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検索対象: SFマガジン 1970年11月号
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1. SFマガジン 1970年11月号

に、彼らのお気にいりもまた反乱であり、暴動であり、騒擾、攻のに気づくはずはないし、気づいたとしても、その機能がわかるは 略、殺戮、侵略、焼打ちであったからだ。 ずはないからだ。彼のがにまたの短期妻は、よたよたと歩きまわっ 「トルコの殴りこみは、いつ見せてくれるんだ ? 」それが、オハイては、目にはいるものすべてに感嘆のうめき声をもらしていた。オ ハイオ州の一行は、思ったとおり退屈していた。これはしかたがな オ州の不動産業者の口癖だった。「トルコの蕃族どもが町をぶつこ い。だいたい教養というものを持ちあわせていない連中なのだ。 わすところを、わしは見たいんだ ! 」 「もうすぐですよ」と、・ほくはいっこ。 「トルコ人はいつ見せてくれる ! 」オハイオ州人たちは、待ちきれ ない様子でそればかりきくのだった。 はじめ、ぼくは、歴史に最後の光芒を放っパラエオログス朝のビ 一三四七年から八年にかけての黒死病の時代は、要領よくとばし ザンテイウムを域間見せた。「帝国領の大部分は失われました」一 二七五年に立ち寄ったところで、ぼくま、つこ。 をしナ「ビザンティンのた。「行けないのです」抗議の声があがると、・ほくは答えた。「そ 考えかたや建築は、今ではすっかりなくなっています。親密さ、そういう時代を見物したかったら、まず特別疫病旅行の許可をとらな モンゴル れがこの時代の合言葉です。これが、蒙古人の聖マリアのために建ければ」 てられた小教会です。彼女はミカエル八世の妾腹の娘で、短い期オハイオ氏の女婿がぶつぶっといった。「予防注射はみんな受け モン・コル 間、蒙古の汗の妻となりました。ごらんなさい、この美しさ、単純ているのにな」 さ」 「しかし、現在にいる五十億の人びとは無防備ですよ。帰ったと ・ほくらはコーラの聖救世主教会を見物するため、一三三〇年へとき、体のどこかに菌がこびりついていて、疫病が世界中にひろがっ 下った。観光客たちはすでに現在のイスタイフールで、カリエ・カてしまうかもしれない。そのときには、惨事を未然に防ぐため、歴 ミノイというトルコ名で残るこの教会を見ている。だが今ここで見史の流れのなかから、あなたの時間旅行を切りとらねばならなくな るのは、モスク化される前の状態にあるそれなのだ。目を奪うモザります。そんなことはしてもらいたくないでしよう ? イク画も、できたばかりの完全なものだ。「あちらをごらんなさ 混惑。 い。蒙古人と結婚したマリアです。彼女の姿は、時間線を下った世「そりや、できれば、連れていってあげますよ。しかし、それがで 界でも見ることができます。けれども、こちらーーキリストの若ききないんですよ。法律で決っているんです。特別の監督者がっかな 日と奇蹟を描いた部分ーーそれは今日残っていません。しかし、こ いかぎり、誰も疫病の時代にはいることはできません。わたしはそ こではその比類ない美しさをたっぷり鑑賞することができます」 のライセンスを持っていないんです」 シチリア人の精神分析医は、教会をあますところなくホログラフ ぼくは彼らを一三八五年へ連れて行き、衰退したコンスタンティ 写真にとった。時間局が許可している数少ない所持品のひとつが、 ノー。フルを見せた。城壁の内部の人々は激減し、市街には人気はな 9 彼の持っている掌中力メラだった。″上″のほうの人間がそんなもく、教会は半ば廃墟と化していた。トルコ人たちは、都市周辺の土 じよう

