ケイヴァー - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1968年9月号
7件見つかりました。

1. SFマガジン 1968年9月号

る理由から、問題の障壁を越えることができなかったのだが、無線ることに熱心な、元気いつばいの青年だったので、これはたいした と電話は両方とも何ということもなく通じたんだな。ケイヴァーは障害にはならなかったんだよ。 反重力の場にじりじりと入って行きながら、彼自身の反応や計器に実際のところ、いささか熱心すぎたんだ。というのは、ドアから 現われた結果をたてつづけに同に送りつづけていたんだ。 入ろうとして足をすべらせ、彼をそこまではこんできてくれた台か らおちてしまったんだよ。 彼の身に最初に起ったことは、予期していたとはいえ、いささか 彼を動揺させたんだな。最初の数インチの間は、反重力の場の外縁それが彼の姿を見た最後だったんだが、彼のたてる音を聞いた最 を進んでいくにつれて、垂直の方向がぐるっとかわるように思えた後ではなかったんだ。最後どころか、彼はその後、実にすさまじい 音をたてたんだ んだ。〃上はもはや空の方ではなく、原子炉のある建物の方にか この不幸な科学者のおかれた立場を考えてみれば、その理由はわ わってしまったんだよ。ケイヴァーには、二十フィート上に原子炉 かるだろう。数百キロワット時のエネルギーが彼の中にそそぎこま のある、垂直に切りたった断崖の表面を押しあげられていくように 感じられたんだ。生れてはじめて、彼の眼と通常の人間的感覚が、 れていたんだよーー彼を月まで、いやそのさらに先まで持ちあけら 彼の科学的訓練と同じことを、彼に告けたというわけさ。彼には、 るだけのエネルギーがね。彼を重力ゼロの地点まで運ぶには、それ 反重力の場の中心が、彼の出発してきた場所よりも高いということれだけの仕事量が必要だったんだ。そして彼が自分を支える手段を が見てとれたんだ。しかしながら、一見何でもないように見えるこ失うやいなや、そのエネルギ—. がふたたび威力を発揮し始めたんだ の二十フィート をのぼるのに必要な膨大なエネルギーと、彼をそこな。先にあげた、非常に真に迫った比喩をまた持ち出すと、あわれ まで押しあげるために消費されなければならない数百ガロンのディ な博士は彼がの・ほってきた高さ四千マイルの山の端からすべりおち ーゼル燃料を思うと、彼としてはいまだにたじろがざるをえなかってしまったというわけなんだ。 たんだよ。 彼はのばるのに丸一日近くを要した二十フィートを転落したわけ この旅自体については、他にお話するようなおもしろいことは何だよ。″その転落のすさまじさよ ! ってわけだ。エネルギーとい にもなかったんだ。そして、出発してから二十時間後に、ついにケう観点からいえば、一番遠い星から地球の表面まで、何の障害物も イヴァーは目的地までたどりついたんだな。原子炉のある建物の壁オしド よ、空司を転落するのとまったく同じだったんだな。それだけ転落 が、彼の傍らにあったーー・彼には、壁のようには見えず、彼がのぼする間に、物体がどれだけの速度に達するかは、みんなも知ってる ってきた断崖から直角につき出している、何の支えもない床のよう だろう。それは最初にそこへ到達するのに必要とした速度と同じ速 に見えたんだがね。そして入口は、よじのぼらなければならない落度なんだ かの有名な脱出速度だな。秒速七マイル、時速にして し戸のように、彼の頭の上にあったんだ。しかし、ケイヴァー博士二万五千マイルだ。 はいかにして自分がこの奇蹟的な状態を作り出したのかをつきとめ ケイヴァー博士が出発点まで戻ってきた時のス。ヒードは、そう 6

