から、エレベーターもその中の人間も、まったく同じス。ヒード、同めて巧妙なものであっ じ加速度で落ちつづけるだろう。 外からみれば、全てが一体となって、大変な勢いで落ちてゆくこ等価原理そのものの とになるけれども、とれを、エレベ 1 タ 1 の中の人がーー・外はむろお話はこれでおしまい ん眺めないでーー観察したとすると、地球に原因する重力が、あたとなるが、ここでひと かも作用していないように感じられるにちがいない。床も人間も同つだけ、注意をしてお じように落ちてゆくので押えつけられるということがないからであきたい。それは、エレ べーターにあらわれる る。アポロ宇宙船の中みたいなものである。 このように、自由落下するエレベーターの中では、見かけ上、重現象には箱の大きさに 力のない ( つまり地球もなにもない ) 空間と同一の状態が出現する制限があるということ ことになる。 である。極端な話をす アインシュタインは、この、見かけ上の無重力が実際の無重力とるとわかりやすい。た 物理的に全くちがわないのだーーーと考え、その考えを理論の出発点とえば、地球と同じく重力の強さ においた。 らいの超特大のエレベ それが、前記第Ⅱ項の″等価原理〃である。 ーターをもってきたとしよう。それを地球にむかって落下させても 等価原理によって、逆に、無重力空間で加速される宇宙船の中に地球の重力は地球の中心にむかう放射状をなしているから、 = レベ 働く力は重力と本質的に同じである , ーーということもいえる。 1 タ 1 の中心では無重力になるだろうが、隅の部分では斜めの力が 動きはじめるときの = レベーターで、からだが重くなるように感働くにちがいない。また、床と天井では地球からの距離がちがうの じるのは、地球による重力が強くなったのと同じだ、というわけでで、重力もことなり、したがって、完全にはうち消されないで残る ある。 にち力いない ″等価原理みは、もちろん、実験的事実に反するものであってはな つまり、重力と加速度との等価は、地球とくらべて十分小さなエ らない。″等価原理みの基礎は、重力がどんな物体にも同一の加速レベーターという領域内においてのみ、成立するのであり、どんな 度を与える ( 重いものでも軽いものでも同時に落下する ) ーーーとい重力場でも、自由落下によってうち消すことができる・ーー・というわ うことであるが、これを実験的にたしかめた最古のものは、ガリレけでは決してないのである。 オがあの。ヒサの斜塔で行なった有名な同時落下テストである。 ートベスによって行なわれ、また坂道とポテンシャル その後、より学問的な実験がエ ーーー華麗なる幾何学の殿堂ーー 。フリンストン大学などで、さらに厳密にたしかめられた。エー スの方法は、ある物体に働く地球の引力 ( 重力質量に関係 ) と地球 の自転による遠心力 ( 慣性質量に関係 ) とを比較するという、きわ基礎原理のⅡのほうの説明が先になってしまったが、つぎに、— 坂 ( ポテンシャル ) ポテンシャルとは重力の強さを坂道の 傾斜で表現しているようなものである
明されるのが常である の二項が基礎だったが、一般相対論では、 物理法則はいかなる座標系に対しても同じ形式をもつ。 ( 一が、それは、一般相対 論が完成するよりもは 般相対性の原理 ) Ⅱ加速度運動に原因する見かけの力と重力とは、全ての物理現るかまえから、アイン 象に同じ影響を与える。 ( 等価原理 ) シュタインの脳裏をか のふたつを、その指導原理としている。 けめぐっていたパター 等一項については、特殊相対論の拡張であることが、ことばの上ンだったのだ。 からもすぐにわかる。しかし、第Ⅱ項はかなりちがっている。一般 ここでも、その説明 相対論を数学的にではなく、その意味する物理的側面からみたときをくりかえすことにし のポイントは、この第Ⅱ項にある。