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検索対象: SFマガジン 1970年11月号
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1. SFマガジン 1970年11月号

とべッドにすべりこんだ。彼女は目を覚まさないままかれに抱きっ き、その身体でかれを暖めた。すぐにかれも眠りに落ちた。 气悩みごとなんか、糞くらえ ! 「悩みなんざあ、糞くらえ ! 」 虫などヴィタミンで喰っちまえー かれはとっぜん歌うのをやめ、ふつうに話ができるほどにシャワ この規則どおりにさえすれば ーを小さくして言った。 百と三つになってもきみはまだ 「おはよう、ビューティフル ! 」 虫をもりもり喰っているんだよ シンシアは浴室のドアのそばに立ち、片目をこすりながらもう一 方の目でかれを眠たそうに見ていた。 かれは歌をやめていった。 「朝御飯の前に歌をうたう人は : : : おはよう」 : といっても、二節目はまだ考え出していないんだ。 「二節目は : い天気だし、ぐっすり眠った 「なぜ歌っちゃいけないんだい ? 一節目をもう一度歌おうか ? 」 ・ソングができたんだ。聞いてくれ」 んだからな。新しいシャワー 、え、結構よ。とにかくシャワーから出て、わたしにも使わせ 「結構よ」 かれは平気な顔で続けた。 「これは、虫喰いの園に出ていこうという意志を表明した青年に捧かれは文句を言った。 「気に入らなかったんだな ? 」 げる歌なんだ」 「そんなこと言わないわー 「テディ、あなた変よ」 「いや、変じゃないさ。聞いてくれ : ・ : ・効果を出すためには水をも「芸術というものは、なかなか認められないものなんだなあ」 うめくようにそう言ったが、かれはシャワーから出てぎた。 っと出さなくちゃあだめだな : : : 一節目だよ : : : 」 彼女が台所に現われたとき、かれはコーヒーとオレンジ・ジ = 】 かれはシャワーの勢いをもっと強くした。 スを用意して待っていた。かれはジ、ースのコツ。フを妻に渡した。 「テディ、あなたって優しいのね。こんな大サービスの代わりに何 气あの庭に入っていこうとは思わない がお望みなの ? 」 虫けらどもをこちらへ来させるだけだ ! 「きみさ。でも、いまじゃないよ。・ほくは優しいだけでなく、頭が もし・ほくが惨めになるはずとしても 良いんでね」 同じほど楽しくもなるだろう 「それで ? 」 て」 こ 0 かれは効果を上げるために、ちょっと休み「コーラス」と言った 幻 5

2. SFマガジン 1970年11月号

向こう側の下には洗面台があり、それに足をかけることができた。時代を思い出した。服を着ていないだけでなく、下調べをしておら かれとその男は、事務所などで見られる白タイルばりの小さな洗面ず、約東に遅れたんだ。そう、それからどうやって逃げるかはわか っているーーー目もつぶり、毛布をかぶり、そして安全にペッドの中 所の中に立っていた。 で目を覚ますのだ。 そいつは話しかけた。 「急いで : : : ほかのかたはみな揃っているんだから」 かれは両眼を閉じた。 「隠れようとしてもだめだよ、ミスタ・ランダル。わしらにきみは 「きみはだれなんだ ? 」 見える。きみは時間を無駄にしているだけだ」 そいつは、わずかに頭を下げて言った。 「名前はビップスですよ : : : さあ、こちらへ」 かれは目を開いて、荒々しく言った。 そいつは洗面所のドアをあけ、ランダルを軽く押した。かれが入「いったい何のつもりだ ? ここはどこなんだ った部屋が会議室であることは明らかでありーー現在、会議がおこへ連れてきた ? 何をしているんだ ? 」 なわれており、長いテー・フルを十二人ほどの男がかこんでいた。そ の全員がかれのほうを見た。 テー・フルのいちばん奥からかれを見ているのは大きな男だった。 「さあ乗って、ミスタ・ランダル」 ート二インチはあるに違いなく、肩 立ち上がれば少なくとも六フィ もう一度、わりあい乱暴に押されたかれは、磨きぬかれたテー・フ幅が広く、その身体にふさわしく骨太だった。脂肪がその巨体にた ルのまん中に坐っていた。木綿のパジャマをとおして、テー・フルのっぷりついている。だがその両手はほっそりと形良く、爪はみな美 面が冷たく感しられた。 しくマニキュアがしてある。その顔は、咽喉の肉がたれ二重顎にな かれは。ハジャマの上衣を引きよせてぶるっと震えた。 っていて、小さく見える。目も小さく、陽気だ。そいつのロもとは 「やめろ : : : ここから下ろしてくれ。服も着ていないんだそ」 大きく笑い、かたく閉じた両の唇を押しあけるようにして、愉快そ かれは身体をおこそうとしたが、その簡単なことができそうにな うに答えた。まるでランダルだけに通じる冗談をでも言っているよ っこ 0 、刀、ア 、つにに。 だれか後ろで笑い声をあげた。 「一度に一つずつだよ、ミスタ・ランダル。きみがどこにいるかと 「あまり太っていないようだね」 いう点だが、ここはアクメ・ビルディングの十三階さ : : : 覚えてい だれかがそれに答えた。 るだろうに。何をしているのかという点はだな、デサリッジ & コン そいつは坐 「そんなことはどうでもいいんだ、この仕事には」 パニイの重役会を開いているところだよ。わしは ったまま、大きくふくれ上がっている腹の上へ頭を下げようとした この ~ はミシガン かれは、どんな事態なのかわかりはじめた 「・ジェファースン・ストールズ、社長をしている」 通りでズボンをはいていないときだった。一度ならずかれは、学校 からだ のど ? なぜ・ほくをここ

