= イ・スコアだ。ばかでかい図体につやつやした皮膚、ごっい顔はさせると、身をくねらせて穴にもどっていった。身体が穴に隠れる よく使いこんだ革の色だ。おつぎは黒人船医のサム・ヒグネット。 にしたがい、黒い尾にそっと銀色の光がきらめいた。 「なんてこった」ブレナンが息をはずませて言った。「聞こえた 漆黒の顔のなかで、歯だけが対照的に白くきらめいている。つぎが 小柄な白人系地球人のブレナンで、その隣りに坐っているのが、ゴ か、みんな ? 」呆然とした表情を眼に浮かべて、彼は穴のところへ ム状の皮膚をした十本の触手と、ぎよろりとした大眼玉を持っ火星行くと、しやがみこんで呼ばわった。「おおいきみ , 人のクリ・ヤング。おつぎがわたしで、中年の、やや髮が灰色にな「いないよ」とかげに似た生物が、どこか穴の奥深くから答えた。 りかかった地球人、そして、しんがりがこの怪物で、黒と銀色のと くちびるを舐めると、ブレナンはいじめられたコッカー・スパニ かげに似た生物。ざっとまあこんな取合せで、これがみな一列に坐エルのような頼りなげな眼差しを一同のほうへ向け、それから、 りこんで、沈痛な面持で川をながめているのだ。 ささかばかげた質問を発した。「いないって、だれがだ . 「おれがさ」と、とかげ。 依然としてだれも一言も発しない。言うべき適当なことが思いっ けないといったあんばいだ。われわれが見つめる、その生物も見つ 「聞こえたか、おい」すっかり途方に暮れた。フレナンが、立ちあが める。われわれはみなせいいつばい平静を保とうとしていた。わた って一同を見まわした。 しはあのウイルスンのことを思い このシーンを写した乾板があっ 「なにも聞こえたわけじゃないよーだれも答えないうちに、ジェイ たら、彼がどんなに狂喜し、それを保護しようとするだろうかと考・スコアが言った。あいつは喋ったんじゃないんだ。おれはずっと えた。彼がこの場にいあわせなかったとはあいにくだ。そのうち、 あいっから眼を離さなかったが、ロはこれっぽっちも動かなかっ なおも見まもるわれわれの眼の前へ、べつの死体がぶかぶかと流れた」強い光をたたえた彼の眼が、穴のなかをのそきこんた。「あい てきた。前のとそっくりおなじようなやつだ。頭なし。 つはただあいつなりに、純粋に動物的な思考を働かせていたにすぎ 「だれだか知らんが人気のないやつがいるらしい」無言の行にあきないんだ。それがテレ。 ( シーとなって、そしてもちろん人間のこと あきしたのだろう、ブレナンが言った。 ばに翻訳されて、きみたちに伝わってきたというわけだ。ところが 「かれらは独立派だよ。おれとおなじにね , と、イグワナがしかっきみたちは、ふつうテレ。 ( シーによる思考パターンを受けるように めらしく言った。 できていないし、これまで人間の念波帯域に向けて発信されたもの 「え ? 」 に遭遇した経験もないものだから、あいつが喋っているように思い こんでしまったのだ」 五人の人間が、これほど敏速に、これほど完璧にタイミングの合 「まあしばらくねばっててごらん」と、とかけがくりかえした。 った叫びを発して立ち上がった例は、ほかにないだろう。 「だが、おれの穴のそばは遠慮してもらいたいな。おれは人中に出 5 「まあしばらくねばってごらん , とかげが言った。「面白いものが 見られるかもしれんよ」そいつはブレナンに向かって眼をはちばちるのが嫌いでね、危険だから」
: こわいよ、ママ : ぼくを見て、笑った : 「しずかにしろ ! 」ぼくは、ジャコボの腕を背後からおさえた。 その時になって、やっとジャコボはミナの首にかじりつき、涙を盟 「そんな、ばかなまねをしちゃいけないー ジャコボの小さな体は、一瞬、。ほくの手の中で、強靱なゼンマイ流さずに泣きじゃくりはじめた。 「さあ、さあ、もう大丈夫 : : : 」ミナは、そっとジャコボの背中を だが、それはほんの一 がはねまわるように、はげしく動いた。 たたいた。「いったいなにを見たの ? ーーでも、そのこわい人は、 瞬のことで、ジャコボの細い、骨っぽい体は、急に力がぬけたよう になり、彼は四肢をビンと硬直させ、白眼をむき、歯をくいしばつもう行ってしまったんでしょ ? 