少年 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1970年7月号
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1. SFマガジン 1970年7月号

を抱えて、デッキに戻った。その間も般は沈骨箱を取出して、お線香を上けた。 下しつづけており、岸壁はすでに頭の上だっ ( あっ ) た。少年は懸命に背伸びして、少女に提灯を そのときになって初めて、少年は、あの少 渡した。 女に渡した提灯には父親の魂が入っていたこ 提灯に頬ずりしている少女の姿を、ほとんとを思い出した。 ど水を抜かれた船渠の底から、少年は見上げ異国の殺風景な病院で父親が息を引きとっ たとき、その死を見守っていたのは、あの提 ( ああ、ぼくのデカメロン : : : とうとう見つ灯だけだったという。どういうわけでそれが けた : : : ) 病室に持込まれたのかは判らないが、ただひ 船は新しい水路に向かい、少女の顔はみるとっ懐かしい故郷の匂いを発散しているその みる闇の中に消えていった。 岐阜提灯に、肉体を離れたばかりの父親の魂 母親が提灯の紛失に気付いたのは、その夜はもぐりこんだのだ。会社の人から遺品を受 もかなり更けてからだった。船内で催された取りながら、少年はそう直感した。だから、 ーテイから頬を上気させて帰ってきた母親提灯を日本に持ち帰ることは、父親の魂を里 は、床の上に坐りこんで小さな筒を夢中で覗帰りさせることだったのだ。それが : きこんでいる少年を発見した。少女が呉れた少年はその夜、高い熱を出した。翌晩、少 箱の中には、万華鏡が入っていたのだ。「ケ年は、少女からもらった万華鏡を、深い霧に ティに。父から」という。ハースディ・カード 包まれたオンタリオ湖に投じた。 がついていた。それを覗くと、色彩の交錯の 母子はそれ以来、提灯のことは一度も口に 奥に、先刻の透きとおるように白い少女の顔しなかった。 が見えるようだった。 「あら、ここにあった提灯は ? 」 母親が死を待っている病室の天井近くに現 母親の声で現実に呼びもどされた少年は、 われた不思議な物体が、その提灯ではない いっぺんに多くのことを報告しようとして、 か、と少年が考えだしたのは、院長の宣告を ロごもった。話を聞き終えた母親は、顔色を聞いた一週間くらいあとだった。母親の呼び 青ざめさせたが、何も言わず、黙ったままおかけが、異国をさまよう父親の魂を、ここま

2. SFマガジン 1970年7月号

駐在中に、急死した。危篤の知らせで、母子な予感が、少年の足を甲板に釘づけにしてい が飛行機でかけつけたときは、もう冷めたく なっていた。二年前の夏だった。 父親の形見の眼鏡の視野に、それが入った 少年にとって、父親の死は、それほど悲しとき、少年は岸壁に怪獣がうすくまっている くはなかった。むしろ母親の愛を独占できるのかと訝しんだ。怪獣の正体が、車椅子に乗 った少女のシルエットであることが判るまで ことのほうが嬉しかった。 には、時間があった。 お骨を抱いて、母子は、エリー湖のほとり の港から、日本へ向かう汽船に乗った。母親その閘門で船は水位を十メートル下げた。 と二人きりの初夏の船旅に、少年は、蜜月の見物人はまばらだった。甲板にいる少年は、 岸壁の端っこにいる少女を、最初、上から見 ような甘さを満喫した。 その旅で、少年は、運命に出会ったのおろす形になった。 ふりあおいだ少女の白い顔が、タ闇のなか である。 で、見知らぬ花のように見えた。水位が下が エリー湖からオンタリオ湖に通じる水路にるにつれて、その花が近づいてきた。 ロック は、水位の関係でいくつかの閘門が設けられ ( デカメロンだ : : : ) ている。汽船は閘門ごとに休息しながら進む童話や少女小説のさし絵に出てくる、夢見 のだ。珍らしい外国の船が閘門を通過するとるような大きな瞳をした少女たちを、少年は デカメロンと呼んでいた。しかし現実に生き き、を伝え聞いた人びとが、見物に集まっ て瞬きするそんなデカい目を見たのは、初め てくる。 月てのことだった。 夕暮れ、少年の乗った日本船は、とある 顔と顔が触れ合うほど近づいたとき、少女 門にさしかかった。穏やかな水路を包んで、 残光のなかにひろがる果樹園と草原の彼方は膝に掛けた毛布の下から小さな箱を取出 に、水銀灯に照らされた閘門が近づいてくるし、少年に差出して、微笑んだ。 のを、少年は甲板で眺めていた。それは一時少年はあわててポケットに手を入れ、お返 よしの品を探したが、見当らない。船室まで駆 間ほど前に通過した閘門にくらべると、かオ り小規模なものらしかった。しかし、不思議けて行き、べッドの枕元に飾ってあった提灯