2. SFマガジン 1970年11月号

ら、不幸なときにはどんな表情をするのかしら ? 稀ではあるが、 「きみの言うとおりさ」 よく言って鈍感な、文句はありませんといった顔もあるにはあっ た。不満、むつつりと肉体的な苦痛のしるし、ひとり・ほっちでいる「わたしたちいつも楽しいことがあるわ。お金がなくて、仕事を何 とか手に入れようとしていたときだって楽しかったわ。わたした 不幸、不満、愚かな下賤さ、そういった顔はたくさん見かけたが、 幸せそうな顔はほとんどなかった。いつも快活に陽気にしているのち、笑いながら寝たし、目が覚めたときも幸福だった。いまでもそ うね。どうしてなのかしら ? 」 が主な長所のテディでさえもむつつりしていたーーーそれには理由が あるのだ、と彼女にはわかっていた。ほかの連中が不幸そうな表情かれは、あの十三階を探したときから初めて微笑を浮かべ、彼女 をつねった。 をしているのはどんな理由からだろう、と彼女は不思議に思った。 彼女は″地下鉄″と題された絵を見たことがあるのを思い出し「きみと暮らすのは楽しいからさ、シン」 た。その絵は、地下鉄のドアから群衆が出てこようとしていると「ありがと。あなたにも同じことを返すわ。あなた知ってる、わた し小さかったころ、面白い考えを持っていたの」 き、別の群衆が無理やりなだれこもうとしているところを描いてい た。入るほうも出るほうも急いでいるのははっきりしているが、そ「教えてくれよ のことに何の楽しみも得ていないのだ。その絵自体に美しさという「わたし幸せだったわ。でも大きくなるにつれて、母はそうじゃな ものは存在していなかった。その画家が目的としたところはただひ いってわかるようになったの。それに、父もそうじゃなかったわ。 とつ、生きてゆくということの重苦しい批判たったことは明らかだ先生たちもそう : : : わたしのまわりにいた大人のほとんどが幸せじ ゃなかったのよ。わたしこんなことを考えついたわ、大きくなると 二度と幸せになれないような何事かを発見するんだって。あなた、 : まだ小さい 映画が終って二人がわりにすいた街頭に出られたとき彼女はほっ子供がどんなふうに扱われるものか知ってるでしょ : とした。ランダルはタクシーに手を振り、帰途についた。 からわからないのよ、おまえ : : : それに : : : 大きくなるまで待つの 「テディ : よ、そうすればおまえもわかるようになるから : : : わたしいつも不 思議に思っていたわ。みんなどんな秘密をわたしに隠しているのか しらって。それでわたし、ドアの蔭に隠れて、それを見つけ出せな 「映画館にいたみんなの顔に気づいた ? 」 いものかと頑張ってみたものだわ」 「いや、別に。どうして ? 」 「生まれながらの探偵だったんだな ! 」 「どのひとりも、人生を楽しんでいるようには見えなかったわ」 「たぶん楽しんでいないんだろうな」 「いやねえ。でもわたしわかったわ。それが何だとしても、大人を 「でもなぜなの ? ねえ : : : わたしたち楽しんでいるわね、違って楽しくさせないもので、それで大人はみな不幸なんだって。それか

3. SFマガジン 1970年11月号

参加五カ国 ( 日米英ソ加 ) 」 4 ー司 8 月 31 日より , 9 月 3 日に至る 4 日間 , 東京 , 名古屋 , 大津において国際 S F シンポジウムが開かれました。 それに出席した世界の職業 SF 人は , 各国における事情の違いはあれ , おた がいに深い理解と共感を持っことができると信じている点において , 全員の意 見が一致するに至りました。 私たちは SF を通じて結ばれ , 私たちが一つの家族であることに気づきまし 0 私たちは人類愛にもとづく確信をもって , SF が世界平和のために , 未来と 人類のため , 大きな効果を発揮しうるようになるものと信じております。今回 のような S F シンポジウムが , ひろく世界中の S F 職業人に参加を呼びかけ , かっ参加国をふやしつつ , 各国の持ちまわりで数年ごとに開催されることをわ れわれ全員が希望し , 期待しております。 席上 , アルゼンチン , ブラジル , ブルガリア , チェコスロヴァキア , ポーラ ンド , スカンジナヴィア , その他世界各国の SF 事情の報告がなされ , それに よって今回参加できなかった国々の人びとも同じ気持であろうと思われます。 今回得た貴重な経験にもとづき , 今後とも参加者全員が , できるかぎり , の方針の実現にむかって個人的努力を惜しまないことを確認します。そしてそ のためには , 学校において SF 教育への関心が深まり , SF 専門図書館がいた るところに設けられるようになればいいと思います。 S F の向上と , 世界の S F 人の協力によって , 地球の未来と , 人類の子孫の ために貢献できると信じています。 われわれは , 以上を確認したいと思い , 今回出席した世界の職業 S F 人が新 たな希望と信頼をもって , ここに署名いたします。なお , 海外からの参加者が , 真の SF 精神が生きているこの国を訪れる機会にめぐまれ , 日本側委員の努 力と歓待と , 優れた運営に接し , 心から満足していることを附記します。 地球と人類のより良き未来のために 1970 年 9 月 3 日 日本・屁琶湖ホテルにおける最終パーティにて ( 署名 ) プライアン・オールディス ( イギリス ) 浅倉久志 ( 日本 ) ー 55

