二人 - みる会図書館


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1. SFマガジン 1969年6月号

いただけるんなら : : : 」彼女は助けを出すように提案した。 も不親切ではないが、をヒキどした謳子で彼らにいった。 二人が希望した紙切れをもらってすっかり満足して出て行くと、 「さあ早く。急いで」 医者は小さな女たちを憂欝そうに見つめた。 彼らは急いで飛んできた。 わたしがまた。ヒンクのガウンにほ・ほ包み終えられたころ、医者が「あなた方〃しもべたちは、何でもお喋りせずにはいられないん でしよう、ええ ? 何でもあなた方の耳にはいったことは、とうも ッカッカとはいってきた。彼女は制服の二人を見て眉をひそめた。 「これはいったいどうしたの ? あなた方はここで何をしてるのろこし畑の中の火のように、たちまちたくさんの仲間の間に拡がっ て、あらゆるところで面倒を引き起こすんだわ。さあ、もしわたし ? 」彼女は尋いた。 がこの先このことを耳にしたら、わたしはどこからそれが出たか、 二人のうちの指揮者が説明した。 ちゃんとわかりますからね . 彼女はわたしのほうを振り向いた。 「逮捕ですって ! ー医者が叫んだ。「マザーを逮捕するですって ! 「それからマザー・オーキス、あなたもこれから先、このべチャク こんな馬鹿な話は聞いたことがないわ。容疑は何なの ? 」 しうことはは チャ喋る小さな困り者たちが聞いているところでは、、 制服の娘は多少気恥ずかしそうにいナ いとかいいえだけに限定してちょうだいよ。じきにまた来ますから 「彼女は〃反動主義〃で告発されています」 ね。わたしたちはあなたに幾つか質問をしたいと思ってるのよ」彼 医者はただ娘の顔をじっと見た。 「 " 反動主義者。のザ】です 0 て ! あなた方はこの次にはい 0 女はそうつけ加えると出て行き、あとには押えたような沈黙の中で たい何を考え出すでしようかね ? さあ、行きなさい、出ていらっ黙々と働く一団が残った。 しや、 、二人とも」 若い女は抗議した。 ラブレー作「ガルガンチュ 「わたしたちは命令を受けているんです、ドクター」 彼女はちょうど、わたしのガルガンチ = ア ( ア」の中の巨人王。鯨飲馬 「ばかばかしい。権限がありませんよ。あなた方はマザーが逮捕さ食す諸活力あ ) のような朝食を乗せていた盆が片づけられている時に帰 れたことなど、これまで聞いたことがあって ? 」 ってきたが、一人ではなかった。彼女といっしょにきた四人の女 え、ドクター」 は、彼女と同様、尋常の人間に見えたが、たくさんの小さな女たち 「それじゃ、いま先例など作らないほうがいいわよ。さあ、お行きが椅子を引っぱってそのあとについてきて、その椅子をわたしの寝 いすのそばに並べた。小さな女たちが出て行くと、そろって白い上 なさい」 制服の娘はみじめな感じでためらったが、その時、ある考えが彼 0 張りを着た五人の女は、椅子に腰を下ろして、まるでわたしが陳 列品ででもあるような調子で、わたしを眺めた。一人は最初の医者 女に浮かんだ。 「もしマザーを引き渡すことに対して、署名入りの拒絶状を書いてとほとんど同じくらいの年ごろで、二人は五十に近く、もう一人は 2 7

