と見つめていた。 一息入れて、「どうだ ? 」 「またあるージ = イミスンは言葉を続けた。「おれの思考が全部読 工ズウォルの視線には灰色の炎が燃え、やっとで返してよこした 思考には凶暴な響きがあ 0 た。「あんたという人は、ジ = イミスンめるふりをするのはよせ。おまえの宗教のこともわかっているんだ 教授、予想以上に手強いな。おれたちの間には妥協の余地はないこぞ。こちらの思考形態がいちばんは 0 きりした時だけ、それも特 に、話をしようと心が集中した時だけしか読めないにきまってい とがはっきりしたー る」 「だが、いま頼んでいる期限っきの約東はしてくれるんだろう ? 「ふりをしているわけではないーエズウォルは冷たく答えた。「で 灰色の目が奇妙に光を失い、長く薄い唇を開けて唸ると、巨大な きるだけ、あんたを迷わしておいてやるんだ , 黒い牙が見えた。 「それがはっきりしないうちは、おれが困るのはもちろんだ」とジ そっけなく、「いやだー ェイミスン。「だが、それほどでもないぞ。いったん、仮説を立て 「そう思ったージェイミスンは穏やかにいった。「それをはっきり たら、おれはそれに従って行動する。もし間違っているとわかった しておきたかったんだー 返事はなかった。 = ズウォルはそこに坐ったままで、かれをじっ時は、おまえの体力に対して、この原子銃がものをいうそ。本命の
コーネリアスはしばらく身動きしなかった。やがて、ほーっと吐脳はどんな人間にもおとらぬ受容力を持っている。それは〈誕生〉 息をつき、椅子の背にもたれた。 の瞬間から、入ってきたあらゆる感覚データを記録しているーーーこ 「しかたがない。きみだけには打ち明けることにするよ。 いいカの衛星にいるアングルシーの肉体的な記憶槽にだけでなく、それ自 ね、私はきみたち古参の基地要員が、どんなふうな反応を示すか身の脳細胞に逐一記録しているんだ。それに、思考もやはり感覚デ に、自信がもてなかったんだ。だから、単なる憶測をべらべら口外ータの一つだからね。そして、この思考たるや、とても鉄道線路の したくなかった。ど、、 ナししち、まちがいかもしれないんだからね。確ようにきちんと分かれるものじゃない。 一つの連続した場を形づく 認できた事実なら、もちろん話すさ。しかし、ただの仮説でみんなるものなんだ。アングルシ ーがジョーと同調してなにかを考えるた シナプス の信仰を脅かしたくはないー びに、その思念は彼自身のそれだけでなく、ジョーの神経細胞連接 ヴァイケンは顔をしかめた。「いったいなんのことだ ? 」 をも通過するーーーそして、あらゆる思念は独自の連想を運びこみ、 コーネリアスはせわしなく葉巻を吸った。その先が小さな赤い悪そしてそのあらゆる連想記憶が記録されゑたとえば、ジョーが小 魔の星のように輝いてはうすれた。「木星第五衛星はただの研究基屋を建てているとしよう。その材木の形がアングルシーになにかの 地じゃない , 彼は静かな声でいった。「これは一つの生活信条だ、幾何図形を連想させ、そこからさらに、。ヒタゴラスの定理を思い出 ちがうかね ? 仕事がそれほどその男にとって大切なものでなけれさせるというように ば、だれも一任期でさえ、ここへはこないだろう。まして、再志願「だいたいはわかった」ヴァイケンは慎重な口調でいった。「時間 する連中は、地球がその富のすべてをもってしても彼らに提供できさえあれば、ジョーの脳はエドの脳にあるすべてを吸収してしまう ないものを、ここでの仕事に求めているわけだ。そうだね ? 」 だろう、というわけだな」 「そうだ」ヴァイケンは囁きに近い声で答えた。「きみにそれだけ「そのとおり。ところで、経験の痕跡パターンを備えた機能する神 の理解があるとは思わなかった。どが、 ナそれがどうしたんだ ? 」 経系ーーこの場合は非人間的な神経系だが これはかなりよくで 「それさ。証明できないかぎり、こんなことは話したくないんだきた、人格の定義といえやしないだろうか ? 」 が、ひょっとしたら、これだけの仕事がすべてむだだったかもしれ「ともいえるね くそっ、そうか ! 