4. SFマガジン 1970年11月号

今月のスキャナーは伊藤氏のかわりにぼくがやるら、・ほくみたいな貧乏人でなまけものには、神の恵一は、ヒロイック・ファンタジーなんて名前は知らな ことになりました。うまく代役がっとまりましたらみとしか思えない。たとえば ( ンス・ボクの T 、ミかったし、ファンダムなんてものがあるということ ご喝采。 S 。、・。ミ・ 4 き『魔法使いの船』にしたって、昔のすら知らなかったのだから、びどいものだ。 さて、あなたは一角獣が何で、どんな恰好をしてアンノウンを持ってなければ読むことができなかっ一今から考えてみれば、 ( ワードと・・・ハロウ いて、どこに住んでいるか知っていますか ? たのが、セントとちょっと高いけど、手軽に手にズの焼き直しというような気もしないではないが、 これまで絵画に登場してきたような角のある白馬入るというのは、本当に有難い。このシリーズのおその頃の・ほくにはおそろしく面白か 0 た。それ以 といったものではない。長くほっそりとした首、背かげで被害をこうむるのは、野田氏のような 0 レク米、リン・カーターという名が目に付くとっとめて 中の中程までかかっているタンポポの綿毛のようなメーだけだろう。何しろ、苦労して集めた珍品の価 - 買うようにこころがけていたのだが、ヒロイック・ 純白のたてがみ、尖った耳、細い足、その足首のと値が、少なくなってしまうのだから。 ファンタジー系以外の作品には、減多におめにかか ころにも白い羽毛のような柔らかい毛が生え、そしもっとも何から何まで結構づくめというわけにはらない。アメリカのファン連中にいわせれば、リン て眼の上には真夜中でも淡い輝きを放っている長いいかない。作品のセレクト一つとってみても、もっ・カーターの作品は真面目に取り上げるものではな 角が一本。永遠の生命を持ち、美しい泉のある森にと別の方法があるんじゃないかと思われるところがいということになるのだろうが、ある意味ではそれ 住む。そして、一つの森には一匹の一角獣しか住まある。アメリカ偏重に過ぎるきらいがあるし、時代も仕方がないだろう。つまり通俗すぎるのである。 ず : ・ 的にも限られている。これはあくまでも・ほく個人のただ『レムリアの魔法使い』の場合には、彼本来の 女学生趣味だといわれるかもしれないが、これは意見でしかないが、こういうことになった理由の大ファン気質と通俗さとがうまく混ざって、なかなか 。ヒーター・ク・ビーグルの長編 The トド U ミ・・半は、アダルト・ファンタジ ー・シリーズのエディの出来になっていると思う。その証拠に、このレム 3 き『最後の一角獣』に出でくる一角獣の描写。ターをやっているリン・カーターにあるんもやないリアの Th 。洋 r 『ソンガー ( 都筑道夫氏の説に従 今月はこの小説にひっかけて、ファンタジーの話をかと思う。 えばトンゴル ) 』を主人公にしたシリーズは五冊位 したいと思う。 リン・カーターは、二、三年前のイフ誌で、しばらあるし、イギリスでも出版されている。 毎月、スキャナーを読んでこられた読者の方は御くの間ファンダムの紹介記事を書いていたので、御ソンガーの成功の結果かどうかはわからないが、 存知と思うが、米国の・ ( ランタイン・・フックスで存知の方も多いと思うが、かなり有名なファンランサ , ーで出しているコナン・シリーズでは、ヒロ は、昨年の初め頃から、アダルト・ファンタジーとだった男で、六四、五年頃から創作にも手を染めてイック・ファンタジー界の大御所、・ス。フレイグ 銘うって、これまで埋もれていたファンタジーの作いる。・ほくが初めて彼の名を知ったのは、受験生の・ディ・キャン。フといっしょに、 0 ナンの新作を書 品を毎月一、冊 ~ 一一冊のペ】スで出している。部数はで、試験の発表を見に行 0 たとき、彼のミ一いているし、同じ ( ワードのキング・カルでは、彼 少ないかもしれないが、これまでならファン・パプ、トき ~ ミ『レムリアの魔法使い』というロ・ ( 一人で ( ワードの未完の原稿を完成させたりしてい リッシャ 1 以外では出しそうになかった作品を、とート・・ハワードまがいのヒロイック・ファンタる。 にかくべー 0 0 % 0 - ・ 0 , , 0 0 0

