声 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1970年8月号
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1. SFマガジン 1970年8月号

の中にでかけていっている男どもーー・・・・逃れていたら、いまごろは小 だが、忘れるな、このちつぼけな鋼のかたまりが目の前にあ 屋の方にむかってきているにちがいない男どもーー・の上にとんだ。 るうちは、てめえなんぞへのかつばだってことをな」 海獣は、男たちが海の怪物どもの魔手を逃れているはずがないとい 彼はおっとり、自信ありげにリポル・ハーをゆらゆらさせた。海獣 う自信が、実際にはまったくないのだった。 は緊張して考えたーーもしおれが本来の姿に立ちかえられれば、あ その思いもまた、強引にわきへ投げやられた。そしていま一度、んな拳銃があったってやつを殺すことはできる。しかし、おれは二 この小屋から出ていくこと 海獣の異状なまでの精神力は、両わきに安全な距離を保っている二度ともとの姿にかえることができない、 人の男に集中した。コーリスとその仲間が帰ってこないうちに脱出もできないのだ。このままでは、につちもさっちもいかないのだ ! を敢行するためには、二分以内に死んでもらわねばならない二人の アメリカ人が喋っているのに海獣は気がついた。 田刀に。 がいったことぐらいじゃ、ものたら 「いい力い、おれにはデントン 二分 ! こんなことになってから半時間たらずのあいだに百度目ねえよ ! おれはこれまで、なんだってやらねえことはなかった。 にもなるだろうか、海獣はそのつめたい値ぶみするような視線をふそれにしてもよ、ペラタンってやつはそりやいい野郎だったな。あ たりの男にむけた。 いつの死にざまがおれにや気に入らねえ。おれはな、もうてめえが なにかおつばじめてくれやしねえかと、うずうずしてるんだ・せ。そ デントンは、小さいがっちりした造りの、自分の寝棚の端に腰か けて、極度に神経を昻ぶらせ、さかんに足の位置を変えては身体をうすりゃな、そこのデントンとーーーおれとでよーーーてめえのどたま にナマリがとびこむのがおがめるってもんだ。なあ、デントン 動かし、手にした底光りするリポル・ハーを休みなく執拗に、いじく ったりくるくる回したりしている。彼は、海獣のその値ぶみする視ーとび色の目をギラつかせ、べしゃんこの鼻をふくらませて彼は半 「ひと思いに殺っちまってよ、コーリスにはやっ 線を捉え、身をかたくした。彼の唇を咆えるようについて出たこと身になった。 しいんじゃないのか ? 」 ばは、この小男の英国人が冷酷なやりてだという海獣の評価をさらが逃らかろうとしたんだといや、 「だめだ ! 」デントンはかぶりを振った。「おつつけコーリスが連 に強めただけだった。 「ちょっ ! 」デントンはいった。「その目つきはなんでえ。なにか中と一緒にもどってくるはずだ。それにな、おれはなんにもしない おつばしめたいってかいてあるぜ。だが、よすんだな ! おれはこやつを安らして、人殺しになりたくはねえ」 「ふん ! - と、タレイトンは荒つ。ほくぶつくさいった。「人殺しを のあたりの海を二十年もほっつき歩いてきた。いいかい、そのあい だに、タフでやっかいなやつらをうんとあしらってもきたんだ。て殺らしたって、人殺しになりやしねえよ , リキ めえにおれを八つ裂きにできるほどの力があるってことは、いわれ海獣は不安な目でデントンを見守った。やつはリポル・ハーを持っ るまでもねえ , ーー今朝、プロギュを手玉にとるところを拝ませてもている。それさえなければどうということはなかった。海獣は、お 5 らったからな。てめえになにができるかってことは知ってるつもりそろしい努力を払ってなにげなくいった。 はがね