2. SFマガジン 1968年9月号

ぎると思ったよ。さて、説明を始めよう。このあくまでも単純な考は、彼らがライフルの弾丸を射ちこんで、その弾道を高速度カメラ え方からはなれないようにしさえすれば、きっとわかるんだ。一つで追った時につかめたんだ。なかなかうまいことを考えるとは思わ の物体を地球から隔絶されたところまで移動させるには、通常の重んかね ? 力がたえず引っぱりつづける力にさからって、四千マイルもそれを次の問題は、この反重力の場をつくり出した原子炉を使って実験 持ちあげるのに等しい量の仕事が必要なんだ。ところで、ケイヴァし、スイッチが入れられた時に、原子炉の内部でいかなることが起 ーの作りだしたエネルギーの圏内の物質は、まだ地球の表面にあるったのかを見きわめることだったんだ。これは実際のところたいへ けれども、無重量なんだな。したがって、エネルギーという観点かんな問題だったんだよ。原子炉は二十フィート先にはっきりと見え らみると、地球の重力場の外にあるのと同じなんだ。高さ四千マイているんだ。しかし、そこまでたどりつくには、月に到達するのに 必要な量をわずかながら上まわるほどのエネルギーが必要だったん ルの山の頂上にあるのと同じに、手がとどかないんだよ。 だからね。 ケイヴァーとしては、反重力圏の外に立って、数インチはなれた ケイヴァーはこの事実をつきつけられても、原子炉の遠隔操作が ところからのそきこむことはできる。しかし、この数インチを横ぎ 不可解な事態に直面しても、落胆しなかった るためには、エヴェレストに七百回の・ほるほどのエネルギーが必要一切きかないという、 なんだ。あっという間にジープがとまってしまったのも、驚くにはんだ。そして、ちょっと誤解をまねきかねないような言葉を使うの を許してもらえれば、そこではすべてのエネルギーが完全に消減し あたらないんだよ。実体のあるものがジープをとめたわけではない んだが、力学上の観点からみると、高さ四千マイルの断電にぶちあており、ひとたび反重力の場がつくり出されたら、それを維持する たったのと同じことだったんだからね。 のには、たとえ力が必要だとしても、それはごくわずかなものであ 必ずしも時間がおそいせいばかりとはいえないような、・ほんやりる、という仮説をたてたんだな。現場で調べてみなければ何とも判 いいんだよ。今いっ断のしようがないことはたくさんあったが、これもその一つだった とした顔がいくつか眼につくようだな。でも、 たことのすべてが理解できなかったら、私のいったことをそのままんだ。そこで、ケイヴァー博士としては、是が非でも、そこへ入っ 信じておいてくれたまえ。それでも、これから話すことを理解するていかなければならないことになったんだよ。 のに支障はないだろうからーーーすくなくとも、私はそうであること彼が最初に考えたのは、電気で動くトロッコを使うということだ を望むね。 ったんだ。反重力の場へ入っていくにつれて、後ろに引きずったケ ーブルから動力の供給を受けようというわけだったんだな。連続十 ケイヴァーは現代におけるもっとも重要な発見の一つを成しとけ たのだということをただちに理解したんだ。どういうことになって七時間働きつづける、百馬力の発電機があれば、平均的な体重の男 力なり時間がかかったがね。そこを一人、この危険な二十フィートの旅に送り出すのに充分なエネル 9 いるのかをつきとめるまでには、、 につくり出された場の反重力的な性質の謎をとく最終的な手がかりギーを供給してくれるものと思われたんだ。時速一フィートとをわ