3. SFマガジン 1970年11月号

そんな外見に悪寒を覚え、白いワイシャツにきちんとした背広と のだった。 そしてかれ自身が粗野な言動の目標となった場合、逃げ出すほか手袋のほうを選びたがるのは、実に子供つぼいことだった。だがホ ーグにとって、さきほどの男が汗のかわりにシェービング・ローシ かれには身を守るすべを知らないのだ。 ョンの匂いをさせていたら、そうまでそっとしないですんだはずだ かれは高架鉄道の駅へつづく階段に一歩足をかけて、ためらっ た。高架鉄道に乗るのは最も粗野なことだ。押され、揺られ、汚なった。 かれは自分自身にそう言い、自分は馬鹿で弱虫なんだと言い聞か らしく、荒々しい言動にいつだってぶつかることになる。いまそん な目に合うのは耐えられないことだ。環状線に向かって北へカー・フせた。そうはいってもーー・あんな粗野で野獣のような顔が実は心優 するとき電車が悲鳴を上げるとき、かれも一緒になって悲鳴を上げしく感受性に富んだ人間だというようなことがあるだろうか ? あ のつぶされたような鼻と豚のような目が ? ることになるだろう。 タクシーに乗って、だれの顔も見ずに家へ帰る とっぜん振り向いたかれは危いところで立ちどまった。階段に近どうだっていい んだ。すぐそこの食料品店の前にタクシー乗り場がある。 づいてきた男とぶつかりかけたのだ。 「どこまで ? 」 「気をつけろ、この野郎ー タクシーのドアは開いており、運転手の声はびどく生意気だっ 男はそう言うと、かれをかすめて通りすぎていった。 「ごめん : : : 」 ホーグはそいつの目を眺め、ためらい、心を変えた。またもあの ホーグはそう呟いたとき、相手はもう過ぎ去ってしまっていた。 その男の口調は荒 0 ぽか「たが、それほど不親切なものではなか粗野さだーー深みのない目と、汚ないにきびと毛穴の開いた皮膚 ったから、ホーグが気にすることはなかった。だがその男の着てい 「うん : : : 御免よ、忘れ物をした」 るものと格好とひどい体臭に、ホーグはそっとしてしまった。とい かれは急いで立ち去ろうとしたが、何かに腰をつかまれてとまっ って、くたびれた作業ズボンに皮のジャンパーは別に恐ろしいもの た。スケートをはいた少年がぶつかってきたのだ。ホーグは、子供 ではないとわかっているし、労働で汗によごれた顔に悪徳の影はな を相手にするときいつも浮かべる父親のような優しさで話しかけ 、くッジがつい かった。男の帽子には番号と文字を組み合わせた丸 / ていた。トラックの運転手か機械工か、とにかく大きくて強力な乗た 「おっと、坊や、危いよ ! 」 物を動かしている連中のひとりだろう。たぶん家族持ちで、優しい かれは少年の肩をつかんで、ゆっくりと離した。 父親であり良い亭主で、そいつが踏みこむ一番の悪徳といっても、 ・ペアに十セントを賭けたがるくらいの ビールをもう一杯とかツー と、かん高く下品な声がかれの耳もとで叫んだ。食料品店のドア ところだろう。

