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検索対象: SFマガジン 1968年9月号
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1. SFマガジン 1968年9月号

しったい、どういう重要性をみとめているのか ? 自分がうろたえているのはよくわかったが、眠さと疲労のためこの事件に、、 に、うろたえている自分が、なんだか他人事のように感じられた。彼自身が最高顧問といっしょにじきじき出動してくるようなーーま アーチェリイ たジャコボ ( かあいそうなミナ ! ) : : : という字が洋弓にかわ 芥子色のワン。ヒースを、するりとぬいでしまって、すき通るよう 誰かの手がそれをいつばいにひきし・ほって、ビ = ッとはなっ。 なラヴ = ンダー色のスリップ一枚になってしまったフウ・リャンり、 矢はチャーリイの頭にぐさりとっきささり、彼は一本々々の頭 の、小柄だが、みごとに均勢のとれた体を、細くくびれた胴、かた くキリ上 0 た乳房、きりりとしま 0 た腰から下肢〈かけての線を、髮をさかだてて、その尖端から青白い火花をほとばらせながら絶叫 眼のすみで見ながら、ぼくはうろうろと部屋の隅〈行 0 て、つまらする。「・ほくは、犯人を、理詰めにさぐりあてることができると思 うんですーとヴィクトールの声。「これは、文明論的事件だ」とナ ない壁かけの皿などを見つめた。ーーー動悸が早まるのを感じなが ハティガル・ ・「あの十四の項目と、それから : : : 」とヴィクトー ら、こんなの別に何でもないんだ、ただクラスメートに、シャワー ル : : : それから ? を貸してやってるだけだと思い、同時に、あのスリップを、ここで そうだー と・ほくは突然、心の中で叫んだ。それからーーーチャ ぬがないでくれるといいんだが、と思っていた。 ーリイの研究だー 、、、、・、タンとしまる音をきいて、・ほくはふりか くスルームのドアカ / しかし、起き上ったと思っ えった。あわい、紫色の煙のような、すきとうった布が、椅子の背・ほくは闇の中に起き上っていた。 にふわりとかかっていた。 それを見ると、何とはなしに、フウているのは、夢の中のことであって、・ほくの体は、眼に見えぬ何万 ッと深い溜息が胸をついてもれた。手の甲で、額をこすると、寝不本もの、銀色の糸でもって、べッドの上に張りつけられているのが よくわかった。一本々々の糸は、一つ一つの銀色の痺れで、四肢は 足のせいにしては多すぎる脂汗が、ぬるりとすべった。 びくとも動かなかった。 べッドの上にあおむけにひっくりかえると眠をつぶっただけで、 謎はま ほくには、なにかがわかりかけていた。 急加速の時のように、睡魔が後頭部をグイとべッドの底へひつば る。 フウ・リャンが、スルームから出てくるまで眠るまいとだ、とけているわけではなか 0 たが、しかし、とく方法は見つかり 思って、・ ほくは、もう一度今度の事件のことを頭でまとめようとしかけたような気がした。 , ーー鍵の一つは、チャーリイの研究だ、あ そこになにかがある。それにちがいない。 た。だが、何か考えようとすると、それが風に動くモビールのよう に、ついとむこうへにげたり、メリーゴウランドみたいにぐるりと仔犬が、クンクン鼻をならしながら、・ほくの顔を、冷たい、やわ まわったり、かと思うと、突然蝶のようにひらひらはためきながらかい舌でなめた。闇の仔犬で、その頭からは、石鹸の香りにまじ と・ほくは叫・・ほうとした。と ら、眼の前にあらわれる。 って甘い花の香りがした。 チャーリイのこと : : : 彼の「研究」・ : ジャ = ボの唸り声ーーナたんに、やわらかい、冷たい、重たいものが、どすんと・ほくの体に ぶつかってきて、。ヒチ。ヒチと巨大な魚のようにはねた。思わず手を ハティガルの瞑想する顔 : : : 「十四項目」・ : サーリネン局長は、 プサイ しび