3. SFマガジン 1970年7月号

で吸い寄せたのではなかろうか。 あの子の魂は一体どこへ行くだろう ? 万 事実、日一日と色を濃くしてゆくその物体華鏡の中へ ? 万華鏡はいまやセントローレ は、そう思って見ると、まさしく提灯に見えンス河の底で魚の巣になっているはずだ。あ た。陽炎のように揺らめいているのは、もしの万華鏡の中へ ? かしたら、あのデカメロンの少女が、どこか 二年前の外国旅行が、少年には、遠い遙か でロウソクを手に入れて、日本風に灯をともな昔のことのように思える。あれから・ほく しているのかもしれない。 は、随分としをとった。 : ア死んだ、ア死んだ、ア死んだ 中庭から笑い声が響いてくる。看護婦たち そうだ、今この瞬間に、あの女の子も死にのバレーはまだつづいており、ラーメン屋の かけているのだ。死にかけている女の子の要出前持ちは相変らず自転車にもたれてそれを の屋上で、洗 望で、枕元に愛玩の提灯が飾られ、灯が入れ眺めている。向かいのアパート られたのだ。しかしあの大きな目はもはや閉濯物を干し終えた女が、背中の子どもを揺す りあげて、こちらを向いた。その顔は提灯だ ざされ、月に芒の絵模様を眺めることはもう った。看護婦も、ラーメン屋も、提灯の顔だ できない。 デカメロンはおそらくカナダの大きな牧場った。 : ア死んだ、ア死んだ、ア死んだ、ア死 の一人っ子なのだ。・ほくの乗った汽船が通過 したタ方は、あの子の健康が奇蹟的に蘇ったんだ、ア死んだ・ : 生涯に唯一度のチャンスで、誕生祝いのあと花雲りの東京の空に、提灯を下げた無数の 家族にねだって、外国船を見物に来たのだろ屍体が浮かんでいる。 う。そこで、プレゼントにもらった万華鏡少年は背後に異変を感じた。 を、・ほくの。ハバの魂がもぐりこんだ提灯と取フイゴのような母親の呼吸音が、不意に途 りかえっこしたのだ。その遠出で、あの子の絶えたのだ。 病状がまた悪化した・ : 振り返って少年は見た。 少年は、死にかけている少女の枕元から、 天井に浮かんだ物体の下部から、触手のよ 提灯がすこしずつ空間に姿を消してゆく有様うなものが伸び、母親の口から最後の呼気を を思い描いた。 吸い取ろうとしているのを。 0

