カーラ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1969年5月号
4件見つかりました。

1. SFマガジン 1969年5月号

されたのも、カーラが聴いたことと同じ内容らしい。 「いったい、なにが起こったの ? 」 カーラの問に答えて、キャンベルは、これまでのことを話した。 「二人とも、とりみださないでくれ。たとえ、わたしの肉体が亡び 保安局長は、すでに、ある覚悟を決めていた。そのまえに、是非とても、わたしは、人類の栄光の未来への礎石となって、永遠に生き も真実を打ちあけておきたかったのであゑ小惑星セレスの秘密基つづけるだろう。いつの日か、ザミーンに復讐するときがくる。わ 地で、ヤッシャ・ホルバインをはじめとする同志たちが、宇宙船をたし自身は、もはや、その日を見ることはできない。だが、その日 のことが目に浮かぶようだ。地球の大船団が惑星ザミーンめがけて 建造している。もはや、思いのこすことはなかった。 カーラは、キャンベルの話を、うなずきながら聴いていた。あの殺到し、憎い青面鬼を根絶やしにする。その日のことを考えなが ら、私は死んでいくのだ」 臆病なグランストンが、ザミーンに対して復讐をたくらんでいる。 ヘイル・キャンベルは、低い声で語りつづけた。意識して感情を それは、日頃そばにいるカーラにとっても、まったく想像もっかな 押しころした。淡々とした口調だった。キャンベルは、カーラを抱 かった真実たった。 きしめ、大声で叫びたい気持だった。だが、それをすれば「彼女の 「ヘイル、あなたは、どうなるの ? 」 カーラは、きゅうに不安になった。グランストンの計画を知らさ悲しみを大きくするだけである。篤実な保安局長は、このときにな っても、そういった配慮を捨てきれない人間だった。 れ、驚いていたのだが、それよりもキャンベルの身が気にかかっ 「済まなかった、キャンベル。きみを、あの任務に加えなければよ 「いいか、カーラ。わたしの言うことを、よく聴いてくれ。わたしかった」 は、きみを、グランストンに奪われたのだ。そこで、わたしとグラ グランストンは、つぶやいた。あのとき、ラタンポル 2 に顔を見 ンストンがもみあう。そのとき、銃が暴発する 。いいな、きみの見られたのが、すでに抹殺されたはずのホル・ハインであったなら、い たことは、このとおりだ」 くらでも他に打つ手があったろう。 キャンベルは、不意に妙なことを言いはじめた。その顔には、思 「もう何もいわないでほしい。盟主、かならず、ザミーンに復讐 いつめた表情が浮かんでいた。 を」 しおわると同時に、腰のホルスターか そのとき、ドアがあいて、グランストンがとびこんできた。すぐ ヘイル・キャンベルは、、、、 さま、キャンベルは、なにやら耳打ちする。みるみるうちに、グラら愛用の短針銃を抜きとった。 「ヘイル ! 」 ンストンの表情が変っていく。 走りよろうとするカーラを、グランストンが抱きとめた。 「なぜ、そんなことをいうの ? 」 「カーラ、未練なことを言うな。わたしの決意を鈍らせるつもり円 「ヘイル、きみは、なにを考えているのだ ? カーラとグランストンが、口々にさけぶ。グランストンが耳打ちか」

