しばりつけ、無限の思いをこめた敬礼を送って救命艇と共に船をは なれると、軽くなったトレントン号の方はしすかに動き出す : ずっとあとになって、ウインストンの死体をのせた救命艇は衛星と なって金星のまわりを周回しているのが発見されたのであった。 このビショップという人はアメリカ陸軍の大尉で、 t-n 誌にはこ の一編しか発表していない。 宇宙ものとくれば次は時間ものだが、一一六年の六月号にはマレ イ・ラインスターの処女作『逃げだした摩天楼』尖 The Runaway Skyscraper" がのっている。これはタイム・スリップによってニュ ーアークのビルが時代不明の砂漠のど真ン中に放りこまれるという 作品である。ウエルズの『タイム・マシン』が再録されたのは、第 二年目に入ってすぐのことだが、二六年の十二月号には『時間排除 機』 The Time Eliminator という作品がのっている。要するにあ る一時点の光景を任意に投写することのできる機械のことだが、原 理としてはすでに、光より早く運動するものを使って過ぎ去った光 ロンビア号は無線の受信機が故障のまま出帆しているのだ : を追いかけてつかまえ、これを影像として投写するというアイデア 地上の焦燥をよそにコロンビア号はなにごともなく定時通報をか が現われている。ジャンヌ・ダークを見たりなんかした揚句に、さ かさず送ってくるが、やがて、彗星と接触してぐんぐんひきよせらる陸軍の高官をまねいて、つい先日、アメリカ以外の列強の首脳で れ始める。そして悲痛な電報が途切れ、コロンビア号はついに遭難おこなわれたというパリ 秘密会談の光景をみせてこの発明の軍事的 価値を思い知らせる。 してしまうのである。当然彼は責任を問われ、禁錮十五年の刑をう さっそくボディーガードをつけてやろうということになったとこ けることになる。牢につながれている間に、 コロンビア号のさまざ まな夢をみるところがなかなかよい。そして刑期をおえた彼はひそろで、主人公はいきなりその高官に向ってお嬢さんと結婚させて下 かにまた宇宙船会社に下っ端社員としてもぐりこみ、ひそかに機会さいと申し出る。高官が激怒して、ちゃんと筋を通してプロポーズ を狙う。そしてトレントン号に通信士としてのりこむチャンスをつしてこいと一蹴すると、主人公はやおら件の装置のダイヤルをまわ かむ。出帆ーー・ところがこの船がまた重大な計算ミスから、火星にしてスイッチを入れた。もうもうと砂煙をあけて悪路を走りまくる 到達できず、引力の平衡点に静止したままにつちもさっちもいかなおん・ほろ自動車の上には若い青年男女のカップル、そしてはるかか なた馬車を馳って追跡してくるのは激怒した一人の老人。今を去る くなってしまう。船内は手のつけられぬ混乱状態。 その時、船長に意見を具申したのはウインストンであった。 , ー 彼ま二十二年の昔、フィアンセを掠奪して遁走する高官の若き日の姿で 救命ポー 一隻にトレントン号内の不要な重量物をかたつばしからありマシタ : ( 一五六ページにつづく ) 『思考マシン』の挿絵 0
これは、どのく たく前例のない機会を、シグモンドはえたと思う人もいるだろう。 にかかっていた質問を発することができたんだ。″ 4 多くの人にとってはただの表題でしかない偉大な古典を読破するこ 7 らいの期間つづくんですか ? みと、彼は訊いたんだよ。 教授とアーマは顔を見あわせた。ついで、 ( イミー伯父はいささともできるのだ。美術や音楽や哲学を勉強することもできるし、そ " それはまだはっきの心を、人間の叡智の生んだ至宝で満すこともできる。事実、今現 か神経質に咳ばらいすると、答えたんだな りとはいえないんだ。これからっきとめなければならないことの一在でも、多くの諸君はおそらく彼をうらやんでいるに違いないんだ。 つなんだよ・が、この効果が永久的なものであるということも、大しかしまあ、そううまくよ 。いかなかったんだな。