4. SFマガジン 1970年7月号

てね。つらいだろうが、耐えぬいてこそ、本き上がり、天井を見た。 当の男の子だよ」 物体は依然としてそこにあった。電灯をつ 死んだ父親の友人である院長が、少年の目けても消しても、物体の明るさは変らなかっ をみつめながら、そう告げた。 その夜、少年は涙にかすむ目で、天井の一 母親は眠っていることもあり、目を開いて 角をにらみつづけていた 9 すると、そこに、 いることもあった。心なしか、母親が眠って おぼろげに光る白いものが現われた。しか いるときのほうが、物体の光が増すようだっ し、それに不審を抱くには、少年の心はあまた。 りにも深く悲しみに閉ざされていた。ふと気翌日、中学校から帰 0 てくると、少年は、 がつくと、その光る物体は、さ 0 きから陽炎箒の柄でおそるおそるその物体をつついてみ のように不規則な脈動を繰り返しているのだ た。箒はむなしく物体を貫通し、手ごたえは 0 た。少年は母親の方を見た。眠 0 ているとまるで感じられなか 0 た。 ばかり思っていた母親は、大きく目を見開い 呻き声がした。少年はあわてて母親をかえ て、やつれた顔をその物体の方へ向けてい りみた。母親は苦しそうに胸に当てた細い手 を動かしていた。顔中に大粒の汗が吹き出し ( あれ、何だろう ? ) ていた。 少年の無言の問いかけに、母親は同じく無 ( お母さん、お母さん ) 言で、 少年は母親の体を必死に揺さぶった。看護 ( さあ、何でしよう ) 婦がかけつけて注射を打った。やがて母親の と答えた。かなり以前から、母子は表情だ顔に生気がもどった。 けで会話を交す習慣になっていた。 「お父さんと : : 船で : : : そしたら嵐が : ( まるで人魂みたい : 少年は天井に視線を戻しながら、そう考え母親のそんな切れ切れの説明を聞きなが た。もしかしたら、お母さんの体から魂がもら、少年は、や 0 ばりあれはお母さんの魂な う脱け出しかかっているのかもしれない : んだ、と怯えた。 夜中に、少年は何度も補助べッドの上に起少年の父親は、商社員で、カナダの支店に こ 0 7

5. SFマガジン 1970年7月号

0 ビイはとび入りしてきた女の子をじ 0 と見た。レーダーで捉え 0. 」→ = そ 0 子供 0 一一→ , ←手前とま「。小塔す「 = ~ 〈影男 0 子女 0 子 ~ ~ 0 0 重を』→ = 同 0 呼 0 かけをくり返した。「やあ、子供さん」 だ。人々は静まりかえった。 「やあ、子供さん」テレビ俳優を思わす、よどみのない声で。ビイ「リタよ ! 」と女の声。 「ポリロップちょうだい ! 」 が言 0 た。実際 0 ビイの声はある俳優の声を録音したものだ 0 た。 ロビイはど 0 ちの声にもとりあわなか 0 た。優秀なセールスン は押しの一手で、無駄に餌はまかないものなのだ。。ビイは愛想よ 男の子は笑いやめ、「やあ」と小声で答えた。 く言 0 た。「『少年宇宙殺人団』はいかが。今ここに持「てーー」 「いくつかな ? 」ロビイが尋ねた。 「あら、あたしは女の子なのよ。あの子はポリ 0 ' プもら「たじゃ 「九つ。ううん、八つだ」 しい」。ビイはみつめた。首の辺から金属の腕がさ「と振ないの」 「そりや、 「女の子」という言葉を聞きと 0 て、 0 ビイは黙った。そしてちょ りおろされ、男の子の眼の前でとまった。 ツ。、 ジイ日 っと言いよどむようにして続けた。「『宇宙ストリ 子供ははっとして後に退った。 ノイ・ / = ーンズ』はどう ? と 0 てもスリリングなその漫画の最 「あげよう」ロビイは言った。 少年はお「かなび「くり腕を伸・はして、みがきあげられた。ビイ新号を今持「てるんだよ。まだ駅 0 自動販売機じ、売 0 てな」。五 の丸 0 こい金属の手から、赤い色をしたポリ ' プをとると、包み十、ントでいいよ、そしたらほんの五秒、ー、」 「通してくださいな、あの子の母親なんです」 紙をむきはじめた。 最前列にいた若い女が。 ( ウダーをはたいた肩ごしに振り返って、 「なにも言わないのかい ? 」ロ・ヒイが尋ねた。 ものうげに言った。「あたしがお子さんを取り返してあげるわよ」 「えーとーーーありがとう」 ノーズを滑らしてするすると前に 頃合いを見はから「て 0 ビイは続けた。「ポリ。 ' プと一緒にお彼女は六インチ底の。フラ ' ト : 」しい飲みも 0 、ポビイ・ポ ' プは」らな」か」 ? 」少年は眼を上出た。「お前たち、お逃げ」と女はそんざ」な〕調で言 0 た。そし げ、キデ→をし、ぶるのをやめた。「た「た 0 一一十五 ~ トでて腕をあげて頭のうしろに組み、ビイの眼 0 前でゆ「くりと。 ( しと膝のすぐ上で ーの。ヒルエットを踊り、身にまとったポレロ いいんだよ、そしたらほんの五秒でーーー」 ち「ち、な女の子が大人たち 0 足の間から身を這」出してきて叫キ。にくるまれた、び「たりしたラ ' , の足を誇示してみ せた。少女は女の顔をにらんだ。女はくるりと横向きにな「てビル 「ロビイ、あたしにもポリロツ。フちょうだい」 んだ。 ! 」三列目あたりから怒「たように呼ぶ = ' トを踊り終えた。 「リタ、戻ってらっしゃい 時としてご愛嬌の、まごっいた勘ちがいをすることもあったが、 女の声がした。