2. SFマガジン 1969年5月号

キャンベルは、カーラを叱りつけてから、銃口を自分の胸に押しかの星系へ行って、おもしろおかしく暮らそうといって、しつこく あて、ゆ 0 くり引金をしぼ 0 た。すさまじい高圧ガスが、数千本の誘いました。あたし、なんとなく恐ろしくな 0 て断わると、いきな 9 短針を吐きだす。胸部をつらぬいた短針は、至近距離のため勢いあり短針銃をつきつけて、連れていこうとするので : : : 」 まって、背後の壁に突きささった。 「大金というのは、エバメゾンのことだ。やつは、死ぬまえに何か キャンベルの体が朽木のように倒れこむ。磨きあげられた床に、 言わなかったか ? 」 真紅の花が咲いたように、血溜まりが拡がっていく。 シャムルティ 7 は、舌なめずりしながら、訊問を続ける。もしか グランストンは、両手で顔を覆うカーラをベ , ドに横たえ、死体したら、 = バメゾンをとりかえせると思 0 たのだろう。 となったキャンベルの右手から短針銃を取りあげた。 「そこまでは言わなかったわ。かれは、用心ぶかい人でした。きっ ドアが開かれたのは、その時だった。。 サミーンの兵土たちが、勢と、どこかに隠してあるのでしよう」 いこんでとびこんできた。先頭に立っていたのは、、 しつものイスナ カーラは、それだけ答えると、べッドに泣きふした。二 誘拐されか ード 6 ではなく、シャムルティ 7 という戦士長だった。 けたショックから覚めやらないという演技のつもりである。もちろ グランストンとカーラの姿を見て、シャムルティ 7 は、ぎよっとん、その涙は真実であるが、キャンベルのために泣いていること して立ちどま「た。床に拡がる血溜まりのまえで、兵士たちも停止を、ザミーンに悟られてはならないのだ。 してしまった。 ヘイル・キャンベルは、盟主グランストンの片腕として信頼され 「シャムルティ 7 、 しいところ〈来られた。キャンベルがカーラをていることを利用して、貴重な ( メゾン燃料を奪いとり、女を誘 連れさろうとしているところ〈、わたしがや 0 てきた。それから、拐して他の星系〈逃げようとした、憎むべき極悪人でなければなら もみあっているうちに、短針銃が暴発してしまったのだ」 なかった。 グランストンは、機先を制して説明しはじめた。 いわばキャンベルは、地球の汚名をそそぐため、すべての悪を一 シャムルティ 7 は、狼狽した。キャンベルを泳がせておくべきだ身に背負って死んでいったようなものだ。ザミーンの魔手から地球 と提案したのは、かれ自身である。キャンベルが射殺されたとなるを解放する日が到来するまで、キャンベル自身の汚名も雪がれるこ と、エバメゾンの隠し場所が訊きだせなくなる。 とがないだろう。 「キャンベルは、エ。ハメゾンのことを、なにも言わなかったのか カーラにできることは、べッドに倒れこんで泣きつづけることだ けたった。それ以上の演技を彼女に期待することは、無理というも グランストンは、首をふった。カーラがとびだして説明する。 のである。 「そういえば、ヘイルは、あたしと逃げようって言いましたわ。な「いったい、キャンベルが、なにをしたというのですか ? 」 んでも、一生あそんで暮らせるような大金が手に入ったから、どこ演技を続けなければならないのは、グランストンも同様だった。

3. SFマガジン 1969年5月号

ことを、う 0 かり見落としてしまった。だが、あとにな 0 て考えて かれは、害にこそなれ、計画に益するところがない。キャンベル みると、そこに手ぬかりがあったような気がするというのである。 自身にも、悲しい事実が判りはじめていた。 ザミーンでは「地球より精神医学が発達している。かれらは、脳細キ ~ ン〈 ~ がや 0 てきたのは、地下一 = 一七層にあるセクソイド・ 胞の XZ<< 分子に記憶された事実を、自由に再現することができ ~ ターだ 0 た。宇宙市のなかには、ここより他に、グランスト る。他の死体はすべて蒸発してしま 0 たが、あのラタンポル 2 とい と話しあえるところはない。 う戦士の死体から、残存記憶が抽出されたとすれば、容易ならぬ一 かれは、美しいアンドロイドに、グランストンを呼ぶように伝え 大事である。ホル・ ( ィ一は、それらの事実を、杞憂であることを祈た。もちろん、この連絡は官邸に向けられるから、ザミーンに盗聴 りながら、キャンベルに告げたのである。 されるはずである。 相手は、ザミーンきっての有能な戦士イスナード 6 である。あら もはや、あまり時間は残されていない。キャンベルは、グランス ゆる手段を講じて、 = ・ ( メゾンを奪 0 た犯人を探すに違いない。もトンの到着を待 0 た。尾行していたザミーンの兵士は、途中でまい しかしたら取越苦労かも知れないが、大任を果たしたことを喜んでたつもりだが、遅かれ早かれここを嗅ぎつけてや 0 てくるに違いな ばかりもいられない。キャンベルとしても、慎重にならざるを得な かった。 あたふたと奥のべッドルームへ駈けこむと、そこには一人の女が キャンベルは、そんな不安を覚えながら、ここ一週間というも待ちうけていた。〈イル・キャンベルの顔を見ると、女は不安そう 冫しカけてきた。 の、注意をかさねていた。そして今、不安は、現実のものに変 0 「〈イル、なにがあったの ? ザミーンの兵士が、あなたを尾行し キャンベルの行くところ、かならずザミーンの監視の目が光 0 ててるわ。探したけど見つからなか 0 たので、ここだろうと思 0 て待 っていたのよ」 いた。かれには、敵のたくらんでいることが、手にとるように判 0 た。敵は、かれを泳がせているのだ。かれが正体をあらわすのを待その表情は、アンド 0 イド・ 0 ポ , トのものではない。まさしく って、一味徒党を一網打尽に引 0 くくるつもりに違いない。キャン人間の女である。 ベルは、自分が無用の人間にな 0 たことを知 0 た。かれの愛する地「カーラ、会えてよか 0 た」 球をこの窮地に追いこんだ宿敵ザミーンに報復する計画。それは、 キャンベルは、カーラと呼ばれる女の手をとった。彼女は、キャ 水も漏らさぬ周到さで、綿密に進めなければならない。常にザミ ンベルの婚約者である。グランストンの秘書として、盟主の官邸に ンの監視につきまとわれているキャンベルは、すでに計画に加わる しる 資格も失 0 たも同然である。かれが動きだせば、たちまち計画が発「大丈夫なの ? ザミーンが 覚してしまう。かれの一挙手一投足が、地球を破減させかねない。 「知っている。だから、ここへ来た。盟主もやってくるだろう こ 0 4