事実は、たとえ いにありうるんだ〃 最高級の頭脳でも、何らかのくつろぎが必要であり、果しなくまじ めな問題の追求をつづけることはできない、ということなんだ。シ ″ということは、僕は二度とふたたび眠れないってことですか ? が グモンドがその後睡眠をとる必要がなかったということは事実だ いや、眠れない、というんじゃないんだ。眠りたくないんだよ。 しかしながら、もしお前がほんとに心配ならば、その効果を逆転さが、長く、空虚な、暗い時間をつぶすために、娯楽が必要だったん せる方法を考えだすことも、おそらくできるだろう。大金がかかるだよ。 文明は、眠ることのできない男の要求に適合するようにはできて がね〃 し子 / し ということを、彼は間もなく発見したんだ。彼がパリかニ つねに連絡を取り、毎日の経過を報告すると約東して、シグモン ドはあわてて帰っていった。彼の頭はまだ混乱していたが、まず細 = ーヨ ] クに住んでいたら、まだいくらかはよかったかもしれない 君をつかまえて、もう二度といびきをかかないってことを納得させが、ロンドンでは、ほとんどすべての店が午後十一時にはカン・ハン こくわずかな喫茶店だ になり、十二時になっても開いているのは、。 なきゃならなかったんだよ。 細君はよろこんで彼の言葉を信じてくれ、感動的な再会とな 0 たけで、それも一時にはーーまあ、その後まだ開いているような店に ついては、あまりしゃべらない方がいいだろう。 わけだ。しかし、翌朝の二時三時となると、話し相手もなくべッド に横になっているのがたまらなく退屈になったので、やがて、シグ最初のうちは、お天気のいい時には、長い散歩で時間をつぶした モンドは眠っている細君の傍らから忍び足ではなれていったんだんだが、何やかやと根ほり葉ほり訊く、疑い深いお巡りに何度か出 会うと、彼は散歩をあきらめちゃったんだ。それで、今度は車を持 な。はじめて、自分のおかれた立場がいかなるものであるかという ほしくもないのにあち出して、丑満時にロンドン中を走りまわって、今までそんなとこ ことが、シグモンドにもわかってきたんだ たえられた、毎日八時間の余分な時間を、これから先いったいどうろがあるのも知らなかったような妙なところを、いろいろと発見し たってわけだ。そして間もなく、みんなが眠っている間に働かなき やってすごせばいいのか ? われわれも時間さえあれば身につけたいと思っている教養を身にゃならないフリート街の新聞記者や印刷工をはじめ、大勢の夜警 つけて、より充実した人生を送るという、すばらしい、実際、ま 0 や、 = ヴ = ント・ガーデン ( 青物や花の卸 ) の運搬人や、牛乳配達と
ップ・ディック 性格が見逃されてしまうことになる。『危険分ない。太陽系開発が順調に進められているあたりの影響だろうか、これがまた一筋縄で な ' ' 』 = = , , な 0 」、そ = = 収近未来 0 物語。。〈 , 「一、民衆 0 英 ~ = 、 録されている小説がすべて実験的な作品ばか雄だが、英雄となるには大ぎな代償を支払わ一般にの欠点といわれる、はじめの部 りであることだ、その意味では作者たちにとねばならない。宇宙空間の放射線が彼らの性分でのえんえんと長い状況説明をい 0 さい排 って今後何年も尽ぎることのない宝庫となる別をなくしてしまうからだ。 , 彼らは少年時代し、さりけなく会話のなかに挿人する手法を にちがいない ( プリッシ、 ) 。そして結論は、 から性を除去されて育てられ、訓練を受けて使っているので、半分あたりまで何が何やら それだけの欠点を持っているにもかかわらいる。その代償のもたらす特権として、休暇さつばりわからない。 ず、現代の生みだした最高の作品がいくになると地球上どこでも大酒を飲み、乱暴の未来語が頻出し、その正確な意味が結末で ドリス、プリッシュ ミラー ) ばらって民家のガラスを割っても、人びとは『・ハベル片・ 』ても『アインスタイン交点』で けつぎよく、このなかからベスト・ノヴ = 「そろそろ出かけたほうがいいんじゃないもぶつかった。