彼女はそちらへ行きかける実業家の敏捷な動きをさえぎった。か レッドは震える声で言った。「やあ、かあさん ! 」 の女は言った。「あなた、行ってはなりません。だれかに鉄砲をも 「そのきたならしい動物をお見せ。すぐに捨てさせますからね」 たせてやって下さい。あんなもの、いままで見たこともありませ 助かった ! さしせまった体罰の恐ろしさにもかかわらず、レッ ドは、重荷が肩からおりたような気がした。少くとも決定権はかれん。小さな恐ろしいけものでーー何かをーー何かをーー何といって いいのかわからないけれど。レッドがあれにさわって餌をやろうと の手からはなれたのである。 したと思うと。あの子は、あれを抱いて、餌をやったんです」 「ここだよ、かあさん。おれ、こいったちに何もしなかったよ、か レッドが口をきった。「おれは、ただー・ーー」 あさん。知らなかったんだもの。何だか小さな動物みたいに見えた そしてスリムが言った。「そうじゃなくてーーー」 から、飼ってもいいってかあさんが言うかと思ったんだ。ひき肉だ ってとりやしなかったよ、こいつらが草か木の葉か食べててくれれ実業家が性急にくちばしを入れた。「さあ、きみたち子供は今日 はもう十分に悪いことをした。進め ! 家の中へ ! もう一言もい ま。でも木の実や草の実が見つからなかったんだ。それにさ、コッ うな、一言も。きみたちの弁解はいまは聞きたくない。みんなおわ クのやつは、おれがくれって頼んだって、・せったいくれつこない ってから話をきこう。それから、レッド、 お前は、それ相応の罰を し、あの肉が昼めし用のだなんてちっとも知らなかったからーーー」 かれは恐怖にかられて一気に喋りつづけ、母親がかれの言葉など覚悟しておけよ」 かれは妻をかえりみた。「さあ、その動物が何だろうと、殺さね 聞いてはいず、凍りついたように籠を凝視し、絹をさくような悲鳴 ばならない」子供たちに聞こえないところまでくるとかれはもう一 をあげはじめたのにも気づかなかった。 度やさしくつけくわえた。「さあ、さあ。子供たちは傷つきはし ない、それにあの子たちも何も恐ろしいことをしたわけではない。 ただ新しい。ヘットを探してきただけだよ」 天文学者は言った。「そっと埋めてやるのが一番よいでしよう。 天文学者がぎごちなく口を開いた。「おそれいりますが、奥さ いまさら公けにしてみてもはじまりません」そのときかれらは悲鳴ん、その動物の形を説明してはいただけませんか ? 」 を聞きつけたのである。 夫人はかぶりをふった。とても言葉には言いあらわせない。 夫人は転がるように走ってきたが、かれらのもとにたどりついた「ことによると、それはーーー」 ときも、すっかり正気をとりもどしてはいなかった。 / 彼女の夫が正「申しわけないが」と実業家は弁解気味に、「妻はとりみだしてお 気にたちもどさせるまでに数分を要した。 るようなので、ひとまずここは ようやく彼女はロがきけるようになった。「あれが納屋にいるん「ちょっと、どうか、ほんの一分でよろしいのです。奥さんは、あ 9 です。あれ、何だかわからないけれど。でも、でもーー」 んな動物はいままでに見たこともないと言われましたね。こちらの 0
やがてレッドは連れの方をさっとふりむいた。「お、 もたらすものにふさわしく大真面目だったかれはやっとこう言っ 何で、おれたちが動物に餌をやるなんてこと、うちのとうさんに言た。「へえ」 ったんだ ? 」 「それで、ぼくたちが、ぼくたちどうしよう ? もしみんなに見つ 「言わないよ。ぼくはただ動物にはどんな餌をやるのか説いただけかると、おしおきされるよ ! 」かれは身震いをした。 だ。動物に餌をやっているということと同じじゃないよ。ちがうこ「話したほうがいいよ」とレッドは言った。「・ほくらのこと、あい とだよ、レッド」 つらが喋るよ」 だがレッドは忿懣やるかたなかった。「それにさっきはどこに行「おれたちの言葉は喋れないから大丈夫だよ。もしよその惑星から ってたんだよ ? 家に帰ったものだとばかり思ってたのに。みんきたのなら」 な、お前がいないのはおれのせいみたいに言うんだから」 「それが、喋れるんだ。とうさんが、ぼくがそばにいないと思っ 「だから、そのことを話そうとしているんだよ、きみが一秒でもだて、かあさんにそんなようなことを喋っていたのをお・ほえているん まって、ぼくに喋らせてくれればね。