」 「ちがうよ : : : そいつ、人じゃないよ : : : 人よりもっと強い、こわ たまま、ぼくの腕の中にたおれこんだ。 いやっ : ジャコボは鼻をすすり上げ、体をぶるっとふるわせ 「癲癇を起したことがある ? 」・ほくは急いでジャコボを地面にねか た。「そいっ : せ、歯の間にポール。ヘンをかませながらきいた。 : ママのお友だちを、殺すよ : : : 」 こんなこと、はじめてよ」ミナは、まっさおになり 「ないわ。 えっ ? というように、ミナは、ぼくの顔を見上げた。 ながら、ふるえる声でいった。 「その、悪いやつが、そう言ったの ? 」 癲癇というほどのものではなかった。 ジャコボの体の硬直は「ちがうよ : : : 言ったんじゃないよ : : : でも、あいつは、そうする すぐとけ、幼児はハアハア荒い息をしながら、自分で起き上った。 と : : : ぼくにはわかったんだ : : : 」 黒い額に、玉のような汗が、どっとふき出した。 それからぼくは、一 ぼくは、一瞬、ミナと眼を見合わせた。 「どうしたの ? ジャコボ : ミナは、女児の体をだきしめなが足とびに草むらの中にとびこんだ。森の奥の方でチラと動くものの ら、上ずった声で笑った。「また、蜜蜂 ? 」 影が、眼の隈にうつったのだった。腹ぐらいまでのびている下ばえ ううん、と、ジャコボは首をふった。 をわけて、ぼくは森の奥へとっきすすんだ。森中は、すでに急速に もっともっと、つよくて、こかげりがこくなりはじめていた。動いものの方角へ、・ほくはがむし 「ちがうの。今度は、悪いやっ : : - ジャコボは、眼をギラギラさせて、もつれる舌でい わいやっ : やらに突進した。一度はたしかに木立ちのむこうに、何かの姿がす : ・ほく、つよ った。「ぼく、こわかったけど、うなってやった。 っとかくれるのを見た。そいつは、ばくの知っているなにものかの かったでしょ ? ママ」 だが、そいつの姿は、 ように思えた。ぼくはさらにすすんだ。 もうどこにもなかった。右手の、さらに森の深い方へむかって消え 「犬か、それとも熊でもいたのかな ? 」・ほくは、草むらのむこう、 森の奥をすかしてみた。森は左手が、校内道路で切れ、右手の方にて行ったのか、それともどこかへもぐってしまったのか、もはや森 。ほく の、そのあたりには、そいつの気配も感じられなかった。 ずっと奥深くつづいている。「どんなやつだった ? ジャコボ , ・ : とはそれでもあきらめきれず、傾斜をのぼりきり、むこう側の斜面を 「わからない : : でも、とてもつよい こわいやつなんだ。 おりた。そこは、花壇と泉水のある、宿舎へ行く道だった。鉄材 ても、えらそうな顔してる : : : こわい、こわい眼でぼくを見た :
砂浜にまで送りかえすことにしよう。どうだい、 「ねえ、リチャード」 スーザンはとがったくちをひらいた。 けがをした一匹を除く、一〇〇匹のカエルたちを砂浜にもどし、 「これだけ、わたしたちにつくしてくれたんですもの、みんなつれそして彼らがぶじ、外輪山をこえて、カルデラ火口原に消えるのを て帰りましようよー しよいよ宇宙船に乗りこみ、資格試験さいご 見とどけたふたりは、、 「それはむちゃだー シオダは眼をまるくした。「いくらスーちゃの課題に挑戦した。 んががんばっても、一〇一匹分の飼料をいまから用意することはで ポケットブックとこれまでの経験にもとづいて、シオダは真重に きないよ , エンジンを始動させた。同僚のヒノに操縦をまかせることの多かっ 「なんとかならないの : : : 救助されてしまえば、餌なんてどうにで たシオダとしては、自分の能力をためすーーーそしてためされる もなるんじゃない ? またとないチャンスだった。 「彼らにとっては、自然の古巣にかえるのが、いちばんのご馳走な 背伸びをしたり、横に移動したり、跳びあがったり、かがみこん だり : : : というシオダの大活躍によって、船は大きなショックもな んた。これはきみ、あたりまえの話だろ ? 