クレトン - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1970年10月号
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1. SFマガジン 1970年10月号

その橋は、・ とこの橋です ? クレトンもうしわけありません。 ( 間 男どこの橋 ? パラグアイにきまっとるだろうが、このたわけー はむりですよ。 クレトン ( ほかの一同に ) どうやら、わたしのまちがいらしい。べ パワーズまた、わしの心を読んでいるな。 つの大統領でした。 ( 彼が身ぶりすると、男は消える ) だいぶびクレトンしかたがないんです。それにしても、きようの思考の真 つくりしていたようですね、彼は。 黒なこと。いや、じつに強烈だ。 パワーズわしはきみを脅威と見ているからな。 ジョンあなたはあんなふうに、人間を出したり消したりできるん ですか ? クレトンそれは知ってますが、ちょっとひどい仕打ちですな。こ クレトンあんなふうにね。 ちらは善意なのに。 ( 。 ( ワーズが書斎から顔を出す。 ) パワーズでは、われわれのことはほうっておいて、きみの故郷へ パワーズおはよう、クレトン君。ちょっとこちらへきてくれない 帰ってくれ。 か。話がある。 クレトンいや、まだ帰るわけにはいきませんよ : クレトンかしこまりました。 ( 書斎へむかう。 ) ( 電話が鳴る。副官が出る。 ) スペルディング頭がへんになりそうだ。 副官おもてに ? しいとも、お通ししろ。 ( パワーズに ) 世界議 会の事務総長閣下が、到着されました。 カットして、書斎。副官が不動の姿勢で立つかたわらで、 ハワーズ ( クレトンに ) きみも、彼のいうことならきくだろうな ? ハワーズがクレトンと話している。 クレトンええ、もちろん。聴くことなら、大好きですからね。 ( ドアがひらく。物静かな中年男、ポール・ロレントがはいって パワーズ ・ : そういうことで、われわれ、つまり合衆国政府は、 くる。。ハワーズと副官は、直立不動の姿勢。クレトンは歩みよっ この問題が一国の手にあまると判断した。そこで、この事件のい て握手する。 ) っさいを、世界議会の事務総長である、ポール・ロレントに委譲ロレントクレトンさんですな ? したのだ。 クレトンはじめまして、ロレントさん。 クレトンそれは賢明ですな。わたしも、もっと早くそこに気がっロレントあなたを、世界議会の名において、この惑星に歓迎しま くべきだった。 す。 パワーズロレント氏は、まもなくここへやってこられる。ところクレトンありがとう、ありがとう。 で、クレトン君、きみはこれまで、わたしをさんざん笑いものに ロレント将軍、しばらく席をはずしてもらえるかね ? してくれたな。 パワーズ承知しました。 。 ) いや、わたしを殺すの

