ガートルード - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1968年7月号
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1. SFマガジン 1968年7月号

何をしようとしているか、わかったのよ。彼らは地球を征服し、乾早く横切る時、ジェリイはちょこちょこ走る小さな体に向って、続 燥させて けざまに衝撃波を発射した。 「知っている、行こう , 「こっちだ ! 」彼は叫んだ、そして放射状の電渠を持っ黄金色の球 体の方にべティを連れて行った。「その黄色いパイ。フのかたまり、 「でも、あたしたち何とかできないの ? 」 彼はためらった。「いいか、君を外に出してあける、そしてそれそれがドームの鍵なんだ」 もう女の人質をつかまえている時間はなかったが、男の方はひき から俺が帰ってきて : : : 」彼は火星人の女をちらりと見た。「この ずっていた。女は無線機に雑音をあげながら、安全な距離をおいて カートルード ? ・」 考え方が気に入ったんだね、。 ついてきた。 火星人は黙っていた。 」彼は彼女に叫んだ。「さ 「時間がないわ、ジェリイ」べティはいった。「それから、あたし「猟大どもを追いはらえ、ガートルード はあなたのそばをはなれないわ。この中のいくつかをぶちこわすこもないと、電渠のまん中に穴をあけちまうぞ」 「それは非論理的な行為です」手の中の無線装置がいった。「ド とができないの ? ム全体が崩壊するでしよう」 「俺たち自身も犠牲になるかも・ : べティは走りながら、彼の腕をきつく握りしめた。「やるのよ、 彼は最後までいわなかった。三人の火星人が電力室にかけこんで ジェリイ」彼女はあえぎながらいった。「やるのよ、心配すること 来て、発電機の後ろに隠れた。ピンク色の体は白く汚れていた たぶん、吸湿性。ハウダーを塗っているからなのだろう。透明な小球はないわ。立派なことだわ , 体が発電機の上を走り、彼らの足もとではぜた。そこから白い蒸気「死にたいのかい、きみは ? 」彼は弱々しく聞いた。 が浮かび上った。女はあわてて飛びのき、男を彼女のうしろにひっ彼らは球体の下についた。そして二人の間にしょげ返っている男 。よっこ。 をひつばりこんだ。ビンク色の体の輪は、四方八方からゆっくりと 「息をとめて ! , 彼はべティにどなった。彼らは火星人の人質を追せまってきた。ジ = リイは射ち続けた。しかしどの弾も致命的な傷 をおわせることはできなかった。火星人は倒れ、また立ち上るの って走った、そして、彼らに向って音波衝撃を発射した。 彼らは立ち止り、ふり返って白い蒸気を見た。それは突然、緑色だ。明らかに、音波銃はエネルギーを補充する必要があった。迷っ ている時ではなかった。銃の最後のエネルギーを、攻撃してくる敵 の炎を出してばっと燃えあがり消えて行った。 「麻酔剤だ」彼はべティにいった。「奴らは何としても男を傷つけに使うか、それとも電渠を射つかのどちらかだった。 「やるのよ、ジェリイ」彼女は哀願した。「私たちの唯一のチャン たくないんだ」 スなのよ。とにかく地球にとって唯一のチャンスよー 部屋は急に火星人でふくれ上がった。彼らは外側の壁をまわっ て、敵の背後に出るよう動いている。彼らが障害物のない場所を素彼は電渠を見上げるために、球体から少し離れた。突然、衝撃銃 8