2. SFマガジン 1968年9月号

『何処 ? ・ : 何も見えんぢゃないか ? 』 きすないほど疲労した。 『眼鏡が無いからさ。俺には、はっきり見えるよ。もっとも始めは潮流の余勢は、ポートを何処とも知れない砂浜に運んだ。 鳥か、雲だらう位ゐに思ってたんだが、今朝みるとまだ動いてない 私達はナン子を抱いて、やっとポートから這ひ出ると、そのまゝ んだ』 砂に倒れてしまった。 私は近眼である。で、何も見えなかった。 ( 此処はどこだらう ? 陸だらうか島だらうか ? 島なら、人が居 これは其の後、上陸するまで彼には見えたさうである。もう一る島か ? 無人島か ? 陸だったら何県だらう ? ・ : ) そんな事をぼんやり考へながら、早く起きたいと焦る心を、人が おびだだ わたりどり 九月十二日から十四日に渡って、季節外れの夥しい候鳥の大群ゐるのなら誰かが発見して救って呉れるだらうと、おさへて、昏々 が、天日を摩してと云っても決して誇大には当らない程の、真黒なと深い眠りに落ちてしまった。 集団で西へ飛び去った事である。 『何か変った出来事が、東の方であったらしい』 と、彼はその嵐の様な羽音の下で、首をかしげてつぶやいてゐ半日もさうして寝てゐたのだらう。私が烈しい渇を感じて気づい た時は、海も空も真赤にタ焼けしてゐた。僕はうつ伏せになったナ ン子を抱いて、砂のこびりついた胸へ耳をあてた。そして、確かな 心臓の鼓動を聞くと、安心して立上った。 佐山も立上る。彼は波に取残されたポートから天幕を剥してくる 九月十四日 と、それにナン子をくるんで抱えた。 私は、ふら / \ する足を踏みしめて、ゆるく傾斜のある砂の防風 幸連にもーー或は不運にも。何故なら、あのポートの中で餓死し堤を登った。期待と、不安に胸をふるはしながら、・一歩、一歩 てゐたら、あんな恐しい情景を見なくてよかったのだからーー私た突然、平野が視界一ばいに拡がった。 ちの漂流は十日間で終った。 田がある ! 畠がある ! 木がある ! 山脈がある ! 右手の森 の中に神社の屋根が見える ! 森の向うに部落がある ! 部落に行 佐山の予言が見事適中したのだ。 『風が、みなみにかはったら黒潮に乗って帰れるんだよ』と云ふ予く道がある , 一 = 口が 二人はその道へ歩いた。懐しい土の臭。草いきれ。蛙の声。私は 南風が吹き出したのは六日目だ。潮流に乗ったのは、八日はのひ何かを力いつばい突き飛ばしたくなった。そして、疲れを忘れて走 るさがりた。そして三人は、二日間ゆられ通して、十日目にはロもりたくなった。 つ。 四、上陸 テゾト 0

3. SFマガジン 1968年9月号

ぐられ、テーブルの上には、テー。フ 0 ーダーと、小型の、しかしをちょいとつついた。「あとで、べティ叔母さんの店で、うんとお ・スケール・インテグレーション とにかく、さしあたっては、彼女がどこ ( 超高容度集積 ) 方式をつかった、計算容量の非常に大ごらせてやるからな。 にいるかがわかればいいんだ , そして部屋の隅には、 きいポータブル電子脳がおかれていた。 「いったい何をやってるんだ ? 」・ほくは、みんなの顔を見まわして ダイヤルだのスイッチだの小さなブラウン管だのがついた、いかに いった。「説明してくれ。ーーー犯人が割り出せそうだって : : : ほん も手づくりらしい機械があった。 とうか ? ・」 「その機械はなんだい ? 」 レシーヴァーをはずして、機械の前から立ち上ったアドルフに、 ヴィクトールは、黒板の前に立っといっ まくはきいた。 「順を追って話そう 「電波線の方から、実験用のやつをかり出してきて、ちょいと細工た。「みんなにもまだ、くわしくは説明してないんだ」 「ウルト 「これだけでいいのか ? 」デイミトロフはきいた。「あと、サム したんだーアドルフは、ちょっとばつが悪そうにいっこ。 リンカーンと、クーヤと、ミナとフウ・リャンは ? ・」 ラ・マルティ・チャンネルの電波検出器さ、自動調整装置つきの : 「サムは、八時すぎまで実習だ。ミナはジャコボにつきそってい る。フウ・リャンは、今きいた通りだし、クーヤだけが居所がわか 「それでどうしようというんだ ? 」 彼らには、またあ 「ヴィクトールが、犯人を見つけ出せるかも知れない、というんだらないが、とにかく大学構内にいるらしい / 。しナ「テストがすんでからな : とで話す , とヴィクトーレよ、つこ。 デイミトロフが、やや懐疑的な口調でいった。「・ほくは : はたしてうまく行くかと思うんだがねーーー」 しったい何だ ? ー・ほくは、部屋の隅の機械 「これで ? 」・ほくは呆気にとられた。「これで、どうして犯人が見「そのテストってのは、、 をふりかえった。「本当に、あんなものでーーー犯人がわり出せるの つけられるんだ ? 」 あかね ? 」 「まあ待て、わけを話す」ヴィクトールは煙草をくわえた。 「まだわからんよ , とヴィクトールは肩をすくめた。「だが、ため まり寝なかったと見えて、眼が血走っている。「ところで、フウ・ リャンの姿がずっと見えないんだが、どこにいるか知ってるか ? 」して見る値打ちのある、かなり有力と思える仮説にもとづいて、実 「知ってるも何も : ・ : ・」・ほくはちょ 0 と赤くなった。「・ほくの部屋験してみているんだ。もしまるきりだめでも、すくなくとも、この 方向はだめだ、という事だけでもはっきりする。、ーーすこぶる科学 だ、まだ眠ってる : 「あっ ! 畜生 ! 、ホアンが、掌を拳で・ ( シッとたたいて叫んた。的じゃないかー 「話せよ」ホアンがいった。「その仮説を思いついて、実験をやっ 「残念 ! ついに君に先をこされたか ! 」 ヴィクトールは = ャ = ャ笑いながら、・ほくの横腹たのは、君とアドルフだ。にーー話してくれ、 「まあいい 円 9