2. SFマガジン 1970年10月号

( パワーズと副官去る。ロレントは、クレトンにほほえみかけ民衆が、だまってあなたの言うなりになると思うのですか。 クレトンいや、わたしがたのめば、きっとそうすると思います る。 ) ね。 ロレントすわりませんか ? クレトンああ、そうでしたね、すわりましよう。どうも、わたしロレントあなたは、そうしたことを、あー、暴力なしでやれる と、信じておいでになる ? はまだここの作法に不馴れで。 ( 二人はすわる。 ) ロレントいや、なかなかどうして、りつばなものですよ。ところクレトンもちろん、やれます。二、三、実演をするだけで、わた しのいうことはきいてもらえるはずですよ。 ( 微笑する。 ) さあ で、クレトンさん、外交上のルールには反しますが、単刀直入に いですか。 お聞きしてよろしいか ? ( 間。だしぬけに叫び声。。 ( ワーズが部屋にとびこんでくる。 ) クレトンなんなりと。 ノワーズこんどは、なにをやらかしたんだ ? ロレントあなたは、なぜここへこられたのです ? クレトン窓の外をごらんなさい、閣下。 クレトン好奇心。娯楽。 ( ロレントは窓ぎわへ近づく。小銃がふわふわと空を飛び、仰天 ロレントすると、この時空間への観光客というわけですか ? した兵士がそれを追いかけている。 ) クレトン ( うなずく ) そう。非常にうまい表現です。 クレトンおもしろいでしよう ? 白状しますと、ゆうべも、ちょ ロレントあなたは、なみはずれた力をお持ちだとか。 っと芝居がかった芸当を、いくつかやってみせたんです。ちなみ クレトンあなたがたの基準では、たしかになみはずれて見えるか に中し上げると、現在、全世界の全兵士の持っ全小銃が、あんな もしれませんね。 これでも ふうに空にうかんでいますよ。 ( 身ぶりする。 ) はい、 ロレントそれから、あなたはこの世界を : : : この世界を支配され とにもどりました。 る意向だとも聞きましたが ? パワーズ ( ロレントに ) これでも、わたしの報告が誇張だとおっ クレトンそのとおりです : : : いや、あなたはなんと驚くべき心を しゃいますか。 お持ちだろう ! 中をのそくのが、とてもむずかしい。 ロレント ( 笑う。 ) 訓練ですよ。明けても暮れても、会議責めですロレント ( 畏怖にうたれて ) いやいや、誇張じゃない。 から : : : ところで、地球征服が目的だとなると、観光客という麒クレトンあなたは、懐疑的だったんですね ? いまのわたしは、その可 ロレント当然ながら。だが、いまは : れこみは、いささか怪しくなってきますな。 クレトンおや、わたしは征服なんて言ったお・ほえはありません能性をさとりましたよ。 ・この方が世界の指導者になる可能性です 4 パワーズというと・ ロレントでは、ほかのどんな方法で、統治をするというのです。

3. SFマガジン 1970年10月号

パワーズあれは五百年むかしだ。 クレトンまさか、そんなに残酷なことはなさらないでしよう。 クレトンそんなにむかしですかー ( 副官もどる。当惑したようす。 ) パワーズきみが地球の人間でないことは、たしかなのか ? パワーズどうだった ? クレトンは、。 副官それが、よくわからないのであります。 。ハワーズふん、どうだかな。わしを納得させるためには、それ相パワーズ ( きびしく ) では、その物体の形状を、できるだけくわ 当の説明が必要だそ。 しく説明してみろ。 クレトンよろこんでお役に立ちましよう。 、材料は未知の発 副官は、形状はたまご形、直径は十四フィ パワーズよし。どの惑星からきた ? 光金属と思われます。内部には、なにもありません。 パワーズなにもない ? クレトンあなたがたが聞いたこともない惑星です。 パワーズその惑星はどこにある ? 副官は、、船内はからつ。ほであります。機械も、食料も、なにも ありません。 クレトン言ったところで、わからないでしよう。 パワーズこの太陽系の中か ? パワーズ ( クレトンに ) 計器盤をどこへ隠した ? クレトン クレトンなにを隠したですって ? ああ、そうか。そんなもの 。ハワーズほかの星系か ? は、もとからありませんよ。 クレトンは、。 。ハワーズあれはどういう原理で動くんだ ? パワーズおい、二十の扉をやっとるんじゃないそ。わしは、きみクレトン知りません。 がどこからきたかを知りたい。法律がそれを要求しとるんだ。 しいいか、きみの立場は、かなり面倒な 。ハワーズ知らん ? お、 ものになっとるんだ。すこしは協力したほうが、身のためだそ。 クレトン数学者になら、もしかすると説明できるかもしれません だいたい、外宇宙からここまで、計器盤もない乗物で旅行してき がね。あなたでは、あと五百年もしないとわかってもらえそうも ないし、その頃には、むろんあなたは生きておられない。なぜな たなんて言い草を・ : ら、あなたがたには死があるからです。そうでしよう ? クレトンいや、このての乗物は、わたしの世界ではごくありふれ パワーズなんだと ? たものでしてね。むかしは、どういう原理で動くかも知っていた いのちひ クレトンあわれ、かよわき蝶よ、たまゆらの生命を陽のもとにー んですが、近ごろはとんと忘れてしまいましたよ。しよせん、あ ーおわかりでしよう、わたしたちは死なないのですよ。 なたもわたしも機械技師じゃありませんしね、将軍。 パワーズいや、死ぬさ。きみが、スパイか敵性外国人とわかれば パワーズロジャー、きみの書斎を使わせてもらってもいい ? に 5

