マイル - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1969年8月号
23件見つかりました。

1. SFマガジン 1969年8月号

「なんだって ? 」 「潮汐だよ」 「潮汐とはなんですか ? 」 「あなたの外部皮膜は、局部的に失われたように見えますが」 おつほうとおれはひとりごちた、と私はいった。「教えてあげよ「ああ、これか。星の光にあたったおかげで、ひでえ日焼けを起し 地球の月は直径約二千マイル、地球にいつもおなじ面を向けてたのさ。たいしたことはないー いる。いま、この月の上に二つの岩石があると考えてほしい 二つの頭が、まばたき一つのあいだおたがいを見つめあった。肩 つは地球にもっとも近い点、もう一つはもっとも遠い点」 をすくめたのかな ? パ ペッティア人はいった。「あなたの報酬の 「いいでしよう」 残額は、ウイ・メイド・イット銀行に寄託しておきました。ただ 「さてだ、もしこの二つの岩石が勝手に動けるとしたら、おたがいし、シグマンド・オースファラ 1 なる地球人が、税額の決定までそ 別れ別れになるのは明らかたろう ? おのおのが別の軌道、つまりの預金を凍結するそうですー 片方はもう片方の約二千マイルも外側にある同心軌道を回っている「だと思ったよ」 のだから。しかも、この二つの岩石は、おなじ軌道速度で動くよう「もし、あなたがいますぐ記者団と会って、学術調査船の遭難原因 強制されている」 を説明して下さるなら、二千スターをお支払いしましよう。あなた 「外側のほうが速く動いているはずです」 がすぐにも使えるように、現金で。ことは急を要するのです。すで 「おみごと。ということは、月をばらばらにしようとする力が、事に好ましからぬ噂が流れています」 実働いているわけだよ。重力がそれをひきとめている。だが、もし「いいとも、通してくれ」思いついたように私はつけたした。「な 月をある程度地球に近づけたとしたら、この二つの岩石は宙に飛びんなら、おたくの母星に月がないことも連中に話そうか。なにかの 去ってしまうだろう」 参考になるかもしれない」 「なるほど。では、その『潮汐』とやらがあなたの艇をひきちぎろ「お話の趣きがよくわかりません」しかし、二つのろくろく首が後 うとした。その力は、あの学術調査船の居住系統の中では、緩衝イろへひっこみ、二ひきの大蛇のように私をにらみつけた。 スをむしりとるほど強いものだった、というのですね , 「母星に月があれば、おたくも潮汐のことをこころえていたはずだ 「そして、人間を押しつぶすほど、だ。想像してみたまえ。船首はよ。どうしたって振りかかってくる問題だ」 CQ>Ø—I の中心からたった七マイルの位置にある。船尾はそれか「いかがでしよう、さきほどの謝礼額をあらためてーー」 の外側にある。もし勝手に動ければ、どちらもまっ ら三百フィート 「百万スターに ? しびれるねえ。なにを内聞にしたかを明記する たくの別の軌道をたどるにちがいない。おれの頭と足も、あのとなら、契約書にサインもしますよ。ひとつ、こんどはおたくが脅迫 き、それとおなじことをやらかそうとしたのさ」 される立場になってもらおうじゃないか」 「わかりました。あなたは脱皮中なのですか ? 」 5 2

2. SFマガジン 1969年8月号

T 工 E PEOPLE TRAP 人類の民 ト・シェクリイ 訳Ⅱ井上一夫画日金森達 走破距離五・七マイル、コースは自由、賞品は家つきの土地 一エーカー 人口超過密時代にふさわしいこのレースは、 だが、参加者の死亡率七割弱という恐るべきレースだった /