」ヴァイケンは跳び上った。 ないということだよ。ひょっとしたら、きみたちは人生と多額の金「つまり、ジョーがーーー独立をはじめたわけか ? 」 をむだにしただけで、荷物をまとめて故郷へ帰らねばならぬことに 「ある意味ではね。徴妙で、自動的な、無意識の変化なんだ」コー なるかもしれないー ネリアスは大きく息を吸いこむと、思いきったように残りをぶちま ヴァイケンの長い顔はびくりとも動かなかった。まるで凝固でもけた。「疑似木星人は、生物として完全に近いしろものだ。ここ・の したようだった。だが声だけは穏やかに、 「なぜ ? 」 生物学者たちは、自然がわれわれを創造する上で犯した誤りを、む 「ジョーのことを考えてみたまえ」コーネリアスはいった。「彼のナ冫 ( どこよしなかった。最初のうち、ジョーは遠隔操作された生物学的 4
ードックで両方へ流れると 腰をおろし、ヘルメットをかぶった。搬送波が、ききとれぬほどかのフィ 超心理学的な精神療法は、その初期には自縄自縛のかたちだっ すかな。 ( ルスーーー知覚の中の神経細胞の低いふるえーーを刻んでい る。いうにいえない感じだった。 た。なぜなら、ある人間の増幅された思考が別の脳に入るとき、そ 手をのばして、アングルシーのアルファ波に同調した。彼自身のれはべクトルの法則にしたがって、後者の神経系サイクルと結合し てしまうからだ。その結果、両者ともが、新しく生まれた干渉波 アルファ波は、それよりやや低い周波数だった。信号の伝達には、 を、悪夢のような思考のフラッターに感じてしまう。自制の訓練が へテロダイン・プロセスが必要なのだ。依然として受信はない : それにはもちろん、正確な波形を見つけなければならないのだ。音できた分析医なら、それを無視することもできる。だがそうできな い患者のほうは、狂暴な反応を示すことになる。 楽とおなじように、思考にも音色は切りはなせないものなのであ しかし、やがて人間の基本的な波形Ⅱ音色が解明されるととも る。彼はそろそろと、非常な慎重さでダイアルを調節した。 に、超心理療法は再開された。最新の思念投射装置は、入り信号を なにかが意識にひらめく。赤むらさきの雲に渦巻く雲、地平のな い茫漠とした野を渡る風ーー・それは消えた。ふるえる指でダイアル分析して、その特徴を『聴取者』の。 ( ターンにまず翻訳するのだっ た。そして、送信者の脳のきわめて異質なパルスーーちょうど指数 を戻す。 ジョーとアングルシーをつなぐ念カビームが、その幅を広げた。函数的なシグナルが正弦曲線に移し変えられないように、受信者の それはコーネリアスを回路に包みこんだ。いまや彼はジョーの目で神経系パターンに翻訳できない。 ( ルスーーーは、フィルターで除去さ 眺めていた。彼は丘の上に立ち、到着するロケットの機影をさがしれてしまうのである。 ながら、氷の連山の上空に目をこらしているのだった。同時に彼こうして補正された他者の思考は、自分のそれとおなじように、 は、まだジャン・コーネリアスでもあった。アングルシーの魂にひ苦痛なく理解することができる。そして、熟練したオペレーターな そむ感情と心象から、そこにとざされた恐怖への鍵を探りつづけてら、超心理回路の中にいる患者にさとられずに、その思考に同調す ることも可能なのだ。オペレーターは相手の思考を探るだけでな く、彼自身の思考を相手に移植することもできる。 その恐怖がばっと躍りかかり、彼の顔をまともに打ちすえた。 超心理学者にとってはわかりきったこの事実が、コーネリアスの 彼よこの盗聴に気づかぬアングルシー 超心理的探査は、受動的な聴取ではない。 ラジオの受信機が同時計画のよりどころだった。 , ー ジョーから、思考を受信する・もし彼の仮説が正しく、 t-n マンの人 に弱い発信機ででもあるように、超心理帯域の出力源と共鳴してい る神経系は、それ自身でもまた発信をしているのだ。もちろん、通格が怪物のそれにまで歪められていればーーー・異買なその思考はフィ ルターを通過してこないだろう。その場合、コーネリアスはむらの 常の場合、その効果は徴々たるものである。しかし、そのインパル スが、ヘテロダイン・ユニットと増幅ュニットをつうじて、高い負ある受信をするか、それともまったく受信しないかだ。もし仮説が