4. SFマガジン 1968年9月号

だが、お美代は、少くとも、私の子守りに関しては、うってつけ「どうしたん ? 」 だった。魚獲りの腕前は、プロ級だったし、桑の実の熟し具合は、 「いや、ちょっと、昔のことを考えていたんです。あの家も、ずい 8 見ただけで。ヒタリと判った。 ぶん古くなったでしようね ? 」 「ほれ、坊ちゃま、柳の根っ子さ、垂れさがってるべえ。そこさ、 私は、興味をひかれて尋ねた。あの家というのは、私たちが運ん しもおき すくってみりいよ。ほれ、上がったんべえ」 で建てなおした家のことである。私たちは、下沖から市内へ戻ると き、この家を良っちゃんのところに、売ってしまったのである。 お美代は、私を河へつれていくと、いつもお国一 = ロ葉まるだしで、 声援してくれた。この地方で使っている魚獲りの道具は、ビッテと「実は、今日、来たんは、あの家のことなんぜ。いちど訊いてみよ うと思ったん、なんか因縁があるべえと思ってねー ドと呼ばれる、二種類の竹製品だった。私が使っていたのは、父が 「因縁というと ? 」 籠屋の良っちゃんの親父さんに頼んで編ませた、子供用の小型だっ 「大きな声じゃいえねえが、あの家に憑き物してんじゃねえかと思 た。ビッテというのは、片方が開いた形の竹の網のようなもので、 うんよ。あんたに訊いたら、判るんべえと : : : 」 その中へ魚を追いこんですくいあげる。ドというのは、弩という字 「憑きもの ? 」 をあてるのだろうか、筒形に編んだもので、一晩しかけておくと、 「それが、夜中になると、赤ん坊の泣き声がきこえるんよ。間違え その中に入りこんだ魚が出られなくなり、翌朝ひきあげにいくと、 ドジョウやフナが、し 、つばいつまっている。毎朝、前の晩にしかけだんべえかと思ってると、その他にも聞いたやつがあんべえ、それ ておいたドを引きあげ、その日の獲物を見にいくのが、楽しくてしでおれが東京へ行ったついでんに、あんたに相談してみべえっちゅ うわけで : : : 」 かたがなかった。 とっ 良っちゃんは、急に声を落した。その朴訥そうな顔に、ちらっと 私とお美代の日課のなかに、籠屋の良っちゃんが割りこんできた のは、それから間もなくのことだった。確かに良っちゃんは、女の恐怖の影がかすめた。その恐怖に嘘はなかったのだろうが、良っち お美代よりも、魚獲りの腕がよかったし、地元のせいもあって、魚やんの顔には、それとは別のある表情が、はっきり現われていた。 それは、問題の家の売主の片割れである私に対して、なんらかの解 のいそうな場所をよく知っていた。 決法を提供させようとしている表情だった。もちろん、私の父が 「あんなあ」 しもおき とっぜん、良っちゃんが話しかけてきたので、私は回想を中断さ下沖から戻るときその家は捨て値に近い金額で、良っちゃんの家族 れた。私の目の前に浮かんでいた籠屋の伜のイメージは影をひそのものになったのだから、今さら、私のほうに責任があるわけでは め、それにオー 。 ( ーラップして、中年の農夫然とした良っちゃんのない。 とにかく、私は、相談冫 このってやることにして、その家で起こっ 顔が、はっきり現われた。日焼けした顔には、土と泥の臭いが染み たことを、洗いざらい説明させることにした。 こんでいるように見えた。 っ