3. SFマガジン 1969年8月号

子『ガス』の相互反撥で分離をたもたれている、原子核の集りだ。 の外側を覆う半マイルの縮退物質、それを覆う十二フィート程度の もしそれなりの条件がそろえば「第三種の物質も生まれるかもしれ標準物質。 ラスキン夫妻の調査行まで、この小さな隠れた星については、そ 仮設 " チャンドラセカールの限界 ( 二十世紀のインド系アメれだけのことしか知られていなかった。いま、情報アカデミ 1 はも リカ人の天文学者にちなんで、そう呼ばれている ) 、つまり、太陽のう一つのことを知った , ー・・・その星の自転を。 一・四四倍以上の質量を持つ、燃えっきた白色矮星。こういう大き な質量になると、もう電子の圧力では、原子核から電子をひき離し「あれだけの大きな質量になると、その自転で空間が彎曲します」 、ておくことができない。電子は陽子のほうへ押しつけられ , ー・・・そしとパペッティア人は説明した。「ラスキン艇の描いた双曲線軌道に て中性子が作られる。一大爆発とともに、その星の大部分は、縮退はある歪みが認められ、そこから私どもは、あの星の自転周期が二 物質の圧縮された塊から、さらに密集した中性子のひとかけに変る分二十七秒であることを推論しました」 ニュ 1 トロニウム、この宇宙で理論的に存在しうる、もっともその・ハーは、ゼネラル・プロダクツ・ビルのどこかにあった。は 濃密な物質に。そして、残りの標準物質と縮退物質の大半は、そこ つきりどのへんともわからないのだが、転送・フースがあればどうと で解放された熱によってふっとばされる。 しうことはない。 私はさっきからパペッティア人の・ハ 1 テンを眺め 二週間のあいだ、この星は >< 線を放出し、内部の温度は五十億度ていた。むろん、パペッティア人のバーテンに注文を出すのは、パ ペッティア人だけだ。。 から五億度にまで冷える。それがすんだときには、直径十ない とんな二足生物だって、だれかのロの中で調 合されたカクテルと聞いただけで、おじけをふるうではないか。タ し十二マイルの発光天体ーーーまず見えないのも同然だ。一 がこれまで発見されたただ一つの中性子星だというのも、ふしぎで食はよそでとろうと、私はすでに腹をきめていた。 . を子ー . し 「おたくの悩みはわかるよ」と私。「なにかがこの社の製品である そして、ジンクスの情報アカデミーが、その発見までにとほうも船体をすりぬけて、乗員を。ハルプのように叩きつぶしたことが知れ ない時間と手数をかけてきたのも、ふしぎではない。のたら、さっそく商売に影響する。しかし、そいつがおれとどうつな 発見まで、ニュートロニウムも中性子星もただの仮説にすぎなかつがるんだね ? 」 た。実在の中性子星の調査は、おそろしく重要な意味をもっかもし「わが社は、ソーニヤ・ラスキンと。ヒータ 1 ・ラスキンの実験を、 れない。ほんとうの重力制御の鍵を与えてくれるものは、中性子星もう一度やってみたいのです。なんとかして原因を究明ーー」 かもしれないのだ。 「おれを試験台にして ? 」 の質量ーー・太陽の質量の約一・三倍。 「そうです。わが社の船体がなぜそれを防げなかったかを、究明し n>n—-l の直径 ( 推定 ) ーーー十一マイルのニ = ートリウム、そなければなりません。もちろん、あなたはーーー」 6