4. SFマガジン 1970年10月号

スペルディング夫人わたしには、どこもおかしく見えませんわ。クレトンこの住宅 : : : たしか、そういう名称でしたね ? それと ( ジョンと訪問者が現われる。訪問者はおとなしそうな、感じの も、これはアパートですか ? い四十がらみの男で、頬ひげをたくわえ、一八六〇年頃の服装ス。ヘルディング合衆国メリーランド州 の個人住宅ですよ。 をしている。彼は三人の前までくると、しばらく無言のままで立クレトンしかも、二十世紀後期 ! ほんとうの二十世紀だなん ちどまる。三人も、おなじく興味深そうに、相手をしげしげと眺 て、夢のようだ。すわって、すこし気をおちつけなければ。これ める。 ) は本物なんだ ! ( 腰をおろす。 ) 訪問者どうやら、わたしはまちがいを犯したようです。すみませエレンあなたは : : : あなたはアメリカ人なんでしょ ? ん。一度帰って出直します。 クレトンうれしいことをいってくださる ! だが、ちがうんです スペルディングなにをおっしやる。いま着いたばかりじゃないで すか。さあさあ、どうそ中へ。お目にかかれて、たいへんうれしジョン話しぶりからすると、イギリス人みたいだ。 いです : : : えー クレトンわたしが ? そんなにアクセントがひどいですか ? ンヨンいや、りつばなもんですよ。 訪問者名前はクレトンです : : : これは、まちがった服装ですね、 そうでしよう ? スペルディングクレトンさん、あなたはどこからこられたんで スペルディングまちがったって、どういう ? クレトン ( あいまいに ) よそからきました。 クレトンこの国、それにこの時代にとってはですよ。 スペルディングむろん、この地球上のどこかでしような ? スペルディングそういえば、少々古風ですな。 クレトンいや、この惑星じゃありません。 スペルディング夫人でも、とてもよくお似合いになるわ。 エレンでは、火星から ? クレトンありがとう。 スペルディング夫人 ( 夫にむかって ) あの乗物を・ハラの花壇からクレトンあ、いやいや火星でもありません。火星には、だれもい どけるように、たのんでみてくださいな。 ませんよ : : : すくなくとも、わたしの知人はね。 ( スペルディングは、一同を居間へ案内する。 ) エレンあなたは、あたしたちをからかってるのね。きっとこれ スペルディングさあさあ、掛けてください。旅行のあとで、お疲は、なにか新手の広告なんだわ。 れでしよう。 クレトンいや、わたしはほんとうによそからきたんです。 クレトンええ、いささか。 ( 喜々として、あたりを見まわす。 ) スペルディングテレビへ出て、わたしのインタビューを受けても おや、これは予想以上だ ! らえないでしようか ? スペルディング予想以上 ? なにがです ? クレトンあなたがたの当局が、うんと言いますまい。ただでさえ に 3