これが有名な〃等価原理〃と呼よう。 ばれるものである。 エレベーターは、現 アインシュタインの共同研究者として有名なレポルト・インフェ 在ではもう日常生活に不可欠の存在となりつつあるが、これに乗っ ルトによると、アインシュタインは、一五、六歳の頃から、つぎの て動きはじめるときと、停止するときとに、軽いショックがあるこ ふたつの問題を絶えず考えつづけていた とくりかえし語ったそ とは、どなたも感じておられるだろう。 うである。 動きはじめにはからだが重くなり、とまる際には、ほんの少しだ ①もし誰かが光を追って走り、光を捕えようとするとどのよう が、軽くなったような気がするのだ。 なことになるか ? ・ 重くなるときの方がからだにひびくように思えるが、神経質な人 ②もし誰かが自由落 や病人は、とまるときに宙に浮くような気がして目まいを感じるこ こる くあ下するエレベ 1 ター ともある。 解で に乗るとどのような っ ) ヒヒ ふつうのエレベーターでは、むろん、その辺のマンションだろう 密可ことになるだろう と、霞が関ビルだろうと、むりのない動きに設計されているので、 厳不 カ ? ・ をは 実際に宙に浮いたり、床に押しつけられたりするようなことはない 題論 問性第一の問題から特殊相 が、もし、わざと動きをはげしくしてみたら、どんなことになるだ の対対論が生まれ、そして、 体相 物殊第二の問題が、一般相対極端な場合、ロープを切断して、自由落下させてみたらどうだろ る特 す論の源泉となった。多くう ? ア転はの解説に見られるよう実験はたいへん ( ! ) だけれど、思考実験ーーっまり頭の中での 7 回と に、〃等価原理〃はこの実験ーーーは簡単である。地球の引力にひかれて物体が落下するスビ ードは物の重さにはよらないことが、昔からの実験で知られている エレベーターによって説 4 エレベーターの動かしかたによ って無重力状態を作ったり重力 をうんと強くすることができる
の〃一般相対性の原理の説明にはいることとしよう。 な人が一般相対論の教科書を読むと、たいてい、このテンソル解析 第—項の目的 : : : これは簡単である。 の章で頭がぐらぐらとし、挫折してしまうのが常識となっている。 読んで字のごとしで、等速度連動についてのみ考えられていた相だから、むろんここでテンソル解析のお話をはじめるつもりはない 対性の原理・ーー絶対的な時間空間というものはなく、物理法則は相し、またその任でもないのだが、ゼロ階のテンソルはふつうの数で 対運動をするどの系にも同じ形で成立するという原理・ーーを、よりあり、一階のテンソルはべクトル ( 大きさと向きをもった量 ) であ 一般の運動をする系にも拡大しようということにすぎない。 る , ーーということくらいは知っておいてもいいかもしれない。一般 一直線に等速ですれちがう宇宙船に対してだけしか厳密には適用相対論では二階かそれ以上の階数のテンソルが続々と出現するが結 できなかった特殊相対論を、ぐんぐん加速する宇宙船や、重い星の局はふつうの数の拡張なのである。 まわりを周回する宇宙船にまでも適用できるように拡張しようとい さて、このむずかしいテンソル解析を用いると、特殊相対論の法 う、ごく自然の考えにすぎない。 則は、常に、基本原理—の要請をみたすように、つまり一般相対性 しかし、この簡単な目的を達成するに要した方法は、まことに難の原理をみたすように、書きあらためることができるということが 解なもので、数学好きの人でないかぎり、Ⅱの等価原理よりもずつわかる。 と理解しにくいのである。 このようにして、テンソル解析を武器としてつくられたリーマン そこでこの解説でもあとまわしにしてしまったわけなのだが、基空間における一般相対論の理論体系は、まことに壮大にして華麗な 本的な考え方を、ある側面からやさしくまとめることは、不可能でる、幾何学の殿堂ということができるだろう。 