」 スーザンく、 「どうしてもためなのなら、あきらめるわ、だけど : 離陸を開始した。 シオダのからだは、せわしく動いた。ふだんはおちついているシ はうらめしそうにシオダを見上げた。「あの、けがをした一匹ぐら 冫。し力ないの オダだが、相手が機械なので、じっとしているわけこよ、 、はいいでしよう ? 」 「けがだって、さっきもいったように自然にしておいたほうがなおだ 宇宙船はしだいにスビードを増加した。離陸した小島は点とな りがはやいんじゃないかな ? つれていくと、宇宙船発進のショッ り、カルデラの全景が眼に入るようになった。やがてはそれもひと クで、さらにわるくなるよ」 つの点となって、海と陸との縞模様の中に消えていった。 「わたしが抱いているわ , ート』の夜と昼が視界にう そして、みどりの惑星『ウォーム・ シオダは、眼をしばたたきながらいった。 「まあねえ : つりはじめた頃、必死で動きまわっていたシオダが、叫ぶようにい しことにしようか」 一匹ぐらいなら、い、 った。いつもの彼には似合わぬ、悲痛な声である。 「嬉しいわ、リチャード ! 」 しい知恵はないか ! 」 スーザンはむじやきに喜んでとびあがった。そして、このことが「スーちゃん、大変だ , 「あたし、こういうことには弱いのよ」スーザンは、けがをしたカ 5 じつは、ふたりの危機を救うことになったのである。 エルを抱いたまま、いすの下でいった。「でも、どうしたの ? 」 これで : : : ? 」 9
に彼に言った。「おまえのその・のろまな頭じゃ、われわれにこれ以彼の肩ごしに窓の外をのそいてみたわたしは、たしかにべつの二 上この鼻持ちならない匂いを嗅がせなくても済むように、低気圧へつのお化け煙突が、酔っぱらい水夫のように揺れながら道路をやっ てくるのを認めた。背後で、気閘の回転扉が閉まるのが聞こえた。 ルメットを持ってくることなんか思いもっかなかったろうな」 ウイルスンのカメラがパチパチと音をたてた。艇はぶるんと身ぶ 「聞いたか、おい ! 」クリ・ドリーンが片眼をわたしに向けながら 一一一一口った。 「こいつは宇宙を爆破したあとで、やおらわずかばかりのるいして屋根を離れ、クアークの巧みな操作のもとで徐々に加速し 冫しかない。船 ながら上昇していった。火星人たちではこううまくよ、 気圧のことをぶつぶつ言うようなやつなんだ」眼がぐるりとまわっ てクリ・ヤングにもどり、クリ・ドリーンは勝ち誇ったようにつけの操作に関するかぎり、彼らは熟練した地球人の足もとにもよれな いのだ。 モルグは くわえた。「あの角にこだわりさえしなかったら、クリ・ わたしはジェイ・スコアを捜しに出かけ、彼が艇の下腹の爆弾投 勝っていたかもしれんな」 「は ! 」クリ・ヤングはわざとらしい笑い声をたてた。彼はサグ・下口に腹這いにな 0 ているのを見つけた。その手には小型原爆が握 られていて、ちょうどわたしがそこへ行ったとき、それが手を離れ うまく ファーンに向かってしたり顔にウインクしようとしたが、 かなか 0 た。火星人たちはよく、片眼を意味ありけにつぶ「てみせたところだ 0 た。近くの窓に顔をすりよせてみると、先刻までの獄 るという地球人の習慣を真似しようとする。まぶたがなくてはそれ舎に隣接した建物の壁が破裂し、屋根が吹 0 とぶのが見えた。内部 はおそらく粉徴塵だろう。 は不可能だというわかりきった事実にもかかわらず、性こりもなく 「やつらの生体解剖教室の末路だ」ジェイが唸るように言った。そ 試みては失敗しているのだ。「あれだけの結論に達するのに一週間 「これでこんどはやつらがばらば かかったぜ、例によってな ! 」 の眼は石炭のように光っていた。 わたしはウイルスン青年が船首の展望窓のところにいるのを見つらになる番だぞ , けた。すでにカメラがその手に握られていて、彼はまさしくよだれその気持ちには同感だったが、考えてみると、ロポットというの は、復讐への願望などという人間くさい感情を持つものとは考えら を垂らさんばかりの顔で写しまくっていた。ほかに二つのカメラ が、壁の固定枠におさまっており、そのひとつには、なんと皿ほどれていないのだ。