イミスン - みる会図書館


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1. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

と見つめていた。 一息入れて、「どうだ ? 」 「またあるージ = イミスンは言葉を続けた。「おれの思考が全部読 工ズウォルの視線には灰色の炎が燃え、やっとで返してよこした 思考には凶暴な響きがあ 0 た。「あんたという人は、ジ = イミスンめるふりをするのはよせ。おまえの宗教のこともわかっているんだ 教授、予想以上に手強いな。おれたちの間には妥協の余地はないこぞ。こちらの思考形態がいちばんは 0 きりした時だけ、それも特 に、話をしようと心が集中した時だけしか読めないにきまってい とがはっきりしたー る」 「だが、いま頼んでいる期限っきの約東はしてくれるんだろう ? 「ふりをしているわけではないーエズウォルは冷たく答えた。「で 灰色の目が奇妙に光を失い、長く薄い唇を開けて唸ると、巨大な きるだけ、あんたを迷わしておいてやるんだ , 黒い牙が見えた。 「それがはっきりしないうちは、おれが困るのはもちろんだ」とジ そっけなく、「いやだー ェイミスン。「だが、それほどでもないぞ。いったん、仮説を立て 「そう思ったージェイミスンは穏やかにいった。「それをはっきり たら、おれはそれに従って行動する。もし間違っているとわかった しておきたかったんだー 返事はなかった。 = ズウォルはそこに坐ったままで、かれをじっ時は、おまえの体力に対して、この原子銃がものをいうそ。本命の

2. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

ちが呑みこまれて、消化されちまう」 く見えた。そもて、絹のよう , に滑らかな皮膚に覆われて起伏してい 6 進退きわま 0 て何秒か過ぎた。だが、ぐずぐずしてはいられなる、力強い筋肉が、少くも今のところは、自分の味方だと考えるの 2 。しぶしぶながら、あわてた頼みが飛んできた。 は、ジ = イミスンにとって小気味よいことだった。 「ジ = イミスン教授、いい手を教えてくれーーはやく ! 」 ジ = イミスンは = ズウォルの視線をじ 0 と見返していたが、やが = ズウォルがまた助けを求めている。それも、や 0 てもらえるこてい 0 た。 とを承知の上で。にもかかわらず、お返しの約東はしていない。そ「反重力いかだはどうした ? 」 れに気がついて、ジ = イミスンは気が減入った。 「ここから五、六十キロ北に捨ててきた」 だが、駈け引きをしている暇はなかった。かれは、ぶ 0 きらぼう ジ = イミスンはロごも 0 ていたが、やがて、「そこまでいかなく に思考を送 0 た。「今こそチームワークを発揮すべき時だ。この蛇ちゃならんな。あの蛇で、銃の = ネルギーをほとんど使いはたして に弱点といえるものはない ただ、あるとすれば、攻撃の前に頭しま 0 た。充填しなおすには金属が要るんだが、金属の塊りとい 0 が揺れ出すことだ。ほとんどあらゆる蛇が、そうや 0 て獲物に催眠たら、あのいかだしか心当りがない」 をかけ麻痺させる。実際には、その動作は自己催眠にもな 0 ている しばらく黙 0 ていたが、やがて穏やかに、「もう一つ話がある。 んだが。 や 0 が頭を振り始めたら、間髮を入れず、おれがその両眼〈悪魔海峡〉を無事に渡るまでは、おれに手出しをしようなんて気 を焼いてやる , ーーそしたら、おまえは背中に飛び乗れ、そしてしがを起さないと、ここで誓 0 てもらいたい , みつくんだ。やつの脳は、あの大角の真うしろにある。そこまで、 「おれの誓いを信用するのか ? , 鋼色の、一列に並んだ三つの目が にじり寄って、おれが焼いている間に、喰らいつけ」 不審そうに、かれを見つめた。 思考が藁くずのようにけし飛んだ、蛇が頭を振り始めたのだ。武「そうだ、 者震いをして、ジ = イミスンは銃をひつつかんだ 「よし。誓おう」 蛇は戦いを挑もうというよりは、むしろ死ぬのに抵抗するといっ ジ = イミスンは陰うつに笑いながら頭を振って、「いやだめだ。 た暴れ方をした。力の抜けたジ = イミスンが丸木橋から駈け降り、 そんないいかげんな誓い方じゃ」 地面に〈な〈なと崩折れてからあと、三十分も、蛇の焼け残 0 た体「あんた、信用する 0 てい 0 たように思 0 たが , = ズウ , ~ は不機 は煙を立てながら、のたうち回っていた。 嫌にいった。 や 0 との思いで、かれが立ち上ってみると、 = ズウォルは五メー 「そうとも、だが、次の言葉通りにやってもらいたい」ジ = イミス トルほど先の樹塊の下に、中間の足も地面に着け、前足を胸に組んンはその強力な恐ろしい相手を、厳しい目つきで見すえた。「誓う で坐り かれをじっと見つめていた。 のだ。昇る太陽にかけて、緑の豊かな大地にかけて、瞑想する魂の その青い肌と、体の巨大な塊りそのものが、奇妙に艶やかに美し喜びと不減の生命の栄光にかけてーー」

3. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

ジ = イミスンは腰を降ろした。はじめて、肩に鈍い痛みをおぼろう。話が決 0 たら、でかけようじゃないカ え、体中がこわば 0 ていて、ぐ 0 たりするほど熱く感じた。太陽が蛇がジャングルからゆ 0 くりと滑り出してきた。丸木橋の陸地側 2 見える。このものすごい幻想的な世界の大気をなす白い霞を透しの端から三メートル、 = ズウォルの右手九十メートルの所だ。ジ = て、白い斑点となって、かすかに見える。 イミスンは橋の中ほどを、じりじり進んでいたのが、その時、ジャ しみのような太陽がずっと遠のき、心の中が薄暗くなった。しばングルに生い茂る丈の高い草が、恐ろしく揺れるのに気づいた らくして、はっとわれに返った。眠っていたのだった。 鎌首をもたけた毒々しい無気味な頭と、それに続く、そっとするよ ぎくりとして目を開いた。太陽は東の空にずっと低くなっておうな太い胴体の前部六メートルばかりが目に入り、その場に立ちす り、そして くんだ。 何が起ったかわかると、かれの心はひどいショックを受けて動き ゆらゆら揺れている、その大きな頭が、ちらっと、直接こちらを を止めた。その驚きは大変なものだったが、心はたちまち冷静さを向いた。豚のように小さな目が、かれの茫然とした茶色の目の中を とりもどし、着実に働き始めた。 まっすぐに睨みつけたように思われた。選りに選って、これほど都 空想的な、おとぎ話さながらのことが起っていたのだ。四本の木合の悪い時に、こんな恐ろしい動物に出会うなんて、こんなに不運 は、ずたずたに裂けた。 ( ラシ = ートの残骸をまだっけたまま、頭上なことがあってよいものだろうか。ジ = イミスンは文字通りたまげ にそびえていた。・こが、 ナそれを使ってかれがしようとしていたことてしまった。 が、眠っている間に実現していた。 こうした状態で、大蛇の燃える目に射すくめられているのは、苦 この島ではとても手に入らない、もっと太く、しつかりした丸太悶そのものだった。体中のあらゆる筋肉が一瞬にしてこわばり、火 の橋が、島から陸地に向って、まっすぐに伸びていた。だれがこんの塊りになった。それは、身動きもならぬ、強烈な本能的緊張で、 な大工事をやってのけたのか、もちろん疑う余地はなかった。工ズ この世のものとも思えぬほどだったがーー・事実、そうなったのだ。 ウォルがそしらぬ顔で、六本足のうちの二本で立ち、一本の大木に恐ろしい頭が、ひゆっと横を向き、魂を奪われたようにエズウォ 人間のようなかっこうで寄りかかっていた。その思考が届いた。 ルを見つめ、今度は蛇の方が硬直する番になった。 「恐がるには及ばないそ、ジ = イミスン教授。あんたの意見に賛成 ジェイミスンの体からカが抜けた。一瞬の恐怖は、一瞬にして狂 する気にな 0 たのだ。あんたが陸地に渡るのを助け、その後も協力暴な怒りに変 0 た。かれは = ズウォルに向 0 て激しい思考を投げつ することにした。おれはーー・」 けた。 ジ = イミスンは腹の底から乱暴に笑 0 て、その思考を中途で吹き「おまえは連中の心が読めるから、その危険な動物の接近が感じ取 飛ばした。「嘘をつきやがれ」科学者はとうとういった。「本当れたはずだそ」 は、手に負えないことに出会 0 たくせに。よし、その話に乗 0 てや返事の思考は返 0 てこなか 0 た。大蛇は空き地の方にず 0 とはい

4. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

「もちろん、避けることもできるが、それには、近くにそいつがあ「ええ ? 」ジ = イミスンは、リズミカルにひょこひょこ揺れてい るのを、見分けられなければならん。そいつらが生えている所にはる、青く光る頭を見つめた。「馬鹿をいえ。百三十五度といえばー ー二千五百万か三千万の人口はどうなる。限界は三十八度だそ」 かれはできるだけ心を・ほんやりさせて、 目印しがある。だが , 「この話は、おまえがおれの頭の中を細かく読むま「その通り」 = ズウォルが唸 0 た。「三千万人死ぬ、 暗く笑い ジ = イミスンの頭脳の前に、深淵が口を開けた。このーー・怪獣の で、おあずけにしておこう。 「それに、あの大蛇もいる。連中がおまえを負かすとしたら、おそ思考がどんな結論を出そうとしているかわか 0 て、暗澹たる気持ち らく水の中だろう。だからこそ〈悪魔海峡〉が生死の別れ目になるにな 0 た。かれは乱暴にい 0 た。 「まっかな嘘た。こちらの報告ではーー・」 んだ , 「おれは泳げる」 = ズウォルはびしやりとい 0 た。「八十キロばか「三千万だ ! , = ズウォルは満足気に、しつこく繰り返した。「そ れに、心理摩擦係数の百三十五度が、最大安全緊張限界値の三十八 り、おまえを負ぶったままでも、三時間でな」 「もし、そういうこと度にくらべて、どんな意味を持つか、ちゃんとわかっているそ。そ 「やってみろ ! 」科学者は容赦なくいった。 が全部やれてーー、もし、大洋を渡り、何千キ。のジャングルを横断の限界値は、もちろん、自然環境がきびしければ出る値だ。もし、 することができるなら、なぜ、おれのところ〈戻 0 てきた。もうわ人間どもが、苦痛の原因は、ある知的種族にあると気づいたら、そ そうなったら、こちらの負 このおの抵抗は百八十四度にもなるだろう かった頃だろうが、一人では自分の船へもたどりつけない、 けだ。おれたちが人間の心理をこれほど、徹底的に研究していたと れのところへ ? なぜだ ? 」 「あんたのいくのは、暗いところだ , = ズウォルはいらいらとい 0 は、知らなか 0 たろう , た。「死ぬのに知識はいらん。あんたが抱いている、そうした恐怖ジ = イミスンは、顔色を失い、震えながらも答えた。「五年た 0 たら、カーソン星の人口は十億を超えるそ、そして、いくらか工ズ は、人間が、知的敵対者の面前では、虚勢を張りながらも、不利な う・こう ウォルが生き残ったとしても、少数で、支離減裂で、烏合の衆でー 環境に破れていくのを示す、よい証拠だ。 「だからこそ、あんたら人間にエズウォルの知力を知らせるわけに はゆかんのだ。おれたちは、カーソン星の上に、文字通り、亞の野「五カ月た 0 たら」 = ズウォルが冷ややかに口を出した。「人間 獣的な雰囲気を作り上げてきた。、だから人間が見れば、カーソン星は、ものの見事に、おれたちの星から吹 0 飛ぶそ。革命た。わけも の自然は、あまりにも強烈すぎるように感じるのだ。あんたが、こわからず、衝動的に暴徒がおしよせ、しやにむに星間輸送機に乗り の = リスタン第一一惑星というジャングル星の自然環境に直面するのこんで、耐えがたい危険から逃れようと飛び出すんだ。それに、か サイコ・フリクション てて加えて、ラルの戦艦が突然現われ、おれたちを手伝ってくれる を拒んでいる事実、それに、カーソン星上の心理摩擦係数が実に、 という寸法だ。征服者、人類の、長い野蛮な歴史の上で、これが最 百三十五度にもなっている事実は、とりもなおさずー・ー」 3

5. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

に、敗北から勝利をつかみ取る力がまだあるかのように、びしりとつけられた。くらくらっと目を回しながらも、かれは必死になって ハランスを保った , ーーやがて意識がはっきりした。 いった。「ともかく、もうわかっているんだそ、おまえの読心能力 はひどく大ざっぱなものだとな。どうして、おれの船をあんなにや巨獣工ズウォルはわきにそれて、かりそめの救いの手を、あんな すやすと征服できたのか、おまえは疑う気さえ起さなかったじゃなに優しく差しのべていた大枝から完全に離れ、ジャングルの深い茂 みにとびこんだ。二本の巨木の間を巧みに身をかわして通り抜け、 いか」 一瞬の後には、大洋の、長い、きらめく入り江の岸にでた。その砂 「なぜ疑わなきゃならん ? 」工ズウォルはいらいらしていた。 「今になって思うと、かなり長い期間、思考がまったくつかめなく浜を、風のように身軽に駈け抜けると、その向うのジャングルの茂 なったことがあった。あの時は、ふだん船のエンジンが放出するよみにとびこんだ。工ズウォルからは何の思考も届かなかった。勝ち り、異常に強烈な = ネルギー緊張を感じただけだ 0 た。あれは船が誇った思考の蔓も、今やってのけた大勝利の気配も。 ジェミイスンはいまいましそうにいっこ。 加速していた時に違いない。その時、檻のドアが少し開いているの 「おまえの腹のうちは読めていたから、ああしたんだ。おれたちが に気がついたんだーー・・・それから後は、何もかも忘れてしまった」 科学者は重いものにのしかかられて、胸が悪くな 0 たように顔をあのラルの大型快速船と空中戦をしていたことは認めよう。だが、 しかめながら、うなずいた。「おれたちは、何かすごいショックをもしもおまえが、ラルを味方だなんて考えたら大まちがいだそ。ラ ルは別だ。あいつらはよその宇宙からきたんだ。やつらはーーー」 受けたんだ。星間航行エンジンを全開していたから、もちろん、何 も感知することはできなかったが。しかし、どこかで、おれたちの「教授 ! , びりびり震えるような強力な思考が、ぐいと割りこんで きた。「銃を抜こうなんて気を起すなよ、たとえ自殺するつもりで 脳味噌がでんぐり返すような衝撃があったにちがいない。 「その後で、外部からの危険を警戒していたら、そのすきに、内部もな。ちょっとでも変なことをしてみろ、どんなに荒っぽく痛いや り方で、人間が武装解除されるものか、思い知らせてやるそ」 にいるおまえが百人の人間を襲って殺したんだ、大部分は眠ってい 「おまえは約束した」ジェイミスンはつぶやいた。「敵対行動はと たんだがーー」 ジ = イミスンは細むの注意を払って、体を引きしめ、目は、できらないと 「そうとも、それは守るつもりだーー人間流に、厳密に守ってや るだけ・ほんやりと前方の木の枝に据え、その枝の下を体をかわして る、おれの都合のよい時にな。だが、今はーーあんたの心を読む 通ることだけに、さりげなく意識を集中させようと懸命になったー と、あの生物が着陸したのは、反重力いかだのわずかなエネルギー ーだが、かれの真意は、緊張した頭脳から外に漏れたらしい 冫カくんと後足での放出を探知したからだ、と考えているな」 工ズウォルはだしぬけに、馬がはね上るようこ、 : 9 立った。ものすごく乱暴な動作だった。ジ = イミスンは鉄砲玉のよ「単なる推測だ、とジ = イミスンはそっけなく、「何か必然的な理 2 うに前に投げ出され、鋼鉄のように堅いエズウォルの背に、たたき由があるはずだ、それに、おれが船の動力を切ったように、おまえ