やさしいむずかしい、は別として、これほど美しい骨格をもった はないと思うので、とにかく一応、説明してみることにしたい。 特殊相対性の拡張であるから、理論は、特殊相対論を満足する数理論体系も少ないからである。 式 ( 法則 ) を拡張するところから出発する。 ところで、鋭敏な読者は、特殊相対論の法則が常に一般相対性の アインシュタインは、このために、四次元リーマン空間という、原理をみたすように書き直せるーーーということばに、疑問をもたれ 一種の空間を扱う数学的体系を採用するとまことにつごうのよいこたかもしれない。たしかに、常にそうできるということは、数学的 とに気がついた。これが、またひとつの、アインシュタインの天才には拡張であっても、物理的にはそれほど意味があるとは思えない のあらわれであったといえる。 からである。 リーマン空間は幾何学的にいうと、非ュークリッド的であり、曲 この疑問は的をついている。アインシュタインの一般相対論は、 がった空間を表わすーーーなどとよく、 いわれるので、名まえだけは たしかに、リーマン空間の数学だけでできているのではなく、それ ご存じの方も多いかもしれない。 に第Ⅱ項の〃等価原理〃を組み合わせてはじめて成立するものなの また、このリーマン空間の幾何学を数式的にとりあっかう手段である。 を、テンソル解析と呼んでいる。だから、一般相対論を数学的にみ 9 〃一般相対性の原理〃の数学的表現であるリーマン幾何学がいかに れば、その中心はテンソル解析にあり , ーーということができる。 壮大華麗であっても、それだけでは、人の住まないからつばの建築 テンソル解析は記号的にわずらわしい面があるので、数学の苦手物にすぎない。そこに〃等価原理みという名の生命体が住みこんで
はじめて、殿堂が生き生きと、その存在価値を示すようになるので結びついていることを明らかにし、そこか ある。 らもろもろの結果を導びいてくる理論体系 メトリック この幾何学の殿堂と生命との結合は、具体的には、〃計量テンソであるーーといえるだろう。 ルがポテンシャルを意味する〃ということばで、、、 ししあらわすこと はじめの希望だった、加速度と重力を組 ができる。 み入れるという作業はこれでめでたく完結 計量テンソルとは、四次元リーマン空間 ( むろん時間をひとつのし、それらは、物理的には引力 ( ポテンシ 次元とする ) のできかたーーっまり殿堂の骨格構造や柱とか壁の装ャル ) 、幾何学的にはリーマン空間の特殊 飾のディテ 1 ルなどーーーを表わす一種の量である。また、 - 。、 ホテンシな構造 ( 計量テンソル ) として統一的に表 ャルとは、簡単にいえば、カの強さを坂道の傾斜で表現したような現されることになったのである。 もので、図を見ていただけばおわかりのように、ポテンシャルの勾むろん、この完成された一般相対論の方 配が大きいほど、カが強いという性質をもった量である。 程式で、重力や加速度がないとすれば特殊 たとえば地球の重力の場合、地表に近いほど大きいから、その重相対論の式になるし、また、重力と速度が 力を表わすポテンシャルに地表近くで急に傾斜しており、遠方では 小さいとすると、ニュートンカ学の方程式 平担になっている。地球からアポロ宇宙船が重力にさからって飛びになる。 出すのは、この傾斜をよじのぼっていくようなものである。 一般相対論は、これからそれ以前の理論 このように、ポテンシャルとは、実際にわわれわれが感じることの自然な拡張となっているのである。 のできる力をあらわす量なので、これがリーマン空間の性質を表わ す計量テンソルと結びついたということは、すなわち、 リーマン空ゴム風船の上のいたずら描き 間が物理的な意味をもった ということになるのである。 ーー湾曲した空間の意味 , ーー 一般相対論を理解することはむずかしい。