二十世紀 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1969年8月号
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1. SFマガジン 1969年8月号

S F の枠を大きく広げた新感覚長編 百万人の机上に送る問題作シリーズ アンドロイドお雪 平井和正 幻世紀の科学技術は異様な世界をうみだした。人語を操るサイボ ーグ動物、夜毎に男の精を吸いとるロポット美女 / 420 円〒 70 日本自衛隊 地球 0 年 矢野徹 アメリカを占領す 核ミサイル戦争が勃発 / 事実上崩壊した米本土の制圧に出動す る日本軍を待ち受ける恐ろしいゲリラの正体は ? 420 円〒 70 わがセクソイド 眉村卓 限りない繁栄の中で、フリーセックスの渦の中で、疎外感に悩み つづけた青年がつかんだものは、幻影だったのか ? 420 円〒 70 退 魔戦 己 豊田有恒 国運をかけた文永・弘安の役。蒙古軍壊減の真相は ? 突如起っ た神風は ? 日本史の謎に挑む雄大なタイムオペラ / ′ 420 円〒 70 銀 河市民 R ・ハインライン 野田昌宏訳 銀河の一隅に密に進行する奴隷売買。そのかげにうごめくのは、 人類と文明発生の地、地球からの見えざる手だった。 480 円〒 70 生 き残る R ・フォスター 矢野徹訳 ニューヨークに水爆が落ち、地下鉄構内に避難した人々の問に 480 円〒 70 地下で生きのびるための凄惨な生存競争が・・ RIPPÜ NEO SF 旨ロ ・ - ーイ、 ( SEXOID ゞセクソイド 立風書房 東京都品川区旗の台 6 ー 29 ー田 電話 ( 786 ) 65 引振替東京 74493

2. SFマガジン 1969年8月号

「土のにおい。乾し草のにおい。暑さのに が映画では、三つのエビソードの主人公を おい。そうだ、これはアフリカのにおいだ。全部同じスタイガーが演じる。 ライオンのいる、アフリカの草原のにおい そのために、実は巻頭の「時限を越えて 云々」のナレーションと相乗効果をあけ 一女は男の胸のなかに手をすべらせる。男て、観客をち = 0 とした混乱におとしこん ( の胸にライオンの刺青が浮ぶ。それが実物でいる。 ~ のライオンにかわると、男はアフリカの大 ある人は二人がタイムマシンに乗って未 ( 草原に女といっしょに立っていたのだ。こ来の世界へ行き、心に傷を負って現代に戻 〈機械と人間 ( れより、第一紀のエビソード り、また未来へ行く。最後に少年も未来の、 と〉が始まる。 世界に連れ去られる、と解釈している。 別な人はこれは夢の映画で、女催眠術師 の妖術が男を白昼夢のなかに連れこみ、苦 ( 原作では、いれずみの男と、それそれのしめる。男の見る夢は潜在意識のあらわれ 工。ヒソードの主人公とは、区別されている。 で、親と子の葛藤を描いた心理劇ではない もともとこのいれずみの男は短篇集にまと か、と推定する。 またある青年はいれずみの男と少年はす める際に考えたされた狂言まわしだ。これ でに数年前からホモの関係にある。 だからお互いに知らない仲ではない スタイガ 1 ・に″肌絵〃をほどこすスタッフ のだが、嫌悪感を克服するために野 第 ' 当物山を歩きまわり、初対面のような態 第一話〈機械と人間と〉 、ユ度を装「てアドリブで身の上話を語 り、刺激を楽しむ。最後に少年が男 くり返して悶絶してしまうかもしれない。 を、。を殺すのはエディ。フス・コン。フレッ 単純明快な原作を、ちょ、つとした工夫で 、クスが遠囚で、謎の女刺青師はいれ複雑で難解な心理映画 ( ? ) に仕上けてし ずみの男の後妻だが、実は少年とも まった。フロデューサーのクライチェックと ひそかに関係をもっていた。そして いう男は、なかなかの、曲者といえるだろ 驚くまいことには少年の実母でもあ 原作を読んでいない人にとってこの ( 〕一る。つまり少年はホモと近親相姦に映画はかなりと 0 つきにくい作品にみえ ( 悩む二十世紀の受難者なのだ、と いるらしく、三回見てようやく筋書がわかっ : 、う。この解釈を下したのはある青少たという観客もいるのだ。 9 0 。一一年週刊誌の腕利きの編集記者だがブ さて「草原」のエビソードは、人名の異 ラッドベリがきいたら目の玉をひっるほかは、ほ・ほ原作に忠実に描かれてい