5. SFマガジン 1968年9月号

見されたという一八七二年当時は解と、ふたたび航海をつづけ、二年が 冫しナ「このままでいいの」 しそうこ、つこ。 = 説できなかったフ = ニキア語が数個すぎ、〈ラクレスの柱 ( ジプラルタ 寝不足の体は、芯にまだ熱い火がのこっており、四肢や皮膚感覚 ル海峡 ) を回ってエジプトに到着し も発見されたのである。 彼は即日、その全文を翻訳し、そたのは、第三年目のことであった」 や大脳皮質がけだるくしびれていて、妙にエロチックな感じだっ このことから考えて、前記の刻文 = の後さらに十日かけて念入りに推こ そしてフウ・リャンとのセックスは、・ほくにとって新鮮 = が意味しているのは、ヘロドトスの うした。彼が翻訳した全文は、次の 記録しているこの航海か、またはそ 通りである。 な、きらめくように強烈な刺激だった。ミナのそれが、たゆたうよ = 「我らは、王の都市たるシドンよりの後の同様の航海の際、その一隻が うに重たくうねるやさしい海とすれば、フウ・リャンははねまわる 来れるカナ人の子孫なり。交易は我嵐のため他の船とはなればなれとな = らを、山多き土地たるこの遠き国のり、そのまま嵐に流されて、大西洋 仔猫であり、一瞬のちには、むずむずと手の中でこそばゆくふる 浜辺にうち上げたり。我らは我らのを横切り、ついにプラジルに漂着し え、次の瞬間には、また。ヒン。ヒンと、はげしい弾力のある跳躍をは = 偉大なる王ヒラムの第十九年に、若て、乗組員が住みつくことになった ことを指すもののようである。 者を尊き神々や女神たちのいけにえ じめる冷たい魚だった。あの楚々とした草花のように見える、細く しかもこの刻文は、その各文字の に捧げたり。我らは、エチオン・ゲ 小柄な体の、どこにこんなはげしいエネルギイがひそめられている ーベルより紅海に船出し、十船をも形や、文法や文体から考えて、たし = かに紀元前六世紀ごろのものだ、と って航海せり。我らは二年間、仲間 のかと思うほど、彼女ははけしくはねまわり、・ほくを飜弄した。ち ゴードン博士はいうのだ。 と共に、ハムに属する土地 ( アフリ かくて、フェニキア人は紀元前六 よっと油断すると、かみつかれ、ひらりと身をひるがえすと、また「カのこと ) を回 0 て航海せるも、嵐 のため間をへだてられ、もはや仲間世紀もの昔に、すでに南米プラジル とびかえってきてひっかき、やっとっかまえたと思うとスルリと逃 と共に非ず。かくて我らは、十二人に足跡を印していたこととなる。 しかもこの発見は、これまで学者 げて行って、こちらがっかれてぶったおれそうになると、いつの間 の男と三人の女をもって、提督たる の首をひねらせてきた中、近東地方 = 」我の治める浜辺たるここに至れり。 にか傍にびったりよりそって、はげしくはねまわっている、という されど、幸いにも、尊き神々と女神の古代文明と古代南米文明に見られ るいくつかの驚くべき類似をも見事 有様だった。 たちょ、我らをよみし給え ! 」 に説明してくれる可能性があるの = ここにいうエチオン・ゲー・ヘルと ついに、・ほくの中に、自分でも思いもかけぬ、荒々しくカづよい いうのは、紅海の奥にあるアカ・ ( 湾だ。例えば、メキシコ・シティの郊 にある島で、古代ギリシアの歴史家外にある〈太陽のビラミッド〉とエ 獅子の力が湧き上ってきた。ぼくは疲れはててダウン寸前のように ジプトにある〈サカラのピラミッ ヘロドトスは、フェニキア人がこの 見せかけて、わざと隙を見せ、相手が小きざみにしのびよってくる ■ ド〉 ( 紀元前三〇〇〇年頃のもの ) 紅海を出発してアフリカを回り、地 とが外見が非常に酷似しているのも 中海に至る交易航海を行 0 たことが のをじっと待った。充分にひきよせておいてから、いきなりとびか これで説明がつくかもしれない。 “あると、次の通り記録している。 かり、今度こそがっしりと押えこんだ。フウ・リャンは、のがれよ = その他、数学的・天文学的知識、 = 「そこでフェニキア人は紅海より出 そして、 発し、南方の海へと船出した。そし暦、宗教、灌漑組織などなど、これ うとしてはげしくはねたが、今度は逃がさなかった。 までの考古学者たちがまったく解釈 て秋が来るごとに、リビア ( アフリ とうとう、あの心をゆさぶられるような、長い長い叫びをし・ほり出「 に窮していた両文明のいちちるしい 力のこと ) のどの土地であれ、ちょ うど彼らが来かかった陸地にあがり類似性が見事に解けるのである。 すことに成功し、同時に・ほくも暗黒の中に、無数の星が爆発し、き ( 近代宇宙旅行協会提供 ) 土地を耕やし、そこで収獲期を待っ らめきわたるのを見ながら、その闇へむかって頭をつつこむように た。そして作物の取り入れが終る 世界みすてり・とひっくⅱ ! 三三デ して果てた。 円 3

