元的な考察が重要だった。また、国際間で基準を統一する必要もあ遇はしたが、 、、マル室長の老練な指導のもと、ナカハラはこれに うちかった。 そこで、ナカハラを中心とした小グルー。フをつくり、かっ、ひろ セックスに明け、セックスに暮れる毎日にいやけがさして、恋人 く研究所内外の意見を求めることになった。 をつくり結婚してやめていく女性たちも何人かは出たが、サュリの この問題については、トミマル室長も大いに尽力してくれることがんばりで、人手不足の危機ものりきることができた。 となった。 むろん、研究がハイテンボですすんだのは、単にナカハラやサュ このようにして、〃セックス電話み研究プロジ = クトは、順リの努力と最新の研究設備のためだけではなかった。二十世紀から 調なスタートをきったのである。 長年にわたって蓄積されてきた、多くの技術成果が土台として存在 していたことが大きかった。 直接は関係のないようにみえる多くのじみちな基礎研究が、意外 なところで役にたち、陰で成果をささえてくれたということもしば 二十世紀の前半の技術研究は、完成までに十数年を要するのがふしばあった。 かくして、わずか四週間で、ナカハラのグル 1 。フは、″セックス つうだった。しかし、研究関発のス・ヒードはしだいにはやまり、二 十世紀後半においては、アイディアが生まれ、目標が定められてか電話みの研究プロジ = クトを、商用試験にまでこぎつけることに成 らそれが実現するまでの期間は、一年以内が常識となった。一年以功した。 上たっても結果を出せないでいる研究者や研究組織は、相手にされ商用試験とは、一部の一般の人々に使用してもらって、その効果 を確認しようというテストである。 なくなった。 ナカハラの時代においてはそれは、一カ月に短縮されていた。研テストにさきだち、広報グループとの打合せが行なわれた。試験 究にとりかかるまでの予備調査や下準備にはある程度の時間をかけとはいえ、研究所内ではなく、一般のカストマ 1 の意見をきくのが たが、いったんスタ 1 トをしてしまうと、一カ月程度で一応の答をひとつの目的の大規模な仕事なので、広報担当者と連絡しておかな ければならないのだ。 出さないと、無能よばわりをされるのだった。 巨額の研究費と最新の設備をもちながら、五週間も六週間も、も なにしろお役所の研究機関だから、宣伝活動は苦手であり、広報 たもたしているようでは研究者とはいえないーーーというわけなの研究部・広報研究室・広報グルー。フという、オ 1 バ 1 な組織はあっ たが、実際の広報を行なうには、その技術の研究者自身が、強力に そこで、セックス電話研究の線表も秒単位できざまれる、いそがブッシュする必要があった。 しいものだった。それは労の多い仕事であり、いくつかの困難に遭広報グルー。フにお願いする必要があったのである。 3 8
かってのシステムエ学は、月世界航路や全世界テレビ電話網など 募集方法を変える必要があるのかもしれない ナカ ( ラはそうの、グロー・ ( ルなまたは宇宙的スケールのシステムの樹立のために 考えると、人材銀行に相談のテレビ電話をいれた。 研究され、その価値判断の基準は、 人材銀行のコンサルタントは、ナカハラの要求をきいて、しきり 有用性 経済性 に首をひねった。どんな人材でも紹介できるはずの組織なのだが、 信頼性 適合性 ナカハラの意にそうのは、意外にむずかしいことであるらしかっ などにおかれていた。しかし、この時代のシステムエ学において は、これらの他に、 コンサルタントは、ナカハラの希望をもう一度たしかめた。ナカ 無用性 浪費性 ハラは、はじめから、くわしく説明した。 不信性 不適性 三十歳で学位をとったばかりの主任研究員ナカハラが、こういう なども、価値を定めるものさしとされていた。 ふなれな人材集めに苦労するようになったいきさつは、つぎのよう つまり、役に立っシステムばかりではなく、無用なシステムをつ なものであった。 くることも大切であり、経済的なシステムの他に、不経済なシステ ムを設計することも重要であるーーというわけなのだ。 例はたくさんある。 日本列島を縦断してはしる電磁超特急列車は、ほんとうは五つの 大学を卒業するとただちに、国立の電子通信研究に入所し、情報駅に停車するのが経済的で便利なのだが、実際には七つの駅にとま ミッション・ディヴィジョン 伝送研究部に所属して、大容量情報伝送路の研究に没頭してきたるという不経済なことをしていた。