それでも、彼がまれにロ、ポットらしからぬ感傷癖 をしめすのを見て、驚くものはまずいないだろう。あらゆる法規に もあるレンズがついていた。 「ショッ照らして、彼はゼンマイ人形以上の感情を持つものではないとされ 「やあ、兵器長ー彼はわたしを見ると愚痴っぽく言った。 ト、ショット、ショットーー・さっきから休みなしだぜ」だがその顔ているー・・・・・が、事実は残るのだ、彼がたしかに感情を、冷たく、も のに動じないふうにではあるが、たしかに感情を持っているという は、言葉とはうらはらに、職業的な喜びに輝いていた。「たったい まあのお化け煙突を、ぶったおれる瞬間に写してやった。見ていた事実は。 「マクナルティが渋い顔をするかもしれんそ」わたしは言ってやっ まえ、あっちの二つもカメラにおさめてやるから」 円 3
故障が起こったのだろう」眼がぎらりと光った。「だが、もし払暁ひれ状の垂直安定板がある , までに帰船しなかったら、そのときは原因究明にのりだす , わたしの首がぎくしやく いいだしてなおすっとのちまでも、彼は 5 「きっとですよ ! , 一同異ロ同音に言った。 上空を凝視しつづけた。まだかすかに爆音をとどろかせながら、五 と、ぶおん、ぶおん、ぶおん ! まるで一座のざわめきが静まる隻はやがて視界から消えていった。それらは『マラソン』号のまっ のを待っていたように、音があたりに響きわたった。それまで一分すぐ上空を知らずに通過していったわけだが、その高度から見れ ちかくというもの、その音はにぶく船内にこだましていたのだが、 ば、『マラソン』の巨体も、地面に落ちた針ほどにも見えなかった いまはじめてそれが意識にのぼってきたのだということが理解されろう。 た。異様な、だが聞き慣れた音だった、その間断ない爆音はーーそ ・モルグが陽気な声で言った。「けつきよくのところ、われ してそれは、帰投してくる救命艇の爆音ではなかった。 われよりそれほど遅れちゃいなかったわけだ。ロケット船も持って ェアロック 乗組員一同がこれほど敏捷に気閘へなたれこんだのは、このときるし、海老の頭も切る。十中八、九、闖入者にたいしては本能的な をおいてほかにあるまい。気閘から外にとびだして、『マラソン』敵意をしめすだろうな。やつらがでつかい口をあんぐりあけて、そ の巨大な彎曲した船体に背中をもたせかけ、空を見あげたわれわれのロのなかから、こっちへ太い触手をのばしているさまが、眼に浮 の眼に映じたもの、それは、矢印隊形を組んで飛んでゆく、長く黒かぶような気がするね ! 」 いロケット船の船影だった。三、四、五、それはぜんぶで五隻い 「最悪の場合を想像するより、最善を願ったほうがいい」と、マク ナルティが言った。そして、乗組員一同を見まわし、ついでその眼 ウイルスン青年の面が輝いた。 , ー 彼よ、「すご、 これはいいぞを『マラソン』号の流線型の船体にうっした。「のみならず、たか と叫ぶと、どこからともなくカメラをとりだして、上空を飛ぶ が一個の太陽系内部だけに限られている宇宙船にくらべれば、こっ 黒い編隊に向けた。 ちのほうがすっと速いし、自分の身を護るすべも心得ているんだー だれも双眼鏡を持ちだしてくるだけの気転の利くものはいなか 0 彼は意味ありげに針線銃を叩いた。そのときほど、われらがふと たが、ジ = イ・ス = アにはそんなものは必要なか 0 た。彼は長い脚 0 ちょの、愛想のいい船長が、たのもしく見えたことはない。、彼 を踏んばって立ち、胸をそらし、頭をのけそらせて、炯々たるまな は、なにごとにつけその心情を控えめにしか述べないという、 こで頭上の偉観を睨んだ。 って気のおけない癖を持っていたが、時と所により、おそろしく非 「五隻いる , と、彼は言った。「高度十マイル、非常な高速でなお情にもなれるのだった。 上昇中。船体は真っ黒に塗ってあるか、さもなくばなにか漆黒の金とはいえ、だれだって彼のそばに立っているジ = イ・スコアにく 属でできているらしい。地球のどんなデザインの船とも似ていならべれば、その半分もタフに見えるものはあるまい。彼の断固とし 。噴射管は尾部に隠れていないで船外に突出しているし、前後にた、冷静な彫像のような姿勢、その簡潔な喋りかたや機敏な決断な こ。