4. SFマガジン 1969年5月号

盟主は、なにくわぬ顔で質問をぶつけてみた。 「もういいではないか、グランストン。われわれも、初めのうち シャムルティ 7 は、ラタンポル 2 の大脳から残存記憶をとりだしは、きみを疑っていた。だが、われわれに対するきみの忠誠は、よ てからのことを、もったいぶった口調で詳しく説明してみせる。もく判っている、 ちろん、イスナード 6 の指示によってそうしたことなど、おくびに シャムルティ 7 は、慰めるように言った。もし、イスナード 6 な も出さなかった。 ら、ザミーンの幹部会議で盟主に対する疑惑を口にする者があった グランストンは、初めて聴くような顔で、ザミーン星人の説明にとは、決して口にだすことはなかったろう。 耳をかたむけていた。 「ところで、イスナード 6 の姿が見えないが : : : 」 グランストンは訊いた。 もし、ここに宿敵ザミーンがいなければ、グランストンは、キャ ンベルの死体を抱きあげ、声をあげて号泣していたにちがいない。 グランストンは、以前からザミーンの戦士のうちでも、とりわけ だが、信頼を裏切ってエバメゾンの持逃げをはかった男のために、 イスナード 6 に注意をはらっていた。これまでも、イスナード 6 地球の盟主が泣くことは許されない。 は、グランストンの一挙一動にまで、疑いをさしはさんでいた。敵 グランストンは、一部始終を聴きおわると、キャンベルの死体に にまわしては、これほど恐ろしい相手はない。キャンベルの死の真 近より、足をあげて横腹を蹴りつけた。 相も、イスナード 6 の目にかかっては、簡単に見破られていたかも 「どうも挙動がおかしいと思っていたが、きさまが、そのようなこ知れない。グランストンが短針銃に手をふれたことがない事実を考 とをしでかしたとは、きよう今日まで知らなかった。この裏切者えれば、すくなくとも、キャンベルの死の謎に疑いをいだいたろ め、卑怯者め。おまえのような男を重用したのは、私の誤まりだつう。 た。まったく、なんということだ」 「イスナード 6 は、惑星ザミーンに放逐してしまった」 グランストンは、呪詛の言葉を吐きちらしながら、物言わぬキャ シャムルティ 7 は、得意そうに答えた。命令違反を犯した戦士長 ンベルをなおも蹴りつづける。わけのわからない言葉をはき、狂っが、勝手にザミーンへ戻ったというふうには言わなかった。命令違 たように振舞うことによって、内心の感情を表面だてないようにし反が事実なら、取りおさえてザミーンへ護送しなければならない。 それをしなかった ているのだ。ともすれば、グランストンの靴先は鈍りがちだった。 というより、できなかったのは、明らかにム だが、ここで本心をあらわしては、キャンベルを大死にさせたこと ラドベイ 8 側の落度になってしまう。従って、ザミーンへの報告 になってしまう。グランストンは、冷たい屍となったキャンベルに も、形式の上では、ムラドベイ 8 がイスナード 6 に帰還命令をだし たということにしてある。 詫びながら、靴先に力をこめた。 シャムルティ 7 は、たまりかねたように、グランストンの肩に手 いずれにしても、その答えは、悲しみにくれているグランストン 9 をかけた。 とカーラにとって、この上ない福音のようにきこえた。