手 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1968年9月臨時増刊号
265件見つかりました。

1. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

夢を見ないの、地球のことを ひろびろと青い海原 すみきった青い空には 小鳥たちが飛んでいるわ のどかな春のそよ風にのって やがて : : : 木の葉も落ち 小川は凍りつく どこまでいっても雪野原 そして、女たちは泣くの 火星の夢も見るでしよう やきつくような砂と すみきったうすい空気 土はひびわれているわ 鉱山で働く男たちの手 「よし、みんな敬礼はよし : だが、だれひとりとして、少佐が近づいてきたことに気づいたも のはいない。 崖はそびえ 岩は男たちの手を傷つける 赤くふくれた手 太陽は大地を焼き 女たちはたがやすわ 3

2. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

ず、接続もおかしくなかった。 間なんですよ」 ホプキンスは荒々しくかれをつきのけ、鍵をつつこんだ。 「とりかえろ」 「おれがとりもどす : : : 吐き出させてもな」 ホプキンスの言葉に、レーダー手はくびをふった。 マウキはすぐ立ち上がると、鉄棒のあいだから罐を出した。ホプ 「できません。スペアが三個しかありませんので。新しいのを手に キンスはそれをつかみ、怒りにふるえながら、女をにらみつけた。 入れるまで、めくらのまま走らせなければなりません。レーダーは すると、マウキは笑いだした。 ききません」 コーセリは警告した。 ホプキンスは、電線や真空管がごちやごちゃしているところを見 「そのドアをあけないことですな : : : その女に手をふれたら、わたまわした。 しは宇宙軍裁判所に連絡して、発狂したという名目で、あなたの指 「どうしてこわれたんだ ? 」 揮権を剥奪してもらいますよ。お・ほえていられるでしようが、それ「わかりません。ほとんど同時に割れたようです , は宇宙軍服務規定にのっていますよ」 ホプキンスは、ほかの真空管に軽くさわってみた。すると指の下 「宇宙弁護士のつもりか ? 」 で、それらはブーンとうなっていた。 と言ったが、ホプキンスはドアをひらきはしなかった。かれは鍵「なぜ真空管がうなっているんだろう ? 」 レーダー手は、それらにふれて顔を上げ、またのそきこんで、ほ を引きぬいて、コーセリをにらみつけた。 うぼうにふれてみた。 「このことも、貴様の記録に記入しておくからな」 : うなる理由があり 「わかりません。そんなわけはないんですが : コーセリは荒々しく少佐のそばを通りぬけて去っていった。 ません」 詠唱はまたはじまった。 ホプキンスはまわりの者をながめた。その顔はいかめしく、苦々 レーダーがこわれたのは当直が交替する寸前だった。詠唱はー しげにうすら笑いをうかべていた。 しわがれてふ「レーダーがこわれて、われわれはどうすることもできずに、ぼん ーかれらはそれを、マウキの歌声と呼んでいたが るえ、高いほうの可聴周波数限界まで達しているようで、悲痛なヴやりしているんだ。どうして真空管がこわれたのか、だれにもわか アイオリンのひびきのように、あたりにただよい、しみこんでいつらないのか ? 」 た。その音は奇妙にしみとおってゆき、壁は鳴き声をあげ、手をふ返事はなかった。 「隕石で、まつぶたつに裂かれるかもしれないし、イドの攻撃を受 れると振動しているのだった。そして、レーダーがこわれたのだ。 : しかも、それがやってくるのはわからないと 真空管がとっぜん、ポンポンと奇妙に破裂しはじめたのだ。同じけるかもしれない : 型の真空管が六つほどくだけてしまった。それらは過熱してもおらきている : : : だれも、。ヒアノやヴァイオリンである和音を出すと、 3

3. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

けるだろう。その指輪には、投げられた槍をかわしている三角の楯本当のことを話したわ。あたしたちレモー教徒は決して嘘をつかな いの。あたしたち三人は結婚について話していたとだけいって、ロ の図案があるはすだ。そうだね ? 」 彼女はうなすいていった。「否定はしないわ。でも、それを知っ論のことまで触れなければ、問題も起らずにすむだろうと父はいっ たわ。口論していたといえば、あのラスポールドという警部はあら ているのなら、なぜ審問のときにいわなかったの ? 」 「一「三分前、〉ガワンが指輪の習慣を教えてくれるまで気がっぬ疑いをかけてきて、問題をこじらせるだろうから 0 て。 あなたに話すのは、もっと簡単だわ。直接的な質問をしたんです かなかったんだ。きみの手には指輪なんかなかったのを知ってい た。あの状況から見て、クラクストゾの指にはめたという可能性がもの。答えを拒否するか、本当のことを話すか。そして、あとのほ うを選んだわけ , いちばんありそうだ。婚約発表がなかったところから見ても、それ 「なぜ ? 」 彼は手をほどいて、いった。 はクラクストンの失踪直前に起ったことにちがいない。そうだろう 彼女は目をそらした。「一人・ほっちで寂しかったから、だと思う それまでの不機嫌な顔は、悲しげな顔に変った。彼女は唇をこわわ。話し相手がほしかった。それに、ほとんどいつも、体が爆発し そうな気がするんですもの。体のなかの緊張を解放するものが何も ばらせていった。 ないしーー、話すとか、踊るとか、歌うとか、叫ぶとか、何でもいし 「ええ、あたしたちは愛しあっていたわ。待てなかったの : : : メル ビルに着くまでなんか。二人で部屋で『ペレアスとメリザンド』のの、そうしないと気が狂いそうなの。そして、これがいちばん苦し いところなんだけど、何か思いきりしてみたいような気持になるこ が求婚したの。そのすぐ マイクロフィルムを見ていたとき、。ヒート とはあっても、衝動に負けるところまではいかないの。抑制がきき あとで、二人でいるところを父に見つけられたの。父はおこって、 レモーランドに着くまで娘とは会わせないと。ヒートにどな 0 たわ。すぎているのね。自由に行動することができないの。そうしたくっ そして、指輪を返して、長老から許可がおりるまであずかるといって、いてもた 0 てもいられないくらいなのに」 しナ「このあたりだわ。爆発したい 彼女は腹に手をおいて、、つこ。 たわ , : こわいのね」 ような気がするところは、でもそれができない : あの感情を押し殺したエ。ハレークが、怒り狂う父親となっている ゴーラ】ズは彼女の横顔を観察した。眉を寄せ、ロをきっと結ん 情景を想像することはむすかしかった。 ゴーラーズは彼女の髮に手をやり、そこから名案を見つけだそうでいる。こわば 0 た首筋、かすかに弓なりにな 0 た背。これほど父 とするように、それをそ 0 と指でとかすと、ロをひらいた。「なぜ親に似た姿を見るのははじめてだった。 それを審問のときにいわなかったんだ ? なぜ、ぼくに話す気にな彼はそばへ行き、肩に手をおいた。かすかに身を震わせたが、し りそこうとする様子はなかった。彼は指で痩せた肩先を押した。 ったんだい ? , 「まだたくさん隠しているね」やさしくいった。「何かが起ったん 「それほどはっきりした質問をされなかったから。されていたら、 223

4. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

急に息を吸いこむ気配があった。 とした。彼は撼んだ手を離さずにいった。「これで入れてくれるか 「どうして ? 」 「そんな驚かなくてもいいだろう。なんとかして、きみと二人だけ「父がおこるわー で話す機会を作ろうとしていたことは知ってるはずだ。だけど、ぼ 「わかりはしないよ。きみに会いにも来ないじゃよ、 まくの一一 = ロ くを避けている。はじめて会ったときみたいな気のおけない女の子葉を信じるんだ、デビ ぼくといれば安らだ。きみには触れやし じゃなくなってしまった。何かがきみを変えてしまった。それが心 配なんだ。だから、こうして話そうとしているんだ」 「だれだってそうだわ , 意外な、荒々しい返事がかえってきた。や 「話すことなんかないわ」 がてあきらめたように、 「いいわ、はいりなさい , ドアがしまりはじめた。 彼はあいた隙間からすべりこむと、背後のドアをしめた。と同時 「待ってくれ ! 言いわけぐらいしたっていいだろう。なぜそうふに、壁にあるスイッチに手の平を押しつけ、明りをつけた。そして さぎこんでいるんだ、なぜそうとげとげしいんだ ? ぼくが何をし彼女の肩に両手をおいた。彼が触れたとたん、彼女はすこし体をす くめ、顔をそむけた。 「気をつかうことはないよ . 彼はやさしくいった。 ドアの隙間はさらに小さくなっていく。彼はドアとわき柱のあい だに手をさし入れ、低い声で歌いはじめた。会・ 彼女は顔をそむけたままだった。 neau qui je t'avais donné 7 Oui, la bague de nos noces, Oü 「あなたが気を悪くしないことは知っているわ , 彼女はつぶやい est-elle 2 ) ) た。「でも、みんながあんまりあたしを敬遠するので、男の人がい 彼は間をおき、そしていった。「覚えてるだろう、デビー ゴロるとぎごちなくなるのが癖になってしまったの。あなたがなぜ他の ーがメリザンドにいう、『あなたにあげた指輪はどこにあるのです人とちがうのかも知っているわ。でも、においに敏感だったら、き か ? そう、わたしたちの結婚のしるし。お願いだ、どこなのですっとみんなと同じようにするわ。そばに来るのを厭がって、あたし のいないところで馬鹿にするのよー 答える間も与えす、彼はドアを押し広けると片手を奥に入れた。 「今の言葉は聞かなかったことにしようー彼はそういうと、デビー そして彼女を探りあてると、通路の明りが照らすあたりまで、そのの顎に手をおき、こちらを向かせた。「話したいのは、そのことな 形のよい青白い姿を引き寄せた。 んだ」 「あの指輪はどこなんだ、処女の指輪だよ、デビー ? なぜそれを彼はデビーの左手をとった。「デビー、もしビート・クラクスト はめていないんだ ? どうしたんだ ? だれにあげた、デビー ? ンの死体が燃えっきていず、救命艇が太平洋のどこかで見つかった 闇のなかの人影は短い叫び声をあけ、握られた手をふりほどこうら、警察はきっと彼の指に太い黄金の指輪がはまっているのを見つ おとめ 2 2 2

5. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

とどきやすいところにおいた。それから銃をとってみんなを呼びに 学ぶことができる、宇宙船でも何でも、実際にあんたの手でそれを っこ 0 しー 作ることによって。異星の機械がどのように操作されるのか学ぶこ 6 その晩おれはべッドに横になってあのことを考えた。考えてみるとができる、実際にあんたの手で組み立てることによって。あれは あらゆる知識を蔵しているーーそして普通の教育法のはるかにおよ とまことにお見事というよりほかはない。 ばぬすばらしい効果をあげる。 どこから手をつけたらよいか迷うくらいだ。 だからおれはあの棒を全部下見するまでは一本も貸しだすまいと まずこの大学商売、まったく不思議なことにきわめて合法的なも んだ、ただしサイロの外であった教授は、こいつが売られるとは夢心にきめた。いったいどんな新発見があるかわからないじゃないか。 おれは化学上の奇蹟や工学上の新原理や新商法や哲学の新概念な にも思っていないが。 どを夢見ながら眠りこんだ。哲学の新概念だって金もうけの種にな それからインスタント・。ハケーション・。フラン。実時間六時間で 一、二年の異星訪問プラン。おれたちが手を下すのは、地理でも社るんだとおれは思った。 おれたちはまさに宇宙の王者だ。いちいち数えきれないほどの活 会科でもお望みの科目のナイハーを拾いあげるだけ。 インフォーメイション・ビ = ーローとかリサーチこ、イジ = ンシ動分野をもった会社をつくる。商売繁昌。むろん千年かそこら後に イとかいうものをこしらえて、あらゆる題目に関する実地収録の名は報いがくるが、こっちはそれまで生きてはいない。 先生は朝になるとしらふにもどったので、フロストに拘禁室へ連 目で莫大な費用をとる。 歴史の現場記録があるにちがいないから、冒険にあこがれる人々れていかせた。もはや危険はなかったが、窮屈なところへおしこめ ておけば考えをあらためるだろうという配慮だ。いすれ話をつける に、家にいながらにしてまったく安全な冒険を供給する。 あれやこれやと考えて、どれもあまり確信はなかったが少くともがいまはそれどころではない。 調べる価値はありそうに思えた。それからおれはまた、あの教授おれは ( ッチと。 ( ンケーキを連れてサイロへ行き、またあの複式 が、きわめて効果的な教育手段と思われるものにいかにして到達しマシンにすわって教授と話し合いをし、科目をどっさり選びだし、 種々雑多な問題にけりをつけた。 たのかという点を考えた。 あんたが何かについて知りたいと思う、するとあんたは実際にそ他の教授たちが箱に詰めラベルをはった科目をどんどんもってき れを経験するのだ。根本から学ぶのだ。本で読むのでもない、話にてくれたので、おれの方も船員や機関員にそいつを船へ運ばせた。 聞くのでもない、立体映画で見るのでもない それを実地に体験 ハッチとおれはサイロの外で作業の進行を監視していた。 するのだ。知りたいと思う惑星の土の上を歩く、研究したい生物と「夢にも思わなかったねえ」と ( ッチがいった。「こんなエ合に一 ともに暮す、学びたいと思う歴史の関係者、目撃者となる。 山あてるとは。まったく正直いって、おれたちが一山あてるなんて 他にも使い途があるだろう。どんなものでもその作り方を容易にこたあ考えてもみなかったねえ。永久に探しまわってるだけだと思

6. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

見たことは忘れるんだ ! 」 彼女はそのまま近づいてくる。彼はゴーラーズに銃を向けると、 いった。「逃げるな、ゴーラーズ。撃っそー デビーはそれには何の関心もはらわなかった。まるで夢遊病にか かっているように、父親を見つめたまま歩いていく。彼はあとじさ ったが、テーブルにさえぎられてとまった。一瞬、その目は逃げ道 を捜すように、絶望的にあたりを見まわした。そのときにはデビー は彼につめより、きいた。「おとうさま。おとうさまは人殺しじゃ ないわね ? 「やめなさい、デビー」彼は叫んだ。「おまえは自分のしているこ とがわからないんだ ! 」 ゴーラーズが緊張して見つめる前で、エレークは、彼にむかっ てと・ほうとする手を避けるようにふいに片手をあけた。デビー自身 も、な・せ自分がそんなジェスチ、アをしたのか合点がいかぬように と一アヒーよ、つこ、、、、 ーしナカつぎの瞬間、彼女 足を止めた。「何 ? ・ の体もまた殴られたようにゆらいた。そのころには二人とも、息を はすませながら見つめあっていた。二人の顔から陰気な線が消え、 やわらいだ表情になった。デビーの唇は充血し、胸は激しく上下し いった。「いけないデビ ていた。父親は低く呻き声をあけると、 いけない」 彼の手から銃が落ちた。だが、拾いあげようとする気配はなかっ た。その代り、彼はとっ・せん娘を抱きしめていた。 ゴーラーズはその光景に呑まれて立ちつくしていたが、とっさに とびだして二十五口径をかすめとるだけの心の備えはあった。彼は いった。「エレーク、どう 銃身を船長のあばらにつきつけると、 いうことかわからないが、今のうちにやめておいたにうがいい」 2

7. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

た。私は調査準備に忙殺されながらも、一か所にじっとしていられ「兄弟はいないのか。親は ? 」 ないようなはけしい焦燥に体内を灼かれていた。 老アイアイの目から急速に感情が薄れ、まるでレンズのように無 「リュウ。どうかしたのか . 機的な光を放った。 携帯用の金属探傷器を調整していた老アイアイが不審そうに眉を「聞いてどうする ? 」 「どうもしない」 ひそめた。放射線性の火傷によるひどいケロイドの除去手術をおこ なった彼の、眉毛のない目の上のただの肉のもり上りが、何本もの「姉が一人いたよ。もう生きてはいないだろう」 「親は ? 」 縦すじを描いてけわしく寄った。 「いや。なんでもないー私は顔をそらして答えをはぐらかした。 「生きているのかと聞くのか ? リュウ。おれはあと四、五年で百 五十歳になる。親が生きているわけはないじゃないか , 「それならいいが」 老アイアイはふたたび手もとの金属の箱に目を落した。私は作業老アイアイはかすかに首をふった。 「どんな親だった ? 父親は , 台を離れて、部屋の分厚い気密窓に額を押しつけた。窓の外にはマ イナス百五十度 0 に近い暗い冷たい空間がひろがっていた。遠い天老アイアイの目にしだいにいつもの色がよみがえってきた。 空に無数の星々が凍りついたように輝き、地表は永遠に溶けること「もう忘れてしまった。おれが宇宙船技術者の級検定試験に合格 のないドライアイスと氷におおわれていた。視界のはずれに宇宙船したときに会ったのが最後だ。それ以後地球に帰ったことがないー 発着場の灯光が光球のようにかがやいていた。大気による光の拡散「どんな父親だった ? 」 のない灯火は、暗黒の中に固体のような質量感さえ見せて宙に浮い 老アイアイは唇をゆがめて笑った。「しつこいやつだな。おれの ていた。 父親はマラリンガ・シティの民生部に勤めていたはすだ。下の方の クラスの技術員さ。ほとんど技術らしいものも持たなかったんだろ 「なんでもないなら仕事につけよ」 うな」 老アイアイがやや感情をそこねたように顔はうつむけたまま言っ スペース 「おまえはなぜ宇宙技術者になったんだ ? 」 た。 「アイアイ」 老アイアイは手にしたドライーで私を指した。 「うん ? 」 「そう言うおまえは ? 」 私は窓ガラスから額を離して体を回した。 彼の手のドライ・ハーが白金の炎のように反射光を噴いた。こんど 「家族はいないのか ? 」 は私がだまって首をふった。作業台に戻ってテスターをとり上けた。 老アイアイはとっぜんの私の質問に、答えに窮したように作業の金属探傷器を電源につないで触手のように動く指針を目で追った。 手を休めた。「なんのことだ ? 」 「おれは親父のようになりたかった」

8. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

部屋を出るとき、彼はもう一度ふりかえり、黙りこくっている娘をるのだった。 見やった。その目はつぎに若い医師に移った。ゴーラーズはすくみ「二、三回、手を握って」と彼は娘にいった。「フドウ糖注射をす こそしなかったが、 何か硬いものが自分にむかって飛んだのを感じるから」 た。心理的な稲妻というものがあるとすれば、船長の目がはなった彼女の顔には、言葉を理解した表情はなかった。彼はくりかえし のは、まさしくそれだろう。ゴーラーズにとっては、それはあまり た。彼女の目は一瞬、手のほうに移り、ふたたび元に戻った。 嬉しくない奇妙な経験だった。警告と威嚇、それが船長の目のなか「もちろん、どうしてもとはいわないよ。だけどそうすれば静脈が に彼の見たものだった。 うきあがるから、ちがう場所に針をうってやりなおすようなことも ゴーラーズは肩をすくめ、敏感になりすぎているそと思った。目しなくてすむんだ」 それじたいには、光や伝言を伝える力はない。顔筋のかたちと、体彼女は目蓋をとじた。体と顔に震えが走った。自分自身とたたか の姿勢、声の調子、それらが結合して一つのパターンを作りだすのっている、そんな感じだった。 だ。この全体が目にはいっても、よほど気をつけていないかぎり、 、いいわ、先 ややあって、目をとじたまま彼女はいった。「じゃ 記憶に残るのは一部にすぎない。そして、たいていの人間にはそれ生」あきらめたような口調だった。 だけの注意力はないものだ。目はなかでもいちばん記憶に残りやす面倒もなく、静脈は見つかった。 い部分である。文学や人びとの話に必ずひきあいにだされるように 「このところ体重が減ったね ? 」 なってから、それはじっさい以上に重要視されるようになってしま「メルビルを出てから、十パウンドぐらい 「メルビル ? 」 彼女は目をあけ、じっと彼を見つめた。 しかし、とゴーラーズはしのなかでいった。あの男には、じろり と見るだけで、妥協を許さない冷酷な人間という印象を与えるもの 「さそり座べータの第二惑星。べータは、ズーベン・エル・チャマ がある。ひとたびその目ににらまれたら、かわそうにもなかなかか ーリともいうわ。アラビア語で〈北のけづめ〉という意味。地球か わせないものだ。 ら人間の目で見える、たった一つの緑の星」 彼は船長の娘のほうを向いた。彼女の目はあいていた。伸びたま彼は注射針を抜いた。 こぶし まになっている片手は、拳のかたちに半ば握られていた。何かに手「たまには、ぼくも星空を見なければいけないな。月に住むと、一 をのばしたが、それが拒絶され、怒りを示そうとして、それが不成つ、 しいことがあるんだ。空がよく見えることさ。でも、それくらい 功に終っている、 . という感じだった。 だね」 。しし力、と彼は田 5 った。 彼はそんなことに関心はなかった。少なくとも、当面は。彼はさ彼女が話す気になってくれれま、 し迫った目的でここにいるのであり、しなければならないことがあ「メルビルでは何をしていたの ? 」 20 ー

9. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

サイロの外でおれはハッチやパンケーキやフロストに事の顛末を えないんだ、先生にだって。 生物は記録棒に用いた表示法のシステムとそれそれの科目がどの話した。 ような順序で箱に詰められ番号をつけられているかを説明してくれ「おれたちゃ、大学をそっくりいただいたんだ」とおれはいった。 ドック た。選択科目の記録棒をとりそろえておくから、好きなものを持つ「先生はどうするんです ? 」とフロストが訊いた。 「なにいってんだい。 こいつは彼のお気にいるような取り引きじゃ ていくようにといってくれた。 彼は新しい客を迎えたのがよほど嬉しいらしく、いままで迎えたねえか。おれたちは高慢で寛大で誠意をもって行動してるふりをす 客たちのことを得意気に話し、教育者が知識の灯を手わたした瞬間りやいいんだよ。おれの仕事といやあ彼をつかまえることだけだ に感ずる満足をくどくどとのべたてた。 「あいつが耳をかすもんかね」とパンケーキがいった。「あんたの それを聞くうちに、何だかこっちがひどく下司な人間のように思 いうことなんか信じめえな」 えてきた。話がすむとおれはまた椅子にすわり、二番めの生物がお 「お前らここにいろーとおれはいった。「おれがうまくやったるわ」 かまをはずしてくれた。 おれは船の方へ歩いていった。先生の姿はなかった。大声で呼ぼ おれが立ちあがると一、番めの生物も立ちあがりおれと向かいあっ 十ートここ うとして思いなおした。危険を承知で梯子をのぼった。。〔 た。もう話はできなかった。たったいままで取り引きの話をしてい ドック た相手と面と向かいあいながら、相手に通じる言葉を一言も喋れなどりついたがそこにも先生はいなかった。 ドック おれは用心深くそろそろと船内に入りこんだ。先生がどうなって いというのは何とも奇妙なものだった。 いるか想像はついたが、これ以上の危険をあえておかす必要はな だが相手が両手をさしだしたのでおれも両手をさしだした、する と彼は親しみをこめておれの手をにぎった。 ドック 「どうしてキスしねえんですか ? 」と ( ッチが訊いた。「みんなよ先生は診療室の椅子にすわっていた。正体もなく酔っぱらってい る。銃は床にほうりだしてある。椅子のかたわらに空壜が二本ころ そを向いててあげるからよー ふだんならこんなへらず口をたたいたら、ぶんなぐってやるとこがっている。 おれはそれを見おろしながら何があったかを諒解した。彼はおれ ろだが、このときはまるで腹が立たなかった。 がいなくなった後で事態について熟慮した結果、いかにして危い橋 二番めの生物が二本の棒を機械からとりだして一本をおれによこ した。入れるときは透明だった棒がすっかり黒くなっていた。 を渡るかという難題に突きあたり、彼の唯一の解決法である方法で 「さあ早く出ようー それを解決したのだ。 7 おれたちはできるだけ早く、しかも威厳ーーーと呼べるものならだ毛布をもってきて先生にかけてやった。それからそこらじゅう捜 してようやっともう一本壜を見つけた。栓をとって椅子の横の手の がーーをそこなわないようにして外へ出た。 ドック

