ゼネラル - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1969年8月号
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1. SFマガジン 1969年8月号

ラスキン夫妻のカメラから、四本のフィルムが回収されている。 、こ、のよこうです。たった一人の冒 「シェイファーさん、私の言しナし。 険的企業家でも、しかるべく不正直であれば、全宇宙の全地球人の残された時間を利用してなんどもそれを映写してみたが、異常らし いものは見あたらなかった。もし艇がガス雲に突入したのなら、ラ 評判に泥を塗るおそれがあります。大半の星間種族が、それぞれの 同胞の倫理を監視する必要を感じているようですが、われわれとてスキン夫妻がその衝撃で殺される可能性はある。近日点での艇は半 例外ではない。私はひょ 0 としてあなたに、あの艇を中性子星まで光速以上を出していたからだ。だが、それなら摩擦があ 0 ていい冫 つまり、 ずなのに、いま見ているフィルムには摩擦熱の形跡がない。また、 持って行くつもりがないのではないか、と考えました もし夫妻をおそったのが生き物だとしたら、そいつはレーダーで あれをよそへ持っていって売りとばすのはないか、とね。。 ( ペッ ティア人は不沈戦艦など作りません。平和主義者ですからな。だも、また広い波長帯の光でも見ることのできぬ魔物ということにな これこそたよりない藁しべだがーーもし姿勢制御ジェ る。また が、あなたのスカイダイ・ハー号は話が別だ。 ットがまちがって噴射したのなら、その閃光がフィルムにうつるは 「そこで、私はゼネラル・。フロダクッ社の許可を得て、スカイダイ くらあの船体ずだ。 1 号に遠隔操作爆弾を仕掛けることにしました。い の近くにはものすごい磁力が働くはずだが、それによ でも、船体にある爆弾からはあなたを保護できない。すでにきよう る損害はありえない。磁力は、ゼネラル・。フロダクッ製の船体を突 の午後、その作業は終りました。 「さて、よろしいか。もし、出発後一週間た 0 てもあなたから音沙破できないからだ。熱もまたしかり。例外はある特殊な波長帯 。、ペッティア人の上得意である一異星種族の可視範囲・・ーーの輻射光 汰のない場合、私は爆破ボタンを押します。ここから一週間以内の , 超空間旅行で到達できる世界はいくつかあるが、どれも地球の統治だけだ。私はたしかにゼネラル・プ 0 ダクッ社の船体に反感を持 0 権を認めています。もし、あなたが逃走するつもりなら、一週間以ているが、それはすべてのあの単調で非個性的なデザインのしから 内に艇を離れねばならぬわけです。したが 0 て、居住不能惑星に着しめるところなのだ。それとも、ゼネラル・プ。ダクッ社が宇宙船 の船体で独占権に近いものを握っていて、しかも地球資本でないの 陸なさるとは思えない。わかりますな ? 」 こづらにく が小面憎いからかもしれない。だが、もし自分のいのちを、たとえ 「わかる」 ばドラッグ・ストアで見たあのシンクレア社のヨットにあずけろと 「もし、いまいったことが私の早合点なら、嘘発見機のテストを受 いわれたら、私はまたしも刑務所をえらぶだろう。 その場合には、私の鼻づらを一発く けてそれを証明なさればいい。 刑務所も三つの選択の中の一つだ。しかし、いったん入れば一生 らわしていただいて結構。鄭重な謝罪もいたしましよう」 私はかぶりを振 0 た。彼は立ち上り、会釈して出てい 0 た。す 0 出られる見込みはない。オースファラーがそのへんの手は打つにき まってる。 かり酔いのさめた私を置きざりにして。 それとも、スカイダイバー号で尻に帆かけて逃げ出そうか。だ 9

