地球 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1968年9月臨時増刊号
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1. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

にマイクルズ博士は かたがありません。しかし、この視点から眺めてみるとーーー一千マ 4 演壇にのぼった。照イル上空から撮影したものですーー・それが、この半球でどれだけの 6 2 菱第第蕣・明が暗くなった。 大きさを占めているかは、一目瞭然でしよう 月面の写真がスク彼はフロイドが、見慣れない角度からとった見慣れた物体の写真 リーンに映しだされを頭に入れてしまうまで時間をおいて続けた。「過去一年にわたっ た。円盤の中むに、 て、私たちはこの地域の磁気測量を低空衛星を使って行なってきま まばゆい白色の火口した。測量は先月終ったばかりでーー・・これがその結果ですーー・トラ の周壁が見え、そこ ブルのきっかけを作った地図ですー から目を奪う輝条が 別の写真がスクリーンに映しだされた。等高線地図に似ている 広がっている。だれ が、示しているのは磁気の強さであって、海面からの高さではない。 一かが月面に袋のメリ ほとんどの地域では、線はだいたい平行で、間隔も大きく離れてい ケン粉をぶちまける。ところが地図の片隅で、とっぜん線が同心円を描きだし、ぎつ た、ちょうどそんなしりとつまりはじめているのだー・、ーちょうど木の節のあたりの年輪 ふうな感じに、それのように。 は八方にとびちって素人の目でも、月面のこの地域で磁場に奇妙なことがおこってい ることはわかる。地図の下の部分には、大きな文字でこうあった。 マグネティック・アノマリイ 「この垂直写真でティコ磁気異常 1 号 (e 1 ) 。そして右上にはスタンプの は」とマイクルズ文字。極秘 は、中央の火口を指「はじめは、磁性を帯びた岩が露出しているのだろうと思いまし さしていった。「テ た。しかし地質学的な証拠はすべて、それを否定するのです。巨大 イコは、地球から見な = ッケルと鉄の隕石でも、これほど強い場は作りだせません。そ るよりもずっと異彩こで調査してみることにしました。 をはなっています。 第一次調査隊は何も見つけることはできませんでしたーーあたり 地球からの観測では、月塵のごく薄い層におおわれた普通の平原でした。一行は磁場 、第一行 0 てしまうからしフィートのところで、 ドリルが停止しました。そこで一行は掘りは を第囀物差 1

2. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

してつくった帯である。通り道に沿って規則 正しく立ちならぶ細長い棒の先端では、明り が明減している。今は夜、夜明けまでまだ数 時間あるが、クラビウス基地からへ の二百マイルの道のりも、これで迷うことは ・メキシコや 頭上の星は、晴れた夜ニ = ー コロラドの高原から見上げる星に比べて、そ れほど明るくも、それほど数が多くもない。 しかし地球にいるという錯覚をぶちこわすも のが、その漆黒の空には二つあった。 北の地平線に低 一つは、地球そのもの くかかるまばゆいかがり火である。その巨大 な半球からふりそそぐ光は、満月の何十倍も の明るさで、あたり一帯を冷たい青緑色の螢 光でつつんでいた。 もう一つの現象は、東から斜めに空にの・ほ っている、かすかな真珠色の円錐形の光だっ た。地平線に近づくにつれ、それは明るくな り、その下に巨大な火が隠されているのをほ のめかしている。その青白い輝きは、数少な い皆既日食のとき以外、地球では見ることは できない。それはコロナ。まもなく太陽がこ の眠れる土地を強烈な光で打ちのめしに来る ことを告げる、月の夜明けの先がけなのだ。 運転席のすぐ下の前部観測ロビーに、 ポーセンやマイクルズといっしょにすわりな がら、フロイドは、三百万年という年月 急に目の前に開けた時の深淵ーーのことを考 えまいとしながらふと考えている自分に、何 旁み度気づいたかしらない。科学的素養を身につ けた人間の常として、彼はそれ以上の長い年 月を考えることにも慣れていたーーーしかし、 それは星の運行とか生命のない宇宙のゆっく りした回転などに限ったことで、精神とか知 性とは関わりあいのないことだった。そう った年月は、感情のたちいる余地のないもの 。こっこ。 三百万年とは ! 数々の帝国と皇帝、数々 の勝利と悲劇を内に含む、文字に書かれた歴 史の無限に複雑なパノラマも、その驚くべき この黒い 期間のわずか千分の一にすぎない。 謎が、月面でもっとも明るい、もっとも雄大 な火口のなかに細心の注意をこめて埋められ たころには、ヒトばかりでなく、地球に棲息 している動物の大部分は存在しなかったの それは意図があって埋められたものである とマイクルズ博士は確信していた。「はじめ は , と彼は説明した。「地底の建造物のあり かを示す標識かもしれないと考えたんです よ。しかし、このあいだの掘削の結果、・その ◆ - 」 0 267

3. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

る。 定になったのである。ェアロックの内側のドアがあき、歓迎委員た 残念なのは、その事実に気づいている国家が、今のところまた少ちがはいってきた。 ないということだ。 先頭は、南部地域ーーっまり基地とそれを中心にするすべての調 査隊ーーの行政官、ラルフ・ ハル、ポーセン。すぐそばには、このあ いだの訪問で知己になた初老の地球物理学者で、科学部長である 着陸の直前まで目を見はるばかりにそびえていた山々は、月面のロイ・マイクルズ博士のほか、五、六人の主要な科学者や幹部職員 急激なカープに災いされ、地平線のかなたに嘘のように消えた。月がいる。彼らは安堵と尊敬の入りまじった表情でフロイドを迎え 船の周囲にある平坦な灰色の平原は、空にかかる地球の光を受けてた。行政官を含めて全員が、悩みごとから解放されるチャンスを心 昼のように明るかった。空はもちろん完全な黒色だが、月面の反射待ちにしていることは明らかだった。 「よくいらしてくれた、フロイド博士」とハル、ポーセンはいった。 から目をおおっても、見えるのは比較的明るい恒星や惑星だけだっ 「旅はどうでした ? 」 珍妙なかたちをした乗物が何台か、アリ = ス型宇宙船に近づ「楽しかったですよ , とフロイドはこたえた。「あれ以上は望めな いな。乗員はみんな親切にしてくれたし いてくる。起重機、巻上げ機、補給用トラックーーーオートマチック 宇宙船から離れゑハスのなかで、彼は儀礼的なとりとめのない会 もあれば、狭い気密キャビンのなかに運転手がいるのもある。この 滑らかで平坦な地帯では、乗物の運転に伴う障害が何もないので、話をかわした。無言のとりきめがあるのだろう、彼の訪問の理由に 大部分が低圧タイヤだ。しかし一台のタンカーは、独特の自在車輪触れるものはなかった。着陸地点から千ャードほど行ったところ で動いていた。長年の実験の結果、それが月面を走るには最適の型で、。 ( スはこんな文字のある大きな標識の前に来た。 の一つであることが判明したのである。一連の平たい皿が輪を作る クラビウス基地へようこそ ようにならべられ、皿はそれそれ独立して固定され、ばねがついて アメリカ合衆国宇宙飛行技術部隊 いるので、その祖先であるキャタピラーに比べても、自在車輪は多 くの利点を持っている。地形に応じて直径やかたちを変えることが 一九九四年 できるし、キャタ。ヒラーと違って、部品がいくつか欠けても性能は 変らない。 ・ ( スはそこから岩の切通しにはいり、大地はたちまち頭の上に来 小型バスの伸縮チ、ープが、ゾウの太い鼻のように宇宙船の側部た。前方で巨大なドアが開き、。 ( スが通りぬけると背後で閉じた。 を慣れなれしくこすりはじめた。数秒後、外側から何かがぶつかるこれはもう一度、さらにもう一度続いた。最後のドアがしまると、 音が聞え、空気の噴出音がそれに続いた。接合が完了し、気圧が一空気が轟音をあけて侵入し、一行はふたたびシャッ一枚ですごせる こ。 2

4. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

トが最後にもう一度噴射を行ない、船は小さな波のあおりを受けたれに限らずほとんどの元素が、捜す技術さえあれば、月の地底に見 、ポートのようにかすかに揺れた。フロイドは数分かかってようやく、つかるのだ。 あたりをつつむ静寂と四肢をとらえている弱い重力に気づいた。 基地は地球の小型模型ともいえる閉鎖組織で、生命をかたちづく 人類が二千年にわたって夢見てきたこの信じがたい旅を、彼は事る化学成分のすべてが、その内部を循環している。空気を浄化する 故一つなく、わずか一日とすこしばかりで終えたのだ。きまりきつのは広大な「温室」ーー月面のすぐ下に埋められている広々とした た、変りばえのしない飛行を経験しただけで、彼は月に着いてしま円型の部屋だ。夜はまばゆい照明を受け、昼はさしこんでくる太陽 ったのである。 光線を受け、暖かい湿った大気につつまれて、ずんぐりした緑の植 物が何エーカーにもわたって生い繁っている。それらは、大気に酸 4 クラビウス基地 素を補充し、さらに副産物の食料をも手に入れようとするさしせま った目的で作りだされた特殊な変異植物である。 直径百五十マイルのクラビウスは、地球側の月面では二番目に大大部分の食物は、化学加工システムと藻類栽培によって作りださ きな火口で、南部高地の中央部に位置している。誕生は古く、長年れる。何カードもの透明なプラスチック・チ = ーブを流れる緑色の 月にわたる火山活動と宇宙からの落下物によ かすは、とても美食家の食欲は刺激しそうも ? て、周壁は傷つき、火口底はあばた面をさ ない代物だが、 生化学者の手にかかると、専 らしている。しかし、小惑星帯の破片が内惑 門家たけにしか区別のつかないチョップやス 星をまだ痛めつけているとき、火口生成の最 テーキに変貌するのだ。 後の時代は終り、以来それは五億年にわたっ 基地を構成する千百人の男子職員と六百人 て平和をむさぼり続けてきた。 の女子職員は、みな高度の訓練を受けた科学 者や専門家で、地球における慎重な選衡を経 そして今、その表面や地下では、新しい異 様な活動がはじまっていた。な・せならそこに てきたものばかりである。月面の生活は、今 では事実上、開拓時代初期にあったような困 人類は、月面最初の永久的な橋頭堡を築いた 、難、不便、ときたまの危険はないも同然だ からだ。緊急事態のさいには、クラビウス基 が、それでも心理的には相当に負担となるの 地は完全に自給自足となる。生命維持に必要 なものはすべて、付近の岩を破砕し、熱し、 で、閉所恐怖症の気のある人間などには適さ 化学的に処理することで製造される。水素、 ない。また、岩盤や高密度の熔岩をくりぬく 酸素、炭素、燐ーー、このすべてが、いや、こ ~ 地下基地の建設は、経費と時間のかさむ作業 258

5. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

十。 ( ウンドだと知って小躍りする。一定の速 なので、標準的な一人用「居住区 , は、わず き。・度で直線運動を続けているかぎり、彼はすば か幅六フィート、 奥行き十フィート、高さ八 らしい浮遊感を味わうことができる。しかし フィートである。 進路を変えようとしたとたん、つまり角を曲 部屋にはいずれも気のきいた家具が整えら れており、べッド兼用ソフア、テレビ、小型 、 ~ ~ ~ みろうとしたり、急にとまろうとしたりすると ハイファイ・セット、そして : : : 電話と、高 たんーー昔の百八十パウンドの質量、または 級なモテルの部屋を思わせる。室内装飾とい 霧 ~ ~ 、 ~ 化一、一 ( ・慣性が、まだそこにあるのに気が 0 くのだ。 えば、さらにそこには一つの仕掛けが施され ている。スイッチをひねるだけで、無地の壁 一面が丸ごと、実物と見まがう地球の風景を だからである。そんなわけで、月面の生活に うっしだすのだ。風景は八種類の選択が許さ 適応しようとすれば、地球上の重さに比例し れる。 て物体の動きが六倍鈍るという事実を知るこ これらの豪華設備はこの基地特有のもので とが先決問題となる。通例、これは無数の衝 突としたたかなショックを経て学ぶレッスン あり、地球にいる人間のなかには、その必要 性が納得できないものも少なくない。しかし、クラビウスに勤務すである。だから古手の職員たちは、新参者がひととおり慣れるま る人間には、一人あたり一万ドルの訓練、輸送、居住の経費がかけで、あまり彼らに近づかない。 られているのだ。 / 彼らの心の平和を維持するために、もうすこし余工場、オフィス、貯蔵庫、コンビ、ーター・センター、発電機、 分に金をかけても、それだけの値打ちはあるのではないか。これは格納庫、キッチン、研究所、食料加工所などからなる複合体、クラ 芸術のための芸術ではない。正気を維持するための芸術なのだ。 ビウス基地は、それじたい一つのミニチュア世界である。そして皮 この地下帝国の建設に投了された技術は、半世紀にわ 基地の生活 , ーーというより月面の生活ーーの魅力の一つは、疑い肉なことに、 なく低重力にあるだろう。低い重力は、肉体にはとほうもない安らたる冷たい戦争のあいだに開発されたものなのだ。 ぎを与える。しかし、それなりに危険も存在し、新参の移住者たち防備堅固なミサイル基地で働いた経験のある人間は、このクラビ がそれに慣れるまでには数週間がかかるのだ。月面では、人体はまウスでもいっこうに不自由は感じない。月面にあるすべての技術と ハードウェアは、地下の生活と敵意に満ちた環境からの防備を目的 ったく新しい反射運動を学ばなければならないからである。質量と 9 5 重量を区別する必要が、ここではじめて生まれる。 とした地球上のそれとすこしも変らないものなのだ。一万年の後、 2 地球上で体重百八十。 ( ウンドの人間は、月面ではそれがわずか一一一人類はようやく戦争に匹敵する刺激的なものを発見したわけであ

