながらシーツをはねのけ、他人の家の暗闇の中へ転がり出た。この家の人々が目をさまさないうちに
ミシェル・ビュトール片岡義男訳 ットは、可能なのだ。この考え方がの基礎になっているのだか ら、ここでいますこし詳しく説明しておく必要が・ある。 t-n の定義は、かなり難かしいようだーー専門家たちのあいだに 魔法使いっ魔力を信じていたアラブのス . トーリイテラーたちにと おける定義論争がこの事実を証明してあまりあるーーー難かしい っては、空飛ぶカーベットは、宇宙ロケットとおなじ『可能事』で と同時に、最も簡単に説明してしまえるジャンルでもある。 ()n にあった。しかし、おなじ『可能事』でも、私たちにとっては、空飛 ついてなにも知らない相手には、「ほれ、宇宙ロケットなんかがしぶカーベットと宇宙ロケットとでは、まったく質が異なる。 よっちゅう出てくる話さーとでも言っておけば、すぐにわかっても宇宙ロケットは、私たちが『現代の科学』と呼んでいるものによ らえる。どの r-0 にも宇宙ロケットが登場する、というわけではな って保証された可能事なのだ。現代科学の教義を疑ってかかる人間 宇宙ロケットとおなじように重要な働きをする、なにかほかのは、正気の西洋人の中には、ひとりもいない。宇宙ロケットのよう 装置が、宇宙ロケットの代りにあらわれても、 ()n であることにはな装置を話しの中にわざわざ作者が登場させる理由は、 かわりはない。しかし、宇宙ロケットが出てくる話、という説明の にか。ある一定の限度まで、現実を離れてみたいからだ。現実をひ しかたは、 ()n の最も普遍的なしかも典型的なとらえ方だから、たきのばし延長させてみたいからだ。現実から完全に切り離されたい とえば童話の中に出てくる魔法使いがほとんど例外なく魔法の杖をためではない リアリズムのうえに立って、リアルなものの中に空 持っているように、 tn と聞けば人々は宇宙ロケットを思うのだ。 想をさしはさむのだ。このような話の舞台が未来に設定されてある このことに関連して、まず次の二点を考えてみる必要がある のは当然のことだ。 い現在のところ、宇宙ロケットは実在しない。宇宙ロケットがあ 現代の科学を最も広く受け取るならば、宇宙ロケットにかわるよ ったとしても、あるいはいま現に存在するとしても、一般読者は・「 うな装置だけではなく、ありとあらゆる分野におけるテクノロジー 宇宙ロケットについては、なにも知らない。だから、宇宙ロケット を、実現可能なものとして想像することができる。科学がなにをど みたいたものが登場するお話は、一般の読者にとってはファンタジ こまで保証してくれるかは、ますますあいまいになるけれど、やは ーなのだ。 り科学は ()n を定義するうえでの特性であることにかわりはない。 しかし、やがては宇宙ロケットが現実のものになることを、私つまり、とは、科学によって可能事となり得る範囲の未来を探 5 たちは固く信じている。もはや時間の問題、しかもその時間とてある小説、ということになる。 とせいぜい数年でしかないことを、私たちは知っている。宇宙ロケ は、リアリズムによって枠どりされたファンタジーなのだ。 LA CRISE DE CROISSANCE DE LA SCIENCE FICTION ェッセイ集お Essais sur les modernes より は危機をのりこえるか
☆コンテストについての詳細は、一一一〇べージの募集要項をごらんください。 ☆来月からスポンサーがゼネラルに変り、番組名も△ゼネラル・ / リラックス〉となります。放送時間は変りません。 だ。わたしはぜひ、君に、つまりまだ文明が原始的な時代の人間に、尋ねたい ことがあって来たのだ」 その未来人がテレバシーでわたしに語りかけるたびに、彼の憎しみの感情も 、つしょにわたしの頭のなかに流れこんできた。 もちろん、わたしに対してのそれではない。 ある何者かに対する憎悪だった。 未来人は続けた。 「わたしたちは数十万年間、ある種族と戦闘状態にある。戦争は激烈だ。もし この戦争が終るとすれば、いずれか一方の種族が絶減した時がそうだろう。 この戦争に嫌気がさし、自 わたしたちは不老不死なのだが、不幸なことに、 殺する者が増えているのだ。だからわたしたちは人口を増し、兵力をたてなお さなければならないー わたしは心の中で、ついに言った。 「あなたは何を、わたしに尋ねたいのだ ? 未来人は言った。 「わたしは人口の増やし方を教えてもらいたいのだ。そうすればわたしたち は、わたしたちの人口を増やすことができるのだー わたしは唖然とした。 わたしは返答につまったが、勇気を出してこう言った。 「きまってるじゃないか ! 男と女がセックスをすれば子供が生まれる。そし て人口が増えるんだ」 未来人はその時、手足をばたっかせ、前に倒れかかった。未来人は手足を大 きくゆらせながら、こう言った。 「ああ、わたしたちは″敵〃とセックスしなければならないとは ! 」 ( 作者の住所は、大阪府東大阪市加納四二二ノ一 l) 7
