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検索対象: SFマガジン 1968年7月号
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1. SFマガジン 1968年7月号

0 、 がもうすぐあるし、正しい答えができなくて賞品をとれないと子供 ーハイウェイ建設の必要に常に迫られているというのに、新しい がどんな気持になるかわかるだろう ? それから女房にもーー特別学校を建てる金をどうやって充当するというのか ? 製の学校教師なんだよ、フレッド 家事の手伝いをしてくれるか 公立学校の建設が公共道路の建設に優先すると考えるのは、まち ら。そう考えて : がっている。なぜなら、もし国がハイウェイをなおざりにすれば、 スクリーンに目をあけたところで、彼の声はとぎれた。相棒フレ自動的に、一般市民の新車購買欲は低下することになり、それはひ ッドは、人なつつこそうな顔を重々しく横にふっていた。。 ヒンク色いては国家の経済力を弱め、不況を促進し、新しい学校の建設をは のあごが揺れていた。やがて、「ジョージ、、、、 ししカ ? その教師をじめのころよりも一層不可能にしてしまうのだ。 ほうりだすんた。聞いてるか、ジョージ ? ほうりだせ。アンドロ その問題まで来ると、どうしても穀物会社に敬意を表さねばなら イド教師なんていうのは、昔の本物ーーっまり人間さーーそれと同なくなる。テレ教師とテレ教育を導入することによって、それら穀 じくらい性質が悪いんだ。わかるだろう、ジョージ ? 信じないか物会社は国家の窮地を救「たのだ。片側に黒板、片側に映画スクリ もしれないが、おれは知ってる。子供を殴る。これは、本当なんだ ーンを置いた部屋に立った一人の教師は、それだけで五千万の生徒 ぜ。殴るんだ ブザーの音がして、スクリーンがゆらめきはじを教育することができた。そしてもし教師の教えかたが気にくわな めた。「時間ぎれだ、ジョージ。もう二十五セント聞きたいか ? 」 い生徒がいれば、そういった生徒はべつの穀物会社がスポンサーに 「いや、わかった」とダンビーはいった。そしてビールを飲み終えなっているべつのテレ教育番組にチャンネルを切りかえればいい。 ると、席を立った。 ( 生徒が授業をサポったり、テレ進級テストに合格しないのに、上 の学年の授業を見たりしないように注意するのは、もちろんそれそ れの生徒の両親である ) 。 学校教師は、誰もかれもに嫌われているのだろうか ? もしそう だが、この独創的な方式の最大の利点は、穀物会社が経費をすべ なら、なぜテレ教師を嫌うものがいないのだ ? ダンビーは翌日、仕事をしながらまる一日その矛盾を考え続けて負担してくれると小う幸福な事実にあった。これは納税者たち た。世紀の変り目に、高級車がサイズと価格を大幅に縮少し、経済を、いちばん厄介な義務から解放し、彼らの財布の中身を、売上 問題を効果的に解決した。それと同じように、五十年前には、教育税、ガソリン税、通行税、自動車の代金などの支払いにふりむける 問題を解決するのはアンドロイド教師だと信じられていたものだ。余裕を与えた。そして穀物会社がその優れた公共奉仕に対して要求 アンドロイド教師のおかげで教員の不足は解消したものの、けつきしたのは、生徒にーーそしてなるべくなら両親にもーー会社の製品 よくそれは問題のもう一つの面を強調する結果に終ったーーー学校のを食べてもらうことだけだった。 不足である。教室も満足にないというのに、教師ばかりいつばいし とすれば、矛盾はけつきよく矛盾ではないことになる。学校教師 て何になるというのか ? そして国が、より新しい、よりよいスー は浪費の象徴だから厄病神であり、テレ教師は大型徳用。 ( ッケージ 8