読者を引きずっていける語り レットとしてフリツツ・ライ・ハーの「ダイスか」と控え目に忠告するだけだ。 , 彼らのスポロのうまさがあれま、 。しし力、ディレイニーの をころがそう , Gonna Roll the Bones カ : 、ンサーとなるのは、「フレルク . と呼ばれる性場合どうだろう。 ベスト・シ ーリイとしてサミ的倒錯者たち。宇宙〈の憧れが、性的倒錯としかし各書評家がいうとおり、欠点はある エル・・ディレイニーの「永久に、そして結びついたもので、スペースマンと「寝る」 にしても、『危険なヴィジョン』のなかには ゴモラは : : : 」 Aye, andGomr 「が選ためならいくらでも金を出す。「フレルク , 傑作が少なくない。たとえば、キャロル・ = ばれたわけだ。 の部屋は、スペース・オペラや、宇宙やスペムシ = ウイラーのなまなましいセ〉クス小説 ライ・ハーの中篇は、超能力を持っ炭鉱夫が ースマンの写真でい 0 ばいで、片隅には自由 ( もちろん日本の週刊誌小説のような意味で 賭博場でこの世のものとも思われないプロの落下の錯覚を起す特殊な長椅子がしつらえらはない ) 「セ , クス、そして / またはモリス ギャン・フラーとサイコロ博打で戦う話。ス。ヒれている。 ン氏」 Sex and/or Mr, Morrison 、古風だ ーディな密度の高い文章で、読むものをぐい そんな世界を背景に、男でも女でもない一がサスペンス無類の「破壊へのテストー Test ーマー、等々。 アメリカ民話に馴染みがうすいので、主張が出会いを描いたのがこの小説だが、状況の説 = リスンの饒舌を楽しむだけで、大口を信 もう一つビンと来ないうらみがある 明をするのが精いつばいでスト ーリイにまで頼しさえしなければ、決して失望することは 、 0
汗まみれで、荒い、火のような息を吐き、二人はぐったりとべツ人間自体には、限界が見えかけているみたいだわ」 トの上に横たわっていた。 フウ・リャンは、まだこそこそと・ほ くの耳をかんだり、脇腹にそっとロづけして、・ほくの体を。ヒクリと 4 させてたのしんでいた。それからやっと満足したように、その小さ な頭を、そっと・ほくの腕にもたせて、しずかになった。 こうして、話題はまたもや、あのテーマにもどってきてしまうの カーテンはしめてあったが、陽が高くなっていることは、天井に 投げかけられた、明るい光の文様でわかった。 ェアコンがきい 人類って、完全じゃない ていて、汗にぬれた体が冷たくひえてきた。 セックスのあと、ひどく哲学的な気分になるということは、ミナ 「ナハティガルのいってたこと、私にはよくわかるわ・ との場合でもよくあったことだ。 ・ほくらの若いせいだったろ フウ・リャンが天井を見ながらつぶやいた。「あの人と動物の平等 。青春の熱気は、肉体と精神を危険なほど近くむすびあわせる。 論 : : : あなたにもわかるでしよ。だって、東洋人だもの : セックスと哲学、食欲と高貴な詩人の魂ーーーこういったものがすべ 「君は仏教徒なの ? 」 て隣りあわせに、若さという子宮の中につめこまれており、一方が 「そう 中国人だけど、国籍はカンポジアーー・ビルマか、モン・ 昂揚すれば、他方も昻揚し、時には共鳴し、時には気ちがいじみた クメールの血がはいってるのね、きっと : : : あなたの宗教は ? 」 混乱もうみ出す。 シントーイズム 「さあーー・神道だけど、知ってるかな ? 日本の伝統的宗教 : フウ・リャンの細っこい裸体を腕の中にしつかり抱きしめて、・ほ くはナハティガルの語ったことについて考えた。 ーーー腕の中で、 「知ってるわ。アニミズムみたいな祖先崇拝みたいな : ・ : とても不フウ・リャンは、赤ン坊のような、かあいらしいあくびを一つする 思議な宗教ね」 と、心地よさそうに息をつめ、・ほくの上搏に、ことんと頭をおとし 「ミナには、しかし、ショックだったろうな : ぼくは、やや沈て、そのまま眠りこんでしまった。