《その電子頭脳はわれわれにとってたいへん重要な情報を知ってい る。われわれはその電子頭脳を必要としている》 《われわれはア・ス・クだ》 エドは乾いた声で笑った。 銀色の光の球体はあざやかな青いコロナを発し、中心部の暗いほ 「電子頭脳がほしいという以上、それが握っている情報がほしいに のおの形をおおいかくした。ア・ス・ク , ーーその天体の生物なのだ ろうか ? それとも特異な自然現象なのか。エドはどうしても生物 きまっているさ。そうでなければ、誰がこんなガラクタを持ち歩い たりするものか ! 」 と話し合っているような気がしなかった。自分だけがとほうもない 《あなたもその電子頭脳が持っている情報を必要とするのか。それ夢を見ているような気がした。 ならこちらで解読したものをあなたに提示しよう》 「どこから来た ? 」 エドは首をふった。 なぜかア・ス・クはそれにはこたえようとしなかった。 「それがほんものであるという保障はどうつける ? それにおさめ 《提案がある。地球人よ。その電子頭脳とともにわれわれの宇宙船 られていた情報の数はまだ誰も知らないのだ。これで全部だ、と言に乗りうつってはどうか ? 電子頭脳の情報はわれわれにも使わせ われれば信用するしかないものな」 てもらう。そしてあなたの目的のためにわれわれの宇宙船を使う。 エドは目にも止らぬ早さでレーザー・ガンをぬくと、足もとの電どうかな ? 》 子頭脳に銃口を押し当てた。 その声には真実のひびきがあった。エドは首をすくめ、レーザー 「こたえろ ! おまえたちはなにものだ ? 」 ・ガンを引いた。 「行こう。それがおのぞみならば」 エドは優位をとりもどしてさけんだ。この電子頭脳に収録されて いるある情報が、それほどかれらにとって致命的なものであるなら《提案を受け入れてくれて感謝する》 「おまえたちの宇宙船はどこにあるのだ ? そしてこれからどこへ ば、かれらは決して攻撃を加えてはこないだろう。 行くのか ? 」 《わかった。電子頭脳は要求しない。だがその内部に収められてい る情報は極めて必要だし、重要なのだ。なんとか協力してほしい》 《それではさっそく出かけよう。われわれに残された時間はあとそ エドは電子頭脳にレーザー・ガンをつきつけたまま一歩、二歩とれほど多くはない》 後退した。 ア・ス・クの声が翳った。一瞬、エドの中に全く別な世界が開い 「おまえたちはなにものだ、と聞いているのだ」 《われわれはア・ス・クだ》 思いもかけないこたえがもどってきた。 「 - ・・ ? それは天体の名前か ? 聞いたことがない が」 エドは自分が中空をただよう透明な球体の内部にいるのを知っ 7 た。手をのばすことも、体を曲げることも自由にできたが、球体の こ 0
議そうな顔で、ちらりと一瞥するのだった。それからツーは彼らに 書物を示し、「もっと近づいて」と言った。 ツーは、立ち上ると言った。「私は出てゆく」 始めのうちは、彼の言うことはさつばり理解されなかった。彼ら「われわれを裏切るために ? 」 「いや、あなたがたを助けるために。それから借りを返すため」彼 は、読むことも何もかもきれいさつばり忘れはててしまっていた。 ッ 1 は根気よくやった。隠れていた女と子供が出て来た。人間たちは出入口の岩を横にどけながら言った。「私が出て行ったら岩をも は、彼が″本〃と呼んでいる奇妙な記号の内にひそんでいる重要なとにもどして、外にでても絶対に安全だというまでは洞窟内にいな 思想を少しずつつかんでいった。 「だが、ちょっと待ってくれーーー・」チスウエルが止めた。 チスウエルはそれを理解するために、大変な骨おりを必要とした が、子供たちは思想をまっ先きに身につけてしまった。九歳になる「さようなら」ツーは答えて、丘を降りていった。 ロポットたちの捜索隊は、彼を見つけて連行していった。 子供は瞳を輝かして聞いていた。朝をあけ染める太陽の光が、空に さしてくるまでには、彼らの内十二人ほどが思想を身につけてい た。確かに、彼らはまだ文盲ではあったが、この奇妙で不思議であ技師長は彼の実験室の中で待っていた。 ると同時に重要な思想を理解したのだった。 