この作業がおわる頃には日も沈みおれたちはくたくただったが、 「わかったよ、パンケーキ」とおれま、つこ。 をしナ「お前さんに料理し とにかくテストをして、心を安らかにすることにした。 てもらっても食えそうもねえからな」 おれがダイナマイトによくにた棒を一本つかむ、たこつぼには、 おれたちはテーブルに雁首をそろえてテーブルの真中に積んであ 0 ている連中が 0 ープに 0 ないだ岩をたぐる、おれは第二の岩のしる棒を眺めた。先生が酒をも 0 てきたのでみんな一杯かそこら頂戴 たにある第一の岩のうえに棒をおいてから全速力で逃げる。おれがした。酒をおれたちにふるまうとは先生、よ 0 ぽど動転していたに たこつぼにとびこむと、奴らがロープをはなし、岩は棒の上におちちがいない。 る。 「この棒が何かに使えるってことは」とフロストがいった。「自明 何もおこらなかった。 の理だ。あの建物の = ストがこいつらの価値を示しているのだとす 念のために岩を二度三度とおとしてみたが爆発は遂におこらなかると、こりやどえらい宝物だ」 「きっとこの棒だけじゃねえな」と ( ッチが指摘した。「一階のほ おれたちはたこ 0 ぽから這いだし、三脚に近づいて棒の上にの 0 んの一部しか探してないもんな。他に何かあるにちげえねえな。何 かっている岩をころがしおとしたが、棒にはヘこみひとつついて、 し階もあるんだから。いったい何階あるんだろう ? 」 なかった。 「神のみそ知るさ , とフロストがいった。「地面の上に立ってた これでおれたちは棒が衝撃によ 0 て爆発しないことをほ・ほ確信しら、て 0 ペんは見えるかどうかな。上を見あげり、かすんでらあ , た、もっとも、このテストは、おれたちを吹っとばすかもしれない 「何でできていると思うね ? 」と先生が訊いた。 他の多数の方法を除外していたが。 「石さーとハッチがいった。 その晩おれたちは総がかりで棒を痛めつけた。酸をぶ 0 かけた「わしもそう思 0 と 0 た。だがそうじゃないぞ。スー ドの昆虫文明 が、何事もなくしたたりおちるばかりだ 0 た。たがねをこころみたで出あ 0 たあの大きたア。 ( ート式の塚をお・ほえているかね ? 」 がたがねを二本だめにしただけ、鋸をこころみたが歯がきれいにこ むろんみんなおぼえていた。塚の中にもぐりこもうと何日も骨を ・ほれてしまった。 折ったつけ。美しい彫刻をほどこしたひとっかみほどの翡翠がその 。 ( ンケーキにひとっ料理をしてみろとい 0 たが奴は首を横にふ 0 入口に散らば 0 ていたからだ。中にも 0 とあるだろうとおれたちは こ。 思った。こういうものは法外な金になる。文明人はこういう異文明 「そいつを調理場〈もちこんじゃなんねえ」と彼はい 0 た。「もしの芸術品には目がないし、あの翡翠はたしかに異文明の芸術品だ 0 そうしたかったら今後いっさい料理は自分で作ってもらうよ。調理た。 場をきれいに磨いてあんた方にうまいものを食わせるのがおれの仕考えつけるかぎりの方法を試みたがいずれも功を奏さなか 0 た。 事だ、あんたたちに荒らされてたまるかい」 塚へもぐりこむのは羽根枕を拳固でなぐるようなものだ「た。表面 っこ 0 0 5
「ドラキ = ラとぎたな」 たーーー・あれの手写本があるんです」 「しぶいガウンかなにか着ちゃ 0 てね、なんか声をかけるとたちま「なんだ「て ? それじやラテン語か ? ち犬はおとなしくな「てね、そのさズが当、一知品 、日本「英訳本もありましたよ。一六三四年版のフランシス・ヒ〉クスと 語であやまるんですよ」 かいうやつが訳してました。もちろんギリシャ本もあります 「地主かなんかか ? れしや本物だ。一六三四年版ならいちばん古いやつだ らね、シラノ・ド・ 「あなた、あの界限が田舎 0 べがそんな屋敷に住んでるわけはい ベルジ「一ラックの『月と太陽諸国の滑 でしょ " 一稽譚』。 ( ~ 洋れがあなた皮表紙にな 0 ててね、イラストが入「てて 「東名高速道の町ち退き第が人「たの . よ一それで昔みた万国大博《「おまえさえ、俺をか 0 ぐんじ、ないだろうね . パスのラテン語本なんて、俺たって 「そう。ゃないんだ 0 てば。 ~ 縁格的なんですよ。、おそみしく豪勢なイ〔ク一 , イを、で持 0 てるだけだぜ。本当かね、日本にあるとは すムに通さ叫たの ( すにく」かわいい女の子が " 「第召物をお一 0 、知らなか ? た、」信しられない 直し致、 , ます ! ととですよ。こ五があなた ! 本格的な小周使い、鵞「わたしの学校の先輩にもこんな人がおりまして、古・ほけたサイ なんよ、。 ~ 昔のグプン・ポーティの : 0 三アの缶に〔らいてたせしチイる・一ーー・「てのは通しませんでしたよーー・その カ朝下がふをくらふ、らんたツル第のサピースに白の大き , , 。。サイ、ンス・ 0 , 「一をあ 0 めております「てい「たら、爺さん なフ 1 がついたエプンでー↓」 すャかりよろこんじま「てね、是非御案内してきてください「てい らはやぐ結論を言えよト、、、 ( 一、一。。 うんですよ 「結論言いますど、ね ) そ爺さまが本をたくさん持するん「ほかにどんな本があ「た ? 何冊ぐらいあるんだ、 ですよ。、なたに輪をかけたよ当な人です之ガクです」 「あたしはは素人ですからねえ、なんかあなたの部屋を十倍位 大きくした 「あなた、に トワイニングの 「十倍だ「て」僕は思わすべッドの上に起き上「た。「そこにぎ お茶のんでるん恭寤誌めをい一わありますか。い っときますが っしりか ? ・」 ね、銀のポット で出てきたお茶はリプトンなんてもんじゃないで 「まあ、そんなとこです」 す。あり、、トワイ = グの = クサ」ト「て奴だ。昔、 , リー女「いやだなあ ! そんなや 0 日本にいるのか ? いやだなあ , 王が御愛飲だったんです。うちのひいじいさまが 「いやだなあ 0 た「てしかたないでしよ。あんたた 0 てあの爺さま 「いいから、どの位持ってた ? ペ ハックか ? ・神田で買っ の年頃になりゃあの位にはなりますよ。また若いんだ。気にしな たのかな ? 」 気にしない 「冗談い「ちゃいけません。まず見せられたのがルキアノスです。 「気にしないったって : イカ 0 , = ' 。 ( 「てのがあるでし = 。中級古典講読でし・ほられ「それでこ「ちはさ、ク」デザでラ、ーかなんか聞きながら、一 0
のさらし木綿はどうだと申しましたら、さっそくやってみようって 「はい、たしか〈アメージング〉の一九二九年頃のものにのってお んでね、さらしをほそく切ってストレイナーに入れて、ロンドンに りました中ト〔 向けて発射いたしましたところが、まことに具合よくてチ = ン・ ( レ 「左様。書いたの→は物ジ「。ャ一ー , ウルリッヒとかいう男でしたが、あ ンの邸に命中いたしました。ウエルナー ・フォン・プラウンの小僧」 ~ ~ 一れセなきヤ」うそですよ〔。 = 定例の毳 ' 山会から戻ってきた冒険クラブの もお礼に参りましたつけ。ゲ ーリングはわざわざ専用機の ( インを連中が御飯をし発だきながら、この次ッこに行こう、ひとっ月に ルを回してくれましてね、これでテンベルホーフへ凱旋致しまし行こちし簽ないが、おおそれは面白い賛成賛成てなことで、みんな た。もちろん褌はおいてまいりました。 シ屋が潜水服を改造すりや、冷蔵庫屋 が智恵を敵りをす。ルにを それで、ちょうどその頃印度洋をまわ 0 てキールに人りました海 ,. が肩にしをえる蠶うな冷却器を一」しらえますそれで肝心のロケッ 軍のイ 8 号潜水艦で、私が帰国することになりますと「なにかおみ トはべ ~ ルリイ・ニラーヨプ定期欠ット会社に発註するんです やけを差しあけたいと親衛隊が申します。