2. SFマガジン 1969年8月号

だ。こっちは、中性子星の観測計器なんて皆無。その代り、ジンク 「ことわるねー スの宇宙戦艦級にもひけをとらない大型核融合モーターが一基。私 「謝礼として百万スターをさしあげます」 がスカイダイバー号と名づけたこんどの艇なら、この推進装置は安 一瞬、あやうく誘惑されそうになった。「せつかくだが」 「もちろん、ゼネラル・。フロダクッ社二号船体を使用するだけで、全限度内で三十 ()5 の加速を出せる。それに、ウイ・メイド・イット の月に風穴をぶちぬけるほどの大型レーザー砲が一門。パ。 艤装はあなたにおまかせします」 ア人が私に安心感を持たせたかったのなら、それは成功したわけ 「ごていねいに。だが、おれはもうすこし長生きしたい」 「監禁されてではつまりませんよ。ウイ・メイド・イットの負債者だ。これなら、けんかもできるし、逃け足も早い、いや、なにより も逃げ足だ。 刑務所は再開設されたと聞きおよんでおります。もし、ゼネラル・ プロダクッ社があなたの貸借勘定を公表すればーー」 私はラスキン夫妻の最後の通信を、五、六度聞きかえした。二人 「おい、ちょっと待ーー」 の乗った名なしのごんべえ号は、 > 一から百マイル上空で超 「あなたは五十万スタ ] 近い借金を背負っておられる。ご出発に先空間を離れたのだった。超空間内からそれ以上接近することは、重 立って、わが社が債権者との決済を完了しましよう。もし、帰遠さ力の起す彎曲で不可能だからだ。夫の。ヒーターが計器の点検のため れた場合はーー」『帰還したときに 』といわない正直さだけは連絡チュープへもぐりこんでいるあいだに、ソ 1 ニヤは情報アカデ ーを呼び出した。「 : : : まだ見えません。すくなくとも肉眼で 見上げたものたった。「ーー残額をお支払いします。おそらく、あ なたはニ = 1 ス解説者から、この旅行に関するインタビ = ] を求めは。でも、その位置だけはわかります。真後ろにほかの星が入る と、小さな光輪ができるんです。待ってください、ビータ ] の望遠 られるでしよう。そこでも別途収入が望めるわけです」 鏡の準備ができました : : : 」 「艇の艤装はこっちにまかせる、といったな ? 」 「当然でしよう。これは探険旅行ではない。あなたにはぶじで帰還 その瞬間、中性子星の質量が超空間連接を切断した。これは予期 していただきたい」 されたところで、だれもぎはしなかったーーそのときは。のちに 「手を打とう」と私。 なって、夫妻がなにものかの襲撃を受けたとき、超空間への脱出を 早くいえば、。 ( ペッティア人は私を脅迫にかけたのだ。これから果たせなかったのも、この効果のせいにちがいない。 なにが起ろうと、それはやつの自業自得というものだった。 救助隊が遭難艇を発見したときには、もう動いているものはレ 1 ダーとカメラだけだった。それだけではたいした参考にならない。 宇宙艇は二週間フラットで完成した。船体は情報アカデミーのそ かんじんのキャビンにカメラが据えられてなかったのだ。しかし、 れとおなじ、既製品のゼネラル・プロダクッ社二号。居住系統もラ船首のカメラは、一瞬だが、スビードでプレた中性子星の眺めをうワ っしとっていた。のつべらぼうなオレンジ色の円板。もしあなたが スキン夫妻のものと瓜二つ。だが、類似点はそこまででおしまい