6. SFマガジン 1968年9月号

フウ・リャンがやっ 笑うと、彼女はまた安らかな寝息をたてはじめた。 書いた札がかかっているのに気がついた。 ・ほくは、枕もとのヴィジフォーンのスイッチをいれかけて、苦笑たな、と思わず苦笑したが、札はそのままにしておいて、・ほくは寄 した。 そして、インターフォン兼用になっているス。ヒーカーの宿舎の廊下を、ヴィクトールの部屋へ急いだ。 トーク・ハックキイをおさえて、返事をした。 真紅と金色の太陽が、ぐるぐるまわりながら、ア。 ( ラチャの山に 「ヴィクトールか ? 」 しすみかけており、事件発生後、三晩目の夜が訪れようとしてい こっちへこないか ? , 「もう起きてもいいだろう 「何があるんだ ? 」 「デイミトロフとアドルフ、それにホアンがいる : : : 実は、例の チャーリイの研究の件で、話しあっているんだ」 「チャーリイの研究 ? , とたんに、シャンと眼がさめるのを感じな ヴィクトールの部屋のドアをあけたとたん、ホアンとデイミトロ がら、・ほくはヴィジフォーンの方に身をのり出した。「そうか フが、何か待ちうけるような視線を、じっとそそいでいるのに気が ・ほくも、その事を考えていたんだ。何かっかめそうか ? 」 ついた。 アドルフが、戸口になかば背をむけて、レシーヴァー 「ほとんど大詰めだ : : : 」とヴィクトールは、自信ありげにいっ をかけ、何か小さな機械をいじくっており、ヴィクトールはそれを た。「犯人を割り出せるかも知れないんだ。 ほんとだぜ。君ものそきこむように立っていた。 来て知恵を貸してくれないか ? 」 ・ほくがドアをしめると、アドルフはふりむいて、ちょっと・ほくの ・ほくははね起きて、スル = ムにとびこんだ。冷たいシャワーに 顔を見ながら、首をふった。 身ぶるいしながら、全身に次第に興奮がまきおこってくるのを感じ「ちがうよ」とアドルフはヴィクトールを見上げていった。「彼は ちがう」 大詰めだと ? 「いったい何をやってるんだい ? 」 ホアンと一アイミトロフは、 ・ほくは、部屋の中を見まわした。 本当かな、とすれば こいつは大変なことだ。 ドアをあけたままシャワーを浴びたのに、フウ・リャンは、まだ ほっと緊張のゆるんだ顔つきになり、ヴィクトールは、ニャリと笑 かすかな笑みをうかべたまま眠っていた。起そうかと思ったが、そって近よってきた。 の花びらのような唇に、そっとロづけして、まるくもり上った、か「そう変な顔をするなよ」と彼は・ほくの肩をたたいて、みんなの方 あいい臀にシーツをかけてやった。フウ・リャンは、伸びをし、まに押しやった。「いま、説明する 、つばいちらばってい たほほえみ、そのまま眠りつづけた。 部屋の中には、メモだの、ノートだのがし ドウ・ノット・ディスター・フ 外へ出て、ドアをしめると、ノップに「起さないでくださいーとた。下の管理室からもちこんだらしい黒板には字がいつばい書きな こ。 5 円 8