2. SFマガジン 1970年8月号

た。ことほどさように、彼らもまた一心同体となって、その絶望的艇は身震いし、薄い堅い板材の一枚一枚がきしんだ。頭上はるか上 な・ハランスに体重を傾けたのだった。 空には、くまなく広がった漆黒の雲がうねっていた。彼らが一心不 6 かくして艇はいま一度体勢を立て直し、水面を切って進みつづけ舌冫 しこ、ランチを砂浜の小高いところに引き上げているとき、最初の はやて こ 0 疾風がさながら大ハンマーの一撃のごとく、彼らに海水を吹きつけ 「速度をおとせ ! 」コーリスがどら声で叫んだ。「そして、探照灯た。コーリスが絶叫した。 を海中にむけるんだ。このあたりを調べてみなくちゃならん」 「いそげ、いそぐのだ ! ふっ飛ばされそうな物は持って、全速で だれかが探照灯の装置を巧みにあやつった。その光茫が潟の海中小屋に行け。あの悪魔にはデントンとタレイトンが残してあるだけ へと突っ走る。あまりにも煌々たる輝きと反射に、コーリスは一瞬だ。どんなやつを相手にしているのか知らないのだから、彼らに勝 目がくらんだ。と、そのとき てる見込みはないそー そのとき彼は、思わずあとずさった。生涯を通じて決してこの恐車軸を流すような豪雨が彼の顔に、身体にどっと襲ってき、背を むけることができないうちに地面に叩き倒されそうになった。長い 怖を忘れることはないだろう。眼下のどす黒い海中に、身を転じ、 ひねり、のたうち、波わき立たせている悪夢の姿、姿、姿の、背筋まばらな一列をなして、怒り狂う暴風を逃れようと一目算に駆けて も凍る恐怖だった。 いく男たちの背に、豪雨と疾風はむちのように情容赦なく襲いかか 青ざめた光の照射に、あたり一面、蝟集する鮫が浮き出された。 三角形のひれをきらめかせ、身をひねり、のたうつ巨躯。長い、邪 悪な魚雷形の姿数百。いや、幾千といおうか ! 海獣が体をこわばらせ、神経をはりつめて小屋に坐っていると、 目をいつばいに見張って見守るうちにも、コーリスは、どこかそ表から疾風の咆哮がきこえてきた。ただ逃げることにのみ傾けてい の辺であの土人の肉体がポロポロに引き裂かれているのだというこるその緊張した、ふつふっと煮えたぎる感覚には、木製の寝棚が並 とに気がついた。彼は、この巨魚の壁にランチがぶちあたり、まるぶこの仄暗い小世界は異様で、非現実めいていた。やくざな造りの で病んだ生きものかなにかのようによろめくのを感じた。仁王立ち建物の、壁にある裂け目から押し入る猛り狂った隙間風に、天井か になったオランダ人が舵輪を矢のように回転させるのが見えた。艇らぶら下ったランプの黄色い光がまたたくたびに、周囲の壁に不気 味な黄色い影がちらちらゆらめいた。 がよたよたと万向を転じつっ立ち直った。 「ひきかえせ ! 」コーリスがどなった。「このままじや生命があぶ やがて、どづと雨がきた。そのすさまじい乱打に頭上の屋根がい ないそ ! 浜へむかうのだ ! 渚に艇を引き上げろー・やつらはおまにも粉砕されそうだった。だが、少なくとも屋根だけはできがよ れたちを転覆させようとしているのだ ! 」 雨漏りはしてこなかった。そうして嵐に思いを馳せていた、海 海面が渦まき、わきかえった。モーターが動力をあげ咆哮した。獣の追いつめられ逆上した心は、いきなり、このものすごい暴風雨 か・せ