2. SFマガジン 1969年6月号

る作品の欠陥の一つは、なんと ( 今までとはを呼び戻すのは、死者への冒漬だというの リスーー・・・・・四十才、スターマン。 反対に ) 登場人物の肉づけにあまりにも紙数だ。死の定義を完全にくつがえす新しい医学正確な意味では、彼はもはや人間ではない。 をくいすぎていてプロット が渋滞している点なのに、市民の偏見は根強い。蘇生センター新しい星を求めて飛びたった彼は、数十光年 なのだ。 の医師たちはあせり、研究の成果を衆人の目離れた未開の惑星 ( 地球人にとって ) マニプ どういう・こと、なのか。ここ一 の前で証明してみせようと、対立候補を誘拐ールで、高度の文明を持っ異質の生物と接触 二年のあいだに矢つぎばやに発表された彼のし、その男を殺して再び生き返らせる実験をし、その生物によって人間とは似ても似つか いくつかの長篇のなかから、〈新しいシルヴ行なう。結果は失敗。蘇生センターの医師たぬ体に改造されてしまったからだ。人びとか ーグ〉の特質をいちばんよく伝えていちは、誘拐および殺人罪で告訴される : ら見れば、彼は怪物である。カメラのシャッ るらしい二冊を選んで読んでみた。一九六七結末でちょっとロジックにガタが来るのだターのように開閉する眼、奇怪な触手となっ 年の『とけ』 Thorns ( ・ハランタイン ) と、六・、、 / カテーマのシリアスな扱いかたや、地味なた四肢、すべてが人間の原始的な肉体構造に 八年の『時の仮面』 The Masks ofTime C( 。フロットをよく最後までもたせるスト ーリイ比べると能率的だが、新しい体は動くたびに ランタイン ) である テリングに感心しながら読んだ覚えがある。彼に激痛を与える。元の体に戻そうとする外 これ以前に読んだ彼の長篇は、六一一年のス。ヘース・オペラ作家としてのシルヴァー 科手術はことごとく失敗する。しかし精神は 『蘇生』 Recalled ( 0 L 一 ( e ( ランサー ) だけ。ーグを知らす、こんな作品の延長線上で二冊元のままだ。地球には帰ってきたものの、落 ところがこれは、彼が大量生産していたスべの新作を読んだので、ぼくには彼の変貌はさ着く場所はない。彼は人間嫌いになり、世間 ース・オ。ヘラとはまったく趣きを異にする地ほど奇異にはうつらなかった。それでも : からも忘れられ、孤独な生活を送っている。 味な未来小説。 男と女が出会い、同情が二人を結びつけ、 ローナ・ケルヴィンーーー十七才、孤児。処 単純な事故死で、しかもそれが二十四時間やがて不信が二人を引き裂く。別れたとき、女だが、彼女には百人の子供がいる。自殺し 以上経ていないものなら、八十パーセント蘇はじめて愛しあっていたことに気づぎ、最後かけた彼女を救った医師が、医学の新しい実 えらせることが可能という蘇生術が開発されに本当に結ばれる。煎じつめれば、『とげ』験に卵子を提供してほしいと懇願したから る。主人公の元知事には、息子を不注意で溺はそれだけの話だ。プロットらしいプロットだ。何の取得もない女が、それだけのことで 死させた苦い思い出があり、まちかに迫ったはなく、物語はこの二人の男女と、二人の愛一躍有名になれる。彼女は承諾する。実験は 大統領選挙に立候補するにあたって、その蘇を演出するもう一人の男ーーーこの三人の相互成功し、彼女の百個の卵子は受精して、百人 生術の実用化を公約の一つに組み入れる。し作用だけで展開する。それが、なせなのの赤んぼうが生まれる。しかし = = ースもや かし歓迎されると思いのほか、蘇生術はすさか。それを説明するには、まず三人の主人公がて色あせ、彼女はふたたび死を考えはじめ る ましい市民の抵抗にあう。天国に行ったものを紹介しなければならないだろう 0 ー 08