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去っていった。 おかしなものだ、 フロイドの服のラジオが、もの思いをたちきった。「計画担当主とフロイドは思っ 任です。こちら側に並んでいただけませんか。写真をとりたいのた。氷河期が地球で はじまったころから で。フロイド博士、まん中に立ってください マイクルズ博士ー ーああ、どうも : 地中に埋められてい このシチュエーションをこつけいに思っているのは、フロイドだ たこれーーーこの物体 、、 : はじめて日 けのようだった。しかし彼にしても、正直なところ、だれかがカメ ラを持ってきたことを喜んでいた。歴史的な写真になることは疑いざしのなかに出ると ない。そのコビーは彼もほしかった。ヘルメットの奥にある自分のき、自分はこうして 顔がはっきり写っているように、と彼は願った。 見守っている。彼は 「ありがとう、皆さん , モノリスを前にして、ややはにかみながらふたたびその黒い色 ポーズをとっている一行に十回あまりシャッターを切ると、写真家のことを考えた。太 はいった。「基地の写真部から皆さんにコ。ヒーが行くと思います」陽エネルギーを吸収 フロイドは漆黒の石板に全神経を集中するとーーその周囲をゆっするには、もちろん くりと回り、あらゆる角度からそれを調べて、その異質さを心に刻理想的な物質だ。し みつけようとした。その表面の一平方インチごとに顕微鏡的な調査かし彼はすぐこの考 が行なわれたことを知っていたので、目新しいものが見つかるとはえを押しのけた。太 思っていなかった。 陽熱を動力にする装 そのころには、のろまの太陽も穴の縁からのぼり、光線を石板の置を地下二十フィー トに埋める馬鹿がど 東側の面にほとんどまともに注ぎかけていた。それでも石板は飽き こにいるだろう ? ・ ることなく光の粒子を一つ残らず呼吸しているようだった。 フロイドは簡単な実験をしてみることにした。モノリスと太陽の彼は、空で白みか あいだに立って、なめらかな黒い面にうつる自分の影を捜したのでけている地球に目を ある。影はなかった。少なくとも十キロワットの熱が、石板に吸いあげた。あそこにい こまれているにちがいない。なかに何があるにせよ、それは急速にる六億の人間の 焼きあがっているはずである。 ち、この発見を知っ 272

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宇宙のオデッセイ 20 ① ラーサー c ・クを 伊典、、・訳 地球の料学者たちがテをコ火、近の磁気異 常地帯から掘り出した、は、 主百万年 前い地球人類以外の ま謎房岩だ 。に理められたと思わる 、った ! 宇宙シネ ' を堂々誌上公開 ! レー

