思う - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1968年7月号
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1. SFマガジン 1968年7月号

ジェーン叔母さんはだまりこんだ。 スー。フ碗の中の銀の肌をした映像は、ただのシルエット、影の男 「なんだ ? どうした ? 」ウ = ッスンはコンソールをなぐりつけなの輪廓しか返してよこさなかった。自分の顔は見えなかった。 がら、返答を迫った。「いったい、そのブリキのおつむにのみこめ彼はスープ碗をそこへうっちやり、青白い紙きれの山を踏みつけ ながら、居間へとってかえした。たまたま目にとびこむ紙の上の黒 たのか、どうなんだ ? 」 い行例は、みみすののたくりであり、なんの意味もない。ふらふら ジェーン叔母さんは、・ほそぼとなにか答えた。こんども、ウェッ と彼は歩いた。目には光沢がなかった。ときおり、苦痛を避けよう スンには一言も聞きわけられない。 彼はその場に凍りついた。なま温かい涙が、ふいに溢れ出てきとする無意識な動作か、びくりと首を震わせた。 いちどは、局長のガウアーが行く手をさえぎった。「このばかや そこまで言って、ふと思いだした。 た。「ジェーン叔母さん もうこれまでのだれよりも長く、あなたはロをきいています。でろう , ガウアーはすさまじい形相でどなった。「きさまもみんなと は、もう手遅れか ? 手遅れなのか ? ぎくっと体をこわばらせるおなじようになると思っていた。いったい、なにをしでかしてくれ と、振りむきざま、紙表紙本の並んだ書棚にとりついた。最初に手たんだ ? 」 に触れた本を広げた。 「おれは謎をつきとめた。そうでしようが ? 」ウェッスンはそう呟 べージに並んだ黒い文字は、ちんぶんかんぶんだった。丸味のあき、クモの巣を払うように相手を横へ押しのけたとたん、苦痛がに わかに烈しさを増した。呻きをあげて頭をかかえ、しばらく前後に る小さなその形には、なんの意味もなかった。 とめどなく涙が溢れた。疲労の涙、挫折の涙、憎悪の涙。「叔母体を揺すったが、なんの甲斐もないとわかり、また背を伸ばして歩 きはじめた。苦痛は大波のように押しよせてきた。頂点へくると、 さん ! 」と彼は叫んだ。 だが、もはやむだだった。沈黙のとばりが彼の頭を覆いつつんで視野がむらさきから灰色にかすんだ。 もう、あまり長くはもちそうにない。そのうちになにかが破裂す しまっている。いまの彼はすでに尖兵の一員ーー・・・征服された人間の ひとり、まだ見ぬ星々のあいだで、異形の兄弟たちとむつまじく暮るだろう。 血だらけの壁のまえに立ちどまると、その金属を平手で叩きつけ していく人間のひとりに、変貌をとけたのだった。 た。ビーン、ビーン、にぶい音響がステーションの骨格に波及して コンソールはもう作動しなかった。なにひとつ、彼がそう望むよ ビイイン。かすかにその反響が戻ってきた。 うには作動してくれなかった。ウェッスンは丸裸でシャワーの蛇ロ ウェッスンは意味のないほほえみをうかべて、さらに歩きつづけ の下にしやがみ、スープ碗を手に捧げていた。手と前腕に水滴がき らめいている。乾きかけた青白い体毛が、つぎつぎにビンと首をもた。こうなったら、時間を稼ぐだけで、待つだけだ。いまになにか たける。 が起こる。 6 6