筆者も油汗をながしな よく、相対性原理の世界では空間が曲がっているーーーなどといわ がらここまで説明してきたのだけれど、こんなことで、なんとはなれる。非ュ 1 クリッド的であるともいわれる。右図のように、重い しにでも、おわかりいただけたでしようか ? 星のまわりに、各々はきちんとした寸法の積木を並べると、どこか 念のため、もう一度整理してみると、一般相対論とは で合わなくなってしまうという話がある。たしかにそのとおりなの 一般相対性の原理 だが、空間が曲がっているとよ、、 。しったいどんなことなのだろうか Ⅱ等価原理 を前節で、四次元リーマン空間 ( 時空 ) の計量テンソルなどという、 のふたつの指導原理を出発点とし、まず、—を満足ける四次元リー マン空間という建物をつくり、特殊相対論の法則を拡張し、ついで頭の痛くなる用語をつかったが、これは、リーマン空間の湾曲のし それに等価原理を適用することによって、重力がその建物の構造とかた ( 曲率と呼ばれる ) の計算のもとになる量である。だから、計 ■■第■第・ 劃■第■第■ 重い星のまわりに積木を並べ てるとどこかで合わなくなる 0
けたのである。 特殊相対論においては、超高速と重力とは別個のもので、いわ ば、ふたつの石けんだったのだが、アインシュタインの天性によっ さて、そのようなアインシ = タインにとって、ここまでわれわれて、それが、一般相対論という唯一個の石けんに統一されたのであ が考えてきた特殊相対論は、時間と空間とを結びつけることに成功る。 したとはいうものの、まだまだ不完全な理論にすぎなかった。 なぜなら、特殊相対論は、電磁場に対しては有効でも重力場に対エレベーターの中の無重力 しては効力がなく、また等速度運動にはよいが、加速度をもっ運動 ーーー重力と加速度の等価性ーー を扱うことはできないからである。 つまり、的にいえば、極度に重い星のそばをとぶ宇宙船や、 一般相対論の内容は、物理的にも数学的にも、正直にいって、難 銀河をひとまわりしてくる宇宙船の問題を処理することができない解であるといえる。 のだ。 特殊相対論でさえ、なかなか理解しにくいのだから、それよりひ 重力場に対して特殊相対論が無力なのは、重力というものが本質とまわり高度な理論体系をもつ一般相対論を、このようなコラムに 的に時間や空間と結びついているからである。 よって説明し、理解していただくのは、困難なことであり、また、 ( 電磁場に対してこのような問題がないのは、元来特殊相対論とは、煩雑な教科書的な解説をくどくどと述べるのも、意味のないことと いえるだろう。 電磁波ーー、光をもとにして創られたものなのだから、あたりまえと いえるかもしれない ) しかし、とはいっても、光が曲がったり時間が遅れたりする、神 加速度をもっ運動に対して特殊相対論が厳密な解を与えないの秘的な結果だけを羅列するのも、能がないし、さらに問題をわかり は、むろん、特殊相対論の基礎が等速度運動をする座標系のみの変にくくしてしまうおそれがある。 換にあるからである。 そこでは、一般相対論の基本的な概念を、なるべくやさしく、特 このようなふたつの欠陥をとりのそき、補う理論の確立は、他の殊相対論や = 、ートンの力学と対照しながら、説明してみることに 人によって試みられたが、結局、アインシュタインの天才が特殊相したい。 対論の場合以上に発揮され、他の誰もが考えっかなかった新しい体しばらくは、ごしんぼうのうえ、おっきあいください。 系二般相対論〃が完成された。 一九一一年から一六年にかけてのことであり、とくに、一九一六 一般相対論も、特殊相対論と同様に、ふたつの重大な要請を出発 年に Annalen der Physik 誌に発表された〈一般相対論の基礎〉点としている。 Die Grundlage de 「 allgemeinen Relationätstheorie なる長い論文特殊相対論では、 はその決定版ともいうべきもので、五十年をすぎた現在でも、根本 物理法則は等速度運動をする座標系によらず同じ形式をも 的な変革なく受け入れられている。物理学史上の不減の金字塔とい つ。 ( 相対性の原理 ) うことができるだろう。 Ⅱ光速は光源の運動に関係しない。 ( 光速不変の原理 ) 日 6
