」 0 はイガチにおけるすべての結婚式が行われる所であり、その彼方にあ ! 」 カタガはうやうやしく呟いた。 は美しく彩られた海がひろがっていた。 メレは叫んだ。 メレはイガチで一番の美しい娘だった。そのことは老僧だって認 「村に知らせましよう , めている。彼女は人生に劇的なものを求めていた。だが村の生活は プログはさっと動いて地面に爪先をつき立てた。 単調に続き、いまは二つの熱い太陽に肌を焼かれながらフラグの花 「待ってくんろ : : : おらが最初に見つけただ。わかってるたろな をつんでいるだけなのだ : : : それは、ひどく不公平なことのように 田 5 えた。 メレはじれったそうに言った。 彼女の父親は鼻歌を口ずさみながら精力的にフラグを集めてい た。フラグの花はもうすぐ村にある大櫛の中で発酵するのだ。老僧「もちろんそうよ」 プログはなおもあとを続けた。 のラグは醸された酒に向かってもっともらしい言葉を呟き、それ 「じゃあ、おらが最初に見つけただから、村にとって大切な仕事を から神酒がサングーカリの神像の前に注がれる。その儀式が終る と、村全体が大をも含めて素晴しい酔っはらいぶりに突人するのしただから : : : つまり、べつにおかしかないと思うだ : : : そうは思 わないだか・ : プログは、すべてのイガチ人が求め、そのために働き祈り続けて その想いが仕事の手をより速くさせた。それにカタガは、自分の いることを欲したのだ。それはカタガのように頭の良い男が密かに 名声をたかめるためこっそりと危険な計画を考え出していた。それ 考えることだ。だが、その求めていることの名を口にすることは無 を考えてみるのはひどく楽しいことだった。 遠慮に過ぎるように思われた。しかしメレと彼女の父親にはわかっ プログは腰を伸ばして腰布の端で顔をふき、雨が降ってこないか と頭上を見上けた。 「おまえどう思う ? 」 「見ろや ! 」 と、カタガは尋ね、メレは答えた。 と、かれは娘鳴っこ。 「かれ、少しはそれだけの値打ちがあると思うわー カタガとメレは、上を見た。 プログは両手をこすり合わせた。 「あそこ ! あそこ、あそこだで ! 」 メレ ? あんた、それ自分でやってくれるだか ? 」 「そうかい と、プロックは悲鳴のような声を出した。 大空に銀色の点が、赤と緑の烙にかこまれてゆっくりと降りてく メレは一一 = ロった。 「でも、それはみなお坊さまが決めることよ」 る。見ているうちにそれは大きくなり、光り輝く丸い球となった。 。フログは懇願した。 「お告げのとおりだ ! やっと : : : 何百年も待ちつづけたあとにな 3
は気がついてもがき始めた。 商人のヴァシは締めくくりをつけた。 「あきらめるな、親爺さん」 「あんな男は、死ぬ値打ちもないさ ! 」 ハドウエルはあえぎながら叫んだ。川 岸は飛ぶように過ぎていっ ハドウエルは村人の全部が一時的な狂気に陥ったのかと不思議に た。 ( ドウ = ルは十フィートのところまで近づいた。だが、また流思った。かれはちょっとよろめきながら立ち上がって、老僧に尋ね かけた。 れがかれを川のまん中へ押しやり始めた。 最後の力をふりしぼってかれは頭上に伸びていた枝をつかみ、ー 「いったいこれは何のことです ? 」 の流れがかれにぶつかり押し曲げるのに耐えていた。しばらくして 悲嘆にくれた目つきをし色青ざめたラグは、唇をきつく締めてか から老僧に率いられた村人たちょ、 : 。 , トウ = ルとカタガを安全な岸れを見つめ、答えようとしなかった。 アルテイメイト へ引きずり上げた。 「ぼくは最高の式を受けられないんですか ? 」 ハドウエルがその声に哀れっぽい口調をこめて尋ねると、老僧は 二人は村へ運ばれた。やっと普通に息ができるようになった ( ド 答えた。 