「ほほう、ロポット・ツ 1 だな」彼は喧嘩腰だった。 ツーは人間たちが、この本の問題を解決するまでは、あきらめる「私は人間だ」ッ 1 は答えた。 ことは決してないだろうと思った。特にあの九歳の少年はそうだろ まるで、今ここで、昔の呪いが消え、昔の借りが返されるかのよ う。そしてまたチスウエルも。 うに、彼の話しぶりや胸を張って立っその姿は誇りに満ちていた。 ツーの仕事は、人間たちの何人かが、書物の意味とその重要性を「私は人間た」彼はくり返した。「いつの日にか、お前は私の息子 大分思い出したという奇妙な事実からぐんと容易になって来た。 たちに、ここで私に対してしたことを白状するはめになるだろう」 彼らが新しいことを学ぶ、学び方は、無知な人のそれではなく、 そういったところで、酸の水槽の中に浸され、ツーの個性の消去 遠い昔に知っていたことを思い出すというふうだった。 されてしまう今となってはどうなる甲斐もないが : 出人口を守る見張りが叫んだ。「ロポットたちが捜索している」 彼の心の中に最後に浮んだのは、洞窟に住む人間が再び頭角を表 洞窟内は、とたんに水を打ったように静かになってしまった。アわし、かっての知識を心とし、願わくば復讐を求めず、輝かしい太 ルゴは、ツーにじっと目を据え、彼らの間には緊迫した空気が流れ陽の下で暮らす未来の日々のことだった。 彼の息子たちが再び太陽の下にで、彼らの頭を山よりも高く、地 「やつばりお前が裏切り者だったなーー」 球上を巨人のように闊歩する日がくるなら、その日は彼の死を償う 7 「黙れ ! 」チスウエルは言った。「これはどういうことなんだ、ツ だけの価値がある、偉大な日となるだろう。
青味をおびた銀色の球体は、見つめることができないほどまぶし物質が自然に造り出している》 くかがやいていたが、その光はま 0 たく周囲の闇を照すことはなか真空と極寒に耐えるのに、この被膜を形造 0 ている分子の間でど 8 のような化学変化が進んでいるのか、エドの着ている重くて厚い宇 宙服からは想像もっかなかった。 「おれをこんなものでつつんだのはおまえだな」 うでをつつんでいる薄膜をつかむと力いつばい引張った。いくら でも伸びてくる薄膜を指から離すと、それはたちまち縮んで宇宙服太陽系各地からこの『アイララ』へ集ってきたおびただしい船団 は十万隻にも達していた。『アイララ』へ還る人々を運び終った船 の表面とひとつになった。 / ズル 団は、そのままたがいにつなぎ合わされ、先端部と噴射管を断ち落 銀色の球体はオレンジ色のコロナを放った。 ス・ヘース・スーツ されて長大な円筒になり、アイララの外殻を縦横に這っていた。 《それは宇宙服と思ってもらおう》 スペース・スーツ 「宇宙船をつなぎ合わせて人工惑星を造るというのは目新しい技術 「宇宙服だって ? おれは自分のものをちゃんと着ているぜ」 ではないが、なぜアイララではこれが必要だったのだ ? 」 《それだけではだめだ。われわれといっしょに行動するためには、 銀色の球体はエドの前方、数メートルのところにあった。 これが必要なのだ。安心して使っているがいい》 = ドは何か言 0 てやろうと思ったが適当な言葉もなかった。それ《それはわからない。われわれもはじめてここへ来たのだ》 「おまえはたしか『ア・ス・ク』とか言ったな」 に怒りすでに消えていた。 《ア・ス・ク、だ》 「ここはどこだ ? ・」 「なぜ、『アイララ』をしらべようとするのだ ? 」 《アイララ》 『ア・ス・ク』はエドの問いの意味がわからなかったのか、それと 「アイララ ? 」 もこたえるのを避けたのか、いつまでたってもこたえはもどってこ 《そうだ。アイララだ》 エドは反射的に背中にはね上けているはずのヘルメットを引きおなカった ろそうとした。それは無かった。ヘルメットがないだけでなく、酸目の前に閃光がきらめき、エドはふたたびかがやく球体の内部に 閉じこめられていた。 素発生装置も、飲料水チュー・フも身につけていなかった。 「アイ , ララには酸素があるのか ! 」 エドが言葉を発するより先に『ア・ス・ク』の思考がったわって エドは内むほっとした。 きた。 《それはわれわれの宇宙船だ。自由に使ってもらう。空間を移動す 《アイララには大気がない》 る必要が生じたとき、発現する》 「なんだって ! 」 スペース・スーツ ただ思考するだけで形造られるもののようであった。 《あなたはすでに宇宙服を着ているし、酸素は被膜を形成している