2. SFマガジン 1968年7月号

れた。いきなり、おれの喉もとめがけて、飛びかかってきたのだ。 シントンに泡がかぶさった時、おれたち二五人は、急遽、特務士官 それをなんとか振りほどいて、「わかった、わかった。今のは冗に任命された これが事実上、かぶと虫に対する織組的抵抗の最 3 談だ」 後ののそみだったのだ。しかし、このメイ ( ーの中で、おれが唯一 の生存者だということは、まず確実だった。 やつは床に崩折れると、今度は泣き声を出す。「おう、ハリー ここへきてから一四カ月になるが、かぶと虫やろうの話じゃ、おれシリウス人に対する抵抗が、どんな形のものであれ、成功するか の餓鬼がもう一二三人も生れたそうだ。これからまだ続々生れてく否かは、一にかかって、その中央最高司令を撃減できるか否かにあ るんだ。それなのに : : : それなのに、おまえ、女に近寄れるどころる。ところで、この中央最高司令というのは、シリウス人ではな コンビューター か、窓から指をくわえて眺めているだけなんだ。ひどいものさ。お 。少くとも生命体ではなく、機械、すなわち計算機なのだ。だ れから : : : おれからサン。フルーーわかるだろう を取って冷凍にが、これがシリウス人を支配しているわけではない。シリウス人の しておくんだ。だから、たとえ明日おれがくたばるようなことにな立てた計画の細目を決定するのだ。 っても、おれの餓鬼は向う二〇年間は生れつづけるだろう。こんな おれたちを任官させた将軍がいったものだ。チャンスはある。も だとは夢にも思っていなかったよ、ハリ しそのコン。ヒューターを破壊できれば、シリウス人は混乱をきた おれはビンキーから離れて、窓から外を眺めた。運動場、食堂、 し、弱体化するであろう。そうすれば通常兵器で攻撃できるかもし 共同浴場 : : : その先は塀だ。子種提供者はその外に出ることは許されない、と。 れよ、。 おれは。ヒンキーの例にならって、緑色の腕章をつけた男、ビリン 「おまえは名誉に思うべきだぞ。世界中でこのような種つけ牧場グズに近づいた。しかし葉巻は持っていなかったので、「あんたを は、たった一〇カ所しかないのだ」 助けてやりたいんだが」と水を向けてみた。 「それで、全部同じなのか : : : 全部こうやって人工授精でやるの 「ご親切なこった」ビリングズはいかにも軽蔑した様子で腰をおろ し、いやいやタコに火をつける。「おまえらは日に日に頭が変に 「どこもまったく同じだよ、。ヒンキー。気の毒だが」もちろん、こ なっていきやがる」 れは嘘だーーー気の毒だってことは。だれが。ヒンキーなどに同情して「ご存知ないようだが、ビリングズ。あんたもいっ種馬にされるか やるものか。おれはあえて嘘をついた。やつに本心など打ち明けらわからんのだそ . れたものではない。 「まさか」といいながらも乗ってくる。「それで、どうやって防い 「なんとかなるさ」ビソキーより自分を安心させるために、おれはでくれるんだ」 ( し / おれは夢物語をでっちあげて聞かせた。 やらなければならない。本当になんとかしなければならない。 「かぶと虫がほしがるものを持っているのさ。やつらが知りたがっ ワ

3. SFマガジン 1968年7月号

えないんだ。いつも、その二つの顔があんまり似ているので、妙な ? 」 「わたしの手におえない質問ですね。ポール」 気がしたもんだよ。耳が両側にあって、髮の毛が真中。目が二つ。 鼻。歯のあるロ。そのとき思ったもんさ、われわれは遠いいとこだ彼はくつくっと笑いだした。「こりや傑作だ。大笑いだよ」廊下 うえ って。そうじゃないかい、人間と馬とは ? しかし、階上にいるあを歩きながら、のどをしきりにひきつらせた。 「ええ、おかしいわねー いっと比べたらーー・人間と馬とは兄弟だ。わかるね ? 」 「叔母さん、ここの番人がどうなるかを教えてくれ」 「ええ」ジェーン叔母さんは静かにいった。 「いまもそのことで考えていたのさ。なぜ人間をここへ送る代り「 : : : それは教えてあげられないわ、ポール」 に、馬か猫でまに合わせられないのか ? しかし、たぶん、人間に彼はよろめきながら居間にとびこむと、コンソールの前に腰をお しかいまぼくの堪えているようなことは堪えられないってことなんろし、なめらかで冷えびえとしたその表面を、両のこぶしでなぐり だろう。ちきしよう、人間にしか、だ。そうだね ? 」 つけた。 「ええ」ジェーン叔母さんは深い悲しみをこめていった。 「いったいおまえはなんだ、怪物かなにかか ? おまえには血も涙 ウェッスンはふたたび寝室の入口で立ちどまると、ドアの枠につも、じゃない、油かなにもかも流れていないのか ? 」 「おねがい どうかポール かまりながら身ぶるいした。「ジェーン叔母さん」と、低いがはっ うえ 「わからんのか、おれが知りたいのは、番人が口をきけるかどうか きりした声で、「あなたは階上のやつを映画に撮っているだろう ? 」 なんだ。任期が終わったとき、連中はなにひとっ口がきけないんじ 「ええ、ポール , 「そして、ぼくの映画も撮ってるはずだ。いったい、それからどうやないのか ? 」 「そうです、ポール」 なる ? これがすんだとき、だれがその映画を見るんだ ? 」 彼はコンンールにつかまって、ふらふらと立ち上がった。「ロが 「わたしには知らされていません」ジェーン叔母さんはつつましく きけないんだな ? そうか、思ったとおりだ。そのわけを知ってい 答えた。 るのか ? 」 「そうか、知らされないのか。しかし、だれがそれを見るにしろ、 むだなことだ。ちがうかい ? 我々が知りたいのはなぜ、なぜ、な うえ 「階上のやつのせいだ」ウェッスンはいった。「岩の苔だよ」 ぜ : : : そして、結局はなにひとつわからない、そうだろう ? 」 「ポール、なんのことですの ? 」 「ええ」 「しかし、下界の連中、こうは考えないんだろうか ? 実際経験し「おれたちが変えられてしまうからだ」ウ = ッスンは廊下へとまろ 9 び出た。「ほかのものに変えられてしまうからだ、磁石のそばに置 ている人間にそいつを見せたら、なにかがわかるかもしれない、 5 ーーたぶん非磁 いた鉄片のようにだ。どうしようもない。あなたは と ? ほかの人間ではだめだ、と ? これなら筋は通らないかね