3. SFマガジン 1969年8月号

0 た。この情報は、彼の「ン ( , タン区横断の可能性をとても大き超音波の咆哮が一瞬、まわりの群集をしびれさせた。出場者の身 くするものだろうーーそここそ、世界でもいちばん人口密度の多動きできない列の間でもがき、立往生してしま 0 た自動車の何列も 4 しいちばん危険な都市なのだ。 の長い列の間を、かけぬけたり迂回したりする。やがて彼らは展開 「なあスティーヴよ、引 0 こんどけよ」セント・ジ , ンが、その妙してい 0 たが、大部分は東に向 0 て、 ( ドソン河とその対岸で邪悪 に耳ざわりな声でいった。「よせよ。そうすれば、お前の分もやつな顔の半分を不完全燃燃の各種炭化水素のすすけたマントでかくし てやるよ。どうだい、かわいい坊やちゃん ? 」 ているニューヨークに向っていた。 ・ハクスターは首をふった。彼は自分が勇気のある人間と考えたこ スティーヴ・・ハクスターだけが、ひとり東に向わなかった。 とはなかったが、セント・ジョンの世話になるくらいなら、死んだ ほかの参加者のなかでただひとり、彼だけは北に向きなおり、ジ ほうがましだった。それに、、・ しすれにしても彼は、前みたいにこの ヨージ・ワシントン橋とべアー ・マウンテン・シティに向ったのだ ままではすまないのだ 0 た。先月発効した準家族住居法補則による 0 た。彼はロもとを引きしめ、夢遊病者のように走 0 た。 と、スティーヴはいま、レイク・。フレイシッド産業ビルの半地階で はるかラーチモントでは、エーデル・・、 / クスターがテレビでレー 一部屋だけのア。 ( ートに住んでいた、寡婦にな 0 た叔母と = 一人の従スを見ていた。思わず彼女は息を呑んだ。八つになる息子が叫ぶ。 第が、新らしいオール。 ( ニ ・モントリオール・トンネルのために 「ママ、ねえママ ・こけど、 、。、。、は北のほうの橋に向ってるよー 立退かされるので、法的には彼らを受入れてやらなければならない あの橋は今月は閉鎖なんだよ。パパはあっちはぬけられない ! 」 のだった。い くらショック予防の注射をしたって、ひと部屋に十人「心配しないでいいのよ」エーデルはいった。「パパは自分のやっ ではあんまりだ。彼はどうしても一片の土地を勝ちとらなければなてることは心得ているわ」 らないのだ ! 彼女は、自分では感じていない自信をもっていたのだった。それ 「引っこまないよ」・ ( クスターは静かにいった。 に、夫の姿が群集のなかに消えてしまうと、彼女は楽に坐りなおし 「ようし、カモ君」セント・ジ = ンは嶮しい鷲鼻の顔を渋面に曇らて待 0 たーー・そして祈る。スティ〕ヴは本当に、自分のや 0 ている ていった。「だが、忘れるなよ、忠告はしたってことを , ことを承知しているのかしら ? それとも、肩の重荷にあの人は、 審判長が叫んだ。「諸君、位置について ! 」 怯えてしまったのだろうか ? 参加者はしーんとなった。みんな目を半眼にとじて、ロもとを引 きしめ、スタート・ラインに爪先をつけた。 「用意 ! 」五十人の決意を固めた男が、前かがみになり、百本の脚 の筋肉が力がこもってもり上った。 「ドン ! 」レースははじまったー 2 問題の種子は二十世紀にまかれたものだったが、恐るべきその収 穫は百年後に突然現われたのだった。至福の何千年にもわたる緩慢