3. SFマガジン 1969年8月号

「だが、そんなことはありえない。ちがうかね ? 」 び散っている。おなじ色の斑点が、壁、窓、観測スクリーン、あら 「要点がおわかりでしたね。では、まいりましようーパペッティアゆるものの上にあった。まるで、なにかが後ろからイスの背へぶつ 人は船首のほうへ急ぎ足に歩きだした。 かったようだーー染料のいつばいつまったオモチャの風船を、もの 要点はいやというほどわかる。なにものも、文字どおりなにものすごいカでぶつければ、こうなるかもしれない。 も、ゼネラル・プロダクッ社の船体を透過できないのだ。可視光線「血だ」と私はいった。 を除いた、どんな電磁エネルギーも。最小の素粒子から、もっとも「そのとおり。地球人の循環体液ですー 高速な隕石にいたる、どんな物質も。それがこの会社の広告の謳、 文句であり、そして品質保証がそれを裏づけている。私もそれをゆ 二十四時間の降下。 めゅめ疑ったことはないし、また、ゼネラル・。フロダクッ製の船体最初の十二時間はほとんど休息室にカンヅメで、勉強につとめ が、武器はおろか、ほかのなにものかによって損害を受けたという た。それらしい事件は起らなかった。ソーニヤ・ラスキンが最後の 話は、およそ聞いたためしがない。 報告で言ってた現象を、二、三度目撃しただけ。見えないー 、つまう、ゼネラル・プロダクッ社の船体は、機能的である一の真うしろに星が入ると、そこに後光が現れるのだ。 n>n—l 代り、とびきりぶかっこうにできている。もし、その船体にも泣きはその附近の光を彎曲させるだけの質量を持っているため、星・ほし どころがあるらしいと評判が立ったら、パペッティア資本のこの会が横にそれたように見える。だが、どの星かが中性子星の真うしろ 社は大打撃を受けるだろう。ただわからないのは、なぜこの私におにきた場合は、その光がいちどにあらゆる方向にそれて見える。結 呼びがあったかだ。 果 " ーーー目でとらえられないほどの一瞬に閃いて消える、小さな光 エスカラダー 輪。 私たちは自動梯子で船首へ昇った。 パペッティア人に呼びとめられた日の私は、中性子星に関するか 居住系統は二つの小部屋に分れている。ラスキン夫妻は、ここに 熱反射塗料を使っていた。円錐形の管制室は、船殻をいくつかに仕ぎり、無知も同然だった。いまの私は専門家だ。それなのに、そこ 切って窓にしてある。その後部の休息室は窓がなく、緑色の反射塗へ降下したときなにが待ちかまえているのか、まだ見当もっかない。 あなたがこの世ででくわす物質は、陽子と中性子でできた原子核 料で塗りつぶされている。休息室の後部の壁から一本の連絡チュー ・フが船尾のほうに伸び、いろいろな計器類と超推進モーターにつうと、量子工ネルギー状態でそれをとりまく電子から成りたった、標 準物質だ。ところが、あらゆる星の内部には、もう一種類の物質が じている。 ある。なぜなら、そこでは電子殻を押しつぶすほどのものすごい圧 管制室には緩衝イスが二つ。どちらも土台からひきちぎられて、 ちり紙を丸めたように船首へ押しこまれ、計器盤をこなごなに壊し力がかかるからだ。その結果が縮退物質ーー・圧力と重力によってぎ ている。くしやくしやになったイスの背には、茶錆色のしぶきが飛っしりと密集させられてはいるが、その周りの多少とも連続的な電

4. SFマガジン 1969年8月号

いるたてがみだけだった。このたてがみの生やしかたで彼らの社会怪物に話しかけられるのは、ばつの悪いものだ。たぶん、パペッテ 的地位がわかるという話だが、私の目には沖仲仕か、宝石細工師ィア人はそれも承知の上なのだろう。たぶん、私がどれぐらいカネ か、それともゼネラル・プロダクツの社長か、さつばり区別がっかを欲しがっているかを、ためしてみる魂胆かもしれなかった。 ラインズ ふところはたしかに逼迫していた。ナカムラ宙運が倒産してもう そいつがすたすた歩みよってくるのを、私もみんなとおなじよう八カ月。しかもこっちはそうなるまえから、借金なんぞ遡及給与で にポカンと眺めていた。パペッティア人を見るのはこれがはじめて埋めりやいいとたかをくくって、とことん派手にやらかしたときて いる。その遡及給与がついにこなかった。泡を食ったのは私だけじ じゃないが、きやしゃな脚と小さなひずめでの優雅な歩きつぶり ししい年をした実業家連中が、言い合わせたように、救命べ が、えもいわれず美しいのだ。見とれているうちにも、相手は私の、やな、 ルトもつけずホテルの窓からとび出したりしたものだ。こっちはま ほうへずんずん近づいてきた。一フィートむこうで立ちどまると、 ひとしきり私を眺めてから、「あなたはべーオウルフ・シェイフアまよと散財をつづけることにした。いまさらへたに倹約しようもん なら、債鬼連中たちまち臭いと感づいて、信用調査をするだろう : ・ 、もとナカムラ宙運の首席パイロットですね」 声は訛りの・せんぜんない、澄んだアルトだった。パペッティア人・ : あげくの果ては、負債者刑務所行きだ。 のロは類のないほど融通のきく発声器官であるだけでなく、すごく パペッティア人は舌先ですばやく十三桁の番号をダイヤルした。 鋭敏な手でもある。舌は先端で二叉に分れてとがっている。大きくあっというまに、私たちは別席へ移動していた。・フースのドアをあ 裂けた厚いくちびるは、その縁にそって、いくつかの小さな指状突けると空気がすーっと逃げ、鼓膜がボクッと鳴り、私はつばをのみ 起を持っている。指先に味覚を持った時計工を想像してもらえばい こんだ。 い力も : 「ゼネラル・。フロダクツ・ビルの屋上です」神経にそくそくっとく る、ゆたかなアルト。うつかりすると、声のぬしが異星人でなく、 私はやおら咳ばらいして、「いかにも」 ふたて 相手は二手から私を検分しながら、「高報酬の仕事に興味がおあ絶世の美女かと思ってしまう。「仕事の内容をお話するあいだに、 りでしようか ? 」 あの宇宙艇をごらんいただけませんか」 「高報酬とくると、しびれるねえ」 私はいくらか用心しながら外に出たが、まだ風の季節ではなかっ 「私はゼネラル・。フロダクッ社の支部長に相当する地位にあるもの た。ビルの屋上は地表とおなじ高さにある。それが、ここウイ・メ です。いっしょにおいでいただければ、別席でその件をご相談したイド・イット星での建築方式なのだ。たぶんそれは、この惑星の自 いのですが」 転軸が主星プロキオンのほうへまっすぐに向く夏と冬に、時速千五 私は相手のあとについて、転送・フースに入った。野次馬の目がど百マイルの烈風が吹くことを考えてなのだろう。この風が惑星唯一 こまでも追いかけてくゑ人目の多いドラッグ・ストアで、双頭のの観光資源であってみれば、その通り道に摩天楼を建ててわざわざ ライソズ