まうのだ。 むずかしいが、二次元モデルで理解しておけば、物理的な意味につ それが右の図にある。右側の三角形は、 いて、そんなにまごっくことはないであろう。 2 2 左を球面の上に描いたものである。という たとえば、重い星を周回する人工衛星の軸は、周回のたびに少し よりも、左の三角形の描かれた面を、まる ずつかわっていくが、それも、図にあるようなふくらんだ二次元で くふくらましたものーーと考えていただい 考えるとわかりやすい たほうがよいかもしれない。 また、はじめの積木の問題も、最後のふくれた二次元の図で考え これは、明らかに湾曲した二次元空門 間るれば、なっとくできるにちがいない 空き ( 面 ) である。さて、この曲がった面上で まず左側のように、平担な平面 ( ゴムでできているとしよう ) に とか の三角形にそって、まえと同じように、矢 くと二次元の積木ーーーっまり正方形を並べて描く。これはむろん、かっ 印を平行に動かしていってみよう。これは、 きりとした形におさまる。 をる 絵す 文章に記すよりも、絵をじっとにらんでく つぎに、この平面の中心に二次元の重い星を置いたと考える。重 ださったほうがわかりやすいにちがいな 元理力は、前記のように、等価原理によって空間の湾曲として記述され 次を るわけだから、平面は右側の図のようにカーヴを描いてふくれるだ たみ 1 から出発した矢印は、平行移動をつづ れがろう。ゴムの面をふくらませたとして、その状態を頭にうかべてみ けているにもかかわらず、 8 、 9 、 2 とも ふのると、中央ほどゴムが伸びた形になるので、平坦なときに描いた正 どってくると、いつの間にか、向きがちが 方形のひとつひとつは、内側の辺のほうが伸びてゆがんだ形になっ ってしまっているのだ。 ていることがわかる。 絵だけでなっとくいかなければ、地球義 これはもう正方形ではないので、それそれを正方形となるように の上にビンでもはしらせるか、ゴム風船の 描き直すと、中心よりにすきまができてしまい、もうきちんと並ん 上にマジックで絵を描くかしてみていただ だ二次元積木とはいえなくなる。 きたい。 そこで、これを一隅から順に、並べなおしてゆくと、一周したと さらに、三角形をかえると、つまり、矢印を動かしてゆく経路をころで、くいちがいができてしまい、もはやきちんと並べることは 変更すると、そのつど、向きのちがいかたがまたちがってくること不可能であるということに気づくだろう。 も、おわかりになると思う。 四次時空の湾曲ーーーという概念は、ことばではなかなかわかりに この事実こそ、湾曲した空間の最大の特徴なのである。平行移動 くいが、曲がった二次元のモデルをつくってみると、なるほどとな するにもかかわらず、移動する経路によって、向きがマチマチになっとくすることができる。 ってしまう この現象こそ、非 = ークリッド的な湾曲空間の特質ひとつ、ゴム風船にマジックインキでいたずら描きしながら、そ なのである。 の意味を眼で捕えていただけないでしようか : 三次元、四次元でのこういった平行移動のイメージを描くことは