6. SFマガジン 1970年7月号

: ア死んだ、ア死んだ、ア死んだ : ひとが死ぬ。 昼休みで、中庭では看護婦たちがパレーを フランスの港町で、中国の農村で、アフリ 世界中楽しんでいた。ラーメン屋の出前持ちが、ア 力の砂漠で、シベリアの鉱山で、 で、ひとが死ぬ。老人が、赤ん坊が、若者クビをしながら、それを眺めている。向かい の屋上で、子供をおんぶした女 が、いまこの瞬間にも、ひっきりなしに死にのア。ハート が、洗濯物を干している。 つづけている。 : ア死んだ、ア死んだ、ア死んだ : : ア死んだ、ア死んだ、ア死んだ、ア死 少年は、室内に視線をもどし、天井に近い んだ、ア死んだ : 少年は、病室の窓から中庭を見おろしなが空間に浮かんでいる例の物体が、さっきより も更に成長し、したいに形をととのえてきた ら、呪文のように、そう唱えつづけていた。 病室では、少年の唯一人の身寄りである母ことを確認した。 ナツメの形をしたその奇妙な物体が初めて 親が、息をひきとろうとしているのだった。 母親の意識はすでになく、酸素吸入器をかぶ病室に出現したのは、母親の生命があと一カ と知らされた夜たった。 せられたロから、フイゴのような音が洩れる月しかない、 「いろいろ迷ったんだが : : : やつばりボクに だけだった。少年はときおり背後を振りかえ も覚悟を固めといてもらった方がいいと思っ っては、そのロの奥に地獄を見た。 ・今月のカラー 提灯 石川喬司 イラストレーション / 池田拓 ンヨートンヨート 6