幼児みたいな墜落睡眠だった。 痛な思いでつぶやいた。「ああいう考えは ヨーロッパ , 人にとっ ナカ・ほくはフウ・リャンの体をはなさなかった。そうやっ ては、ちょっと暴力的だろうな」 て、裸で抱きあっていると、べッドも寄宿舎も、大学も文明も消え 「気の毒なミナ : : : 」フウ・リャンは、思いつめたように、小さくうせ、自分たちが密林の奥で抱きあっている、若い原始人になった 叫んだ。「でもーーーでも、ナハティガルのいうことはよくわかるみたいで、ナハティガルが見ている世界が、よく見えるような気が わ。本当に、人間って、それほど大した存在じゃないわね。つくりした。 上げた文明はものすごいけど、文明ばかり巨大化して行って、人間 そこは人間の手がまたふれていない原始林だった。フウ・リ そのものは、それほど昔から進歩していないみたい : 何だか、 ャンの髮にさしていた花より、もっとはげしい芳香を放っ野生の花 ミ」っこ 0 円 4
ようとはしていなかった。彼女の存在は、その時、・ほくからひどく首をかしげていった。「私、ほんとの事をいうと、こわいの。気が 。おとついの晩だって、あのヴィジフォーンの予 遠いものに思えた。とりわけ、べッドの中のやさしく柔かい、淡雪変になりそう : のような肉体、・ほくの腕の中で、かしこく、気のやさしい少女のよ告さわぎがあってから、一睡もできなかったのよ」 ・ほくは、ちょっとおどけていった。「あつい うになってしまう彼女の存在、・ほく自身を、ひどく大きくたくまし「そりや大変だ : い存在に感じさせ、父親が小娘をあやしているような気分にひたしシャワーをあびて、ぐっすり寝るんだね。でないと、君のかわいい てしまう、あのかあいらしい睦言、などといったものからは、はる顔が、この花みたいに、しなびちまうよ , フウ・リャンは、ちらと・ほくの顔を横 彼女が、「母 , の役割りの中「そのシャワーだけど : かに遠い存在になってしまっていた。 , 冫いっそう深く足をふみ入れて行くにつれ、ぼくからはますますから見上げた。「あなたの部屋のシャワー、貸してくださらない ? 私の部屋のは、こわれちまってるのー はなれて行くような感じだった。 しいよ」・ほくは、ちょっとどきまきしながらうな ・ほくは、朝日のまぶしさに眼を細め、ミナのシルエットを遠くに その横から、ふいに甘い花ずいた。「よかったらどうそ : : : 」 眺めながら、ゆっくり歩いていた。 そういってしまってから、・ほくはしばらく・ほんやりして、だまっ の香りがプンとただよってきた。半袖のシャツを着て、むき出しの ままだった・ほくの上搏に、冷たくやわらかく、ペタリとしたものがて歩いた。朝日がやたらにまぶしくて、眼がしょぼしょ・ほした。 ー部屋のドアまできて、鍵をあけた時、突然体の中がカッとあっく 一瞬ふれた。 なってきた。あがっていたのか、フウ・リャンを先にいれずに、自 「体中、べタベタ : : : 」 分が先にはいってしまった。そのままずんすん、・ハスルームの方に フウ・リャンは、仔猫のように、・ほくの傍に身を寄せてきた。 「きっと、・ほくたちいま、べーコンみたいな味がするぜー・ほくは、歩いて行くと、背後で内側からおろすラッチが、カチャリと鳴る音 だが、その時 がした。むろん、フウ・リャンがやったのだ。 傍を見かえっていった。「塩と脂でニチャニチャでねー フウ・リャンは、クスリと笑った。笑うと、また、あの花の香りは、その意味がわからないほどあがってしまっていた。 「ハスタオルは、あんまりきれいじゃないよ」と、・ほくは、ぶスル おとついの晩、ニューヨーク が、濡れ羽色の髮からにおった。 の賢者の研究室で、薬物調合係りからもらった花を、彼女はまだ髮ームの洗面台の上を、大急ぎでかたづけながらどなった。「小さく てもよかったら、新しいのを出そうか ? 」 にさしていた。さすがに花びらが重・ほったく、しなびかけている。 「いいわよ、ありがと」 「いい夢を見たかい ? 」 ニッコリ笑い フウ・リャンは、バスルームから出てきたに ・ほくは、つややかな髮の間でうなだれている花を、ちょっとなお それから、いきなり、背中のマグネットジッパーを、 かけた。 してやりながらきいた。 。ヒュッとはずしてしまった。 「夢など見ているひまがあったと思って ? 」とフウ・リャンは、小
