部屋 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1968年9月号
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1. SFマガジン 1968年9月号

フウ・リャンがやっ 笑うと、彼女はまた安らかな寝息をたてはじめた。 書いた札がかかっているのに気がついた。 ・ほくは、枕もとのヴィジフォーンのスイッチをいれかけて、苦笑たな、と思わず苦笑したが、札はそのままにしておいて、・ほくは寄 した。 そして、インターフォン兼用になっているス。ヒーカーの宿舎の廊下を、ヴィクトールの部屋へ急いだ。 トーク・ハックキイをおさえて、返事をした。 真紅と金色の太陽が、ぐるぐるまわりながら、ア。 ( ラチャの山に 「ヴィクトールか ? 」 しすみかけており、事件発生後、三晩目の夜が訪れようとしてい こっちへこないか ? , 「もう起きてもいいだろう 「何があるんだ ? 」 「デイミトロフとアドルフ、それにホアンがいる : : : 実は、例の チャーリイの研究の件で、話しあっているんだ」 「チャーリイの研究 ? , とたんに、シャンと眼がさめるのを感じな ヴィクトールの部屋のドアをあけたとたん、ホアンとデイミトロ がら、・ほくはヴィジフォーンの方に身をのり出した。「そうか フが、何か待ちうけるような視線を、じっとそそいでいるのに気が ・ほくも、その事を考えていたんだ。何かっかめそうか ? 」 ついた。 アドルフが、戸口になかば背をむけて、レシーヴァー 「ほとんど大詰めだ : : : 」とヴィクトールは、自信ありげにいっ をかけ、何か小さな機械をいじくっており、ヴィクトールはそれを た。「犯人を割り出せるかも知れないんだ。 ほんとだぜ。君ものそきこむように立っていた。 来て知恵を貸してくれないか ? 」 ・ほくがドアをしめると、アドルフはふりむいて、ちょっと・ほくの ・ほくははね起きて、スル = ムにとびこんだ。冷たいシャワーに 顔を見ながら、首をふった。 身ぶるいしながら、全身に次第に興奮がまきおこってくるのを感じ「ちがうよ」とアドルフはヴィクトールを見上げていった。「彼は ちがう」 大詰めだと ? 「いったい何をやってるんだい ? 」 ホアンと一アイミトロフは、 ・ほくは、部屋の中を見まわした。 本当かな、とすれば こいつは大変なことだ。 ドアをあけたままシャワーを浴びたのに、フウ・リャンは、まだ ほっと緊張のゆるんだ顔つきになり、ヴィクトールは、ニャリと笑 かすかな笑みをうかべたまま眠っていた。起そうかと思ったが、そって近よってきた。 の花びらのような唇に、そっとロづけして、まるくもり上った、か「そう変な顔をするなよ」と彼は・ほくの肩をたたいて、みんなの方 あいい臀にシーツをかけてやった。フウ・リャンは、伸びをし、まに押しやった。「いま、説明する 、つばいちらばってい たほほえみ、そのまま眠りつづけた。 部屋の中には、メモだの、ノートだのがし ドウ・ノット・ディスター・フ 外へ出て、ドアをしめると、ノップに「起さないでくださいーとた。下の管理室からもちこんだらしい黒板には字がいつばい書きな こ。 5 円 8