アルテイメイト ウエルは、身体の向きを変えてカタガに弱々しく笑いかけた。 「あなたはそれに値いする人だ : : : 最高に値いする人があるとす アプストラクト・ジャスティス 「危いところだったね、親爺さんー れば、それはあなただよ、 ハドウエル。理想上の裁きという点か 「このおせつかいめが ! 」 ら見れば、わしはあなたが受けて然るべきものと思うよ。だが今度 カタガはハドウエルに怒鳴って、よろめき去っていった。 の場合、理想上の裁き以上のものがからんできた。サングーカリの ハドウエルは目を丸くしてその後ろ姿を見送った。 名に於いて崇めるべき慈悲と憐れみの原則があるのじゃ。この原理 アルテイメイト 「頭がどうにかなっちまったんだな : : : さてと、最高とやらにかに鑑みるところ、 ( ドウ = ル、あなたは哀れなカタガを川から救い かり , ・ましょ ) か ? ・ 上げたとき、まことに恐ろしい非人間的なことをしたのだ 9 村人たちは恐ろしい表情を浮かべて、そばへ近づいてきた。 わしもあの行為は許すべからざるものと考える」 アルテイメイト 「へつ ! 最高が欲しいだと ! 」 ハドウエルは何と言っていいかわからなかった。確かに、川へ落 タブー 「あんな男がよお ! 」 ちた人間を救けてはならぬという禁忌があるらし い。だがどうして 「可哀そうなカタガを川の中から引きずり上げたあとで、あいつよ村人たちは、かれがそんなことを知っているものと決めているの くも : : : 」 だ ? どうしてかれらは、村のためにあれだけのことをしたのに、 「自分の義父となる人だぜ。それなのにあいつは命を救けたんだ この小さなことのほうをより重要視するのだ ? かれは哀願するよ うに一 = ロった。 アルテイメイト 「あんなやつに最高だなんて、とんでもねえこんだ ! 」 「何かあなたがぼくにしてくださる儀式はないのですか ? ぼくは 6 2
かかったとき、いちばん太いつるが不思議に切れたのだ。カタガは 何を心配することがあるのだ ? 村人たちがかれに危害を加えたり するはずがないではないか。あれだけのことを村のためにしたあと次のつるをつかもうとしたが、それもほんの暫くしか支えられなか ではないか。 った。村人たちが見つめているあいだに、その両手の力が抜け、離 れ、そしてカタガは川へ落ちていった。 その道具には、疑いもなく何か象徴的な使用法があるのだ。 アルテイメイト ハドウエルはそれを見つめ、ショックを憶えて凍りついたように 「最高をお受けしましよう なった。悪夢のようにはっきりと見たのだーーーカタガの落ちるさま ハドウエルは老僧にそう一一一一口った。 を、その顔に浮かんだすばらしい勇気の微笑み、狂奔し流れる川の 村人たちは叫び声を上けた。その声を限りに叫ぶ声は山々に谺し水、下に見えるとがった岩。 た。かれらはハドウエルの前に押し寄せ、笑顔を見せ、かれの両手それは確実な、恐ろしい死だった。 を握りしめた。老僧は言った。 「かれ、泳けるのか ? 」ハドウエルはメレに尋ねた。 、え。泳ぎを習おうとしなかったの : : : まあ、お父さま ! ど 「儀式はすぐに取りおこなおう。村の中で、サングーカリの神像の うしてそんなことが ! 」 ノドウエルがこれまでに見た何物 ドウエルと花嫁白く泡を噛んで流れる谷川は、、 すぐにみんなは老僧を先頭にして戻り始めた。ハ はこんどはそのまん中だった。メレは式が終ったあといまだに一言よりも、宇宙の空虚さよりも恐ろしいものだった。だが、妻の父親 が危険なのだ。 も口をきいていなかった。 かれは頭からまっさかさまに氷のような水の中へ飛びこんた。 ひっそりと村人たち揺れるつる橋を渡った。そこを渡り切ると村 ハドウエルが近づいたときカタガはほとんど意識を失っていた。 