星はもうすぐそこなんだ。この船にセットされている試験官マシンうにおちついているのが、あたりまえのことかもしれなかった。 スーザンは、一時はシオダの背中に顔をうずめたものの、さすが の頭脳はすでに働きはじめているはずなんだぜ」 「それは知っているよ、ほら : : : 」と、シオダはキャビンの一隅にに、シオダの趣味にあった女性らしく、すぐに事態を認識すると、 ある換気孔のそばを指さした。「あそこに試験官マシンの眼がある顔をあげ、この、たのもしくおちついた婚約者と手をとりあって坐 とにらんでいるんだが、あれが、さっきから・ほくらの方をしきりにりなおした。 それから、しばらくして、ドアの上部にある赤いランプが明減を スイー。フしているんだ。徴細なところまで観察をはじめたんだね」 はじめた。ついで、非常をつげるブザーの断続音が、三人の耳をお 「いやだわ」 スーザンは気味わるそうにこういうと、シオダの背中にかくれるそった。ヒノは腰をうかし、スーザンはシオダにすがりついた。シ オダは小首をかしげた。 ように、身をちちめた。 いよいよ、若きプロジェクト・リーダー候補生と、その恋人との 「そこまでわかって、おちついているんじゃいうことはないさ , ヒノは、シオダの指さす方角に眼をやりながら、あきれた声でい婚前旅行が近づいたのだ。 っこ 0 換気孔の周辺、そしてよくみると、へやの他のすみにも、小さな ブザーの音につづいて、機械的な音声が壁の上部からきこえてき こ 0 円形のにぶい光沢をはなっ突起が多数配列されており、それらはた しかにシオダの推理どおり、観察用のレンズらしかった。 〈非常事態が発生した。エンジンが予備も含めて破損し、このまま この宇宙船は、受験生と介添人をのそけばまったくの無人だっ航行することができなくなったのだ。爆発の危険もある。シオダと た。つまり、船の運航も、試験問題の提出や監督もすべて自動機械スーザンのふたりは、三十分以内に、緊急避難用ポートで脱出せ 試験官マシン によって行なわれるようになっていた。たよ。脱出先は惑星『ウォーム・ハ ート』だ。この付近で人間にとっ だ、機械と受験生だけであると、船からほうり出されたあとの受験て害の少ない唯一の惑星だ : : : 〉 「さあ、大変なことになったそ ! 」 生になにかアクシデントが生じたとき、臨機の処置がとりにくいの で、介添役の人間がひとり、船内に待機していることになっていた ヒノがまっさきにドアに突進した。 のである。 「胸がおどるわ ! 」 ともかく、試験官マシンの眼が、キャビンにいる受験生を、四方スーザンも立ちあがった。 : ヒノはそのま しかし、機械の声は冷たくつづけられた。〈 : ・ 八方からみはっているのは、考えてみれば、当然のことといえた。 こんなことでいちいちそわそわしていたのでは、プロジクト・リま、このキャビンで待機しているように。指示はおっておこなう。 ーダーの試験をうける資格はないのかもしれなかった。シオダのよすぐに行動を起こすのは、受験者だけだ〉 7 4
1 ー ) : 第第第一沈んでゆく光景を見そこなってしまった。かと云って、それほど残念にも思わなかった。わたしは思い出をいっ さい欲せず「たた未来たけを考えるつもりだった。それでも、あの罪悪感を捨てさることはできなかった。わた しは自分を愛し、信じてくれた者を見捨ててきてしまったのだ。これでは、お / 犬のころのライカをパロマーへ向 う土・ほこりの道端に捨てた人間とまったく変らないではないか 彼女が死んだと云う知らせが、ひと月ほどして、わたしのもとに届いた。 原因はだれにも分からなかった。アンダースン博士夫妻は最善をつくしてくれ、非常に悲しんでいた。どうや ら、ライカはたた単に生きることに関心を失ったらしかった。しばらくの間は、わたしも同じだった。だが、わ たしには仕事と云うすばらしい鎮痛剤がある。自分で立案した計画がちょうど軌道にのったときでもあった。 