5. SFマガジン 1970年11月号

内部に足をふみ入れると、広間があった。それにつながる二つのぎる装置だった。 小部屋の隔壁には、やはり小さな花弁状の出入口がついていた。 その夜を、は広間につづく小さな方の胞状体にもぐりこんで寝 9 は感嘆して目をみは 0 た。ドーム様の天井を通過して、タ陽が緑色た。緑色の包をおもわせる、半径二メートルにみたない半球の空間 のカーテンを通したように、柔らいで内部にさし入っていた。葉脈は、おちついた。 の構成する網状の模様は、ステンドグラスを思わせた。広間の中央広間の。フラネタリーム式天井と同様、小胞状体は、星座を写し 部分は、一段ひくくな「ていて、他の部分よりやや長めの柔毛で覆ていたが、偶然に体の一部が壁面に触れると、それは消えた。敏感 われていた。それは地球の芝とはちが 0 て、水々しくなく動物の毛にそれは機械的刺激に反応するのだ。 の感触に似ていた。 それは地球のオジキソウという植物にみられる機械的反応と同じ 広間の芯になるところには、雌しべのようなかたちをした台があらしいのだが、もし、この胞状体の持「ているような作用をする建 0 て、水呑場のようにて 0 ペんのところがくぼんでおり、タンゲ ' 築が可能なら、素晴しいことだ「た。そのとき、建築物は、人間を トの記述していた例の蜜が湧きでていた。 収容する単なる容器ではなく、誠心誠意、その内部に居住する者に 『わたしは、ひざまずいて、それを飲み、ひどく満足した。あたか奉仕する忠実な下僕となるにちがいなか 0 た。 も不老不死の霊薬のごとく、体内にしみわたるような錯覚にとらえ緑色の柔毛のしとねに躯を横たえると、胞状体は、あたかも意志 られたほどだった。そして、わたしはキリスト聖書の一節をおもい あるごとく献身ぶりを示した。星座の消えた球面壁は、それ自体、 だしていた。即ち、タイ伝第三章四節 , ー・かの荒野の予言者・ ( 。フ面照明体になりうるのだ。葉肉の内部に昼間の光 = ネルギーを蓄電 テスの「 ( ネに自分をなそらえたのである。《この = ( ネは駱駝できるシリ 0 ン電池のようなサンドイ ' チ層があり、それが、目に の毛織衣をまとい、腰皮の帯をしめ、と野蜜とを食せり》』 みえなし発光体に、エネルギーを与えるのだろうか。しかも、壁面 もタンゲ ' トになら 0 て、このカタヴォ 0 スの野蜜を試食してに軽くふれるだけで、望みの部分を必要なル , クスに達するまで、 みた。どろりとした、ちょうど粥状の流動体であり、デリケートな明るくすることができた。 味を持っていた。タンゲットは蜜にたとえているが、オートミルに 『 : : : やがて、躯をよこたえたわたしは、ふしどこの徴妙な触覚に ちかか「た。は鉢の中に口をつけて直接、それを満足いくまです身をゆだねた。わたしは、カタヴォ 0 スの夢想した有機的建築の具 すった。 現化を、それ以上に身をもって体験することができたのである』 やがて夜が本格的に訪れてきた。 と、タンゲットは徴妙な表現で、胞状体の寝室の機能をぼかしてい と、胞状体の屋根は、性能のよいスクリーンであることを証明し た。『あの、蜜の効果なのであろうか。長い 、忘れていた感覚を た。カタヴォロス星のみなれない星座の光が、 ドームを通過するとわたしによびさますような養分を、それは持っているにちがいない き、何十倍かに高められて、輝きだした。は息をのんだ。見事す 。わたしは、悩ましい幻覚をみた。翌朝、目覚めたとき、わた ワールドハライ べッドルーム