もちろん、実力のある政治家の ナカハラは、学位を取得し、主任研究員のポストについたのを機会故郷があるからである。 エンジニアリング・セクション に、同じ部にあるシステムエ学研究室にうつり、そこで新また、電子通信研究所の所属する工業技術省には、複雑な省内だ しい研究をはじめることとなった。 けのテレビ電話やデ 1 タ通信を運営する外郭団体があったが、これ エンジ - 一アリング システムエ学 ) という概念は、第二次世界大戦の前後か は明らかに無用性を満足するものだった。ほかにちゃんとした巨大 ら、しだいに形をととのえ、情報処理網をもっ巨大な産業システムな電話公社があるので、停年退職者を救済する以外には、その必要 の開発とともに発展してきたものであるが、いまでは、どんな種類はほんとうはなかったからである。 の研究にも欠かすことのできない学問となっていた。 さらに、レジャー専門のシステムは、いっこわれるかわからない むろんその内容は、システムエ学なる名称がさかんに研究管理者不信頼性が、スリルを味わうために重要視されていた。 層で叫ばれだした頃とは、まったくちがったものとなっていた。 巨大なシステムの設計研究は、経済性や信頼性を考慮するだけで 2 トランス
のセックスとでは、相手に与える印象が異なる。そこで、そならない。そして、なにしろ、セックス電話の研究であるから、女 の場の雰囲気にふさわしい伝送路として、どれかを選択す性の研究者がどうしても必要だったのだ。 る、伝送路選択サービスができるようになる。 実用化にむすびついた研究というものは、理論だけでは完成しな ⑤伝送路選択サービスのほかに、セックスの動きや様態を故意 。実験が必要である。とくにセックス電話に関しては、理論のウ に増強したり変形したりひずませたり、またノイズを加えて = イトより、実験のウ = イトのほうがはるかに大であるといえた。 味をつけたり、さらに故意の漏話ーーっまり第三者のセック理論についてよ、、 ーしまさら研究しなくとも、過去の文献をあされば よ、つこ 0 スの混入ーーによって人類的共存感を深めたりする、各種のそれで十分だった。しかし、実験のほうはそうよ、 ぐし、力 / 、刀ー 新しいサービスが可能で、研究テーマにことかかない 宅内装置の一部分ーーっまり、テレビ電話の撮像機や受像機に相 ⑥避妊が確実にできる。 当する部分ーーに関しては、技術の裏街道におけるひそやかな研究 にはじまって、最近の教育用のセックス・ロポットにいたるまで、 トミマル室長は、クラシックなめがねを二度三度、鼻の上で動か参考技術はかなりあったが、セックス組織の動態を電気のカでそっ し、それからゆっくりと立ちあがり、ナカハラの肩をぼんとたたい くりそのまま送り、そして受けるためには、まったくちがった角度 こ。 からの高度の実験的研究がなければならなかったのだ。 「よくそこまで考えてくれた。りつばなシステムエ学だよ。たいし そこに、女性研究員の重要性があった。国立電子通信研究所に ただ。多元的発展的に問題を処理している。部長もお喜びになも、ナイチンゲール部長をはじめとして、かなりの数の女性研究員 るだろうー ; いたが、それそれ自分の研究にいそがしく、セックス電話研究の 冫 : し力なかった。 その後の経過も順調だった。室長がいったとおり、部長もこの案ためにそう多人数集めるわけこよ、 には大賛成で、ナカハラをプロジェクト・リー ダーとし、″セック そこで、ナカハラの人材集めがはじまったのだ。彼は、セックス ス電話の研究をはじめるように指示したのだ。ナカ ( ラは、ふだん電話研究者として、人材銀行に紹介を依頼した。 , 、 待遇はよかった の失礼をおわびしながら、女流科学者としても有名なこのナイチンし、社会的地位も高い職場であるため、希望者はかなり多か 0 た ゲール部長とお礼のセックスをかわすのだった。 が、それら応募者はいずれも、ナカ ( ラを失望させてしまった。 なぜなら、彼女らは、セックスそのものとセックス電話の研究と を混同してしまっていたからなのだ。学生時代のセックスの成績が いかに良くとも、研究はできない。 以上が、ナカ ( ラが人材集めをはじめるにいたった、おおよその セックス電話の研究をすることと、セックスをすることとはまた いきさつだ 0 た。研究をはじめるためには、研究者を集めなければ別の問題なのだ。電話のかけかたがうまいから、電話機の研究がで 4 に 4