5. SFマガジン 1969年8月号

/ ーベキューのお答える代りに、彼は青い円板をさし出した。地球政府職員の。ハッ 木材を燃やせるほど裕福な人間の知りあいなら、・、 き火の色といっておこう。この被写体は、よほどまえから中性子星ジ。どうせ、にせと本物の区別がつくわけじゃないが、いちおう玄 になっていたのだ。 人らしく、私はそれをしさいに調べた。 「シグマンド・オースファラーです」と相手は名のった。「あなた 「艇の塗装はしなくてもいい」私はれいの支社長にことわった。 「透明な壁のままで、この種の旅をするべきではありません。発狂がゼネラル・プロダクッ社から委嘱された仕事のことで、ちょっと してしまいます」 お話したい」 フラット・ランダー うなずいただけで、だまっていた。 「おれは二次元人種じゃないんだよ。魂をかきむしる裸の大宇宙の 眺めを見ても、たいした感激も湧かん、それより、背中からなにか「あなたが口頭でされた契約の録音は、規定どおりわれわれのとこ に忍びよられないよう、念をいれときたいんだ」 ろへ送られてきました。そこでちょっと疑問を持ったのです。シェ イファーさん、あなたはわずか五十万スターのために、あれだけの 出発の前日、私はゼネラル・プロダクツの・ハーにひとり坐ってパ危険を冒すつもりですか ? 」 「その倍額だ」 べッティア人の・ハーテンにカクテルを注文した。やつはなかなかの 腕前だ 0 た。・ ( ーのあちこちにパペ , ティア人がちらほら、色どり「しかし、あなたの手にわたるのは半分だけです。残りは借金の ~ 挙 払い。それに税金 : : : まあ、それはよろしい。私の気になるのは、 に地球人が一一人ほど混じっていたが、まだ一杯やる時間には早い。 くーはがらんとしている。 宇宙艇は宇宙艇であり、あなたのそれが武装も脚まわりもきわめて 私はごきげんだった。これから私の行くところではどっちだって強力であることです。もし、あなたがそれを売る気になれば、あれ しいようなもんだが、不義理もすっかり片づいた。立っ鳥あとを濁は優秀な戦闘艇ですからな」 さず、ひとさまの物といえば宇宙艇だけ : ・ 「だが、おれの財産じゃない」 ひっくるめて、もう面倒ないざこざとは縁が切れた。いちど、金「そういうことに頓着せぬ連中もいます。たとえばキャニョン星、 持の亡命者というやつになってみたかったのだ。 あるいはワンダーランド星の孤立主義結社」 むかいの席に新顔が坐ったのを見て、私はぎくりとなった。この だまっていた。 星の人間じゃない。上物の真黒なビジネス・スーツを着こなした中「それとも、あなた自身が宇宙海賊の生涯に夢を託しておられるの 年男で、左右非対称の純白のあごひげをたくわえている。私は顔をかもしれん。危険な稼業ですよ、あれは。私もまさかとは思います 凍りつかせて立ち上ろうとした。 がね」 「どうかそのままで、シェイファーさん」 宇宙海賊なんて、考えもしなかった。だが、ワンダーランド星は 「なぜ ? 」 どうやらあきらめなくちゃならない 8