2. SFマガジン 1968年9月号

ぐられ、テーブルの上には、テー。フ 0 ーダーと、小型の、しかしをちょいとつついた。「あとで、べティ叔母さんの店で、うんとお ・スケール・インテグレーション とにかく、さしあたっては、彼女がどこ ( 超高容度集積 ) 方式をつかった、計算容量の非常に大ごらせてやるからな。 にいるかがわかればいいんだ , そして部屋の隅には、 きいポータブル電子脳がおかれていた。 「いったい何をやってるんだ ? 」・ほくは、みんなの顔を見まわして ダイヤルだのスイッチだの小さなブラウン管だのがついた、いかに いった。「説明してくれ。ーーー犯人が割り出せそうだって : : : ほん も手づくりらしい機械があった。 とうか ? ・」 「その機械はなんだい ? 」 レシーヴァーをはずして、機械の前から立ち上ったアドルフに、 ヴィクトールは、黒板の前に立っといっ まくはきいた。 「順を追って話そう 「電波線の方から、実験用のやつをかり出してきて、ちょいと細工た。「みんなにもまだ、くわしくは説明してないんだ」 「ウルト 「これだけでいいのか ? 」デイミトロフはきいた。「あと、サム したんだーアドルフは、ちょっとばつが悪そうにいっこ。 リンカーンと、クーヤと、ミナとフウ・リャンは ? ・」 ラ・マルティ・チャンネルの電波検出器さ、自動調整装置つきの : 「サムは、八時すぎまで実習だ。ミナはジャコボにつきそってい る。フウ・リャンは、今きいた通りだし、クーヤだけが居所がわか 「それでどうしようというんだ ? 」 彼らには、またあ 「ヴィクトールが、犯人を見つけ出せるかも知れない、というんだらないが、とにかく大学構内にいるらしい / 。しナ「テストがすんでからな : とで話す , とヴィクトーレよ、つこ。 デイミトロフが、やや懐疑的な口調でいった。「・ほくは : はたしてうまく行くかと思うんだがねーーー」 しったい何だ ? ー・ほくは、部屋の隅の機械 「これで ? 」・ほくは呆気にとられた。「これで、どうして犯人が見「そのテストってのは、、 をふりかえった。「本当に、あんなものでーーー犯人がわり出せるの つけられるんだ ? 」 あかね ? 」 「まあ待て、わけを話す」ヴィクトールは煙草をくわえた。 「まだわからんよ , とヴィクトールは肩をすくめた。「だが、ため まり寝なかったと見えて、眼が血走っている。「ところで、フウ・ リャンの姿がずっと見えないんだが、どこにいるか知ってるか ? 」して見る値打ちのある、かなり有力と思える仮説にもとづいて、実 「知ってるも何も : ・ : ・」・ほくはちょ 0 と赤くなった。「・ほくの部屋験してみているんだ。もしまるきりだめでも、すくなくとも、この 方向はだめだ、という事だけでもはっきりする。、ーーすこぶる科学 だ、まだ眠ってる : 「あっ ! 畜生 ! 、ホアンが、掌を拳で・ ( シッとたたいて叫んた。的じゃないかー 「話せよ」ホアンがいった。「その仮説を思いついて、実験をやっ 「残念 ! ついに君に先をこされたか ! 」 ヴィクトールは = ャ = ャ笑いながら、・ほくの横腹たのは、君とアドルフだ。にーー話してくれ、 「まあいい 円 9