4. SFマガジン 1969年8月号

めなければならないようだな」その顔には、疲労の色が濃かった。 は、どうもありがとう」 「ど トッゾは言った。「彼らが自覚していなかったとしても、われわ トッゾのほうに向くと、ファーメティは一一 = ロった。 うやら、われわれは二十世紀中期にれの目的には関係ないでしよう。いずれにせよ、予知能力は現に存 対する考えかたを改在するんですから」それは、議論の余地のないことだった。 いつのまにか、アンダースンは彼らから離れ、近くのみやげもの ・ウインドーをのそいていた。「おもしろ 店のショー い品物があるね。カレンに何かおみや げを買っていってや ④ 0 朝 名 \ 0 0 9

5. SFマガジン 1969年8月号

感心して、トッゾは言った。「完璧ですね」 「気に入ってくれて、わたしも嬉しいよ , ファーメティは、皮肉め かした口調で言った。「きみも過去に送られる一人なんだからな」 トッゾは有頂天だった。「では、二十世紀中期の生活様式を今か 二十四時間後、アーロン・トッゾは二十世紀の衣服を身につけた ら勉強したほうがいいですねー彼は、イフ誌の別の号をとりあげ自分の姿を眺めながら、アンダースンをこれであざむけるかどう た。一九七一年五月号だったが、はじめて見たときから、読みたい か、ドレッジにひつばりこめるかどうかと考えていた。 と思っていたのである。もちろん、この号は一九五四年の人びとに 衣服は、どこをとっても完全の一語につきた。トッゾはまた、天 は、まだ知られていない : しかし、やがてはこれを見ることにな神ひげと、腰まで伸びたあごひげもたくわえていた。これらは、一 るのだ。そして、ひと目見た瞬間、それは決して忘れることのでき九五〇年ごろのアメリカで、たいへん流行したのだ。そして、かっ ないものとなるだろう : らもかぶっていた。 レイ・・フラッドベリの、初めての連載論文なのだ。雑誌を調べな誰もが知っているとおり、かつらは当時のアメリカ・ファッショ がら、彼はそれに気づいた。題名は『人狩り』ーー・そのなかで、こン界で全盛を誇った。明るい色彩、赤、緑、青、そしてもちろん権 の偉大なロサンジェルスのプレコグは、やがて内惑星を席捲するこ威ある灰色と、男女すべてが、小さな飾りを一面にちりばめた大き とになる。残虐なガットマン主義者たちの政治革命を予言してい なかつらをかぶっていたのだ。それは、二十世紀のもっとも愉快な た。・フラッドベリは、ガットマンの出現を警告していたのだ。だが出来事の一つなのである。 警告は もちろんーー黙殺された。今ではガットマンも死に、 トッゾのかつらは明るい赤で、彼は上機嫌だった。一点、非のう その狂信的な支持者は、少数の孤立したテロリストだけとなってい ちどころはない ロサンジェルス文化史博物館におさめられていた る。しかしもし世の中が・フラッドベリの警告に耳を貸してさえいものだ。そして、それが女ものではなく、男ものであることを、館 たら 長自身がうけあった。これで、発覚のおそれは、残らず消されたこ 「どうして、そんなうかぬ顔をしてるんだ」ファーメティがきい とになる。自分たちが、まったく異質な未来文明からの来訪者であ た。「行きたくないのかね ? 」 ると気づかれる危険は、もうほとんどない。 「行きたいです」トッゾは考えぶかげに言った。「責任の重大さをそれでもトッゾはおちつかなかった。 考えていたんですよ。彼らは、なみの人間ではありませんからねー しかし準備は整い、出発の時間が来ているのだ。選びだされたも 「それは、確かだな」ファーメティはうなずいた。 う一人の乗員、ギリイとともに、トッゾはタイム・ドレッジにはい り、コントロール・パネルの前に腰をおろした。考古学局からわた刀 された懇切丁寧な指導便覧が、目の前に広げられている。ギリイが 3