10. SFマガジン 1968年9月臨時増刊号

おれは腰をうかして建物の方をふりむいた。すると入口のところやみんながすぐ後ろにひかえていたこと。異星人によそよそしくし たら永久に彼らと協調することはできないこと。 に人間ぐらいの大きさの蛾みたいなものが立っていた。 だからおれは行った。 ただそんなような恰好をしていた。顔は 昆虫だとはいわない 生物はサイロの中へ入っていった。背後でみんなのどたどたいう 仮面のようなものでおおわれていたが、それは人間の顔ではなく、 足音が聞こえたが、それは頼もしい音だった。 頭には古典劇で見る兜の前立みたいなものが突ったっている。 よく見ると仮面は仮面ではなく、その生物の体の一部だ 0 た。羽生物がどこから来たのかと頭をひねる必要はなか 0 た。おれは歩 きながら、こんな事態をなかば予期していたことを自ら認めた。サ をたたんでいるように見えるがそれは羽ではなかった。 「諸君 , とおれはできるだけ静かにい 0 た。「お客さんがおいでなイ 0 はとてつもなく大きなものだからいろいろなものが入 0 ている はずで、人間や生物がいた 0 て不思議はなかろう。おれたちは一階 すった」 のごく一部を探しまわったにすぎないんだ。この生物はおれたちの おれはその生物の方へそろそろと近づいた、そいつを驚かせまい という配慮と、もしとびかか「てきたらすばやく逃げようというむ存在に気づくとすぐ上の方のど 0 かからおりてきたのだろう。三 - = ースが彼のところに届くまでにはずいぶん時間がかかっただろう。 づもりだった。 彼は三つの斜道をのぼって四階へ行き、それから通路を少し下っ 「頼むぞ、ハッチーとおれはいった。 「援護しますぜ , と ( ッチがいった。彼に援護してもらえば百人力てある部屋へ入った。 広い部屋ではない。機械が一つぼつんとおかれているが、それは だ。ひどい目にはあわずにすむ。 その生物の六フィートほど手前でおれは立ちどま 0 た。遠くで見複式型のやつだ 0 た。二つの組み立て椅子と二つのおかまがついて たほど気味の悪いものではなかった。目は親切でやさしそうで、そいる。部屋にはもう一匹生物がいた。 一番めのがおれを機械のところへ連れていき、すわるようにとい の奇妙な顔はまったく異形のものだったが友好的なムードがただよ う身ぶりをした。 っていた。だが、たとえそうでも異星人にむを許してはならない。 、、ツチやパンケー おれがしばらくのあいだ立ったままでいると , 生物は二歩前に進み、手というよりかぎつめみたいなものをさし キやフロストやみんながどやどやと入ってきて壁ぎわに一列に並ん だした。おれの手をつかんで来いというようにひつばった。 こういう場合になすべきことは二つあるーーー手をふりきるかい フロストがいった。「お前たち二人、外へ出て道路を見張ってい っしょに行くか。 ろー おれは行った。 3 ( ッチがおれに訊いた。「その珍妙な機械にすあるつもりですか 考えるために立ちどまりはしなかったが、決心をうながす要素は 語長 ? 」 いくつかった。まず生物が友好酌で知性的に見えこと。 、」 0