の飯より好きな翻訳もやりたいし、評論も、紹介も私自身のためのあり そうしたものの総合の上に、全体像としてのを捉えるべきではあ とあらゆる勉強もやりたい。読むべき本は山と積みあけられているし、 りましよう。しかし、その全体像の姿勢は、あくまでも自ら持するとこ 考えるべき問題、消化すべき知識、構成すべきアイデアは、未整理のまろあるものであるべきなのです。 まあちこちに放置してある。それらも、今後はなんとか片づけていきた第三は、界内部における批評活動の育成です。 はここまで来た。だからこそいま界をより更に前進させるた そして、そうすることが、私自身ととのためにプラスになるにち めには、批評が必要なのです。ぬくぬくと、ぬるま湯に浸って泰平の夢 がいないことを、今の私は疑ってはいないのです。だからこそーー・愛惜 をむさぼっていて、いったい何がか。 と、未練と、疲労と、そのすべてをかかえこみながらも、私は予定の行 批評を嫌い、批判されたことを恨み、未練がましくあけつらう精神 動をとった。 で、いったいなぜ、が書けるか。多少の批評をされたからというの いや、もしこれが、妙に悲愴めいたものいいに聞こえたとすれば、嗤 で、気落ちして書けなくなるような、そんな女々しい人間は、もともと ってください。そんなつもりは、なかったし、またそんな必要もないの ものを書くべきではなかった。そんな弱々しい作家は、消えてなくなれ です。後任のマガジン編集長森優は、もちろん、彼なりの独創的な ばいいのです。 アイデアと、漸新な方針とで雑誌をより一層充実させていくはずです 私のここ一年のマガジンの編集方針の根底には、そうした考えが が、マガジンの基本的な姿勢は、飽くまで堅持していくことを、私 間違いなくあった。それを、なんとか、全体のプラスになるような に約東してくれました。 かたちで実現させることが、私の望みだった。 第一は、マガジンが、飽くまでも日本の読者全体を対象とす不幸にして、現状はまだ、私の方針を十全に反映させるに至っていま るものであること。つまり、を、嘗 0 てそうであり、未だにともすせん。それを中途にして、職を辞することに、多くの心残りは確かにあ ればそうなりがちな、一部マニアのための玩弄物には決してしない りました。しかし、マガジンが、今後も、この方針を貫ぬくことも ということです。ひと握りの、かたくななの鬼たちの意を迎えるよ 確かです。 うなことがあ 0 ては、十年間の才月は、無為に過されたことにな 0 てし森優と私とはその点でも完全な意見の一致をみています。 まいます。少くとも私はそれをしなかった。彼もそれをしないと断言し そして私はーー・今後は、そうした方針ですすむ森優を、サイドから応 ています。 援するかたちで、マガジンのために寄与していく心算です。 第一一には、だからといってを、みじめな中間小説亜流のようなも マガジンの読者のみなさんっ のに堕落させることは決してしない、ということ。世に受け入れられた マガジンは、新しくなっていきます。 いがために、現代が (-ov-k であることを主張しうるもっとも重要な部 マガジンは、より充実していきます。 分を自ら抛棄するようなことはしない、ということです。もちろん、 マガジンの新しい編集長森優に期待してください。 は、かなり大きな包容力を持つべきであって、リラックスしたエンタ そして、より一層の理解と、ご支援を賜わることを、私からもお願い ティンメントを拒否したり、よい意味での大衆小説性を忌避したりするします。 べきではない。 それでは、一応、さようなら。