7. SFマガジン 1970年7月号

らマスターベートすることだ。 ないし、ンルヴァー・、 ーグやル・グインにしても、残りの枚数が少なくなった。ル・グインと二席の その日、大といっしょに映画を見ていた主人公の同性愛や近親相姦といった題材にかなりの興味を示ヴォネガットは読みおえたけれど、ここでは受賞作 少年は、少し離れた客席に男たちにまじって映画をしている。ニュー ・ウェーヴの要素の一つであっただけを取りあげ、残りは追って紹介することにしょ 見ている女がひとりいることを、大に教えられる。 ″タブーへの挑戦″の意識が、界全体に影響をう。 純血種である彼の大の感覚は、ほかの大の比ではな及ぼしたのだーーといえばカッコイイけれど、今ごアーシ = ラ・・ル・グインは「六二年ごろから 。少年はここ数カ月、女を見ていない。映画館かろこの程度で大さわぎしなければならないほどファンタスティック、アメージングなどの雑誌に ら出る客たちにまぎれて、少年は女の子のあとをつ界は子供だったのか、という考えかたも成りたつ。を書きはじめた女流作家。六六年、最初の長篇 けてゆく : ・ シルヴァーく 1 グの、 ge こなどは、・ほくら。 3 。・まミ、ミ ( ローキヤノンの世界 ) を発 スラングをやたらに使った文章に最初のうちひつが読んでもなんということはないが、結末に挿入さ表。児童一冊を含めて、現在までに五冊の長篇 かかるけれど、二、 三ページ進んだらもうやめられれているきわどい文章一つのためにネビ = ラ賞を与がある。最近作 The 0. 、、を。 f しミ * ミ ない。男と犬と女の変てこな三角関係が骨子だかえられたんじゃないかとかんぐりたくなる。アメリのはじめのページにある作者紹介によると ら、おかたいアメリカの雑誌にはとてものりそ力のファンが筒井康隆を読んだら、失禁することはフルネームは、アーシュラ・クロ】 ・ル・グ うもないシーンがあちこち出てくるのは必然的で、まちがいない。四月号のこのページでいったようイン。一九二九年生まれ。文化人類学者・・ク これもまたイギリスのニュ ・ワールズ誌に最初発に、を書き、そして読むためには童心が必要だロしハーの娘で、女子大の名門ラドクリフと、コロ 表され、昨年工 1 ヴォン・・フックスから出た彼の短という考えは今でもかわらないが、それにしてもアンビア大学に学び、五一年、 o ・・ル・グインと 篇集に再録されて、ようやくアメリカの読者の目にメリカの界は、おとなの世界に今まであまりに結婚。現在は、三人の子を持っ主婦で、オレゴン州 ふれた ( 一つ不思議なのは、このエリスンのノヴェも無関心でありすぎた。 ポートランドに住んでいるという。 ラと、ノヴェレット部門の受賞作ディレーニイの 彼女もまた、ラリイ・ニーヴンなどと同様、壮大 Tine ミ c. の長さが、ほとんどかわらないというこ長篇部門 な未来史をすこしずつ書き続けている作家で、この とだ。どういうわけだろう ? ) 7 、ミ Left 4 of しミ ( 闇の左手 ) 受賞作もそれまでの三冊のおとな向き長篇で作 二席、三席にそれそれおさまったライ・ ( ーとマカアーシ、ラ・・ル・グイン ( エース・ブックス ) りあけてきた未来の銀河系文明を背景においてい フリイのノヴェラは、残念ながら未読。 一一席ミ、、ミ $ 。 ~ 、夸ミ ( 屠殺場五号 ) カーる。 ここまでの紹介でお気づきになったと思うが、今ト・ヴォネガット・ジ、 = ア ( デラ「ート・プレ銀河系進出が中だるみの状態にはいり、地球と辺 年の受賞作や候補作のなかで目立っ特徴は、人間社ス ) 境の植民星との連絡がとだえて数万年後、人類はそ 会の病根に焦点をあてた作品が多いという点であ三席 3 、をト Barron C( ッグ・ジャック・れらの世界にふたたび関心を持ち、調査を始める。 る。 ・ハロン ) ノーマン・ス。ヒンラッド ( エーヴォン・プそのなかの一つウインターは、他の植民星とはま エリスンやス。ヒンラッドはそれ以外の何ものでもックス ) ったく異なる特徴を持っていた。おそらく遠い昔行 ー》の ~ 第冖 ドるキ ロ 3