7. SFマガジン 1968年9月号

ようとはしていなかった。彼女の存在は、その時、・ほくからひどく首をかしげていった。「私、ほんとの事をいうと、こわいの。気が 。おとついの晩だって、あのヴィジフォーンの予 遠いものに思えた。とりわけ、べッドの中のやさしく柔かい、淡雪変になりそう : のような肉体、・ほくの腕の中で、かしこく、気のやさしい少女のよ告さわぎがあってから、一睡もできなかったのよ」 ・ほくは、ちょっとおどけていった。「あつい うになってしまう彼女の存在、・ほく自身を、ひどく大きくたくまし「そりや大変だ : い存在に感じさせ、父親が小娘をあやしているような気分にひたしシャワーをあびて、ぐっすり寝るんだね。でないと、君のかわいい てしまう、あのかあいらしい睦言、などといったものからは、はる顔が、この花みたいに、しなびちまうよ , フウ・リャンは、ちらと・ほくの顔を横 彼女が、「母 , の役割りの中「そのシャワーだけど : かに遠い存在になってしまっていた。 , 冫いっそう深く足をふみ入れて行くにつれ、ぼくからはますますから見上げた。「あなたの部屋のシャワー、貸してくださらない ? 私の部屋のは、こわれちまってるのー はなれて行くような感じだった。 しいよ」・ほくは、ちょっとどきまきしながらうな ・ほくは、朝日のまぶしさに眼を細め、ミナのシルエットを遠くに その横から、ふいに甘い花ずいた。「よかったらどうそ : : : 」 眺めながら、ゆっくり歩いていた。 そういってしまってから、・ほくはしばらく・ほんやりして、だまっ の香りがプンとただよってきた。半袖のシャツを着て、むき出しの ままだった・ほくの上搏に、冷たくやわらかく、ペタリとしたものがて歩いた。朝日がやたらにまぶしくて、眼がしょぼしょ・ほした。 ー部屋のドアまできて、鍵をあけた時、突然体の中がカッとあっく 一瞬ふれた。 なってきた。あがっていたのか、フウ・リャンを先にいれずに、自 「体中、べタベタ : : : 」 分が先にはいってしまった。そのままずんすん、・ハスルームの方に フウ・リャンは、仔猫のように、・ほくの傍に身を寄せてきた。 「きっと、・ほくたちいま、べーコンみたいな味がするぜー・ほくは、歩いて行くと、背後で内側からおろすラッチが、カチャリと鳴る音 だが、その時 がした。むろん、フウ・リャンがやったのだ。 傍を見かえっていった。「塩と脂でニチャニチャでねー フウ・リャンは、クスリと笑った。笑うと、また、あの花の香りは、その意味がわからないほどあがってしまっていた。 「ハスタオルは、あんまりきれいじゃないよ」と、・ほくは、ぶスル おとついの晩、ニューヨーク が、濡れ羽色の髮からにおった。 の賢者の研究室で、薬物調合係りからもらった花を、彼女はまだ髮ームの洗面台の上を、大急ぎでかたづけながらどなった。「小さく てもよかったら、新しいのを出そうか ? 」 にさしていた。さすがに花びらが重・ほったく、しなびかけている。 「いいわよ、ありがと」 「いい夢を見たかい ? 」 ニッコリ笑い フウ・リャンは、バスルームから出てきたに ・ほくは、つややかな髮の間でうなだれている花を、ちょっとなお それから、いきなり、背中のマグネットジッパーを、 かけた。 してやりながらきいた。 。ヒュッとはずしてしまった。 「夢など見ているひまがあったと思って ? 」とフウ・リャンは、小