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島のず 0 と上手の方に移動していた。その頃には、かけられていたも、あんたと協力せざるをえなか 0 たかも。本当に、そうせざるを えなかったのだ ! トリック・ミラー催眠の効果を、おれはすでに脱していた。それで、 「そして、リット草の知能には、エズウォルの性格のいちばん悪い 人間の戦艦とラルのクルーザーが戦いを始めたのを聞いたのだ。こ その音が聞えなかところばかりが、生き写しになっていることがわかった、これを忘 の連中は何が起ったか気づかなかったらしい 0 たからだと思うがーーそれで、じめじめした湿地の方〈、てんでれるな。こいつにも、知的テレ。 ( シーがある。そして、こいつもま た、自分の惑星を維持する能力もないうちに、機械文明を発達させ にはい出していた。 「この時だ。蔓草と意志の疎通ができて、こちら〈呼び戻したのはるに違いない。まだ発達の初期の段階にあるが、それだけ余計に頑 こんなわけで、あんたが、あんなに長いこと、熱意をこめて説固で、物解りがわるく あまりのことに、ジ = イミスンはあきれかえて、顔をしかめ、希 き続けてきたような、あの協力形態の一種ができ上ったのさ、とこ 望の火をまたかき立てる気も起らなかった。乱暴にいった。「冗談 ろが 皮肉なことに、ジ = イミスンが、あれほど奮闘努力してきたのじゃない。お前は自己流で、見事にや 0 てのけたじゃないか。それ が今になって、今度はおまえの自由意志で、おれに助けの手をさし に、結局、希望はついえ去ってしまったのだ。 極めて当然のような口ぶりで、 = ズウ , ルが投射してよこす言葉のべている、つまり、手遅れにならないうちにおれをカーソン星に の一つ一つが、またしても、この計り知れない力を持 0 た生物には、連れ帰して、 = ズウ , ルに都合のよい形で革命を抑えさせようとい うのだな。こすからい畜生め ! 」 自らを処理する非常な能力が備わっていることを立証していた。 この草だけは、この原始の世「ところが自由意志ではないのだ、教授」てきばきした思考が届い リット殺し屋草と協力するとは た。「ふたりでこの惑星にやってきて以来、おれがしたことは、す 界で、ほんとうにエズウォルを脅迫するネタになると当てにしてい べて、そうせざるをえなかったのだ。おれがどうしようもなくて、 たのに。 もう手はない。それに、もし二つが力を合せて向 0 てくるとなれあんたのところに助けを求めに戻 0 た、とあんたが考えたのは当 0 ていた。いかだから降りた時、この蔓草やろうはこの半島全体に広 かれは銃をかまえた「だが、暗い思考は続いた。 がっていて、おれの話を頑固に聞き入れす、どうしても通してくれ 人類がエズウォルを真に征服することができないのは明らかだ。 よ、つこ 0 心理摩擦係数百三十五度ともなれば、カーソン星には革命が起り、 「うじ虫をご馳走してやったのに、全然ありがたいとも思わない それから後、長い間、血みどろの無意味な闘争が続きーーかれはエ で、今度はこの船の一室におれを追いつめやがった。 ズウォルがまた思考を送っているのに気づいた。 「教授、銃を抜いて、このいまいましい生物に大切なことを教えて 「ーー・が、あんたの論理の唯一の欠陥だ。この四日間というもの、 ラルの脅威について考え抜いた。それに、どうしてあんなに幾度や 0 てくれ , ー・・協力しろ 0 てー ま