3. SFマガジン 1970年8月号

いつは燃えるような思いで考えていたのだった。「群島からきた土 いった。「ということは、きみがあいつの島か、その近辺の島から やってきたのだということになる。あいつはきみを怖れていたな。人はきっと、あらしに吹きもどされてくるだろう。コーリスがここ あのびくつきようは尋常じゃなかった。とっさに、きみと同類の一であらしをしのがせてやるといったことを憶えているにちがいな 。そして、白人は強くもあるということを知っているはずだ。怯 団の手におちたと判断したのだ。。フロギュのいったとおりだった。 カひとこといっておく ! えて、おれの正体をばらしてしまうだろう。こうなっては、とるべ 厄介なお客さんをかかえこんだものだ。。、、 われわれは、きみがこれまでに出くわしたうちでも、最も荒くれたきてだてはひとっしかない ! 」 もうかなり暗くなっていた。島と海面におしかぶさってくるたそ 連中の寄り集まりだ。きみがペラタンを殺ったと、まだ信じている わけじゃないが、これからは二度と仲間のひとりだけとの行動は控がれの中に、土人の姿がかろうじて認められた。海獣は、海水がぐ えてもらう。あらしがおさまり次第、われわれはきみを群島へ連れ ーんと盛りあがり、それが小滝となって崩れ落ちたところへ、足早 ていって、これがいったいどういうことなのか、つきとめるつもりに歩いていった。潟はこのあたりは深く、岩肌がほとんど垂直に海 中に没している。海獣は、わきかえる海水の飛沫をあげて身をくね ゃぶから棒に彼はその場を去った。だが海獣は、彼がいなくなつらせはねあがった鮫を一心に見つめた。そのはねかえりの音と崩れ コーリスの近づいてくる足音はかき消され てしまったということ以外ほとんどなにも気づいていなかった。そ落ちる水のさわぎに、 世界情報 スらとのなナナこフいで飲喉法リななよがなれの特現にいな , 家ろく考を 深ョに ? れとのわ 1 はシ剣かさ名ざスてクのつ部はワワ。やと会がい違マはれしな妙そも , て剣ていで作だいはれし 。をリし真っがかた てれそま でク真う載 cn 匿わクつるもず一でリリ , ロ , 大なぽははでさ止え えそどる こははうママと。フるんっナとの究禁与にる性スそも扱ちなし 。ると カイにろ掲 しののそ , , るむいみらワ。びる研ををろ。あ女ク。とをにのをたい変 , ほあ リフ題だにでるゆを メ , がリだ人いにリ楽こかがはがだつれ態 , ってうがに ( 問る号かいわ場お絶たるはりよ住て 斉アがのあ月Ⅸなてい立にをえい心であににつにといマ者てらス快との任ナだのもそ状験だしどだか 覚のだこに 6 のしがなカ像・ほて今イで話 , すうる , ん罪れさクのいい責ワ。もを。酔実評透を。 , ほ いな響う陶。好浸会いしは 日。どか年ルを彼的リ想おっ・、テいの市をよれくろ犯う怖もが上ななもリ 幻今るほほ本クけ , 定メはを持一勢人都ナるかなちはいに後と以かはにマなめ影ろののる , に社なだ野 い , 誌 g イかは肯ア透ナをたパる友大ワす開はものは上今び酒ひで説やれじすだ、ナげし会のき題分 とはてがク・山テいのば , 浸ワ味。のわのるリ明がで。も家以は人がにら小 Q わま・ほしワあ成社間で問な 一問るえとのリ趣たちか彼あマ証イルけう作要響 , れとかの (f) 使と及多リき完す人想る利 っ , 野ッ るナマないたてるのがをテ一だすの必影がそある般»-äかつに , んマ書はま , 予あ有 なり分ィアないい tn とぎるテ 3 うんてとよワがんて者つい岸上れ一ビラをそをのい , にえ一 , しも会はば , 冊品す来く分に や題かいスし 、そしかにリ身それ係とて洋以そパゃ一れとへなはう・ほははに , 社のちは 1 作また十の ナ問るでタ•öとが隠ら。家マ自時ら関にし平分。のはコそ体らのよおでで段はがるいにをはがつのる ワ会すんン , 家をちだ作に彼当限ルを太半だけもす , 人なるのを点説手剤れいがかリれま値け リ社関くアるリ作名どらの特。 , に TJ 一人 ( のとだはやらがや。ばす酒感の小る覚そて品なるスそ , 価か いで間。ビ売市ンこロのいかだナかれと , 悪そのす幻 , え作。篇いク。はる、 マなにりフいス本 , かこ 刻ンとてクざにるリし昔人いがののアう。フむをだワいけうら罪らにに在考るい長もうかえ問 ( や 6