8. SFマガジン 1968年9月号

は、三十マイルほどはなれたア。フチェスターの町も見えていた。実は手きびしくつづけた。 際、地平線上に、ア。フチェスター大寺院の二つの尖塔まで見えたほ 〃月までの半分ぐらいは吹っとばされてるだろうな〃と、フレンチ ど晴れわたっていたんだ。これ以上平和な日は望めないというよう博士は答えた。これはいささか無責任な言葉のようだが、ああいう な日だったんだ。 ・ハカげた質問にあうと、彼は必ずいらだっちゃうんだな。 スタンリー ・チェン・、 ースは、自分とクロブハムの間に、どのく 最初のうちは、村人たちも軒先に研究所があるっていうことをよ ろこんでいなかったけど、そのころには、研究所の連中も、土地のらい丘があるかを見きわめようとするかのように、肩ごしに振りか 人たちとかなりうまくいくようになっていたんだ。われわれの仕事えったよ。地下の酒蔵までかけつける間があるかーーあるいは、、 の性質とは別に、彼らは、科学者っていうのは、人間的な興味なんけつけてみるだけの価値があるかどうかを計算していたんじゃない かと思うんだ。 てもっていない、まるで別の人種だと思いこんでいたんだな。しか し、二度ほどダートで連中を敗かせ、二、三杯おごると、彼らの考その時、〃あんた方がしよっちゅう送り出してる、そのーーーアイ え方もかわってきたんだ。しかし、まだおもしろ半分のいやがらせソトー。フってャツですがね〃と、考えこんだような声がいったん もかなりあり、今度は何を吹っとばすつもりだ、なんてしよっちゅ ど。〃あたしや、先週、聖トーマス病院へ行った時に、連中が一 う訊かれたもんだよ。 ンもありそうな鉛の箱に入れて運んでるのを見たんですよ。もし誰 その午後は、もうすこし仲間が集るはずだったんだけど、ラジオかが扱い方を間違えたらどういうことになるかって考えてるうち アイソトープ部に急ぎの仕事が入ったんで、いつもより人数がすくに、ぞっとしてきましたね〃 チェンく ースは、見なれた顔が なかったんだ。主人のスタンリー・ ″この間、計算してみたんだがねと、フレンチ博士はいったが、 いくつかかけている、なんていってたよ。そして、〃今日はみなさダートの邪魔をされたのでうんざりしているいろが、まだその顔に ん、どうしちゃったんです ? 〃って、私の上役のフレンチ博士に訊はっきりと出てたよ。が クロ。フハムには、北海を沸騰させるのに充 いたんだ。 分なだけのウラニュームがあるんだ〃 ″工場で忙しいんだ。急いで品物を送り出さなきゃならないんで これはまたまったく・ハ力なことをいったもので、事実でもなかっ ね。後からやってくるだろう〃と、フレンチは答えたんだ。みんたんだな。しかし、私としては、上役を叱りつけるわけにもいかな かったんだよ、そうだろ ? な、研究所のことを工場ってよんでたんだよーーその方が身近かに 今いったようなことをしゃべっていた男は、窓ぎわの窪みに坐っ 感じられるし、怖ろしいひびきもなかったんでな。 ていたんだが、彼が心配そうないろをうかべて、道路を見おろして いっか、あんた方は、自分たちの手じやどうにも抑えのきかない いることに、私は気がついたんだ。 ようなものを、送り出すことになりますよ。そうなったら、われわ れはみんな、どこにいることになるんですかね ? 〃と、スタンリー と、その彼が、〃その品物は、あんた方の工場からトラックで送