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ャングルがぶつつりと跡絶え、暗い逆巻く水塊にのみこまれる所が 、には星々にまで到達したとは、ちょっとばかり、すばらしいこと じゃよ、 ある、これが〈悪魔海峡〉だー 「では」やがて、ジェイミスンが穏やかにいった。「生きのびるつ 「ばかばかしい ! 」その答には、いまにも勘忍袋の緒が切れそうな もりでいるんだな。おまえの長い一生の間、大昔から先祖代々、お気配があった。「人間も、人間の思想も、一つの疫病なのだ。その まえたちは、その堂々たる肉体を唯一の頼りとして生きのびてき証拠には、たった今も、あんたにはもっともらしい議論を吹っかけ た。一方、人類は洞穴におどおどと群がり、火が身を守るためにもてきた。一応妥当に見えるが、その実は、もう一度おれの助けを引 使えることを発見し、死にもの狂いで、今まで存在しなかった武器き出そうという魂胆なのだ。不正直もいいかげんにしろ。もっとは を作り出し、いつも一足違いで狂暴な死から逃れてきたーー、その何つきりした証拠がほしければ、おれたちが着陸する瞬間を想い描い 百万年の間、カーソン星の = ズウォルは肥沃な大陸をわがもの顔にてみればよい。たとえ、おれが手を下さなくても、その瞬間から、 徘徊し、恐れを知らず、知力も体力も匹敵するものがなく、家も、 あんたの貧弱な肉体は、恐ろしい危険に絶えずさらされることにな 火も、衣服も、武器も作る必要がなくーー」 るのだそ。それに引きかえ、おれはどうだーーー下界には、肉体的に = ズウォルが冷やかに口を出した。「厳しい自然環境に適応するはおれよりも強い野獣がいるかもしれないが、それとても大した変 ことが、高等生物の終着点の一つになるはずだということは、あんりはあるまいから、たとえそいつが狡猾に空を飛ぶようなやつで たも同意するだろう。人類は文明なるものを作り上げてきたが、そも、おれの知力が弱点を補 0 て余りあることは、あんたも認めざる んなものは実際には、かれらと自然との間に築かれた、物質的な壁を得まい。そしてーーー」 にすぎない。だが自然はあまりにも広大、奔放で、絶えず全人類の「何も認めはせんそ , ジ = イミスンはびしりとい 0 た。「おまえの 存在をのみこもうとしているのだ。人間など一人一人では、たわい命が危うくなること以外にはな。それに、人間が持 0 ているとい 0 ない、脆い、取るに足りない存在であ 0 て、ち 0 ぼけな財産をや 0 て、おまえが軽蔑している技術性そのものが、自分に欠けているこ きにな 0 て引 0 張っているが、結局は、病にむしばまれた肉体がだとを知って、その鼻の先にぶらさが 0 ている感情主義を総動員して めにな 0 て、浅ましく死んでゆく奴隷なのだ。不幸なことに、このも追いっかないほど、悔むことになるんだそ。物質的な武器のこと 奇形の弱虫どもの集団には、恐るべき権力欲と殺戮本能があるのじゃなくてーー」 で、正気で健全な宇宙の種族たちにとって、現存する最大の危険に 「あんたのいい草など、問題にもならん。そんなインチキの糞理屈 な 0 ている。人類がより良き種族を汚染することは防止すべきだ」を、あくまでいい張るつもりらしいが、下界のジャングル島から生 ジ = イミスンは、そっけなく笑った。「だが、おまえだって同意きて出てくることが、できっこないとわかっただけだ。だから してくれるだろうが、取るに足りぬ、おどおどしたいの余小者数分前に鋼鉄の鎖をたたき切 0 た、あの巨大な腕が、ば 0 と見え が、あらゆる困難にみごとに打ち勝ち、あらゆる知識を吸収し、ったと思うと、さ 0 きと同じように一挙動で打ち下ろされた。 2 2