6. SFマガジン 1970年11月号

0 〈キャプテン・フューチャー〉をはじめとするもろもろの拙訳、拙となれば、これまた容易なことではない。雑誌は年代順、。へ 著のささやかな収入を頭金にして手に入れた小さなマンションへのバックはアンソロジー、クラシック作品などを抜きだしたあとの、 移転作業は遅々として進まず、もう足かけ三年を経過しているのだ作者名の O 順にならべるのだが一人でやっていた日にはいつま 、刀 はたしていつになったら完了するのやら見込みもたたないとい これは内緒だがーーアメリカ でかかるかわからない。おまけに 、いたすらに別宅と本宅とを往復している始末である。 う体たらく から運ばれてきたとき、どうやらダニとおぼしきやつがくつついて それでも先日やっとのことでパルプ雑誌とペー 1 バックの移転きたらしく、これが拙宅の風土にびったりだったのか、たちまち繁 を完了した。一人でやっと持てるくらいの段ボール箱数十個である。殖をはじめ、五分もいしっていると体中が堪え難いほどの掻痒感に さすがの私も寄る年波には勝てず、それを一人でかつぎ込もうものおそわれるのである。この原稿を書いている今も、傍らに置いてあ なら疲労のためたちまちにして頓死する危険なきにしもあらず、さる〈ビョンド〉誌から這い出てきた奴が背中から首筋をチクチクと りとてファンなどに手伝わせた日には、トラックごとどこかへ刺しはじめているほど。 なにし 消失するなどという椿事が起き得ないとは断言できない そんな訳だから、とにかく早いとこ書棚におさめ、それからおも ろやつらには″パラレル・スペースに行っちゃったんじゃないの ? むろに徹底した駆虫作業をやらねばならぬと、背に腹は変えられず などという重宝極まる台詞があるのだ。危なっかしくてしかたがな伊藤典夫に対して手伝ってくれないかと申し入れたのである。つね 。そんなわけで、まったくとは関係のなさそうな運送屋を使づね、私の本の整理の杜撰さを苦々しい表情で非難していた彼のこ って撮入したわけである。撮入はしたものの、これを棚におさめると、二つ返事でファンを二十人どひきつれてのりこんできた。 連載Ⅱ美術館 続・ビョンド誌とファンタジー エムシュウイラーのイラスト 野田昌宏