4. SFマガジン 1968年7月号

「いったい何の御用ですか ? 」とチャーリイは挑戦的にいった。 飛蹤的にあがった場合を想定して、それでやってみれば : : : 」 冫しオ「。ハタ 「例のいたずらの件で、わざわざおいでくださったのならーー・むだ 「チャーリイ : : : 」ヴィクトールが、けげんそうこ、つこ。 ーンに収斂するぜ , 足だと思いますよ。あんなばかばかしいこと、誰が本気にします 一同、ハッとしてグラフィック・パネルの方をみた。 たしかに、もつれあう五彩の光の糸は、あるパターンに収斂しつ「私がしていますーと警部補はしずかにいった。「むこう一週間、 つあった。画面の端から端までいつばいにひろがった、渦状星雲のあなたに護衛をつけます。ーーむろん、あなたのお友だちにも、全 ようなパターンに : 。しかし、それが安定したのは、わずか数秒面的に協力していただきますが : 「ぼくはしませんよ。警部補ーーーだって、一体 : : : ぼくみたいな、 のことだった。光の糸は、ふたたびばらばらにほどけ、無秩序な、 とりとめなく変化する曲線模様に拡散していった。 一介の研究生を殺して何になるっていうんです ? 」 チャーリイはいった。「前にも一度こういうこ 「おかしいな : 「ソルポンヌでも、モスクワでも、被害者は殺されるべき何の理由 とがあった ほくたちをひやりとさせ だけど、何かのまちがいか、電子脳の部分的なミスもありませんでした」警部補の口調には、・ じゃないかな : : : 」 るものがあった。「被害者は、予告され、理由もなく殺されたので と、ホす。ーー犯人はもちろん、どうやって殺したのかもまるきりわかっ 「かんがえられるかね ? 電子脳のミスなんてことが : ていません。もし、予告がなければ、異常な事故か、自然死と思わ アンは、つこ。 デイミトロフはいった。「それるところでした 「いずれにしても、チャーリイ : の問題は大変だ。 ちゃんとやろうと思ったら、それ専用のうん チャーリイは、まだ強情そうに眼を光らせた。 〃がいるだ「護衛してくださるのは勝手です。ーーだけど・ほくの方は、好きに と大きくて計算速度のはやい〃進化予測コンビューター ろう しますよ。一週間たって無事だったら、ディナーをつきあっていた 「そうだな : ・ : ・」チャーリイは、グラフィック・。 ( ネルのスイッチだけますか ? 」 「むろん、よろこんで : : : , 警部補は笑った。「そうなることを祈 を切って苦笑した。「そいつをつくるのに、またコン。ヒューターが りますー しかし、基本的な考えは、わかってくれた 何台かいりそうだ。 どろう ? 」 ドアがノックされ、クーヤ・ヘンウィックがはいってきた。つづ 「ところで : ヴィクトールはいった。「紹介しよう。こちらは いてビッグアローが 「このビッグアローと、それから、あとからやってくるもう一人の 科学警察の : 「カンジンスキイ警部補です」と警部補はいった。「モーティマー 私服警官が、交替であなたにつきそいますーと警部補はインディア さんですね」 ン出身の、精悍そうな青年の肩をたたいた。「それと、あなたのグ 9