4. SFマガジン 1970年11月号

かれの心臓は、のどのあたりでドキドキと脈うった。深夜をかなりをうしなってしまうような、えらい大発見をしちまったのさ ! 」 まわったあたりで、夫人が夜食のサンドイッチとミルクを運んでき「あらあら、きっとまた、ホーガン先生に喧嘩をうりつけるための 7 たとき、かれの頭ぜんたいは、自分で生みだした想像のために、火発見ですのね ? 」 のように燃えたっていた。彼女は、ホーガン博士の《圧制》のもと「なあに、あいつをやつつけてやるのさ ! この発見はだね、あい に膝を屈してから十年間というもの、自分の良人がこれほど目を輝っとあいつの理論をドアの外へ放りだす威力をもっているんだ。も やかせている姿を見たことがなかった。 っとも、この・ほくだってその場でクビになりかねないものだがね。 「ねえ、おまえ」しばらくサンドイッチをほおばっていたトーリイ もし、この大発見が理事会の連中に容れられなかったときは、ぼく 博士が、そう言葉をかけた。「どうだい、しばらく旅に出る気はなは耳をつままれて、病院のそとへおつぼりだされるだろうさ。だが いかねーーそうだ、ずっと延びのびになっていた休暇旅行を、このね、ぼくはやるよ、たとえ顔につばを吐かれ、人前でなぶりものに へんでおもいきってーー・」 されたってね ! あのホーガンのやつめ、ちかごろはまったく、臆 ここ 「旅にですって ? 」彼女はびつくりして目をあげた。「どうしてま面もなく・ほくの分野にまで根っこをはりだしてきてるんだ ここ十年というもの、わしたちは休暇なんかとつらでひとつ、あいつをたたき出してやる丸たん棒でもかつぎださな たこともありませんでしたわ ! どこへ行こうというんですの ? 」きや、気持がおさまらんのたよ ! 」 博士の目は、どこか遠くをながめているようすだった。「そう、 どこかきれいな島がいしオ 、よ。南太平洋なんかはどうだい。さもなけ ホレイス・ホーガン博士の事務室といえば、動物学会館のなかで れば、ニュージーランドか中央アフリカでもいいな。とくに中央アはもっとも大きくて、明かるく、また設備万端がよくととのった実 フリカじゃ、人類学の教授は大もてだというはなしだからね・・ーー」験室兼用の部屋として知れわたっていた。おもえば、かれの処女作 『類人猿の本質』が大当たりしたおかげで、こんな立派な部屋にお 彼女の目はまんまるだった。なにかタイミングをはかるように、 灰色になりかけた髪をうしろになでつけた。「ハ ーマン、今夜のあさまる身分になれたのだ。そればかりか、過去五年間というもの、 なたはヘんよ。どこかわるいところでもあるんじゃない ? むずか食うにこまらぬ財力と、部下に対する優越感とを欲しいままにでき しいお仕事でも押しつけられたの ? 」 たのも、ひとえに処女作のたまものだった。それをかんがえると、 かれは、薄い胸に精いつばい空気を吸いこみながら、立ちあがっトーリイ博士のぼってりしたあから顔は、ゆううつで重くるしくな こ 0 っこ 0 なにか用かね ? 書きものの最中は、 「そうだとも、ここ十年間でもっともむずかしい仕事だ。しかも「やあ、トーリイくんか ね、おまえ、もっともすばらしい仕事だよー ・ほくはね、そのこと だれにもじゃましてもらいたくないんだがね」 についてたったひとこと口をすべらせるだけで、あっという間に職「ホーガン博士、じつはおりいっておうかがいしたい問題があり