7. SFマガジン 1970年11月号

エレベーター・ポ 1 イはむっとした視線を向けた。 「その目で見られるんですね」 かれはエレベーターを動かして、とめた。 「十二階です」 そいつはゆっくりとエレベーターを上げた。 12 という数字が消 え、すぐに別の数字に変わった。 「十四階です。どうですか ? 」 ランダルはうなずいた。 「御免よ : : : 馬鹿な勘違いだった。本当に・ほくは今朝ここへ来て ね、何階か覚えていたつもりだったんだ」 エレベーター・ポーイは言った。 「十八階だったのかもしれませんよ。 8 は 3 に見えることがよくあ りますからね。どこを探してられるんです ? 」 「デサ リッジ & コンパニイ。宝石を加工している店だよ」 エレベーター・ポーイは首を振った。 「このビルにはありませんね。宝石屋なし、デサリッジなしです . 「本当かい ? 」 答えるかわりに、そいつはエレ・ヘーターを十階にもどした。 「 1001 へどうそ。このビルの管理事務所ですから」 そのとおり、デサリッジ社はなかった。宝石屋も加工屋もなかっ た。お探しの店は、アクメではなくアベックス・ビルじゃないでし ようか ? ランダルはそこの連中に礼を言い、身体が慄えてくる想 いでその部屋を出た。 そのやりとりのあいだシンシアは完全に沈黙を守っていた。その 「祈りの岩」の謎 今から六年ばかり前、米国の中北岩」 Prayer Rock と呼ばれている が、その岩の表面には、この二つの 部で一個のナゾの岩が発見された。 いや、一〇〇年近くも昔から土地の手の平の押し型以外にもまだ模様が 人には知られていたのであるが、そある。 まず左端の方に太陽の円板のよう れまで、そこに潜んでいた重大な意 なものが描かれ、そこから光線が岩 義を気づかれずにいたわけである。 その岩は、南ダコタ州の北の州境の上方を横切って右の方にのびてい る。一見鳥の足のようにも見える に近いマーシャル郡のコトー・ プレアリ丘と言われる凸凹の多い地が、その円板の左右にそれそれ一一つ 域にあるウインディ・マウンドと呼ずつ刻まれている小さな文字のよう なものは、どう読むのか未だにわか ばれる高まりの頂上に発見された、 っていない。 重さ一、八七〇ポンド ( 約八五〇キ この太陽の像は、その後の研究の ロ ) に達する灰色がかった褐色の花 崗岩の岩であるが、その平坦な表面結果、どうやら日時計の役割を果し にきざみこまれているものが、重大ているようで、その光線のうち二つ は夏至と冬至、もう二つは春分と秋 な議論のまととなったのである。 まず、岩の左右の両側に、手の平分とにおける、日没時の太陽のカゲ の方向を示しているもののようであ をひろげた形のくばみがあるが、こ れが思いがけないことに、手の平をるが、残りの三つの線の意味はまだ 岩の方へ向けて押しつけた形ではなわかっていない。 ところで、この太陽の像の左側に く、左右ともに、親指が外側につい という - こと 一つの模様が刻まれているが、それ ているのである。 は、手の平をひろげて、手の甲の方がこの岩のナゾに関する論争のもと となった。その模様は、片カナの から岩に押しつけた形になっている 「キ」という字の真中の棒の下側が のである。 では、手の平をひろげて上に向ニつにわかれた形をしているもので け、前方に差し出す動作は何を意味未解読である。だが中国の九という するのか ? それは自己のすべての字に似ているということで、そのこ とから、これは大昔この地に移住し ものを差し出す意味か、または逆に て来た中国民族によってつけられた 何かを求めるジェスチュアである。 そのためか、今日この岩は「祈りのものだろう、と言う説が現われた。 202