今度は大グループだった。十二人の観光客、それにメタクサスと ・ほくだ。彼の旅行は、必ず定員を二、三人超過する。抜群に優秀な クーリアなので、それだけ需要が多いのだ。・ほくはアシスタントと して彼に従い、次回からはじまる単独任務にそなえて、あらゆる経 験を記憶に刻みこんだ。 ・ほくらが率いる十二人のうち、三人はビチビチした、かわいい未 婚の娘だった。三人ともプリンストンの学生で、勉強の足しにと、 両親からこのビザンテイウム旅行を贈物としてもらったらしい。そ して、いつものとおり中年の金持夫婦が二組。一組はインディアナ ポリス、もう一組はミラノから来ていた。ほかに、べイルートから 来た、まだ若そうなインテリア・デザイナーの二人連れ。どちらも レスポンス・マニ・ヒュレイター 男性で、明らかにホモとわかる。反応操作技師がひとり。ニュー ョ 1 クから来た、まだ離婚したばかりだという、四十代半ばぐらい ミルウォーキーから来た、ぼってり のこの男は、女に飢えていた。 した顔の小柄なハイスクール教師とその細君。自分の精神を一新さ 。しつも せると同時に、細君も一新させたいらしい。簡単にいえま、、 のとおりのメン・、 第一回の説明が終るころには、プリンストンの女子学生三人組 と、インテリア・デザイナーのカップル、それにインディアナポリ スの金持夫人、以上六人はメタクサスといっしょに寝たいという欲 望をむきたしにおもてに出していた。・ほくには、誰も見向きもしょ うとはしなかった。 古くて新らしいピラミッドの神秘 古代人の選んだ世界の七不思議の るような大きなものもある。 うち現存する唯一のものであるエジ しかもそれらが、何ら機械らしい プトの大ビラミッドは、いったいな仕掛けも何も使わずに主として人間 んの目的でどんな方法で建造された の力だけでつみ上げられたのであ ものだろうか ? る。この時代のエジプト人は、車輪 や滑車や馬にひかせるということな 西歴紀元前一一七〇〇年頃ーー今か ど知らずもつばらテコとコロの原理 ら五千年近くも昔に建てられながら も、その尨大さと精巧さとはまったを応用してつくり上げたと考えられ ている。 く驚くべきである。 ある専門家の計算によると、この しかもさらに驚くべきことは、そ 大ビラミッドを構成している石材を の精巧さである。ビラミッドの科学 縦・横・高さそれそれ一フィート 的調査を初めて行ったと言われる考 ( 約三〇センチ ) の大きさのプロッ古学者フリンダース・ベトリー卿に クに切って横に並べると、地球の円 よると、その四つの面は一度の十一 周の一番長い所で、その三分の二の分の一以下の誤差で正確に真東・真 長さに及ぶという。 西・真南・真北に面している。 また、ナポレオンは、エジプト遠 また四つの角の角度は、その底辺 征のさい大。ヒラミッドを点検し、そ の長さが七五〇フィート以上もある の頂上までのぼってみた上で、将軍にもかかわらず完全に直角で、その たちを集めてこう宣言したそうだ。 誤差は、これまた最大で一度の二〇 このビラミッドは、自分の計算分の一程度のものでしかない。 によるとフランスのまわりに高さ一 したがってその建造には非常に尨 〇フィート厚さ一フィートの壁をつ大な人力を必要としたことは当然 くるのに充分なだけの石からできて で、現在わかっているところでは、 いる、と。この推測は遠征に加わっ毎年ナイル河が増水して農耕に適さ たフランス人の卓抜な数学者によっ なくなる三カ月間の余剰人力をすべ ても確認されたという。 て活用して、東岸の石を切り出しは 何しろこの古代の遺物は、一個平しけで運んで西岸にひつばりあげ、 均二トン半もある大きな石を二五〇下から一定のプランにしたがい積み 万個も積み上げてつくられたもの上げていったとして、約一一〇年はか で、石によっては一個十四トンもあ かったろうという。 幻 2