6. SFマガジン 1969年8月号

っていた。あわてて両手で内壁を押しつけ、体を支えた。ことはそ落ちた : いま、私がそうなりかけているように : : : 管制室から、 れでたりた。私は体を押し上げながら這いすすんでいった。 金属のひき裂ける悲鳴の多重唱がきこえる。私は堅固なチューブの 2 ディクタフォンは十五フィートの真下、とうてい届きようもな内壁へ、必死に足先をこじいれた。そうしてへばりついた。 い。ゼネラル・プロダクッ社にまだ言い残したことがあれば、本人っぎに目をあけたとき、赤い点は無に縮まりつつあった。 が出むくしかなさそうだ。たぶん、そのチャンスはあるだろう。な ・せなら、私は艇をひきちぎろうとするものの正体を知ったからだ。 パペッティア人の支社長は、私を入院させるといってきかなかっ それは潮汐なのだ。 た。べつに異議はない。顔と両手は火ぶくれで真赤だし、ぶちのめ されたように全身がうずいている。休息とやさしい看護、そいつが モーターはすでに停止し、私は艇の中心にいる。大の字なりの姿ほしい 勢がそろそろ苦になりかけている。近日点まであと四分。 最低の気分で二枚の就寝プレ 1 ト のあいだにうかんでいると、看 なにかが真下のキャビンできしんだ。それがなんであるかは見え護婦がやってきて来客を知らせた。その客がだれかは、彼女の異様 ないが、放射状の青い縞模様の真中で、井戸の底の提灯のようにとな表情からすぐにわかった。 もっている赤い点は、はっきり見える。側方では、核融合管やタン 「ゼネラル・。フロダクッ製の船体をすりぬけたものは、なんだろう クやいろいろな機器のあいだから、青い星・ほしが菫色に近い光を放 ? 」と私は客に質問をはなった。 って、私をにらみつけている。長く見つめるのがこわい。目がつぶ「それはこっちがおききしたい」支社長は、緑の香煙を吐き出すス れるんじゃないかと、本気で心配した。 テッキを持ち、後足一本に体重をかけていた。 キャビンには、きっと数百の重力がかかっているのだろう。気「教えよう。重力だ」 圧の変化さえ感じられる。この高度では空気も稀薄なのだーー・管制「からかってはいけませんよ、べーオウルフ・シェイファ 1 。だい 室から百五十フィート の高度では。 じな問題です」 とほとんどだしぬけに、赤い点が点以上のものになった。タイム 「からかってなどいるもんか。おたくの母星は月があるのか ? 」 アップだ。赤い円板が私めがけて跳び上ってきた。艇が体のまわり「その情報は極秘です」パ。ヘッティア人はおそろしく臆病なのだ。 でぐるっと回転した。私は息を吸いこみ、ぎゅっと目をつむった。 だれも彼らの母星を知らないし、今後も突きとめられないだろう。 巨人の手が、静かな、確実な力で、私の腕と足と頭をつかみ、体を「月が主星に近づきすぎると、なにが起るか知ってるかい ? 」 二つにひきちぎろうとした。そのせつな、私はさとった。ビータ 1 「粉砕されます」 ・ラスキンもこうして死んだのだ。彼も私とおなじことを考え、や「なぜ ? 」 はり連絡チ = ー・フの中〈避難しようとした。たが、彼はそこで滑り「存じません」