5. SFマガジン 1968年7月号

いるケースに目を走らせた。ウエスタン・アワーのヒロインは、ダ ばかり思っているのよ , 幻のプロンド娘で、名前をアン 「わたしが知りたいのは、彼女が打ったかどうかということだけンス・ホールの踊り子 テイゴネといった。彼女の二人の兄はガン・ファイトで相討ちにな クレオンという男ーーーはその 「今それを話すところよ ったらしいのだが、町のシェリフ うちの一人だけを人並みにブート・ヒルに葬っただけで、理不尽に ーの部屋で掃除をしていた。 三時ごろ、ミス・ジョーンズはビリ ビリーはすなおにおとなしくデスクにむかい、神妙に授業を受けてももう一人のほうは、 ( ゲタカがついばむままに砂漠に放っておい いた。カウポーイが、インディアンの村トロイを攻撃する物語を夢た。アンテイゴネはそれを見るに忍びず、妹のイスメネに話をもち 中で見ていたのだ。ところが、とっぜんミス・ジョーンズが気が狂かけた。兄の一人が立派な墓に葬られる資格があるのなら、もう一 かいざん 人もそうしてよいはずだ。自分は、その兄にも墓を作ってあげよう ったように部屋を横切ってきて、『イリアッド』を改竄したという と思う。イスメネよ、手を貸してくれるか ? だがイスメネは臆病 冒漬的な言詞をはき、授業の途中でスイッチを切ってしまった。ビ リーが叫び声をあげたのはそのときで、ローラが部屋にかけこむ者だった。そこでアンテイゴネはいった。わかった、自分一人でや と、ミス・ジョーンズは片手でビリーの腕を掴み、もう片方の手をつてみせよう。と、その町へ、金鉱を捜している、ティレシアスと う老人が馬でやってきた いままさに殴ろうとするようにふりあげていた。 ダンビーは静かに立ちあがるとキッチンへ忍び足ではいり、裏の 「危いところで間にあったのよ」とローラはいった。「あのままに ヒリーは殺され ドアから外へ出た。そして車に乗ると街へとむかい、窓を全開にし させておいたら、何をしていたかわかりやしない。。 て、暖かい風に身をまかせながら街なかの大通りを飛ばした。 てたかもしれないわ ! 」 「それからどうしたんだ ? 」 「どうかな」とダンビー 角のホットドッグ・スタンドは、完成間近だった。わきの道へと 「ビリーをあの女から引き離すと、ケースに戻るようにいってやっ曲りながら、彼は・ほんやりとそれに目をやった。相棒フレッドの店 たわ。そしてスイッチを切って、蓋をしめたわ。ねえ、おねがい、 には空席がたくさんあった。彼はいいかげんにその一つに腰をおろ ジョージ・ダンビー、あのまま蓋をしておいて ! そして、さっきした。そして小さなカウンターにたった一人すわりながら、かなり いったように、明日の朝になったら返してきてーーービリーとあたしのビールを飲み、考えごとにひたった。妻と息子が眠ってしまった に、このまま家にいてほしかったら ! 」 時間になると、彼は家へ戻り、ミス・ジョーンズのケースをあけて 彼女にスイッチを入れた。「今日の午後のことですが、ビリーを殴 ダンビーはその晩ずっと気が重かった。食欲もなくタ食をつつろうとしたんですか ? , と彼はきいた。 き、ウエスタン・アワーを見るともなく眺め、ときどき、ローラが 青い瞳がじっと彼を見つめた。まっげが時間を置いてリズミカル こちらを見ていないことがわかると、ドアのわきに音もなく立ってに上下し、ーラがつけつはなしにしておいた居間の明りに、艟孔 0 2