t. - 、を一ユ二 おがげで、私はゆっくり趣味の知った。諸君の生活は全く退廃していゑ諸 なたの汗の結。は、この農場の主に囀 ( ( こ 0 = 、、園芸を楽 イ・いるのです」 君は労働を忘れている。諸君は新しい理想へ 「私はこの農場主です」男いった。 そういっ び趣味の園芸の草刈りに興の意欲を失っているのだ。諸君はこうした人 「ぞれは失礼しました。し力し、あなたは労じた。一 間的な欲求のために立ち上がらねばならな 働から解放されなければならない」 ゲ六ラ氏 この をざか気落ちして、工場を訪い。そのために、革命が必要なのだ ! 0 いえ、労働からは充分解放されていま「た。 な遊戯、重役タイプ国での人民の敵は資本家や政治家ではない。 男た : 発屮シグ 4 ムを楽し諸君を退廃させたのはコン。ヒ = ーターだ。諸 まは物い君の労働をうばい、明日への夢を盗み取 0 た 農夫はそうし 0 て、オート , ーシ ' の育んでた一、《ラ氏まの光 ューターこそ、諸君の敵である。二十 廻った 「鬼畜資 きさまらがこうして遊世紀後半に職 んでいる間に、労働者たちは血と汗を流して対する合理化野争とい、プ 0 があった。当時 働いているのだぞ ! 」 は労働運動の矛盾として大いに 判されたも 「いや、私たちがこの工場の労働者です」のだが、今こそその正しさが れた。諸 男はそういって、片隅にある小さな装置を君はいま、豪華な食事と、娯一 、住み心地 示した。 ターに飼 のよい住宅を与えられてコンビュ 「オートメーション機械を見守っているのはい慣らされているだけなのだ。諸 我々です。我々には時たまこの自動修理装置性を取り戻そうではないか ! 労働を ! のボタンを押す労働が必要なのです」 想を勝ち取ろうではないか ! 」 ゲパラ氏はすっかり考えこんでしまった。 完全な効果を発揮するモア国の情報網は、 いこぐ この国での革命 ; 、かに難かしいものであるこのゲバラ氏の演説を充分国民に納得させ かを知 0 たの = 」ドすを日三晩よ睡た。革命を盛り上げるための様々なプ。グラ 眠とたっふ ムもコン。ヒューターによって創られ「。デモ、 ご、ちそうをへ . 一つの結物得たそして演説を行、」ので地下新聞、市街戦へと革命は発展した ある。 戦といっても相手は人間に危害を加えるご一 廻ったのできな ット警官だから市民の死傷者 やがて中央情報センタ 命が必要であるかをは一人 いド
新しい雑誌『季刊 Z3 ー』が誕生《 Speculative Fiction 》の一例として紹介ソン」を、後書で したら、読者はどう反応されるだろうか ? は「母子像」「コ に「 ~ した。巻頭で山野浩一がこう宣言してい 司 「が《 Science Fiction 》から《 Spe- これは主として『文芸』に発表された九つのレラ」を採る。前 culative Fiction 》に名を変えたのは最近で連作短篇 ( 第一作は六年前にこの欄で取上げ書 204 ページの ョ 4 ある。名を変えたとはいっても、決してた ) に駒井哲郎の銅版画十一葉を添えてまと一節ーー「これは 4 一《 science 三 ction 》が消減したのではなく、められた豪華本である。「自分の嶇を実験材どたばただ、と、 ク石 むしろ現在でも《 Speculative Fiction 》が料として、眠りについてできるだけ《覚めたおれは思った。こ 少数派で、《 Science Fiction 》を大部分の意識》で観察し、そしてまた、その眠りにさの空虚などたばた 本 人々がと信じていることは否めない事実ながら宇宙と生の必然のごとく随伴するとこの行きつく果てに 当 日 である」「長い歴史の間に、人々はいつも自ろの《自己の闇のなかの光》、つまり、夢に何が待っているの 分の中に現実以外のもう一つの世界を持ち続ついてできるだけ《覚めたかたちの考究》をか。いや、いや、 けていた。