7. SFマガジン 1969年8月号

状態で停止させたはずなのに。またもたついたのだろうか。ジャイて、さらに一時間の降下が残っているのだ。 口を使った。ふたたび、艇はけだるそうに弧の半分あたりまで回転艇外のなにものかが、私の体をひつばっている。 いや、そいつはナンセンスだ。ゼネラル・プロダクッ製の船体を していった。だが、そこまでいくと、ひとりでにもとに戻ってしま う。まるでスカイダイ・ハ 1 号じたいが、その縦軸を中性子星に向け透して、私をひつばれるようなものがどこにある ? きっと、その たがっているようなのだ。 逆なんだ。なにかが艇を押しやって、その進路からそれさせようと 気に食わない。 しているのだろう。 私はもういちど操作を試み、スカイダイ・ハー号はもういちど抵抗もし、これがまだひどくなるようなら、推進モーターを使って補 それまでのあいだ、艇はから押し離され した。だが、こんどはそれだけではなかった。なにかが私をひつば正すればいい。 っている。 つつあることになるが、こいつはむしろ大歓迎だ。 ためしに私は安全ネットをはずしーー・とたんに頭から船首へ墜落しかし、もし私がまちがっているなら、もし艇がー一から した。 押し離されていないのなら、ロケット・モーターがスカイダイバ 号を十一マイル直径のニュートリニウムへ激突させるだろう。 十分の一ぐらいの軽い引きだった。墜落というより、蜜の中をそういえば、なぜロケットがすでに噴射をはじめていないのか ? スイロット 沈んでいく感じに似ている。よじ登るようにしてイスにもどり、ネもし、艇がコースから押しやられていれば、自動操縦装置がそれに ットで体を固定し、さかさまにぶらさがったかっこうでティクタフ抵抗するはずだ。加速計はこわれていない。さっき、連絡チュー・フ オンを作動させた。それから、仮定的な聴き手が私の仮定的な正気をくぐって点検したときにも、異状はなかった。 なにものかが、私にはさわらずに、艇と加速計だけを押しやって を疑わずにいられなくなるほど、微に入り細にわたって報告した。 いる、ーーなんてことがありうるだろうか ? 結局、おちつく先はお 「ラスキン夫妻の身に起ったのもこれだと思う」と報告をむすん なじ不可能性だーー・ゼネラル・プロダクッ製の船体をすりぬけられ だ。「もし引きがこれ以上に強くなったら、また知らせる」 るなにものか。 思う ? いや、ぜったいにまちがいない。このふしぎな柔らかい 理論なんてくそくらえとおれはつぶやいた、と私はいった。はや 引きは、説明不可能だ。ビーターとソーニヤ・ラスキンを殺したの くここからパイバイしよう。ディクタフォンにむかって、「引きが も、やはり説明不可能ななにものかだ。証明終り。 中性子星があると思われる一点の周囲で、星ぼしは放射状にこす危険なほど強まってきた。いまから軌道を変えてみる」 もちろん、艇を外に向けてロケットを使えば、私の加速も >•< 力に れた油絵具のしみだった。目に痛いほどのぎらぎらした輝き。ネッ プラスされる。かなりの荷重だが、短時間ならがまんできるだろ トの中でさかさまにぶらさがりながら、私は考えようとっとめた。 一時間たって確信がついた。引きはしだいに強まっている。そしう。後生大事に計画を守って、一の一マイル以内へなど近 オート・ 2