ろうとする開拓者精神は、歴史の事実によって証明され、むくいらル室長がナカ ( ラにめがねごしに述べたように、テレビ電話やデー タ通信の研究は、すでに限界にきていた。こまかな改良研究はつづ れた。 物質とともに多様な情報を主体とするーーいいかえれば情報に物けなければならなかったし、そういったじみな研究も大切だった 質やエネルギ 1 がまとわりついているようなーー人間と機械の共存が、大規模な国立研究所としては、時代の先を見越した研究テーマ 空間が急速に形成されたのである。人はこれを、過去に予言されてを新たにみつけなければならなくなっていたのだ。 ここまでは、ナカハラにも簡単に理解できた。しかし、この先が いたとおりの″超技術時代″という名で呼んだ。 もっとも、物質やエネルギーの時代から情報の時代への変遷の予難問だった。いったい、なにを研究したらいいのだろうか : ナカハラは必死になって考えた。そして、ついにあることを思い 言は、なにも超技術社会とかポスト・インダストリアル・ソサイエ ティとかいった言葉が流行するようになってはじめて現われたものついた。その新しい研究テーマ、新しいサービスの種類は、先のシ ではない。そのずっとまえから、情報関係の技術者にとっては常識ンポジウムの提言の中にヒントを得たものだった。 となっていたことだった。サイバネティックスのノー・ハ 提言の中に、〃精神的な非技術的分野〃という一句があった。こ ーナーがまだ若々しく活躍していた時代から、若い研究者や学生はれが超技術社会の重要な構成因子なのだ。しかし、ふりかえってみ ると、ナカハラたちの研究してきた情報伝送路には、そのような精 そのことを広言してはばからなかった。 ただ、実際の社会を動かす力に、それがなるまでには、若干の時神的非技術的要素はなにも含まれてはいなかった。人間と直接接触 する端末の機器類ーーたとえばテレビの受像器やディス。フレイ 間を必要としただけだったのである。 さて、その超技術時代の情報伝送的側面ーーーっまりナカ ( ラの仕には、そういった要素はつよく入りこんでいたが、そこから出てく 事に直接関係する部分ーーはなにかというと、端的にいってそれる信号を伝送する伝送路には、それがケしフルであれ、 ル波であれ、通信衛星であれ、地上マイクロ波であれ、人間的要素 は、映像の伝送とデータの伝送のふたつであるといえた。 は入っていなかったのだ。 テレビ電話を主体とする各種の画像通信用信号の伝送、そして、 コンビューターと工場やオフィスや家庭を直結するデータ信号の伝テレビ電話の使用者にとって、その映像は、ケーブルを通ってこ 送、このふたつが、ナカハラの勤務する電子通信研究所・情報伝送ようと、空中を無線電波でこようと、関係なく同じように見えた。 研究部の主たる研究対象だった。 機械と人間とをつなぐデータ通信では、それはなおさらだった。 その研究は、幾多の先人の努力と、それをひきついだ現在の所員衛星通信でも海底ケーブルでも、結果は同じことなのだ。 ナカハ これが研究が限界にきた原因だったにちがいないー の活躍によって、超技術時代をささえるに充分な成果をあげてい ラはそう考え、そして、情報伝送路がより人間的な意味をもつよう マな新しいサービスをひねりだした。むろんそれは、″セックス電話 しかし、研究としては、それらはすでに限界にきていた。トミ こ 0
行きづまり状態の宇宙開発計画を打開するに は、ぜひとも 20 世紀に輩出した偉大な・、予知 能力者 " たちの知恵を借りる必要があった / WATERSPIDER ぐも フ k 蜘蛛計画 フィリップ・ K ・ティック 訳 = 伊藤典夫 画 = 真鍋博 5
宅内装置の特性を改良するために試作していたアンプの内部に設研究に主力をそそぐこととなったのだった。 計ミスがあり、電気信号の一種の反転が行なわれていたのである。 例によって線表がつくられ、研究は ( イビッチですすんだ。 「すぐにつくりなおします」 ナカハラの努力は、わずか三週間で、この研究を完成させてしま 助手はあやまったが、ナカハラは、うなずきながら別のことを考った。 えていた。 できあがった装置はつぎのような特性をそなえていた。 いうまでもない。 この反転現象の積極的な利用についてである。 男性用宅内送受装置を例にとると、まず、送信者である男性の生 その時は、単に空想してみた程度だったが、いまこうしてトミマ体運動現象は、女性型組織をした装置によって検出され、電気の信 ル室長から新研究の指令をうけてみると、この現象はまことに重要号に変換される。相手が女性の場合には、この信号はそのまま送り な意味をもってくるように思われた。 出されるのであるが、男性ーーっまり同性。ーーの場合には、この電 もうくどくどとご説明する必要はないであろう。