そりや一わたしもグロッ な。 = うれしくなるしゃありまんか、みんなで出しみ「た程度のお 会社で ・メルセデスかなんか欲しうございました・が、ツて・も潜水艦に : 」でロゲ・ツ・ドをつぐせるなんてロ . ケッ会社にロケ , ト はのりません。それでたのみましたところが「に入れて , くれたのが」大陸断用の何百人のつの一「ケトにんとんとはし℃いるという さっきお目にかけたシラノやルキアノスなんです上。欧州のどっか のに、月にケ「ツトをとばそうな究て、】それこそこれっぽっちも考 えち・やおりせん、「ー・これですね。 ' 一」こぐ〔ちゃいけませんよ」 の図書館からが掠奪したものらしうござ、ますねー ( 、 : ( ~ ( 。 , 一、 しかしなんですな、あの 2 号「てのはは、とにナ ? くしい戸ケ ットでございましたね。私はあれをはじめて一見ましたとぎ、ぼれ、 「とどろで、あなたがたみたいなかたが、今日私のどろをお訪ね フリツツ・ランケのつくりましたシネマの、ほち + ・れ← 下・さつ、たというのは、まことに奇遇と申しましようか因絞と申しま 「『月世界の女』ですか , しようカ : ミ・」 「それそれ、あのシネマの主人公になったような気がいたしました , 「 どうしてタ食をスて行という貧寿羅老のたら、のすすめを よ。ロケットはあれでなくちゃいけませんな。「 グ食事おわってコ こわりぎれす、第煢な広間て 9 フル・ = ー しかしまことに困「たことです。私共、一介の . 個人にとりして , 、一 ( い、 , 」 , になると、老突然〈んな一 ~ とを「一一 = いだした、ある ' = が発達す「 0 』」う = 』」、月が』〈・くな 0 」く、、「「〕折 = く満月す、」よ」上今晩月世界「出発」う』 ことなんですから、これはまことにいけないことすすまたいた もします」 い、ガヴ , メントが月世界旅行に手なんか出しちゃ、のせんノ月、「「月ー司世界にですか ? 」僕たちは呆「気にられてしま「た。 はだれでも行けるとこにしとかなきや、ねえ、そうでしょテ ~ ~ 一え , 。 . 「左、、ひょ 0 としますとアメリカやロツやが今年中にも月世界に 「まことにその通り」 到達しぞうな気配です。プラウイの小僧が昨年の暮によこしました 私は〈佐渡守〉に馬鹿にされたうつふんを一気にはらした。 , ー 彼よー第一一ッ不ヌス」・ガを下にるそんなキとが匂わせてありました。これは 苦笑いをしている 、も ) っ ー寸上なうがし一」はいみれません、 「あなた『月の散歩者』っていう作品お読みかしら ? 4
「しかし : 「坊やは ? 」 ホプキンスは、かれの腕をつかむと通路に引っぱりだし、低い声 「エアロックの外側を圧力泡でシールしておき、ハッチがひら で言った。 いたとたんに、その中へ入れたんだ。うまくいったよ 「まあ聞け、みんなは、イド人が乗りこんできたことを知らないん 「わたし、ここの連中に : : : わたしたちのことを話したわ。これが 最初の段階でしよう、かれらを地球へもどし、それから話しあうのたそー 「それで : は : : : 危険はずっと多いとしても、このほうが戦うよりはいいわ ホプキンスの声は、、やになれなれしかった。 通路でにぶい音がした。イド人はかれをはなし、営倉のドアが閉 まる音がした。まわりはまっくらで、何事もおこらなかったかのよ「なあ、コーセリ。イドのやつらが乗りこんできたことが知れた がまんできないほど静かだった。 = アロックがしまるかすから、・ほくの命とりになる。・ほくの生涯は終りだ : : : すぐしらべよ う。もし何も盗まれていなかったら、何の違いもないわけだ。たれ な音がした。営倉のドアに手をかけてみると、ひらいていた。磁石 : ・ほくをおそって、きみがマウキを逃し も知らなくていいことだ : 靴の音がひびき、かれらは去っていった。 たんだと、・ほくに宣誓させたくないだろう ? 