4. SFマガジン 1969年8月号

スカイダイ・ハー号は、中性子星のきっかり百万マイル上空で、超軌道は決定されたのだ。い まひきかえそうとすればなにが起るか パースペース 空間を離脱した。星ぼしの背景の中で、私は位置確認に一分をか は、わかっている。 け、ソーニヤ・ラスキンが死の直前に報告した彎曲場を見つけるの もとはといえば、ライターの電池をとりかえようと、ドラッグ・ に、もう一分をかけた。それは艇の左手にあり、地球から月ほどのストアへとびこんだだけのことなのにー 大きさだった。私はそっちへ艇を向きなおらせた。 ヨーグルトのような星・ほし、どろどろした星・ほし、スプーンでか ドラッグ・ストアの中央には、三階ぶんの売場にかこまれて、新 きまぜたような星・ほし。 しい二六〇三年型のシンクレア社製星系間ョットが置かれていた。 中性子星はむろんその中央にあるのだが、目には見えないし、見電池を買いに立ち寄っただけの私も、思わずそいつに見とれてしま えるわけもない。その直径はたったの十一マイルで、しかも低温な った。ほれぼれするスタイル。小じんまりした、なめらかな流線型 のだ。 n>n—l が核融合の火に燃え上ってから、すでに十億年。で、これまでに作られたどんなものとも似ていない。い くらくれて が線天体となり、五十億度ケルヴィンで燃えさも乗る気はしないが、美しいことだけは認めざるをえなか 0 た。私 かった激動の二週間からも、すでに数百万年。いまやその名残りはドアから突っこんで、管制盤をのそいてみた。あんなにたくさん は、質量にしかうかがえない のダイアルは見たことがない。顔をひっこぬいたとき、買物客がそ 艇はひとりでに向きを変えた。核融合推進の加速が感じられた。 ろっておなじ方向を眺めているのに気がついた。店内は水を打った 別に手を貸してやらなくても、この忠実な金属製の番犬は中性子星ように静かだった。 の表面から一マイル以内へ私を到達させるよう、双曲線軌道へと入みんなが目をまるくしたのもむりはない。店内にはみやげ物を買 りつつある。降下に二十四時間、上昇に二十四時間 : : : そのあいだ いにきた異星人たちも何人かいるのだが、彼らまでがそっちに目を のどこかで、なにかが私を殺そうとするだろう。ラスキン夫妻を殺奪われているしまっ と、うやつは、そ 。パペッティア人 ( 人形つか いの意味し したとおなじぐあいに。 れほど風変りなのだ。三本足で頭のないケンタウルスが、〈船酔い ラスキンの艇の軌道をえらんだのも、これとおなじようにプログ海蛇セシル〉の操り人形を両手に一つずつ持っているところを想像 オート・《 ラムされた。おなじタイプの自動操縦装置だった。それは彼らの艇してもらえば、て 0 とりばやいかもしれない。だが、その両腕たる オート・《 を中性子星と衝突させなかった。だから、自動操縦装置は信用してや、じつは揺れ動いている首で、操り人形がほんとうの頭だときて それに、。フログラムを変えることだって、できなくはない。 いる。頭は平べったく、大きい柔軟なくちびるが開き、脳みそは入 まったくそうすべきだった。 っていなし月を 、。畄よ首の根っこにある堅いこぶの中におさまってい どうしておれは、こんなことに首を突っこんじまったんだ ? る。このパペッティア人が身につけているのは、自前の褐色の毛皮 寸分澗の航法操作ののち、が切た。あらゆる意味で、私のと、背骨をさかのぼって脳のちょうど上でもじゃもじゃと密生して 、、 0 ハイ 2

5. SFマガジン 1969年8月号

まばゆく輝く太陽、そしてそのまわりをめぐる惑星、それらのひ とつひとつは、あやなす運命の歯車のひとつひとつにはちがいな しかし、また、天空に妖奇な光を光を放ちながら通りすぎる、 美しくもまたおそろしいそれもまた、連命をつかさどる歯車のひと ったったのである。すべてはあらかしめ定められた宿命であった。 そしてそれは という書き出し。 話はオハイオ州の人里はなれたある湖水のほとりにぼつんと立っ た小さなホテルに始まる。主人公のマ ーリンは休暇を徒歩旅行です ごすスポーツマン。一日の旅をおえて、彼はこのホテルのロビーに くつろいでいる。 ″突然、無気味な緑色の光が、湖水の彼方、東の水平線に立ち昇っ た。それはびくびくと脈動し、その明るさは刻一刻と増して行く。 そして間もなく、ちょうど月ほどの大きさもある緑色の円盤が地平 線上におどり上ってきたのである。巨大なエメラルドの塊を思わす ようなその光球は、凄まじいほどのやはり緑色をした尾を引きなが 『宇宙の訪問者のタイトルカ・ツト ら天球をぐんぐん昇って行く。 ミルトンの一アビュ 作品を書いている。これは、同誌上におけるハ 「毎晩大きくなって行く」ホテルの主人は外を見ながらつぶやい 作で、彗星人の侵略を描いたものだが、これが実に読ませる。 ルトンの面白さみたいなものが他をひきはなして異彩をはなってい マ ーリンはうなずいた。「そのはずですよ。毎晩大きくなるのが る感じなのである。 わかるはずです。何百万マイルとかずつ近づいてくるんだそうです ″それは宿命としか言いようのないもの。 から 今、われわれはそれを知った。初めから、それはさだめられた宿「地球にぶつかる心配はないんだろうか ? 」 命そのものだったのである。おそるべきその企てははるか宇宙の深「大丈夫ですよ、あと三日後に彗星は地球に一番接近しますが、そ 淵の彼方において生まれていたのだ。そして広漠たる宇宙空間を抜れでも何千万マイルもはなれていますから。しかしこの彗星は無気 け、悠久の時の流れに乗ってそれは一途、クライマックスへと突き味ですね」と彼は彗星に眼をやりながら言った。「あの緑色の鮮か 進みつつあったのである。はるかなる地球へと、全世界が破局の淵さ : : : しかも太陽系外から入ってぎて、太陽をぐるりとまわるとそ へ転落して行くその運命も知らぬその地球へと向って のまま、宇宙空間の彼方に姿を消すというんですから : : : 」 今にして思えばそれも宿命としか言いようがない 「なんだかいやな気がするね、わしは」と主人。「大きすぎて、明 、 0 8