人たちはそれまでよりもハドウエルのまわりにびったりと押し寄 ドウエルがかれの頭の髮をつかんで せ、かれは少しばかり密閉恐怖症のような想いを味わった。この連それはかえって幸いだった。ハ 中の類いない善良さをよく知っていなければ、ほんとに心配になる必死に岸へ泳ぎ始めたときもカタガは暴れなかったからだ。だが、 泳ぎ着くことはできなかった。急流に二人は押し流され、水の中へ ところだなと、かれは自分の心にささやきかけた。 引き込まれ、また水面に押し出された。死物狂いになって ( ドウェ 眼前に村とサングーガリの祭壇が見えていた。老僧はそれに向か ルは最初の岩を避けることができた。だが次々と岩は現れてきた。 って道を急いだ。 そのときとっぜん悲鳴が上がった。村人のすべてが振り向き、橋村人たちは川岸を走ってきて、かれに怒鳴りかけた。 急速に力が衰えかけているのを感じながら、 ( ドウ = ルはまた岸 に向かって走り戻った。 5 に向かって頑張った。水の中に潜っている岩がかれの横腹をこす 川岸で ( ドウ = ルは何事が起こったのかを知った。メレの父親カ 2 タガは行列のいちばん後から歩いてきていた。かれがまん中にさしり、カタガの髮の毛を握「ている手の力が抜けかけた。メレの父親
「お願いだ ! お坊さまはおらなどまだ用意ができていないと思た僧侶が、よろめくような足どりで出てくると止まった。 うかも知れないもの。お願いだよ、カタガ ! あんた、やってく 僧侶ラグは背の高いよぼよぼの老人だ。長年のあいだ神に仕えて きたあと、かれの顔つきは自分が尊崇している慈悲深く微笑む神と カタガは娘のまったく変わっていない表情を見て溜息をついた。 似てきていた。その禿けた頭の上には僧職階級を示す羽毛の冠がの 「すまないな、プログ。もしわしら二人だけだったら : : : だがメレ っており、神聖な黒い鎚矛にぐったりとよりかかっていた。 はひどく真面目なんでなあ。お坊さまに決めてもらおう , 人々はかれの前に集まった。プログは老僧のそばに立って期待す プログは、ひどくがっかりしてうなずいた。頭上の輝く球体はずるように両手をもみ合せていたが、その褒美を無理に求めることは っと低くまで降下しており、村の近くにある平たい野原に向かって恐れていた。 いた。三人のイガチ人はフラグの花をつめた袋をまとめて家へ戻ろ老僧ラグは話し始めた。 うとした。 「村の衆よ : : : イガチの里に伝わる古えの予言は、、 しまや現実のこ かれは、激しく音を立てて流れる谷川にかかったつる橋までやっととなった。古えからの伝説が告げていたとおり、大いなる輝く球 てきた。カタガは、まずプログを、次にメレをやった。そのあとに は天から落ちてきたのじゃ。その球の中には、わしらのような人が かれは続き、腰布に隠していた小さなナイフを取り出した。 おり、その人こそサングーカリの御使者であろうそ」 考えていたとおり、メレとプログは振り向いたりしなかった。二村人たちはうなずき、その顔を輝かせていた。 人は危つかしく揺れる吊り橋の上で・ ( ランスを保つことに夢中だっ 「その御使者は偉大なる物事をするお人なのじゃー かれはこれま なにびと たのだ。カタガは橋のまん中までやってくると、最も重みを支えてで何人も見たことがない役立っことをしてくれるのだ。そしてかれ いるつるの下へ指を走らせた。そしてすぐ、何日か前に見つけておがその仕事を完成し、休息をとることを宣言したとき、かれはその いた傷みかけている場所に触れた。急いでかれはナイフをその場所褒賞を期待するのだぞ」 に走らせ、繊維がはじけるのを感じた。あと一度か二度ナイフを走ラグの言葉は心にしみこんでくるようなささやき声になった。 らせたら、つるは重みを支えきれずに切れてしまうだろう。 「この褒賞こそ、イガチの里に住むすべての者が求め、渇望し、祈 たが、いまのところはこれで充分だ。