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ぐにやりと曲っていた。カープした透明な船殻の内側で、なにかと 風速を鈍らすのは、愚の骨頂かもしれない。真四角でのつべらぼう な屋上のぐるりは、何百マイルとも知れぬ無限の砂漠。といってほうもない圧力が金属を温かい蠍のように変え、とがった船尾へと も、そこらの居住惑星にあるような砂漠じゃなく、せめてサポテン流れこませたのだ。 なりと植えてくれと叫んでるような、一木一草もない砂粒の平原「なにがこんなことを ? 」と私はきいた。 だ。それが試みられたこともあった。だが、植えるかたはしから、 「わかりません。それを知りたいと努力しているのですが」 風がそいつを吹きとばしてしまうのだ。 「というと ? 」 宇宙艇は屋上のむこうの砂の上に横たわっていた。ゼネラル・プ「あなたは中性子星ー一のことをごそんじですか ? 」 しばらく考えたすえ、思い出した。「これまでに発見された、最 ロダクッ社の二号船体ーー長さ三百フィート、 直径二十フィートの 円筒形で、両端がとがり、スズメ。ハチの腰に似た軽いくびれが尾部初で唯一の中性子星だ。二年前に、だれかが星間転送で位置をつき の近くにある。それがどういうわけか、船尾の着陸用緩衝脚も折りとめた」 たたまれたままで、横倒しになっているのだ。 「ー一は、惑星ジンクスの知識アカデミーによって発見され 近ごろの宇宙船がどいつもこいつもおなじ格好になってきたのたのです。わが社はさる仲介者から、アカデミーがその星の調査を に、あなたはお気づきだろうか ? きようびでは、全宇宙船の九十望んでいることを知りました。調査には宇宙船が必要です。アカデ にはその資金がない。わが社は、調査によって得られたすべて 五パーセント強が、ゼネラル・プロダクッ社の四種類の既製船体の どれかを使っているためだ。そのほうが建造も簡単だし、安全でものデータの引渡しを条件に、社の保証つきの船体を無料提供しよう あるからだが、おかげでどういうものか仕上りさえ似てきてしまうと申し出ました」 大量生産の規格品そっくりに。 「フェアな取引だな」なぜ彼らが自力で調査をやらないのかとは、 ふつう、船体は透明のままで引渡され、買主が好きな色に塗る建あえてたずねなかった。知覚を備えた菜食生物の大半がそうなのだ 前になっている。くだんの艇の船体は、ほとんど透明で残してあつが、パペッティア人も、危うきに近よらぬことが君子の必要にして た。船首の居住系統のまわりだけ、わずかに塗装がほどこしてあ十分な条件だと思いこんでいるのだ。 ・ラスキンとソーニ 「調査に志望したのは二人の地球人、ビーター る。大型の反動推進装置はついていない。撤去可能の姿勢制御ジェ ヤ・ラスキンでした。計画では、双曲線軌道をとり、中性子星の表 ットが一組、側面にとりつけられている。船体にあいた四角や丸の 小孔は、観測計器用のものだ。その計器類が、船体をすかしてきら面から一マイル以内に到達することになっていました。その旅の途 中の一点で、未知の力が船体を透過し、緩衝脚にこれだけの損害を きら光っていた。 パペッティア人は船首のほうへ歩きかけたが、私はなぜか緩衝脚もたらしたらしいのです。乗員たちを殺したのも、やはりこの未知 が気になり、そいつをもっとよく見ようと船尾へ近づいた。それはの力と思われます」 4

9. SFマガジン 1969年8月号

が、足のとどく範囲にある世界は、ぜんぶシャット・アウトだ。も当人をのぞいてだ。私の動作はまるでぎごちない。跳躍はいつも小 し、ウイ・メイド・イットから一週間以内で行けるような、未発見さすぎるか、大きすぎるかしてしまう。船尾の末端では向きを変え 2 る場所もなく、枝チュー・フのところまで五十フィートも後もどりさ の地球型惑星でも見つかれば : せられた。 虫がよすぎる。私は CQ>(-D—I をとることにきめた。 あと六時間となっても、まだ中性子星は見えなかった。半光速以 上で通過するとすれば、見えてもたぶん一瞬だろう。いまだって、 光輪の閃きがしだいに大きくなるように思えたが、ごくたまさか、 ちらっと光るだけなので自信は持てない。 CQ>rn—I は望遠鏡でも艇のスピードはものすごいものにちがいない。 星ばしが青味を帯びてきたのだろうか ? 見えないのだ。そっちはあきらめ、腰をすえて待っことにした。 待つあいだに、むかしジンクスですごした夏を思い出した。雲が あと二時間 いまや、星ぼしはたしかに青くなっている。艇の 切れ、灼けるような青白い日ざしが照りつけ、戸外へ出られない日スピードはそんなに出ているのか ? それなら、背後にある星は赤 がやってくると、うさばらしにみんなでゴム風船へ水をいつばい入く見えるはずだ。機器類が後ろの眺めをじゃましているので、ジャ れ、そいつを三階の窓から歩道めがけて落っことす。そこに咲いたイロを使うことにした。艇は奇妙にのろのろと回転した。だが、後 水しぶきの模様は、あっというまに乾いてしまう。そこで考えたあろの星・ほしは赤くなく、青かった。どっちを見渡しても青白い星・ほ げく、風船の中味ヘインクを混ぜた。これなら模様がちゃんと残しだけ。 る。 おそろしく傾斜の急な重力の漏斗に、光が落下してゆくところを 想像してほしい。加速はつかない。光は光速度より早く進めないか ソーニヤ・ラスキンは、イスが押しつぶされたとき着席して らだ。だが、そのエネルギーは、振動数というかたちでどんどん高 た。血液標本からの推定では、ビーターがイスの背へぶつかってい まっていく。艇の降下につれて、光は私めがけてしだいに強く落下 ったらしいのだ。非常な高さから落とされた水入り風船のように。 いったいなにものが、ゼネラル・。フロダクッ社の船体をすりぬけしてくるのだ。 て、入りこんだのだろう ? ディクタフォンでその現象を報告した。そのディクタフォンは艇 あと十時間の降下。 内でなによりも手厚く保護されたしろものだった。私はそいつを使 安全ネットをはずし、周回点検にでかけた。連絡チュー・フは内径って、報酬だけのことはしてやろうと腹をきめたのだ。まるで残額 三フィート、自由落下状態ですりぬけられる広さだ。私の真下にはの回収を見こんだように。だが、内心では、この光がどこまで強烈 核融合管、左にはレーザー砲、右にはジャイロ、蓄電池、発電機、になるのだろうと、びくびくものだった。 空気発生槽、超空間分路モーター、などの点検個所にそれそれつう いつのまにかスカイダイ・ハー号は、その縦軸を中性子星に向けた じる何本かの枝チュープの入口があいている。どこも異常なし 直立姿勢にもどっていた。しかも、船首が上向きときている。水平 じよう′」