4. SFマガジン 1970年8月号

ことがわかったね ねえ。それだけのこってす」 やがて、死の静寂の中で、海獣はふたたび腰を下し、また食べは彼はテー・フルを回っていった。あの見知らぬよそ者にああもやす じめた。その脳髄は、気絶した男のあとからとびかかっていって八やすと、赤子の首でもひねるように手玉にとられたのに、この大男 っ裂きにしてやりたいという、残忍な欲望に渦まいていた「おそろがほかの連中からの敬意をいささかも失っていないのはおかしなこ しいまでの努力を払って、そのはげしい火と燃える渇望を抑えた。 とだとコーリスは思った。プロギ、が恐怖のあまりおとなしくなっ この荒くれ男どもに深い感銘を与えたことには気づいていた。 たのだという感しは微塵もなかった。というのも、恐怖など彼には 薬にしたくもないことは、自明のことだったからだ。 コーリスにとってその静寂は重々しいものだった。天井からぶら ぶつくさいいながら椅子にへたりこむと、彼はおそろしい早さで 下ったランプからあふれるオレンジ色の光が、荒づくりのテー・フル食物を口に運びはしめた。コーリスは、男たちのあいだに起った溜 を囲む緊張した顔、顔、顔を奇妙に、ぞっとするばかりに化物じみ息・・ーーかすかにフーツというききとれるほどのーーに合わせて、思 て見せていた。左手の窓から暁の曙光が洩れこみ、薄汚ない床の上わず自分も溜息をついていた。堀立小屋の食堂がぶつつぶれ、修羅 にたまりをつくっているのにも、彼は半ばうわの空で気づいている場と化す場面を想い描いていたのだった。 だけだった。 男たちのひとり 日焼けしたフランス人のペラタン がせき 表から、プロギ = の荒っぽく、身体にこびりついた土のよごれをこんでいった。そのあまりのせきこみかたは、その場の雰囲気をや こすり落している物音がきこえてきた。兇暴な感しを伴った、屈辱わらげようと苦慮するあまり、思い浮かんだことをいい出した、と に狂い、はげしい、抑えがたい憤懣をぶちまけた、怒りの所作からそんな感じだった。 くる物音だった。しかもコ 1 リスは、このオラソダ人がどう出てく「大将、おれたちふたりで、きのう見たあの怪物がもう海面に浮か るか予想つかぬ男であることを知っていた。 んでるかどうか、見てきたほうがいし 、と思うんですがね。おれがや プロギの仏頂面が入口から中をのそきこんだとき、コーリスはつの眉間のどまんなかにぶつこんでやったことは、絶対に誓っても つかの間息をのんだ。やがて男は入ってきて、その巨体がそびえる いいです。おれが見たのにまちがいはありませんぜ , ように突っ立った。コ 1 リスは、重々しい命令口調で、語気鋭く 「怪物 ! 」テー・フルの端にいる長身痩軈、やせた顔の男が叫んた。 っこ 0 「いったいなんのことだ ? 「プロギュ、おれに見離されたくなかったら妙な真似はするなよー 「二号ポートから見たんだそうだ ! 」コーリスが手短かに説明し オランダ人は、黒ずんだ顔をゆがめ、険悪な光をたたえた目をヒ た。「ペラタンがゆんべおれにそのことを話していたが、おれは眠 タと彼に据えた。「別になんにもしやしませんよ。やつの方から突たかった。なにかこう、ひれのある大 = イみたいなでかい怪物のこ 9 つかかってきたんですぜ。だが、やつばり野郎の目つきは気に入らとだったけな」