6. SFマガジン 1969年8月号

元的な考察が重要だった。また、国際間で基準を統一する必要もあ遇はしたが、 、、マル室長の老練な指導のもと、ナカハラはこれに うちかった。 そこで、ナカハラを中心とした小グルー。フをつくり、かっ、ひろ セックスに明け、セックスに暮れる毎日にいやけがさして、恋人 く研究所内外の意見を求めることになった。 をつくり結婚してやめていく女性たちも何人かは出たが、サュリの この問題については、トミマル室長も大いに尽力してくれることがんばりで、人手不足の危機ものりきることができた。 となった。 むろん、研究がハイテンボですすんだのは、単にナカハラやサュ このようにして、〃セックス電話み研究プロジ = クトは、順リの努力と最新の研究設備のためだけではなかった。二十世紀から 調なスタートをきったのである。 長年にわたって蓄積されてきた、多くの技術成果が土台として存在 していたことが大きかった。 直接は関係のないようにみえる多くのじみちな基礎研究が、意外 なところで役にたち、陰で成果をささえてくれたということもしば 二十世紀の前半の技術研究は、完成までに十数年を要するのがふしばあった。 かくして、わずか四週間で、ナカハラのグル 1 。フは、″セックス つうだった。しかし、研究関発のス・ヒードはしだいにはやまり、二 十世紀後半においては、アイディアが生まれ、目標が定められてか電話みの研究プロジ = クトを、商用試験にまでこぎつけることに成 らそれが実現するまでの期間は、一年以内が常識となった。一年以功した。 上たっても結果を出せないでいる研究者や研究組織は、相手にされ商用試験とは、一部の一般の人々に使用してもらって、その効果 を確認しようというテストである。 なくなった。 ナカハラの時代においてはそれは、一カ月に短縮されていた。研テストにさきだち、広報グループとの打合せが行なわれた。試験 究にとりかかるまでの予備調査や下準備にはある程度の時間をかけとはいえ、研究所内ではなく、一般のカストマ 1 の意見をきくのが たが、いったんスタ 1 トをしてしまうと、一カ月程度で一応の答をひとつの目的の大規模な仕事なので、広報担当者と連絡しておかな ければならないのだ。 出さないと、無能よばわりをされるのだった。 巨額の研究費と最新の設備をもちながら、五週間も六週間も、も なにしろお役所の研究機関だから、宣伝活動は苦手であり、広報 たもたしているようでは研究者とはいえないーーーというわけなの研究部・広報研究室・広報グルー。フという、オ 1 バ 1 な組織はあっ たが、実際の広報を行なうには、その技術の研究者自身が、強力に そこで、セックス電話研究の線表も秒単位できざまれる、いそがブッシュする必要があった。 しいものだった。それは労の多い仕事であり、いくつかの困難に遭広報グルー。フにお願いする必要があったのである。 3 8