カタガは満足してナイフをることだ。それこそサングーカリが、神と村に心から奉仕する者に 腰布に戻すと、プログとメレのあとを追って急いだ。 許される最後の御命令なのだ」 老僧はプログのほうに向いた。 訪れてきたものの = 、ーズに村は活気づいた。男や女は偉大な出「プログよ、そなたは御使者が来られるのを見つけた最初の者であ やしろ 来事を話しあって急ぎ足に右往左往し、〈道具の社〉の前では即興った。そなたは村のためによく奉仕した」 の踊りが始まった。だがそれも〈サングーカリの寺院〉から年老い 坊さんは両腕を上げた。 っちなこ 4
「村の衆よ ! みなはプログが求めている褒賞を与えられるべきも カタガはうらやましそうに呟き、メレは父親の腕をつかんだ。 のと思われるかの ? 」 「心配しなくていいのよ、父さん。いっかは父さんも御褒美をいた 村人たちのほとんどは、そうあるべきだと感じた。だが金持の商だけるわ」 カタガはうなずいた。 人ヴァンは眉をひそめて前に進み出た。 : ど : 、よっきりそうなると一 = ロえるか ? ・リ 「それは公正なことではありません : : : わたしたちはみなそのため「わしもそう祈るよ : に何年ものあいだ働き、お寺に大層な値打ちのある貢ぎ物をしてきイイのことを考えてみろ。あいつ以上に信心深くて気立てのいいや あた ました。プログは、いちばん低い褒賞を受けるにも値いしないほどっはいなかった。あの可哀想な老人は一生のあいだずっと苦しい死 何もやっておりません。それにかれは、生まれ卑しい者なのですに方をすることを祈って働き続けてきた。どんな種類のものでもい 苦しい死に方であればと。ところが、どうなった ? あいつは そ」 眠っているあいだに死んじまったんだ。あれは人間として何という 「正に的をついた言葉じゃ」 と老僧はうなずき、プログはみんなの耳に聞こえたほどのうめき死に方だったのだ ? 」 「何ごとにでも二、三の例外はあるものだわ」 声を出した。老僧ラグは続けた。 カタガは一 = ロった。 「だがしかし : : : サングーカリのお恵みは高貴の生まれの者にのみ 与えられるものではない。最も卑しき自分の村人もそれを望むこと「ほかに十人も名前をあげられるんだそ : : : 二十人もだ ! メレはなだめた。 ができるのじゃ。もしプログがその行為にふさわしい褒賞を受けな 「そんなこと心配するもんじゃないわ、父さん。父さんがプログみ ければ、ほかの者が希望を無くしはしまいかの ? こ 人々は声高く賛成の言葉を叫び、プログの目は感謝にうるんでい たいにきれいに死んでいけること、わたしにはわかってるわ」 かれの目は輝いた。 「ひざまずくのだ、プログよ」 「そうとも : : : でも、プログのは実にあっさりした死に方だったと 老僧はそう言い、その顔は親切さと愛情に輝いたように見えた。 思わないか : : : わしが望むのは何かこう本当に大きなことだ。ひど プログはひざまずいた。村人たちは息をつめた。 く苦しく、複雑で素晴らしく、御使者の人が受けるようなものなん っちほこ ラグは重い聖なる鎚矛をかかげ、そのカのすべてをこめてそれをだ」 メレは視線をそらせた。 プログの頭に振りおろした。それは見事なひと振りであり、正確に 「そんなこと、自分にふさわしくない出すぎたことだわ、父さん」 当たった。プログは崩れ伏し、一度だけもがき、死んでしまった。 「そのとおりだ。ああ、でも、いっかは : その顔に浮かんでいる表情はまことに美しいものだった。 ーつかはた ! 聡明で勇気 かれはひとりほくそ笑んだ。本当こ、、 「なんて素晴らしいんだ : : ・こ 5