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宇宙船が、エリスタン第二惑星の湿っはい霞の中に姿を消すと、 ジェイミスンを貫いた。冷たく、ゆったりとした思考が 0 ジ = イミスン教授は銃を引き抜いた。巨大な船が巻き起す、すさま「あんたとおれは、ジ = イミスン教授、大変よく理解しあってい 2 じい気流の中に、ずいぶん長いこともてあそばれていたので、体中る。あんたの船の百何人かの人間のうち、あんただけが生き残っ が弱り、うちのめされた感しだった。だが、今はもう頭上にゆるやた。だから、あんたらがカーソン星と呼ぶ惑星のエズウォルたち かに揺れている反重力プレートから、金属ケーブルでつながった背は、無感覚な野獣ではなくて、知的生物だということを知っている 負い革に、危機感のために緊張しながら、ぶらさがっていた。目をのは、あんただけになった。おれは船に残ることもできたし、そう 細めて見上けると、エズウォルは反重力プレートの縁から、用心深すれば故郷へ帰ることもできたのだ。だが、万一、下の危険なジャ くこちらを見下ろしている。 ングルから、あんたに脱出されたりするよりましだと思って、あん その一列に並んだ三つの目は、鋼鉄を磨いたような鈍い天色で、 たが自分をロックから射ち出す瞬間に、おれはこの反重力いかだの まばたきもせずにかれを見つめていた。大きな、がっしりした青い上に、死にものぐるいで飛び乗ったのだ。どうもよく解らないの 頭が油断なく宙にかかっていて , ーー・ジェイミスンにはわかっていたは、操縦室のドアをおれが打ち壊している間に、なぜあんたが逃け のだが かれが射っ気を起した瞬間に、さっと後にひっこめるつ出さなかったか、ということだ。あんたの心の中には、・ほんやりし た恐布のイメージがある、だがーーー」 もりで身がまえているのだ。 「さあ , ジェイミスンは乱暴にいった。「着いたそ。ふたりとも敬ジェイミスンは笑っていた。自分の笑い声は耳ざわりだったが、 愛する故郷の星から、十万年も離れた所へな。そして地獄みたいなそれにともなう陰惨な思考は痛快だった。「おまえはなんてあほう 原始林に向って落ちていくところだが、あそこは、おまえにおれのなんだ ! 」とうとう息がつまった。「これから降りる所が、どんな 思考を読む能力があるからって、カーソン星に孤立して暮らしてい所かまだわからないのか。あのドアをおまえが打ち壊している時、 るだけでは、想像もっかない場所なんだ。たとえ三トンもあるエズ船はこの星で最大の大洋の上空を飛んでいたんだ。いま足の下で光 ウォルだって、あそこじゃ命はないそーーー一匹だけじゃあな ! 」 っている、たくさんの水たまりは、文字通りその大洋の続きで、 長い指に、鉤爪の生えた大きな足が、いかだの横からじりじりとたるところ兇暴な野獣がうようよしているんだそ。それに、この先 下りてきて、ジェイミスンの背負い革を吊している金属ケーブルののどこかに〈悪魔海峡〉があって、八十キロの水面がこの大洋ジャ 一本をさっとはたいた。。 ヒーンと澄んだ鋼の音がした。その一撃でングルと向うの大陸とを隔てているんだ。おれたちの船は、ここか ら千数百キロばかりの所で、その大陸に墜落するだろう、たぶん ケーブルは、まるで腐った麻糸のように切れた。 巨大な足は、汚れた閃光のようにさっと引っこんで見えなくなつな。そこへ行くには、魑魅魍魎の巣になっているその八十キロを横 た。そのあとには、何事もなかったように、大きな頭と、冷静な、断しなくちゃならんのだ。これで、なぜおれが待っていたか、なぜ まばたかない目が、かれを見下ろしていた。やがて、一つの思考がおまえがこの反重力プレートに飛び乗るチャンスがあったか、わか ちみもうりよラ

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: 、ばっさり殺されるなどと考えるのは、妙に不安なものだった。 や、待てよーー防衛サイコ って思考を中断した説明はつかない。い ジ = イミスンは心を引き締めて、しゃんとさせた。では、エズウ シスとというものは主として、あのような突然の閃光の干渉作用に 慣れていない、野獣その他の未開で原始的な生命形態に対して使用 , ルは死体にな 0 たのではなく捕虜にな 0 たのだ。ではーー・さて、 どうしよう ? ・ されるものだ。 ほっとしたのもっかの間だった。大勢乗り組んでいる、重武装ク かれは、淋しそうに顔をしかめた。考えてみれば、エズウォルは ルーザーが相手では、手も足も出ないだろう。かれは・ほんやりと考 優秀な頭脳を持ってはいるものの、その実ひどく野獣的な未開の生 えた。 物であって、おそらく機械的な催眠作用に対しては強いアレルギー を持 0 ているのだろう。絶対に、あれは移動可能の重プ 0 ジ = クタ十分た 0 た。すると深まりゆくたそがれの中から、一連の = ネル ーで殺されたのではない。もしそうなら、その武器の音がしたはずギー・プ 0 ジ = クターの硬いひびきが、雷鳴のように聞えてきた。 だし、あんなに瞬間的な思考の歪みは起らなか 0 たはずだ。あれそれに答えるように、少し規模の小さな音がした。それから、もう 一度、今度はもっと遠いが、まごうかたなき二百五十サンチ戦艦用 は、まるで捻じ曲げられたように かれは一瞬、ひどくほ 0 とした気分にな 0 た。あの強力な動物プ 0 ジ = クターの片舷一斉射撃の轟音がひびいた。 「一ック

10. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

「やつはまだ、おまえの後をつけているのか ? 」 は、おれが焼き殺してやる、そうしたら、おれを乗せて、足の続く 「そうだ ! おれを研究しているらしい。どうしたらいい 限りつつ走れ , 疲れがけし飛んだ。きつばりと「では、まず次の二つの条件をの「用意しろ ! 」そっとするような、冷たい波となって答えがはねか め。おれたちが協力者であることを認めろ。それから、カーソン星えってきた。「二、三秒で、そこへ行くそー について、人類とエズウォルがこれからどうしていくかも含めて、 考えているひまはなかった。ゃぶが踏みしだかれた。霞を通し ししか ? ・」 ほかのことはすべて、後から協議すること。 て、六本足のエズウォルの姿が、ちらりと見えた。十数メートル先 工ズウォルの思考は、まるで野獣の唸りそのままだった。「まだ に、そのスレート色の、一列に並んだ三つの目が火の玉のように浮 くどくどいってやがる ! 」 んだ。そして、ジェイミスンがやけくその期待をこめて、銃を向け ちょっとの間、科学者ジェイスミンは、過去数時間の激怒や、緊ると 張がいっぺんにすごいカで頭脳にのしかかってくるような苦痛を覚「あんたのためだ ! 」工ズウォルの思考がとびこんできた。「射っ えた。それが爆発して、思考は荒れ狂う炎となってほとばしった。 な。動くな。おれの上に、一ダースもいるんだ、それに 「ばかやろう、きさまらはあらゆる事柄を何でもばらばらに考える ニズウォルの頭上で、目もくらむばかりの白い閃光となって、エ が、それらはすべてこの問題から発生しているんだそ。約束しろー ネルギーがひらめき、一瞬にして消えた。すると、それまで、強力 ーさもなきや、くそでも喰え」 に流れ出していた思考が奇妙に砕け、ごちやごちゃに乱れて途切れ それに続く静けさには、どろどろした、形のない思考に、里く ろどられた情緒が渦巻いていた。ジ = イミスンのまわりでは霞が薄霧がいちだんと濃く渦巻き、息もつまらんばかりの灰白色が、そ れかけていて、茂ったジャングルの薄暗がりに溶けこもうとしてい こに起ったことを包み隠してしまった。 た。ついに返事があった。 同時に、ジェイミスンの姿も包み隠してくれた。 「あんたが悪魔海峡を無事に渡れるよう、助けることを約束する。 かれは凍りついたように身をこわばらせて横たわりーー・待ってい マインド・リーディング それで、すぐそこへ行くがーーーまず、こいつをまかないことには た。ここ数時間というもの、読 心がごく当り前になってしま ジェイミスンは、厳しい顔つきで、すぐ答えた。「それでよしー っていたので、 h ズウォルがその気にならなければ、こちらは思考 ーだが、ラルをまけるなんて考えるなよ。連中には完全な反重力性をキャッチできないのを、ちょっとの間忘れて、その中絶した思考 がある。それに比べれば、おれたちのあの反重力いかだなんて、 波の奥を探ろうとして、かれは精神を集中した。 ラシュート の親玉みたいなものだ。ほっといたって、自分の重みで結局、一人相撲に終り、自分だけの物想いにふけってしまった。 落ちてしまったろう , ラルどもはエズウォルに、一種のサイコシスを起させたに相違な 緊張して、一息入れ、「わかったな ? おまえをつけているラル 。それ以外には、あれほど強力な精神が、あんなに支離減裂にな 8 3