8. SFマガジン 1970年11月号

を向 がら近づいて れ、 ふ・こんなら午後ノ・身になるとそろそろ熱がさがりを , るの の夜は九時を過ぎ、十時を過ぎてつ 」さがるようもな「畆一は中 0 関節〈 。、「いにゆり起された。家人が っ とをこ。ム 不、 ) を・て、 0 た 覚める 左は毎日待ちつづけ - こ、さに ときびしい寒さが急 めた の音や家族たち笑い尸なが聞こ、てき し眠に落速にとか れに耳を傾けているうに、 って遠野はじめ雪が降っ - ソ ち、私はまたあの石ころだ 思 0 たがそうて。 , 0 ・た 月 」ろだらけの荒 : やく斜 るのナた に目をそそいで 白の、、 えてた , 工 あ の荒野の果に、豆米 私はは 三つ一第をの , ら両一の , の見た。人影は二、三十 どの人ダが もと に結ばれオ彫の彡り もあっ - ろうか、 形や服装のわかる距離では れ合ってかす力冫 り、かなりな早さで私の立 れらは長く一列 ようであった。その日は暮 こ向っていそい 足首までの長い被布と、細しを等み、「皮の訂ち ひも。そして腰におびた短剣が、この少女が・ いた。かれらが馬に乗っ 知らない遠い所からやってきたことを示していた。 いるのが し 少女は短い言葉で来意を告げた。それはこれまで一度 に起伏が 坦に見、る荒野も、実際に冫 たかと思も耳にしたことのない奇妙な、それでいて美しい音律を ような人の列はふいに 全く異った置にとっぜんあらわれ、また列の先持った異境の言葉だった。だが私にその語ろうとするこ との解ろうはすもなく、少女はむなしい努力をくりかえ の方から地に呑み・まれるようにいなくなっていった すばかりたった。 つぎの夜も、そのつぎの夜も少女はやって来た。やっ 夜は鋼玉の破片のうな上弦の月が荒野を照し、その てづくかがやきのになお、しだいに私に近づきつって来るたびに少女の陽に灼けたひたいややつれたほほに 焦燥の色が濃くなっていった。そのうちに言葉は解らぬ ものの気配。、いていた。 に、かれらはようやく私の立っ斜面のながら、私はどうやら少女が何かに追われているらしい こと、そしてここを通って遠い北の山なみのむこうへ逃 ついたようたった。 すそにり け落ちょうとしているらしいことが漠然と察しられた。 こ 0 いるよ 。私はぜか、 の。あことを ・ツイ・ こびノ

9. SFマガジン 1970年11月号

に作られていて、たとえば人間は、ある程度金を持ってさえいれば今度は、はっきりと見た。 いつでも行き届いたサービスを受けられるような仕掛けにもなって それまでは他の通行人同様、歩道を歩き続けていて、おれが振り 2 いるから、よくよくの事情がない限り、部屋を出なくても必需品の向くと同時に一瞬凝固し、今回はとび込む路地が傍らになかったた ほとんどは配達してもらえるのだ。だからあまり部屋を出ず、そのめあわてて車道寄りの・ハス停へとからだの向きをかえた男、みどり ためたまに部屋を出ると一瞬自分が方向音痴になったような錯覚に色の背広を着た男、おれよりほんの少し歳をくっていると思える中 捕われる。 肉中背のその男の姿を。 それでも、以前いちど前を通りかかったことのある『本質テレ さっき銀行の路地へふいとんだのがその男であることに疑問の余 ・ヒ』の局舎のあり場所はどうにか記憶していた。おれの住んでいる地はなかった。その男だけが歩行者の中で実在感をきわ立たせてい ビルからさほど遠くないところなので、おれは最初歩いて行こうと たからである。 尾けられていたのだ。 まっ昼間の大通りをしばらく歩き、繁栄銀行の前を通り過ぎたお おれはふたたび歩きはじめながら、奴さんもきっとおれを追って れが、ふと何時頃だろうと思って銀行の壁面から突き出ている電光歩きはじめているだろうと思いながら考えた。な・せおれは尾行され 時計を振り返った時、歩道上の人かげがひとつ、ふいと横にとんでているのか。おれは尾行されるような悪いことをした憶えはなく、 またおれは尾行がつくような重要人物でもない。 銀行の路地へ入ったような気がした。それは、みどり色だった。 タクシーが後部ドアを開けたままで歩道ぎわに停っていたため、 歩道上には多くの通行人がいたし、路地へ入って行く通行人たっ て珍しくはない。それなのにその時、その人かげがおれの注意を惹おれはすばやくとび乗った。 いたのはなぜだろう。思うにその人かげだけが、にせもの臭い他の「早く行ってくれ。『本質テレビ』まで、すっとばしてくれ」とお 人間たちと違い、いやになまなましい実在感を持っていたからではれは運転手に叫んだ。「尾行されているんだ」 なかっただろうか。そして、その実在感を背にひしひしと感じたか運転手はすぐ車を走らせはじめた。 らこそ、おれはその時振り返ったのではなかっただろうか。なぜな 「今日はおかしな事件がわたしの横を通り過ぎて行くだろうと、 らおれは、以前の世界に住んでいた時と同様、時間などには関心が朝、娘がそう教えてくれましたよ」と、初老の運転手はいった。 ~ なく、したがって時計を見るためにわざわざ振り返るなどというこ「娘はいろいろな貝殻を集めていて、それでトランプ占いをやるの とは、よほどの場合でない限りする筈がなかったからである。そのです。よくあたります。しかし、運命を予知したためにその人の運 命がどう変るというものでもないそうです」退屈が運転手の肩を蝕 時だって、時間を知らねばならぬ必要はなかったのだ。 ためしにおれは、なに気ないふりを装ってそのままさらに十数メんでいるかに見えた。 ・ハック・ミラーを見ると、みどり色の背広の男は自分もあわてて 1 トル歩き、ふたたびだしぬけに背後を振り返ってみた。