5. SFマガジン 1970年8月号

獣は水中から這い出し、その人間の肢でしばし突っ立ち、まる震えながらひとあえぎして、海獣はその人間の口から喉もとへと で酔 0 てでもいるようにぐらぐらと揺れた。なにもかもがいかにも息を吸いこんだ。と、だしぬけに、なかば魚の状態に立ち返 0 たそ ぼんやりかすんで見えるのは奇妙だった。心が黒く霧につつまれ、 のつかのまをすぎて、大気は奇妙に不愉快なほどひからびて熱く感 そいつはその人間のからだに、足下の砂の、つめたい取れた感触じられたーーーはげしい窒息感 , ーー苦しい咳の発作に襲われて ( む に、順応しようと戦った。 せ、白い泡の霧を吐き散らした。そいつは、そのかたい人間の指で 首をかきむしり、その場に突っ立ったままじりじりと目の前にのし 背後では、波が月光に映える渚にあたってささやいている。 かかってくる暗黒から抜け出そうとあらがった。 そして前方には そいつが化身していたこの人間の体に対する痛烈な怒りが、つめ 前方の暗い世界にじっと見入りながら、そいつは妙な頼りなさを お・ほえた。気がすすまない。水際を離れることが胸をしめつけられ」たい魚の神経にそってわななき走った。この新しいすがたかたちを るように、陰うつなまでにいやなのだ。耐えがたい、だがまったく嫌悪したーー二本の足、二本の腕、小さなぞっとするばかりの球形 避けがたい目的のためには前進する以外選択の余地が残されていなの頭と蛇のような首のつくり、それらがひょわな骨と肉からできた いことに気づいたとき、その人間の体に張りめぐらされた魚の神経かたまりに頼りなくつながっている、この度し難い代物。それは水 に、痛みをともなった不安がのたうった。そのつめたい魚の脳髄にの中で役に立たなかったばかりか、およそどんな目的にも適わぬも おそ ののように思われた。 怯れがちらとでも浮ぶことなど、かってはありえないことだった。 筋肉をこわばらせて、お・ほろにかすむ島の広がりにじっと瞳を凝 だが、それなのに ひとりの男の、太いしやがれたばか笑いが不気味な夜の大気を震らすとき、そんな思いは消え去っていた。つい近くの暗がりが怪し わせたとき、海獣は身をわななかせた。ゆるやかな、生暖い風に運く濃さをまし、いちだんと暗くなっていたーー・ー木立 ! ずっと遠く にも同じようにひときわ黒ずんだところがあったが、それらが木立・ ばれてくるそのひびきは遠いためにあやしくゆがめられていた - 」うこう はたまた建物なのか ! 見定めることはできな 皓々たる月光をふり注ぐ夜の薄闇を通してサンゴ礁の向こう側からなのか丘なのか 突きささってくる、肉体を離れた、唸りにも似た笑い。それに反応かった。 ひとつだけは、まごうかたなく建物だった。おぼろなオレンジ色 して海獣の喉もとをこわばらせるような、耳ざわりな、傲慢な笑い だった。らめたい残忍な嘲笑いがそいつの人間の顔の筋肉を引きしの光がぼつんと、その低い横に延びた建物の人口から洩れていた。 めると、つかのま、それはそっとするばかりのゆがんだ虎鮫の顔に海獣が不気味な目つきで見守るうちに、影がひとっ光の前をよぎつ かおだち 変った。人間の容貌をわずかにとどめたけわしい、どうもうな顔だた。人影だ ! はがね った。鋼のような歯が、餌物にとびかかるときの鮫のそれさながら あの白人たちは、近くの島々に住む褐色の原住民とはおそろし に、がぎりと金属的な音をたてた。 く「信じられないほどちがっていたまだ夜明けでもないのに、も

6. SFマガジン 1970年8月号

THE SEA THING 海魔 A ・ E ・ヴァン・ヴォクト 訳 = 関口幸男画 = 金森達 そいつは海からやってきた 一族を狩りたてる人間どもへの 限りない憎悪と復讐の炎を 身のうち深くたぎらせながら " ン・をー