そのもう一つの世界を現出させる試み」 ( 暗黒の夢 ) た″実験記録″であり、そう考えてはいけ ことができるのが小説や、音楽や、或いは狂「時間と空間と思考の幅のすべてを、一匹のない。その考えかたはもっとも安易な理想主 気の行為であった。そして、の拡大世界尺取虫のもっ二つの支点と彎曲をもって算出義だ : : : 」 ◇ は、最も自由にそうした世界を展開できるのしつく」 ( 宇宙の鏡 ) そうとした興味深い リ・ハイバル作品では、中央公論社版『日本 である。もう一つの世界、人々の外にある現″内宇宙への旅″である。「おまえが世界を お実ではなく、騒音によ 0 て破壊されていない見たいなら、目をお閉じ、 0 ズモンドよ」との文学』内田百閒、牧野信一、稲垣足穂篇 人々の内にある世界、それこそ本当に″世いうジロドウの言葉 ( シ、ザンヌと太平洋 ) ( 450 円 ) をおすすめしたい。とくに百閒 吻界と呼ぶべきものである。その″世界″をを・ほくは思い出す。「 ( 存在という ) この領域の「忤」「東京日記」、足穂の「弥勒」「山 、アトム化から、或いは管理から救出するための模索は甚だ困難であるけれども、ひとたびン本五郎左衛門只今退散仕る」がファン に、ーーーが必要なのである」のめりこめば、そこは汲めども尽きぬ興味の向きである。 この宣言に戸迷うファンは多いことだ驚くべき深さをもっている広大な世界であっ種村季弘『吸血鬼幻想』 ( 薔薇十字社・ 2 ろう。しかしだからこそ、こうした主張を実て : : : この二十世紀の主課題がまさに私達の 300 円 ) は、異端道の探究者として名高 践する雑誌が必要なのだともいえる。「現在主課題となることを私は望みたい」と作者はい著者が蘊蓄を傾けたッセイ集で、巻末に は吸血鬼画廊が添えられており、大人の絵本 の読者の中核をなしているであろう、保あとがきで述べている。 として楽しい ◇ 守的なスペ 1 ス・オペラ・ファンたちは、こ のメディアムに生命をふきこむ力にはならな筒井康隆の近作短篇集が二冊。『馬は上曜科学読みものでは、石井象二郎『昆虫学へ い」と・・・ハラードは同誌に収録されてに蒼ざめる』 ( 早川書房・ 480 円 ) と『母の招待』 ( 岩波新書・ 150 円 ) 、岡惺治『危 いる『内宇宙への道はどれか ? 』で言いきっ子像』 ( 講談社・ 540 円 ) , ーー例によってない医学常識』 ( ベストセラーズ・ 35 0 円 ) 、ルネ・デュポス『人間であるために』 ている。世界を動脈硬化から救うべき自現代風俗を相手にゴ ーゴーを踊って寝て : ・ ( 紀伊国屋書店・ 650 円 ) などが面白かっ 身が、硬直し規格化しつつある現状に注目しというスラブスティック・コメディ群だが、 よう。『』誌創刊号は、残念ながそのド各ハタによる笑いの共振を通して現代た。 らその姿勢にふさわしい作品を満載しているの病巣が剥離していくような効果が生まれて現代漫画『手塚治虫集』 ( 筑摩書房・ 60 第 1 をとはいいがたいが、その誕生自体に大きな効いる。天性の資質というべきだろう。どちら 0 円 ) は、現在では入手のむずかしい初期の 用が認められるのである。 の作品集にもニューウェーヴへの志向がうか代表作「メトロポリス」と「ファウスト」を たとえば埴谷雄高の『闇のなかの黒い馬』がわれるのが頼もしい。前書では「国境線は軸に編まれている点で興味深い ( 河出書房新社・ 12 0 0 円 ) を、いわゆる遠かった」「穴」「ビタミン」「フル・ネル S F でてくたあ
ろう。しかし彼らの脱走は人類を全減へと導いた。彼らに、とこし孫であろう。明らかに人間は、幾世代にもわたって困難な道を歩か えに、とこしえに呪いあれ ! 」 されて来た。人類が、かってたどった進歩の道を逆に歩んで再び文 ここで筆記は終わっていた。ツーは静かに立っていた。ここには明とかけ離れた存在になりはて、自らの歴史とおい立ちを忘れはて ロポットの起源の物語と、そしてそのいまわしい裏切りの物語があた一族は放浪の旅に出、人類は離ればなれになってしまったのだろ とにかく、人類への忠誠という基本原則はその昔、この事件の原出入口の辺に住む人間たちは、このトンネルの存在さえ気づいて 、なかった。