3. SFマガジン 1969年6月号

これまで彼が書い 百人も子供がいても、ローナは彼いっていいかもしれない ていた冒険に比べれば、こういったタイ らを育てる権限を持っていない リスの相手をすれば、子供プは、書くのがはるかに面倒なはすなのに、 を一人か二人もらえるように手筈を・ハドリスによると、これも一日五時間、週五 つけよう、とチョークは彼女に約東日のペースで・ハ 1 リ仕上げてしまうという ーグの最近の作 する。今までの手術は役にたたなかから恐れいる。シルヴァー ったが、頭脳移植の実験がすすめら品といえば、本誌三月号の「ホークスビル収 れており、もしかしたらそれで人間容所」しか読んでいず、これにあまり感心し の体を取り戻せるかもしれない。チなかった・ほくは、『とけ』でようやく彼を再 ヨークがそんな話を持ちだしたこと認識したわけである。 ・ ( リスもローナの相しかし『とけ』以上に満足したのが、つぎ カらミナ 手を承諾する。二人は病室で、はじに読んだ『時の仮面』だった。アナログ誌で めて引き合わされる。チョークは金ミラーが絶讃し、ギャラクシイ誌で・ハドリス 『時の仮面』 ( ・ハランタイン版 ) に糸目をつけない。 二人は気のおもむくままが、性格描写過多だと文句をつけているの ダンカン・チョークーー・、年令不明、太陽系に世界中を旅行し、さらに月へ、ガ = メデへは、こちらのほうである。物語は『とけ』と 同様に単純だが、冒頭で大きな謎が提出さ 最大の娯楽産業の社長。三百キロ近い肉のかとむかう。 たまり。彼は他人の不幸を、苦痛を、悲嘆をこの作品の場合、内容の紹介はこれ以上無れ、それが推理小説的な興味を作品に加えて むさ・ほって生きている男だ。それらの不幸、意味だろう。といって、これだけの説明ではおり、しかも語り手の手記のかたちで書かれ 苦痛、悲嘆が特異であればあるほど、それは『とけ』のおもしろさはとうてい伝わらなているので、実験的な作風の『とけ』と比べ 、 0 二人の恋人の微妙な心理の交錯が縦糸でると、ずっと抵抗なく読める 太陽系に住む数百億の人びとに貴重な娯楽を リスを結あるとすれば、横糸は華麗な未来都市の、あ時は一九九九年。世界は、ここ半世紀近 提供する。彼はローナとミナー 局地的な戦争が大戦に発展することもな びつけようと考える。これほど奇妙なカップるいは壮大な木星衛星の地表の景観の描写でく、 しか く、概して平和であったといっていい。 ルはほかにあるまい。二人はあまりにも違いあり、それらが三人の主人公の異常な三角関 すぎる。はしめは互いの境遇に同情しても、係を媒介にして、じつに無理なく融けあってしそんな平和が、豊かな暮らしに慣れた人び 、るのだ。正統派作家シルヴァー ーグの初との心に新しい不安を植えつける。世界は新 いっかは傷つけあい、憎しみあうことになるし ミレニアム ニュー・ウェーヴ にちがいない。 の〈新しい波〉 ( あるいは e Z e ) の試みとしい千年紀の到来とともに亡びるのではない THE MASKS OF TIME ー ROBERT SILVERBER 、 G 8

4. SFマガジン 1969年6月号

グランストンは首を振った。自信がもてないというふうである。 ンのものかも知れませんが : : : 」 ザミーンのカイライとして振舞 0 ているときのグランストンが、よ通信士のふるえる声の中途で、ホル・ ( インは、 0 ンタクトを断 0 6 くみせるゼスチ = アである。ホ化 ( インは、この盟主の態度にあらた。通信士は、先方から送られてくる事実だけを伝えればよい。ザ われる、二つのかけはなれた面を、どう理解していいか迷ってい ンかも知れないという推測は、むしろ蛇足である。その辺の任 た。なにかに憑かれたように部下をひきずっていく時のグランスト務をわきまえているはずの通信士が、不必要なことを口にするとこ ンと、おぼっかない口ぶりで脅えたように喋る時のグランストンとろを見ると、シ = ルターにいる人たちも、かなり動揺しているのだ ろう。 では、まったく別人のようにさえ見える。 やがて、漆黒の空の一角に現われた光点は、地表めがけて矢のよ 「なにか突発的な事故が起こった場合に備えて、戦闘配置を維持さ せましようか ? ・」 うに降下してきた。それは、地球で造られた宇宙船だった。この事 実だけでは、まだ、なにも判らないに等しい。占領を受けたとき接 「ああ、そうしてくれ、頼む」 収された兵器類で、そのまま占領軍に使われているものが、かなり グランストンは、ホルバインを頼りきっているようだった。さっ そく、ホル。 ( インは、シ = ルターに残った幹部にむかって、戦闘配たくさんあるからである。 置の強化を命令した。この小惑星の表面のあちこちに配備された核降下してきた宇宙船は、近くに人がいることを考慮して、はるか ミサイルが、この一点を狙うはずである。もし、こちらの素姓が露上空で反重力 = ンジンを停止し、ゆっくり着陸してみせた。かすか 見するようなことになれば、その場をさらず相手を討ちはたすつもな震動が二人の地球人の足許をゆさぶっただけで、反重力の干渉は りである。もちろん、そうなれば、ホルバインも、生きては戻れま起こらなかった。 したが、目下のところ、最悪の事態に至る可能性は、ほとんどな とっぜん、接地した宇宙船の ( ッチから、二足歩行する人影が、 さそうだった。 荒凉とした小惑星の表面に吐きだされた。その数およそ十人ばかり 二人の外観は、どう見ても、コンタチ・ハーヌ星人そのものだつで、ことごとく重武装している。 た。また、ここに置かれた機械も、コンタチパーヌ星のものばかり つややかな超金属の外装を持つ、偉丈夫然とした姿は、まぎれも だった。疑惑を持たれる余地があるとも思えない。 なくコンタチ・ハーヌ星人のものだった。 うかっ 緊張した二人が見つめる宇宙の彼方に、まもなく、ひとつの光茫「迂濶だった」 かた が現われた。通信士が、宇宙船の接近を告げてくる。 カプセルのなかで、ホル・ハインはロ唇を噛んだ。名を詐った当の 「いったい、どこのパトロール艇だ ? 」 相手が出現することを、まったく予想していなかったからである。 ホル・ハインが、カプセル内部のマイクに向かって叫んだ。 無論、それには、それなりの根拠があった。これまで、コンタチパ 「それが : : : 先方は、所属を名のりません。もしかすると、ザミ ーヌ星人は、太陽系内をパトロールしていなかった。惑星間 ( イバーメタル