2. SFマガジン 1968年7月号

☆コンテストについての詳細は、六七ページの募集要項をごらんください。 ☆今月からスポンサーがゼネラルに変り、番組名も〈ゼネラル・・リラックス〉となりました。放送時間は変りません。 いえば、不幸な目に逢わなかったことくらいのものだ : : : 」 老人はほほえんだ。そして、あとは、もうロを開かなかった。 「社長」 「お父さん」 「あなたー べッドのまわりに、みんなが集まった。老人は返事をしなかった。 彼らの後ろでドアが開き、二人の白衣の男が入ってぎたが、誰もふり向かな 「くたばったか。大往生だな」 ういいながら、大またにべッドへ歩みより、群ら 初めに入って来た男は、そ がって泣いている者たちの背中のボタンを押した。彼らは涙を流すのをやめ て、本来の無表情な顔にもどった。彼らはぎくしやくと部屋を出ていった。 ボタンを押した方の男がいった。 「ねえ、先輩、死にぎわにあんな芝居なんかやって、うれしいんですかねえ。 死んでいく奴は、嘘はつかないっていうけど、あれじゃ嘘つきっこじゃないで すか。あんなことする奴の心理、わからないな」 「なんだ、まだ知らなかったのか。あれは芝居なんかじゃない」 「えつ、芝居でないのなら、何なんです ? 」 「この会社は、ロポットつきの病室を借すだけではない。記憶を売るんだ。脳 の中に、お客の望む過去をつくり出す。この男は、事業に成功した男の記憶を 望んだわけだ。現代の人間は、保険に入るより先に、この会社と契約する。そ して、死にかけたらここへ運んでもらう。たまにびんびんとしているのに、殺 してもらうのもいる。まあ、幸福な過去、幸福な死がこの会社の売り物だ」 二人は毛布と、シーツと、老人をひとまとめにして、部屋のすみの処理口に ( 作者の住所は、大阪府八尾市刑部 327 の 47 ) 放りこんで出ていった。 9

3. SFマガジン 1968年7月号

「問題はない」 大塚忠雄は、平然としていた。「貨幣の発行量の決定と、その鋳 5 造及び印刷の方法については、すでに権限をもらってあるー 「いったい : ・ : それで、どうするつもりなんですか ? ホテルに入ったその夜のうちに、大塚忠雄は行動を開始した。 ぼくに命じて、別便で会社から送って来た原料、資材、機器の類・ほくは、はじめて本格的な質問を投けた。 を引き取りに走らせるいつにう、自分で、王宮へ提出する書類をつ 大塚忠雄の頬に、たちまち、例の微笑がうかびあがった。 くりあげる。 「おや、わからないかね ? 」 ・ほくは、もうそれ以上、何もたずねようとはしなかった。 彼は、随員である・ほくに、自分の計画を話そうとはしなかった。 訊ねればある程度は答えてくれたかも知れないが、・ ほくのほうも黙資材は続々と到着するものの、パイオニア・サービスお得意の派 っていた。知りたいのは山々だったが、無任所要員の意地というも遣技術者たちは、ひとりもや ? て来なかった。なぜなら、大塚忠雄 のがある。自分自身で彼が何をたくらんでいるのかっかみたかったは今度の仕事を、全部この国の人間だけでやるのだといい、会社へ のだ。 も、そのように連絡していたからである。 こ それまでは、ともかく、大塚忠雄の指示に従っておればいし 当然、人間集めをやらなければならなかった。大塚忠雄が王妃や のべテランのいうとおりにしていれば、まちがいはないはずであっ貴族たちとの折衝で忙しかったものだから、ぼく自身が八方奔走し て頭の悪い下級役人と交渉したり、ビラを貼ったりしてまわらねば ならなかった。王家のお墨つきは貰っていたが、そんなものは下層 一週間、十日とたっと、会社から送られてくる原料資材は、ふく れあがるいっぽうだった。大塚忠雄は、王家の親衛隊の手をかりの連中のあいだでは、何のききめもない。それどころか、民族主義 て、それらを、現在は使われていない倉庫に収容した。 者が相手のときは、生命の危険さえあった。ぼくは、若さにまかせ 送られてくるのは、工事用と思われる資材だけではなかった。 て、パラライザーをポケットにしのばせ、むっとするような酒場や ある日、送り状をチェックしていた・ほくは仰天した。 街角を歩きまわり、退屈そうな男や女をみつけては、催眠記憶で叩 それは、ウア国の貨幣だった。それも、おそろしく大量に、であき込んだ現地語で話しかけ、就労予約カードを渡した。一度などは 頭をなぐられて昏倒し朝までホテルの玄関でひっくり返っていたこ ともある。 「なに。それは会社で作ったのさ . ・ほ ~ 、の日 いに、大塚忠難は、面白そうに答えた。「まだまだ来る 一カ月が、またたくうちに過ぎて行った。 王宮の裏手、工場敷地として指定された空地で、最初の工事がは はすだ」 じまった。 「しかし : : : それは偽造では : : : 」 る。 こ 0