5. SFマガジン 1970年10月号

クレトンまさか。わたしの種族は、あなたがたを侵略しようなん されましたーーお気の毒ですが、。 ( ワーズ将軍の命令です。 て、夢にも思ってやしませんよ。 ジョンじゃあ、・ほくがここにいることを、どうやってうちに知ら 。ハワーズどうしてそれがほんとうだと、わしにわかる ? せたらいいんです ? , ワーズ将軍にお聞きください。もう一つ、許可のクレトン ( 穏やかに ) あなたにはわからない。でも、信じてもら 副官それは、。、 うしかない。一つ警告しておきましよう。わたしには、中にある ないかぎり、この家からの外出も禁止します。 ものがわかるんです。 スペルディングそんなむちゃな話があるか ? 。ハワーズ中にあるもの ? 副官いや、どうやらあるようです。 クレトンあなたの心の中にあるものが。 エレン胸がどきどきしてきたわ ! パワーズきみは読心術師か ? クレトン正確には、読むというより、聴くんですがね。 書斎へカットでつなぐ。 パワーズいま、わしはなにを考えている ? クレトンこのわたしを、キじるしの地球人か、でなければ異星人 パワーズきみは、わざとわしを煙に巻いとるのか ? のスパイだと。 クレトンいや、わざとじゃありませんよ。 ノワーズあたった。しかし、そのへんなら、だれでも察しはつく パワーズ二時間も押し問答をしているのに、きみの話したこととヾ いえば、よその星系のある惑星からやってきた、の一点ばりで : からな。 ( 眉をひそめて ) こんどは、なにを考えている ? クレトン絵を作り上げましたね。銀色の星が三つ。それを、いま クレトンべつの次元にある星系です。たしか、あなたがたはそん肩につけている二つの星と、交換したがっています。 。ハワーズ ( 愕然と ) そのとおりだ。昇進のことを考えていた。 な言葉を使っておられた。 パワーズベつの次元から、観光客としてここへきた、というのクレトンそれを早める上で、わたしにお手伝いできることがあっ 、刀 たら、遠慮なくおっしやってください。 ワーズある。なぜきみがここへきたか、それを話せ。 クレトンまあ、そんなところですね。ほかにどんな考えかたがあパ クレトンっまりですね、わたしの種族は、わりあい出不精なんで ります ? す。むかしはそうでもなかったが、万事、特別監視装置や再生機 パワーズこの国の安全を護るのが、わしの任務だ。 で用がたりるようになると、わざわざ旅行する必要もなくなりま クレトンたいへんおもしろそうなお仕事ですね。 した。でも、わたしは道楽者でしてね。出歩くのが大好きなんで パワーズひょっとするときみは、異星種族が地球侵略に先立っ す。 て、偵察に派遣したスパイかもしれん。

6. SFマガジン 1970年10月号

せん。 溶明。二週間後の書斎。クレトンがデスクの前に坐り、デ クレトン ( 悲しげに ) ご機嫌ななめだね : : : なんだってわたしは、 スクの上には地図がひろげられている。ほかに、分割コンパ スとジェット機の模型がいくつか。ときおり、クレトンは爆きみなんかを補佐官にえらんでしまったのかな。いまのきみの仕 事がもらえるなら、どんなことでもしようという将軍たちが、い 弾の破烈音を口ずさみながら、急降下爆撃のまねをする。。、 くらでもいるのに。 ワーズ登場。 パワーズさいわい、彼らはわたしの仕事について、なにも知って いません。 パワーズお呼びでしたか ? クレトンそうだ、わたしの存在を知らせないほうが得策たから クレトンうん。放射性降下物に関する数字は、まだ出ないかね ? 。ハワーズたたいま作製中です。ほかにご用は ? ね。そうたろう ? クレトンねえ、きみ、きみ。どうしてわたしをそう嫌うんだい ? 。ハワーズどのみち、たいした違いはないんじゃないですか。あな パワーズわたしはあなたの軍事補佐官です。その質問に答える義たはわれわれの世界を滅ぼすおつもりのようだから。 三ダースの都市だけ クレトン世界を滅・ほすつもりはないよ。二、 務はありません。わたしの義務の範囲外ですから。 だ。なくなって惜しいような都市でもないしね。それより、これ クレトン地位の昇進で、すこしはうれしくないのかフ がすんだあと、新しい都市を建設するたのしみを考えてみたま ハワーズ事情が事情だけに、喜べません。 クレトンきみの態度は不可解だ。 。ハワーズいったいあなたは、何百万人の人間を殺そうというんで ハワーズそれたけでありますか、閣下 ? クレトンきみはわたしの戦争計画について、一度も感想をのべたすか ? ことがない。わたしはこれまでただの一言も、きみから励ましやクレトンそう、数百万じやきかないね。しかし、彼らもこういう ことは大好きなんだよ。嫌いだといったところで、わたしは信じ お世辞をもらえなかった : : : まっくろな思考だけで。 ない。ああ、ロレントがどういうかは知っているさ。しかし、彼 パワーズわたしの心を読んでおられれば、感想を聞かれるまでも は時代からはみだした不適応者だ。さいわい、こんどえらんだ世 ないでしよう。 クレトンいかにも。しかし、わたしはきみの心の中の奥深くに職界議会の連中は、もっと話がわかる。 ハワーズ麻痺状態というほうが適切でしよう。 業的嫉妬のうずきがあるのを、どうしても感じてしまうんだよ。 門外漢がくろうとよりうまく仕事をこなすのが、気にくわないんクレトンきみは、あの連中もわたしを嫌っていると思うのかね ? だろう ? さあ、白状したまえー パワーズ彼らがあなたを憎んでいることは、ごそんしじゃありま せんか。 パワーズわたしは強迫されてあなたの補佐をやっているにすぎま