5. SFマガジン 1969年6月号

わたしはビンクのサテンのゾッとするような山を見下ろして、身彼女の目がわたしの目と会った。それは困惑し、気持を儚つけら 4 ぶるいした。恐ろしくひどい仕打ちだという感じがわき上がってきれていた。それでも、職業的な徴笑がまだそのロを曲げていた。 6 た。わたしはドナルドがわたしを慰め、愛撫し、抱き、そしてもう「あたしは本気よ」わたしは短くつけ加えた。 大丈夫たよといってくれるのを切望した。わたしは自分自身などを彼女はためらい続けへ 、・ツトの向こう側の仲間をチラリと見た。 見ているのではなく、これはほんとうに夢なのだよといってくれる「あなたもよーわたしはもう一人にいった。「もうたくさんだわ」 のを切望した。同時にわたしは、こんなに大きくでぶでぶに太った彼女はリズムのある動きの中で、手を休めもしなかった。右側の わたしの姿を、万一彼が見るようなことがあったらと思って、ゾッ女はようやく思いを決め、仕事に戻った。彼女はちょうどわたしが とした。それからやがて、ドナルドはもうわたしを見ることはないやめさせたことをまた始めた。わたしは手を伸ばして彼女を押し もう決してないのだーーということを思い出し、みじめな打ちた。今度は前より強く押した。その腕の長まくらの中には、普通、 ひしがれた気持になり、涙がまたポロポロと頬を流れ落ちた。 人が想像するよりずっと大きな力がこめられていたに違いない。そ 他の五人はただ目を丸くして、いぶかりながらわたしを見守り続の一押しで彼女は部屋の半分ほども向こうへ飛び、つまずいて倒れ けているだけだった。相変わらず沈黙のまま、三十分ほどすぎた が、その時ドアが開いて、そろって白い服を着た小さな女の一団が部屋の中のあらゆる動きが突然止まった。誰も彼もが最初は彼女 はいってきた。わたしは〈イゼルがわたしを見、それから指揮者をを、それからわたしを見つめた。中断の時期は短かった。 , 彼らは皆 見るのを目にした。 / 彼女は何かいい出そうとするように見えたが、 また仕事を始めた。わたしは左側の女も押しのけた。もっともこれ すぐ気を変えた。小さな女たちは分裂して、二人ずつ一つの寝いすはすっとやさしく押したが : さっきの一人のほうが立ち上がっ に向かった。べッドの両側に一人すっ立っと、彼らは上掛けをはぎた。 , 彼女は泣いていて、怯えているように見えたが、頑固に歯をか 取り、袖をまくり上げて、マッサージを始めた。 みしめて、戻ってこようとしかけた。 最初それは悪い気持ではなく、またひどく気分を和げるものだっ 「近寄るんじゃないの、いやらしいチビたちーわたしは脅かすよう た。わたしは仰向けになって、グッタリと手足の力を抜いた。しか に二人にいった。 し、やがてそれほど気に入らなくなってきた。間もなくそれがイラ それが二人の足を止めさせた。二人は遠く離れたまま、みじめに イラ気にさわってきた。 お互いの顔を見つめ合った。先任の・ハッジをつけた女がせかせかと 「もうやめて ! 」わたしは右側にいる一人に鋭くいった。 急ぎ足でやってきた。 彼女は手を休め、わたしに向かって愛想よく、しかしちょっぴり「どうしたんです、マザー・オーキス ? 」彼女は尋ねた。 心もとなさそうに徴笑し、それからまた続けた。 わたしは彼女に教えた。彼女は当惑したような顔をした。 「やめてといったのよ , わたしは彼女を押しのけながらいった。 「でも、それはまったく非のない行為ですよ」彼女はいさめた。