4. SFマガジン 1968年7月号

の象徴だから尊敬される公儺であるわけだ。だが、その違いがもっているのを、今まで見たことはなかった。「ジョーンズさんは ? 」 と彼はきいた。 と深いところにあることをダンビーは知っていた。 学校教師への偏見は、一部は隔世遺伝的なものだが、おおかた「ケースのなかよ」とローラはいった。「明日の朝、買ったところ は、穀物会社が彼らの案を最初実行に移すときに展開したプロバガへ持って帰って、四十九ドル九十五セントを取り返してきてね ! 」 ンダ・キャンペーンによって、生まれたものである。アンドロイド 「もう打たれないからいいな ! ーテレビの前にインディアン式のあ 教師が生徒を殴るという、広く巷間に行きわたっている神話をでつ ぐらをかいて、ビリー ・カしュ / ちあげたのは、それらの会社であり、疑いをいだくものがいると、 ダンビーの顔から血の気がひいた。「ビリーを打った ? 」 おりおりそれをむしかえすのだ。 「ううん、そんなはっきりとじゃないわーとローラ。 問題は、大部分の人びとがテレ教育の恩恵を受け、真相を知らな「やったのか、やらないのか ? 。とダンビー 彼よ、テレビが受信できな「ほくの先生のことをなんていったかいってよ ! 」とビリーがどな い点にあった。ダンビーは例外だった。 , 。 山あいの小さな町に生まれた。一家が都会へと引っ越してくる まで、彼は本物の学校に通ったのだ。だから学校教師が生徒を殴ら「ビリーの先生は、馬に教える資格もないっていったのよ」 「ヘクトルとアキレスのことで、なんといったかパ。ハにいってよ ! 」 ないことを体験から知っていた。 アンドロイド—ZO が、誤って欠陥のある型を一つ二つ配布して ローラは、ふんと鼻でいった。「『イリアッド』のような古典から しまったのかもしれない。だが、それはありそうもないことだ。ア カウ、ポーイ対インディアンのメロドラマを作って、それを教育と呼 ンドロイド—zo は、かなり良い仕事をする会社である。彼らが製ぶなんて恥知らずだといったわ」 造する優秀なサービス・スタンドの係員を見ればよい。彼らが市場話はじよじょに明るみに出てきた。ミス・ジョーンズは、ローラ に配布する有能な速記者、・ウェートレス、メイドを見ればよい がその朝スイッチを入れた瞬間から切る瞬間まで〃知識みをふりか もちろん平社員や一般の家庭では、それらを持っ余裕はない。だざして暴れまわっていたらしいのだ。ミス・ジョーンズによれば、 ダンビーの思考は、ここで複雑なホップ・スキップ・ジャンダンビー家にあるものは、ビリーが自分の部屋の小さな赤いテレビ プをしたーーーそういう事情があるからこそ、ロ】ラは代用品のメイ装置で見るテレ教育番組から、ローラが居間の大型テレビ装置で見 る午前と午後の番組、廊下の壁紙の図柄 ( 小さな赤いキャディレッ トで満足しなければならないのではないか ? トが、ハイウ = イの交錯したリボンを疾走している情景 ) 、キッチ だが、彼女は満足していなかった。それを知るには、その夜家へ 帰って妻の顔を見るだけでよかった。彼は一点の疑いもなく、彼女ンにある風防ガラスの見晴らし窓、そして貧弱な本棚まで、みんな まちがっているというのだ。 が満足していないことを察知した。 「想像がつく ? 」とローラはいった。「まだ本が出版されていると 彼女の頬がそれほどこわばっているのを、唇がそれほど薄くなっ っこ 0 9