7. SFマガジン 1970年10月号

ロレントそう、そうだよ。考えてると、それはすばらしいこと てであり、わたしの趣味のすべてである : : : しかも、あなたがた かもしれない。 は、わたしの趣味です。なにからなにまで。 クレトンあなたは、ほかの人たちより、ずっと聡明ですね。わたロレントお言葉ですが、われわれの人生は、暴力を作り出すこと しが善意そのものであることが、おわかりになったようだ。 でなく、それを抑制することに捧げられているんですよ。 ロレントそう、善意そのもの。将軍、きみにはこの意味がわかるクレトンねえ、あんまりわたしをこけにしないでください。なに かね ? 人類は、ついに統一・政府を持っことになるのだ : しろ、わたしは心の中がわかるんですからな。わたしには、あな クレトンおまけに、たくさんの官庁と、権謀術策も : ・ たがたの感情が、手にとるようにわかる。それは信じられぬほど たしったいあなたは、自分たちがなんであるかも知らない ロレント ( 興奮して ) そして、この世界は、空前の繁栄を迎えるだ殺伐こ。、 ろう。もし、クレトン氏が、その高度な知識で、われわれを援助のですか ? してくれれば : ロレント知らない。教えてください。 クレトン ( すっかり喜んで ) ええ、ええ、 しいですとも。あなたがクレトン野蛮人ですよ。わたしがこの徴々たる惑星の暗黒時代に たに、おたがいの心の中ののそきかたを伝授しましよう。強烈な やってきたのは、あなたがたといっしょに暮らし、その野蛮さに 刺激だが、きわめて啓蒙的ですよ。あの利己欲、あの毒々しいま 心ゆくまで浸って、恍惚感を味わいたかったからです。あなたが での感情 : ・ たの心の中にある殺意、それをわたしは愛します ! それはわた ロレントもはや、国家もなく、戦争もない : しを陶酔させてくれます ! クレトン ( おどろく ) なんですって ? いや、わたしはたくさんロレント ( ゆっくりと ) 辛辣ですな。 の国家のあるほうがいい それに、、 しまのあなたがたの発展段階クレトン失礼な言い草だったかもしれません。しかし、なぜここ では、たくさんの国とたくさんの戦争があって当然です : : : 数え へきたかとたずねられたから、お答えしたまでで。 きれないほどの戦争が : ロレントすると、あなたはわれわれ : : : この哀れな野蛮人を助け ロレントだが、あなたの助力で、われわれはそのすべてを変える るつもりは、毛頭ないといわれる ? ことができるんですよ。 クレトンかりにそうしたくても、できますまい。あなたがたが文 クレトンそのすべてを変える ! お断わりしておきますがね、わ 明に目ざめるのは、まだ二千年先の話だし、わたしたちのレベル たしはあなたがたの友人ですよ。 に達するのは、百万年も先ですからね。 ロレントそりや、どういう意味です ? ロレント ( 悲しげに ) では、あなたがここにこられた目的は、単 クレトンだって、あなたがたの最高の娯楽は、暴力じゃありませ なる : : : 単なる観察ですか ? んか。それを否定できますか ? それはあなたがたの人生のすべクレトンいや、それ以上ですよ。わたしは、あなたがたの娯楽を ー 46