2. SFマガジン 1968年7月号

「では行きましよう」彼女はホースをもとの場所に置きながらいっ にとりかこまれた球形の貝のところで終っていた。 二人は別の廊下に出た。女性以外の火星人には今だに一人も会わた。 いちかばちか ! 彼はロに含んだ水を彼女めがけて噴き出した。 なかった。しばらく行くと、ガラスで仕切られたたくさんの小部屋 くつかの小部屋には、分裂のさまざまな段階にあ 水は彼女のざらざらした皮膚をびっしよりとぬらした。彼女はす の横を通った。い る。ヒンク色をした睡眠中の生物が入っていた。それを見て、彼はむくみあがった。衝撃銃のひき金がひかれた、そして音波弾が彼のす ぐ脇を走った。無線装置がわけのわからない悲鳴をあげた。彼女は かついた。 体をひっかきまわし、銃を落した。 「男たちはみんなどこにいるんだ、ガートルード ? 」 彼は再び衝撃波をくらった。軽くよろめく程度のものだった。 , 彼彼は針金と闘った。切れた。突然の痛みは気も狂わんばかりのも は怒りで唇をかんだ。 のすごさであった。彼は叫び、倒れた。むかついた。目がまわっ 「質問をしてはいけない , と、女はいった。 た。気を失うことは死ぬことだった。ねばりつく針金をひきちぎつ 彼が知ってはならない二つのことを、ーーそれは機械装置と火星人ているうちに、針金はまるで自分の肌をひきはがすように、背中か の性だ。二つの弱みといえるだろうか ? らはがれた。 彼らは狭い通路を通り、大きな円筒形のタンクに近づいた。タン彼は衝撃銃をみつけ、弱々しくそれをひきよせた。ガートルード クは通路の下にある。ある種の循環装置の上に位し、高い支柱に乗は床の上でくものように体をよじっていた。 っていた。送水管はそこから下に走っていた。彼は機械からたぢの彼はタンクをねらい、引きがねをひいた。へこみさえっかなかっ ぼる熱い空気の流れを感じることができた。タンクには凝縮液か、 た。武器にはダイヤルがついていた。彼はそれを一番強いところま または冷却液のどちらかが入っているのだ。装置の外郭はどんよりでひねり、再び発砲した。反動が彼の手首を痛め、よろめかした。 今度は円筒にく・ほみができた。彼は射ちつづけた、く・ほみはだんだ と赤く輝いている。 ん深くなって行った。 「水はここです。さあ、お飲みなさいー 急いでやってくるざわざわした足音が、後ろの通路に高まった。 彼女は弁のついた柔らかいホースをみつけ、彼の首のまわりの針 彼女は拳銃を彼の腹に押火星人どもだ ! 彼はなおも穴をあけることに熱中した。だんだん 金をゆるめ、ロにホースを持って行った。 , しつけたまま、もう一方の手で・ ( ルブを持っている。肌をかゆくす深くなって行く。ついに金属は破れ、汚れた水の細い流れが噴き出 っこ。しかししこ。 る液体を一滴もこ・ほしたくないのだ。水はあたたかかナ 音波弾が後から彼を襲った。彼は半分意識を失いながら床に腹ば 彼はむさ・ほるように飲んだ。乾きが満たされると、彼は水を頬にふ 彼女はパルブ いに倒れた。しかし、彼の耳には、赤く焼けた炉にあたっては、し くんだ。それから頷いて飲み終ったことを知らせた。ー ゅうしゅういっている噴水の音が聞えた。水蒸気の巨大な雲が彼の を閉めた。 に 4