きみは友だちに話す機会をあだ。頭の中で喋ることができるよその惑星のやつのことだ。テレバ たえようとしないんだから」 シイとか何とかいうんだ。・ほくはそのとき、とうさんがいいかげん なことを言っているのかと思ったけれど」 「じゃあ、話せよ、そんなに話したいことがあるなら」 「話すったら。ぼく、宇宙船のところへ戻ったんだよ。だれもいな「へえ、おどろきだな。まったくーーおどろきだよ」レッドは顔を かったから、もっとよく見たかったんだ」 あげた。「そうだ、うちのとうさんが、あれを始末しろと言ったん 「あれは宇宙船じゃないよ」とレッドは不機嫌に言った。かれは意だ。どこかに埋めるか、溝の中に捨ててしまおう」 「とうさんがそうしろと言ったのかい ? 」 地になっていた。 「そうだってば。ぼくは中を見たんだよ。舷窓から中が見えるん「おれが動物を飼っていることを白状させてね、『始末してしまい ・こ。だから・ほくは中を見た、そうしたら、死んでいたんだ」かれは なさい』と言ったんだ。言われた通りにしなくちゃな。だって、か 気味の悪そうな顔をした。「みんな死んでいたよ」 れはおれのとうさんだからな」 「だれが死んでいたって ? 」 スリムの恐価はいくらかうすれた。これならまったく合法的な解 スリムは大声でわめいた。「動物だよ ! ・ほくたちが飼っている決だ。「じゃあすぐにそうしよう、見つからないうちに。。ああ、見 動物にそっくりなんだよ ! あれは動物じゃない。よその惑星からっかったらたいへんだぞ ! 」 きたやつだよ」 かれらはロには出さぬが心におそろしい場面を思いうかべ、納屋 に向って駈けだした。 束の間レッドは石のようになった。この時点でスリムを信じまい という気持はおこらなかった。スリムはこのような重大な知らせを 7 3
「ああ、そうそう。すっかり忘れていましたよ。さあ、一レッドど ) 昼食が半ばにさしかかったときスリムが食堂にとびこんできた。 こかで捕えてきた動物にそれをやったのかね ? 」 一瞬どぎまぎしたように立ちどまったが、やおらヒステリックな調 3 かれは憤然として言った。「スリムがここへ来て、動物を飼って子で喋りだした。「レッドと話したいんです。話したいことがある いるといったんですか ? ここへ来てそう言ったんですか ? 一動物んです」 レッドはびつくりしたように顔をあげたが、それより先に天文学 を飼っているって ? 」 「いや、言わなかった。ただ動物は何を食べるかと説いただけだ。者が言った。「礼儀知らずではないか、きみ。みなさんに昼食をお それだけだよ。もしかれが話さないとお前に約束したんなら、かれ待たせしてしまったのだよ」 はたしかに話さなかった。許しも得ないで何かをもちだそうとした「すみません、とうさん」 お前が愚かなのだ。盗みと同しではないか。ところで動物を飼って「ああ、どうぞ、お子さんをお叱りにならないで」と実業家夫人が 言った。「レッドにお話があるなら、どうそお話しなさい、お食事 いるのかね ? はっきり答えなさい」 にさしさわりがあるわけではありませんもの」 「はい」それは、聞きとれぬほどかすかな声であった。 「レッドにだけ話したいのです」とスリムは言いはった。 「よろしい、ではすぐに始末してきなさい。わかったかね」 「さあ、それで十分だ」と天文学者は、明らかに他人の手前をとり レッドの母親がくちばしを入れた。「肉食動物を飼っているとい うの、レッド ? つくろった優しさで言ったが、その優しさの陰にはたやすく見破ら 噛まれて毒でもあったらどうするの」 「とても小さいやつなんだ」とレッドは震え声で言った。「あいつれる鋭さがあった。「おすわり」 スリムはそうしたが、だれかがかれをまともに見ているときだ ら、指先でおさえたらもう身動きできないよ」 「あいつら ? 何匹いみの ? 」 け、食物を口へ運んだ。だがそれもあまりうまくいかなかった。 ・「二匹」 レッドの目がかれの目を捕えた。かれは無言の質問をした。「動 「どこにいるの」 物が逃げたのか ? こ スリムはかすかにかぶりをふった。かれはささやいた。「うう 実業家は母親の腕に触れた。「子供にそれ以上しつこくいうのは やめなさい」とかれは小声で言った。「子供が始末するといったらん、あのーー」 天文学者がきっとかれの方を見すえたので、スリムはもぐもぐと するだろう、それで罰は十分だ」 ロごもった P かれはその問題を頭から追いだした。 昼食がすむとレッドは、スリムについてこいというかす力な身ぶ りをおくって部屋を抜けだした。 かれらは黙々と溝の方へ歩いていった。 8