8. SFマガジン 1970年7月号

いもどった。タイラーフレインはしばらくの間ふるえを押えきれ なかったが、やがてからの鉢を拾いあけて、たるんだ羽目板囲いの 家にもどっていった。 マリナ当フレインは、彼女のすんなりとした、しなやかな若い肉 体に、水着がびったりはりつくように、ストラップをなおした。空 ・フレッシュアック 気タンクを背負い、呼吸器具を持って圧力水門の方へ歩いて行っ 「ジャニスかい ? 」 「そうよ、お母さん」と彼女は無表情のまま、振り向いて言った。 「どこへ行くの ? 」 「泳ぎに行くところよ、ママ。十二層の新しい庭を見に」 「トム・リューインにはぜったいに会わないって言ったじゃないの 母は勘づいているのだろうか ? 彼女は黒髪を撫でながら言っ た。「ええ、そうよ」 「じゃ、 しいわ , 母は半ば笑顔になって言った。明らかに彼女の言 うことを信じていないのだった。「なるべく早く帰るのよ。お父さ まがどんなに心配するか知ってるでしょ プレッシュア声ック 彼女は腰をかがめて母にすばやくキスすると、圧力水門に入って いった。母は知っている、きっとそうに違いないー しかも彼女を 止めようとはしなかった ! それにしても、なぜ母は ? つまり、 彼女は十七歳で、何でも自分のしたいことができる年齢なのだ。親 は気がついていないようだが、このごろの子供は母親の時代よりも 成長が早い。両親は少しも分っていないのだ。彼らはただ農場にす る新しい土地の計画に余念がない。彼らの考える楽しみといえば、 ム・ハ 1 ンドンが「ひっこんだ胸」 ンの左手が右手にくらべて長いとい と形容したように、非常にうすく、 うことも、マルファン氏症状の一つ またその脚も、同時代人が「クモの の特徴である左右の不均斉に基づく 脚のよう」といったように長くて細ものだ、ということもわかった。 かった。 こうした調査の一方、シュバルツ しかし、これだけではまだリンカ博士はまた、遺伝子の方面からも、 ーンがたしかにその症状にかかって リンカーンのマルファン氏症状の由 いたと断定するのには不充分だと考来を立証しようとした。 えた博士は、さらに徹底的にその証 そのために博士は、さきの少年の 拠の探究にとりかかった。 両親や親戚を調べ、さらに昔へ昔へ そして、リンカーンに関するあら とさかのぼって行って、マルファン ゆる文献に目を通して、その中にマ氏症状の有無を調べ、エイプラハム ルファン氏症状を裏書きするものが ・リンカーンとの関連を調べた。一 ないかを探した。 ・リンカーンの側 方、エイプラハム その結果、リンカーンが遠視で、 からも、その子供や孫を探り出し、 しかも絶えずやぶにらみのような眼さきの少年の家系との関連をしらペ つきをしていたことがわかった。或その祖先へさかのぼって行って、こ いはまた、生涯に二度ダブル・ビジ の症状の起源を調べた。 ョンを経験したとともわかった。こ そしてついに、リンカーンから九 れらはいずれもマルファン氏症状の代前の祖先に当るモルディカイ・リ 一つの徴候である。 ンカーン二世を見つけ出した。 実際にリンカーンの両腕や両脚、 この人は、リンカーン家の祖先が 及びそれらの指の長さなどを測定し最初に米国に渡ってから四十九年後 て、それらが体の他の部分に比して の一六八六年に生れたが、生涯に二 長いことを立証することは不可能だ度結婚し、最初の結婚でジョンとい ったが、そのかわりに、リンカーン - う息子が生れ、二度目の結婚でトー が生前、メーン州の木こりの連隊を マスという息子が生れた。このジョ 見て、「あの中に私より腕の長いも ンがリンカーンの祖先に当り、トー のが居るとは思えん」と言ったこと マスの方が前記の少年の祖先に当る や、リンカーンが椅子に坐っている ことがわかった。そして、この両方 写真を見ると、ひざが尻の位置より ともマルファン氏症状を示していた もかなり上に来ていること等から、 のである。 その脚や腕が、極端に長かったこと かくて、このマルファン氏症状を をわり出した。 示す遺伝子は、モルディカイ・リン さらにリンカーンが大統領候補に カーン二世にさかのぼることが結論 指名された年、その手の石膏型がと されェイ・フラハム ・リンカーンがた られたことがあるが、それを見ても、 しかにこの症状の犠牲者であること 彼の指が極端に長くてやせているこ が立証されたのだ。 とがわかった。同しようにリンカー ( 近代宇宙旅行協会提供 ) ー 47