3. SFマガジン 1968年9月号

どを求めていたわけではないんだ。純粋科学の分野においては、重かられて顔を見あわせたが、ついで、押し黙ったまま、地下の操作 しま室を出て行ったんだよ。 要なことが、それを求めている人によって発見されたことは、、 だかってまずないといっていいんだよーーそこがまたおもしろいと原子炉のある建物はまったくかわっていなかったーーー百万ポンド ころだということもできるんだがね。ケイヴァー博士は原子力を作の分裂性核物質と数年にわたる慎重な設計と開発をつつんで、何の り出すことに関心をもっていたんだ。ところが、彼が発見したの変哲もないレンガ造りの四角い建物は、砂漠の真ん中にどっしりと は、反重力だ 0 たんだな。そして、自分が発見したのが反重力だとたたずんでいたんだな。ケイヴァーは一瞬もむだにはしなか 0 た。 彼はジープにとびのると、携帯用ガイガー・カウンターのスイッチ 力なりの時間がかかったんだよ。 いうことに気づくまでには、、 どうやら、こういうことが起 0 たんだじゃないかと思うんだ。そを入れ、何ごとが起ったのかを調べにかけつけたんだ。 の原子炉は新型の、かなり大胆な設計のもので、核分裂物質の最後二時間ほど後、彼は病院で意識を恢復したんだ。ひどい頭痛以外、 の何本かを挿入すると同時に、爆発を起すかもしれないという可能どこもあまり悪いところはなかったが、その頭痛も、その後の数日 性がかなりあった。そこで、その原子炉はオーストラリアにいくらにわたる実験が彼にあたえることになった頭痛に較べれば、何でも ないようなものだったんだよ。原子炉から二十フィートほどのとこ でもある、そういうことには打ってつけの砂漠で、リモート・コン トロールによって組み立てられ、最終的な操作はすべて、テレビをろまで近づくと、彼のジープが何かにものすごい勢いでぶつかった とおして観察していた、と、まあこういうことだったのじゃないからしいんだな。ケイヴァーは ( ンドルに体をぶつけて、いくつもみ カイガー・カウンターは妙なこと ごとなあざをこしらえていたが、、、 と思われるんだな。 にすこしもこわれていず、また静かにカタカタと音をたてていて、 ところが、爆発は起らなかった、ーー爆発が起っていたら、放射能 汚染でたいへんなことにな 0 ていたろうし、莫大な額の金がむだに通常の状態における宇宙線以上のものは探知していなか 0 たんだ。 遠くから見ると、それはごく普通の事故のように見えたんだよ なっていただろうが、多くの名声が失われるだけで、人命まで失わ 溝にでもおちこんだために起ったような事故にね。しかし、幸 れることはなかっただろう。実際に起ったことは、はるかに予期し いなことに、ケイヴァーはそれほどとばしてはいなかったんだな。 ていなかったことであり、はるかに説明の困難なことだったんだ。 シ ] 。フがっ 濃縮ウランの最後の一本が挿入され、制御棒が引きぬかれ、原子それに、その衝突の現場には、溝なんてなかったんだ。。 炉が臨界点に達するとーーすべての運転がパッタリととまってしまっこんだ相手は、まったく考えられないようなものだったんだよ。 ったんだ。原子炉から二マイルもはなれている遠隔操作室の計器の見えない壁、原子炉をすつぼりと包んでいる半球形のドームの下の 針はすべて、ゼロに戻ってしまった。そして、テレビのスクリーン縁だったに違いないんだ。空に向って投けあげられた石は、そのド は空白になってしまったんだよ。ケイヴァーとその同僚は爆発を待ームの表面づたいに地面まですべりおちてくるし、その壁は、地面 ってしたが、 、 - 爆発は起らなかったんだ。一瞬、彼らは激しい驚きにの下にも、とにかく掘れるかぎりのところまではのびていたんだ .