3. SFマガジン 1968年7月号

の音波が腰の下をとらえ、彼を床に批げ倒した。彼は立ち上ろうと仕事より一人の哀れつぼい男の方が価値があるというのか ? 」 した、しかし、足は横にぐらっき、ひざと足首の間が折れ曲がつ「彼はたった一人の男なのです」と、彼女はいった。「男をつれて た。折れたのだ ! 火星人たちは殺気を見せて突進してくる。彼は行ってはいけない」 苦痛に倒れ、頭の上にのびている電渠に音波弾をうちこんだ。金属 たった一人の男だって ! そうか、火星人の性に関する弱みとは の面にへこみがでてきた。衝撃波がドームをゆすった。甲高い音波これだったのか。もし男に何か起ったら・ : が機械室をつんざいた。 「君たち種族のたった一人の男なのか ? 」と彼は聞いた。 火星人たちはびたりと停った。 「われわれの星にあと二人いる。二人ともこの男と同じように老人 「二度と発砲しないようド無線装置ががなり立てた。「あなたのです。かってベストのナ流行があった。そしてそれ以後、分裂によ 憤りはあなた自身を破減させる。それは非論理的です。射たないよ って生まれる男性がいなくなってしまったのです。ベストは分裂期 へストのビールスが地球では 間中の男性を襲うのです。私たちは、。 「それなら、さがっていろー彼は警告した。 生存できないことを発見しました」 「射つのよ、ジェリイ、射って ! ーベティが叫んでいる。「待っこ 「それで、君たちはわれわれの星へ移住し、ここを占領しようと決 とないわ - めたんだな」 「私たちの意図するのはそれですー 彼は彼女に弱々しく笑って見せた。彼はサムソンではなかったー ー自分自身の頭の上に神殿をひきずり倒すことはできなかった。だ「電渠をふきとばすのよ、ジェリイ ! 」べティが哀願していた。 「彼らがだんだん近づいてくるわー が、もしそうしなければならないのなら。 「ここへ来い、ガートルード 」彼は火星の女に怒鳴り、銃口を電渠彼は火星人の輪を見まわした。彼らはじりじりとせまってきてい た。彼はべティににやりと笑って見せた。「男をここへつれてくる に向けたままにしていた。 彼女は素早くそれに従った。「射たないで。それは非論理的なこんだ」彼は彼女に叫んだ。「そして、何も聞くな」 とですー 彼女はそれに従った。年老いた火星人は、何の抵抗もせず、彼女 「お前の出力を聞こえるか聞こえないぐらいにさけるんだ」 にひつばられてやって来た。男は何がおこっているのか、理解して 彼女はそれに従った。「二度と電渠に発砲してはいけません」 いないように見えた。 「それなら俺たちをここから出してくれ。人質に男をつれてゆくー 「君はわれわれを外へ出してはくれないんだね ? この男を人質と 「いけない。そんなことにはまったく賛成できない。我慢できなしているうちは ? , 彼は女に聞いた。 「そうです、地球人よ」彼女が突然、彼の方に動いた。 彼は鼻の先でせせら笑った。「君たちにとっては、このすべての彼は彼女を射った。彼女は弱々しく坐りこんだ。しかし、銃は最 9

4. SFマガジン 1968年7月号

不用です。私たちはこの星でもう他の男を危険にさらすことはでき女がベストに免疫かどうかを見たいと思っていたんだ」 ない。・私たちは二度と帰ってくることはできない。あなた方は必要ジ = リイは、もし本当のことを伝えたら、彼女がどういう反応を ありません。あなた方を釈放しましよう 示すだろうかと考えた。つまり、火星の女がつくられるのではなく 彼はべティににやりと笑ってみせた。「どうだい、きみ。これでてーー・・火星人の遺伝子を持った地球の女ができようとしていたとい 気がすんだかい ? ここには、君一人に対して、二百人近い未亡人 うことを。つまり、もっとはっきりいえばーーーそれはべティになろ がいるんだよー うとしていたことを。彼女はたくさんの小さな火星人の坊やの母親 彼女は悲しそうに、しかし、怒っているのではなく顔をそむけになるなんて考えを好まないだろうーー二度と起ることのない追想 た。「私の考えていたのは地球のことだったのよ、ジェリイ。バー の世界のことであっても、彼女には好きになれないだろう。 ニイのことだけじゃないわ」 彼女は相変わらず窓の外をながめていた。「あたし、あの人たち 「そうさ、わかってるよ。みんな地球のことを考えていたさ。だが気の毒だわ、ジ = リイ , ーーある意味ではね , が、誰一人として本気になって腹の底から怒った者はいなかった。 彼女を彼はだまってみつめた。 戦いに勝っためには、大きな憤りが必要なんだ。そして、火星人に「何百万もの女性 , ーーそして、たった二人っきりの男」彼女はつぶ は憤ることができないんだ」 ゃいた。 ドームが発進した時、彼はギブスをつけてべッドにいた。彼らは「どんなことになるかわかるかい ? , と彼はいった。「もし君があ 夜の空に見える明るい黄色の光のしまをみつめていたーーーそれは雲まりにも長く喪に服していたらね ? そして、ベストがやって来た の中に消えて行っだ。火星のかすかな赤い光を見ることができなから ? 君は一人の夫をそんなにたくさんの女性と分かち合うのが好 ったのはいかにも残念だった。 きかい ? ・」 「どうしてあの人たちは人間の手足を切断したのかしら、ジェリイ彼女は素早く立ち上り、赤くなった。「もう行くわ、ジェリイ」 ? 」窓の外をみつめながら、彼女がきいた。 彼女は神経質にいった。「あたし、遠くへ行こうと思うの、そして あのーーーとにかく、あたしを探したりしないでね : 「ガートルードに聞いてみたんだがね、彼らは地球の男がなぜ火星 のベスト・ビールスに免疫なのかを発見しようとしていたんだよー 彼女は戸口の方へ歩いて行き、立ち止り、ふり返った。「 : : : す 彼は言葉を切った、そして彼女には嘘をついた方がいいだろうとくなくても二、三カ月はね , 彼女は急いで外に出た。彼女の首のう 思った。 しろが明かるい。ヒンク色になっていた。 「奴らは有能な生物学者なんだ」彼は続けた。「奴らは哺乳類の原彼は苦笑をうかべて体をもとにもどした。そして、外に降りはじ 則にのっとって、生きた火星の女性を合成したかったのさ。彼らはめた雨の音に耳を傾けた。二カ月だって ? 乾いた、乾いた砂漠は明 そういう風にロポット動物を作り出すことはできるんだ。彼らは彼十年という長い年月を待っていたのだ。