ハヤカワ S F シリース 最新刊・近刊 エドモント・ ハミルトン矢野徹訳 天界の王 はるか未来の人間に心だけのりうつった彼は、全宇宙を股にかけた熾烈な宇宙戦争に巻き込まれた / 予価三三〇円 レイ・カミングス 川口正吉訳 時の塔 新型テレピの画面にあらわれた幻の塔ーーそれは、はるかな未来からきた航時機だった′ . 疋価一一六〇円 ード・ミード内藤たけし訳 地球誘惑作戦 ある日、不意にその香水調査員の訪間を受けた女性たちは、ひとりのこらす妊娠 シオドア・スタージョン高橋豊訳 奇妙な触合い 現代文学に強烈な衝撃と新鮮さをもたらした幻想派の巨頭スタージョ、異色短篇、価三五〇円 マレイ・一インスタ 佐藤子訳 異次元の彼方から 生きとし生けるものが、瞬の間に、凍りついた 冫元から忍びよる怖るべき謀略 / 定価二七〇円 ポール・アンダースン残久志訳 無限軌道 三千人の開拓者を乗せて、無辺際の宇宙空間を突進する植民大船団の運命はいかに ? 定価三〇〇円 シモフ小尾芙佐訳 ロボットの時弋 , イ萼 陽電子頭脳をもっ精巧なロポット達の悲哀と苦悩ーー名作『われはロポット』の姉妹編′・定価三二〇円 ート・ < ・ハインライン矢野徹訳 月は無慈悲な夜の女王 二〇七五年の月世界は自由意志を持っ巨人コンピューター〈マイク〉によって支配されていた′・定価五二〇円 定価三四〇円 7 1
てからまもないのに、彼女はもう、トウーミイ博士がどこか " おか一 しいことに気づいていた。学生たちも彼を避けていた。今日の講 ガラスだけの時計は可能となるか 義では、うしろの席は私語をかわす学生たちでい 0 ばいだ 0 た。そ 科学は、何でも次第に可能にする。 して前の席は、からつぼなのだった。 あなた方も聞いたことがあるだろうーー誰かが不慮の死を遂げた家の窓ガラス ロジャーは、ドアのそばにある小さな壁かけ鏡をのそきこんだ。 ~ に時としてぼー 0 と浮かび出る亡霊の顔 : ・ : ・なんて話を。そんな現象を科学は可 - 能にする。もし、お望みとあれば、あなたがしめ殺した ( たとえばの話だが ) 美 そして上衣をなおすと、糸くずをプラシで落した。だが、それくら 女の全裸の姿を、庭に面した透き通しのガラス窓一杯にーーーしかも、幻灯も何も いのことでは、彼の外見はいっこうに向上しなかった。このごろで ~ 使わずにーーー現わしてごらんに入れることも可能になるだろう。 は顔は土気色をしている。こんなことになってから、体重も十ポン しかも、真っ昼間、日の照る中ででもである。 ( もっともそれでは、怖ろしさ ドは減った。といって、もちろん、計れるわけではないから正確な ~ が半減するかも知れないが ) あるいはその影像を動かしてみせることもできる。 ということはーー・つまり、普通のテレビの画像を、両面何もない透き通しの一枚 数字はわからないのだが : ・ 消化力がしよっちゅう彼といさかい のガラス板上に現わしてごらんに入れることもできる : : : ということである。さ を起し、そのたびに勝って意見を通しているかのように、最近の彼 ~ らに便利なことは、陽の光なり何なり光を当てれば影像が薄れる、というのでは なく、逆にさらにはっきりと浮き出してくる、ということである。 には健康さは見られなかった。 こういうガラスのもう一つの応用は、長針も短針もない時計である。つまり透 学部長の呼びだしに、彼は何の不安も感じなかった。空中浮揚事 ~ 明なガラスの上に、例えば「 8 【 15 」といった数字だけが現われる。 ( こんな時計 件については、彼はきつばりとした冷笑主義に到達していた。目撃 が普及したのでは、人間は針のある時計の読み方を忘れてしまうだろうが ) こんな魔法のようなことを研究しているのが、アメリカの XO< 会社のニュー 者たちは話していないようた。ミス・ ハロウェイは話していない。 ・ジャージー州プリンストンにある実験所である。むろんまだこれらすべてがす 階段にいた学生たちが話を漏らした形跡もない。 でに可能になったというのではない。目下、こういうことを目標として研究をつ 最後にネクタイを整えると、研究室を出た。 づけているのだ。 