しよう、キース。われわれは、あなたの友であることを望んでいまた。「ほくは、そちらにご迷惑をおかけしないと申しあげました」 彼は言った。「そちらの思い通りにやっていただいてよろしいので 言葉の裏には脅かしがあることは、キースにも分った。ロ端に吸す , いかけの煙草を啣え、彼は大儀そうに眼をあげた。「わたしには敵ウォールズはにつこりした。手入れのゆきとどいた彼の顔から 対的意図などは毛頭ありません。そのことはあなたにも申しあげたは、うれしさが、シ = ーヴィング・ローションのように発散した。 し、たくさんの上院議員や警察のかたがたにもいったことです。わ「わたしたちが友としておっきあいできることは、わたしにはわか たしの言葉を額面通り受けとっていただきさえすればいいのです」っていました、キース。新時代の誕生に微力をいたし得たことを、 ウォールズは、手入れの行きとどいた口元をおだやかにゆがめわたしは誇りに思います」 て、微笑した。「わたしたちは、お互いにおとななのですよ、キー キースは何かを言いだそうとしたが、気を変えてやめた。彼は、 ス。わたしたちには、ほかに考えなければならないもっと重大なこ落ちつかぬ様子で煙草をだし、火をつけた。 とがたくさんある。われわれはこの事柄を、言ってみれば、不動の 一週間とたたぬうちに、キースが大統領と握手している写真が、 ものに定着させてしまわなければいかんのです。あなたは、この惑世界中の新聞に掲載された。大統領はおそろしく深刻な顔をし、キ 星の上の政治情勢について、大体の説明をうけておられゑわれわ ースのほうはひどく若く、それに何か当惑しているように見えた。 れは二つの文明相互の関係を、強固な基礎の上に打ちたてなければ政府はかなり巧みな手さばきでこの問題を扱った。緊張がだんだん ならんのです。どうです、おわかりでしようか ? 」 高まるあいだ、キースは保護のもとにおかれた。世界の人びとは驚 「そうですね : ・ いたり、心配したり、或いはまた、希望をいだいたりした。 「明らかに、それ以外に方法はないのですージョン・ウィリアム・ ニューヨークー ウォールズは、剃刀のようなズボンの折目が乱れないよう注意しな ・タイムズに、次のような簡潔な社説が掲載され がら、その長い脚を組んだ。「われわれがあなたにでき得る限りのた。 礼をつくしたことについて、あなたに異議はないものと、わたしは「ある若者が、いずこからともなく、われわれの惑星に到来した。 思っています。これに対して当然あなたのほうでも誠意を示されて彼が乗ってきた船は、極めて進歩した型のものである。これに比較 よい時機ではないでしようか。われわれは、あなたにとっていただすれば、われわれの有する最も優秀な航空機さえも、幼児の玩具に きたい方向をすでに示したはすです。当方には、あなたにあらゆる等しい。この船を設計し建造した文明が、ほかにも同じ種類の船を 援助をさしあげる意図も能力もあるのです。あなたは決してわれわ設計し建造していることは、充分考えられる。 3 れを失望させるようなことはないと、わたしは信じています」 彼らがわれわれのもとに派遣した使節は、はにかみやの好青年ら 3 キースは、熱心にノートに書きこんだ。彼は命令事項を思いだししく思われる。今なお証拠は充分とはいえないにしても、この青年