決してライカを忘れたわけではないが、記憶がわたしの心を痛めるのは止んでいた。 それなのに、な・せ五年もたってから、月の裏側にいるわたしに、それがよみがえってきたのだろう ? わたし はその理由を求めて自分の心を探っていた。ちょうどそのときであるーーーわたしをかこむ金属製の建物がまるで 第一重い打撃を受けたかのように震動し始めたのは。 わたしは考えもせす反応した。気密服のヘルメットを閉じ終った途端、土台がずるすると滑り、空気のもれる 短い悲鳴とともに壁が大きく裂けた。わたしが無我夢中で押した非常警鈴ボタンのおかげで、犠牲者は二名です ファーサイド んだ。今までに裏面で起った最大のものと記録されたあの月震は、天文台の持っ三つの気密ドームをすべて破 壊しつくしたのにもかかわらず。 もちろん、わたしは超自然現象を信じない。 心理学の知識など少 日常の出来事にはすべて完全に合理的な しもない人にも理解し得るーー説明がつけられるはずである。第二次サンフランシスコ地震のとき、迫ってくる ファーサイド 危険を感じとった犬はライカだけではなかった。同じような話はあちこちで聞かれたものである。そして裏面 基地のことは、月の中核部で生じた最初のかすかな震動を半ばさめかかっていたわたしの潜在意識がたまたま探 知し、記憶が特に昻揚した警戒心を与えたにちがいない。 人間の心の働らきは、ときどき非常に奇妙で複雑な面を見せる。わたしの心は、どんな信号を送ったら速くわ たしの警戒意識が目ざめるかをよく知っていたのた。たた、それだけのことた。それでも、ある意味では、どち らの場合にも、ライカがわたしをゆりおこしたのだと云えないことはない。たからといって、べつに神秘でもな いし、人間と犬の間の越えられぬ障壁を否定する奇蹟でもない。 それについては、わたしには確信がある。確信と云えるものがわたしにもあるとしての話だが : だが、わたしは今もときどき眼をさます。そして月の静けさの中にあって、あの夢が今しばし長くつづいてく れていたらと願うーーーそうすればもう一度だけでも見つめることができたのた。あの輝く茶色の眼を、何の代償 も求めず、わたしだけを愛してくれた眼を。この世のどこにも、何物にも見つけられないあの愛を。
ナハティガルは、ちょっとだまっていた。 それから突然、ぼを見ひらいて、あたりを見まわした。 ーーーミナはかすかに寝息をた くの方をむいた。 て、そのゆたかな乳房はぼくの左腕の上膊に押しつけられていた。 「ところでーーー君には、もっと別の、心配事があるようだね。タッ ・ほくは、闇の中に、淡い青白い光が息づくのをじっと見ていた。 ヤ」ナハティガルは、静かに、心をつき通すような声でいった。 なにかがべッドの傍で光っていた。眼をしばたたいて、ぼくは 「この話とは関係ないんです , ぼくはちょっとうろたえていった。 そのほの暗い、四角い光を発するものの正体を見つけた。枕もと 「全然別のことなんです。ちょっと気がかりなことがあって : : : 」 の、ヴィジフォーンの螢光面が、ポーツとうすく光り、そこに、な 「いってごらん」とナハティガルはいった。 にものかの黒いシルエットがうつっている。 話がその場の雰囲気に全然そぐわないのを気にしながら、ここへ 「チャーリイを殺す : : : ーそいつは、低い声でいった。 くる前、ジャコボのやったおかしな行為のことを語った。 意外「誰 ? 」ぼくは思わずききかえした。 なことに、ナハティガルは、深い興味をその話に示した。 「これが、二度目の予告だ : : : チャーリイを殺す : : : 」 「そのジャコボという子供 : : : ーナハティガルはいった。「一度、 「誰だ、きさま ! 」 私の所へつれて来てくれないかね ? •- ー・私から、その子に、もう一 ロの中がカラカラにかわき、のどが押えられるような感じがし 度その話をくわしくきいてみたい その時になって、ぼくは突然、はっきりと思い出した。 二度目の予告ーーーとそいつはいった。 とすると、一度目はーーーすると、あれはやつばり単なる夢ではな その夜ーー ぼくは、自分の部屋で、ミナとねていた。