6. SFマガジン 1968年7月号

計器盤の最下部では、 いくつかのダイヤルがぼうっと金色に光で、頭蓋が割れそうだった。「ジェーン叔母さん」 り、針がかすかに、かすかにふるえている。 やさしく、安らぎにみちた声。苦痛な治療のあいだ、べットのそ 液槽ーーー階上に備えられた液槽の底に、金色の液体がすこしずつ 滴り落ちているのだ。『小生は悪感をこらえて、ようやくその分泌ばで付添ってくれる看護婦のような声。能率的で、訓練をつんだ思 物のサンプルを採集することを得た。のちに分析に回した結果 : ・ 「ジ = ーン叔母さん、なぜやつらがきまっ第ここへやってくるか その宇宙空間のように冷たい液体。チ = ーブの内壁をじわじわとを、あなたは知っているのか ? 」 、え」声ははっきりといった。「それはまだ謎ですわ」 伝いおりては、暗黒の盃の底に小さな池を形づくってゆく液体。な エリキサー ウェッスンはうなずいた。「ほくは〈ホーム〉からここへくるま かば生きもののように金色に輝く液体。黄金の霊薬。その濃縮物の カウアーを知ってる ? 外宇宙局の長官 一滴には、二十年間にわたって老化を防ぐ効力ーーー血管を柔らかえに、。 カウアーと会った。・ に、筋肉をしなやかに、目を曇りなく、髮をつややかに、脳をいきだ。それがわざわざ・ほくに会いにきた」 「それで ? 」ジェーン叔母さんは先をうながすようにいった。 いきと、保ちつづける効力が秘められている。 それを明らかにしたのは、。ヒジョン中佐のサンプルのテストだつ「彼はこういったよ。『ウェッスン、ぜひともきみに探ってもらわ た。、そして、そこからこの気ちがいじみた『異星人交易所』の歴史なきゃならんことが一つある。つまり、彼らの補給がこれからもあ が始まったーー・最初はタイタンに設けられた仮小屋から。そして、 てにできるかどうかだ。わかるかな ? きみが生まれた頃より、人 ストレソジャー 人びとがさらにその問題を理解した - ことによって、異邦人ステーシロはまた五千万も増えているのだ』とね。それからつづけて、『っ ョンが誕生した。 まり、いままでよりいっそう多くのそれが必要だし、あてにできる 二十年に一度、ひとりの異星人が『どこか』からやってくる。そかどうかも知る必要がある。どうしてなら、もし供給を止められて して、人類が彼のためにこしらえた小さな檻の中におさまり、夢をみたまえ、なにが起こるかわかるだろう ? 』といった。なにが起こ 超えた富ーーー生命の贈物を人類に与えて去ってゆく。いまだにそのると思う、ジェーン叔母さん ? 」 「たぶん破減でしようかー 理由は不可解だった。 階上で超こっていることを、ウェッスンは想像した。極寒の闇の 「そうなんだーウェッスンは敬服をお・ほえたようにいった。「そう 『かりにネフュド地区 なかにうごめく体が、ステーションの回転に身をまかせながら、チなんだよ、ガウアーもおなじことをいった。 いうまでもない、 ューブのロに冷たい金色の粘液を滴らせている。ポトボト、ポトボが、ジョルダン峡合当局から切り離されたら ? 7 トと。 一週間何百万人飢え死 = す 0 。また、り = 月基地 = 補給船が 5 ウェッスンは頭をかかえた。考えることもむずかしいほどの圧力こなくなったら ? 何千人が餓死と窒息死をとけるだろう』と。