6. SFマガジン 1969年8月号

C ・ ,. クラーク 訳 = 中桐雅夫 画 = 中島靖侃 THE HAUNTED SPACESUIT 幽霊宇宙月長 1 一を 人工衛星管制官に呼ばれたとき、ぼくはシャポン玉監視室で、その日の逓投状況の報告 書を書きあげているところだった。これは、車輪のこしき蔽いのように、宇宙ステーショ ンの軸から突き出しているオフィスで、ガラスのドームがついていたが、景色があまりに 圧倒的なので、仕事をするのに適した場所だとは必ずしもいえなかった。ほんの数ャード さきに、建設班がスロ 1 モーションのバレエをやっているのが見えた。巨大なはめ絵でも するように、ステーションを組立てているのである。そしてその向こう、二万マイル下方 には、まんまるい地球が銀河のもつれた星雲を背景に浮かんで、青緑に輝いていた。 「まい、 ステ 1 ・ション監督官ですーとぼくは返事をした。「何がおこったんですか ? 」 「うちのレーダーが二マイルさきで何か小さいものをつかまえた。シリウスの約五度西 で、ほとんど動いていない。何だが、一 = 調べてみてくれないか ? 」 われわれの軌道と、そんなにかっきりと釣り合うものが、流星であることはまずない。 何か、われわれが落したものだーーーおそらく、ねじの締めが足りなかった装置の部分品 が、ステーションから吹き流されたのだ。。ほくはそう思ったが、双眼鏡をとり出して、オ リオン店の周囲の空を探すと、すぐに、それは間違いだとわかった。この宇宙旅行者は人 造のものではあったけれど、われわれとは何の関係もなかったのだ。 「みつけましたーと。ほくは管制官に話した。「どこかの試験衛星ですよーー円錐形で、ア ンテナ四本、それに基部に、レンズ・システムのようなものがあります。デザインからみ て、たぶん、アメリカ空軍の、一九六〇年代初期のものでしよう。送信機がきかなくなっ て、追跡できなくなった試験衛星がいくつかありましたよ。連中はこの軌道に乗せるため に、何回となく実験をして、やっと成功したんです」 管制官がちょっとファイルを調べたら、ぼくの推測のあたっていることがすぐわかっ た。二十歳にもなる迷い子衛星を。ほくらが発見したことに、ワシントンがちっとも関心を 持っていないことを発見するには、もうすこし長くかかった。ぼくらがもう一度それを見 失なった方が、アメリカ政府には好都合だったのだろう。 「いや、そういうわけにはいかん , と管制官がいった。「だれも欲しがるものがいないと しても、これは宇宙旅行の脅威だ。だれかが出かけていって、引っぱりあげた方がいい」 そのだれカカを 、 : 、。まくに違いないということはわかっていた。。ほくは、びったり気の合っ ている建設班から、一人の部下をあえて引き抜く勇気はなかった。われわれの仕事は、す でに予定より遅れているし、一日の遅れは百万ドルの損失を意味するからた。地球上のあ