3. SFマガジン 1968年9月号

ようとはしていなかった。彼女の存在は、その時、・ほくからひどく首をかしげていった。「私、ほんとの事をいうと、こわいの。気が 。おとついの晩だって、あのヴィジフォーンの予 遠いものに思えた。とりわけ、べッドの中のやさしく柔かい、淡雪変になりそう : のような肉体、・ほくの腕の中で、かしこく、気のやさしい少女のよ告さわぎがあってから、一睡もできなかったのよ」 ・ほくは、ちょっとおどけていった。「あつい うになってしまう彼女の存在、・ほく自身を、ひどく大きくたくまし「そりや大変だ : い存在に感じさせ、父親が小娘をあやしているような気分にひたしシャワーをあびて、ぐっすり寝るんだね。でないと、君のかわいい てしまう、あのかあいらしい睦言、などといったものからは、はる顔が、この花みたいに、しなびちまうよ , フウ・リャンは、ちらと・ほくの顔を横 彼女が、「母 , の役割りの中「そのシャワーだけど : かに遠い存在になってしまっていた。 , 冫いっそう深く足をふみ入れて行くにつれ、ぼくからはますますから見上げた。「あなたの部屋のシャワー、貸してくださらない ? 私の部屋のは、こわれちまってるのー はなれて行くような感じだった。 しいよ」・ほくは、ちょっとどきまきしながらうな ・ほくは、朝日のまぶしさに眼を細め、ミナのシルエットを遠くに その横から、ふいに甘い花ずいた。「よかったらどうそ : : : 」 眺めながら、ゆっくり歩いていた。 そういってしまってから、・ほくはしばらく・ほんやりして、だまっ の香りがプンとただよってきた。半袖のシャツを着て、むき出しの ままだった・ほくの上搏に、冷たくやわらかく、ペタリとしたものがて歩いた。朝日がやたらにまぶしくて、眼がしょぼしょ・ほした。 ー部屋のドアまできて、鍵をあけた時、突然体の中がカッとあっく 一瞬ふれた。 なってきた。あがっていたのか、フウ・リャンを先にいれずに、自 「体中、べタベタ : : : 」 分が先にはいってしまった。そのままずんすん、・ハスルームの方に フウ・リャンは、仔猫のように、・ほくの傍に身を寄せてきた。 「きっと、・ほくたちいま、べーコンみたいな味がするぜー・ほくは、歩いて行くと、背後で内側からおろすラッチが、カチャリと鳴る音 だが、その時 がした。むろん、フウ・リャンがやったのだ。 傍を見かえっていった。「塩と脂でニチャニチャでねー フウ・リャンは、クスリと笑った。笑うと、また、あの花の香りは、その意味がわからないほどあがってしまっていた。 「ハスタオルは、あんまりきれいじゃないよ」と、・ほくは、ぶスル おとついの晩、ニューヨーク が、濡れ羽色の髮からにおった。 の賢者の研究室で、薬物調合係りからもらった花を、彼女はまだ髮ームの洗面台の上を、大急ぎでかたづけながらどなった。「小さく てもよかったら、新しいのを出そうか ? 」 にさしていた。さすがに花びらが重・ほったく、しなびかけている。 「いいわよ、ありがと」 「いい夢を見たかい ? 」 ニッコリ笑い フウ・リャンは、バスルームから出てきたに ・ほくは、つややかな髮の間でうなだれている花を、ちょっとなお それから、いきなり、背中のマグネットジッパーを、 かけた。 してやりながらきいた。 。ヒュッとはずしてしまった。 「夢など見ているひまがあったと思って ? 」とフウ・リャンは、小

4. SFマガジン 1968年9月号

☆コンテストについての詳細は、三七ページの募集要項をごらんください。 ☆今月はほかに次の方々が入選しましたーー千葉県板倉博様、川崎市山野繁様、名古屋市田口精男様 来たんだ ! 古い十年も前の戦争当時のものだが、。ヒッタリ一致する」 彼は小さくうなずくと、右手のつけ根の部分へ、左の人差指を当てた。と同 時に、腕はまん中から二つに割れた。そこにはステンレス・スチールのにぶい 光沢と、複雑なコードが現われた。 「そ、それじゃあ : : : 君は : : : 」 「ハイ、私は主人の完全複製ロポットです。ただの機械です , 彼は、二つに割れた腕をもとに戻した。刑事はすぐに落ち着きをとりもどし た。しかし、彼への言葉使いは変わっていた。 しったいどこにし 「なんだ、ロポットだったのか。それじゃ、お前の主人は、、 るのだ」 「主人は私に警察へ知らせるようにおっしゃいまして、あそこのダストシュ トの前にお立ちになり、。ヒストルを頭に当てて : 「つまりー刑事はいらいらしだした。ロポットになめられていたのだ。 「自殺して死体はダストシュートに落ちたんだな。お前はなぜ止めなかった ? 」 「止めるなと、ご主人様が : : : 」 「もう、 刑事はドアの所にいる部下へ顔を向けた。 帰るそ。機械じゃ話にならん」そして彼の方へ向き直っていった。 。いいな」 「お前はどこへも行っちゃいかん。あした、また来るから 刑事たちがどかどかと部屋を出、玄関まで行った時だった。 突然それは起こった。とっさに、生身の左手で、鼻を押さえたにもかかわら ず、彼は、部屋中に響きわたる特大のくしやみをしてしまっ・たのだ。 刑事が戻って来た。 ( 作者の住所は大阪府羽曳野市島泉 4 ー 2 ー 8 ) 9 7