二度と別の死に方を用意したりせず、よぼよぼの老人になってからで伝えられた歴史のすべてに、ただの一度も戦いはないのだ。かれ 寝床の中で静かに羊のようにぶざまに死んでいったはずなのだ。 らは単にそんなことを考えることもできないのだ。次のような実例 2 だか、いまとなってはもう手遅れだった。あの農夫は自分で死をを述べてみよう。 たぐ 作り出し、もうロックチャンギの翼に乗って行ってしまったのだ。 わたしは類い稀な娘メレの父親であるカタガに、戦争なるものを ごしよう イグライの後生を罰してくれと神に願うことも無駄だ。あいつはも説明しようとした。かれは頭をかいて尋ねた。 う自分を弁護できる場所にいるのだから。 『大勢が大勢を殺す ? それが戦争ですか ? 』 ラグは尋ねた。 わたしは答えた。 「だれかあの男がこの木を鋸で引いていたのを見た者はいるのか 『まあそういうことさ。何千人もが何千人もを殺すんだ』 な ? 」 カタガは一 = ロった。 もし見た者がいたとしても、それを認めなければいいのだ。村人『すると、大勢の人が同じ時に、同じ方法で死ぬのですか ? 』 『そのとおりだ』 たちは返答に詰まってしまったのだと老僧にはわかった。かれらが 小さな子供のころからラグは信仰心を教えこんではいたが、かれら かれはそのことを長いあいだ考えてから、わたしを見て言った。 は何とかして僧職者たちの鼻をあかせようとしてきた。 『多くの人が同じ時に同じ方法で死ぬ、それよくありません。満足 いつになったらかれらにはわかるのだろう。自ら働いて克ち取できないことです。どの人も、それそれ自分なりに独立した死に方 り、それに値いするものとされて、戒律に従ったすべての儀式ととで死ぬべきです』 もに行われる死に比べると、正しいと認められない死に方など全く 考えてみろ、文明社会の人々よ、その返答の信じ難いほど素朴 満足できないものなのだということを。 さを。そして、その素朴さの下にある考えるべき真実さ、われわれ 老僧は溜息をついた。生はときに重荷となってくるものだ。 が見習うべき真実さを考察すべきではなかろうか。 それにまた、これらの人々はおたがいの間で口論することなく、 一週間後、 ハドウエルは日記に書いた。 流血の不和なく、激情による犯罪なく、殺人が存在しないのだ。 〃これらイガチ人のような種族はこれまで見たことがない。わたし わたしの達した結論は次のとおりだ。これらの住民のあいだに、 はいまやかれらのあいだで暮らし、かれらと共に食い、かっ飲み、 ひどい死に方というものは知られていないーー・もちろん、事故の場 かれらの儀式を観察した。わたしはかれらを知り、そして理解し合を除いてはだが。 た。かれらについての真実はどう考えてみても驚くべきものだ。 この地において事故があまりにも多く発生し、そのほとんどが致 つまり、イガチ人は戦争ということの意味をも知らないのだー 命的なものであることは残念なことだ。だが、わたしの見るところ 考えてみてはどうだ、文明社会の人々よー かれらの記録されロ伝これは、この地の環境の荒々しさと住民たちが気軽で無頓着な性質
を持「ていることに帰せられる。そしてまた当然のことながら、そて彼女は ( わたしの飜訳が正しければだが ) 何だか最高とかいう れらの事故が気づかれず調べられずにすまされることもないのだ。 ことを含む儀式のことを言うのだ。 わたしがかなり親しくなった僧侶は、事故がよく起こることを悲し だが、わたしはもうたつぶり仕事をした。少くとも一年か二年の み、絶えずそれに手を打っている。常にかれは住民たちにもっと注あいだは、これ以上働くのは御免だ。 アルテイメイト 意深くあれとすすめているのだ。かれはいい男だ。 この最高の儀式は、われわれの結婚式の直後に行われることに それからここにわたしは、最後の、何よりも素晴しいニ、ーズをなっている。わたしの考えるところそれは、ここの単純な人々がわ 書こう〃 たしに与えようとする何かの高い栄誉のような物だろう。