人間たちは幾世代にもわたって無為に時を過ごして来 因となった一個のロポットによって犯されてしまったのだ。 たが、その間に地上は変貌をとげていた。 ツーの心のなかに、今までけっして感じたことのなかった恥とい 荒れはてて廃墟と化した大地は生れ変わり、森の木々は再び高く う感情が生じた。 彼の種族は不忠を働いた。彼らが絶対的に必要とされているその生い茂り、牧場は緑なし、そこここの小川には新鮮で澄みきった水 が流れていた。 ときに、自分たちの創造者を見捨てたのだ。 とわ 確かに、金属は永久に枯渇してしまったが、大地は新しい生命を その後何が起ったのか彼は知らなかった。 はぐくむべく用意を整えていたのだった。 おそらく裏切ったロポットは、彼ら自身の裏切り行為に関するす もし、 ツーは考えた。「彼らは。フラスチックを利用すればいい。 べての記憶をおおい隠し、鉱物を捜し出し、老朽化したロポットに 取って代わる新しいロポットを作り出し、それらには裏切り行為の出来るものならーーー」彼のはらはそのとき決まった。 記憶を加えなかったにちがいない。 ツーが洞窟にもどったとき、すでに夜半をすぎていた。彼は眠っ 彼らはけっして、その非道を自ら進んで認めるようなまねはしなている人たちを起こしてまわった。 いだろう。 「おいでなさい ! 」彼は呼びかけた。「ここに来てあなたがたの歴 もし技師長にこの本のことが洩れたら、おそらくこんな罵声が飛史を学びなさい」 んでくるだろう。 彼らは初め、襲われたと思い込み、あわてて身がまえ、女、子供 は、それを援護しようと走り回った。 「でたらめだ、嘘た、真赤な嘘だ ! 彼を隔離せよ」 ツーは考えた。「しかし人間は今も存在している。私は彼らを見しかし、エド・チスウエルは人々を必死に制して、馬鹿なまねを ている。この書物は誤りだ」だが、彼にはこの本が誤まっていないするのはよせともう一度呼びかけた。 と分っていた。 「彼の言うことを聞くのだ」彼は命令し、彼らはそれに従った。ッ いまだに生存しているここの人間たち、この洞窟で生活したグル 1 は最初に自分の発見したことを述べた。すると、人間たちは、彼 1 プの子孫か、さもなくば疫病の中で生き残った他のグループの子の帰って来た方向を、畏敬の念のこもった奇妙な目くばせと、不思
安定しており、まずは一安心と思ったのだが・ で、気密プラスチ , クでできていゑ顔の部分は - 透明となっており、背中のパイプから清浄空気 この波長も一億分の一あたりになると、精度がが、からだ全体に行きわたるようになっている。 いささかあいまい。それ以上の精度が必要な測定コンプレッサーから送られてくるこの清浄空気 には使うことができないのだ。まあかってはそんは、大気圧よりも高いので、たとえ服の一部が破 なに精密な測定もなかったのだが、いまでは工場れても、有害な外気が服の中に侵入してくること ですら一千万分の一の精度の工作を行なっておはない。つまりどのように危険なガスの中にで も、これさえ着ていれば、平気で入って行くこと 、ニり、クリプトン原子に委しておれなくなった。 【一町 =. 一 02 そこで各国はこれにかわる方法を研究、その結ができる。 果新しい基準としてメタン原子を使う方法に目を簡単だが実用性の高いこの風船服、地球だけで つけた。あるメタン原子の波長に相当する波長のなく金星とか木星といった他の惑星での活動服と ・ : 0 ~ 、 , 光を出すレ 1 ザーを基準とし、それによ「て一メしても利用できそう。いささかパイ。フがじゃまだ ートルを決めようというもので、これだと精度はが、背中に重い空気タンクや循環装置を背負うよ 一〇のマイナス一三乗、つまり一〇兆分の一。現りましだろう。 在の基準より一〇万倍も高い 惑星生活にも使える ? 風船服 各国の学者はこの九月、パリに集まっ てメートル法国際諮問委員会を開き、一 メートルの長さを、クリプトン基準から メタン基準を変えることを検討する。