4. SFマガジン 1968年9月号

も、暗いかげを投げかけてしまうものであり、常連の何人かは、カ速増殖炉の研究にかからせていたんだよーー旧式なウラニューム炉 ン・ハンまでにはまだ二 . 時間もあるというのに、すでに引きあげる素よりもはるかにコンパクトな、いわば飼いならされた原子爆弾だ。 振りを見せていた。 そのグループの主任をつとめていたのは、頭脳は明晰だが、いささ ま というわけで、さすがのハリー・ ーヴィスさえ、これまで〈白かがむしやらなところのある若い核物理学者だったんだな 鹿亭〉で披露したことがないほど言語道断な話をでっちあげて追いあ、ケイヴァー博士とでもよんでおこう。もちろん、本名じゃない : 、非常に適切な名前なんだ。ウエルズの『月世界最初の人間』に 討ちをかけた時も、誰一人、ロをはさんだり、その話の弱点をあば きたてようとはしなかった。ハ ーがわれわれみんなのために、孤出てくる科学者ケイヴァーをみんな思い出すと思うんだよー・・ーそれ いわば、火をもっ に彼が発見した、重力を遮蔽する物質、かのケイヴァーライトな 軍奮闘してくれていることを知っていたのだ て火を制せんとしていたのである。それに、私たちがその話を信じるすばらしいものをね。 ることを期待していないこともわかっていたので ( いつもそうだっ残念ながらわが愛すべきウエルズ老は、ケイヴァーライトの問題 たのかもしれないが ) 、私たちはゆったりとくつろいでたのしんでをあまり掘りさげてはいないんだ。彼にいわせれば、それは金属板 が光をとおさないように、重力をとおさないというんだな。したが 「宇宙船というものの推進法を知りたいのなら , と、ハリーはしゃ って、水平においたケイヴァーライトの板の上においた物はすべ べり始めた。「念のために断っておくけど、私は空とぶ円盤の存在て、重量がなくなり、空間に浮びあがるというわけだ。 を肯定しているわけでも、否定してるわけでもないんだよーー磁力ところが、そうかんたんこよ 冫しいかないんだよ。重量というもの なんていうことは忘れるんだな。重力というものを、まっ先に問題よ、、、、 をししカえればエネルギー、そうかんたんに破壊することはでき にしなきゃならないんだーーー何ていっても、重力が宇宙の基本的なないほど膨大な量のエネルギーなんだ。ほんのちょっとした物体の 力なんだからね。しかし、こいつは一筋なわではいかない力だぞ。重量をなくすためにも、ものすごい量のエネルギーを注入しなけれ 私のいうことが信じられないんなら、ほんの去年、オーストラリアばならないんだな。したがって、ケイヴァーライトのようなタイプ のある科学者の身に起ったことに耳をかたむけたまえ。それがどのの反重力スクリーンというものは、まったくありえないんだーー永 程度の機密事項なのかはっきりしないんで、本来ならば話すべきで久運動と同類なんだよ」 はないような気もするんだが、まあ、万一、ごたごたでも起った「僕の友だちが三人、永久運動をする機械を作ったんですよ」招か ら、私はひとこともしゃべらなかったと誓うから、そのつもりでい リーはそれ れざる客が、むっとしたようにしゃべり始めた。が、、 てもらいたい。 以上はしゃべらせなかった。ただ滔々としゃべりつづけ、その邪魔 ご存じかもしれないが、オーストラリア人ていうのは、科学の研を無視したのだ。 「ところで、わがオーストラリア人のケイヴァー博士は、反重力な 究には昔からかなり熱心だったんだ。で、彼らは一組の科学者に高 6 5

5. SFマガジン 1968年9月号

うすさまじいものだったんだよ。あるいは、さらに正確にいえば、 その誤りを発表しようとも思わない。数学の教科書にあるように、 それが、彼が心ならずも到達しようとしていた速度だったというわ読者のための練習問題として残しておくつもりなのだ ) しかし、私 けだ。しかしながら、彼の速度がマッハ一ないし二をすぎるやいな たちのつきせぬ感謝の的となったのは、真実をわずかに犠牲にする や、空気抵抗がわずかながらものをいいだしたんだな。ケイヴァー ことによって、彼が〈白鹿亭〉を、空とぶ円盤の侵略から守ってく 博士の火葬のための燃料は、人類始まって以来最高のものであり、 れたという事実であった。そろそろカン・ ( ンが近づいており、招か 彼の火葬こそ、海抜ゼロメートルの地点で起った唯一つの流星現象れざる客としては反撃に出るにはおそすぎたのである。 だったというわけだ・ この話のつづきがいささか公平を欠いているように思えるのも、 エンドというわけこよ 残念ながら、この物語はハツ。ヒー 冫。いかなそのためなのだ。一カ月後、誰かが非常に奇妙な出版物を〈白鹿 いんだな。実際のところ、この物語には終りがないんだ この球亭〉に持ちこんできた。それはみごとな印刷であり、レイ・アウト 形の無重力の世界は、一見まるで何もしていないようには見えるにも専門家の腕のさえが見られ、せつかくの技術がこんなくだらな が、事実は科学者と役人の間に次第に高まるフラストレーションの いことに浪費されているのは、見ていても悲しくなった。それは たねをまきちらしながら、いまだにオーストラリアの砂漠にでんと〃空とぶ円盤のお告げ〃と銘うたれ、第一頁に、。 ( ーヴィスの語っ 居坐ってるんだからね。そういつまでも、当局としても、この秘密た話のすべてが詳細にのっていた。それは彼の話をそのまま印刷 を保つことを望むのは不可能なんじゃないかと思うんだ。そして時し、 ( リーにとってさらにまずいことには、名前をあげて、彼の語 ったところと明記してあった。 時、世界一高い山がオーストラリアにあるってのは何とも妙な話だ な、と思うんだよーー・それに、高さが四千マイルもあるっていうの それ以来、彼はその問題について、主としてカリフォルニアの住 に、旅客機がそこにそんなものがあるなんてことも知らずに、その人から、四千三百七十五通の手紙を受け取った。そのうち二十四通 は彼を嘘つきよばわりしており、四千二百五通は彼の話を心から信 真上を飛びこしているっているのはね」 じていた。 ( 残りの手紙は彼にも意味がっかめず、その内容はいま ーヴィスがここで話を打ち切ったと聞いても、読者諸 どに推測するしかない状態である ) 君はまず驚かないだろう。さすがの彼にも、それ以上話をつづけるナ ことはできないようだったし、話をつづけてくれと望むものもいな彼はいまだにこの打撃から完全には立ちなおれないでいるのでは かった。彼にくいついたらはなれようとしない、もっとも手きびしないかと心配たし、彼としてはめずらしく、まともにとられるとは い批評家連中を含めて、私たちはみんな、畏敬の念に圧倒されてし思ってもいなかった話を、人々が信じるのをとめるために、残りの まっていた。その後、ケイヴァー博士のそっとするような運命に関一生をついやすことになるのではないかと思うことが、時々ある。 する彼の話に、私は基本的な性質の誤りを六つ発見したが、その時この話には、一つの教訓が含まれているのかもしれない。しか には、そんなものは、むにうかびもしなかった。 ( そして、今ここでし、私にはどうしてもそれを見出すことができない。