ー外側からだー かれは、じりじり迫 0 てくる蔓草を迂回し、緑色の大羊歯の茂 0 「みんなやつつけろ ! 」狂ったように冷たい、残忍な思考だ。「こ た、十五メートルほどの原を強行突破した。そして、もう完全に自 いつも , ーー一一本足のやっーーも。地中から蔓を伸ばせ」 制力を回復していたので、目の前に広がる光景を、持ち前の軍隊精 あまりにも異質の、あまりにも変 0 た思考形態だ 0 たので、かれ神、ありのままに事実を受けいれる精神、で受け止めた。六十メー の脳はそれまで落ちこんでいた深淵から、不安を覚えて浮び上り、 トル級のラル救命艇が目の前に降りているのだ。そのそばには、青 ぎ = 0 として宙に浮いた。突然、ほとんど正常にかえ 0 て、それに白いラルが一ダーばかり、こわば 0 て横たわり、死んでいた。そ 聞き入った。 れそれ、特別にあつらえたような灰色の蔓草のしとねに包まれて。 「なんだ、そうか、全く正気をとりもどし、「リ , ト殺し屋草がど蔓草はさらに伸びて、救命艇の開いたドアの中まで入りこんでお うして、高い知能を発達させることができたのか、いつも不思議にり、「みんなや 0 0 けた」ことは、疑う余地がなか 0 た , 思ってしたが、 、 - = ズウ , ~ みたいなものだな。テ」。 ( 〉ーで = ミ = 艇のまわりに漂 0 ている、生気のない雰囲気を感じ取ると、急に ニケートするんだ」 脱出の見こみがでてきて、かれは有頂天こよっこ。 冫オオここのところ絶 胸がわくわくしてきた。これまでに蓄積した、途方もなく重要な望続きだ 0 たので、その喜びもひとしおだ 0 た だが、それもっ 知識ーーー = ズウォルについて、ラルについて、そしてまた、このリ かの間、冷たく厳しいエズウォルの思考が頭に響いた。 , ト草同士の思考波をキ , チできた方法に 0 いて、かれの科学者「とうとうきたな、教授。この救命艇の操縦装置は、おれの手に負 としての心は、緊張し、夢中にな 0 てしま 0 た。 = ズウ , ルにいやえない。それで、こうして待 0 ていたのだ。ー・こ おうなしに思考波を浴びせられていた結果、心の中に受信回路がで たちまちのうちに、絶望の極から、喜びの極へ、そしてまた絶望 き上 0 たに相違ない。それで、あらゆる思考を容易に受けとることの極〈と移り変 0 た。 ができるようになったのだ。と、いうことは、おれも 冷たく、ほとんど惨めな気持ちにな 0 て、かれは大きな断固たる ば 0 と警戒心が燃え上り、かれは考えごとをうち切 0 た。目を細敵の姿を探した。だが見渡す限りのジグ ~ には、動くものは何 めて、じりじりと向 0 てくる灰色の蔓草を見 0 めた。後にさが 0 て一 0 見当らず、てらてら光るあの青い影もなか 0 た。目に入るのは 銃をかまえた。簡単に避けられそうに、ゆ 0 くりと、これ見よがしただ、散らば 0 て死んでいる白いうじ虫と、蔓草にからまれた救命 に、近づいてくるのは、、、 し力にもリ , ト草らしい牽制行動だ。そし艇だけで、それらが、かっての活動の跡を留めていた。 ておいて、地中から電光石火、強力な針にな「ている根毛を突き上 = ズウォルの思考が続くのを、かれは・ほんやりと聞き流すばかり げるのだ。かれには後戻りしようとか、この植物の投げかける危険だ 0 た。 を避けようとかいう意志は全くなか 0 た。後戻りするって、どこ 「おれが四日前に反重力いかだから降りた時、この殺し屋草がここ へ ? , ーー何へ ? に生えていた。ラルどもがおれを救命艇に連れ戻 0 た時には、草は