反対するなら : : : 軍 ホプキンスは、営倉のすみに倒れて、意識をなくしていた。紙を法会議にかけてやるそ」 少佐はするそうに警告し、。ヒストルをコーセリの横腹につきつけ 燃やしてみると、少佐のロは血まみれで、歯が四本折れていた。 こ 0 「眼には眼をか : 「わかりましたよ。そいつをふりまわさんでほしいですな」 コーセリはつぶやき、少佐をおこして医務室へ行った。医師は、 二人は通路をいそいで歩いてゆき、しらべはじめた。 小さな懐中電燈の明かりで手当てをした。 イド人たちは、なんの痕跡ものこさずに、現れ、そして去ってい 「どうしてこんなことに ? 」 た。盗まれたり、こわされたりしたものは何ひとつなかった。いじ と、医師はたずねた。 くりまわされたのは、司令室の書庫だけだった。暗号と計画書は、 「イド人たちが : コーセリがそう言いかけると、ホ。フキンスは、かれのあばらをはすっかり写真にとられたのだ。 「そんなものがなんだ : : : どうせ役に立てられまい」 げしくついて言った。 ホプキンスはそう言い、無電で、十二人の宇宙服を着た監視員を 「マウキをェアロックの外へ押し出したんだ : : : そのとき顔を蹴ら 呼んだ。ひとりとして何も発見していなかった。 れてね。船体に穴をあけてはますいから、射てなかったんだー 少佐の声は、ノボカインと、くたけた顎にはめられた締金のため「船は地球まで帰れる。ほかの機械は大丈夫なんだからな。それにに に、はっきりしなかった。 暗いから、イド人がやってきた形跡はまったくわからないわけだ」 プレッシャー・バブル
「どうして、タキイ、あんたが、その星系へ行くんだ ? 。ハトロール艇プロキオン号に乗って、出発していった。 新造の 「つまり、・ほくが日本人だからさ。この移民団の五千人が、日本人 ・ほくは、嬉しくないわけではなかったが、ちょっとユーウッだっ ばかりだったのさ た。ゴンべを連れていくとなると、宇宙を航行しているあいだ、な にもかも・ほく一人でやらなければならないからだ。まったく宇宙航「それに似た話、昔からあった。移民してみると、米とれない。洪 法の心得がないのに、堂々と副操縦士として乗りこんでくる、ゴン水おこる。作物枯れる。これ約東ちがうと怒っても、あとの祭り べの心臓も ( レンチだが、ただ異星人というだけで免許を与えてし この移民団が出発したのは超空間通信器が開発され 「亜いことに、 まう役所のほうが、もっとハレンチだ。 るまえだから、危機に瀕しても連絡できなかった。もしかすると、 「ところで、タキイ、どこへ行くんだ ? 「なさけないことを言わないでくれよ。命令書は読まなかったのか今頃は壊減しているかも知れないー なにしろ、植民が行なわれたのは、二百年前のことだから、今さ 「ナントカ星区がどうとか、シチメンドウなことばかり書いてあるら急いで行っても、しかたがないのだが、・ほくとしても初めてのパ トロールのことでもあり、とにかく全力を尽くしたかった。 から、読むの止めた。あんたの口からきいたほう早いよ . ・ほくたちが目的としている星系は、二つあった。そのうちひとっ 「そっちは早くても、こっちは面倒なんだ」 まったく手数がかかるが、副操縦士が目的地を知らなくては、話には日本人が、他のひとつには中国人が五千人ずつ移民として到着 したわけである。だが、二つの惑星は、二十光年もはなれているか にならない。しかたがないから教えてやることにした。 ぼくたちが向か 0 ているのは、地球から百五十光年はた - 叫怒 ) 、あら、宇宙船を持たない移民たちは、たぶん連絡をとることはできな る星系だった。その星系には、今から二百年前、初の移民団が植民かったろう。 ・ほくたちの。フロキオン号は、まず近いほうの星系に寄ることにし しているはずなのである。当時、地球人は、ローレンツの収縮 た。