9. SFマガジン 1968年9月号

やりとり が見えないじゃよ、 : オしカそれなのに、彼は何を怖れてるんだ ? そをいってたに違いないよ。二人の会話を想像することができたんだ れに、爆発物を積んでるんなら、赤い旗か何かをつけてるはずだ〃 まったく心あたたまるような眺めだったね。 すると、がちょっと待ってなさいみと、スタンリ ーがいったんだ が、それも長くはつづかなかったんだ。二人はトラックから数ャ な。が双眼鏡を取ってくるから〃 ードのところまで近づくと、ものすごい勢いで反対の方向へ逃げだ 彼が戻ってくるまで、誰一人、動こうとしなかったよ。といってしたんだよ。どちらも振りかえって相手の様子を見ようともしない も、はるか下の丘の斜面を逃げていく小さな姿は別としてね。今やんだな。しかも、二人が何とも奇妙な走り方をしてるのに、私は気 その姿も、ス。ヒードをおとそうともしないで、森の中へ消えちゃっづいたんだ。 たんだ。 また双眼鏡をのそいていたスタンリー が、ふるえる手でそれをお スタンリーはいつまでも双眼鏡で眺めていた。、 : がついに、不満ろすと、 〃車を出せ ! げなつぶやきをもらしてそれをさげると、 〃あまりよく見えない。 トラックは悪い方へ倒れたようですな。そ″しかし 〃と、フレンチ博士がいいかけたんだ。 が彼をにらみつけてだまらせちゃったんだ こら中に、木箱が散らかってますよーーー中には。ハックリと口を開けすると、スタンリー よ。そして、 てるのもあるし。何だかわかるか、見てごらんなさい〃 がろくでなしの科学者め ! と、帳場の現金の入った引出しをガタ フレンチは長い間、双眼鏡をのそいていたが、やがて私にわたし てくれた。 : 、 カこれが非常に旧式なものだったんで、たいして役にンとしめ、鍵をかけながらいったんだ。 ( こんな時でも、彼はやる すれこんなことをやらかすだ たたなかったんだな。ちょっとの間、私には、、 しくつかの箱のまわべきことを忘れなかったんだな ) ″い ろうってことぐらい、ちゃんとわかってたんだ〃 りに妙なもやのような代物がただよっているように見えたんだ ついで、彼は姿をけしちゃったんだーー彼の仲間の大部分も、 が、そんなはずはなかったんだ。で、レンズのくもりのせいにしち やったんだよ。 っしょに姿をけしちゃってたよ。誰一人、乗せてやろう、ともいっ てくれなかったんだ。 そして、もし自転車にのった二人づれが現われなかったら、その問 題はそれで終ってしまっていただろうと思うんだ。彼らは前後に二 〃こんな・ハ力なことがあるか ! みと、フレンチがどなったよ。〃ど 人乗りの自転車で、丘をあがってきていたんだが、あいたばかりのういうことになってるのかをわれわれがっかむ前に、あの・ハ力もの 生け垣の穴のところまでくると、さっと自転車をおりて、どういうどもはこのあたりに大恐慌を惹き起しちゃうそ。そうなったら、た ことになっているのかを調べこ 冫いったんだな。道路からもトラック いへんなことになるそみ が見えていたんで、二人は手に手を取りあって近づいていったん私には、彼のいっていることがよくわかったんた。誰かが警察に だ。娘の方が尻ごみし、男の方がこわがることはないよってなこと知らせる。車はクロブハムに入らないように迂回させられる。殺到 、 6 6

10. SFマガジン 1968年9月号

ったのだから、今夜あたり、ボウニィートウが青い眼を つり上げ、ニターリ、ニターリと笑って、貴女の枕元に 立つにちがいない。間違いない」 「おお ! ここに至って彼女は恐怖の余り失神せんばかりになっ たので、私はその肩をやさしくさすってやり、 「なあーに、大丈夫だよ。心配しなさんな。カツオは勝 魚と書くくらいで、日本では、古来、とても縁起のいし 魚だ。祝儀の贈答用として、広く使われておる。高貴の 品だよー といって慰めてやった。それで彼女も、どうやら納得 しキゲンを直した様子だ。そのせいか急に日本酒を飲む 。ヒッチが早くなってきた。私も悠然たる気分になった。 窓外には、日がすっかり落ち、ビルの灯が明々と無数、 に輝いている。電光掲示盤の黄色い文字が、明減してい る。風が出てきたらしく、椰子の葉ずれの音がさわさわ - と鳴りだした。 私は、もう一本、五合びんを・ ( スルームの熱湯の中に 2 義】物■ -0 ッ第、す 4 ー第を毳 放りこんでおカンをし、腰を落ち着けて飲みだした。す ると、腹がへってきた。考えてみると、私は彼女にばか り、おかずを提供していて、自分は何も食べてはいなか ったのである。 「ミス・ノエル。折角来てくれたのだから、今度は日本 の主食の最高の傑作を御馳走するよ」 「ほんと。でも、ゴハンやヌードルなら知ってるわよ」物に変ってゆくのを、不思議そうに眺めている。その眼 の縁が、日本酒のせいで、ぼうっと赤味を帯びていて、 トロソ。ハというものである」 「ヌードルではない。 私は、トランクの中から、おろしがねを取りだし、野それが大きな青い眼と見事な対照をなして、思わず見惚 球の。 ( ットの先のような長芋の皮をむいて、おろし始めれるほどの美しさだ。 た。ミス・ノエルは、芋が見るまに白いねばっこい流動「アツツツツ : ・宿「 00 ぼ■ 白亜のシヴィック・センターに隣接するリトル東京 7