シーツの下で、ミナのかったのだ。いや、そいつは最初の時、ぼくの夢の中でぼくの下意 こささやきかけ、目ざめた時、その夢を忘れてしまっていた。何 やさしい、やわらかな裸身は、・ほくにびったりよりそっていた。こ識冫 れまでに何十ペんとくりかえされた愛の行為は、初めのころの燃えか、ちょっとした不安があったような気もするが、それも日常の繁 しかし、いま、二度 上るような興奮よりも、このごろではむしろそのあとの、ゆたかな事にまぎれて、思い出すこともなかった。 安らぎと鎮静ゆえに、お互いにもとめあうようになっていた。 。しつか・ほくの眠りの 目ときいて、はっきりと思い出した。やつよ、、 夫婦という、想像しただけでは退屈きわまりない関係において、な中で、一度目の予告をやっている , おセックスを持続させるのは、おそらくこういったものではあるま「二度目の予告も、君たちみんなに通達した : : : 」映像面の中のそ いか、と、ぼくは漠然と考えた。 いつは、低い、しかし、しつかりした声でいった。「前にもいった そして深夜ーーぼくはなにものかを感じて、突然眼をさました。 ように、これはゲームなのだ : : : 同時にテストでもある : : : 君たち なにものかが、・ほくの名を呼び、ぼくの中に、恐怖と、嫌悪と、 みんな、力をあわせ、知恵をしぼって、チャーリイをまもってやり 怒りにみちた警戒本能が目ざめ、にくは寝室の闊の中に、功ッと眼たまえ。ーー私は : : : 一週間以内に、チャーリイを般す : : : 」 こ 0 0 3
丁、二本の催涙ガス・ペンシルがあることが判明した。 これまでの経験から、われらが装甲鉄板に身をよろった敵さんに 対しては、針線銃がもっとも効果があることがわかっていた。その彼らのひとり , ーーどちらだったかわからない が言った。「あ 他の武器はがらくたも同然である。だがこの品調べの結果、敵さんんたがたはどこかよそからきたお人だね。やわらかい身体をしてい の心理についてある興味ふかい事実が明らかになった。つまり、最て、この太陽系の堅い殻のある生物たちとはまるでちがう。われわ 後まで武器を手離さないでいたものは、その後もそれを保有するこれの言うことが通じるかね ? 」 とを許されているということだ。このことは、武器を眼にしても、 「通じるともーマクナルティがとびだしそうな眼を彼らに向けて答 敵がそれを武器だとは気がっかないことを意味している。 えた。 「よくわかる , 突如としてドアが勢いよくひらいて、二匹の海老に似た生物が押「音波だ ! 」奇妙な二人組は、さも呆れたと言わんばかりに顔を見 彼らの無言の一言葉のおしま しこまれてきたのは、この不充分な武器の在庫調べが終わったか終あわせ、繊細な触角を打ちふるわせた。 , わらないうちだった。ドアはあいたと思うとすぐにガチャリと閉ま いにくつついた感嘆符が、わたしには聞きとれるような気さえした。 ってしまったので、われわれには外をちらりともながめるひまがな「この連中は、変調音波で交話している ! ー彼らにだけ通用するな かった。。・ ふさまにひっくりかえったまま、海老たちは金属の床を横んらかの理由から、このことはほとんどありうべからざることのよ 彼らはわれわれを、まる すべりにすべっていき、一隅の壁にぶつかってやっと止まった。ち うに見なされているらしいのがわかった。 , よっとのあいだ、彼らは這いつくばったままあんぐり口をあけてわで自然の基本法則を破りでもしたような眼でながめ、それから言っ た。「あんたがたは話のしにくい人たちだ。心で交話を助けようと れわれを見つめ、われわれもまた魅せられたように彼らを見まもっ た。そのうちゃっと気をとりなおしたのか、彼らは立ちあがり、わしないからね。われわれはこちらの思考をあんたがたに押しこみ、 あんたがたのそれをひつばりださなくちゃならない , れわれにはその頭が、海老のそれよりもむしろ昆虫のそれに似てい て、一対の複眼と蝶のような触角があることがわかった。 「すまんな」謝っておいてから、マクナルティは唾を呑みこみ、気 驚きがおさまると、海老とも昆虫ともっかない生物は、言葉ででをとりなおしてつづけた。