島のず 0 と上手の方に移動していた。その頃には、かけられていたも、あんたと協力せざるをえなか 0 たかも。本当に、そうせざるを えなかったのだ ! トリック・ミラー催眠の効果を、おれはすでに脱していた。それで、 「そして、リット草の知能には、エズウォルの性格のいちばん悪い 人間の戦艦とラルのクルーザーが戦いを始めたのを聞いたのだ。こ その音が聞えなかところばかりが、生き写しになっていることがわかった、これを忘 の連中は何が起ったか気づかなかったらしい 0 たからだと思うがーーそれで、じめじめした湿地の方〈、てんでれるな。こいつにも、知的テレ。 ( シーがある。そして、こいつもま た、自分の惑星を維持する能力もないうちに、機械文明を発達させ にはい出していた。 「この時だ。蔓草と意志の疎通ができて、こちら〈呼び戻したのはるに違いない。まだ発達の初期の段階にあるが、それだけ余計に頑 こんなわけで、あんたが、あんなに長いこと、熱意をこめて説固で、物解りがわるく あまりのことに、ジ = イミスンはあきれかえて、顔をしかめ、希 き続けてきたような、あの協力形態の一種ができ上ったのさ、とこ 望の火をまたかき立てる気も起らなかった。乱暴にいった。「冗談 ろが 皮肉なことに、ジ = イミスンが、あれほど奮闘努力してきたのじゃない。お前は自己流で、見事にや 0 てのけたじゃないか。それ が今になって、今度はおまえの自由意志で、おれに助けの手をさし に、結局、希望はついえ去ってしまったのだ。 極めて当然のような口ぶりで、 = ズウ , ルが投射してよこす言葉のべている、つまり、手遅れにならないうちにおれをカーソン星に の一つ一つが、またしても、この計り知れない力を持 0 た生物には、連れ帰して、 = ズウ , ルに都合のよい形で革命を抑えさせようとい うのだな。こすからい畜生め ! 」 自らを処理する非常な能力が備わっていることを立証していた。 この草だけは、この原始の世「ところが自由意志ではないのだ、教授」てきばきした思考が届い リット殺し屋草と協力するとは た。「ふたりでこの惑星にやってきて以来、おれがしたことは、す 界で、ほんとうにエズウォルを脅迫するネタになると当てにしてい べて、そうせざるをえなかったのだ。おれがどうしようもなくて、 たのに。 もう手はない。それに、もし二つが力を合せて向 0 てくるとなれあんたのところに助けを求めに戻 0 た、とあんたが考えたのは当 0 ていた。いかだから降りた時、この蔓草やろうはこの半島全体に広 かれは銃をかまえた「だが、暗い思考は続いた。 がっていて、おれの話を頑固に聞き入れす、どうしても通してくれ 人類がエズウォルを真に征服することができないのは明らかだ。 よ、つこ 0 心理摩擦係数百三十五度ともなれば、カーソン星には革命が起り、 「うじ虫をご馳走してやったのに、全然ありがたいとも思わない それから後、長い間、血みどろの無意味な闘争が続きーーかれはエ で、今度はこの船の一室におれを追いつめやがった。 ズウォルがまた思考を送っているのに気づいた。 「教授、銃を抜いて、このいまいましい生物に大切なことを教えて 「ーー・が、あんたの論理の唯一の欠陥だ。この四日間というもの、 ラルの脅威について考え抜いた。それに、どうしてあんなに幾度や 0 てくれ , ー・・協力しろ 0 てー ま
悪臭ふんぶんたる隠れ家から、腹を空かせて出てきて、獲物を求め 「それらの種族のうち、三千以上が、今では自治制をしいている。 て彷徨するであろう。 どうやら、この奇妙なきのこ林から抜け出して、手ごろな丈夫な基本的に充分な知能を持った種族に対しては、その種族が自ら必要 枝が高い所に生えた本当の木を見つけ、なんとかして、その上で夜と考える行動の自由を、人類はいつまでも否定するものではないー を過さなければならないらしい。蔓草がうまくからみついていれ ば、野獣がーーーエズウォルも含めてーーー近寄った時に、あらかじめ「教授 ! , 工ズウォルの思考が、ひどく緊迫した調子で、ナイフの わかるはずだ。かれは、なるべく濃く茂った、身を隠すのに都合のように突きささってきた。「この生物は、いやらしい、うじ虫のよ うな体型をしている。そして翼もないのに空中に浮んでいる。おれ よいやぶから離れないように、気を配りながら前進を始めた。