9. SFマガジン 1970年7月号

イは消化栓の前にきた。彼は立ちどま 0 てそれを走査した。 = レク「風船はいらないかな ? 風船をふくらませてみせようか ? 」 ト。 = ' ク・ビジ ' ンはまだ作動していたが、爆風の影響で多少ぶ少女は泣きだした。泣き声を聞きつけて。ビイの別の回路が反応 れを生じていた。 した。それが大きな広告効果をもたらした新開拓のサ 1 ヴィス装置 「やあ、子供さん」 0 ビイは声をかけた。そして暫くじ 0 と待 0 たであ 0 た。「どこがわるいのかね ? 困 0 たことがあるの ? そう、 のち、「きみはロがないのかね ? ほら、 いいものをあげよう。と迷子になったんだね ? 」 ってもおいしいポリロップだよ」 「そうよ、ロビイ。ママのとこへ連れてって 「おとりなさい」再びじ 0 と待 0 て言った。「きみにあげるのさ。 「じゃ、ここにじっとしてるんだよロビイはやさしく言った。 こわがることないんだよ」 「安心しなさい。おまわりさんを呼んであげるからね」そしてかん その時、別の客の出現で 0 ビイは注意をそらされた。あ 0 ちこ 0 高く二度呼びこを吹き鳴らした。 ちでよろよろと身を起すものがあり、そのすっかり変形した姿は、 しばらく過ぎた。ロビイはもう一度吹いた。窓が炎を吹き上け、 ロビイの解像器では定かに識別できなかった。 ごうごうと鳴った。少女は涙声で言った。「連れてってよ、ロビ 「水をくれ ! 」と叫ぶ声を聞きとって、ロビイが、「さわやかな飲 イ」そしてフー。フスカートについた小さなステップに飛び乗った。 み心地のポビイ・ポ ' 。フはいかがでしようか ? 」とすすめたが、二「十セントよこしてごらん」 0 ビイは言 0 た。 十五セント玉を手渡す者はいなかった。 少女は。ホケットを捜し、ロビイの手に十セント玉を渡した。 火のはぜる音は立ちの・ほるすさまじいうめき声にかき消された。 「きみの体重はね」ロビイが言った。「五十四・十五ポンドだよ」 窓々は燃え上る炎を映して再びきらきらと輝きはじめた。 「私の娘を見かけませんか ? 子供を知りませんか ? 」どこかで叫 道に転が 0 た死体から投げ出された腕や足をそ 0 とまたぎながぶ女の声があ 0 た。「あの。ポ ' トを見させておいて私が建物に戻 ら、少女がこ 0 ちに向 0 てきた。少女はわき目もふらずに歩いてくっているうちに リタ、ここよ ! 」 る。身に着けていた白いドレスと大人たちの大きな体に囲まれてい 「ロビイが助けてくれたのよ。少女が母親に話しかけていた。「迷 たおかげで、少女は閃光と爆風から身を護ることができたのだ。少子にな 0 たことロビイにわかったのよ。おまわりさんを呼んでくれ 女はじ 0 とロビイを見つめながら歩いてきた。さ「きのような輝きたけどこなか 0 たわ。あたしの体重を計「てくれたのよ。ねえ、ロ はその眼にはなかったが、勝ち気そうな表情を眼に浮べていた。 ビイ ? ・」 「ロビイ、助けてちょうだい。ママをさがしてほしいの」 だがロビイは、ビルの角をまわって進んでくる消防隊にポ。ヒイ・ 「やあ、子供さん。なにがほしいのかね。漫画の本かな ? キャンポ ' プを売ろうとして、そ 0 ちに向 0 て動き出していた。アスベス トの制服に身を固めた一団の姿は、鋼鉄製のロビイよりもかえって 9 「ママはどこ ? 連れてってちょうだい」 ロポットめいて見えた。