7. SFマガジン 1969年8月号

状態で停止させたはずなのに。またもたついたのだろうか。ジャイて、さらに一時間の降下が残っているのだ。 口を使った。ふたたび、艇はけだるそうに弧の半分あたりまで回転艇外のなにものかが、私の体をひつばっている。 いや、そいつはナンセンスだ。ゼネラル・プロダクッ製の船体を していった。だが、そこまでいくと、ひとりでにもとに戻ってしま う。まるでスカイダイ・ハ 1 号じたいが、その縦軸を中性子星に向け透して、私をひつばれるようなものがどこにある ? きっと、その たがっているようなのだ。 逆なんだ。なにかが艇を押しやって、その進路からそれさせようと 気に食わない。 しているのだろう。 私はもういちど操作を試み、スカイダイ・ハー号はもういちど抵抗もし、これがまだひどくなるようなら、推進モーターを使って補 それまでのあいだ、艇はから押し離され した。だが、こんどはそれだけではなかった。なにかが私をひつば正すればいい。 っている。 つつあることになるが、こいつはむしろ大歓迎だ。 ためしに私は安全ネットをはずしーー・とたんに頭から船首へ墜落しかし、もし私がまちがっているなら、もし艇がー一から した。 押し離されていないのなら、ロケット・モーターがスカイダイバ 号を十一マイル直径のニュートリニウムへ激突させるだろう。 十分の一ぐらいの軽い引きだった。墜落というより、蜜の中をそういえば、なぜロケットがすでに噴射をはじめていないのか ? スイロット 沈んでいく感じに似ている。よじ登るようにしてイスにもどり、ネもし、艇がコースから押しやられていれば、自動操縦装置がそれに ットで体を固定し、さかさまにぶらさがったかっこうでティクタフ抵抗するはずだ。加速計はこわれていない。さっき、連絡チュー・フ オンを作動させた。それから、仮定的な聴き手が私の仮定的な正気をくぐって点検したときにも、異状はなかった。 なにものかが、私にはさわらずに、艇と加速計だけを押しやって を疑わずにいられなくなるほど、微に入り細にわたって報告した。 いる、ーーなんてことがありうるだろうか ? 結局、おちつく先はお 「ラスキン夫妻の身に起ったのもこれだと思う」と報告をむすん なじ不可能性だーー・ゼネラル・プロダクッ製の船体をすりぬけられ だ。「もし引きがこれ以上に強くなったら、また知らせる」 るなにものか。 思う ? いや、ぜったいにまちがいない。このふしぎな柔らかい 理論なんてくそくらえとおれはつぶやいた、と私はいった。はや 引きは、説明不可能だ。ビーターとソーニヤ・ラスキンを殺したの くここからパイバイしよう。ディクタフォンにむかって、「引きが も、やはり説明不可能ななにものかだ。証明終り。 中性子星があると思われる一点の周囲で、星ぼしは放射状にこす危険なほど強まってきた。いまから軌道を変えてみる」 もちろん、艇を外に向けてロケットを使えば、私の加速も >•< 力に れた油絵具のしみだった。目に痛いほどのぎらぎらした輝き。ネッ プラスされる。かなりの荷重だが、短時間ならがまんできるだろ トの中でさかさまにぶらさがりながら、私は考えようとっとめた。 一時間たって確信がついた。引きはしだいに強まっている。そしう。後生大事に計画を守って、一の一マイル以内へなど近 オート・ 2