十数 に探知できるような、頭脳を持っていない」 メートル進んだが、ジャングルはあい変らず、につちもさっちもい かない状態で、その中を無理をして歩くので、手足が痛くなってし ジェイミスンは細心の注意を払い、ひそかに、こんもり茂ったや まった。かれは立ち止って、いった。 ぶの中に身をおどらせ、ピストルをかまえた。それから、静かに、 「いいか、カーソン星に知的生物が住んでいるとわかっていたら、素早くいった。「野獣のように振舞うんだ、そいつに向って唸って 人間は決して、あんなやり方で出かけていかなかったろう。たとえやれ。そして、もしそいつが、細い腕を伸ばして、数節ある自分の 軍事的な必要があっても、ちゃんと規制する厳格な法律があるん体節のうち、どれでも、横腹のへんを触わろうとしたら、おまえは めちゃくちゃに走って、こんもり茂った下生えの中に逃げこめ。 だしぬけに、返事があった。「くどくど泣きごとをわめくのはよ「やつの心にコンタクトできなければーー・おれたちも、どうしても せ。人類はこれまで知的生物が住んでいた惑星を五千箇も占領してコンタクトできないんだがーーやつの性質を手がかりにするよりほ いるではないかし 、くらごたくを並べても、五千の宇宙犯罪を糊塗かない。 いいか、ラルには、五十万サイクルから八十万サイクルの することはできないし、言い訳にもならないそーーー」 振動しか聞えない。だから、おれは平気で大声でしゃべっていられ 工ズウォルの思考が跡絶えた。やがて、ごくさりげなく、「教るんだ。このことに、また、やつらの思考がおれたちとひどくかけ 授、今、一種の動物に出会ったが、そいつはーー」 はなれた振動レベルで働くことを示している。それ以外のものを憎 ジェイミスンはしゃべり続けた。「人類はひどい罪も犯すが、そみ恐れているに違いない。だからこそ、あんなに冷酷に、しやにむ れだけに、立派なすばらしい仕事もしているのだそ。人類のこうしに破壊の道を歩むことができるのだろう。 た二面性を理解してもらわないとーー」 「ラルは面白半分で殺戮をやるわけではない。やるとなったら、絶 「この動物は」工ズウォルはしつこくいった。「今おれの頭の上に減するまでやるんだ。おそらく、この宇宙全体を異質のものと考え 漂って、おれを眺めている。だが、そいつの思考波が全然つかめなているので、ある惑星を占領したいと思ったら、そこのめぼしい生 6 3
に、敗北から勝利をつかみ取る力がまだあるかのように、びしりとつけられた。くらくらっと目を回しながらも、かれは必死になって ハランスを保った , ーーやがて意識がはっきりした。 いった。「ともかく、もうわかっているんだそ、おまえの読心能力 はひどく大ざっぱなものだとな。どうして、おれの船をあんなにや巨獣工ズウォルはわきにそれて、かりそめの救いの手を、あんな すやすと征服できたのか、おまえは疑う気さえ起さなかったじゃなに優しく差しのべていた大枝から完全に離れ、ジャングルの深い茂 みにとびこんだ。二本の巨木の間を巧みに身をかわして通り抜け、 いか」 一瞬の後には、大洋の、長い、きらめく入り江の岸にでた。その砂 「なぜ疑わなきゃならん ? 」工ズウォルはいらいらしていた。 「今になって思うと、かなり長い期間、思考がまったくつかめなく浜を、風のように身軽に駈け抜けると、その向うのジャングルの茂 なったことがあった。あの時は、ふだん船のエンジンが放出するよみにとびこんだ。工ズウォルからは何の思考も届かなかった。勝ち り、異常に強烈な = ネルギー緊張を感じただけだ 0 た。あれは船が誇った思考の蔓も、今やってのけた大勝利の気配も。 ジェミイスンはいまいましそうにいっこ。 加速していた時に違いない。その時、檻のドアが少し開いているの 「おまえの腹のうちは読めていたから、ああしたんだ。おれたちが に気がついたんだーー・・・それから後は、何もかも忘れてしまった」 科学者は重いものにのしかかられて、胸が悪くな 0 たように顔をあのラルの大型快速船と空中戦をしていたことは認めよう。だが、 しかめながら、うなずいた。「おれたちは、何かすごいショックをもしもおまえが、ラルを味方だなんて考えたら大まちがいだそ。