奇心、冒険心が渇望しているのですそ。種族はいまだにそれらを失はめ 0 たにおりませんがね」 ってはいません」 実業家は壁の時計を見た。「先生の客人がそろそろお見えになる スリムは言った。「あの、おじさま」 時刻ですな」 、お若いの」 少年がきりだすまでにしばらく間があった。ようやくかれは言っ 3 た。「レッドは何か食べるものをとってこいと言ったのですけれ ど、何をと 0 てきたらいいのかわからなか 0 たんです。でもわから激しい揺れはやんでいた。外は真暗だ 0 た。探険家は、異星の大 ないって言いたくなかったので」 気を快く感じなかった。スープのように濃密で、浅い呼吸をしなけ 「それなら、コックにお言いなさい。あそこなら、若いものにあつればならなかった。とはいうものの た食べ物があるはずだ」 不意に仲間が恋しくなって、かれは手を伸ばした。商人の体はあ 「ああ、ちがうんです。動物にやるんです」 たたかだった。息遣いは荒く、ときどきびくっと身うごきするが、 「動物に ? 」 明らかに眠っているのである。探険家はためらい、結局起こさない 「はあ。動物は何を食べますか ? 」 ことにした。起こしてみても仕方がなかった。 天文学者は言った。「伜は都会育ちですので」 むろん救助は望めないのである。それは、無制限な競争によって 「いや」と実業家は言 0 た。「気になさるほどのことではない。ど得る莫大な利益に対する報いであゑ未知の惑星を開発した商人は んな種類の動物かな ? 」 そこの交易権を十年間独占できるので、かれらはそれにしがみつく 「小さいのです」 か、あるいはほとんどがその惑星を訪れる人々にその権利を高い値 「では草か木の葉をやってごらん、もし食べなければ、木の実か草段で貸し出すかするのである。こうした惑星は穏密裡に探しださ の実をやってみるといい」 れ、また通常の交易ルートからはなれているのが好ましいのであ 「どうもありがとう」スリムは部屋を出るとドアをそっとしめた。 る。かれらの場合、他船がかれらの交信範囲に入ってくるチャンス 天文学者は言った。「動物を生け捕りにしたのでしようか ? 」 はよほどの偶然でもないかぎりほとんどまれである。たとえかれら かれは明らかに狼狽していた。 が船内にとどまっていたにせよ、つまり、このーーこの・ーー・檻の中 「日常茶飯事ですよ。うちの土地では鉄砲うちはやりません。自然ではなく。 のままにしてありますから、齧歯類や小さな動物がうようよいます探険家は檻の太い棒をつかんだ。これを爆破することはできて よ。レッドはいつもい。ヘットの一匹や二匹は連れてかえってきますも、飛びおりるには高すぎる。 からね。もっともあの子の興味をずらとつないでおけるようなもの 万事休すである。かれらはあらかじめ二度ほど偵察船で、ことを訪
れている。 「あててみろよ。サーカスでいっとう大切なもんはなあんだ ? 」 スリムは必死に考えた。彼はぜひともあてたかった。とうとうか レッドが言った。「あれにはいつも小鳥ゃなんかいれておくん 2 れは言った。「アクロ・ハット ? 」 だ。あいつら、どうせあそこから逃られやしないんだ。さあ、屋根 「てやんでえ ! アクロ・ハットを見にいくだけなら、おれは五歩あ裏にのぼろうよ」 るくのもやだ」 かれらは木造の階段をよじのぼり、レッドが鳥籠を手もとにひき 「じゃあわかんない」 よせた。 「動物だよ ! スリムは指さしていった。「帆布に穴・ほこがあいているよ」 いちばん いちばんおもしろいだしものって何だ ~ ひとだかりがするのは何だ ? 真中のリングだって、いちばん凄い レッドは眉間に皺をよせた。「どうやってあけたのかな ? 」かれ ショウは動物のショウだぜ」 は帆布をあげて中をのそきこみ、ほっとしたような声で言った。 「きみがそう思うんだろう ? 」 「まだ、いる」 「だれだってそう思うさ。みんなにきいてごらんよ。それはどっち「帆布が焦げているみたいだ」とスリムは案じ顔で言った。 「見たいのか、見たくないのか ? 