この現象を活用気信号はふたたび、一種の変、換回路に加えられ、第二次の変 することによって、同性どうしのエチケット・セックスをスムーズ換をうけるのである。 にはこぶ新しい〃社交セックス電話〃ができる可能性があったから この変換回路は、電気的なプラス・マイナスの極性反転回路と、 である。 波形整形回路との二種よりなっており、いずれも、使用者個人の性 セックスが社交のエチケットである以上、異性間のセックスだけ質に応じて微細調整がきくように可変部分が付属している。 ですますわけにはゆかず、昔から男性どうしまた女性どうしのセッ プラス・マイナス極性反転回路は、セックス電気信号のプラスと クスも重要視されていた。そして、異性間とはまたべつの礼儀作法マイナスとを反転するもので、そうすると、男性のセックス信号 がきめられ、みなそれにしたがって行動していた。 が、女性のセックス信号に類似してくるのである。しかし、それだ しかし、どんなに作法どおりに勉強し練習しても、同性間 = チケけでは、類似しているというだけで、女性組織の動きを表わすには ・セックスには、なにかぎこちないところがのこっていた。 いたらない。そこで、つぎにつながっている波形整形回路で、その 同性間のセックスは太古から存在していたが、それらは愛欲的な反転された電気信号波形を正確に女性的に整形し、増幅したうえ ものであって、 = チケット的なものではなかったので、参考にはなで、送りだすー・ー・というしくみになっているのだ。 らなかった。そして、同性間セックスをいかにうまくやっていくか これで、男性どうしで、男女間のセックスができるわけである。 は、常に人々の悩みの種だったのである。 女性どうしのセックスもまったく同様だった。 それが、電子通信の力によって解決されるとしたら、こんなにすできあがってみれば、・これは簡単なことだった。生体の運動現象 ばらしいことはないではないかー をそのまま男女変換するのは、大変なことだが、いったん電気信号 ナカ ( ラの研究グループは、かくして、セックス信号反転装置のに直したうえでやれば、ゴマ粒くらいの—o でできてしまうのだっ
「そうそう」 「彼女のことを知らない者はないでしよう。マスコミが、やたらに 報じ立てていますからね , 梅雨はまだあけきってはいなかった。南条宏を乗せたタービン車南条は、苦笑をうかべた。「しかし、あれをサイボーグとは : は、窓にこまかい雨滴をすがりつかせたまま、パイオ = ア・サービちょっと大げさじゃありませんか ? 」 「ほう、どうしてだ ? 」 ス会社の統合事業本部ビルに、すべり込んで行った。 淡い期待が、南条の心の中に生れかか 0 ている。ここ数年、地方「今じゃ、たいていの大病院が人工臓器を使っていますからね。今 での小さな仕事ばかりあてがわれて、命じられたよりもはるかにい度の場合はそれらを全部同時に置きかえたということでしよう。ま い成績をあげて来たが、彼としてはも 0 と大きなものと取り組みたあ、その全システムを = ンビ = ーターで統御することに成功したの が、画期的といえばいえるでしようが : ・ : ・人工臓器ひとつでも結構 かったのだ。久しぶりに、直接統合事業本部に呼び出されたのだか かさばるのに、それを全身に及・ほしたものだから、移動さえ出来な ら、ひょっとしたらその願いがかなえられるかもしれない。 いというじゃありませんか。おまけに、今の技術の段階では、十年 「早かったな」 : ・ほくは、サイボー ぐらいしか生きのびられないそうですしね。 本部長室に入るとすぐ、部屋のあるじが声をかけた。 グというものは、もう少し進んだものというふうに、考えたいです 「マグネット列車を使いましたからね」 「ほほう。あれは加速がきついと聞いているが : : : どうだった ? 」よ」 「ほどでもないですよ。もっとも、減感剤のお世話になりました「相変らず理想主義的だな」 本部長は、微笑した。「しかし、何でも手はじめは不完全なもの さ。大体、語源から考えれば、今のようなものでも、充分サイボー 「まあ、楽にしたまえ」 グの名に値するとは思うがね。第一、今度のケースだって、医師団 本部長は席を立って、エア・クッション・ソフアを指した。 の必死の努力と、莫大な費用が必要だったんだ。そうした条件を乗 南条はためらわず、腰をおろした。 りこえて決行し成功したというのは、やはり偉大なことだよー 「早速だが、用件に入ろうー 本部長は、南条の前にすわると、机に手を伸ばして、薄っぺらな「本部長」 しらいらしながらさえぎった。「用件というのは、つま 南条は、、 計画書をとった。「きみはサイボーグ一号のニュースを、聞いてい り、何なんですか ? 」 るかい ? こ 「ああ、先月、頭部以外を全部、人工のものにとりかえた女のこと「まあ、あわてるな」 ですか」 が」 7 6