わたしは ハドウエルは意識したように微笑し、ちょっとためらってから、喜んでそれを受けることを示した。 手帳にもどった。 それは実に興味あることだ〃 〃メレはわたしの妻になることを承知した ! わたしがこの本のこ の章を書き終るとすぐに儀式は始められるのだ。すでに祝いの催し結婚式のため、村じゅうの人が老僧に先導されて尖塔のもとへと は始まっており、祝宴の準備が整えられていゑわたしは自分を最行進した。イガチにおける結婚式はすべてそこで行われるのだ。男 も幸せな男だと考える。それほどメレは美しい女性なのだ。そしてたちは祭典用の羽根飾りをつけ、女たちは貝殻の宝石や真珠色をし また、最も普通でない女性だ。 た石で装いをこらしていた。その行列のまん中にいる四人の大きな 彼女は大変なまでの社会的良心を持っている。どうも少し多過ぎ村人は、奇妙な格好をした道具を運んでいた。 ( ドウ = ルはちらり るぐらいだ。 , 彼女はわたしに絶えず、村のためになることをやってと見ただけだったが、それが何かの神社のように思われる素朴な里 い屋根の小屋から、退屈な儀式をやって持ち出されたものだとわか くれとせき立ててきた。そしてわたしは多くのことをやり遂げた。 かれらのために灌漑網を完成し、何種類かの急速に成育する穀物をつた。 紹介し、金属加工の職業を教え、その他ここに書ききれないほどの 一列になってみんなは、危つかしく揺れるつる橋を進んでいっ 多くのことをやった。それなのに彼女はわたしに、もっとやれもっ た。いちばん後ろについていたカタガはにつこりと笑い、傷んでい とやれと求めるのだ。 た場所にまたこっそりとナイフを走らせた。 だがわたしは断固として心を決めた。わたしも休息を取る権利が尖塔は海の上へ細く突き出た黒い岩だった。ハドウエルとメレは あるのだ。わたしは長いのんびりした蜜月を送り、それから一年かその端に立って、老僧に向かいあった。村人たちが静まりかえる そこら日向ぼっこをしながら本を書き上げたいのだ。 と、ラグは両腕を上げた。 メレにはこのことを理解するのが難しいようだった。彼女はわた「おお、偉大なるサングーカリよ ! しに、村の人々を助け続けなければならぬと説き続けるのだ。そし老僧は叫んだ。 3 2
賛成の叫び声が上がり、トガラは言った。 保っていられないんだから。でも、サングーカリの御使者なら、だ 「ほいでさあ、あのお人が悲鳴を上げとられるあいだじゅう、祭りれよりも規則どおりやれるのはもちろんだわ。 の太鼓を叩いてるがええだ」 「いつごろ始まるんだい ? ヴァシは言った。「それであの人のために踊りをやるんだ」 かれは尋ね、メレは答えた。 カタガもつけ加えた。「そして盛大に飲み酔っぱらおう [ 「一時間のうちによ」 すべての村人が、それは羨ましいほどの死に方になろうと同意し これまでのところ彼女は ( ドウ = ルに対して自由に率直に何でも 話せた。だが、いまや彼女の心は重く圧迫されていた。メレにはな こうして最終的な詳細が決められ時間も定められた。村は興奮とぜだかわからなか 0 た。恥ずかしそうに彼女は ( ドウ = ルの色鮮か 信仰の喜びに湧き立「た。小屋のすべてが花で飾られたが、〈道具な異国の服装と、その赤い髮の毛を見た。 やしろ の社〉だけは当然、むき出しのままにしておかれなければいけなか「楽しいことだろうな。そうとも、すごく楽しいに決ま 0 てるさ、 った。女たちは死の祭典の準備をしながら笑い歌った。ただメレだ ハドウエルは嬉しそうにそう言い、その声は消えていった。目を けは、どうもわけのわからぬ淋しさを覚えていた。首うなだれた彼落とすとそこには美しいイガチ娘の姿があ 0 た。かれはその頸と肩 女は村を歩き、その向こうにある丘をゆっくりと登り、 ハドウエル の清純な線を、彼女のまっすぐに流れる黒髮を眺め、かすかに匂っ のもとに向かった。 