太陽系をでると、・ほくは、亜光速航行から、超光速航行にきり 舌を噛むといけないから、・ほくたちは、〈ウラシマ効果〉と呼んで かえた。超光速などというと、ちょっと非科学的にきこえるだろ いるーー、による相対時差の問題を、まだ解決していなかった。そこ う。なんでも、昔アインシュタインという科学者がいて、光より速 で、この移民団の渡航は、異星の宇宙船によって行なわれたのだ が、今にして思えば、ずいぶん乱暴な話だった。地球人の手によるい物体はないなどと、よけいなことを言ったものだから、ずいぶん 正式の調査は、まったく行なわれす、行きあたりばったりのやりか迷惑しているが、空間を四次元的に折りまけて航行する方法が発見 。それ以上の面倒な理屈 たで移民が行なわれてしまったのである。しかも、当時の関係者されて、めでたく解決がついたのだという アストロゲーター が、この事件を握りつぶそうとした形跡があり、この移民団の顛末は、ぼくには判らない。航宙士は、飛ぶのが商売だから、実際に 必要のない細い原理など、知らなくてもいいのだ。 が明るみにでたのは、ごく最近のことだったのである。 てんまっ ー 42
急に息を吸いこむ気配があった。 とした。彼は撼んだ手を離さずにいった。「これで入れてくれるか 「どうして ? 」 「そんな驚かなくてもいいだろう。なんとかして、きみと二人だけ「父がおこるわー で話す機会を作ろうとしていたことは知ってるはずだ。だけど、ぼ 「わかりはしないよ。きみに会いにも来ないじゃよ、 まくの一一 = ロ くを避けている。はじめて会ったときみたいな気のおけない女の子葉を信じるんだ、デビ ぼくといれば安らだ。きみには触れやし じゃなくなってしまった。何かがきみを変えてしまった。それが心 配なんだ。だから、こうして話そうとしているんだ」 「だれだってそうだわ , 意外な、荒々しい返事がかえってきた。や 「話すことなんかないわ」 がてあきらめたように、 「いいわ、はいりなさい , ドアがしまりはじめた。 彼はあいた隙間からすべりこむと、背後のドアをしめた。と同時 「待ってくれ ! 言いわけぐらいしたっていいだろう。なぜそうふに、壁にあるスイッチに手の平を押しつけ、明りをつけた。そして さぎこんでいるんだ、なぜそうとげとげしいんだ ? ぼくが何をし彼女の肩に両手をおいた。彼が触れたとたん、彼女はすこし体をす くめ、顔をそむけた。 「気をつかうことはないよ . 彼はやさしくいった。 ドアの隙間はさらに小さくなっていく。彼はドアとわき柱のあい だに手をさし入れ、低い声で歌いはじめた。会・ 彼女は顔をそむけたままだった。 neau qui je t'avais donné 7 Oui, la bague de nos noces, Oü 「あなたが気を悪くしないことは知っているわ , 彼女はつぶやい est-elle 2 ) ) た。「でも、みんながあんまりあたしを敬遠するので、男の人がい 彼は間をおき、そしていった。「覚えてるだろう、デビー ゴロるとぎごちなくなるのが癖になってしまったの。あなたがなぜ他の ーがメリザンドにいう、『あなたにあげた指輪はどこにあるのです人とちがうのかも知っているわ。でも、においに敏感だったら、き か ? そう、わたしたちの結婚のしるし。お願いだ、どこなのですっとみんなと同じようにするわ。そばに来るのを厭がって、あたし のいないところで馬鹿にするのよー 答える間も与えす、彼はドアを押し広けると片手を奥に入れた。 「今の言葉は聞かなかったことにしようー彼はそういうと、デビー そして彼女を探りあてると、通路の明りが照らすあたりまで、そのの顎に手をおき、こちらを向かせた。「話したいのは、そのことな 形のよい青白い姿を引き寄せた。 んだ」 「あの指輪はどこなんだ、処女の指輪だよ、デビー ? なぜそれを彼はデビーの左手をとった。「デビー、もしビート・クラクスト はめていないんだ ? どうしたんだ ? だれにあげた、デビー ? ンの死体が燃えっきていず、救命艇が太平洋のどこかで見つかった 闇のなかの人影は短い叫び声をあけ、握られた手をふりほどこうら、警察はきっと彼の指に太い黄金の指輪がはまっているのを見つ おとめ 2 2 2