5. SFマガジン 1968年9月号

外してトランクを空にしたら、段ボール箱が八個入った。会社から 帰ってきてからのことだから、もちろん真夜中だ。一キロも走った ところで突然エンジンが止った。しまったー ガソリンがきれた。 しかたがないから、とぼと・ほあるいてアパートまでひき返し補助タ ンクを連んできて給油したが、空のタンクののるスペースはない。 しかたがないからそいつを道傍に捨てて、やっとのことで走り出 す。スペア・タイヤもおろしたからパンクされたら泣きだ。釘でも おちていそうな道は敬遠してひどい遠回りの末、やっとのことでた どりついた。ところがだ。今度の部屋は四階でエレベーターはない まあ苦しか「たのなんの、最初の一箱をかつぎ込んだとたんに目の ' ( 前がキラキラしてきて、このまま死ぬんではないかとおもってしまグ うほど。とにかく八 0 目を連びこんだときは、もう外が白《と明け 0 ロ 始めていた。 そこで次は会社の若い連中に頼んだ。これなら略奪される危険は アメージング 1927 年 2 月号の表紙 『火星航路にて』の挿絵 ない。だが借りてきた小型トラックを駐車して、あとからア。ハ の中に入って行ったら、奴らが大声で話しているのが耳に入った。 「こんなもの運ふつもりかしら」 「そうじゃないだろ。こりや屑屋にでも売りとばす分だよ。紙屑た 「売っちゃおうか、早いとこ。今、外に屑屋がいたせ」 「ま、待ってくれ ! 」と、私は絶叫しなければならない破目になる そんなこんなでお引っ越しは一頓座をきたし、計二十箱を運んだ たけでまだ大部分は旧居にある始末。 まあそれはとにかくとして、今までみたいにただ、部屋の中に山 積みするのとちがって、誌名や年代別にきちんと整理ができるとい うのは、まことに心がふくらむことであった。必要な資料をとり出 すためのアクセス・タイムが格段にみしかくなる。これだけでも実 、 ) 0 0000