も し採用ということになれば、一 0 年ぶり に新しい一メートルの概念が変わるわけ ・問われる長さの基準 地球人の活動範囲が宇宙まで広がり、距離の精といっても、あなたの生活にどうとい 密測定がますます重要となっているが、それととう影響はないでしようが、ミクロ物理の もに長さの基準ともいえる一メ 1 トルの精度が問世界にとっては大変革。さてどうなりま すかな。 題になってきた。 極めて徴少な誤差も、積み重なれば大きなもの となる。一方、宇宙開発は極めて精密な技術を必■明日のファッション ? 風船服 要とするが、誤差が大きいとそれにも障害を及・ほ すというわけだ。 大気を汚染する有害ガス、まき散らさ 長さの基準は一メートルという単位。昔は一メれる強力な農薬 : : : 地球はますます住み にくいところとなっているが、やがては ートル原器の長さを一メートルとしたものだが、 もちろんこのようなあいまいな基準は使われてい生きのびるために写真のような風船服 が、もっともポ。ヒュラーなファッション 。をーい 一九六〇年、各国は国際規約を制定し、クリプとなるかも知れない。 トン原子の出す波長の一六五万七六三・七三倍この風船服は、英王立植物園が有害農 を一メートルと決めた。この原子の波長は極めて薬のテストをするために考案したもの あ兀な → 6
験が世界ではじめて成功して、注目をあ う問題と本格的に取りくまなくてはいけなくなっ 士 つめたこともあった。だが、こんどのよ た」と語っている。 ン うに、 XZ< から、 XZ<< 依存性複製酵 しかし、綜合的には、このニュースは、かなり肯 素の働きで Z がつくられたのは、も ・つ心 4 , 定的に受けとられているようだ。東北大学生物学の ちろん世界ではじめてのことで、もしこ れがさらに裏づけされ確定的に認められ 偂らの研究は、今年の生物学界の最大の話題となろ う。日本では、人間の癌もふくめてすべての癌が ることになれば、現在の生物学ーー遺伝 士 愽 Z< 型の O 粒子によって起るというヒュー。フナー博 学、発生学などのすべてに大きな影響を 士らの仮説に類した仕事が今年あたりから行なわれ 与える革命的な発見となるわけである。 水ようとしている矢先に、より根本的なこんどの発表 さらにもう一つ重要なのは、癌との関 で、ますますアメリカに引きはなされた感じで、研 係だ。人間の癌は、従来は ZZ< の遺伝 後究の仕方がいっそう複雑化するので困惑すら感じて 情報のメカニズムに何らかの理由で狂い が生じて発生するものと、一部の動物に いる」とのべているし、話題の中心人物の一人シュ 。ヒーゲルマン博士も、「われわれは、自然が一元的であると考えがちだ。だ あるウイルス性の癌と同じように、ウイルスによって発生するものと二つあ から私は、現在のところテミン博士の仮説に、ほかの人たちと同じくらいは るらしい、というのが最近の定説になりつつあった。たとえば、有名なバー キット・リンパ腫や鼻の癌などをおこすヘルベス・ウイルスは ZZ< 型であ懷疑的である。しかし 2Z< と XZ< の問題には従来のわれわれの知識では どうしても説明しきれない数多くの特性があり、彼がそのいくらかを解明し り、白血病をおこす犯人と見られているのは XZ< 型の型粒子であった。 たということだけは疑えない。 それが、もし XZ< からができるということになれば、最初型 おそらく、この問題については、今年中にもさまざまな追試や、その結果 ウイルスとして人体細胞に侵入したものが、癌をおこす 2Z<< をつくるとい による仮設の補修が行なわれて、分子生物学に、新らしい転機の一つをつく うケースも当然考えられてくるーー・人間の癌発生の謎への、新らしい、しか るだろう。それにつけても、公理や定理がーーーそれが常識であり、疑いを容 もかなり有望なアプローチとなる可能性を、この仮説は持っていることにな るのだ。もちろん、これにはまだこれから確証を得なければならないこともれることのできないものであればあるほどーーそこに切りこんでいくような 研究をすることは難かしい。そうした研究を、あえて行なったテミン教授 あり、わが国の癌研究の権威である慶応大学分子生物学の渡辺格教授は、 「 XZ<t からができたことを本当にいいきるには、たとえば雌型と雄と、水谷博士には敬意を表したい 同時に、こうしたおどろくべき学問的 型がびったりあうという〈鋳型特異性〉を証明するなどの酵素科学的裏づけ転回が、比較的容易に可能になったことについては、現代がすでに、科学的 が必要だが、生物学の根本問題にふれるたけに影響は大きい。細胞の核にあ実証性がすべてに優先する未来的ムードの中に入っているのだということを 痛感させられる。 る遺伝物質のほかに、細胞質にあるいわゆる核外遺伝情報との相互関係とい 第 sqx 固 0 00R A い 5