ちりばめた巨大な黒い円盤になってしまうだろう。そのとき空はふ ミラーが飲みかけた酒でむせそうになった。しかしフロイドのほ たたび星ぼしのものとなるのだ。 うは、もっとむがまえができていた。 , 。 彼ま親友の目をまっすぐと見 5 2 デ→ミトリは一杯目の酒をたちまち飲み終え、二杯目を手でもてかえし、おだやかにい 0 た。「変 0 た略字だな。どこ あそびながら、「さて、とい 0 た。「合衆国管区のあの伝染病騒ぎで聞いたんだ」 はどういうことなんだ ? この旅の途中で寄ろうとしたんだよ。 しいよ」ロシア人は逆手をとってきた。「しらばくれたっ 『まことに残念ですが、教授、着陸は許可できません』と、こうてだめた。しかし、手に負えないものにぶ 0 か「たときは、手遅れ さ。『追 0 て指示があるまで、この基地は隔離されておりますのにならないうちに助けを呼ぶものだと思うがね」 で』とね。あらゆるってをたよってみたよ。それでも、だめだ。い ミラ】が思惑ありげに腕時計を見た。 ったいどういうことなんだ、教えてくれ。 「あと五分で乗船の時間です、フロイド博士、と彼はい「た。「そ フロイドは心のなかで呻いた。さ「さと出かけよう、と彼は自分ろそろ出かけたほうがいいでしよう にいった。往復船で早く月へ行ってしまうんだ。そうすれば、こん まだたつぶり二十分、時間があまっていることを知ってはいた な苦しい目にあわなくてすむ。 が、フロイドはそそくさと立ちあが 0 た。だが、あまりあわててい 「いやーーっまりねーー・隔離というのは、たんなる安全措置にすぎ たためだろう、六分の一の重力をす 0 かり忘れていた。床からとび ないんだ」彼は慎重にい「た。「それが本当に必要かどうかもは 0 あがるまえに、かろうじてテーブルを掴んだ。 きりしない。しかし危険はおかせないだろう 「きみに会えてよかった、。 」彼は本気でもない言葉をい 「しかし、どんな病気なんだーーーそして症状は ? 地球外のものだ 0 た。「では、無事でー・ー帰ったらすぐ電話するからな」 という可能性でもあるのかい ? われわれの医療サービスの援助は ロビーを出、合衆国検問口を通過したところで、フロイドはいっ 必要ないのか ? 」 4 」。「ヒュ あれは近かった。危いところをありがとう」 「すまない、デイミトリ 今のところは、何も話すなという命令 「でも、博士 . 保安課員はい 0 た。「まちがいですね、あの言葉は」 なんた。申し出は嬉しいがを まくらだけで処理できると思う 「まちがいって、何が ? 」 「ふむ」納得のいかない顔で、モイセビッチま、つこ。 冫しオ「おかしな 「手に負えないものにぶつかるという話ですよ , 話だな、天文学者のきみが、伝染病を調べに月へ送られるとは」 「そうかそうでないかを、これから・ほくが見きわめに行くわけさ」 「元天文学者さ。本格的な研究から離れて、もう何年にもなる。今フ。イドは断固とした口調でい 0 た。 のぼくは、科学専門家だよ。つまり、あらゆることに通じているわ 四十五分後、アリ = ス型月船は、ステーシ , ンから離れた。 けさー 地球からとびたっときのような力や勢いはないーーー低推カプラズマ 「では、 e << 1 とは何か知っているな ? ジェット が帯電した流れを宇宙空間に噴射する、聞えるか聞えな