6. SFマガジン 1968年9月号

徐々に郊外へ落下し始めた。一番恐れてゐた火災も越さすに 誰にも意味は判らなかったが、少くとも口がきけたと云ふ点でみん 私達三人は自動車で後を追った。気嚢は眼にみえて縮小した。原な一様にほっとしたものを感じたらしかった。私はその言葉に、大 ロシア 宿の方へ 学で教った露西亜語の様なアクセントを感じた。 『流弾が当ってなけれま、 。しし・カ』 『ドコノネエチャン ? 』 佐山はそれを心配してゐた。 森さんの片腕にぶらさがって、乱れたおかつはを大人のやうに揺 気球は明治神宮の木立へ、かなり烈しく墜ちたらしい 私達りながらナン子が不意に佐山に云ったので、部屋の静かさが破れ はみん / 蝉のタ立のやうな鳴声と蒸れ返る草いきれをわけて、約た。幼女は自分に集る人々の視線をまばゅげに受けて首をすくめ 三十分も歩き廻った。そして、旧御苑の隔雲亭の横で、杉の枝にひた。 っ懸ったすぼんだ気嚢をみつけた。人間は、女は、草むらへ放り出『あちらの二人は ? 』 されて蒼白い額から血を流し、気を失って倒れてゐた。彼女は房々佐山は眼で指しながら誰にとも無く問うた。 とした金髮と、空色の瞳をもっ若い西洋の娘であった。 『 : : : 二人とも今朝気がっきましてな。水とパンを少々やりました よ』 品川駅前の広場にポカンと立って盛んな黒煙を見上けて居た二人と、森さんがナン子の頭に大きな掌を置いて答へた。彼は恐しく トアー まじめな顔で女の側から離れると、隣室と境の扉を一ばいに開いて の巡査に出会ひ、驚く彼等と一緒に大森町へ帰ったのは、それから 其処に並んでゐる二つのふとんの山を見ると、安心した様に踝で振 間もなくであった。 むづかるナン子をあやし兼ねて殆んど自分も泣き出しさうになつり向いて、 ・ : ちゃあ皆さん、 星田 ! お前へは三人を頼んだそ。 て居た人の好い森さんは、生きた三人が帰って来たので、のけそる『おい 階下でお話しませう』 程驚いた。そして今度は本当に泣き始めた。 佐山は女を抱へて二階の男ともう一人の日本の女が寝てゐる部屋と云った。そして四人を、ナン子もよせて五人を連れて部屋から の隣りへはひった。甲斐々々しく森の運んで来る葡萄酒等を口を割去った。 って飲ませた。他の者はべッドを囲んで、女の華奢な喉のゴクリと私は仕方なく取り残されて、寝台の頭の方へ籐椅子を引いて街の 動くのを不安な眼で凝視して居た。、彼は白い手首を握ると、もっと煙草屋で時々盗んでくる ? スプレンデイトの細い金口を一本啣へ もらしく頭をかしげて、ちっと脈搏を数へたりした。それがちっとたまま、様々な瞑想に耽り始めた。ーー此の女は何者だらう ? 何 も不自然に思はれない位ゐに、その場の空気が引き締って居たの処の国の者だらう ? ロシアだらうか ? 名前は ? 年は ? 結婚 してゐるのだらうか ? そして、何故軽気球になんそ乗ってたのだ 女の褪せた唇が微すかに動くと何か一言早い調子で叫んだ。勿論らう ? 自分で乗ったか、無理に乗せられたか ? 繋鎖は何故切れ ー 43

7. SFマガジン 1968年9月号

手がかりをのこして行った。 しかも、その手がかりについて、 「みなさん、いかがです ? ーーー保留ですか ? 」 われわれが何かをつかみそうになると、今度はまた、あわててその 8 サーリネン局長は、一同を見わたした。 みんなとまどった表手がかりを消してしまった、 つまり、一つ、ポロを出すと、次か 情でだまっていた。 ら次へとポロを出す結果になったのです。一つのポロを、かくそう 「よろしい では、一応こうしておきましよう」 としたことが、かえって犯人のいる場所を、ある範囲ではっきりさ 0 、、 0 局長は、と書いた、最後のエスクラメーションマークせたことになりますね ししてすかーー犯人は、例の正体不明の導 だけを消して、クエッションマークに書きかえた。 電物質を、工学部で分析させていることを知らなかったか、あるい は、知っていても、たかをくくっていた。もしくは、知っていて も、別の事で、手がはなせずに、それを消減させている暇がなかっ た。だから、工学部から、大まかな分析結果が出た、とこちらへ知 「やはり、はなんですねーとアドルフがつぶやいた。 らせて来た時、あわてて、われわれの眼前で、その証拠を湮減させ 「そうです , ー—a 局長は、大きくうなずいた。「そう考えるには、 ある程度根拠があるのです」 る、という不手際をやってしまったのです。ーー。すくなくとも、エ 学部から、あの電話がかかってくるまでは、犯人は、その証拠のこ 「どんな ? 」フウ・リャンがかすれた声できいた。 「この中にいるとはいいきれないが、すくなくとも、犯人は、まだとを、忘れていたか、あるいは別の事で、手がはなせなかった。わ われわれときわめて近いところにいる、ということは、たしかでれわれがうけとった知らせを、犯人、または共犯者も同時にうけと す。ーー犯人そのものがここにいるのかも知れない。あるいは、犯って、ああいう非常手段に出たのでしよう」 人の共犯者が、この中にいるのかも知れない。そうでないにして「とすると : : : 」サムが、低い声でいった。 も、最少限、これだけのことはいえます。犯人は、おそらく、まだ 「あの電話がかかってきた時、犯人は、この部屋の中にいたのです われわれの近くにいて、なんらかの方法で、われわれの動静を監視か ? 」 している : : : 」 「だが、それは矛盾がある : とクーヤがいった。「この部屋に 「工学部がおそわれたことですね : ・ と、ホアンがいた いた犯人が、どうやって、はるかはなれたプロックの、工学部に 「その通りーー・さっきも話に出た通り、犯人は、前三回の場合とちある、あのロポットを動かすことができたんですか ? 」 がって、完全な準備ができたから、犯行にとりかかったとは思われ「ですから、その点を考えると、共犯者がいたか、あるいはなんら ない。つまり、犯人にとって、何か予想外の事態がおこ「て、準備かの方法で、われわれの動静を監視していた、としなければならん が完全に完了する前に、あわてて犯行にとりかかったと思われる節でしよう。 どっちにしても、犯人は、すくなくともついさっき がある。そのため、前三回の場合とちがって、今回は、、 しくつかのまで : : : そしてひょっとしたら今も、われわれのかなり近くにいる