7. SFマガジン 1968年7月号

朝眼がさめたときには、もう女はいなか 0 た。私は重くぼんやりてみた。タ・ ( = の煙がたちこめる暗い照明の店の奥に、彼の姿が見 えた。彼は私に気がつくと、手を上げて招じ入れた。 とする頭をかかえてシャワーを沿び、コーヒーを飲み、べ】 「どうも、ごぶさた , ッグを食べた。女は食卓の上に置手紙を置いていった。 オし力。こちら が潰れたというじゃよ、 職が見つかるまで、ここで暮らしたらいかが。小遣いが必要「どうだい。グラマーフォート は東洋評論の田中さんだ。今、彼とその話をしていたとこさ , なら、べッド横のサイドテーブルの中から持って行きなさい サイドテー。フルの中には数枚の一万円札があった。私はその中か彼は自分の向い側に坐っていた男を紹介した。私が再び小説を書 ら二、三枚をぬき出してポケットに入れた。あの女の正体は何だろこうと思ったとたん、東洋評論の奴に会えるなんて、ついているぞ まくそえんだ。 と私はを うという疑問はあったが、とにかく現在の私には失なうものはない 「どうも、大変ですね . し、ここにいてヒモまがいの生活をするのも悪くない。下手に女の まるで学校の先生のような感じのその男は私にいった。 正体をさぐったところで、何も得るものはないのだから、このまま 「このところ、また少し具合の悪いところが出てきたようですね。 行けるところまで行ってみようという気になった。 ヒッ。ヒーがやられたしメッサーズが廃刊になったし、ワイルドが休 私は子供のときから小説を書いてみたいという望みがあった。い くつかの同人雑誌の同人に入っていたこともあり、私の書いた小説刊ということだが、どうもそれつきりになりそうですね、 自分のところは雑誌社といっても、そんなきわものとは違うんだ の一つは東洋評論社の文芸誌に紹介されたこともあった。生活の心 配が一応なくなったのだから、また何かうまい職が見つかるまで小というエリート意識を鼻の先にぶらさげたようなもののいい方が気 にさわったが、とにかく顔見知りになっておけば原稿を持ちこむと 説でも書いて暮そうかという気になった。もしかすると、その間に ここで話をつなげれば、あとは得意の話術で親し 書いた小説が売れれば、永年の夢であった文筆業に転向できるかもきに都合がいい くなれると思った。 しれない。 「そうなんです。少し、雑誌が多すぎるんですね。それに考えてみ しかし、実際に原稿用紙を買いこんで、ダイニングキッチンのテ ーブルに坐って書き出しては見たものの、そうはうまく書けるものればグラマーフォートなんかも、少々安易に編集していましたから 三行書いては破り、半分書いてはまるめて少しも進ね。まあ、たるんでいたから潰れたともいえるでしよう ではない。二、 ナしふ内部が乱れてい 「まあ、あなたの前でそういっちゃ何だが、ど、・ まなかった。 たそうですね。グラどヤにのせてやると称して女の子を裸にする奴 の広告を取りに 気分転換と、職探しを兼ねて、グラマーフォート : いたそうですね」 行って顔見知りになっていた月賦カメラ店へ出かけた。 私は血の気が失せたような気がした。 広告担当者は自席にいなかった。誰かと近くの喫茶店で会ってい 「そんな噂が流れているんですかー るらしい。私は前に彼とお茶を飲んだ店を思い出して、中をのぞい 3

8. SFマガジン 1968年7月号

「あなたをここへ残して ? 」彼女は頭を振った。 彼女をうち砕けるはずだったのだ。 高の目盛りに合わせてあった。 , 「もうその武器には磁場発生装置をうち砕くだけの = ネルギーがな彼はくすくす笑 0 た。「俺の知りたか 0 たのはそのことさ。心配 9 するな。 / 彼らはもう俺たちに手を出しはしないだろう。連中には怒 いのです」彼女は勝ち誇っていった。 りも憎しみも感じることができないのだ。それにこうなっては俺た 火星人たちは再び間隔をせばめ始めた。彼は自分のしようとして いることが好きではなか 0 た、なぜなら、そのあわれさがわか 0 てちは標本としての役には立たなくな 0 たんだ、なぜなら彼らの使命 は失敗してしまったんだからね。早いとこ火星に帰らなきや、全減 いたからだ。しかし、同時に彼は雨の中のとうもろこし畑のにおい してしまうだろう」 ーニイと結婚した時のべティ や、幸福な赤ん坊のはしゃぎ声や、 の顔つきゃーーそして、人間を自分の種族に、自分の親族に、巨大「なぜ ? 」 な緑の星につなぎとめているその他さまざまな地球の出来事が好き「そうさね、第一、なぜ奴らは危険な使節に男をい 0 しょにつれて これは予備的な使節だ きたと思う ? 員数合せのためではない であった。 った。男はあとからつれてきたってよかった。しかし、疑いもな 彼は火星の男の腹を射った。彼は弱々しく体をまげうずくまっ く、彼女らには男が絶対必要だったのだ」 た。ジェリイは震えている老いた獣を自分のそばにひきよせた。 無線装置は鳴りひびき、べティは女性と格闘をはじめていた。他彼は恐慌をきたしている女性群が落した音波銃の一つに手をのば した。「ここへおいで、ガートルード」と彼は叫んだ。 のものは迅速に彼の方へ突進してくる。 彼は音波銃を男性の脳格納庫に押しあけ、再び発砲した。生きも彼女は嘆き悲しんでいる人垣からぬけ出し、まるで夢遊病者のよ うにゆっくりと、彼らの方へ近づいてきた。 のは静かに横になった。爪のある手が荒々しく彼をとらえ、ひき放 - 彼らが床の上をひきずって行く間、彼は「もし受胎しない場合には、火星の女はどうなるんだい ? ーと、彼 すまで、彼は射ち続けた。 , 折れた骨がこねまわされるために、体が粉々になるような痛みを味は聞いた。 「分裂の時が来ると、女は眠りにつく , 彼女はものうげに答えた。 わっていた。彼はうめき、次第に気を失っていった。 再びはっきりと意識をとりもどした時、べティは彼の上に身をか「しかし、分裂の時、彼女は死ぬのです」 「もう一つ。君たちはいつ出発するんだい ? 」 がめ、彼の頭を抱えていた。 「あの人たちはなぜあたしたちを殺さないんでしよう ? 」と彼女は「ただちに」 彼は黄色いらせん体の方向に銃をふりまわした。「もちろん君は し / 彼は死んだ火星人のほうをちらりと見た。火星の女たちは、震俺たちの相棒を呼び出して、そのことを伝えるつもりだろうね。そ れから、迎えの人をまわしてもらってくれ」 え、おののき、興奮して、死体のまわりに集まっていた。 彼女は銃から目をはなさなかった。「あなた方はもう私たちには 「なぜ逃げ出せるうちに逃けないんた ? 4 彼は彼女に聞き返した。