されている。 すわり心地のいいレザー・チェアに 腰をおろしたフロイドの前に、月面生 化学実験室特製の「シェリー酒 , のグ ラスが出された。「どうだ、進みぐあ いは、ラルフ ? 」酒を注意ぶかくすす り、その味に感心しながらフロイドは きいた。 「悪くない」とハルポーセンは答え た。「しかし出かける前に、一つ耳に 入れておきたいことがある」 「というと ? 」 「まあ、士気の問題といったらいいカ な」 「それが、あんまり嬉しがりそうもないんだ・ーーモイセビッチから 「ほう ? 」 e 1 の話が出た。噂が漏れだしている。しかしステートメント 「まだ深刻じゃないけれども、近々そうなりそうなんだ」 は発表できないしね。あれがいったい何か、中国があれにからんで 「発表禁止の件だな」フロイドはあっさりといった。 いるのかいないのか、はっきりさせたあとでないとな」 「うん、うちの職員たちはみんなそれでカッカとしている。無理も「マイクルズ博士がそれを知ってるよ。教えたくて、うずうずして ない、ほとんどは地球に家族を残してきているんだからな。地球でる」 は、ここの人間はみんな謎の伝染病で死んでしまったと思っている フロイドは酒を飲みほした。 」っ ) っ 「こっちだって聞きたくて、うずうずしてる。行こう」 「かわいそうな話だよ . とフロイド。「だが、 それ以上うまい隠れ みのが思いっかないんだからしようがない。今のところ、順調に行 5 異常 っているし。そういえばーーー宇宙ステーションでモイセビッチに会 ったよ、彼でさえ、う呑みにしてる , 会合は、百人はゆうに収容できる広々とした長方形の部屋で行な 「保安部は嬉しがるね」 われた。そこには最新の装飾品や電子装置が備えつけられており、 第い一ー 262
これがあんたとデビーだけのことじゃなく、もっとはる すらデビーとのわすかな接触以外、ほとんどゼロに近い有様だっ知りたい。 た。しかし自分が正しいことをしているという確信はあったーーもかにスケールの大きい問題だということはわかってる。レモーラン トの社会全体が、どういうものかそれにおかされているんだ。しか ちろん、間違ったことはしていないという程度の確信であったが。 エ・ ( レーク父子はまもなく人事不省の状態を脱した。てんかん患も、その根は深い。図星だな ? 」 工 ' ハレークは無言だった。答える意志がないことは、かたくくい 者が意識を取り戻すときに現われる精神錯乱と脱カ状態は見られな かった〈ラザーロ〉の作用はまだ充分に明らかにされていない可しばったロからわかった。 ゴーラーズはいった。「そんなことをしても、どうにもならない 能性も考えられるので、ゴーラーズは二人の容態を注意深く観察し ね。地球に送還されて裁判にかけられれば、精神医学者がたつぶり た。また、体内で急速に燃焼する薬品なので、貯えが尽きた場合、 すぐ二本目の注射をうてるように、その徴候を見張っている必要も〈カラロケイル〉を盛ってくれる。そうすれば、あんたは際限なく あるのだった。ただし三本目は、極端な非常事態ののみ特別に与えべらべらと喋りだす。だが、それは地球の話で、そうなれば・ほくら ることという注意書きがあった。 はみんな裁判のために地球に行かなければならなくなる。そんなこ 船長の頬や目に血の気が戻ると、ゴーラーズはすぐ彼を起し、壁とはしたくない。・ ほくは今、ここで知りたいんだ。デビーを助ける のところまで引きずっていって立ちあがらせた。そして、つぎにデ ために。ここを離れたら最後、帰る見込みはなくなるかもしれな ビーをゆわえていたコイルをほどいた。細いコイルは、身悶えのあ デビーは病院に入れられ、問題が解決するまで自由の身にはな あざ いだに、彼女の手首や足首に深くくいこんでいた。ひどい斑に気づれよ オい。データさえ揃えば、ここでデビーを救えるような、何か医 いて、かすかに後悔の念がよぎったが、それが唯一の手段なのだか学的な手が打てるかもしれないんだ。でないと : ら仕方がなかった。 期待をこめて、彼は船長の顔を見つめた。口元のこわばった筋肉 「よし。 っこうにゆるみそうもないとわかると、彼はいった。 