8. SFマガジン 1969年8月号

ぐにやりと曲っていた。カープした透明な船殻の内側で、なにかと 風速を鈍らすのは、愚の骨頂かもしれない。真四角でのつべらぼう な屋上のぐるりは、何百マイルとも知れぬ無限の砂漠。といってほうもない圧力が金属を温かい蠍のように変え、とがった船尾へと も、そこらの居住惑星にあるような砂漠じゃなく、せめてサポテン流れこませたのだ。 なりと植えてくれと叫んでるような、一木一草もない砂粒の平原「なにがこんなことを ? 」と私はきいた。 だ。それが試みられたこともあった。だが、植えるかたはしから、 「わかりません。それを知りたいと努力しているのですが」 風がそいつを吹きとばしてしまうのだ。 「というと ? 」 宇宙艇は屋上のむこうの砂の上に横たわっていた。ゼネラル・プ「あなたは中性子星ー一のことをごそんじですか ? 」 しばらく考えたすえ、思い出した。「これまでに発見された、最 ロダクッ社の二号船体ーー長さ三百フィート、 直径二十フィートの 円筒形で、両端がとがり、スズメ。ハチの腰に似た軽いくびれが尾部初で唯一の中性子星だ。二年前に、だれかが星間転送で位置をつき の近くにある。それがどういうわけか、船尾の着陸用緩衝脚も折りとめた」 たたまれたままで、横倒しになっているのだ。 「ー一は、惑星ジンクスの知識アカデミーによって発見され 近ごろの宇宙船がどいつもこいつもおなじ格好になってきたのたのです。わが社はさる仲介者から、アカデミーがその星の調査を に、あなたはお気づきだろうか ? きようびでは、全宇宙船の九十望んでいることを知りました。調査には宇宙船が必要です。アカデ にはその資金がない。わが社は、調査によって得られたすべて 五パーセント強が、ゼネラル・プロダクッ社の四種類の既製船体の どれかを使っているためだ。そのほうが建造も簡単だし、安全でものデータの引渡しを条件に、社の保証つきの船体を無料提供しよう あるからだが、おかげでどういうものか仕上りさえ似てきてしまうと申し出ました」 大量生産の規格品そっくりに。 「フェアな取引だな」なぜ彼らが自力で調査をやらないのかとは、 ふつう、船体は透明のままで引渡され、買主が好きな色に塗る建あえてたずねなかった。知覚を備えた菜食生物の大半がそうなのだ 前になっている。くだんの艇の船体は、ほとんど透明で残してあつが、パペッティア人も、危うきに近よらぬことが君子の必要にして た。船首の居住系統のまわりだけ、わずかに塗装がほどこしてあ十分な条件だと思いこんでいるのだ。 ・ラスキンとソーニ 「調査に志望したのは二人の地球人、ビーター る。大型の反動推進装置はついていない。撤去可能の姿勢制御ジェ ヤ・ラスキンでした。計画では、双曲線軌道をとり、中性子星の表 ットが一組、側面にとりつけられている。船体にあいた四角や丸の 小孔は、観測計器用のものだ。その計器類が、船体をすかしてきら面から一マイル以内に到達することになっていました。その旅の途 中の一点で、未知の力が船体を透過し、緩衝脚にこれだけの損害を きら光っていた。 パペッティア人は船首のほうへ歩きかけたが、私はなぜか緩衝脚もたらしたらしいのです。乗員たちを殺したのも、やはりこの未知 が気になり、そいつをもっとよく見ようと船尾へ近づいた。それはの力と思われます」 4

9. SFマガジン 1969年8月号

—実験室 〃成層圏にまで出たパイロット連中だってそんなやつが大気圏外に いるのを見ていやしないじゃよ、 この時代 、、ミルトンは〈アメージング〉や〈ウ = アード・テー 〃太平洋の魚で、水面に出てトロール船を見たやつが何匹いると思 ルズ〉などに、それこそひたすら書きに書きまく 0 ているが、そのう ? 〃 中で、これは侵略ものといえるかどうかわからないがもうひとっこ 次にはシカゴがやられた「 んな話を書いている。 まったく、あっという間に、空中からあらわれたおそろ ' しく大き やはりガーンズ・ハックが出していた〈ェア・ワンダー・ストーリ なスコップが、ばっくりとシカゴの市街を掘りとって行ってしまっ ーズ〉という、飛行機専門の冒険雑誌の一九三〇年三月号である。 たのである。 題して『宇宙からの訪問者』 The Space Visitor という作品だ。 もう世界中の都市という都市は恐怖にかられた群衆で手のつけら れぬような混乱状態となった。 ある日のこと、アイオア州のある町のど真ン中に、まるでば もちろん世界中の学識経験者が鳩首協議はするものの、さつばり つくりとそこだけが掘りとられたように、巨大な穴が出現したので しい知恵はうかばない。そこでハワード博士は提案した。 ある。もちろん、建物から住民から、なにからなにまで、それも陥「もしも海底の魚に知能があって、海上の船に向かってトロールの 没したのではなくて、完全にその部分がなくなってしまったのであ抗議行動を起こすとしたら、彼らはどんな手を使うだろうか ? し る。 かも自分たちは海底にヘく リついていなければならないとして 当然のこと、政府、学界の間に大問題となる。おそらく大隕石のである。もしも魚どもに技術があれば、爆弾にウキをく 0 つけて海「 しわざだろうという推測が大勢をしめた。だが、その大穴の周辺か底から放すのではなかろうか ? われわれ″大気の太洋みの海底に らはそれらしき破片のひとかけらさえ発見することはできない。 いる魚もその手でいこう」 つぎにやられたのはフィンランドの寒村。こいつが丸ごと姿を消 この珍案が満場一致で可決されると、スチーライトという発見さ した。あとには大穴だけが残 0 ている。大きさはちょうどおなじくれたばかりの超軽量高張カ合金でつくった風船に爆薬をくつつけ らいつまり、直径数マイル、深さは四分の一マイルほど : て、次から次へと、全世界の都市から放流を開始する。 この場合は昼間だったせいか目撃者があった。その言によるとお だがその間にも、何者かによって行なわれる底渫いは次々に、ワ そろしい音がして、まるでシャベルみたいなものが空からあらわシントン、ニ = ーヨーク、などの都市をおそってくる。しかもどん れ、ざ 0 くりと掘りと 0 て行 0 たというのである。もちろん誰も相どん頻度を増してくるのである。風船爆弾はなんの効果もないので 手にしない。ただ、 ( ワード博士という学者だけがその目撃談を信はあるまいか : それに、こうあちこちがやられたのでは爆弾の 用した。彼はなにものかが〃大気の太洋みの海底を渫っている 生産も意のごとくにはならなくなってくる : というのである。ちょうど我々が水圧のために深海底に降りられな ところがである。第二五回目の底渫いをやられた直後のこと。ジ いように、そいつも、地表の高い気圧には耐えきれないのだろう : ・ ヨージア州の平野のど真ン中におそろしい地響きを立ててなにかが ( 加ページよりつづく ) ” 2