6. SFマガジン 1968年9月号

から よ。原子炉は、どうしてもっきぬけることのできない球形の殻の中わけがないんだ。空気の方は、何とも驚くべき、あくまでも複雑な 心にあるような感じだったんだな。 理由から、この無重力圏内に押しとどめられていたのだが、その理 5 もちろん、これはすばらしいニ = ースだったんで、ケイヴァーは由の解明が、この珍奇なる現象の解明にもつながるわけなんだな。 看護婦たちを四方八方に蹴ちらして、たちまちべッドからとび出し これから先は道が悪くてゆれそうだから、シート・ ベルトをしめ ていったんだ。彼にはいかなることが起ったのか見当もっかなかっといた方がいいぞ。可能性の理論についていくらかでも知識のある たが、それはすべてのもととなった原子力工学の退屈きわまる末梢人なら、理解するのに問題はないだろうし、その他の人々には、私 的な仕事よりは、はるかに興奮をそそるものだったんだな。 ができるだけやさしくかみくだいて説明するように、最善の努力を この、君たち作家ならカの球形とでもよびそうなものが、い 払うつもりだ。 0 たい反重力とどんな関係があるんだ、とみんなもそろそろ考えだ反重力についてペラベラとまくしたてる人は、め 0 たにその言外 しているんじゃないかと思うんだ。で、ここでは何日かとばして、 に含まれた意味というものを考えようとしないものなので、いくっ ケイヴァーとそのグループがさんざん苦労し、オーストラリア産の かの基本的なことを振りかえってみたいと思う。先ほどもいったよ 例の強いビールを何ガロンも飲んだあげくに到達した結論を伝えるうに、重量というものは、 = ネルギーを意味しているんだーーーそれ ことにしよう も大量のエネルギーをね。そして、そのエネルギーは、もつばら地 問題の原子炉は、火を入れられたとたんに、どういう わけか反重球の重力場に起因するものなんだ。一つの物体の重量を取りのそく 力の場を作り出していたんだな。半径二十フィートの球形の内側にということは、その物体を地球の重力圏外に持ち出すということと あるすべての物質はすべて虹董量状態にされ、その作業に必要な膨まったく同じなんだな。それにはどんなに膨大なエネルギーが必要 大な量のエネルギーは、まったく不可解な方法で、原子炉の中のウかといことは、ロケット技術者に訊けば誰でも教えてくれるだろ ラニュームから抽出されたんだ。計算によると、原子炉には、そのう [ 作業にちょうど必要なだけの量のエネルギーが含まれていたことが ハリーは私を振りかえっていった。 わかったんだよ。おそらく、 ・ソースにもっと多くのエネル 「君の本にあった比喩を一つ拝借したいんだがね、アーサー。それ ギーが含まれていたら、このカの球形ももっと大きいものになってを借りると、私の説明しようとしていることがわかってもらえると いただろう。 思うんだ。例の地球の重力との戦いを、深い穴から這い出そうとす 誰かが質問しようとして待ちかまえている気配がわかるので、そる努力にたとえている比喩だ」 の先手を打 0 て答えさせてもらおう。なぜこの無重量の大地と空気「遠慮なく使ってくれ」と、私はいった。「どうせ僕も、あれはリ からなる球形は、空間に浮びあがらないのか ? まあ、大地の方はチャードスン博士の書いたものから借りてきたんだからね , その凝集力によって一体となっているので、ふらふらと浮びあがる「そうか」と、 ハリーは答えた。「君が考え出したにしちゃうます