5. SFマガジン 1968年7月号

彼女は針金をたしかめるように彼を見た。「刺激剤には衰弱作用に感覚がなくなると、彼らは水が必要になったことを知るーー・と、 もあります」と、彼女はいった。「もしあなたが体を動かし続ける講師はいっている。彼らはほんの少量の水をのみ、気持悪げに体を と、そのうち、衰弱して動けなくなるでしよう。それは非論理的なかきむしる。それからホッとしてまた次の一カ月を過すのだった。 「水が欲しいんだ」と、彼はいった。「ハケッ一杯の水が」 ことです」 彼のロは綿のようにケ・ ( 立っていた。「水を飲ましてくれないか彼女はしばらく考えていた。「それにはあなたを水のあるところ まで連れて行かなければならない。 ここにはほかに蓋のしまる大き ? 」と、彼は聞いた。 彼女は一瞬ためらった。それから、体をひきずりながら静かに部い容器がないのです、 屋の外に出て行った。用心深く、彼はゆるめにまきつけられている彼女は水に近づくことすら怖れていた。明らかに、ほんのわすか 針金からぬけ出そうとしてみた。しかし、針金はテー。フのように彼の水蒸気でも、むず痒さをひきおこすらしい の肌にびったりとくつついていた。すぐに苦しくなった。無駄だっ彼女は彼の肌に透明なオイルを塗って、針金を容器に、そして苦 た。彼は急激に筋肉を動かすことで針金を切れると確信していた痛なしにとり去れるようにし、足を縛っている針金をゆるめた。彼 が、まだその時期ではなかった。彼には何の計画もなかった。逃げ女の脳格納庫をけるチャンスを彼はうかがった。彼は彼女の注意を 出す方法は何もなかった。 そらすために話しかけた。 「ここで、俺はどういう運命に会うんだね、ガートルード ? 彼よウォーキ 火星人はながい間帰って来なかった。 / 。 をじっとみつめた。きっと、べティがみつけて、捕えられる前に拾「私たちは人間の体内にある憤怒、欲望、憎悪などに関係する神経 細胞間の関係を突きとめたいと思っているのです」 ったのだろう。助けを呼ぶのにそれを使ったかもしれなかった 「よくわからんな」 しかも、何の役にもたたなかったろうが。 火星人はきたない液体の入った。ヒンポン玉のような容器を持って「まずあなたの皮質のある部分を麻痺させます。それから、あなた に様々な刺激を与え、その時の行為を観察するのです。私たちの持 べたりべたりと帰ってきた。それには伸び縮みのきく管がついてい た。彼女はそれを不快そうに体から離して持ち、管のロをしつかりっていないそういう感情をひきおこす部分がみつかるでしよう」 とつまんでいた。彼は火星人が一カ月に一度ぐらいしか水を飲まな彼は試しに片足を彼女の腹部の真ん中に持って行った。「どうい いことを思い出した。体が周期的にわずかばかりの水分を要求するう種類の刺激なんだ ? 」 「普通、憤怒、欲望、恐怖など、各々の感情をひきおこす刺激で 時以外は、湿気は彼らに痒みを与えるのだった。 彼は一気に水を吸った。水は歯に薄い膜をつくった。水には鉄分す。それにはかなり長い時間がかかります。あなたの脳は、徐々に 、つま、含まれているーーーたぶん火星の水なのだろう。十年分の破壊されて行くのです」 補給もこんなに少ない消費量ならさそかし軽量ですむだろう。皮膚彼は足をしばらく後ろに止めていた。「欲望の : : : 」