8. SFマガジン 1968年9月号

もう・ : ひょっとしたら、あいつのこと、感じられないかも「いいですか ? みなさん : : : 」と彼はいった。 知れない , みんなは、まだだまったまま、その項目を見つめていた。 「でも : : : 」ヴィクトーレ。 : ノカごくりと生唾をのみこんだ。「さっ 。ヒン。ヒンはねているような、特徴のあるホアンの字でこう書いてあ っこ 0 きは この部屋の外でほえてた時は、感じられたんだね ? 」 「うん : 囮犯人は、大学内の人間か ? ーーわれわれが知っている人物か ? ジャコボは、大きな眠を見ひらいて、こっくりとうなずいた。 それとも : 「あいっーーーさっき、たしかに、感じられたよ。 あいつ、ここ 局長は、決心したように、最後の「それとも : : : 」という言葉を にいたよ。窓から、あいつがいるのが見えたんだ : 消し、項目全体に二本アンダーラインをいれて、最後に、こう書き くわえた。 「ちょっと待ってください : 短い五月の夜は、しらじらとあけそめかけていた。 ・ : 」声をかけたのは、ヤング教授だっ ジャコボ坊 しかし、ジャコボの一言で、みんなは、その場に釘づけにされてた。「そう断定するのは、早やすぎはしませんか ? しまった。ーー凍りついたような沈黙が、部屋の中におちてきて、 やの、動物的直感を、そのまま信頼していいかどうか、ということ みんなはしばらく身動きもしなかった、もし、ちょっとでも身動きは、問題があると思うんですが : : : 」 「その通りだと思います , カンジンスキイ警部補も口をはさんだ。 すれば、その人物が犯人だと思われるとでもいうかの如く : 凝結した空気をやぶって、最初に動いたのは、サ ーリネン局長だ「また、たとえ、あの子が本当に真犯人をかぎつけることができる にしても いったい、その指名だけが、決定的な証拠になり得る った。ーー彼は、長身を泳がすように、ゆらりと立ち上ると、ゆっ くり黒板に近づいて行った。そのコツ、コツ、という足音を、ぼくでしようか ? 陪審員は何というと思います ? ーー・まさか、魔女裁 判を復活させるわけには行かんでしよう ? 」 たちは息のつまるような思いできいた。 しま考えなくてもいし : 」とサーリネン 黒板には、ヴィクトールが書きつけた、今度の事件に関する、十「証拠や裁判のことは、、 アーチェリイ 四項目のーー・例の〃洋弓の信号と、〃ジャコボの見たもの″と局長はいった。「ただ、ジャコボがいったように、犯人が、この部 いう二つの項目が、まだ書きつけられていなかったから、本当は十屋の中にいる、ということを、みとめるかどうかだ」 「それも、ぼくは保留したい」とヴィクトーレ : 、 ノ力しった。「局長ー 六項目になるのだが・ーーー疑問が、書きならべてあった。サーリネン 局長は、ゆっくり赤いチョークをつまみ上けると、十四の項目の、 ーぼくはもっと理づめに犯人をつきとめる事ができると思うんで 十二番目をチョークでコッコッとたたいた。 す。そこに書き出された項目を、もっと入念に解析してみれば : 2