ラ ルは別だ。あいつらはよその宇宙からきたんだ。やつらはーーー」 受けたんだ。星間航行エンジンを全開していたから、もちろん、何 も感知することはできなかったが。しかし、どこかで、おれたちの「教授 ! , びりびり震えるような強力な思考が、ぐいと割りこんで きた。「銃を抜こうなんて気を起すなよ、たとえ自殺するつもりで 脳味噌がでんぐり返すような衝撃があったにちがいない。 「その後で、外部からの危険を警戒していたら、そのすきに、内部もな。ちょっとでも変なことをしてみろ、どんなに荒っぽく痛いや り方で、人間が武装解除されるものか、思い知らせてやるそ」 にいるおまえが百人の人間を襲って殺したんだ、大部分は眠ってい 「おまえは約束した」ジェイミスンはつぶやいた。「敵対行動はと たんだがーー」 ジ = イミスンは細むの注意を払って、体を引きしめ、目は、できらないと 「そうとも、それは守るつもりだーー人間流に、厳密に守ってや るだけ・ほんやりと前方の木の枝に据え、その枝の下を体をかわして る、おれの都合のよい時にな。だが、今はーーあんたの心を読む 通ることだけに、さりげなく意識を集中させようと懸命になったー と、あの生物が着陸したのは、反重力いかだのわずかなエネルギー ーだが、かれの真意は、緊張した頭脳から外に漏れたらしい 冫カくんと後足での放出を探知したからだ、と考えているな」 工ズウォルはだしぬけに、馬がはね上るようこ、 : 9 立った。ものすごく乱暴な動作だった。ジ = イミスンは鉄砲玉のよ「単なる推測だ、とジ = イミスンはそっけなく、「何か必然的な理 2 うに前に投げ出され、鋼鉄のように堅いエズウォルの背に、たたき由があるはずだ、それに、おれが船の動力を切ったように、おまえ
ジ = イミスンは腰を降ろした。はじめて、肩に鈍い痛みをおぼろう。話が決 0 たら、でかけようじゃないカ え、体中がこわば 0 ていて、ぐ 0 たりするほど熱く感じた。太陽が蛇がジャングルからゆ 0 くりと滑り出してきた。丸木橋の陸地側 2 見える。このものすごい幻想的な世界の大気をなす白い霞を透しの端から三メートル、 = ズウォルの右手九十メートルの所だ。ジ = て、白い斑点となって、かすかに見える。 イミスンは橋の中ほどを、じりじり進んでいたのが、その時、ジャ しみのような太陽がずっと遠のき、心の中が薄暗くなった。しばングルに生い茂る丈の高い草が、恐ろしく揺れるのに気づいた らくして、はっとわれに返った。眠っていたのだった。 鎌首をもたけた毒々しい無気味な頭と、それに続く、そっとするよ ぎくりとして目を開いた。太陽は東の空にずっと低くなっておうな太い胴体の前部六メートルばかりが目に入り、その場に立ちす り、そして くんだ。 何が起ったかわかると、かれの心はひどいショックを受けて動き ゆらゆら揺れている、その大きな頭が、ちらっと、直接こちらを を止めた。その驚きは大変なものだったが、心はたちまち冷静さを向いた。豚のように小さな目が、かれの茫然とした茶色の目の中を とりもどし、着実に働き始めた。 まっすぐに睨みつけたように思われた。選りに選って、これほど都 空想的な、おとぎ話さながらのことが起っていたのだ。四本の木合の悪い時に、こんな恐ろしい動物に出会うなんて、こんなに不運 は、ずたずたに裂けた。 ( ラシ = ートの残骸をまだっけたまま、頭上なことがあってよいものだろうか。ジ = イミスンは文字通りたまげ にそびえていた。・こが、 ナそれを使ってかれがしようとしていたことてしまった。 が、眠っている間に実現していた。 こうした状態で、大蛇の燃える目に射すくめられているのは、苦 この島ではとても手に入らない、もっと太く、しつかりした丸太悶そのものだった。体中のあらゆる筋肉が一瞬にしてこわばり、火 の橋が、島から陸地に向って、まっすぐに伸びていた。だれがこんの塊りになった。それは、身動きもならぬ、強烈な本能的緊張で、 な大工事をやってのけたのか、もちろん疑う余地はなかった。工ズ この世のものとも思えぬほどだったがーー・事実、そうなったのだ。 