6. SFマガジン 1968年7月号

「あなたをここへ残して ? 」彼女は頭を振った。 彼女をうち砕けるはずだったのだ。 高の目盛りに合わせてあった。 , 「もうその武器には磁場発生装置をうち砕くだけの = ネルギーがな彼はくすくす笑 0 た。「俺の知りたか 0 たのはそのことさ。心配 9 するな。 / 彼らはもう俺たちに手を出しはしないだろう。連中には怒 いのです」彼女は勝ち誇っていった。 りも憎しみも感じることができないのだ。それにこうなっては俺た 火星人たちは再び間隔をせばめ始めた。彼は自分のしようとして いることが好きではなか 0 た、なぜなら、そのあわれさがわか 0 てちは標本としての役には立たなくな 0 たんだ、なぜなら彼らの使命 は失敗してしまったんだからね。早いとこ火星に帰らなきや、全減 いたからだ。しかし、同時に彼は雨の中のとうもろこし畑のにおい してしまうだろう」 ーニイと結婚した時のべティ や、幸福な赤ん坊のはしゃぎ声や、 の顔つきゃーーそして、人間を自分の種族に、自分の親族に、巨大「なぜ ? 」 な緑の星につなぎとめているその他さまざまな地球の出来事が好き「そうさね、第一、なぜ奴らは危険な使節に男をい 0 しょにつれて これは予備的な使節だ きたと思う ? 員数合せのためではない であった。 った。男はあとからつれてきたってよかった。しかし、疑いもな 彼は火星の男の腹を射った。彼は弱々しく体をまげうずくまっ く、彼女らには男が絶対必要だったのだ」 た。ジェリイは震えている老いた獣を自分のそばにひきよせた。 無線装置は鳴りひびき、べティは女性と格闘をはじめていた。他彼は恐慌をきたしている女性群が落した音波銃の一つに手をのば した。「ここへおいで、ガートルード」と彼は叫んだ。 のものは迅速に彼の方へ突進してくる。 彼は音波銃を男性の脳格納庫に押しあけ、再び発砲した。生きも彼女は嘆き悲しんでいる人垣からぬけ出し、まるで夢遊病者のよ うにゆっくりと、彼らの方へ近づいてきた。 のは静かに横になった。爪のある手が荒々しく彼をとらえ、ひき放 - 彼らが床の上をひきずって行く間、彼は「もし受胎しない場合には、火星の女はどうなるんだい ? ーと、彼 すまで、彼は射ち続けた。 , 折れた骨がこねまわされるために、体が粉々になるような痛みを味は聞いた。 「分裂の時が来ると、女は眠りにつく , 彼女はものうげに答えた。 わっていた。彼はうめき、次第に気を失っていった。 再びはっきりと意識をとりもどした時、べティは彼の上に身をか「しかし、分裂の時、彼女は死ぬのです」 「もう一つ。君たちはいつ出発するんだい ? 」 がめ、彼の頭を抱えていた。 「あの人たちはなぜあたしたちを殺さないんでしよう ? 」と彼女は「ただちに」 彼は黄色いらせん体の方向に銃をふりまわした。「もちろん君は し / 彼は死んだ火星人のほうをちらりと見た。火星の女たちは、震俺たちの相棒を呼び出して、そのことを伝えるつもりだろうね。そ れから、迎えの人をまわしてもらってくれ」 え、おののき、興奮して、死体のまわりに集まっていた。 彼女は銃から目をはなさなかった。「あなた方はもう私たちには 「なぜ逃げ出せるうちに逃けないんた ? 4 彼は彼女に聞き返した。