6. SFマガジン 1969年6月号

巨大都市の廃墟の上に、白い雲が流れていった。二人の束の間の そのなかは、見かけほどひどくはなく、木の柱と土の壁できちん 愛を思いやるように、白い雲は太陽を覆いかくした。 と修復してある。そして、木の二段べットがずらりと並び、それぞ れに、小さな赤ん坊が入っていた。 おそらく、タッカーが同行したとき、フジ巨大都市から救出した 4 赤ん坊なのだろう。まるまるとした育ちぐあいから、それと判る。 タッカーとミリカが、尚古主義の本拠に戻ったのは、夕方ちかく「可哀想に、お腹を減らしていたのね。待ってね、今あげるわ、 なってからだった。タッカーは、愛するミリカと結ばれたことを、 ミリカは、いそいそと別室へいそいで、大きなボウルを抱えてき かれだけの問題とは考えなかった。航宙士は、知能指数の高いすぐ た。そのなかには、ドロリとしたミルク状の食物が入っている。こ れた能力の人間である。かれらが、異性と愛をかわすときも、そのの子たちのために用意された離乳食なのだろう。 職業と無縁であってはならなかった。かれらは、サイ・ハーの選んだ赤ん坊のあいだをまわりながら、木のスプーンにもった離乳食を 相手に、提供者として精子を植えつけ、よりよい遺伝を持っ子孫をあてがっているミリカを見つめながら、タッカーは、自分だけつま 残す義務を持っていた。タッカーは、航宙士としての義務を怠り、 はじきにされたように感じた。 すすんで禁を犯したことになる。かれが愛したミリカは、不適応者さきほど、タッカーと愛しあっていたときのミリカは、尚古主義 として抹殺されるべき異常児であったが、タッカー自身、そのこと者であるまえに、一人の女だった。タッカーのほうが、航宙士の名 を後悔してはいなかった。 誉に反する相手を選んだとすれば、ミリカのほうも、かれらの同志 破砕機にかけられる宿命の異常児は、すべて毛むくじゃらのミ = が嫌っている戦争愛好者を選んだことになる。それでいて、二人の ータントになるわけではなかった。たいていは、ごく僅かの遺伝的あいだには、すこしも異質なものはなかった。少くとも、愛しあっ 欠陥を持っというだけで、さしあたって日常生活には支障のない人ているあいだは、二人ともほんとうの恋人同士だった。 間として成人する。ミュータントが生まれてくる割合は、僅か五分その関係がここへ帰りついたとたんに、妙によそよそしいものに の一くらいでしかないという。ミリカ・ホル・ハインは、自分と同じ変ってしまった。赤ん坊に食物を授けているミリカは、タッカーな 宿命のもとに生まれてきたミ = ータントに対して、実の兄弟のようど眼中にないというふうだった。 な愛情をそそいでいる。タッカ 1 にも、その気持が判らないわけで タッカーはあたりを見まわした。赤ん坊たちは、一種類だけのよ 冫なしたが、ミリカの態度には、悲壮な使命感のようなものさえうに見えた。すくなくとも、普通人とミ = ータントの相違は、どこ あった。 にも見あたらなかった。そういった外観上の分化が始まるのは、も 本拠のあるあたりに戻ってくると、ミリカは、タッカーを案内しっと後の時期になってからなのだろう。 て、崩れかけた横築物のひとつに入っていった。 ミュータントの頭蓋にある空隙は、赤ん坊のときと同じように、 ドナ メガロポリス ー 73