5. SFマガジン 1970年11月号

「これはまたーーー」 《科学的方法》 . をこじつけたりなさったんです ? しかも、先生は いつでも《科学的方法》についてはたいそうロうるさかったではあ 8 「いやはや、あり得べからざることだ ! 自分の目が信じられんー りませんか。そりやたしかに人間はブタから発生したかも知れませ 「たしかに似ておる ! まちがいないそ ! こんなにすばらしい事んーーーそれがそうとうな可能性をもっていることは分かるんですが ねーーーしかし、そいつを証明するのに、このような方法を用いた先 トーリイくん、こし 実を、なぜいままで発見できなかったんだ ? 生の真意がわかりませんね」 つはすごい」 そのとき、通路のほうから、苦悶のあえぎがあがったかとおもう「そりやきみ、人間の先祖が・フタの仲間だったということは、充分 と、ドサリというにぶい音が聞こえた。こんどは、ホーガン博士がありうることだよ。しかしね、そうだからといって、・ほくが応用し た証明方法が正しかったとは思っちゃいない。そのじつ、あれは何 気絶したのだ。老紳士たちは、そこ、 ー冫したインターンたちがホーガ ンの巨体を担架の上にはこんで、人口呼吸をほどこすあいだ、心配も証明しちゃいないんた。そんなことはよく承知してるさ。ただ そうに右往左往していた。そのあと、トーリイ博士はあらためて五ね、この推論を調査する機会が、ぼくは欲しかったんだ。あのホー 人の理事を、明かるい控え室へ案内した。 ガン大先生と、かれのとんでもない愚作に、もうこれ以上わずらわ 「あの男のは、理論といいましても、べつに確固とした信念ではあされたくなかったんだよ」 、刀 りませんでしたから」と、拇指で背中のほうを差し示しながら、 トーリイ博士は、きらきらとかがやく目をインターンのほうへ向 れはささやいた。「自分のアイデアが論駁されるのに耐えきれなかけた。「とにかくね、・ほくがここでつかった、幹部連中を説きふせ ったのでしよう。しかし理事のみなさん、わたしがいまお目にかける方法は、たしかに人類が誇る最高の頭脳のひとつに、たいへんな ましたことは、調査にあたいする問題だと確信しております」 侮辱をくわえてしまった いわば、科学的方法の創始者ともいえ 五人の老紳士は、ひとわたりおたがい同士で目配せしあってかる大学者にね」 ら、トーリイ博士のほうをふりかえった。突然、かれらのかおに好 ・ハレット博士はすばやく視線を上げた。「というとつまりーーこ 意的な笑みがうかんた。「よろしい、トーリイくん、やってみたま トーリイ博士はもうしわけなさそうに、 こっくりとうなずいた。 「そうさ、ロジャー コンにだよ」と、かれはいっこ。 「どうにも・ほくに納得がいかないことはですね」と、あとになって 、ら・ハレット博士が質問を浴びせかけてきた。ちょうど、トーリイ 博士といっしょに、農業実験局へ二匹の騒々しい・フタを送りかえす 手つだいをしているときだった。「先生はなぜ、こんな冗談ごとに