7. SFマガジン 1970年8月号

「かれらが戻ってきたら」と実業家は精力的に言った。「協約は守商人は言った。「みんな並んで見送っているそ。みんなだ。近く りましよう。そればかりではない、世界にかれらを受けいれさせるによりすぎてはいないだろうか。この段階で、ロケットの噴射であ よう、運動しましよう。わたしはまったく誤っていましたよ、先いつらが一人でもふっとんだりしたらまずい」 生。かれらは殺人誘発的言行のもとにさらされながら、子供たちを「安全です」 傷つけることをいさぎよしとしなかったとは、まったく見上げたも「恐ろしい姿をしているものだ」 のです。しかし、何というか こんなことは言いたくはありませ「中身は、気持のいい連中ですよ。かれらの思考はまったく友好的 んがーーー」 です」 「何です ? 」 「それはどうだかな。あの若いやっ、おれたちを拾いあげたやつは 「子供たちですよ。先生のところの坊ちゃんとうちのと。わたしは かれらを誇りに思いますね。何しろあの生物を捕えて、餌をやった「みんなレッドと呼んでいた」 のだかやろうとしたのだか、こっそり飼っていたとは。おどろくべ 「怪物にしては妙な名前だ。笑わせるよ。おれたちが飛びたってし き大胆さですかれらをたねにサーカスに雇ってもらうつもりだっ まうのを残念がっているな。な・せだかよくわからんが。どうやら推 たとレッドのやつが言っておりましたが。いやはや ! 」 測すると、何というのか、何かの組織に入れなかったのが残念らし 天文学者は言った。「若さ ! 」と。 いな」 「サ 1 カス」と探険家は素気なく言った。 「なに ? 何という無礼な怪物だろう」 「どうして ? あなたにしたって、もしかれが、あなたの生まれ故 裔人は言った。「すぐに飛びたてるのか ? 」 郷でうろついているのを見つけたらどうしますか、地球の野原で、 「半時間 . と探険家はこたえた。 赤い触肢と、六本の足と、偽足をもったかれが眠っているのを見つ 帰路は寂しい族になるだろう。十七名の乗務員は全員死亡、かれけたとしたら ? 」 らの骨は異郷の星のもとに埋められることになるだろう。二人は不 4 具の船で、操縦の重荷はかれ一人が背負って、帰らねばならないの 商人が言った。「見事なかけひきだったな、子供に怪我をさせな レッドは船が飛び去るのを見送っていた。かれの仇名の由来であ かっ、たのは。これでたいへん友好的に事が運ぶだろう、友好的に」る赤い触肢が、土壇場で失われたチャンスを惜しんで震え、触肢の先 探険家はった、かけひきかー についた目は地球人の涙に相当する黄色い水晶玉をうかべていた。 3 4