5. SFマガジン 1968年7月号

やらし、也球人一三フレデリ〉ク・ポール四 テーモン・ナイト 異星人ステーション 一 ( 一廃墟《の街から、 ) んにちわ 2 ギャラクシイ・サイエンス・フィクション誌特約 表紙岩淵慶造 目次・扉金森達 イラスト 真鍋博金森達 中島睛侃岩淵慶造 」 ULY, 1968 , VOL.9 ′ N07 S F マガジン 7 月号 ( 第 9 巻第 7 号 ) 28 昭和 43 年 7 月 1 日印刷発行発行所東京都 十代田区神田多町 2 の 2 株式会社早川書房 TEL 東京 ( 254 ) 1551 ~ 8 発行者早川清 編集者福島正実印刷所日東紙工株式会社 実験室【巴 ) 今昔ふあん気質考一その 5 ロポットは歌、つソ連で行なわれた 0 ポット・「ンクール アンコ ール・ワット訪問記 」フみとら世堺航記一【〔】 ? ~ こ山天文台 スキャナー でてくたあ トータル・スコープ カラー撮影された″アメリカの雪男″ 四大都市を結ぶ大規模な実験・ 英国上空に出没す奇怪なク十字形″円盤・ トショートをコ ~ / 一アスト月間ベス作ロ セネ一フル・ (f) LL ショ てれぽーと : 人気力ウンター 日記ーー五日担日・ さい、んんす・とびつくす アメリカ 5 界のニ大、、ヘテラン作家による中篇競作 / 世界みすて りとびつく 野田宏一郎「 6 北川幸比声物 日下実男 伊藤典夫 石川喬司 大伴日日司 正 実 1062 貶 168 194122 30 163 15 目 100 98 1 1 1 1 07

6. SFマガジン 1968年7月号

さらに、どう考えても、ふにおちないことがある。 理されていたといっていい。 だいたい、わがパイオニア・サービスという会社は、大規模な何出発前に調べたところでは、そのウア国というのは、一万五千平 でも屋だ。教授をあつめて大学を作ったり、従業員つきの鉄道建設方キロあるかなしという小国で、人口も、二百万人に満たないらし を引受けたりするのは日常茶飯事であゑ条件さえよかったら、政 府の要請で自社のスパイ組織を動員したり、新興国のために高級官そんなところへ、なぜ大塚忠雄のようなべテランが派遣されるの 僚を貸すことさえあった。 いや、それよりも、本来はいわば裏方であるべき無任所要員が、 注文が大きい上に複雑な仕事だから、ちょっとした手違いでも、 致命的である。そいつを防ぎ、または解決するために、訓練されてなせ、会社の表芸であるそんな仕事をしなければならないのだ ? 待機しているのが、無任所要員なのだ。 考えるのはよそう、とぼくは思った。若い野心にみちた無任所要 だから、実力のない人間には、とてもっとまるポストではない。 員にとって、そんなことは大したことじゃない。 くら本人に自信があっても、有能と認められない それどころか、い やるのだ。 限り、決して派手な任務にありつけない、というのが実情なのだ。 とにかくやり抜くのだ。 そして、その能力認定には、べテランの推薦が大きくものをい となれば、・ ほくが勇み立っていたのもお判りだろう。 つまり、大塚忠雄が手がける以上、今度の仕事がでかいものであ ることは、はっきりしている。おまけに、・ほく自身が、きわめて有 能というレ , テルをいただくことも、不可能ではない、というわけ予定より二時間もおくれて、機は、ウア国の首都、カホイ市から かなり離れた空港についた。 」っこ 0 窓から外を眺めたぼくは、異様なショックに見舞われていた。 しいことばかりではなかった。 もちろん、そこは世の常、 これは、 今度の任務について、・ほくはほとんど何も教えてはもらっていな ぼくが聞いたのは、ただ、アフリカにある小国の経済を建て直これが、辺境の小国の空港なのか ? ぼくが無意識のうちにイメージを描いていたのは、この国相応の それだけのことであった。 し、一年間で景気を振興させるという、 しかも、そのことと関連しているのか、ぼくは、資格だけの上ではうらぶれた風景であ 0 た。一本きりの滑走路、・ ( ラックなみの建物 があるだけだろうと予期していたのだ。 大塚忠雄と同格の無任所要員でありながら、ウア王国においては、 3 しかし、ぎらぎらと居すわる太陽のもと、目の前にひろがってい 8 彼の部下として行動し、あらゆる指示を、彼に仰げという命令まで るのは、世界のどこへ出してもひけをとらぬ一大空港だったのであ 受けとっていた。 3