ているのは、水爆の引ぎ金として、ウラン 235 が絶対 ら、弁当箱に毛が生えた程度の大きさしかない。 ウラン鉱石の精錬によって得られる天然ウランは、 に必要だったからといわれる。原子炉によって簡単に製 しかし性能はこれまでの卓上計算機に優るとも劣らウラン 2 3 5 が 0 ・ 7 % 、ウラン 2 3 8 が 9 9 ・ 3 % の ず、しかも故障が完全といっていいほど無い 混合物である。このうちウラン 2 3 8 は一〇〇万エレク造できるもう一つの原爆材料プルトニウム 2 3 9 は、融 早川電機の製品だが、超小型にできたのは新しい多相 トロンポルト以上の速い中性子が衝突しないと核分裂を合反応を起こさせるほどの、高熱を発生しないのだ。 大規模集積回路を利用したからだという。 起こさない。つまり極めて″燃えにくい″のである。 しかし日本の場合は、事情がちがう。電力各社は今後 より小さく、より性能を高く、より確実に : ・ : ・この分 これにたいしてウラン 235 は〃燃えやすく″、しか十数基の発電用原子炉を建造することにしているが、こ でいくと、二一世紀のエレクトロニグスの世界は、想象も燃やす装置である原子炉も比較的簡単ですみ、経済性の燃料はすべて濃縮ウランで、このままでは米国に依存 されている以上の展開を見せそうだ。 も高い。原子力発電の実用性を高めるには、どうしてもしなければならない。つまり原子力発電の比重が大きく なればなるほど、エネルギー源を米国に押えられるとい ウラン 235 の割り合いを多くしてやる必要がある。こ ◇泡沫ミルク罐消火器 ( 英 ) うことになるのだ。 れがウラン濃縮と呼ばれる作業なのだ。 火災が発生して消防車がかけつけたが、 他の多くの科学技術もそうだが、軍事利用と平和利用 油に火がついて手がつけられない は、表裏一体となって、切り離すことができなくなって よくあること。泡沫消防車がなくとも、こ いる。そのなかで日本は、平和利用のみを何とか切り離 れさえあれば心配無用という消火器が英国 そうというわけた。道はかなり困難だが、結局は進まざ で考案された。 験るを得ないことになろう。その道がおかしな方向に曲ら 実ないように、よく見守る必要もでてくるかも知れなし す大きさはミルクほど。普通のポンプ事 のホースの先に、このミルク罐を接続し、 消 ◇アルコールのない酒登場 ( 英 の っ水を注ぎこむと、片方から店烈な勢いでつ ぎからつぎにと泡が吹き出す。 び 罐英国にアルコールのない酒が登場した。開発したのは 何しろ一分間に三万リットルもの泡が噴 と クプリストル大学調査研究所。アルコールが体内にはいれ 出するというから、形は小さいが、効果は ば、知覚をにぶらせるとわかっていながら、酒を飲む自 かなりのものといえるだろう。 沫動車運転者が、いぜんとしてあとを絶たない ん重さは一〇キロほどで、内部には特殊な 泡そこで同研究所は、ロ当りも、においも、味も酒とそ え気泡凝縮剤がはいっており、水と空気によ つくり、たたしいくら飲んでも絶対に酔わない酒、つま 9 て、泡沫を発生させるのだそうだ。 りアルコールだけが入っていない酒を開発したという次 消防車もこれさえあれば、即座に泡沫消 さ 第である。これを知って喜んたのは国立調査開発委員会。 防車に早変りするわけ。社会生活が複雑化 するにつれて、ますます増加するのではな 国の利益になる研究に、資金を援助するのがこの委員会 の役目だが、さっそくアルコールのない酒の研究にも、 いかと心配されている油火災への武器として、英国の消濃縮には、まずウランと弗素を化合してガス状にし、 防当局は注目しているそうだ。 それをフィルターに通して軽い 2 3 5 と、重い 2 3 8 に援助の用意があるとの声明を出した。 これに対して反撃の声が上ったのも、当然というべき 分離する方法と、遠心分離機にかけ重さの差を利用して ◇史現するかウラン濃縮 ( 日 ) だろう。