8. SFマガジン 1970年8月号

スリムが言った。「待って ! 」 9 レッドはほっとした。「何かが噛みついたとでもいうのかい ? 」 3 「片方のやつが何かをもっているよ、鉄みたいなもの」 かれらを〈惑星の住民〉として見るのは、また別だった。動物と「どこに」 してなら、おもしろかった。〈惑星の住民〉として見るのは怖しか「ほら、そこ。前にも見たけれど、体の一部かと思っていたんだ。 「た。かれらの目は、天色のかわいい目だ「たが、いまは、あらゆでもこれが〈惑星の住民〉だとすると、これは砕解銃だ」 る敵意を宿してこちらを見つめているように思われた。 「何だって ? 」 「何か音をたてている」とスリムがささやいた。 「戦前の本で読んだことがあるんだ。宇宙船にのってくる連中は、 「何か喋っているんだろ」とレッドが言った。前にも聞いたそれら たいてい砕解銃をもっているんだって。これに狙われると、体がこ の音が、以前には何の意味ももたなかったというのは奇妙なこと つばみじんになってしまうんだ」 だ。かれは一歩も前に出られなかった。スリムも同様だった。 「いままではおれたちを狙ってやしなかったよ」とレッドはうわの おおいは取りのけられたが、かれらはただ見つめるばかりだっ 空で指さした。 た。ひき肉に触れた形跡がないのにスリムは気づいた。 「そんなこと知るもんか。ここにいてこつばみじんになるのはごめ スリムは言った、「何とかしないのか ? 」 んだよ。とうさんを連れてくるよ」 「お前は ? 」 「おくびよう猫。腰ぬけのおくびよう猫 , 「きみが見つけたんだろう」 「いいさ。何でも好きな名前で呼ぶがいいや。だけど、いま、こい 「こんどはお前の番だ」 つらに手出しをするとこつばみじんにされちゃうそ。待っていたほ 「そんなことないよ。きみが見つけたんだもの。きみの責任だよ、 A つ、力「しし 、よ。それからこれはみんな、きみの責任だからね」 みんな。ぼくはただ見ていただけだ」 かれは納屋の表戸に通じる狭いらせん階段の方へ駈けよったが、 「お前だって仲間に入ったじゃよ、 オしか、スリム。それはわかってい 降り口で立ちどまると後じさりをはじめた。 レッド るだろうな」 の母親がの・ほってきたのだ。はあはあ息をきらせながら、 「知るもんか。きみが見つけたんだ。みんなが・ほくたちを探しにこ客であるスリムに硬ばった笑顔を向けた。 レッドー 「レッドー こへ来たら、ぼくはそう言うよ」 あんた、そこにいるの ? かくれてもだめ レッドは言った。「いいよ、わかったよ」その結果がどうなるかよ。ここにあれを隠してあるのはわかっているんですからね。あん という考えがとにかくかれを勇気づけた。かれは籠の戸に手を伸ば たが肉をもってここへ駈けこんだところをコックが見ているんだか ら」

9. SFマガジン 1970年8月号

やがてレッドは連れの方をさっとふりむいた。「お、 もたらすものにふさわしく大真面目だったかれはやっとこう言っ 何で、おれたちが動物に餌をやるなんてこと、うちのとうさんに言た。「へえ」 ったんだ ? 」 「それで、ぼくたちが、ぼくたちどうしよう ? もしみんなに見つ 「言わないよ。ぼくはただ動物にはどんな餌をやるのか説いただけかると、おしおきされるよ ! 」かれは身震いをした。 だ。動物に餌をやっているということと同じじゃないよ。ちがうこ「話したほうがいいよ」とレッドは言った。「・ほくらのこと、あい とだよ、レッド」 つらが喋るよ」 だがレッドは忿懣やるかたなかった。「それにさっきはどこに行「おれたちの言葉は喋れないから大丈夫だよ。もしよその惑星から ってたんだよ ? 家に帰ったものだとばかり思ってたのに。みんきたのなら」 な、お前がいないのはおれのせいみたいに言うんだから」 「それが、喋れるんだ。とうさんが、ぼくがそばにいないと思っ 「だから、そのことを話そうとしているんだよ、きみが一秒でもだて、かあさんにそんなようなことを喋っていたのをお・ほえているん まって、ぼくに喋らせてくれればね。きみは友だちに話す機会をあだ。頭の中で喋ることができるよその惑星のやつのことだ。テレバ たえようとしないんだから」 シイとか何とかいうんだ。・ほくはそのとき、とうさんがいいかげん なことを言っているのかと思ったけれど」 「じゃあ、話せよ、そんなに話したいことがあるなら」 「話すったら。ぼく、宇宙船のところへ戻ったんだよ。だれもいな「へえ、おどろきだな。まったくーーおどろきだよ」レッドは顔を かったから、もっとよく見たかったんだ」 あげた。「そうだ、うちのとうさんが、あれを始末しろと言ったん 「あれは宇宙船じゃないよ」とレッドは不機嫌に言った。かれは意だ。どこかに埋めるか、溝の中に捨ててしまおう」 「とうさんがそうしろと言ったのかい ? 」 地になっていた。 「そうだってば。ぼくは中を見たんだよ。舷窓から中が見えるん「おれが動物を飼っていることを白状させてね、『始末してしまい ・こ。だから・ほくは中を見た、そうしたら、死んでいたんだ」かれは なさい』と言ったんだ。言われた通りにしなくちゃな。だって、か 気味の悪そうな顔をした。「みんな死んでいたよ」 れはおれのとうさんだからな」 「だれが死んでいたって ? 」 スリムの恐価はいくらかうすれた。これならまったく合法的な解 スリムは大声でわめいた。「動物だよ ! ・ほくたちが飼っている決だ。「じゃあすぐにそうしよう、見つからないうちに。。ああ、見 動物にそっくりなんだよ ! あれは動物じゃない。よその惑星からっかったらたいへんだぞ ! 」 きたやつだよ」 かれらはロには出さぬが心におそろしい場面を思いうかべ、納屋 に向って駈けだした。 束の間レッドは石のようになった。この時点でスリムを信じまい という気持はおこらなかった。スリムはこのような重大な知らせを 7 3