10. SFマガジン 1970年11月号

う。まだ千年やそこらは、ちゃんと使えるよ」老人はハコを部屋心の支えになっていたのに ! 彼は苛立たしげに明りを消した。暗 のすみに投け、うまく吸殻入れにおさまったのを見て、おどろいた闇の中では、もう番人に感情を読まれる心配もないと思うと、急に ようにくつくっと笑った。 船体が身近なものに感じられた。もう一年ものあいだ、彼はこの宇 「そこで、きみに話そうと思って、こうして待っていたわけさ。そ宙船を奪って、新人種の手の届かない彼方へ脱出しようという考え の調査書も、学校に置いてある。なんなら、いまからいっしょにこを、生活の中心に置いてきたのだった。何カ月ものあいだ、注意ぶ 平 / し・カ ? ・」 かく、だがさりげなく、船の構造をさぐり、積込み品を調べ、百冊 「せつかくですが、今夜はよします。もうすこしここにいたいんでもの古書からすこしずつ操縦法をまなんでいったのだ。 それは、彼の計画にお誂えむきの設計だった。非常事態にはひと カーク教授はうなずいて、残り惜しそうに立ち上がった。「お好りの手で、いや、不具者の手でも、操縦できるようになっており、 きなように : : : きみの気持はよくわかる。連中がこの宇宙船をよそほとんどあらゆるものがオ 1 トマチックなのである。ただ、数知れ へ持っていくのは、わたしも残念だ。おたがいに淋しくなるね、ダぬ惑星の中でどれを選ぶかという、目的地の問題だけが残ってい たが、船内日誌はそれにさえ答を与えてくれた。 「これをよそへ持っていく、ですって ? むかし、彼の祖先たちの中の富豪たちは、新奇で閑静なすみかを 「知らなかったのかい、ダニー ? きみがこんな時間にやってきた求め、それを小惑星群の中に見出したのだった。金力と科学とが、 のは、そのためだと思ったんだがな。ロンドンでもこの宇宙船を見人工重力を作り出し、大気を与え、半永久的に動く原子力発電所を たがっているので、むこうの古い月往復船と交換することになった こしらえた。いまでは、その富豪たちもおそらく死に絶えており、 んだよ。残念な話だ ! 」彼は考え深げに壁をさわり、その手をふわ新人類はそうした役に立たないものには見むきもしない。だから、 小惑星群の中には、きっと彼のための避難所が、どこかにあるはず ふわしたシートへと滑らせた。「じゃあ、あまり長居をせんように な。帰るときは、明りを消していってくれ。ここはあと半時間で閉なのだ。その小世界のおびただしい数そのものが、彼らに捜索を断 念させるだろう。 館になる。おやすみ、ダニー」 「おやすみなさい、先生 , ダニーは老人のゆっくりした足音と、自 ダニーは番人が通りすぎるのを聞きつけ、ゆっくりと立ちあがっ 分の心臓の動悸に耳をすませながら、ソファーの上で凍りついたよ た。これから彼の帰る世界は、もはやその希望さえも抱かせてくれ うにすわっていた。彼らは宇宙船をよそへ移し、彼の計画をみしんない。それはすばらしい計画であり、必要な夢だったのに。 に砕き、子どもたちさえ彼を憐れむこの新人種の世界に、とどめて と、そのとき、大扉の立てる音が、彼の耳にきこえてきた。館を おこうとしている。 閉めている ! 教授は、彼がいることを番人に言い忘れたのだ ! そして いっか、どうにかして、それで脱出するのだと考えるだけでも、