8. SFマガジン 1970年10月号

こかの文明から、侵略に先立っ偵察の目的で、派遣されてきた男クレトンいや、全世界の。そのほうがあなたがたも幸福だし、わ にちがいない。 たしもたのしい。なに、しばらくすれば馴れてしまいますよ。 クレトンなるほど、それがあなたの見かただ ! よそ者はすべて パワーズばかばかしい。たったひとりで、どうやって世界を支配 できる ? 敵だという、すばらしい原始的臆測。将軍、あなたに遇えただけ でも、きたかいがありましたよ。 クレトン ( 陽気に ) 細工はりゅうりゅうー パワーズきみの種族が侵略的意図を持っことを、否定するのか ? パワーズ ( 副官に ) やつを逮捕しろ ! クレトン否定します。 ( パワーズと副官は、クレトンにとびかかる。どが、 / ナ彼の三十セ パワーズそれでは、われわれとコミ ュニケーションを持っこと ンチほど手前で、麻痺したように動けなくなる。 ) に、関心があるのか ? 交易を望んでいるのか ? クレトンおいたはだめよー ほら、わたしの体には指一本さわれ クレトンわたしたちは、とっくにあなたがたとコミュ ない。そこがまた、この遊びのおもしろさでね。 ( あくびと伸び ンを持ちましたよ。交易ですか。早くいうと、わたしたちは交易をする。 ) さて、もしかまわなければ、二階のわたしの部屋で、 などしない : ・ : それは、あなたがたの社会水準にだけ見られる、 ちょっと横になりたいんですが。 特殊現象でしてね。 ( 急いでつけくわえる。 ) いや、批判じゃあスペルディングご案内しましよう。 りませんよ ! ごぞんじのように、わたしはあなたがたのどんなクレトンいや、おかまいなく。案内はこころえています。 ( ひた 行動を見ても、たのしくてならないのですから。 いに手をあてる。 ) なんという殺伐な思考 ! わたしの頭は、ド パワーズ手がつけられん。 ラムのようにがんがん鳴っている。あなたがたの思考をいっせい にぶつけられると、目がまわりそうだ。 ( ドアのほうへ歩きかけ スペルディングとすると、なんというか : : : 地球を支配すること には、なんの関心もないのですな ? てから、スペルディング夫人のそばで立ちどまる。 ) いや、奥さ ん、これは夢じゃありませんよ。明日の朝、あなたが目をさまさ クレトンいや、ありますね ! まだお話しなかったかしらん ? れたときにも、わたしは消えてなくなってはいません。さあ、で 。ハワーズたったいま、きみの種族はわれわれになんの関心もない はおやすみ、かわいいやんちゃ坊主たち。 と、いったばかりじゃないか。 クレトン彼らはない。だが、わたしはあります。 彼が出ていくところで溶暗。 パワーズきみが ! クレトンそう、わたしが。よろしいか、わたしがここへきたの は、そのためです。 パワーズ合衆国の支配か ? 2 ー 42

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あなたがたの時代をおもちゃだと思っているですよ。 エレンおふたりとも、よく聞いてください : クレトン子どもだって ? よしてくれよー 訪問者話す必要はありません。あなたのおっしやりこ、 訪問者彼は保育室から逃げ出して、時をさかのぼり : よくわかります。 クレトンそこで、万事がめちゃくちゃになったんだ、万事がー エレンあなたがたはここになんの権利もない、ということが ? わたしは一八六〇年へ行くつもりだったーーそこがわたしのほん こんなことはやめてほしいと : ところが、乗物がどこか故障していたらし とうの時代なんだ 訪問者同感です。クレトンは、ここになんの権利もない。過去へ く、こんな時代へきてしまった。まあ、ここもけっこうおもしろ の干渉が禁じられていることは、彼もよく知っているのです。 、にはおもしろいけれど、やはり : エレン過去 ? 訪問者 ( うなずく。 ) あなたがたは過去の暗黒時代。われわれは未訪問者もう行かなければ、クレトン。 来からやってきたのです。実をいうと、われわれはほかの惑星にクレトン ( = レンに ) きみも、すこしはわたしのことを好きだっ たろう、ちがう力い ? 住む、あなたがたの子孫なんですよ。われわれはときおりここを 訪れますが、干渉はしません。なぜなら、もしそんなことをすれエレンええ、好きたったわ。あなたの趣味が脱線をはじめるまで はね。 ( 訪問者に ) 未来ってどんなふうですの ? 間一髪で間に ば、われわれも変わってしまうからです。運よく、 訪問者とても平穏で、とても美しく : あいました。 クレトン彼の話を信じちゃいけない。退屈で退屈で退屈で、やり エレンでは、戦争は起こらないのね ? きれないぐらいだよ ! 永遠の中にふわふわ浮かんでいるだけ 訪問者戦争は起こりません。そして、この事件の記憶も残らない さ ! 戦争もない、スリルもない : でしよう。われわれがここを去るとき、あなたがたはクレトンと わたしのことを忘れてしまいます。時間は、彼の到着直前にもど訪問者そうした話題は禁じられている。 クレトンどのみち彼女は、われわれのことを忘れてしまうんだか ったように見えるはずです。 ら、おなじことじゃないか。 エレン ( クレトンに ) な。せあなたは、あたしたちを苦しめようと エレンああ、あたし一度でもいいから未来を見てみたいわ : ・ したの ? クレトン ( 悲嘆にくれて ) いや、そんなことは夢にも思わなかっ訪問者それは規則に : ただわたしは : : : ちょっとした楽しみに、わたしの趣味にクレトン規則に反します、か。なんて退屈な男だろうね。 ( エレ ンに ) だが、悲しいかな、きみには、まだ生まれていないわたし ふけりたかったんだ : ・ ・ : もちろん、規則違反はわかっていたが。 たちを、訪問できる見こみはない。おお、かわいいエレン、わた 5 訪問者 ( エレンに ) クレトンは、一種のできそこないでしてね。 しのことを優しく思ってくれるかい ? きみがこのことを忘れる 精神的にも、道徳的にも知恵遅れなのです。彼はまだ子どもで、 ナしことよ、