7. SFマガジン 1968年7月号

ウインドウの張り紙には、こうあった。学校教師、お値段は格いわないだろう。テレテストが近づいているのだから、それに 安そして、もっと小さな字で、料理、裁縫、その他家事手伝いに それに 。それに、彼女の髮は九月の日ざしを、彼女の顔は九 重宝です 月の日々を思い出させた ( 2 9Q 新 ) 。九月のかすみが彼を 彼女の姿はダンビーに、。 テスクと黒板ふきと秋の木の葉を思い出つつんだ。と、とっぜん惰気が消え去り、彼は歩きだしていた させた。本と夢と笑い声を思い出させた。そのこじんまりした古道それまで彼が行こうとしていた方向へではなかったが : 具店の主人は、彼女に陽気な色のドレスを着せ、小さな赤いサンダ 「ウインドウに出ている学校教師はいくら ? 」と彼はきいた。 たてなが ルをはかせていた。ウインドウのなかの縦長のケースにおさまった店の内部には、あらゆる形状の古道具がちらばっていた。店の主 いのち 彼女は、生命を吹きこんでくれる持主を待っ等身大の人形のようだ人は、ジンジャーブレッドみたいな目をした、ぼさぼさの白髮頭の 小柄な老人たった。老人自身が、古道具の一つのようだった。 ・ビュイックを ダンビーはそのまま春の通りを歩いて、べイビー ダンビーの問いに老人は微笑した。「お気に召しましたかな ? とめてある駐車場まで行こうとした。ローラはもうタ食のダイヤル かわいいでしよう」 をまわして、テーブルで彼の帰りを待っているだろう。遅くなれ ダンビーは顔があからむのを感じた。「いくら ? 」と繰りかえし こ。 ま、・おこるにちがいない。だが彼の足は、そこで止まってしまっ べつに、ケースのお代として、五ド た。背の高い、やせた男。青春時代は過ぎ去ったばかりで、その名「四十九ドル九十五セント。 たゆた 残りがまだ、何かに憧れているような茶色の目に躊躇い、ふつくらル」 した頬にかすかにあらわれている。 ダンビーは信じられなかった。学校教師がこんなにも少なくなっ 心のなかの惰気に、彼はとまどっていた。駐車場から会社へ、そてしまった今では、値段は上がるのがふつうだ。下がるものではな して会社から駐車場への道で、何回この店の前を通り過ぎたかわか 。しかも一年足らず前、ビリーのテレビ勉強の助けにと再組立て らない。だが、足をとめ、ウインドウのなかをのぞいたのは、これした三学年用教師を買うことを考えたときには、やっと見つけたい がはじめてなのだ。 ちばん安いものでも、百ドルはゆうに越えていたのだ。その値で とはいっても、、ウインドウのなかに、彼のほしいものが飾ってあも、彼は買っていただろう、もしローラの強い反対がなかったら。 本物の学校へ行ったことのないローラは、理解してくれないのだ。 ったのだって、これがはじめてではなかったか ? ダンビーは、問題を正面から見据えようと努力した。おれは学校だが、四十九ドル九十五セントとは ! そして料理や裁縫もでき これならローラも、買うことに反対はすまい 教師がほしいのか ? まさか。だがローラに家事手伝いが必要なこるのだ , とはたしかだ。といって自動メイドを買う余裕はない。それに、す口をだす隙さえ与えなければいいのだ。 こしぐらいテレビ個別教育以外の勉強があっても、ビリーは文句を「機械ーー・機械の調子はいいのかい ? 」 っこ 0 2