「精神交話はわれわれの得意わざじゃな はなく、例の凝似テレ。 ( シーでわれわれに話しかけてきた。その奇いんだ」 「いや、たいしたことじゃないさ。こっちでなんとかするから」二 怪な口は一度もひらかず、触鬚はふるえさえしなかったが、彼らの 思考パターンの投影はすこぶる効果的だったから、言語がわれわれ匹がそろっておなじはさみを振り、おなじ漠然とした身ぶりをし の頭のなかにおのずから湧きあがるように感じられて、それが地球た。「外見上ならびに性質上のいちじるしい相違にもかかわから 語でわれわれに話しかけているのでないことが信じられぬくらいだず、われわれがともに不運に見舞われた同胞同士であることは明ら った。それはあのイグワナのそれに似て、きわめて巧妙なものだっ かだからね」 0
た。『ア。フシイディジー』号のおもだった機関士半ダースのほか「金星行き貨物船『アプスカダスカ・シテイ』号の前船長としての に、われわれのまだ見たことのない痩せっぽちの小男を連れてい わたしの職責を、最後まで全うすることを許可してくれた。したが る。 って、すべては諸君の決意如何にかかっている。いままで通り『ア 一行のいちばんあとから、一歩ごとにその三百ポンドを越す巨体プスカダスカ・シテイ』号で勤務することを希望するものは、ただ で床板をきしませながらやってくるのが、ほかでもないジ = イ・スちにこの場を去って、管理局へ出頭してよろしい。どこまでもわた コアである。彼がその図体をいとかるがると運ぶさまには、毎度のしと行を共にしようというものは、どうか手をあけて合図してほし ことながら驚かされる。われわれのほうへ向けたあのすべてを見通 ーそれから、その眼が一座のなかの火星人を認めたか、彼はあわ すような眼には、炯々たる眼光がやどっている。 ててつけくわえた。「または触手を , 身振りでわれわれについてくるように命ずると、マクナルティは サム・ヒグネットがまっさきに褐色の手をあげた。「船長、ぜひ とある部屋にはいり、気どった歩きかたで小さな壇にのぼって、さお供させてください」 て、新米の三等航宙士に訓辞を垂れる教官、といった思い入れよろ残りの連中が一秒と遅れずそれにつづいた。おかしいのは、だれ しく喋りだした。 も本気でフレットナーの自殺箱なんかで、あちこち振りまわされた 「紳士ならびにヴィードラ諸君、ここにおいで願ったのは、かの有いと望んでいるものはなかったということだ。それはたんに、われ 名なフレットナー教授である」 われが気が弱すぎて、それを断わりきれなかったというだけのこと 彼がチビのほうにしゃちこばった会釈をすると、一チビはニタリとにすぎない。でなければ、マクナルティの顔にあらわれる表情が見 笑って、菓子を盗もうとして見つかった子供のように足をもじもじ たさに、自らすすんで死地に身を投じたというところか。 させた。 「ありがとう、諸君 , マクナルティは、葬式のときにしか使われな はな 「教授は、目下、新造の遠宇宙探険船『マラソン』号のために、乗いような荘重な声音で言った。そして唾を呑みこみ、洟をかむと、 組員を募集しておられる。ジェイ・スコアならびに六人の機関士諸ほとんど愛おしげなともいえる眼差しで順ぐりに一同を見わたした 君が、すでにわたしとともにこの船に乗り組むことを志願してくれ が、ふとその眼が、一隅でだらしなく触手を投けだし、いぎたなく た。この申し出は受けいれられ、われわれは諸君の休暇期間中、必眠りこけている火星人の上に止まると、とたんに愕然たる面持ちに よっこ。 要な特殊訓練を受けてきたところだ」 「望外の喜びでした」と、フレットナーが口をはさんだ。われわれ「おい、サグ・ファーンーー・」 から船長をとりあげるというので、すこし懐柔しておく必要を感じ 言いかける彼を制して、この赤い惑星の連中の頭株であるクリ・ たのだろう。 ャングが、すばやく口をはさんだ。「わたしが触手を二本あげたん です、船長。一本はわたしのために、一本はやつのために。やつは 「地球政府当局は」と、気をよくしたマクナルティはつづけた。