」 でもいいけどさ、おれ、けさその動物を見つけたんだ。二匹だ・せ」 「きみが捕えたの ? 」 スリムはゆっくりうなずいた。見たいのかどうか自分でもわから ない。こいつらは、ことによると 「そうさ。秘密ってこのことさ。だれかに話したりしないだろうな だが帆布がさっと取りのけられると、そこにそいつらがいた。二 「話すもんか , 匹、レッドの言った通り。小さくてぞっとするような姿をしてい 「オーケ 1 。納屋においてあるんだ。見たいか ? 」 る。帆布があげられるとその生き物はちょろちょろと少年たちの方 へかけよってきた。 かれらは納屋近くにやってきた。開いた大きな扉の向うは暗かっ レッドがそっと指を突きだした。 た。暗すぎる。だがここを目ざしてやってきたのだ。スリムが途中 「気をつけろよ」とスリムがこわそうに言った。 で足を止めた。 かれはさりけなくこう言った。 「噛みつきやしないってば」とレッドが言った。「こういうやっ、 「大きいの ? 」 見たことあるか ? 」 「大きかったら、おれにいじれるかよ ? 噛みつきやしないよ。な「ううん」 がつ。ほそいやつだ。籠の中に入れてあるんだ」 「サーカスの連中なら、こんなものが手に入ったらとびあがってよ かれらは納屋に足を踏みいれた。大きな籠が天井の鉤からぶらさろこぶの、お前知らないのか ? がっているのにスリムは気づいた。それはごわごわの帆布でおおわ「サ 1 カスにだすには小さすぎるんじゃない」
レッドは渋っ面をした。そして鳥籠を振子のように動かした。 それだけだった。 「お前、こわいんだろう」 しばらくして実業家が言った。「こんなことを申してははなはだ 「ううん、こわかないよ。たださーー・」 失礼だと思うが。先生が、人をかつぐために、これど熱意をおみ 「小さすぎるなんてことないよ、大丈夫だってば。ただね、ひとっせになるとは考えられない。先生はほんとうにかれらと話をなさっ だけ困ったことがあるんだよ」 たので ? 」 「なに ? 」 「お話した通りです。少くともある意味で、かれらは思考を伝達す 「サーカスがくるまでここで飼っておかなくちゃならないだろ ? るのです」 それまで何を食わせておいたらいいか考えなくちゃ」 「いただいたお手紙から、そうであろうと推測しましたがね。しか 鳥籠がゆらゆらと左右に揺れうごく間、とじこめられている小さしどのようにしてですか ? 」 な動物は籠の桟にしがみつきながら少年たちに向ってちょこまかし「それはよくわからないのです。かれらに訊ねてみましたが、どう た寄妙な動作で訴えかけるようなしぐさをしているーーーまるで知性も漠然とした答しか得られませんで。あるいはわたしの方で理解が のある生き物のように。 とどかないのかもしれません。思考を凝集させるプロジェクターが ありまして、その上にぜひとも必要なのは、送信者と受信者の間の 2 集中です。わたしの場合もかれらがわたしに向って意志を伝達しょ うとしているのに気づくまでにはだいぶ時間がかかりました。あの 天文学者は礼儀正しい物腰で食堂に入ってきた。ひどくしゃちこような思考伝達機は、かれらがわれわれに提供できる科学文明の一 ばっている。 部かもしれません , かれは言った。「お子さんはどちらにおられます ? 伜が部屋に 「まあまあ」と実業家は言った。「しかしそれが社会にもたらす変 見えませんが」 化についてお考えになって下さい。思考伝達機とは ! 実業家は微笑した。「だいぶ前から外にとびだしていますよ。で「いけませんか ? 変化はわれわれにとって望ましいものです」 もさいぜん女どもが朝食をむりやり食べさせましたから、ご心配に 「わたしはそうは思わない」 は及びませんよ。若さですな。先生、若さですよ ! 」 「変化が歓迎されなかったのは昔のことです」と天文学者は言っ 「若さ ! 」その言葉は天文学者を気重くさせたようだった。 た。「種族も個体と同じく老いるものですからね」 かれらは黙々と朝食をとった。実業家が口をきった。「連中はほ実業家は窓を指さした。「あの道路をごらんなさい。あれは戦前 ノーマルな日和に見えますが」 んとに来ますかね。今日もごく に建設されたものだ。正確な時日は知りませんが。建設当時の姿の 天文学者は言った。「来ます」 ままです。きようびあれと同じものを作ることは不可能でしよう。 さん 2 一