アルコールの効用について高く評価し、学術論 分離する方法がある。 原子力委員会が、ウラン濃縮の実現可能性について、 ともに厖大な分離機、圧縮機などの設備と、それを動文も出しているキャンプス博士は「アルコール分のない ウイスキーやビールは、麻酔成分を抜いたヘロインと同 本格的な検討に乗り出した。現在、世界でウラン濃縮をかす電力を必要とし、ロでいうほど簡単ではない。アメ 実施しているのは、米ソ仏それに中国の四カ国。つまり リカの場合でいえば、年間七八トンの九〇 % 濃縮ウランじようなもの。本来の効用を無視してこうしたものを作 核爆弾保有国たけであって、実現を目指すということにを生産するのに、建設償却費、電力費、維持費など一切るのは本末転倒」ときめつけ「こんな研究を行なった なれば、経済的、技術的だけでなく、軍事的にも大きな合わせて六億三四〇〇万ドルも要したというから、並大り、それを援助したりするのは公費の無駄づかい」とい 波紋を、世界に投けかけることになるだろう。 ていではない。 きまいている。 いったいウラン濃縮とは何のために行なわれるものか それにもかかわらず米ソ仏中の四カ国がこれを実施し さて、読者のみなさんはどちらを支持なさるかな ? 8 9
成功すれば、彼らは釈放される。太陽系中の、人間が居住する五惑 星に帰る必要もない。 「志願者がどこの人間だろうと、そんなことはかまわんじゃない か」ファーメティはおだやかに言った。 その朝、てかてかになるまで頭を剃りあげながら、ア 1 ロン・ト ッゾは、考えるに忍びない不幸なある光景を想像していた。彼の心「他の星へ到達することは、二の次です。むしろ合衆国行刑学局の に映っているのは、ナクバレン・スレイガーからの十五人の囚人た機構改善を目標とすべきでしよう、トッゾは、とっぜん移民局の自 ちの姿だった。みな身長わずか一インチ、彼らの乗る宇宙船は、子分の地位を投げだして、組織改革論者として政界に進出したい衝動 供の風船くらいの大きさしかない。光速に近い速度で、宇宙船は飛にかられた。 しばらくして、朝食にすわった彼の腕を、妻がなぐさめるように び続ける。なかの男たちは、何がおこったのか気づいてもいない、 叩いた。「アーロン、まだ解決策が見つからないの ? 」 気にかけてもいない。 あらゆる可能性からみて、現実におこっていることなのだ。それ「うん」すこし間をおいて、彼は認めた。「もう、どうでもよくな ったよ」空しく死への旅に発った他の何隻かの船の囚人たちについ が、その光景を悲惨なものにしている最大の理由だった。 頭をふき、地肌にオイルをすりこむと、彼は喉の奥にあるボタンては、話さなかった。政府の仕事についていないものに、そのこと を押した。局の交換台に通じると、トッゾは言った。「十五人の男を話すのは禁じられているのだ。 たちを救う手だては何もない、それは認めます。しかし、これ以上「自分たちのカでむこうの星に着くことはできないの ? 」 送りだすなと言うことは、少なくともできるでしよう」 「うん。太陽系からとびだすとき、こちらに質量を置いていってし 彼の言葉は、交換台で録音され、同僚たちに伝えられた。誰もがまんだ。だから、むこうに着くには、同じだけの質量を取り戻さな 同意見だった。賛同する声を聞きながら、彼は靴をはき、上着とオくちゃならない。それができないんだよ , うんざりして彼は妻の顔 1 を着た。飛行は明らかに誤りだった。一般民衆すら、もうそから目をそらし、紅茶をすすった。女ってのは、と彼は思った。か れを知っている。だが わいいが、頭がわるくていかん。「質量が必要なんだ , 彼は繰りか 「だが続けるしかないんだ」トッゾの上司エドウイン・ファ 1 メテ えした。「周遊旅行なら問題はない。だが、これは植民だ。はじめ イの声が、喧躁のなかでひときわ高く響いた。「志願者も出てい のところへ戻ってくる呑気な旅じゃない」 る」 「。フロキシマへ着くのに、どれくらいかかるの ? 」リオノアがきい 「それも、ナクバレン・スレイガ 1 からですか ? 」とトッゾはきい た。囚人たちが志願するのも無理もない。収容所での彼らの寿命「あんなふうに一寸法師にされて」 は、せいぜい五、六年なのだ。そして、もし。フロキシマへの飛行が「約四年だね」 6