9. SFマガジン 1968年9月号

「電波および電流 : : : 電気か : デイミトロフはうなった。「ひ 「まず、この事件の全体を思い出してくれ : ・ とヴィクトール どくありふれたものだったな」 は、黒板の前に立って、腕を組んだ。「はじめからだ。 まず、 「ところが、それがどうも、あまりありふれてもいないようたぜー 最初のあのが予告みだ。あれは、チャーリイをのそいて、全員、ス ーなるほど、電波そのものは、ありふれている。しかし : ・ : ・」 ィッチのはいってないヴィジフォーンを通じてうけた : 「ちょっと待ってくれ : : : 」ホアンが口をはさんた。「なるほど、 「その前のは ? 」とぼくはきいた。「下意識へ送りこまれたやったしかに君のいう通りだ。 しかし、電波や電流だけでは、説明 プサイ しきれないものもある。まず、チャーリイがしめしたという字は ハイプノムネモニックス 「催眠記憶法をつかったんだろうが、それだってヴィジフォーンのどうだ」 スビーカーをつかってやれる , とアドルフ。 「それについては、あとでまとめて説明する , ヴィクトールはニヤ 「それからーー・、大雑把に行くよ。チャーリイが殺されたのは、知っリと笑った。「チャーリイは いや、チャーリイだからああいう ている通り電流だ。そのチャーリイが、夢中で研究していたのは、表現をとったのかも知れない。彼は、〃〃 つまり〃超能力〃 生体電波情報という思考実験だ。それから、サム・リンカーンが、 を電波、または電気だといおうとしていたのかも知れない」 トラソス 「それはおかしい。せ。ーー電波だの、電流だの、そんなありふれた あの部屋の前を歩いていて、突然昏睡状態になったが、その彼は、 エレクトロニック・ソムノレンス 超能力研で、電子睡眠の被験者になっていた。その時の実験ものが、どうして超能力になるんだ ? 」 内容をしらべてみたら、その中に、弱、 し電子ビームを睡眠中枢にあ「たしかにありふれているさーヴィクトールは、自信たつぶりにい ナ「だが、 そのありふれたものも、ある形でつかわれれば、ま てて眠らせると、その照射期間中と、前において、ある部分の脳っこ。 ったく一種の″超能力といっていいものになる。 細胞が、微弱な電磁波に対して、かなり敏感になるらしい、という こいつは、 面白い観察があった」 あとで、チャーリイの研究をトレースしてみる時に話そう 「なるほど ! 」・ほくは思わずうなった。「すると : : : 」 「もう一つ : : 」とデイミトロフがいた。「コン。ヒューターの情 「それから・ーーー例の、工学部の研究室をおそったロポツ報を渡したのは ? 」 トだーとアドルフはいった。「あいつはーー・ー電波リモコンだ」 「大きなコンビ = ーターは、ほとんど全部、メーザー回線でネット 「ヤング教授の部屋で、どうやってあいつを作動させたかで議論がされていることを、忘れてもらっちゃこまるな」とヴィクトールは スティジュナル もち上った時、ぼくは突然、この事件の、きわめて顕著な性格に気 いった。「定置型のコンビューターは、 かならず、電波にむかっ がついたんだ」とヴィクトール。「全部が全部とはいわない。しかて、開かれているんだ。回線数に大小はあってもねーーどうやっ し、・あの十四の項目をじっと見つめているうちに、どの項目の背後て、例の記憶たけを、選択的に消去させることができたかは、まだ にもかくれている、共通のあるものに気がついた。それは : : : 」 謎だが、とにかくコンビ = ーターも、〃電波みという共通項の一端 プサイ 8 2