6. SFマガジン 1970年11月号

とどめ 愚鈍にして弱きものたちは鳥の御子たちを留保ることかなわざり「わかったかね、ミスタ・ランダル ? きみは彼女に何もおこって き。ここにおいて鳥はかれらのあいだに、 ここかしこと、よりカ強ほしくないだろう。どうだい ? 」 てぎ く、より無慈悲にして、より狡猾なるものを置きたまいぬ。その術「この、汚ない、卑伝者 : : : 」 策と無慈悲さと欺きにより、解き放たれんとする御子たちの試みを「落ち着いて、ミスタ・ランダル、落ち着いて。それに、もうそん 押えんがためなり。しかるのち、鳥はもとに帰り、満ち足りたる思な言葉は結構だ。考えるんだよ、きみの利害関係を : : : それから彼 女のをな」 いにて坐りたまい、その竸技が演ぜられるを待ちたまいぬ。 ストールズはかれから顔をそむけた。 その競技は演じられているのだ。だからこそわれわれは、きみが きみの依頼人と干渉することも、どんな方法であろうとかれを援助「かれを連れていくんだ、ミスタ・ビップス」 「おいでなさい、ミスタ・ランダル」 することも、許すわけにはいけないというわけだ。わかったかね ? 」 とっぜん話せるようになったランダルは叫んだ。 かれはまた背後から腹立たしく押されるのを感じ、まわりのもの 「わからないね。つまらんことを ! おまえたちみなくたばっちまがくるくるまわりながら空中を飛んでいた。 え ! 冗談冫 こしてはひどすぎるそ」 そしてかれは自分のべッドではっきり目を覚ましており、上向き ストールズは溜息をついた。 になり冷汗に全身を覆われていた。 「愚かで弱く馬鹿げているな。見せてやるんだ、ミスタ・ビップ シンシアは身体をおこして眠たげに尋ねた。 「どうしたの、テディ ? あなたが叫び声をあけたのを聞いたけ ビッ。フスは立ち上がると、テー・フルの上に書類カバンを置き、そど」 れをあけると中から何かを取り出して、ランダルの目の前につきつ「何でもないよ。悪い夢でも見たんだな。起こしてしまって御免 けたーー鏡だ。かれは丁寧に言った。 「どうかこれを見てください、ミスタ・ランダル」 「いいわよ。胃が変なの ? 」 「ちょっとね、たぶん」 ランダルは鏡に映っている自分の姿を眺めた。 「重曹を少し飲んでみたら」 「いま何を考えています、ミスタ・ランダル ? 」 映像は薄らいでゆき、かれはいっか、わずかに高いところから自「そうするよ」 かれは起きて台所へ行ぎ、小さな錠剤を飲んだ。ロの中がすこし 分自身の寝室を見つめていることに気づいた。部屋は暗かったが、 枕に頭をのせて寝ている妻の頭がはっきりと見えた。かれ自身の枕酸つばくなり、いまははっきり目が覚めているのだとわかった。重 曹で解決できたのだ。 には、だれもいなかった。 ストールズは話しかけた。 もとにもどってみると、シンシアはもう眠っていた。かれはそっ おろか よ」 2 ー 4

7. SFマガジン 1970年11月号

してね」 トーリイ博士のかおはきびしかった。その目には、一徹そが、しかがですかな ? 」 うな冷たい光りがあった。ロの中にリンゴを押しこまれて、みんな 「きみ、そりやいうまでもないことだよ ! そのことは、予科生た の笑いものにされているホーガン博士の顔が、かれの目にぼんやりちがこれから学んでいくうえに必要な基本知識じゃよ、 オしか ! 」ふと と浮かんでいた。 った男は、怒りに震えていた。顔はまっかだった。 「きみ、あとにまわしてもらえないかな。この事務所じゃね、なに トーリイ博士は聞こえよがしに返事をした。「しかしですな、も よりも『類人猿に還る』の完成を優先させているんだよ。きみもわし予科生があなたのこたえを真にうけてそれをそっくり繰りかえし かっているはずじゃよ、、。 オし力もう締め切りも近いんだそ」 たとしたら、それはぜんぶまちがいということになりますそ ! 」 「それでは、締め切りのほうに遠慮してもらいたいですな」と、ト 「トーリイくん ! 」ホーガン博士もけんかごしになって、椅子から ーリイ博士はズ・ハリといった。「もうその必要はなくなるでしよう たちあがった。しかし、もっといいことを考えついたらしく、中腰 からね。とにかく、・ほくの質問にここで答えていただきたい」 の姿勢から、とっくみあいでもはじめかねない身がまえをとった。 かれは堂々と、わるびれるところなく、机のまえに直立した 「きみの説は異端だ、トーリイくん。まったくの異端だ ! 」 「いますぐにです ! 」 トーリイ博士は手にもっていたケースから、ひとたばの書類をひ ホーガンはふくれつ面をしながら、回転椅子をグルリとまわしつばりだした。 て、相手に顔をむけた。「まあいいさ」かれの声はおっかなびつく「ちょっと聞いてください、ホーガン博士。そして、もしわたしの りだった。「まずそいつをかたづけてしまおうか。さあ、質問とい いうことにあやまりがあったら、そのつど訂正してくれませんか。 うのはなんだね ? 」 ますもって、われわれ学者という人種は、ひとつの動物を取りあけ 「人間の学名を、生物学上の分類にしたがって、正確に教えてもらて、その発展段階をたどっていく場合、どういうわけかそれを個別 えませんかな」 化するよりも、むしろ一般化していく傾向にあるのではありません 一瞬、ホーガンの顔から表情がきえた。「脊索動物リ ( 普 では脊椎動物か ? つまりわれわれは、人間を生物学上の名称であるヒト科の一 員とみなして、個別的な学名であるホモ・サ。ヒエンスというのを忘 椎動物と原索動物をふくめた名称つある ) 有頭亜門、哺乳綱、霊長目、ヒト 科、ホモ・サ。ヒエンスだ」かれは機械のような口調でこたえた。れてしまう傾向にあるんじゃありませんか」 「ここの予科生なら、まずいの一番にお・ほえさせられることだよ、 「まあ、そんなところだろうね」 トーリイくん」 「そこで、人間の生みの親をみつけるにあたっても、われわれは一 「そうですー トーリイ博士はこともなげにいった。「ついでに、予般的な特徴をあらいざらい引っぱりだして、それをあてはめた祖先 科生たちはきっと、人類進化の連鎖を逆にたどらされて、類人猿た像をうき・ほりにしていくわけですな」 ちと共通の祖先のことをたたきこまれたにちがいないとおもいます「もちろんたよ。たずねるまでもあるまい」 5 7