7. SFマガジン 1969年8月号

ファーメティはうなずいた。「そして、ここへ連れてきて、手伝は、教科書にも、彼まで含めようとする傾向が見られる。 ってもらうんだ」 「しかし手伝うことができるんですか ? 予知できる未来は、個人 によって違う。われわれの未来を知っているとは限らないでしょ 国会図書館のコン。ヒューターは、黄ばんだ、ぼろばろの文書に載 ファーメティは言った。「国会図書館には、二十世紀のプレコグっている論文をかたつばしから走査し、またたくまに、質量の欠損 雑誌の事実上完全な揃いがある。それを参照してよいという許可と復原を星間旅行の実際的問題として扱っている唯一の記録を選び が、もうおりてるんだ」トッゾとギリイの顔をみながら、彼はにんだした。ある物体が光速に近づくにつれ、その質量は増大するとい まりと笑った。自分の発言がつくりだした状況を、どうやら楽しんう、アインスタインの公式がある。二十世紀には、それが広く認め でいるらしい。「その大量の文書のなかには、例の帰還の問題をテられ、まったく不問に付されたので、この論文が、イフと呼ばれる いや、あるに違いな。フレコグ雑誌の一九五五年八月号に掲載されたときも、関心を持っ 1 マにした論文があるかもしれないんだ たものは誰一人いなかった。 い : ・ : ・きみた 。統計学的に言っても、その可能性はきわめて大き ファーメティのオフィスで、トッゾは上司とひたいを寄せあっ ちも知ってるように、彼らは未来文明のトピックを無限に書き記し て、問題の雑誌の複写を熟読した。論文の題名は『夜間飛行』、内 ているからな」 容はわずか数千語しかなかった。二人はむさぼるように読み、読み すこし間をおいて、ギリイが言った。「すばらしいアイデアだ。 それなら、きっと解決しますよ。他の星系への超光速旅行も、いっ終えるまで一・言も口をきかなった。 「どうだ ? 」結末まで来ると、ファーメティが言った。 か可能になるかもしれない」 トッゾは、うかぬ顔で言った。「囚人の底がっきないうちに、成「疑いないですね。たしかに、われわれの計画です。曲解している 功すればいいんですがね , だが上司のアイデアには、彼も乗り気だ部分も相当ありますが。例えば、彼は移民局を〈宇宙開発株式会 った。加えて、二十世紀の有名なプレコグたちとじかに会えるこ社〉と呼び、民間企業だと信じこんでいる」トッゾはテキストを見 と、それが彼の胸をおどらせた。彼らの栄光に満ちた、短い時代ながら言った。「しかし、じっさい途方もないですね。あなたは、 明らかに、このエドマンド・フレッチャーという人物ですよ。ちょ は、悲しいことに、もう歴史のなかに埋もれてしまっている。 短いとはいっても、日・・ウエルズではなくジョナサン・スウっと外れてはいるけれど、名前も似ている。他の部分も同様です。 イフトまで源を辿れば、それほどでもないかもしれない。スウイフわたしは、アリスン・トレリだ」彼は感嘆したように首をふった。 トは、望遠鏡がその存在を認められるはるか以前に、火星の二つの「彼らプレコグたちの心に映る未来 : : : いつもどこか狂っている 月とそれらの特異な運動について書いているのだ。だから今日でが、根本はーー」 2 8

8. SFマガジン 1969年8月号

こみたくはないが、彼らの助力は今やどうしても必要なのだ。あれ 「あのう、鉛筆を持ってませんか ? 」彼はぬめぬめした生きものに 6 9 きいた。「ああ、いや、持ってました。すみません」この生きものからかなりの時間がたったというのに、アンダースンはどこにも見 あたらなかった。 が鉛筆を持っているわけがない。 前方には、宇宙港がひらけていた。直径数マイルにおよぶ巨大な 上着のポケットから紙切れを出すとーーそれは、何かコンペショ ンのパンフレットだったーー彼は、今までのいきさつ、この二十一円形の土地。地面からっきでている建物はない。中央には、黒焦げ 世紀で自分が見たことなどを、簡単に、思いつくままにきたない文の地帯がある。着陸や離陸する宇宙船の噴射炎が、何年にもわたっ て作りあげた跡である。ファーメティは宇宙港が好きだった。なぜ 章でなぐり書きした。そしてすばやく紙をポケットにつつこんだ。 「かしこいやりかただ」とぬめぬめした生きものは言った。「それなら、ここでは都市の密集した建築群が、ぬぐい去られたように消 えてしまっているからだった。ここには、広々とした空虚がある。 では宇宙港へ行こう。もし、きみがわたしののろのろした。ヘースに ついてきてくれるなら。着くまでのあいだ、きみの時代からの地球あえて子供時代をひきあいに出すなら、 1 ーそれは、子供のころ遊ん の歴史も話してあげる」ぬめぬめした生きものは、ゆっくりと歩道だ広々とした土地を、彼に思い出させるのだった。 地表で事故がおこっ を進んだ。ポールは夢中になって、生きものといっしょに歩いた。 ターミナル・ビルは、地下数百フィート いずれにせよ、ほかにとるべぎ手段は何もないのだ。「ソビエト連たさい、待っている人びとを危険におとしいれないように敷かれた 邦か。あの国の運命は悲惨だったよ。一九八三年に、ついに中共とレクサイド層の下にあった。降下路の入口に最初に辿りついたファ ーメティは、そこで立ちどまり、トッゾとギリイが追いつくのをい 戦争をおこしてね。最後には、イスラエルとフランスがそれに巻き こまれた : : : 残念なことだが、とにかくそれでフランスの問題は片らいらしながら待っていた。「わたしがニルグします」それほどの づいたーー二十世紀後半の世界では、フランスはいちばん扱いにく熱意もなさそうに、トッゾが言った。そして、きつばりとした動作 で、手首のパンドを毀した。 い国の一つだったんだ」 たちまち頭上に、ポルポルの空中艇が飛んできた。 ポールは、そのことも紙に書き記した。「フランスが負けてから 」ぬめぬめした生きものの話は続き、ポールの時間はしだいに「移民局のものです」と、ファーメティがポルポルの警部に説明し た。彼は計画のあらましを話し、そしてーー・しぶしぶーーーポール・ 残り少なくなっていった。 アンダースンを過去から連れてきた顛末を説明した。 ファーメティが言った。「やむをえん、グリンしよう。アンダー 「髪の毛 , ポルポルの警部が書きとめた。「不恰好な服装。わかり スンが乗船してしまったら大変だ」その " グリン〃は、少々グリンました、ミスター・ファーメティ。見つかるまで、われわれでグリ ンしましようー警部はうなずき、小艇は飛びたった。 する意味のグリンではなかった。ポルポルの全面的な協力をあおい で、しらみつぶしに捜索をするという意味だった。彼らをひつばり 「無駄がないですね」とトッゾ。