今のところ可能なのは、まず、シャワー室のガラス・ドアのそばに取り付けら フィリップ・モートン博士の研究室がそれほど遠くないところに あるのは、 0 ジャーには嬉しか 0 た。秩序正しくゆ 0 くりと歩く癖 ~ れたイ , チを入れると、とたんにガラがくも 0 てしま 0 て、中が全然見えな ~ くなる、といったタイプのガラス板である。 が、ますますひどくなっているからだった。片足をあげ、よく確か これに似たいまいましいガラス・。ハネルのことを前に本欄でご紹介したが、そ ~ れとは原理がまったく別。前のは構造的な原理にもとづくものだ 0 たが、今度の めて一歩前に置く。そしてもう一方の足をあげると、よく確かめて は、化学的な原理にもとづくものである。 その前に出す。確固とした前かがみの姿勢で、足元を見つめなが 正体は、リキッド・クリスタルーーー液状結晶体という物質だ。 ら、彼は進んだ。 見た目には・液体状で、むろんそのように流動するが、顕微鏡で見ると、ごく川 細かい何種類かの物質の結晶から成っている、というある種の有機化合物であ はいってくるロジャーを見て、モートン博士は眉を寄せた。小さ な眼をした男だ。手入れのわるい、白髪まじりのロひげ。よれよれ それを一一枚の透明のガラス板の間へサンドイッチ状にはさむ。すると、見た目 の服。学界では中程度に知られた存在で、教職の義務は、学部のほ には、一枚のガラス板としか見えない に 2
0 か。まったく理由のない心配だが、その考えた微笑。むしろ標準より小柄な体格だが、独一旅行の可能性を検討する最適の人物と考えら は西欧社会全体にひろがり、人びとを狂気へ特の風格があり、自分より大きな人びとにかれたのだ。 とかりたてている。暴動のニュースは絶えまこまれても決してヒケをとらない。ヴォーナ ハインラインの『異星の客』のむこうをは ンの周囲には、たちまち信徒が群がり寄り、 って書かれたと思われるような小説で、シリ こんな世界に、一人の男が現われる。彼は新しい宗教といえるものがそこに生まれる アスなテーマにふさわしく、登場人物には周 透明な球につつまれて、とっせん空から舞いョ ーロッパをひとわたり見物すると、彼はア到な性格づけが施されている。ガーフィール おりてきた。場所は、ロ ーマ。奇異な乗物はメリカを見たいと いいだす。この混乱した世ドにはこの手記を発表する意志はないので、 すつばだかの男を一人残して消える。男の正界のあらゆる要素が、アメリカにすべて集約内容はヴォーナンの言動はいうまでもなく、 体をつきとめようとあとを追った警官は、そされているからだという。 学者たちの人間関係から、自分の性生活にま の体に手を触れた瞬間、電気にうたれたようヴォーナンは、本当に時間旅行者なのか、で及ぶ。 tn で、こんな人間くさい話もめす に気を失う。しかし男には、・ へつに害意はなそれともおそろしく狡知にたけたペテン師ならしい。 いらしく、おそるおそる近づいた人間に流暢のか、今のところ彼の言動からは、どちらかヴォーナンはいたるところで混乱を巻ぎお な英語で、自分は二九九九年からやってきたを判断する手がかりは見つかっていない。 ーティをめちやめ アこす。億万長者が催したパ 時間旅行者なのだと説明する。それが真実だメリカ政府としては、。へテン師の可能性を考ちゃにし、株式取引所では、資本主義が存在 とすれば、多くの人びとが信じている世界の ) 慮しながらも国賓として扱う以外に取るべきしない自分の世界のことを話して株価を暴落 破減は完全なでたらめということになる。し手段をもたない。彼の正体をつきとめるためさせ、シカゴでは国営の売春宿を訪れて五人 かし男の出現は、もう一つ問題を含んでい に、トップクラスの学者六人が選ばれ、彼との女を相手にする。彼の性的魅力は圧倒的 マクルウェ る。彼が現われたのは、一九九八年十二月二終始行動をともにすることになる。