8. SFマガジン 1968年7月号

をかわしているのだ。透明な物体は影を落とさないし、光波を反射 理由で草は緑だ。白色光の緑色の波が、ぼくたちの眼に映るのさ , もしない つまり完全に透明なものはね。だからハイライトを回 「家をベンキで塗る場合、色を家につけているわけではない」 避して、かかる物体は影を落とさないばかりか、しかも光を反射し , は別の機会にわたしに語った。 「ほくたちのしていることは、家がそう見えるようになる色を除いないので、とうぜん眼に見えなくなる」 て、あらゆる色彩を白色光から吸収する性質を持つ、ある物質を塗ある時わたしたちは窓際に佇んで小た。ポールは幾つかのレンズ っているのだ。物質がすべての色彩を眼に反射すると、白のようにを磨いていて、レンズは窓枠の上に並べてあった。不意に、話がと レンズを落としてしまった。すまんが、カが 見える。すべての色彩を吸収すると黒くなる。しかし、前にもきみぎれた時、「あっー しっさいの色彩が吸収されんで探してくれないか ? 」と彼はいった。 ( ⅱしたように、まだ完全な黒はな、。、 ていないのである。完全な黒は ( イライトを防いで、まったく絶対首をのばそうとすると、いきなり額を烈しくぶつけて、わたしは たじろいた。痛む額をなでつつ、とがめるようにポールを眺める に眼に見えなくなるだろう。たとえばあれを見たまえ」 彼は仕事台の上にあるパレットを示した。さまざまの色あいの黒と、彼は楽しげに子供のように笑 0 ていた。 「どうだい ? 」と彼はいった。 色顔料がその上に塗ってある。そのなかの一つがとりわけ見にくか 「どうって ? 」わたしはおうむ返しに答えた。 った。わたしの眼にはぼんやりとかすんで見える感じがするので、 「なぜ調べて見ないんだね ? 」 眼をこすってもう一度見なおした。 そこでわたしは調べて見た。頭を前にだす前に、感覚が自動的に 「それは」と彼は感動をこめていった。「きみが、そして生きてい る人間が、これまでに一度も見たことのない、最も黒い黒色なのだ働いて教えてくれたのは、そこにはなに一つない、ということはわ よ。だが待っていたまえ、黒さも黒く、生きている人間の眼にはとたしと外部との間にはさえぎるものがなにもないし、開いている窓 らえることのできない黒い色をつくって見せるからーーわかるだの空間はまったくからっぽだということであった。手をのばすと、 固くなめらかな、冷たいたいらなものがさわった。その感じは経験 一方、ポール・ティクローンを訪ねると、彼はいつも光の偏光、からガラスだとわかった。もう一度よくよく見たが、たしかになに 回析、干渉、単一及び二重の屈折作用、そのほかわけのわからぬあも見えない。 と、ポールはロ早やに話して、「炭酸ナトリウ 「白石英砂とーー らゆる種類の組織的複合作用の研究に一生懸命うちこんでいった。 「透明性とは、一切の光線が通過することを許容する、物体の性質ム、消石灰、硝子屑、過酸化マンガンなどだよーーそこにあるのは なり状態なりをいうのだ」と彼は説明した。「ぼくの探し求めてい有名なサン・ゴ・ ( ン会社のつくった最上のフランス板ガラスなん るのはそれなのだ。ロイドは彼の完全な暗黒体をあっかって、影とだ。この会社は世界中で一番すぐれた板ガラスを製造していて、こ乃 いう厄介ものにぶつかるヘまをやっている。だがぼくはうまくそれれはそのうちでも最も見事なものなのだ。王様の身代金にあたるほ

9. SFマガジン 1968年7月号

ここで、地位と権力を手に入れた。なぜそれを捨てなければならな「じゃ、やはりその大塚忠雄は、そこにとどまったんですね ? 」 二十代なかばの男が訊ねた。 いんだ ? なぜ、わざわざ無任所要員などに戻らなければならない 「そう」年長の男は、遠い目をして答えた。「ウア国を本当に再建 んだ ? 」 しようと必死になったが、やはり、どうにもならなかったようだ いうと、崩れ落ちた。「いやだ。私はもういやだ。 : : : 休みたい のだ。ここでは私は貴族として暮らして行ける : ・・ : 私は、自分で作ね。それから五年ほどた 0 て、ぼくは彼が民族主義者に暗殺された り出した幻の繁栄を、本物の繁栄にしてみせる : : : 同じ一生を賭けという噂を聞いたよ . いくらべテ 「自業自得ですよ」若い男は、軽く笑った。「実際・ : るのなら : そのまま、眠り込んだ。 ・ほくは目を伏せた。この男は、もうおしまいだった。もう、尊敬ランだったか知らないけど、無任所要員のつらよごしであること に、まちがいはありませんからね。そうでしよう ? すべきべテランではない保身欲と権勢欲にこりかたまった、あわ 「まあな」 れな豚になりさがったのだ。 「もうすぐですねー 反動は大きかった。 いった。「でも 若い男は、観望用立体テレビに目をやりながら、 ついさっきまでの気分の裏返しが、突然憎しみにかわった。 ・ : 昔は、そんな程度の政策で何とかなったんだから、羨ましいよ 衝動的に、ぼくは大塚忠雄に近づくと、力いつばい。ほっぺたを うなもんです。最近の作業のむつかしさと来たら なぐりつけた。 若い男は、また書きものをつづけた。 「行こうかー山口がいった。「残して行くほかはないー 「でも : : : この男 , ・ほくはあごをしやくった。「本当にウア国の人四十五、六の男は、うっすらと目をつむっていた。 すると、ひとりでに、はるかな日のあの虹の玉の色彩が、まぶた 間として、生きて行くつもりなんだろうか」 「たぶんね」歩きだしながら、山口は呟いた。「しかし、それは不の中で動きはじめるのだ。 ( 今になってみれば、大塚忠雄の気持は、わかりすぎるほどよくわ 可能だよ。彼が今まで発揮して来た能力というものは、会社という かる : : : ウア国の中ではかない努力をつづけながら、彼は実はしあ 背景があったからこそのものなんだ。裸になれば : : : おしまいだよー 山口につづいて車に乗り込みながらぼくは、何ということもなわせだったのかも知れない ) 目をひらいた。 く、はじめてこの国へ来たときの気負いを思い出し、ふと、泣きた 苦笑がうかんでいた。 いような感情をお・ほえていた : ( こんなことを考えるようになったとは : : : そろそろこの杉岡勉 も、無任所要員としては、ヤキがまわって来たのかな ) あたらしい赴任国へ機は、すでに下降をはじめていた。 9 7 9