9. SFマガジン 1969年8月号

た。 はないだろうか : ナカ ( ラとサュリが話しあっていたように、この種の装置は二十この新装置の発売と普及に関して、例によって政治家や巨大企業 世紀後半の科学技術で充分作製可能なものだった。ただ、これまでが動くにちがいない。そして、大衆の間にさまざまな反応がおこ だれもまじめにつくろうとはしなかっただけのことなのである。 り、ふたたびこの装置を放送にとりいれる動きも出てくるだろう。 そして、また、さらに別種のセックス電話装置の開発を要求される 「よくやってくれた」 のではないか : ナカハラは、ばくぜんとうかんだ、こういった予感に、頬をこわ トミマル室長は、新装置完成の日、ナカハラの肩をたたいて、そ ばらせた。 の労をねぎらった。 「ありがとうございます。これでまた楽ができますよ : : : 」 セックス電話の研究は、もともとナカハラ自身が提案したものだ ナカハラは笑って答えたが、ことばの途中で、なにかいいようの った。だから、セックス電話に関する新しい研究の要望は、おこれ ない、不吉な予感が、身内をはしるのを感じ、顔をゆがめた。 ばおこるほどありがたいはずなのだが、彼自身はどういうわけか、 おそらく、また数か月は、研究もせず、セックスもせずの、悠々そうは感じなかった。同性間セックス装置の研究をしている間に、 自適の生活もつづけることができるだろう。しかし、いつまでもそ彼の心理は微妙に変化してきたのだ。 うであるかどうかはわからない。 なにか、蟻地獄へでもずりおちていきそうな、不安が頭をもたげ ふたたび、ナカハラの研究生活をさわがせる事態が発生するのでてぎていたのだ。 ハヤカワ・ライプラリ く近刊予告 > ■世界史の謎に挑戦する 未来の想い出 ( 仮題 ) w ・ > ・デニケン / 松谷健ニ訳 / 予 \ 三 00 われわれ地球人より進化した異星人が、 その昔地球にやって来たのではなかろう 世界の史蹟、遺蹟を訪ねて一〇 万キロを飛んだ著者が、この奇想天外な 発想から歴史の数々の謎に挑戦し、おど ろくべき明解な仮説を通して、読者に新 しい歴史の創造をせまるユニークな書ー ー 47

10. SFマガジン 1969年8月号

行きづまり状態の宇宙開発計画を打開するに は、ぜひとも 20 世紀に輩出した偉大な・、予知 能力者 " たちの知恵を借りる必要があった / WATERSPIDER ぐも フ k 蜘蛛計画 フィリップ・ K ・ティック 訳 = 伊藤典夫 画 = 真鍋博 5