7. SFマガジン 1968年9月号

ずかに上まわるス。ヒードはあまり自慢できるものとも思えなかった に思えてならないんだがね。実験者たちは、どうころんでもただは が、反重力の場に一フィート入りこむということは、垂直に二百マ起きないつもりだったんだな。科学者としては、実験動物が生きて イル上昇するのに等しいということを思い出してもらわなければな戻ってくれば、もちろんうれしかっただろうし、オーストラリア人 らないんだな。 としては、うさぎが死んで戻ってきても、やはりうれしかったんだ これは、理論的には正しかったんだが、実際にやってみると、こ よ。しかし、ひょっとすると、これは私の思いすごしかもしれない の電動トロッコはうまくいかなかったんだ。反重力の場に向って進な : ・ ( みんなも、オーストラリア人がうさぎっていうものに対し み始めたんだけど、半インチほど進んだところで、スリップし始めて、どんな感情を抱いているかは知ってるだろう ? ) 、 ガーダー ちゃったんだよ。考えてみれば、その理由は一目瞭然なんだがね。 ブルドーザーは何時間にもわたって、大梁と、そのあまり意味の 力はあるんだが、牽引力はないんだからな。車輪を使った車輛が、 ない客の重みを、すさまじい勾配そいに押しあげつづけたんだ。そ 一フィート進むと二百マイルも高くなるような勾配の坂をのぼれるれは薄気味の悪い光景だ 0 たろうと思うんだな , ーー二匹のうさぎ わけがないんだよ。 を、完全に水平な平地を横ぎって二十フィート移動させるのに、こ このちょっとしたつますきも、ケイヴァー博士のやる気を失わせれだけのエネルギーが消費されているんだからね。この実験の主役 るようなことはなかったんだ。この問題を解決するには、反重力のは、作業の間じゅうすっと、はっきりと見えていたんだ。うさぎた 場の外の一点で、牽引力を生み出さなければならないということを、ちは見るからにたのしげで、その歴史的な役割りなどとんと気づい 即座に見てとったんだな。あるものを垂直に持ちあげたいという ていないようだったんたよ。 時、車を使うバカはいないんだ。ジャッキか水圧ラムを使うんだよ。 客室は、反重力の場の中心につくと、一時間そこにとめられ、や こういった論議の結果、世にも珍妙なる車輪が作り出されたんがて、大梁はゆっくりと反重力の場から引きぬかれたんだ。うさぎ だ。一人の男が五、六日はもつだけの食料を積みこんだ、小さいけたちは生きていて、。ヒン。ヒンしていた上に、誰もとくに驚くものは いなかったが、その数が六匹にふえていたんだよ。 れども乗り心地のいい客室が、長さ二十フィートの水平にのびた大 梁の先に取りつけられたんだな。そして、この全体を・ハルーン・タ ケイヴァーは当然のことながら、重力ゼロの場に挑む最初の人間 イヤで支えられ、客室を反重力の場の影響力の外にある機械によ 0 となることを主張したんだ。そして客室に、ねじれ秤 ( て徴小な力を測 て、その中心に向って推進しようという考えだったんだ。しばらく 機 ) 、放射能探知器、それに原子炉にたどりついた時に中がのそけ 考えた後、原動力としては、普通の、あるいは造園用のブルドーザるようにペリスコープを積みこんだんたな。ついで、彼は合図を送 ーを使うのが一番いいだろうという結論に達したんだ。 り、ブルドーザーが活動を始めて、この奇妙な旅が始まったんだ。 そして、客室にうさぎを何匹か乗せてテストが行われたんだよ 当然、客室と外部の世界は電話で連絡がとれるようになっていた 私としては、ここに興味深い心理的な問題が含まれているようんた。通常の音波は、いまだにいくらかはっきりしないところの・あ