8. SFマガジン 1970年11月号

をかかえながら、夕食の皿をそっけなくみまわした。頭のなかは、 にもじゃまされたくないんだ」 胎性学のことで手いつばいだった。おまけに、夕食までの午後の時かれはあぶなっかしい足どりでテープルを立ち、本をかかえて、 小ばしりに書斎へさがっていった。 間は、図書館の書庫にはいりこんで、胎性学の本をかたつばしから 調べあげるのに、あらかたっかいはたしてしまった。書庫のなか うまい具合に で、これはしめたそと言えるだけの手がかりをつかむまで、まるま と、かれは思ったーー・どうやら手がかりのほう る一時間はかかっただろうか。しかし、相手はどっこい、なかなか は、まちがいのないものをつかまえたらしい。調査をすすめていく しつ。ほをつかませなかった。まず解剖学からはじめて、生理学へう うちに、これは大丈夫だという確信が、しし 、よ、よ深まってきた。そ つり、生化学へうつり : ・ : かれは、半ばうわの空で妻にキスをするれにしても人間てやつは、ずいぶん長いあいだ絶対不変の理論とや と、皿の横に、ペンスンの『寄生虫学』の大冊をおき、そのかたがらを、したり顔で信奉してきたものだ。これまでだって、いま自分 わに、ベストとタイラ 1 の共著になる『医療のための基礎生理学』がっかみかけている手がかりを、いろいろな人間がいろいろな場所 を開きながら、おくれたタ食をとるためにどっかと腰をおろした。 でつかめたはずだ。それなのに、連甲はきっと、知らん顔で通りす へつに調べもせず、関連もつけずに、なん かれはこの重大問題になにもかも捧げつくしていた。年齢の重圧をぎてきたにちがいない。・ となく見逃してきたにちがいない しかし、今はちとちがうそー ひしひしと感しるかよわそうな肩が、な・せかぶるぶると震えてい こ 0 こんなにはっきりした事実を発見することなんか、うす目をあけた ばかりの小僧っこにたってできるじゃないか。だいたい学者連中が 「ねえ、あなた」と、トーリィ夫人が博士の気をひきにかかった。 「お肉の味はいかが 、 ? このごろ、お肉もずいぶんと高いんですのこれまで気づかなかったというのは、かれらがそれをのそきこもう としなかったからなのだ。さあ、これから科学的な調査方法をかた よ」 つばしから洗ってやるそ ! かれは『寄生虫学』にとびこみ、人間 「肉だって ? 」 「そうよ、・フタにくよ。あなた、なにをめしあがってると思ってらの生理にかんするいくつかの章に目を通した。次にダーウインの、 『種の起源』を読み、もういちど胎性学にもどり、ついでに『歯に したの ? どう、おいしいでしょ ? 」 かれはやっと本から顔をあげて、最初に妻の顔をのそきこんでか関する外科知識』の膨大な書物をかじりはじめた。それから、ほっ ら、おもむろに皿のうえの肉に視線をむけた。かれの顔色がこころとひといきいれる間もなく、こんどは人間の鼻の解剖学的所見を論 じた章をさがして、つぎつぎに目をとおしていった。そうしていく もち青みがかった。 、よ、よはっきりとした理論に発展してい 「ああ」かれはそういって、おだやかだが、きつばりとした態度でうちに、なにもかもが、しし 皿をおしのけた。「今夜はどうもね : : : 夕食を : : : たべられそうもった。ーーそれにしても、こんなに重要な比較研究を、いまのいまま ないんだ。やらなきゃならん仕事がたくさんあってね。今夜はだれでだれもやらなかったというのは、どうしても合点がいかないそ !