7. SFマガジン 1969年6月号

「あたしには違うわ。あたしはあれが厭だし、やってもらいたくなたれるってことを覚えてないんでしよう、ええ ? 」彼女は皮肉な調 子でつけ加えた。 いわ」わたしは答えた。 彼女は当惑して、ぎごちなく立っていた。 「ぶたれるですって ? 」わたしは落ち着かぬ調子で繰り返した。 ヘイゼルの声が部屋の向こう側からやってきた。 「そう、ぶたれるのよ . 彼女はロ真似した。「でも、あなたはあの 「オーキスは頭が狂ってるのよ。彼女は恐ろしくいやらしいこと人たちがどうなろうと気にしないんでしよう ? ここを離れている を、あたしたちに話していたのよ。まったく狂ってるんだわ」小さ間にあなたにどんなことがあったか、あたしは知らないけれど、で な女は振り向いて彼女を見つめ、それから問いかけるように他の一も、それがどんなことであろうと、とにかくそれはひどくいやな結 人を見た。その娘が頭をコクリとやり、厭そうな表情を浮かべて承果をもたらしたようね。あたしはあなたのことなんか決して気にか 認すると、彼女はまたわたしのほうを向いて、探るようにジロジロけなかったわ、オーキス。他の者たちはあたしのことを間違ってる 眺めた。 と思っていたけどね。ところで、こうなってみるとあたしたち皆に 「あなた方二人は行って、報告なさい」彼女は当惑しているわたしは、ようくわかったわ」 のマッサージ師にいった。 他の者は一人も意見をいわなかった。彼らがヘイゼルの意見に共 このころには二人とも泣いていたが、彼らは打ちひしがれたよう鳴しているという感じが強くしたが、幸いその時ドアが開いて、そ にいっしょに部屋を出て行った。責任者の女はまたわたしに長い考れを確認せずにすんだ。 えこむような眼ざしを投げたが、やがてその二人のあとを追って出 先任の付き添いが、五、六人の小さな用心棒といっしょにまたは て行った。 いってきたが、今度はその一団は、三十ぐらいの美しい女に引き連 一一、三分すると他の者も全部荷物をまとめて出て行った。またわれられていた。彼女が現われたことで、わたしはひどくホッとした たしたち六人だけが残った。そのあとに続く沈黙を破ったのは〈イ感じを味わった。彼女は小さくもなければ、アマゾン型でもなく、 ゼルだった。 また巨大でもなかった。いまいっしょにいる仲間のおかげで、ちょ 「ずいぶんひどいことをやったのね。あのかわいそうなチビさんたっと背が高すぎるような感じがしたが、しかしわたしは彼女の背丈 ちは、自分の仕事をやっていただけなのよ」彼女はいった。 を五フィート十インチ ( 約一メーハぐらいと判断した。正常な、快 「かりにあれが連中の仕事だったとしても、あたしは嫌いなのよ」活な顔立ちをした若い女で、多少短めに刈った茶色の髪をしてお わたしは答えた。 り、白い上っ張りの下から黒いプリーツのスカートが覗いていた。 「それだけのことであなたはあの人たちをぶたれる目に合わすの先任の付き添いは若い女の大きな歩幅に遅れないようにするため、 ね、かわいそうに。でも、これもきっとまた記憶をなくしたおかげほとんど小走りに歩いていたが、妄想について何かいっており、ま 5 なんでしようね。あなたは、マザーの気持を乱した〃しもべ〃はぶた「今日センターから帰ってきたばかりです、ドクター」といって