10. SFマガジン 1968年7月号

「王妃は、先日のウア国祭で、来年、国連の定期総会に代表を送るう。 「これは私どもの会社が、最新の技術を使って、試作したもので ころまでには、わが国を繁栄にみちびくと約束されたのだ」 別の男がいった。「そうする以外に、貴族の不満分子や、民族主す」 義者たちをなだめることができなかった。われわれは、あなたがた大塚忠雄は、しずかにいった。「空気中の酸素や湿気、それに紫 外線などにあうと、急速に変質する特殊プラスチックを、何種類も の仕事に対して、出来る限りの協力をするつもりだ。だから : ごく薄い膜にして、重ねあわせています。変質に従って、表面の光 「わかっております」 大塚忠雄が答えた。「お願いしなければならないことは、あとで線の反射率がかわるため、こうした効果が出るわけです。光源によ っても発色は違いますし、ひとつひとつがすべて違った変化を見せ 表に作成して見ていただきますが、ともかく 一礼すると、カ・ハンを開いて、金属製の罐をつかみ出した。 てくれますが : : : 一定時間後にはしだいに小さくなり、ついに消失 テーブルに置いて、封を切る。シ = ッと空気の侵入する音がししてしまいます。私は、これを、虹の玉と名づけました」 「ーー虹の玉」 彼がとりだしたのは、直径十五センチぐらいのボールだった。表ひとりが呟いたが、それ以上は何もいおうとはしなかった。全員 が、刻々とかわる色の饗宴に、心を奪われてしまっていた。 面はガラスのようにつややかで、深い紅色をたたえている。 と、ほんのまたたきするかしないかのうちに、その色がかわった「私は、これと同じものを作る工場を建設させていただくつもりで のだ。それももとの紅色を残したまま、金色やうすみどりをまじえす。そして、その過程が、この国の景気の呼び水の役をはたすはず た複雑な模様となり、さらに微妙な色調を帯びて変化して行くのだです」 大塚忠雄は、一歩うしろへさがった。 だれも、反対しようとはしなかった。彼の持って来たものが、世 一分とたたないうちに、その妖しい物体は球形のままゴルフのポ ールのように何十ものくぼみを持ちはじめていた。形状がかわれば間なみの概念をふりかざしたものであったら、とてもこうは行かな それだけ色の感じも錯綜し移り、しかも、魔物のように、刻々と少かったであろう。彼は、ウア国の洗練された人々の、知性ではな く、感性に訴えかけたのだ。虹の玉は、それだけの魅力を充分に備 しずつ体積を減じるように見えるのだった。 えていた。 これが、大塚忠雄のいった〃切り札〃なのか ? : 、・まくは、もうそのときには、ヂールに魅人られていた。 しかし : : : この飾りものが、現実にどういうふうに働きかけるこ 忘れられたような陽の中、孤立しかけている時代錯誤的な人々にとになるのか : : : そのときのぼくには、また、漠然としか判っては よ、つこ。 囲まれて、それは何と華麗で、うつろい易い美しさを秘めていたこ し子 / 、刀イ とたろう。何とかけろうにも似た妖しさをふりまいていたことだろ こ 0 7 8