ウォルがそしらぬ顔で、六本足のうちの二本で立ち、一本の大木に恐ろしい頭が、ひゆっと横を向き、魂を奪われたようにエズウォ 人間のようなかっこうで寄りかかっていた。その思考が届いた。 ルを見つめ、今度は蛇の方が硬直する番になった。 「恐がるには及ばないそ、ジ = イミスン教授。あんたの意見に賛成 ジェイミスンの体からカが抜けた。一瞬の恐怖は、一瞬にして狂 する気にな 0 たのだ。あんたが陸地に渡るのを助け、その後も協力暴な怒りに変 0 た。かれは = ズウォルに向 0 て激しい思考を投げつ することにした。おれはーー・」 けた。 ジ = イミスンは腹の底から乱暴に笑 0 て、その思考を中途で吹き「おまえは連中の心が読めるから、その危険な動物の接近が感じ取 飛ばした。「嘘をつきやがれ」科学者はとうとういった。「本当れたはずだそ」 は、手に負えないことに出会 0 たくせに。よし、その話に乗 0 てや返事の思考は返 0 てこなか 0 た。大蛇は空き地の方にず 0 とはい
宇宙船が、エリスタン第二惑星の湿っはい霞の中に姿を消すと、 ジェイミスンを貫いた。冷たく、ゆったりとした思考が 0 ジ = イミスン教授は銃を引き抜いた。巨大な船が巻き起す、すさま「あんたとおれは、ジ = イミスン教授、大変よく理解しあってい 2 じい気流の中に、ずいぶん長いこともてあそばれていたので、体中る。あんたの船の百何人かの人間のうち、あんただけが生き残っ が弱り、うちのめされた感しだった。だが、今はもう頭上にゆるやた。だから、あんたらがカーソン星と呼ぶ惑星のエズウォルたち かに揺れている反重力プレートから、金属ケーブルでつながった背は、無感覚な野獣ではなくて、知的生物だということを知っている 負い革に、危機感のために緊張しながら、ぶらさがっていた。目をのは、あんただけになった。おれは船に残ることもできたし、そう 細めて見上けると、エズウォルは反重力プレートの縁から、用心深すれば故郷へ帰ることもできたのだ。だが、万一、下の危険なジャ くこちらを見下ろしている。 ングルから、あんたに脱出されたりするよりましだと思って、あん その一列に並んだ三つの目は、鋼鉄を磨いたような鈍い天色で、 たが自分をロックから射ち出す瞬間に、おれはこの反重力いかだの まばたきもせずにかれを見つめていた。大きな、がっしりした青い上に、死にものぐるいで飛び乗ったのだ。どうもよく解らないの 頭が油断なく宙にかかっていて , ーー・ジェイミスンにはわかっていたは、操縦室のドアをおれが打ち壊している間に、なぜあんたが逃け のだが かれが射っ気を起した瞬間に、さっと後にひっこめるつ出さなかったか、ということだ。あんたの心の中には、・ほんやりし た恐布のイメージがある、だがーーー」 もりで身がまえているのだ。 「さあ , ジェイミスンは乱暴にいった。「着いたそ。ふたりとも敬ジェイミスンは笑っていた。自分の笑い声は耳ざわりだったが、 愛する故郷の星から、十万年も離れた所へな。そして地獄みたいなそれにともなう陰惨な思考は痛快だった。「おまえはなんてあほう 原始林に向って落ちていくところだが、あそこは、おまえにおれのなんだ ! 」とうとう息がつまった。「これから降りる所が、どんな 思考を読む能力があるからって、カーソン星に孤立して暮らしてい所かまだわからないのか。あのドアをおまえが打ち壊している時、 るだけでは、想像もっかない場所なんだ。たとえ三トンもあるエズ船はこの星で最大の大洋の上空を飛んでいたんだ。いま足の下で光 ウォルだって、あそこじゃ命はないそーーー一匹だけじゃあな ! 」 っている、たくさんの水たまりは、文字通りその大洋の続きで、 長い指に、鉤爪の生えた大きな足が、いかだの横からじりじりとたるところ兇暴な野獣がうようよしているんだそ。それに、この先 下りてきて、ジェイミスンの背負い革を吊している金属ケーブルののどこかに〈悪魔海峡〉があって、八十キロの水面がこの大洋ジャ 一本をさっとはたいた。。 ヒーンと澄んだ鋼の音がした。その一撃でングルと向うの大陸とを隔てているんだ。おれたちの船は、ここか ら千数百キロばかりの所で、その大陸に墜落するだろう、たぶん ケーブルは、まるで腐った麻糸のように切れた。 巨大な足は、汚れた閃光のようにさっと引っこんで見えなくなつな。そこへ行くには、魑魅魍魎の巣になっているその八十キロを横 た。そのあとには、何事もなかったように、大きな頭と、冷静な、断しなくちゃならんのだ。これで、なぜおれが待っていたか、なぜ まばたかない目が、かれを見下ろしていた。やがて、一つの思考がおまえがこの反重力プレートに飛び乗るチャンスがあったか、わか ちみもうりよラ