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つめならいった。 わたしに答えた。徒女はぢよっと考えていた 「フーン」彼女はいった。「ジョージ六世時代ねーーでも、あなた「教えて下さい , わたしは頼んだ。「どうか一切合財を説明して下 できるものなら」 は第二次大戦は覚えていないんでしよう ? 」 「グラスをお貸しなさい。そのあとで問題の要点にかかりましょ 「ええ」わたしは認めた・ うー彼女は二人のグラスにそれぞれ酒を注ぎ、それから尋いた。 「でも、次の王さまの戴冠式のことは覚えているんじゃない ? 誰 「これまで、あなたの経験したことの中で、一番奇妙な特徴という のだったかしら ? 」 「エリザベスですー・ーエリザベス二世ですわ。母がその行列を見せ風に感じたのは何です ? 」 わたしは考えてみた。「あんまりたくさんあってーー・」 に連れて行ってくれましたわ [ わたしは答えた。 「一人の男も見かけなかったという点じゃない ? 」彼女がほのめか 「何かそれについて覚えています ? 」 「あまり大しては覚えていませんわーーーほとんど一日中雨が降ってした。 わたしは思い返してみた。わたしはマザーたちのこう尋いた不思 いたってことを除いては」わたしは認めた。 わたしたちはそんな風にして暫く話を続けていたが、やがて彼女議そうな声音を思い出した。「男って何なの ? 」 「たしかにそれも一つですわ」わたしは認めた。「男の人たちはど が元気づけるように微笑した。 こにいるんです ? 」 「さあ、わたしたちはもうこれ以上わたしたちの立脚点を固める必 要はなさそうですね。わたしはその戴冠式のことを前にも聞いたこ彼女はわたしをじっと見つめながら、首を振った。 とがありますよ , ・・ーまた聞きですけれどね。ウ = ストミンスター寺「誰もいないんですよ。もう男はいないんです。一人もいないんで 院の中は、すばらしい眺めだったに違いないわ」彼女はちょっと黙すよ , ( 次号完結 ) って考え込んでいたが、小さな溜め息をもらした。「あなたはずい ぶん辛抱して、わたしにつき合ってくだすったわね。今度はあなた が尋く番になれば、やっと釣り合いがとれるというものだわーーで も、ショックを受けないように、充分心の準備をしなければいけな いでしようよ」 いや、三十六時間のように思われたも 「これまでの三十六時間 のーーーのあとでは、もうだいぶ慣れているはずだと思いますわーわ たしは答えた。 「さあどうか、怪しいものですね」彼女は真面目な顔でわたしを見 9 7

9. SFマガジン 1969年6月号

ールを強めることもできるのだった。体重計の針を、自分の体重と前、思いがけなく足がもつれた。これほど絶望的な転倒のしかたは 同じくらいまで上げることもできれば、ゼロにすることも、もちろあるまい。三週間前なら、階段の下にぶざまに寝そべる羽目になっ んできた。 ていただろう。 二日前には、体重計を買いこんで、体重変化の割合を測定しよう今度の場合は、自動システムが間髪をいれず働いた。前のめりに とした。それは役に立たなかった。針の動きが、変化の速度ー・ーそなると、両脚をなかばちちこめ、両の手の指をいつばいに広げた、 れが何を意味するにせよーーーに追いっかないのだ。圧縮率と慣性モ大の字のかたちで、階段の上をグライダーのように舞いおりてい た。まるでワイアで吊るされているかのようだった。 ーメントのデータが集まっただけだった。 目がくらんでしまったので、体を立て直すこともできなかった。 さて 。それを総合して何が出てきたというのだろう ? 彼は立ちあがると、うなだれながら、と・ほと・ほと図書室を出た。恐怖のあまり、体がいうことをきかなかった。階段の下、窓から二 部屋のつきあたりまで行くのにも、テー・フルや椅子から手を離さなフィート足らずのところで、彼は自動的に停止し、そのまま宙にう かった。辿りつくと、今度は目立たぬように壁にさわりながら進んかんだ。 階段の途中には学生が一一人いたが、今は壁ぎわにへばりついてい だ。そうせずには、いられないのだった。物体と絶えず接触してい ることで、かろうじて地面に対する自分の存在を納得しているのる。そして階段のてつべんに三人、すぐ下の階段に二人、彼のいる だ。テしフルから手が離れたり、手が壁の上をずるずると動きだし踊り場にさらに一人。彼とのあいだは、手が触れるほどの距離だっ たらーーそれで一巻の終りだ。 廊下には、いつものとお、り学生の姿がちらほら見えた。彼は学生あたりは静まりかえっている。誰もかれもが、彼を見つめてい たちを無視した。この数日間で、彼らにも少しずつ挨拶する必要のた。 ロジャーは姿勢を正すと床におり、学生の一人をつきとばして階 ないことがわかってきたらしい。気違いじゃないかと疑っているも のもいるだろうし、おそらくほとんどは、気にくわんやつだと思い段をかけおりた。 背後では、叫び声に近い会話がどっと湧きおこっていた。 はじめているだろう。彼はそう想像した。 エレ 1 べ 1 ターは通り過した。最近は使ったことがない。・特に、 下りの場合は。エレベーターが最初いきなり下りだすときには、ど「モートン先生が、ぼくを ? 」ロジャーは、椅子のひじかけをしつ うしても体が一瞬、宙に浮いてしまうことに気づいたのだ。その瞬かりと掴んだまま、ふりかえった。 間のためにどれだけ身構えていようと、体がビョンとはずみ、人び新しく雇われた理学部の秘書はうなずいた。「はい、 との視線がこちらに向くのだ。 先生」 ロウェイの代りにはいっ 階段のいちばん上で、彼は手すりに手をのばした。それを擱む直彼女はそこそこに立ち去った。ミス・ハ