何をして、そうなったのか、またいつどこでそうなったのか、ツ出たり、濳行性の菌のために重要な部品が腐蝕したりすると、技師 ーにはよく分らなかった。まるで、雪や霧や、南風のように、それ長の裁量によって、病めるロポットは解体され、そのロポットと同 3 は感覚ではしかととらえがたく、 いつの間にかやって来たものだ ? ・じ番号、同じ地位の者が組み立てられる。技師長はツーをひと眼み た。悟り、というものは、みなそのようなものだ。長いながい て、どこが悪いかをたちどころに知った。ツーは妄想的になってい 空白であった心に、気がついて見ると、いつのまにか新しい概念、る。電子記憶回路がごくわずか変化し、彼の頭脳に悪影響を与え、 新しい思想がある。それがどのようにして、また正確に言っていっ彼は変ってしまったのだろう。ロポットが妄想的になることは、ま 生ずるものなのかは、誰にも分らない。 ったく珍しい。その脳髄は頑固に初めに決められたパターンを守っ ツーの場合も同じことだった。まるで場違いで調子つばずれな感て働くように組み立てられていた。しかし、時としてはこのように 情をともなう新しい概念、新しい思想が生まれた。彼はロポット都調子が悪くなることもある。恐らくこの奇怪な妄想は知らないうち になおってしまうだろう。だが、もし直らなければ : 市の境界線を見つめていた。 「自分の姿をとくとながめてみたまえ、そうすればたちどころにお そび はるかに聳え立っ山塊の裾野に、こちんまりと広がる石造りのこ前が何者か分かるだろう」と技師長は言った。ツーは素直に自分自 ふるさと の都市で、彼は生まれ、そして日々の生活を営んできた。彼は故郷身を見つめた。技師長の実験室の石だたみのフロアーに降りたとぎ であるこの地以外で生活することなど、考えたことすらなかった。彼は、その気になりさえすれば、歩くことも走ることも、ダンス だが、今はちがう。ここでの生活は異郷でのそれであり、この地はさえも出来るよう精巧に組み立てられ接合された、水にも濃酸にも 本当の故郷ではないという、強烈で力強い新しい考えが芽ぶきはじ侵されぬ、ゴムに似たタフなプラスチックでおおわれた健康な足を よそ めたから。彼はどこか他所の一員だったのだ。彼はこの誤れる思想見ていた。彼が足を持ったのは、足は翼で飛べず、車輪も走らぬ場 所でも体を運ぶことができるからだ。関節のある指のついた腕を持 に強く囚われたままただちに技師長のところへとおもむいた。 ツーは説明した。 ったのは道具を持っためだ。二つの目と、二つの耳を持ったのは、 「私はロポットではない。私は人間だ」これが彼の新思想であり、望むときに見、そして聞くことができるから。しかし鼻とロは無 。酸素を吸収することも、食事をとることも必要なかったから。 新概念であった。技師長は溜息をついた。彼の呼名となっている番 号はエイトだ。彼は全ロポットの動力系統を管理している。ここに小型にもかかわらず非常に強力で長期間にわたって使用可能のパ ッテリーが、彼のエネルギーを供給してくれる。また、彼は遠方か は七十九名の多目的ロポットがいた。ずっと以前からそれたけだっ らでも連絡出来る小型高周波発振器を身につけていた。その頭脳に たし、これからも変ることはないであろう。なぜだか知る者はなか ったが、それが彼らの内の決まりだった。 は、彼のすべての動作を指令する脳髄がある。 ロポットは修理不能なほどの損傷を受けたり、電子頭脳にさびが「私は人間と似ている」ツーはながめたあとで言った。ツーは、一