10. SFマガジン 1970年8月号

あなた、コックをよくご存知ですわね。お昼のお献立を変えなくちるの時間だって言ったんです。・ほく、『もうそろそろ、ひるめしの ゃならないということは、コックがこの先一週間使いものにならな時間だよ』って言いました。それから『うちに戻ろうよ』って言い ました。するとあの子、『うん』と言いました。だから・ほく、その いということですわ。レッドによくおっしやって下さい、あなた、 台所で二度といたずらをしないように。あの子にコックにあやまるまま歩いていたんです、溝のところまで来てうしろをふりかえると ように」 「まあまあ。コックはわれわれのために働いているのだ。もし昼の天文学者が、ばらばらとめくっていた雑誌から顔をあげ、このと りとめもない饒舌をさえぎった。「伜のことなら心配してはおりま 献立にわたしたちが文句を言いさえしなければ、別に困ることはな せんから。あの子は独立独行のたちですから。昼食はお待ちになら いだろう ? 」 ・「でも、二度手間をかけさせられるんですから、辞めたいなんて言ないで下さい」 「いずれにせよ昼食はまだできておらんのですよ、先生」実業家は っていますの。腕のいいゴックはなかなか得がたいですわ。この前 ふたたび息子に向きなおった。「そのことだがね、坊や、昼食がま のコックをおばえていらっしやるでしよう ? 」 だできない原因は、その原料が消えてしまったからた。何か言うこ これは強力な説得力があった。 実業家はそわそわとあたりを見まわして言づた。「きみの言う通とがあるかね ? 」 りだ。あの子はここにはいない。帰ってきたらよく言ってきかせよ「え ? 」 「とうさんの口から説明しなくちゃならんのはどうも気が進まんの う」 だがね。なぜびき肉をとっていったのかね ? 」 、「すぐおっしやって下さい。まいりましたから」 「ひき肉 ? 」 レッドは家に入ってくると快活に言った。「昼食の時間でしょ 「びき肉」かれは辛抱強く待った。 う」かれは一座のものの凝視にあづて首をすくめ、両親と客をうか レッドは言った。「あのう、ただ がうように見た。「でもさきに手を洗ってこなくちゃ」とかれは言 づて、別のドアに近づいた。 「腹がへっていたというのか ? 」と父親は促した。「生の肉を ? 」 「ちがいます。ただ入用だったので」 実業家ば言った。「ちょっと待ちなさい、坊や」 「何のために ? 」 「はい レッドはみじめな顔でかたくなに沈黙を守った。 「お前の友達は ? 」 レッドば無頓着そうに言った。「どこかにいるでしよ。、 天文学者がふたたびくちばしをはさんだ。「ロをはさんで中しわ に歩いたんだけど、いつの間にかいなくなっちゃった」これはまつけありませんがーー・朝食のあとで、うちの伜がやってきて、動物は 5 たく真実だづたので、レッドは安全圏にいると思った。「もうおび何を食べるかとお訊きしておりましたね」