かれはたよりなげに顔をなでまわしました。「しかし : : : しかしあなたよりも若く見えたぐらいだわ。眼帯のせいかしら ? 」 かれは肩をすくめて、「もし、きみのここでの存在が、ぼくのむ だね : : : かりにきみが一九七七年からきたとしてもだよ、かりに・ほ こうでの存在の直接的な結果なら、ぼくたちがどうあがいたところ くが一九七七年にマグネトロン発生機を作るとしてもだよ、そいっ へとびこんで一九七七年へ行き、それを作るなんてことはできんで、そのシークエンスは変えられないさ。ぼくはむこうへ行きたく さ。だって、・ほくがその中を通って一九七七年へ行くマグネトロンもないし、ぼくをむりやりに行かせるような、なにが起こるのか、 場というのは、ぼくが一九七七年に到着してそれを発生させるまてんで見当もっかない。しかし、とにかく、ぼくが行き、きみがこ で、一九五七年へビームを逆送できないものなんだ。そいつはまるこへ残されるという前提で、物事を進めるべきだな。いまからその で、最初の開拓者がメイフラワー号をプリマス・ロックで建造した計画をしよう。きみには金が要る。たぶん、このスカイリッジ荘を というぐらい、ばかばかしい話だぜ。それに、ぼくはもうすぐ父親売り払わなくちゃならんだろう。子供が生まれたら、就職したま になる夫だ。その責任をほったらかして逃げだすつもりは、毛頭なえ。速記はできるか ? 」 ヴィデオグラフ 「一九七七年では、音声速写機を使っているの」と、わたしは呟き 「とはいうけれど、もしこのままシーク = ンスが正常に進めば、あました。「でも、心配ご無用よ、うすぎたない色魔さん。たとえ、 なたはわたしを捨てて行ってしまうわ : : : ママのところへ。今夜のあなたが首尾よくママのところへ脱走しても、ベビイとわたしはり つばにやってゆくわ。ます、つぎの土曜の。フリークネス競馬で、あ あなたは、わたしの正式の夫で、いまに生まれてくる子供の父親。 なたの銀行預金をそっくりカウンターポイント号に賭けるわ。それ それが。ヒョンと一跳び、あっというまに一九七七年へ行ってしまう から 妻子遺棄者、女たらし、ママの恋人としてね。そんなことは、 でも、かれの心はもう別のことにとんでいました。「一九七七年 ぜったい起こさせないわ。あんな目にあったあとで、ママにあなた を渡したりするもんですか。わたしを厄介ばらいして、やがてはあにきみはぼくを知ってたそうだがー、、、そのーー、ぼくたちはしたしか なたを一人じめにしようと考えながら、一九七七年でほくそえんでったのかい ? 」 わたしはフンと鼻を鳴らして、「それは、『ぼくたち』にだれを いるママのことを思いだすたびに、血がゆっくりとたぎってくる わ。ああ、わたしがこんな体でなかったら , 声が芸術的なトレモロ含めるかによるわね」 「えっ ? すると : : ・ほくと : : : きみのママが ? : : ・ : まさか : : : 」 になりました。 「ぼくが自然に年とることもできるだろう ? 一九七七年までじ 0 とかれは咳ばらいすると、しきりに首すじをなでまわしました。「き っと、納得のいく解釈がなにかあるんだ」 待って、それから発生機を作ればいい」 「でも、あなたはそうしなかったーーっまり、わたしのいう意味わたしは黙ってせせら笑ってやりました。 かれはくすくす笑いだして、「きみのママはーー。・その は、そうしないだろうということ。一九七七年のあなたは、いまの 一九七 5
ママはほんとうにわたしを愛してはいなかった。骨肉の愛はなかつも、ちゃんとこころえていたのです。 た。たぶん、ぬるま湯のような甘やかしはあったかもしれないけれその夜のことがあってから、わたしはやっと納得がいくようにな ど、わたしへの愛はママの心になかった。それがわかるだけに、な りました。ママの事業である〈明日株式会社〉の屋台骨が、経済 おのことわたしはママを憎み、そしてママの持っすべてを奪おうとや、科学や、政治の最新動向の知識を超えたなにかによって、支え られていることを。 したのでした。 そのなにかとは ? はた目には、きっとわたしたちは奇妙な親子に見えたことでしょ う。