9. SFマガジン 1968年7月号

石なんだろう。ぜんぜんこたえないわけだ。そうじゃないか。ジェあ、はやく見せろ、どうした、見せないか ! 」 ーン叔母さん ? あなたはすこしも変わらない。そして、ここにが「許可されていないことですからーーー」ジ = ーン叔母さんは抗議し こ 0 んばって、つぎの男がやってくるのを待つのさ」 「いいからやれ。でないと、われわれは死ぬんた。いいか、叔母さ 「ところで」と、ウェッスンは歩きながらいった。「階上でやつがんーーー何千万、何億の人間が死ぬ。それはあんたのせいだそ。わか どんなふうに横になっているか、言いあててやろうか。頭があつるか、叔母さん、あんたのせいなんだそ」 ち、尻尾がこっちだ。当ったろう ? 」 「ああ、どうかやめて」声がいった。しばらく間をおいて、スクリ : ええ」 ーンがほんの一瞬だけ、パッとともった。ウェッスンの目にとびこ ウェッスンは歩みをはたと止めた。訴えるように、「そこまで教んだそれは、なにか巨大でくろぐろとして、しかも半透明な、拡大 えてくれるのなら、ついでにやつがどんな姿なのか、知らせてくれされた昆虫のような姿だったーーー表現のすべもない絡まりあった 脚、鞭のような繊毛、かぎ爪、翼 : てもいいだろう ? だめかい、叔母さん ? 」 彼はコンソールの縁でようやく体を支えた。 、え。ええ。それは許可されていないのです」 「ねえ、きいてくれ叔母さん。おれがあの異生物の魂胆を探り出さ「だいじようぶですか ? 」ジ = ーン叔母さんがきく。 「あたりまえだ ! おれをなんだと思ってる ? あんなものを見た ないかぎり、人類は破減なんだぜ。それを忘れないようにな」ウェ ッスン・は廊下の壁にもたれ、じっと上を見あけた。「やつは寝がえぐらいで死ぬと思うのか ? 見せてくれ、叔母さん、もういちど見 せてくれ ! りを打ったそーーーこっちむきに。そうだろうが ? 」 「さあいえ、やつはほかにどんなことをしてる ? さあ、叔母さ不本意そうに、スクリーンがともった。ウェッスンはそれを見つ ん、教えてくれ ! 」 め、そして見つめつづけた。もぐもぐとロのなかで呟いた。 間。 「え ? 」とジェーン叔母さん。 いのち 「彼はなにかを震わせていますーーこ 「わが愛する生命、忌わしきなんじよ」ウェッスンは目を凝らしな 「なにをだ ? 」 がらいった。ようやく腰を浮かせ、目をそらせた。廊下へよろめき 出てからも、異星人の映像は頭から去らなかった。それは地球にう 「それにあたる言葉がありません」 「えいくそ、ちきしよう」ウェッスンは頭をかきむしりながらいつようよといるすべての忌わしい生物、這いずりうごめくものを連想 た。「むろん、そういう わけだ」居間に駈けこむと、コンソールをさせるーーーそうわかっても、別に意外ではなかった。なぜ彼が異星 わしづかみにして、スクリーンをのそきこんだ。金属部分をなぐり人を見ることを許されなかったか、というより、異星人がどんな姿 つけながらどなった。「どうしても見せてもらうそ、叔母さん。さをしているかさえ知ることを許されなかったわけが、それではじめ