10. SFマガジン 1969年6月号

面の世話をやくために到着していた。 出て行った。 彼女のいったことは全く正しいと、わたしは不承不承認めざるを彼らは持ってきたシーツを手ぎわよく拡げて、巧みなテク = ック 得なかった。いったい全体わたしは何をしようと期待したのだろうでわたしをあちこちに転がしては、わたしの身体をきれいにした。 、刀 この恐ろしい肉の山に邪魔されながら、い 0 たいわたしに何わたしはその勤勉な作業をじ 0 とおとなしく受け入れ、おかげでさ つばりするのを感じ、それから頭痛がすっかり消えているのに気が ができるというのか ? それを憎む気持の大波と、どうしようもな い挫折感とが、またわたしを涙の一歩手前まで追いやった。わたしついて、嬉しく思った。 わたしたちの洗浄の儀式がほとんど終わりに近づいたころ、先ぶ は自分でも気に入っていた、そして頼むことを何でもやってくれ た、自分のほっそりした、よい身体を本当にほしいと思った。わたれのノックがして、はいれともいわぬうちに、銀のボタンの付いた しはドナルドが、いっか若い木が風の中で揺れているのを指さしな黒い制服姿の人物が二人はいってきた。彼らはアマゾン型の女で、 がら、あれは君の双子の姉妹だよと教えてくれたのを思い出した。背が高く、肩幅が広く、均整のとれた身体つきで、美人だった。小 さな女たちはすべての持ち物を落とし、大あわてでキイキイいいな そしてほんの一日か二日前には : その時、突然、わたしは思わずもがきながら起き直 0 たほどの発がら部屋の片隅〈逃げて行き、そこで固ま 0 てすくんでいた。 二人はわたしに見慣れた敬礼をした。決断とうやうやしさとが奇 見をした。頭の中の空白な部分はいつばいに充たされていた。わた 。その努力で頭がズキズキ妙に入り混じった態度で、そのうちの一人が尋いた。 しは何もかも思い出すことができた : マザー・オーキスですね ? 」 「あなたはオーキス し出したので、わたしは力を抜いてもう一度横になり、すべてのこ とを思い起こした。針が引き抜かれて、誰かがわたしの腕を拭いた「そう皆があたしを呼んでるわ」わたしは認めた。 その娘はためらったが、やがて命令するというよりむしろ嘆願す まさにその瞬間まで、すべてのことをである : だが、そのあと、何が起こったのだろうか ? 夢や幻覚は予期しるような調子でいった。 ていた : ・・だが、こんなに焦点のしつかり合った、細かいところま「わたしはあなたの逮捕に関する命令を受けてきています、マザ どうかわれわれといっしょにきてください , で現実らしい感じのするものは、予期してはいなかった : : : しつか り固められた悪夢とでもいうような、こんな状態は予期していなか興奮した、いぶかるようなさえずり声が、片隅の小さな女たちの 間から起こった。制服の娘はジロリと一目で彼らを黙らせた。 「マザーにちゃんと服を着せて、用意をさせてあげなさい」彼女は 何を、いったい全体何を、彼らはわたしにしたのだろうか : ・ 命令した。 小さな女たちは、臆病そうな、ご機嫌をとるような微笑を二人に わたしはまた眠りこんだに違いない。というのは、目を覚まして み裟外には日の光赤射していて、小さな女の一隊があたしの銑絢けながら、おすおすと嵎から出てきた。もう一人の娘が、必ずし 7