ママはわたしの名まえを呼んだためしがなく、人称代名詞さえそれを訊いてみたことはありません。答えてくれるとは思えなか 使いませんでした。たとえば、「ねえおまえ、そのトーストをこちったし、説明を拒絶する快感をママに味わせたくもなかった。で ーストをほしいわ」とい も、わたしが訊かなかった理由は、それだけではないのでしよう。 らへよこしておくれ」という代りに、「ト うのです。まるでわたしを、独立した人格じゃなく、三本目の腕の訊くのが怖しくもあった。終わりごろになると、いずれそのうちに まいましいったら、あわかることだから、触れないでおくということにいわばおたがいが ような、自分の延長と思っているみたい。い りません。 暗黙の了解を結んだかたちでした。 〈明日株式会社〉は莫大な利益を生みました。重要な社会的事件に これがよその女の子なら、母親に秘密を持っこともできたでしょ 。わたしの場合、だいじなことはなにも隠せませんでした。隠そ対するママの予測は、気味わるいぐらい的中しました。いちどだっ おとくい いうまでもなく、顧客のほうはマ うと苦心するほど、逆に勘づかれてしまう。スイスへ追っぱらわれて、はずれたことはありません。 るのに抗議しなかったのは、それもありました。 マ以上にお金儲けをしたわけです。なにしろ、投資の桁がちがうん といっても、ママが心を読んだのでないのは確かです。あれはテですもの。ママのすすめで、かれらは一九七〇年の ( ーグ会談が歴 レ。 ( シーじゃない。わたしがお・ほえた電話番号や、郡の ( イスクー史的な協定を生みだす二週間まえに、底をついた相場へ買いを入れ ーテルの中性微子Ⅱセリウムの実験が成功すると予言し ルのフットボール選手二十五人の名まえになると、ママは言いあてました。・ハ られませんでした。そういったあたりまえの事柄は、〃かよい合わて、全世界のモナズ石砂の供給をキャメロン合同に独占させたの タービーの優勝馬、最高裁の判決、選挙、月ロケ ないみのです。それに、テレ。 ( シーでは、わたしがシルヴェニア高も、ママでした。。 ットが四度目に成功することまで、ママの予言はことごとく当りま 速道路で車の転覆事故を起こした夜のことが説明できません。あの とき、車の窓からわたしをひきずり出して助けてくれたのは、意外した。 ママは頭のいいひとにはちがいないけれど、とうてい天才とまで にもママの手でした。ママはあらかじめ道ばたに駐車して、待って をいかなかった。実業界についての知識も、意外に狭いものでし 3 いてくれたのです。救急車もたのまず、自分の車だけで。つまり、 ちども勉強はしなかったし、〈明 ママは、それがいつどこで起こるかも、わたしが怪我をしないことた。経済学や株式の罫線など、い けい ニュートリ /
しったい、どういう重要性をみとめているのか ? 自分がうろたえているのはよくわかったが、眠さと疲労のためこの事件に、、 に、うろたえている自分が、なんだか他人事のように感じられた。彼自身が最高顧問といっしょにじきじき出動してくるようなーーま アーチェリイ たジャコボ ( かあいそうなミナ ! ) : : : という字が洋弓にかわ 芥子色のワン。ヒースを、するりとぬいでしまって、すき通るよう 誰かの手がそれをいつばいにひきし・ほって、ビ = ッとはなっ。 なラヴ = ンダー色のスリップ一枚になってしまったフウ・リャンり、 矢はチャーリイの頭にぐさりとっきささり、彼は一本々々の頭 の、小柄だが、みごとに均勢のとれた体を、細くくびれた胴、かた くキリ上 0 た乳房、きりりとしま 0 た腰から下肢〈かけての線を、髮をさかだてて、その尖端から青白い火花をほとばらせながら絶叫 眼のすみで見ながら、ぼくはうろうろと部屋の隅〈行 0 て、つまらする。「・ほくは、犯人を、理詰めにさぐりあてることができると思 うんですーとヴィクトールの声。