こんだ。そして、途方もなく力がありそうな長い胴体から高々ともを頼りにしているだけだ。それがどっちだか、あんたにもわかると たげた、角の生えた恐ろしい頭を前にして、エズウォルは、こんな思う」 ジェイミスンは厳しい顔をした。「おまえが危険でないなんて、 馬鹿でかいやつには、とてもかないっこないということをしぶしぶ うぬぼれるな。その蛇は筋肉が硬直しているように見えるが、いっ 認めた様子で、ゆっくりと後ずさりした。 ジ = イミスンはふたたび、冷たい皮肉な思考をエズウォルに向けたん動き出したら、最初の百メートルぐらいは、まるで鋼鉄の・ ( ネ こ 0 だそーーだが、おまえの後にはそんな余裕はあるまい」 しう。おれは地球時間、三秒で百二十メートル走れる」 「おもしろいことを教えてやろう。おれは、星間軍事委員会の主任「何を、 科学者は、冷たくつつばねた。「できるだろうとも、もし百二十 科学者として、エリスタン第二惑星は地球艦隊の軍事基地としては メートル走れる場所があればな。だがないのだ。着陸前に見ておい 使用不能だという報告をしたんだ。主な理由は二つある。それは、 たから、このジャングルの縁の様子は、手にとるようにわかってい おまえも見たことがある、あのとんでもない肉食植物と、このちっ にけなかわいい坊やのことさ。この二つは、わんさといるそ。蛇一るんだ。 匹が一生の間に何百匹と子を生む、だから絶減できっこない。連中「そこは五十メートルばかりジャングルになっていて、その先は泥 は雌雄同体で、長さは五十メートル、体重は十トンにもなるんだ」海の岸になってカープしている。それはここの泥沼の続きなんだ。 カープはこちらがわに、ぐるっと回って逆もどりしているから、お 工ズウォルは、蛇から五メートルほど離れて立ち止り、ジェイミ まえはそのジャングルの出っ張りに見事に孤立しているわけだ。蛇 スンの方を見ずに、緊張した、すばやい思考を送ってよこした。 「こいつが現われた時はおれも驚いた。あんたに知らせなか 0 たのから逃げようと思 0 たら、一気にそいつの横を駈け抜けるよりほか 。大ざっぱに見て、おまえの動ける範囲は、前後左右五十メー は、こいつが何か物音を聞きつけて、ぼんやりと好奇心を抱いてい トルというところだーーそれじや足りないそ ! 相互依存 ? まさ ただけでゞはっきりした、つきつめた殺意など持っていなかったか にその通りさ。こんなことは、エリスタン第二惑星じゃ、一年に千 らだ。だが、そんなことはどうでもよい。問題は、やつがここにい 回も起るんだ」 て、しかも危険なことだ。まだあんたに気づいていない、だから、 ぎよっとしたように、エズウォルは黙っていたが、やがて、「な そのように動くだろう。おれに勝てるとは思っていない。だが機会 を窺っているんだ。こいつはおれを狙っているが、問題は根本的にぜ原子銃を向けてーーこいつを火あぶりにしない ? 」 「それで、やっこさんに、こちらへきてもらおうってわけか ? こ はあんたの方にある。あらゆる危険は、全部あんたのものだ」 っちは、につちもさっちもいかない状態なのに ? この大蛇ども 工ズウォルはほとんど投げやりに結論した。「あんたの計画に、 いちおうの援助はあたえてやるつもりだが、相互依存なんて馬鹿げはこの泥の中で生れて、一生の半分はその中で暮しているんだ 5 たことは、これ以上いわないでくれ。今までのところ、一方が一方そ。あの石頭を焼き切るには五分はかかるだろう。その間に、