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にチェックした。やがて彼はいった。「よしーーー行きましよう」 供することになった。 二重の壁におおわれた、この半球型の風船は、計画に専従するこ外側のドアがあき、地球光を受けて輝く、塵におおわれた月の景 とがきまった六人の科学者と専門家の仕事場兼寝室だった。またそ観が目の前に開けた。 こには、仕事に必要な装備や器械の大部分をはじめ、真空中に放置注意深いよちょち歩きをしながら、フロイドはマイクルズに続い しておくことのできない備品のすべて、料理、洗濯、トイレット設てロックをくぐった。歩行はむずかしくなった。じっさい逆説めい 備、地質学用標本、さらに現場を常に監視している小型テているが、月に着いて以来、これほど居心地よく感じるのははじめ レビ、スクリーンなどがおさめられていた。 てだった。宇宙服の余分な重みと、動くさいのかすかな抵抗が、地 ハルポーセンはドームに残るといいだしたが、フロイドは驚かな球の重力を取り戻したような錯覚を与えるのである 、ようのない率直さで自分の かった。行政官は、あつばれとしかいし 一行が到着した一時間足らず前に比べて、風景は変っていた。星 考えを述べた。 ・ほしゃ半欠けの地球は変らぬ明るさで光っているが、十四日間の月 「宇宙服というのは必要悪だと・ほくは思うんだ。年四回、四半期ご面の夜は終ろうとしていた。コロナの輝きは、東の空に昇るもう一 との宇宙服テストのとき以外には着ないことにしてる。もしかまわっの月のように思えたーー・・そのとき何の前ぶれもなく、フロイドの なければ、ここからテレビで見ていたいんだがね , 頭上百フィートにある無線アンテナの先端が、隠れていた太陽の最 こういった偏見は、今ではあまり根拠はない。 最新の宇宙服は、初の光を受けて、炎に包まれたように輝きだした。 第一次月探検隊が着用したものとは比べものにならないくらい着心 二人は計画の主任担当者とその二人の助手がエアロックから現わ 地がよくなっているからだ。着付け時間は一分足らすで、助手の手れるのを待ち、やがてゆっくりと穴にむかって歩きはじめた。彼ら も必要とせず、あとはすべて自動的に行なわれる。フロイドがいまが着く頃には、薄い弓形の耐えがたい白熱光が東の地平線に顔をの 注意深く着付けを終った 6 号服は、昼夜を問わず、月の最悪の環境そかせていた。ゆっくりと回る月の縁から太陽が離れるまでには、 のなかでも彼を守るはずだった。 まだ一時間あまりかかるが、星・ほしはとうに見えなくなっていた。 穴はまだ闇のなかにあった。しかしその周辺に並んだフラッドラ マイクルズ博士といっしょに、彼は狭いェアロックにはいった。 ポンプの音が遠のき、宇宙服がほとんど気づかないうちに硬直したイトの放列が内部を明るく照らしだしていた。黒い長方形にむかっ てゆっくりと傾斜を下りながら、フロイドは畏布と同時に、どうし ことから、彼は真空の静かさに包まれたことを知った。 ようもない無力感を感じていた。地球の戸口に立ったばかりの人類 静かさは、宇宙服ラジオの音声で破られた。 こもう直面したのだ。三百万年 「気圧はどうですか、フロイド博士 ? 普通に呼吸できますか ? 」は、永久に解けないかもしれない謎冫 「ええーーー良好ですー 前、何ものかがこのあたりを通り、この未知の、そして不可知に終 7 マイクルズが、フロイドの服の表側にあるダイヤルや計器を慎重るかもしれない象徴を残して、どこかの惑星へ , ー、・あるいは恒星へ

9. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

ない。なぜなら海のむこうの原住民たちは、すでに一千年前から 工。ヒローグ 〈ワナーズ〉の駆除法を知っていたからだ。それは荒療治であり、 彼らの医学の段階では患者は死ぬのがふつうだった。だが、その治 偽りない心は、しばしばあ 0 けない結末をもたらすものである。療法はーー彼らの考えではーー同時に寄生体も殺すという利点を持 ひとたび隔離命令がおり、宇宙にとびだしていたレモー教徒全員っていた。 の所在が確認され、検査がすむと、ゴーラーズは仕事にかかった。 まず、宿主に人為的に熱病を起させる。〈ワナーズ〉は熱に耐え 〈ワナーズ〉が特殊化した地球外生物であることから、ゴーラーズかねて、ゆ 0 くりと繊維を腹部にひ「こめ、そこでポールのように は、それ以前に彼らが人間と類似した生物に寄生していないかぎり丸くなる。それは蝋のような外皮で本体をおおい、熱を避けようと 地球人の肉体構造に適応するのは不可能にちがいない、 と推理しする。熱がさがると、冬眠状態にあった〈ワナーズ〉は蝋を脱ぎ捨 た。それならば、どこにそんな生物がいるのか ? て、ふたたび身体にひろがっていく。だが、それに先んじて、まじ 答えは簡単である。メルビルのほかの地域に住んでいる類人種族 ない師が患者の腹部を切り開き、寄生体を摘出するのだ。 に目を向ければよいのだ。 , 彼らは地球政府の無干渉政策によって、 ゴーラーズは現代科学の技術を総動員して、数多くの原住民に手 地球人との接独をほとんどと「ていなか 0 た。この政策は、人類学術を施した。手術はすべて成功でありーー死ぬのは〈ワナーズ〉だ 的調査が徹底的に行なわれるまで、星間運輸会社が原住民と取引きけだ 0 た。やがて、デビーに執刀し、憎むべき寄生体を除去する日 することを禁じているのである。そして五十年後の今になるまで、 がやってきた。二十四時間後、彼はデビーの病室を訪れた。 接触の必要は生じていなか「た。レモー教徒がこの惑星に定住を許前とはす 0 かり変 0 たデビーの様子に驚いて、彼は足をとめた。 されたのは、土着のメルビル人がその大陸をまだ発見していなかっ そして伝統的な、修辞的な質問をした。 たからにほかならない。彼らの文明は、地球の暗黒時代に相当し「具合はよくな 0 た ? 」 「体が爆発しそう」 ゴーラーズには信じられないことだが、レモー教徒たからこそだ その言葉は、彼を不安にさせた。 〈ワナーズ〉が心理的な傷痕を ろう、彼らが原住民を非合法に秘密調査した形跡はなく、したが 0 残したのだろうか ? て原住民が〈ワナーズ〉問題をかかえているかどうかは知られてい 「ばかね ! 」彼女は笑った。「そばへ来て、キスしてくれなければ なか 0 た。もしかしたら、この原始民族が問題の解決策を見出して爆発してしまいそうだという意味よ ! 」 いるかもしれない・ だが、そんなことは起らなかった。 彼の考えは正しかった。レモー教徒たちが過失々を闇に葬るこ とさえしていなかったら、悩みは半世紀早く解決していたかもしれ 9 2

10. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

と、体重が戻ってきう証拠なのだ。 火口はみるみる大きくなり、周壁も地平線のかなたに沈んだ。そ た。長い年月のよう に思える時間が過して内部にちらばる小さな火口が、その真の大きさをあらわしはじ ぎ、月はゆっくりとめた。そのうちのいくつかは、宇宙空間から見ればとるに足らぬも 空に広がって、太陽のだが、それでも直径数マイル、都市をいくつものみこんでしまう は地平線のかなたに大きさがあるのだ。 自動制御装置の助けを借り、月船は星空から、大きな凸円形の地 沈んだ。ついには、 巨大な一個の火口が球の光を受けて輝く不毛の風景にむかって降下していった。ジェッ の噴射音と電子装置の発する断続的なビー。フにまじって、人間の 視界全体を占めるまト でになった。月船は声が聞えてきた。 その中央に見える山「クラビウス管制室より特別Ⅱ号便へ。降下は順調。着陸装置、水 山にむかって降下し圧系統、ふくらませ緩衝パッドの手動チェックどうぞ」 ていく と、とっ パイロットは雑多なスイッチを押し、緑の明りがつくと、管制室 ぜんフロイドは、そに呼びかけた。「手動チェック完了。着陸装置、水圧系統、緩衝。 ( ッド、オーケイ」 の一つの峰の近く 、あとは無言の降下が続いた。情報交換は 「了解」と管制室はいい に、規則正しいリズ 、まそれをしているのはすべて機械であ まだ行なわれているが、し ムで明減する明るい 光の点があるのに気 り、二進法のインパルスで行きかう通信は、頭の回転の遅い彼らの づいた。地球でいえ創造主の通信よりも一千倍も速いのだ。 ば、それは空港の信峰のいくつかは、すでに月船よりも高くそそりたっていた。もう 号塔である。フロイ地上まで一千フィートしかない。信号灯は今、まばゆい星となり、 ドは喉元に緊張を感ひとかたまりの平たい建築群と奇妙な乗物の上空で規則正しく明減 じながら、目をこらしていた。降下の最終段階では、ジ = ットは奇妙な曲を奏でている ようだった。それらは噴射を強めたり弱めたりしながら、推力に微 した。それはまた、 人間が月にもう一つ妙な調整を行なっている。 不意に、舞いあがった埃の雲が、あらゆるものを隠した。ジェッ の足場を築いたとい 257