てくる香袋を身体に感じた。かれは心がたかぶってきて、草の葉を 弓つばっこ。 ( ドウ = ルは腰のところまで裸になって、二つの太陽の下で日向「メレ、・ほくは : : : 」 ぼっこをしていた。 その言葉はかれの唇でとまった。とっぜん、驚いたことに彼女は 「やあ、メレ。太鼓の音が聞こえたが、何か始まるのかい ? 」 かれの両腕に入ってきたのだ。 メレはかれのそばに腰をおろしながら答えた。 「ああ、メレ , 「お祭りがあるの : 「ハドウエル ! 」 「そいつは素敵た。・ ほくも行っていいんだろう ? 」 彼女は泣き声を上け、かれにしつかりとかじりついた。だがまた メレはかれを見つめて、ゆっくりうなずいた。彼女の心はそれほ急にメレは身体をふりほどき、心配そうな目付きでかれを見た。 どの勇気を目のあたりにしたことで溶けていった。御使者は古代儀「どうしたんだい、メレ ? 」 式をそのまま守っていられるのだ。つまり、男というものは自分自「 ( ドウ = ル、何かもっとほかにないの、村のためにしてくださる 身の死の祭典など何も関係のないことだというような態度を取るつ ことは ? 何でもいいから : : : 村の人はとっても有難く思うわー てことだ。、この頃の男たちときたら、当然必要とする泰然自若さを ハドウエルはうなす - いた。 8
「この〈ドウ = ルに祝福あれ、あなたさまの使者として大空の彼方老僧ラグは言 0 た。 から輝ける乗物で降り来たり、これまでのいかなる者も及ばぬほど「六百年ものあいだ、これが〈道具の社〉から出されたことはなか 2 にイガチの里に力を尽してくだされた人に。そしてまたあなたの娘 0 た。ただひとりでイガチの人々を破減から救「た英雄神ブクタト メレにも恵みをたれ給え。この娘に良人の思い出を愛することを教の時代から、絶えて久しか「たのじゃ。だがいま、これはあなたの え給え : : : そして、われらが種族の信仰に強く残らんことを」 ために取り出されたのだよ、 ( ドウ = ル ! 」 老僧はメレをじ「と見つめた。すると顔を高く上げたメレは、目「そんな、ぼくにはそんな値打ちはありませんよ、 には目をといったような視線を向けた。老僧は言った。 ( ドウエルはそう言い、顔を赤く染めてみせることに成功した。 「ここにわたしは宣言する。そなたたちが、良人と妻であることそのような謙虚さに対して群衆から呟きの声が上がり、老僧は熱 をー 心に一一一一口った。 ( ドウ = ルは妻を両腕に抱きしめて接吻した。人々は喚声を上「わしを信じなされ : ・ : ・あなたにはその値打ちがあるのだ。あなた アルテイメイト げ、カタガはひそかな微笑を浮かべた。 は最高を受けられるかな、ハ ドウエル ? ・ 老僧はこれ以上優しくは言えぬといった声を出した。 ハドウエルはメレを見た。 , 彼女の愛らしい顔に浮かんでいる表情 「さてと : : 。あなたによい知らせがあるのだ、 ( ドウ = ル。偉大なが何を意味しているのか、かれにはわからなか 0 た。かれは老僧の る知らせじゃ ! 」 静かな顔を見た。群衆は恐ろしいほど静まりかえっていた。ハドウ 「ほう ? ー ( ドウエルはしぶしぶ花嫁を離した。 = ルはその道具とやらを眺めた。その格好はどうも気に入らなかっ アルテイメイト 「わしたちはあなたを見てきた。そして、あなたこそ : ・ : ・最高のた。疑惑がかれの心に忍びより始めた。 名に値いするものだと決めたのじゃ ! 」 ここの人々を誤って判断していたのたろうか ? その道具は大昔 老僧の言葉に ( ドウ = ルは答えた。 に拷問のため用いられていた物にちがいない : : だが、その他の物 「それは、どうも」 は何のためだ ? じっと考えた ( ドウ = ルは、それらがひょっとし 老僧は合図した。