10. SFマガジン 1969年8月号

子『ガス』の相互反撥で分離をたもたれている、原子核の集りだ。 の外側を覆う半マイルの縮退物質、それを覆う十二フィート程度の もしそれなりの条件がそろえば「第三種の物質も生まれるかもしれ標準物質。 ラスキン夫妻の調査行まで、この小さな隠れた星については、そ 仮設 " チャンドラセカールの限界 ( 二十世紀のインド系アメれだけのことしか知られていなかった。いま、情報アカデミ 1 はも リカ人の天文学者にちなんで、そう呼ばれている ) 、つまり、太陽のう一つのことを知った , ー・・・その星の自転を。 一・四四倍以上の質量を持つ、燃えっきた白色矮星。こういう大き な質量になると、もう電子の圧力では、原子核から電子をひき離し「あれだけの大きな質量になると、その自転で空間が彎曲します」 、ておくことができない。電子は陽子のほうへ押しつけられ , ー・・・そしとパペッティア人は説明した。「ラスキン艇の描いた双曲線軌道に て中性子が作られる。一大爆発とともに、その星の大部分は、縮退はある歪みが認められ、そこから私どもは、あの星の自転周期が二 物質の圧縮された塊から、さらに密集した中性子のひとかけに変る分二十七秒であることを推論しました」 ニュ 1 トロニウム、この宇宙で理論的に存在しうる、もっともその・ハーは、ゼネラル・プロダクツ・ビルのどこかにあった。は 濃密な物質に。そして、残りの標準物質と縮退物質の大半は、そこ つきりどのへんともわからないのだが、転送・フースがあればどうと で解放された熱によってふっとばされる。 しうことはない。 私はさっきからパペッティア人の・ハ 1 テンを眺め 二週間のあいだ、この星は >< 線を放出し、内部の温度は五十億度ていた。むろん、パペッティア人のバーテンに注文を出すのは、パ ペッティア人だけだ。。 から五億度にまで冷える。それがすんだときには、直径十ない とんな二足生物だって、だれかのロの中で調 合されたカクテルと聞いただけで、おじけをふるうではないか。タ し十二マイルの発光天体ーーーまず見えないのも同然だ。一 がこれまで発見されたただ一つの中性子星だというのも、ふしぎで食はよそでとろうと、私はすでに腹をきめていた。 . を子ー . し 「おたくの悩みはわかるよ」と私。「なにかがこの社の製品である そして、ジンクスの情報アカデミーが、その発見までにとほうも船体をすりぬけて、乗員を。ハルプのように叩きつぶしたことが知れ ない時間と手数をかけてきたのも、ふしぎではない。のたら、さっそく商売に影響する。しかし、そいつがおれとどうつな 発見まで、ニュートロニウムも中性子星もただの仮説にすぎなかつがるんだね ? 」 た。実在の中性子星の調査は、おそろしく重要な意味をもっかもし「わが社は、ソーニヤ・ラスキンと。ヒータ 1 ・ラスキンの実験を、 れない。ほんとうの重力制御の鍵を与えてくれるものは、中性子星もう一度やってみたいのです。なんとかして原因を究明ーー」 かもしれないのだ。 「おれを試験台にして ? 」 の質量ーー・太陽の質量の約一・三倍。 「そうです。わが社の船体がなぜそれを防げなかったかを、究明し n>n—-l の直径 ( 推定 ) ーーー十一マイルのニ = ートリウム、そなければなりません。もちろん、あなたはーーー」 6