無言のまま、彼女の大きな、淡いプルーの目が彼にむかって見開がい これからすることは、デビーにはかわいそうかもしれない。だが少 かれた。 なくとも、それであんたに喋らすことはできる」 「気分はどう ? 」微笑をうかべて、彼はいった。 「あまりカが出ないわ . 彼女はつぶやいた。 彼はデビーの上にかがむと、「すまない」と小声でいって、彼女 「何が起ったか知ってるかい ? 」 を両手でかかえあげた。抵抗の余裕も与えず、彼はデビーをかかえ て父親の前に進みでていた。ゴーラーズの意図に気づいて、父親は 彼女は首をふった。 「きみを信じるよ」そういって、彼はエ。 ( レークのほうをふりかえ叫んだ。「それはよせ ! 娘を離してくれ ! 手を離すんだ ! 教 えてやる ! 」 ゴーラーズはデビーを床におろした。彼女はとがめるような眼差 「さあ、話を聞こうじゃないか。どういうことなのか、はっきりと っこ。 233
ら、びつくりしないほうがおかしい マイクロフィルムのほうは、・後まわしにして、・ほくは、書物の形 それは、二百光年の彼方にある故郷を思う心が、凝集し結品してになっている文献からとりかかった。 生みだした、気違いじみたオブジェだった。 そのページを開いてみて、・ほくは、、一目をこすった。錯覚ではない だがそういった外観とは裏腹に、そのなかに収まっている機械やかと思ったほどだった。 設備は、きちんと設計され、じゅうぶん使用に耐えるものである そこに書いてある字はたしか漢字のように見えるのだが、ぼくの 正直なところ、・ほくもゴンべも、ここへ着陸するまでは、たいし知らない字があまりにも多すぎるのだった。・ ほくに読めない字があ へんつくり て期待していなかった。たとえ植民者のなかに、生存者があってっても、 いっこうに不思議ではないが、見たこともない偏や旁がた も、野獣のように薄よごれた生活をしているものと、勝手に思いこくさんありすぎるのだ。 んでいたのだ。 「いったい、 この偏は、なんというんですか ? 」 キュープ・フォト ぼくとゴンべは、各地の施設を調査し、立体写真におさめてか ・ほくは、そのページの一字を拾いだして、指さして訊いた。する たいじん たいじん ら、例の大人の待っ政庁に戻った。 と、例の大人は、すました顔で言った。 「これは、ロケット偏あるよ。貴方知らないか ? 」 3 「なに、ロケット偏だって , にんべん ・ほくはおもわず大声をあげた。その人偏ににた偏は、なんとなく イデオグラフ あとは、この惑星の政庁にファイルしてある資料のうち、必要な矢印のような形をしている。たしかに表意文字としては、ロケット の形に見えないこともない。 ものをコビーして帰るだけだ。 「ほんとうにびつくりしました。五千人の宇宙移民から始まって、 「それじゃ、この字は、ロケット偏に、合うと書いてあるから : これまでになるには、さそ大変だったでしよう ? 「この星の開拓史の資料あるよ。調べてみるよろしい」 「そう、これ、きっと、ドッキングのことに違いな、。 わし、九十 たいしん 大人は、戻ってきたぼくたちを、資料室に案内してくれた。 九パーセントの確率で、そうだと思う」 この資料室には、文献や写真などが、保存されているわけであ ほくが叫ぶと、そばから、ゴンべも賛成してくれた。そこで、大 人に確かめるとそのとおりだった。もちろん、ロケット偏に合うと 「タキイ、おまえ、日本人。だから、漢字、読めるはずだ」 書いても、そのままドッキングと読むわけではなく、中国語の発音 ゴンべに言われるまでもなく、・ほくも、そう思っていた。自信がどおり合と読むわけである。 あると一一 = ロえば嘘になるが、これでも古文や漢文は好きなほうで、かそう思って探してみると、ロケット偏のついた漢字が、たくさん なり勉強したこどがある。 見つかった。ロケット偏に主と書いてあるのがあったので、大人に る。 へん へん たいじん 協 6