「これは、文明論的事件だ」とナ ない壁かけの皿などを見つめた。ーーー動悸が早まるのを感じなが ハティガル・ ・「あの十四の項目と、それから : : : 」とヴィクトー ら、こんなの別に何でもないんだ、ただクラスメートに、シャワー ル : : : それから ? を貸してやってるだけだと思い、同時に、あのスリップを、ここで そうだー と・ほくは突然、心の中で叫んだ。それからーーーチャ ぬがないでくれるといいんだが、と思っていた。 ーリイの研究だー 、、、、・、タンとしまる音をきいて、・ほくはふりか くスルームのドアカ / しかし、起き上ったと思っ えった。あわい、紫色の煙のような、すきとうった布が、椅子の背・ほくは闇の中に起き上っていた。 にふわりとかかっていた。 それを見ると、何とはなしに、フウているのは、夢の中のことであって、・ほくの体は、眼に見えぬ何万 ッと深い溜息が胸をついてもれた。手の甲で、額をこすると、寝不本もの、銀色の糸でもって、べッドの上に張りつけられているのが よくわかった。一本々々の糸は、一つ一つの銀色の痺れで、四肢は 足のせいにしては多すぎる脂汗が、ぬるりとすべった。 びくとも動かなかった。 べッドの上にあおむけにひっくりかえると眠をつぶっただけで、 謎はま ほくには、なにかがわかりかけていた。 急加速の時のように、睡魔が後頭部をグイとべッドの底へひつば る。 フウ・リャンが、スルームから出てくるまで眠るまいとだ、とけているわけではなか 0 たが、しかし、とく方法は見つかり 思って、・ ほくは、もう一度今度の事件のことを頭でまとめようとしかけたような気がした。 , ーー鍵の一つは、チャーリイの研究だ、あ そこになにかがある。それにちがいない。 た。だが、何か考えようとすると、それが風に動くモビールのよう に、ついとむこうへにげたり、メリーゴウランドみたいにぐるりと仔犬が、クンクン鼻をならしながら、・ほくの顔を、冷たい、やわ まわったり、かと思うと、突然蝶のようにひらひらはためきながらかい舌でなめた。闇の仔犬で、その頭からは、石鹸の香りにまじ と・ほくは叫・・ほうとした。と ら、眼の前にあらわれる。 って甘い花の香りがした。 チャーリイのこと : : : 彼の「研究」・ : ジャ = ボの唸り声ーーナたんに、やわらかい、冷たい、重たいものが、どすんと・ほくの体に ぶつかってきて、。ヒチ。ヒチと巨大な魚のようにはねた。思わず手を ハティガルの瞑想する顔 : : : 「十四項目」・ : サーリネン局長は、 プサイ しび
SEPTEMBER, 1 968 ′ VOL.9 ′ NO. 9 ギャラクシイ・サイエンス・フィクション誌特約 S F マガジン 9 月号 ( 第 9 巻第 9 号 ) 28 昭和 43 年 9 月 1 日印刷発行発行所東京都 千代田区神田多町 2 の 2 郵 1 0 1 早川書房 丁 EL 東京 ( 254 ) 1551 ~ 8 発行者早川清 編集者福島正実印刷所日東紙工株式会社 新連載科学コラム その 実験室【と ~ 。 V)LL 解剖学のすすめ 8 リトル東京 ~ うるとら世界航記【 . 】 スキャナー でてくたあ トータル・スコープ ヘミスアェア時問旅行サン・アント = オ博を見て ・タブレットの驚くべき秘密・ ・刀ーー一アンは・も、つい、ら 4 はい 明るみに出た LL- 0 追跡の第ニの犠牲者・ ゼネ一フル・ c-D u- ショートショート・コン一アスト月問ベスト作ロ てれぽーと・ 人気力ウンター さい、んんす・とびつくす・ 日印ルーー亠レ月 X 日 : LL 映画ストーリイ・コンテスト募集規定 瞬間を貫いて u- カ / 一フ、ンツ々′・コー十 , せんとらる地球市建設記録 、お物理学入第 世界みすて りとびつく リレー連作⑦ 一三 0 枚 第一章 セーウエル・ガンソフスキー 星田三平 石原藤夫 野田宏一郎 日下実男 伊藤典夫 石川喬司川 大伴昌司圓 Ä( 鍋博 : 福島正実 1 7 3 6