言語学者で、今では人類学者のドロシー 十五日、つまりクリスマスだったのだ。それのロイド・コルフ、心理学者のモートン・フ一インさえ、彼の愛妾気どりだ。 、ツケルス ールズ、生化学者のアスター は故意なのか偶然なのか、警官を一瞬に失神 いっしかヴォーナンの信者たちは圧倒的な させた超能力といし 奇怪な乗物に乗っていン、社会学者の・リチャード・ ヘイマン、数にふくれあがり、世界は今まで予期しなか たことといい、 ・マクルウェインーー・ーそった混沌の渦に巻きこまれる そこに一つの暗示を読みとる人類学者のドロシー のは決してむすかしいことではない。 この長篇が、本年度のネビ、ラ賞候補にノ この男して原子物理学者のレオ・ガーフィー は新しい救世主ではないのか 、ネートされていることを書き添えておこ 物語は、五十二才の原子物理学者ガーフィ 男の名は、ヴォーナン四。相手の心を一瞬ールドの手記のかたちで進められる。彼の専一う。 に掴んでしまう、説明のつかない魅力を持っ門が、素粒子の時間逆行であったため、時間 、 0 / イ ( 色
「別のいいかたをすれば、きみは空中浮揚を自分の問題じゃなく「 とおり、見当はすれの問題は忘れて、本当の間題に取り組んだの さ。考えてみると、他人がぼくを見る目には二種類あって、それ以彼の問題にしちゃったわけだな」とサール。 「あのとき、こんなふうなことを考えていたのか、ジム ? 外にはありそうもないことがわかった。変人に見えるか、気違いに 見えるか、どっちかなんだ。カーリングは、モートンに出した手紙サールは首をふった。「それほど具体的じゃない。ただ、本人が みずから解決するのでなければ、問題というのはいっこうに解決す で、それをはっきりといってる。学長は・ほくを変人だと思い るものではないと考えてただけさ。空中浮揚の原理は見つかりそう トンは気違いじゃないかと疑った。 だが、本当に空中浮揚ができることを、彼らの前で実演して証明かい ? 」 ートンがち「まだだな、ジム。この現象がどうしても客観的なものにならない してみせたらどうだろう ? その場合どうなるかは、モ ゃんとい 0 てくれてる。ぼくが変人で、そんな手品をやってみせたんだ。しかし、それはいいんた。肝心なのは、・ほくらがその研究に 取り組もうとしているということなんだから。彼は右手でこぶしを ートンはそう か、でなければ目撃者のほうが気が狂ってるんだ。モ : ぼくが飛ぶのを見た 0 て、納得しない。それより自分が作ると、左の手の平に打ちつけた。「しかし、よくや 0 たと思う よ。とうとう連中が力を貸してくれるまでに持ちこんたんだから 発狂したんだと思った - ほうが早い、とね。もちろん言葉の綾でいっ たにすぎないんだ。別の可能性がわずかでも存在するかぎり、自分な」 「そうかな ? ーとサールが穏やかにいった。「きみが力を貸してや が発狂したなんて思うやつは誰一人いない。そこのところを考えて れるまでに持っていったんじゃないのか ? これは、。せん・せん違う みた。 意味なんだぜ」 そして戦術を変えることにした。・ほくはカーリングのセミナーに 出席した。空中浮揚ができることなんてことは、彼には一言もいわ なかった。そのかわり、彼の目の前で実演してみせて、逆にそんな ことはしなかったといし。 、まったんだ。選択ははっきりしてる。ぼく まくじゃな が嘘をついているか、あるいは彼のほうが : し / いぜ : : : 彼のほうが気が狂ってるんだ。どっちを取るか ? ん考えはじめたら、自分の正気を疑うより、空中浮揚を信じるほう が、問題が楽に解決するのはわかりきったことだ。あとは彼が動き まわるだけさ。まず・ほくを脅しに来た。それからワシントンへ出か けた。最後には、・ほくに仕事をくれた。・ほくを助けたいんじゃな 。自分の正気を証明したいためなんだ」