9. SFマガジン 1970年11月号

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10. SFマガジン 1970年11月号

こ。お坐りになりませんか ? お茶を飲む時間はあるでしようか 「ふーん : : : そうなんだろうな。でもおかしいそ、・ほくが明かりをナ ? 」かれは詫びるようにつけ加えた。「すみません、コーヒーはな 消すとき気づかなかったというのは いんですがー 1 トに忍 「どうしてそんなこと心配になるの ? だれかが昨夜ア。 ( ランダルはうなずいた。 びこんだとでも思うの ? 「時間はあると思います・ : : ・昨日、あなたは八時五十三分に家を出 「うん。そうなんだ : : : そのことを考えていたんだ」 られましたが、いまはまだ八時三十五分です。同じ時間に出るほう と言ったものの、かれの眉はまだ寄せられていた。 シンシアはかれを見つめ、それから寝室へ入「てい 0 た。彼女はが良いと思いますからね . 「良かった : : : 」 ( ンド。 ( ッグを取り上げて、すぐにその中を調べ、それからドレッ ホーグは急いで離れると、すぐに茶の用意をしてきて、その盆を シング・テー・フルの中にある小さな秘密の引出しをあけた。 シンシアの前にあったテー・フルに置いた。 「だれかが入 0 てきたにしても、そう大しては取られていないわ よ。あなたの紙入れはあるの ? 中身は大丈夫 ? 時計は ? 」 「注いでくださいますか、ミセス・ランダル ? 支那茶です : : : こ れが好きでして」 かれは急いで調べて答えた。 「ええ、喜んで , 「どちらも大丈夫だ。きみが椅子を置き忘れたのに、ぼくが気がっ 今朝のかれに変なところは全くないと、認めるほかなか 0 た。目 かなかっただけだろう。もう出られるかい ? 」 もとに心配そうな皺をよせ、実に趣味の良いア。 ( ートに住んでいる 「すぐ行くわ , かれはそのことについて、もう何も言わず、そ 0 と考えていた。気難しい独身の小男というだけだ。飾 0 てある絵も良い。どれほど 良いものかは、それについての訓練ができていないから彼女には言 無意識下の記憶がいくつかあり、それに寝る直前にクラ・フ・サンド ウィ ' チを食べたことが組み合わさると、ひどく変なことになるもえないが、どれもオリジナルのように思える。その数がそう多くな いことも良いことだ。美術好きの独身者連中というものはたいて のだな、と。明かりを消す直前にあの椅子をきっと見たのだろうー オールド・ミスより趣味が悪くて部屋じゅうを飾り立てすぎる ーそれで椅子があの悪夢に現われたんだ。かれはそのことを忘れる ものだ。 ことにしこ。 ミスタ・ホーグのア。 ( ートは違う。そこには、、わばプラームスの ワルツのように楽しい洗練された完璧さというものが漂「ていた。 5 彼女はホ 1 グに、カーテンをどこで買「たのかを尋ねたか 0 た。 かれはシンシアから茶碗を受け取ると、その手にかこみ、飲む ~ ホ 1 グは二人を待っていた。 「どうそ、どうそ。ダへこんなところによく来てくださいましにその香気を吸いこんだ。それからかれはランダルのほうに向 し、目リ 2 ー 7