7. SFマガジン 1968年7月号

「私たちがあなたの星の女を一人捕えていることを忘れています彼は彼女に向って毒づいた、そして彼女の持っている機械から衝 ね。あたた方は、一つの部屋に入れられます。それから、あなたの撃波が返 0 てくるのを覚悟した。しかし、彼女はまったく怒りを示 脳の理性的な機能を麻痺させます・ : さなかった。 彼は素早く足をふりあけた。彼女は爪で足をつかまえると、やす彼らは丸くふくれた天井の、広大な円形の部屋に入 0 た。ドーム やすと床に押えつけた。細い火星人の腕には力があった。 の最上部なのだろう。彼はできるだけあたりを見まわした。機械装 「そんなことをすると、喉の乾きはいやせないことになります , 彼置だ。重量感のある設計の、どっしりした、複雑な機械装置だっ 女は冷静に注告した。 た。部屋には、ときどき町まで吹きよせてきた奇妙な悪臭がただよ でんきょ 彼は静かになった。彼女は針金を彼の首のまわりに巻きつけ、そっていた。機械の中には鉛のカ・ ( ーのしてあるものがあった。電渠 れを彼の膝に結びつけた。だから、彼は腰をかがめ、ヨチョチと歩がそこから天井に続いていた。電渠はかすかなコロナ放電で輝いて かねばならないことになった。彼女はカメラに似た小さな道具をと いる黄色のらせん状をしていた。たぶん、一種の導波管なのだろ り出し、テーブルの上の水の容器に向けてその引き金をひいた。。ヒ う。どれも、上に向ってらせん状に伸びる手前で、恐しく大きい電 ンポンの玉は細い粉になって炸裂し、低いどしんという音が部屋中磁石の顎部を通っていた。それらは天井の近くにくるとまっすぐに に響いた。その音は彼にドームの下で受けた拷問をはっきりと思い なり、それそれ、上の方に焦点のあわせてある一種の反射板に照さ 出させた。 れて赤々と輝いている。彼はもう一度、電渠の源をたどってみよう 「先に歩きなさいーそう告げると、彼女はテーブルから無線器をととした。 りあげた。 「もっと迅速に動いて下さい」無線装置のスビーカーがいった 「それから床の方を見ているように」 二人は廊下に出た。進むにつれて、ときどき、無表情な火星人と火星人は、彼が機械装置を観察するのを好まなかった。コロナを すれちがった。ジ = リイは辛うじて首をあげ、その一人一人に目を浮べている電渠は、ドームの外壁に磁場を送っているのだろうか ? 走らせることができたーーみんな女だった。たぶん、ここでは女性そして、もし磁場を突然、破壊したとしたら : ・ が働くのだろう。 彼はもう一度、電磁石に目を走らせた。 「水を飲んだ後、あなたは必要な時が来るまで、眠らされることに どん ! 火星人は音波銃で彼に軽い衝撃を与えた。彼はよろめい なります」彼の護衛がいった。「私たちの研究に必要でない苦痛かた。針金がっきささって痛かった。 らは解放されるはずです」 「どうか、床を見ていて下さい」 「それはご親切なことだね、ガートルード 彼は床を見た、そして彼女の指示する方向に歩いた。見たいもの 3 「ありがとう」 は全部見てしまっていた。電渠はすべて、黄金色に塗られた管組織