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クレトン ( 書斎からはいってくる ) さあ、やっと魔法の刻限が近が、気がっかない。 ) づいたそ ! きみたちもさぞ胸がわくわくしているだろうね。 ジョンやってきたそ。 スペルディングあなたはまだ、だれがだれを攻撃するのか、教えエレン ( とっぜん苦い口調になって ) これで二人にふえたわけね。 てくれないのですか ? スペルディング夫人かわいそうな、わたしのバラ。 クレトンそれは、あと : : : 十四分かっきりでわかるさ。 ( 新しい訪問者が、彼の宇宙船から出る光の中に現われる。きわ エレン ( 苦い口調で ) あたしたちもいっしょに殺されるのね ? めて未来的な服装。彼は、畏怖にうたれている家族のそばを無言 クレトンとんでもないー きみたちはまったく安全さ。すくなく で通りぬけ、書斎にはいっていく。クレトンは地球儀の陰で身を とも、戦争の初期段階では。 すくませている。パワーズと副官が茫然と見まもるまえで、訪問 エレンそれはご親切に。 者はいかめしく身振りをし、クレトンは、不承不承に兜と剣をは スペルディング夫人きっと、また配給制の世の中になるんだわ。 ずす。二人は奇妙な音声で話を交す。 ) スペルディングここからミ・ : ここからなにかが見えるでしよう ノワーズと副官が、書斎から登場。 居間へカット。。、 クレトンいや。しかし、書斎のモニター装置で、きれいな画像が 見えるはずだ。。、 / ワーズがいま調整している。 パワーズ ( エレンに ) あれはだれだね ? ジョン ( 窓ぎわで ) おい、ごらんよ、空のあそこを ! こっちへ エレンまたきたんです、もう一人の訪問者が。 やってくるそー パワーズこれでわれわれもおしまいか。 ( エレンが駈けよる ) エレンあたし、あそこへいってくるわ。 エレンあれはなに ? スペルディング夫人工レン、なにをいうんです ! ジョンなにつて : : : 別の円盤だよー ここへ着陸するらしい エレンあの人たちと話してくるのよ。 こう。 クレトン ( おどろいて ) それはきみの錯覚たろう。こんなところへ ンヨン・ほくもいっしょにし だれもやってくるわけがない。 ( 彼もすでに窓ぎわに駆けよってエレン ( 決然と ) いる。 ) は、わかっているもの。 エレン着陸するわー スペルディングあなたの友だちがきたのですか、クレトンさん ? 書斎の内部、クレトンともう一人の訪問者にカット。 ンがはいってくる。 クレトン ( ゆっくりと ) いや、いや、友だちじゃないよ : ( クレトンは書斎に退却する。ソフアのわきにハンカチを落とす しいえ、ひとりでいくわ。自分の ししナしこと エレ 4