10. SFマガジン 1970年7月号

端齦 0 応響亠圏韲豊 C 員興 ニ ] ヴン ( ファンタジイ・アンド・サイエンス・フ なかれ的要素を持つようになるだろう。その傾の最高傑作として選ばれた作品は、つぎのとおりー イクション誌四月号 ) 向は、現にもうあらわれている。 長篇 7 、ミ H ミミミ・ D ミ * ミこ ( 闇の左翻訳してわずか四、五十枚の長さで、読者に強烈 なインパクトを与えるような傑作は、そうそう出る 今年三月十四日、ニューヨーク、ニューオーリン手 ) アーシュラ・・ル・グイン ズ、カリフォルニア州・ハークリイの三個所で、同時長い中篇ゝ B dH Dog ( 少年と犬 ) ハものではない。三篇とも小粒な作品だが、内容のヴ アラエティは、アメリカ界の現状を象徴するか ーラン・エリスン にアメリカ作家協会の総会が開かれ、そのパ / ヴェレット ティの席上、恒例のネビュラ賞が発表された。じつ中篇 Time C ミ ~ ト、べ H ミ洋ミ・のように色とりどりだ。 】グの受賞作は、筒井康隆の快 ( 怪 は、ここまで長い前置きを書いてきたのも、ネビュミ冫 P1 ミ。。、 ~ ) ( 準宝石の螺旋として考シルヴァーバ ? ) 作「トラブル」と似たアイデアを用いたラヴ ラ賞受賞作のラインナップに、アメリカ界の体えた時間 ) サミュエル・・ディレ】ニイ ハ 1 ト・シルヴァーストーリイだ。「トラ・フル」では、精神寄生体に乗 質改善のあとがありありと見てとれるような気がし短篇 P ま、 ~ ) ( 乗客 ) ロ。 りうつられた人間は、行動の自由がきかなくなるが たからだ。 一九六九年に発表されたのなかから、各部門受賞作のほか第三席までが発表されており、その意識ははっきりしていて、自分の行動を客観的にな なかで読み終えたものもあるのがめることができた。だが、ラ . ミ、 ~ g ミ、 . ・の宇宙生 ディレーニイ作「準宝石の : : 」所収のアンソロジイ で、それらと比較しながら短いも物は、気ままに乗りうつる相手をかえ、乗りうつつ ていたあいだの人間の記憶を奪い去っていく、彼ら のから順に紹介していこう。 が地球にやってきてから数年たち、人びとが彼らの 短篇部門 干渉にようやく適応したころの話だ。誰とも知れぬ 、き ge ) ( 乗客 ) ロ・、 ート女と寝た形跡のあるべッドで正気にかえった主人公 ンルヴァーく ーグ ( デーモン・は、やがて出かけた図書館で、ひとりの若い女に目 ナイト編のアンソロジイ 0 4 をとめる。精神寄生体がな・せそんなことをしたのか より ) わからない、だが彼女がさっきまで自分と寝ていた 二席 S/ ミ、、ミミト ~ 守 G . こ女に相違ないという記憶が、頭に残っているのだ。 G 。ミ ( ガラスの小鬼のように正気でなかったあいだの関係が、何かの拍子でわか 砕かれて ) 、 ーラン・エリスンったとしても、それを正常な生活にまで持ちこむの ( 0 ま ~ 、 4 ) はご法度とされている。けれどもその女に興味を惹 第 三席 ~ ミトミ Be. ト。ミ、かれた彼は、社会的なタ・フーを破っても、彼女と知 ごミ ( 終末も遠くない ) ラリイ・りあいになりたいと思いはじめる : WOR ー BEST FICTION 冊 69 THE YEAF'S MO 引 \MAGiNATlVE STOP!ES, BY 員 N ON FRITZ 旧田 8 田 T 引Ⅳ田既日 & N W. ALDISS 0 員 MDN 区 N and many more. ( じ