10. SFマガジン 1968年9月号

「いや」かれの部屋などにはもういきたくなかった。さいわい〃ウ 「ママ、ママの車はここにある ? 」 クライナ″には大小さまざまなホールがたくさんあった。「ホール 「あるわ : : : でも、それが : : : 」 「すぐ鍵をください。重大事件なんです。四十分以内に〃ウクライへいきましよう」 二人は階段を上って、大理石と碧玉で壁を張ったかなり広い場所 ナ〃ホテルにいかなければならないんです。わたしの生死の問題で に入った。前になんのために使われていたのかは知らないが、いま 母はポケ , トから機械的に鍵をとりだした。それから息子のうしは終夜利用できるホールにな 0 ていた。 アレクサンドルは事をはやくはこばなければならないと感じた。 ろすがたをがっかりしたように見送った。ろくに話もできない。い つもず 0 とこんなありさまだ 0 た。自分に時間がなければ、こんど「さ 0 そくだがね、ミスター・ブレイゲン。じつは、あなたがちょ っとまえになにをしていたか、なんでミス・フロナ・メッソンをひ は息子に時間がない。思えば、この二十五年の間、めったにかれに 会うことがなか 0 た。それが悲しか 0 た。 " ほんとに、あたしにはきつけておこうとしたか、わたしはよく知 0 てるんですよ。それか らライターの一件も、やはり知ってます」 男の子がいたのかしら ? ″ ブレイゲンのまゆが上り、あごが下った。かれは息をのんだ。 そのほかなんでもみんなわかってるん アレクサンドルははじかれたようにホテルのリフトからとびだし「ロをきくんじゃないー だ。手みじかに、結論だけいおう。今日じゅうに大急ぎで出発査証 た。そこのデスクにある電話器をつかんだ。 「ミスター・・フレイゲン ? ・・・ = ・アレクサンドル・ウ , イノフです。をもらい、あしたこの国を引きはらうこと。これが第一。つぎに、 すぐきてください。おいそがしいのはよくわか 0 てますがね、でもこの瞬間から、二度とミス・フ 0 ナに会おうとはしないこと」 ブレイゲンはまた息をのんだ。 いま急用があるんです : : : そうです、ここで待ってますからね : : : 」 : はっきりいえば、わた 不安そうに走るブレイゲンの目は、きらびやかなホテルの空気「だま 0 て。一言も、ロ出しはするなー に、なにかそぐわないものがあ 0 た。ここに不法にもぐりこんできしにもやはりきみと同じ能力があるんだ。いや、きみのよりもかな た人物でもあるかのように。アレクサンドルは相手がそばにくるまり強いだろう。嘘だとおもうなら、ひとっためしてみようか。きみ でにすばやく考えをまとめた。なるほど、やつは偶然の成上り者だがわたしになにかいおうとする。そうすれば、わたしはきみがいお 0 たのか。どこかプレトリアあたりをうろついていたち 0 ぼけなカうとしているのと同じ言葉をしゃべる。同時にね。つまりわたしは プト虫、つまらない賭博師。それが運命の手によ 0 て、いきなり国未来をみて、きみがなにをしゃべり、なにをしようとするかを、前 もって知ることができるーー・これを証明しようというんだ。わたし 際スパイ一味の役付になった : 「こんばんは、ミスター・・ウオイノフ。いかがです、わたしの部屋がスポーツンで、すぐれた反射力があるとすれば、二人は = = ゾ ン ( 斉唱 ) でしゃべるだろう。はじめなさい」 にいらっしやっては ? 」 5 8