10. SFマガジン 1968年7月号

すすった。風通しの悪い席で、前にいた客のにおいがたちこめてい くるまみち ワイン気違いだな、と彼は思った。つかのま、酒場のプライ 彼はべイビーを車道からバックさせると、郊外の道路から街なた かの大通り〈と車を乗り入れた。そうしながらも、なぜ旧式の学校。 ( シーなど存在しなか「た昔のことが頭にうかんだ。その時代に は、酒場ではほかの客たちと肘をくつつけあわせて飲まなければな 教師にそれほど惹かれるのか、何回も何回も自分に問いかけてい た。たんなるノスタルジアではない。だがノスタルジアも、その一らず、誰が何を飲み、どれくらい酔 0 ているか、まわりからまる見 えだったのだ。やがて彼の心は、ミス・ジョーンズのことに戻っ 部ではあるーーー九月、そして本物の学校、そして九月の朝の教室、 そしてベルが鳴ると同時に黒板のわきの小部屋から先生が現われた。 る。そしていう「おはよう、みなさい。よい天気だこと。さあ、今給仕マシンの上部には小さなテレスクリーンがあり、下に文字。 バーテンダーの〈相棒フレッド >•にダイヤルを トラブルですか ? 日もしつかり勉強しましようね」そのすべてへのノスタルジア。 といっても、ほかの子供と比べて、それほど学校が好きだったわ合わせましようーー・悩みごとをきいてくれますよ ( 三分間たったり けではない。そして彼自身、本や秋の夢のほかに、九月には何かが二十五セント ) 。ダンビーは硬貨スロットに二十五セントをおとし た。かすかなカチャリという音がして、いま入れた二十五セントが払 あることに気づいていた。それは、彼が成長の途中で失ってしまっ い戻し口にころがり落ちてきた。そして相棒フレッドの録音された た何か、言葉にはいいあらわせない、かたちのない何かを意味して 声がいった。「今ちょっと忙しいんだ。あと一分ほどで行くからな」 いた。そして、その何かを、彼はいま非常に必要としているのだっ もう一杯のビールと一分の後、ダンビーはもう一度試した。今度 オートモビレット は、 2 ウ = イ・スクリーンが明るくなり、相棒フレッドの。ヒンク色 せかせかと走りまわる豆自動車をよけながら、ダンビーはべイビ 〉の店があるわきののあごをした陽気な顔が、ちらちらしながら現われた。「よう、ジ ーに乗って大通りを走った。〈相棒フレッド とうだい ? 」 道へと曲ると、角に新しい店が建ちかけているのに気づいた。大きヨージ。。 「まあまあだよ、フレッド。まあまあだ」 な看板には、こう出ていた。キングサイズ炭焼きホットドッグ 「しかし、もうすこしなんとかなったほうがいいんだろ、え ? 」 本物のホットドッグを本物の火であぶって食べよう ! 近日開店ー 〉の店のわきの駐車場に車ダンビーはうなずいた。「お見通しだね、フレッド。お見通しだ」 彼はそこを通りすぎ、〈相棒フレッド を乗り入れると、春の星がきらめく空の下に出、横のドアからはい彼は、ビールがポツンと置かれているカウンターに目をおとした。 「じつは : : : じつはね、学校教師を買ったんだよ、フレッド」 った。なかは混みあっていたが、あいた小部屋が見つかった。はい 「学校教師たって ! 」 ると彼は、給仕マシンに二十五セント貨を入れ、ビールにダイヤル 「それは、変なものを買ってしまったことは認める。しかし子供の をあわせた。 汗をかいた紙コップが現われた」彼はゆううつな気持でビールをテレ勉強の助けにすこしはなるだろうと思ったんだーーーテレテスト 7