10. SFマガジン 1969年8月号

0 愛しいボ・フ、私たちはとても興奮しているわ ハート・マードックは手紙を傍らに置くと、 おとうさんと私は、おまえがとうとう私た両手を固く握り締めた。彼に残されているのは、 ちのところへ帰ってくるという、おまえの声をほんの数時間だった。そして地球は何日も先にあ 何度も何度も聞き直したのよ。私たち二人は、 った。セイアビルの町は宇宙の彼方にあるように 良き主に、おまえの無事を感謝しています。ポ思えた。自分が生きてそこにたどり着けないこと ・フ、どんなにおまえの顔を見たいことでしょを、彼は知っていた。 また、これまで何度もあったように、古い詩人 う。おまえも知っているように、最近の私たち ハート・フロストの詩の最後の数行が彼の心に は体の調子があまりよくありません。おとうさ ささやきかけた。 んの心臓は長い間の外出には耐えられなくなっ ています。おまえの帰郷の知らせでさえも、あ の人には強すぎる刺激でした。それに、もちろ だが、おれには大事な約東がある 眠りに就くまえに ん、私自身の体も、先週また気を失ないそうに あと数マイルを なるほど気分が悪くなったりして、あまりよい 行かなければ : ようではありません。でも、タム先生は私の体 がまだ丈夫で、こういった気分の悪さもじきに 彼は帰郷すると約東した。それは守るつもり 直るといって下さいますから、まだ本当に危険 なほどではないようです。だから、おまえもそだ。死、それがなんであろうとも、地球へ帰るの んなに心配しないようにしてちょうだい。けれだ 医師たちは、それが不可能なことを彼に説明し ども、おまえが帰ってきたときに元気でいられ た。彼の死は自明のことであるとさえいった。彼 るように、できるだけ休んでおくつもりです。 しつ彼の心臟が鼓動を打ちやめるのか、い お願いだからボ・フ、元気で帰ってきてちょうだらは、、 っ彼の呼吸が絶えるかまで説明してくれた。ロバ 私たちは神様に、おまえが無事に帰ってく ート・マードックにとって、死は確実なものだっ れますようにと祈っています。毎日、おまえの た。彼のかかった異星の病は不治だったのだ。 ことで私たちの心は一杯です。私たちの生活は しかし、医師たちは彼の計画を聞かされた。彼 とっせん以前のように充実してきたようです。 早く帰ってきて、ポプ。急いでちょうだい。 らはそれに耳をかたむけ、そして同意した。 今、彼に残された人生は半時間ほどたった。マ 愛をこめて ードックは宇宙船の長い廊下の一つを歩いてい 母より 、 0 2 6