ライカを静めようと考えたのである。 まだ、ほんの寝入りばなのはずであった。もしだれかが家に侵入した のだとしても、とうに逃げてしまっていただろう。実をいうと、むしろ、そうであることをわたしはひそかに願 っていたのだ。 しばらくの間、わたしは階段の上で、電灯のスイッチを押すべきかどうか迷っていた。結局、低い声で、 「静かにしろ、ライカ ! 」 と叱りつけ、それでも騒ぎがおさまらないので、いらいらして、部屋中に光を充満させた。 ライカは狂ったように扉をひっかいていた。ときどき休んでは、先刻来のヒステリックな鳴き声をたてる。 、「外へ出たいんなら、なにも、こんな大騒ぎをすることはないじゃないか , とわたしは云いながら、階段を降 り、扉の止め金を外してやった。ライカはロケットのように闇の中へ走りこんでいった。 一あたりはしんと静まりかえり、サンフランシスコの霧ごしに三日月が何とか光を通そうとしていた。わたしは 光を含んだもやの中に立ち、ねぼけまなこで街灯の明りをすかしてあたりをうかがいながら、ライカの帰りを待 った。帰ってきたら、うんと叱りつけてやるつもりだった。そのときだーー・二十世紀に入って二回目のサンフラ にンシスコ大地震が始ったのは。 奇妙な話だが、最初は少しもこわくなかった。 危険を認識する前の瞬間、二つの思考がわたしの頭を通りすぎた。地球物理学者たちはなぜ警告を発しなかっ たのか : : : それにしても、地震とはこんなにも恐ろしい音を出すものなのか : そのころになってからであるーーー揺れかたが普通ではないと吾ったのは。 」そのあとの出来事は、できるなら思い出したくない。 ライカを置きざりにするのを拒んだわたしが赤十字に収 容されたのは翌朝遅くであった。わたしの友人やその家人たちの遺体もろとも、くしやくしやにつぶれた家を見 るにつけ、わたしの生命はライカのおかげだと思った。だが、救急ヘリコ。フターのパイロットがそんな感慨を理 解してくれるはずはなく、かれらがわたしを気狂いだと思っても責めることはできなかった。同じような人間が 火や瓦礫の間を何人も何人もうろついていたのだから。 それからと云うもの、わたしとライカとは、二、三時間以上離れたことはなかった。わたしは次第に人間相手 気要の交際に興味を失ってゆくようだと、人からは云われ、自分でもそう思った。かと云って、とくに社交が嫌いだ 第物とか、人間嫌いになろうと思 0 たわけでもないのだが。人びとの目には、わたしが星とライカさえあれば他には 何もいらない男にみえたのだろう。わたしとライカはよくい 0 しょに山歩きをしたものだ。わたしの半生で、一 番たのしい時期だった。 一つだけ心痛があった。ライカは知らないが、この幸せが終る日は、わたしにはわかっていたのた。 4 8
表の狂熱的脈動を見たように、宇宙空間を想像し、それを見ようと動が起せるのだ。 「どこでウオイノフに近づくつもりだ ? 」 試みた。 「プールのとなりの画廊よ。フランスの新進画家たちの展覧会があ 彼は目をとじて、いつものように手でかくした。すると〃アレク サンドル・ウオイノフ。という一つの名前が、非常に多くの意味をるのよ。あの人は一時間か一時間半後にそこにくるわ」 もってきたかのように、極度に微細な粒子に貫通された無色で凍結「よし、やってみろ、 した空間が見えてきた。直線軌道、無音の破局、無声の衝突。スミ レ色の波のように、時間があとじさりし、そのきらめく奥から粒子 ・ : 外気に顔を赤くし、いくらか興奮気味で、フロナは帰ってき のたばが飛び出して、まともに目を打った。なんともすごい光景で ある : 「ここよ。階下にいるわ ! 宇宙飛行のこと、とてもたくさん知っ 。ヒーター・ブレイゲンはフロナを呼んで、名簿を見せた。なんとてるようだけどね、あたしにはちんぶんかんぶん。あなた、下に降 く千万人のなかか りてみる ? 」 してもウオイノフを見つけなければならない。い ・ : 男と女があけた本「わざわざおまえをおくってきたのか ? 」 ら見つけ出して、釣り上げなければならない : の前にすわって、目をとじているーー・わきから見たら、ずいぶんと「もち。あの人ね、なにかの公式をさがしてるんだって。それで頭 が痛いんだそうだけど、なんのことか、あたしにはわからないわ。 ・ほけた遊びにうつるだろう。 ″フォトン・ビーム〃とか何とか : : : 意味ないわね。社交的なむだ 空間のすごい場面がじゃまになって、ビーターは目がきかない。 ばなしで、頭を休めることにしてるんだって : フロナがまず当りをつけた。 そこから離れることができない。 「いってみよう ! 」 「りつばな人らしいわ。若い好男子。それにちょっとスタイリス ト。ただしダンスはできないようだけど フロナは服を着換え、。ヒーターといっしょに広いホールにおりて 。ヒーターはフンと鼻を鳴らした。 いった。若い男は新しい知己の手をにぎって、ぎごちない笑顔をつ 「あら、なにがお気に入らないの ? あたしは女なんですよ。とにくった。 これがあの物理学者だ、宇宙エンジンの専門家だ。彼はフロナと かく、きようじゅうにあの人とお近づきになればいいんでしよう、 そのつれに、遠いアフリカのこと、。フレトリアのことをいろいろき ね ? それとも、その必要はないっていうの ? 」 いた。学校の地理の時間にならっただけで、くわしいことはなんに 男はまた鼻を鳴らした。個人のつきあいはあまり好ましくない。 月並のスパイではではないのだ。顔を知り、聞き出し、ドアに耳をも知らないので、といいわけした。 フロナはじぶんがミス・プレトリアに選ばれたこと、モスクワ娘 おしつけ、金庫破りするなんてことは、必要ではない。すでにはっ きり見えている , ーーほんのなにかの連絡をつけさえすれば、すぐ行に会 0 ている場面を放送したいとテレビに頼まれたこと、などを話