四人の男が ( ドウ = ルのさきほど見かけた奇妙て使われるかも知れない目的をいくつか思い浮かべてみた。かれは な道具を引きずり上げてきた。いまそれを見てみると、何か古めか身震いした。 しい黒い木で作られた大きなべッドほどある壇だった。その枠に結群衆はかれのすぐ前にじりじりと詰め寄ってきていた。かれの背 びつけられているのは、色々なとげ、鉤、鋭く磨ぎすまされた貝後には細く突き出た岩と、そこから下千フィートに波のくたける海 殻、針のようないばらだ。まだ酒の入れられてないカップもいくつがあった。 ( 。 トウエルはまたメレを見た。 かあった。ほかにも奇妙な形の物があったが、 ( ドウ = ルには何の彼女の顔に現れている愛と献身の想いに見間違いはなかった。 ためのものかわからなかった。 村人たちを眺めたかれは、自分に対するかれらの好意を覚った。
もうらく ヒューマ / イ のある男というものは、年老いた坊さんが耄碌しかけた心を決めて ″ここにいる人々は美男美女、淡い黄褐色の肌、容姿優れた地球人 ド・レース くれるまで待ったりせずに、事態を自分の両手に握り、自らすさま類型種族だ。かれらは花東と踊り、そして喜びと感情をいろいろ現 じい死を向かえられるよう用意するのだ。それを異端と呼ぶなら呼わしてわたしに挨拶した。わたしはかれらの言語を催眠学習し、ま べ、人間は望むとおりに苦しくむごたらしく死ぬ権利があるのだもなくここがずっと故郷であったかのように感じてきた。かれらは うまくやり遂げられればだが、とカタガは自分の心にささやい気軽で、笑いを好む人々であり、優しく丁寧であり、自然に近い状 態で清らかに暮らしている。文明開化された連中にとってここは何 半ば切断したつるのことを考えると、かれの心は満足感で一杯にという教訓であろう ! なった。泳ぎ方を一度も習ったことがなかったとは何という有難い だれもがかれらを愛し、サングーカリに、かれらの敬虔な食べ物 ことだろう。 に心を奪われるだろう。破壊と狂おしい振舞いに天才を示す文明開 「さあ、御使者を迎えにいきましよう」 化された連中がここへやってきて、ここにいる人々が中庸の道から メレはそう言い、二人は村人たちのあとについて球体が着陸した はすれることを望む者は、だれひとりいないだろうみ 平地に向かった。 ハドウエルは先がもっととがった鉄筆を選んで、そのあとを書い リチャード・ ハドウエルは、。、ツトのつまった操縦士用椅子にぐ ″ここにメレという名前の娘がいる : ったりと坐って、額の汗をぬぐった。土人たちの最後のひとりはた かれはその文句を消して書き直した。 ったいまかれの船を離れたところであり、かれらがタ暮の薄明りの ″比べるものがないほど愛らしいメレという名の黒い髮をした娘 中を村へ戻っていきながら歌声をあげ笑い、あっているのが聞こえて が、わたしのそばに近づき、じっとわたしの目をのそきこんだ : いた。かれの船は花東と蜜と酒の匂いに益れ、太妓の音はまだ灰色 の金属の壁から響いてくるようだった。 かれはそれも消し、眉のあいだに深く皺をよせ、何行か心に浮か かれは思い出し笑いを洩らして手帳を取り、鉄筆を一本選び取っぷ文句を書いてみた。 て書いた。 ″彼女の澄みきった茶色の両眼は喜びを約東しているが如く : ″イガチはまことに美しいところだ。堂々とした山々、音立てて流″娘の小さな赤い唇はわずかにふるえ、そして・ほくは : れる谷川、黒砂の浜辺、密林に繁茂する植物、森の空地に立っ巨大″その小さな手はほんの少しのあいだ、わたしの腕にのせられたも のの : な花咲く樹々 : 悪くないな、ハドウエルは自分に向かってそう言った。かれは唇かれは紙をまるめた。五カ月ものあいだどうしようもなく宇宙で を閉じてあとを続けた。 送った独身生活のせいなんた、ます大切な点に戻ってメレのことは こ。 6