8. SFマガジン 1968年7月号

方に押し寄せてくる。彼は、前進してくる水蒸気に怖れをなして退屋にび 0 ば 0 て行 0 た。そこに、彼はその部の主人を見た。一人 の火星人が部屋の真ん中にあるサテンの長椅子の上で眠っていた。 、弱々しくあたりを見まわした。 却してゆく火星人を見ようと 彼は力をとりもどすために、しばらく横になっていた。最初の戦眠ってはいるのだが、分裂してはいなかった。 彼女は蠢くのをやめ、怒りのない目 彼は震えている女を蹴った。 , いは勝利だった。今後はべティを探すことだ。 ガートルードは体をひきつらせ、昏睡状態に陥っていた。水晶体で彼を見つめた。一瞬、彼は良心の苛責を感じた。彼女の平静な目 の皮膚が水を吸い込むと、死んでしまうのだろう。彼には彼女の協はもう一方の頬をさし出すのに似ていたーー彼女は怒ることができ ーキーをひもで結びつけた。 ないのだ。それから、彼は火星人が憐れみを感じることができない 力が必要だった。彼はウォーキー・ト 彼は彼女の二本指の足を掴み、通路にひきずり出した。水蒸気はことを思い出した。彼は再び彼女を蹴った。彼女は怖れを見せた。 「べティはどこだ ? 」彼はせまった。 壁や床に沿って流れて行く。角を曲がると、傍に守衛詰所のあるガ ラス戸のところに来た。守衛は乾いた空気を求めてとっくに逃けて彼女の黒い目ははっきりした拒絶を表わしていた。彼は銃の目盛 しまっていた。扉の向うに、向い側の壁にそれより小さい扉のあるりをさげて、彼女の脳格納庫に数回素早い痛みを与えた。無線装置 小さい個室があった。守衛がいたところをみると、それは牢獄らしが空電でばちばちと鳴った。 かった。彼はぐったりした火星人を小部屋にひきずりこんだ。 「あなたが行きつく前に死んでいるでしよう」火星人はいった。 小さい方の扉には錠がおりていた。彼はドアの真ん中にあるボタ 「それなら、今きさまを殺してやるーと、彼は怒鳴った。 ンを押した。モーターが哀れっぽくうなった。突然足もとが動い 彼女は自分の身を案じてはいた、しかし明らかに仲間のことも心 た。耳が気圧の変化で鳴り出した。一瞬、彼はあえいだ。しかし廊配していた。彼女は沈黙を続けた。彼は銃を真ん中の目盛りに合わ 下につづく扉は自動的に閉まっていた。落し穴に落ちたのだ。 せ、彼女の腹部をうった。彼女は痛みに体を二つに折った。 突然、動きが止った。モーターはうなりを止めた。それから小さ眠っている火星人が体を動かした。ジ = リイは銃を長椅子の方に な扉がゆっくりと横にすべって開いた。 向けた。 彼は大きな、無気味な照明の部屋の中で瞳をこらした。壁には火「やめて ! 男を射たないで ! 」一大音響が無線装置からあがった。 男だって ? 彼は二人を同時に見張れる位置までさがり、眠りか 星の風景を模して赤さび色のパノラマが展開していた。明りは黒い 天井からつり下けられている、二つの球からさしているーー火星のら目をさましかけている生物をみつめた。男はやせ、弱っていた。 月だ。青灰色の夜明けの光が丘陵の後ろからさし始めている。稀薄水晶体の皮膚はところどころはげ落ち、しわだらけの肌にすべすべ 彼よ年寄りだった。そして、体の真ん中 で、乾燥した大気まで、そっくりうっしかえられていた。彼は . がした個所をつくっていた。 , 。 つまってむせかえった。 には、赤いみみずばれがなかった。 しかし女はみるみるうちに生き返ってきた。彼は彼女を大きい部「べティがどこにいるのかいえ ! 」 ー 35