「ううん。まだ知らないらしいや。丘のほうへおりていったよ」 「かれらが着陸して、まだ生きているとしたらどこにいるのでしょ 「何しに ~ 」 「さあね。ゅうべ聞こえた雷みたいな音のことをさかんに訊いてい 「しばらくそれについて考えてみましよう」彼はまだ考えこんでい たよ。お、、 る。 あの動物、肉を食ったか ? 」 「そうだなあーとスリムは慎重に言った。「眺めていたよ、それか天文学者は言った。「何をおっしやりたいのです」 ら匂いをかいだりしていたよ」 「かれらは友好的ではないかもしれない」 「ようし」とレッドは言った。「そのうちに食うよ。だって何かし「ああ、それは大丈夫です。わたしはかれらと話しあいました。か ら食べなくちゃしようがないもんね。丘の方へ行ってとうさんたちれらは・ーー」 が何しにいったのか偵察してこよう」 「先生はかれらと話し合いをした。それを偵察という。ではかれら 「あの動物はどうなる ? の次のステップは何か ? 侵略 ? 」 「平気だよ。一日中あいつらにかまっちゃいられないもん。水はや「しかしかれらは船を一隻しか持っていないのです」 っこ〉 . 「かれらがそう言ったにすぎんでしよう。船隊をひきつれてきたか 「うん。飲んでいた」 もしれない」 「かれらの大きさはお話しましたね。かれらはーーー」 「ふうん。じや行こう 6 昼めしすんだらまた見にいけばいいさ。こ んどは何をもっていくか教えてやろうか。果物。果物なら何だって「大きさは問題ではありませんよ、もしかれらがわれわれの砲器よ 食うもん」 り勝る武器をもっているとしたら」 「わたしはそんなことを言っているのではない」 ふたりはそろって丘の方へ駈けおりていった、例によってレッド を先頭に。 「これは最初から気にかかっていたのです」と実業家は言葉をつい だ。「先生のお手紙を拝見して、かれらと会う気になったのはその ためです。人さわがせな、見こみのない交易に同意しようというの ではなく、かれらの真の意図を探るためです。かれらがこの会見を 天文学者は言った。「物音というのはかれらの船が着陸した音だ回避するとは思えません」 とお思いになりますか ? 」 かれは吐息をついて補足した。「これはわれわれの罪ではないで 「そうとはお思いになりませんか ? 」 しよう。先生はある一つの事柄については正しい、少くとも。世界 「もしそうだとすると、全員即死でしような」 はあまりにも長い間、平和すぎました。われわれは疑うという健康 「そんなことはないと思うが」実業家は考えこむ様子である。 的な感覚を失ってしまった」 5 0 3
土地でい見たこともないような珍しい動物を発見するのは普通のこかっていた。あの子たちはあの子たちなりの考えで、われわれによ とではないでしよう」 かれと世話をしてくれたのだ。われわれはかれらを攻撃するつもり まなかった。 「申しわけないが。いまそれを議論するのはよしましよう 「その珍しい動物が、夜中に着陸したのでなければ」 攻撃する ? と実業家は思った。そして思考を集中しながら声に 出して言った。 実業家はばっと夫人から離れた。「何をいわれるのか ~ 」 「納屋へ行ったほうがよかろうと思いますが : : : 」 ええ、そうですと答えがかえってきた。われわれは武器をもって 実業家は一瞬目をむいたが、やおらくるりと背をむけると、あた ふたと走りだした。天文学者もその後に続いた。女の泣き声があが籠の中のそっとするような小さな生き物の一つが金属製の棒のよ ったがだれもかえりみるものはなかった。 うなものをもちあげると、籠の天井にとっ・せん穴があき、そして納 屋の天井にも穴があいた。二つの穴はまわりの木が焼け焦けていた。 手軽に修理ができればよいが、と生物は思語した。 実業家は、自分はとうてい直接思語はできないことに気づいた。 実業家は凝視し、天文学者を見、ふたたびふりかえって凝視した。 かれは天文学者をかえりみた。「するとかれらは武器をもっていな 「これ、ですか ? 」 がら、おめおめ籠の中に入れられたというのですか ? そこのとこ 「これです」と天文学者は言った。「われわれの姿が、かれらにとろがよく理解できないが」 って奇怪で寒気のするものであることは疑いありません , だが静かな思語がかえった、われわれは知性ある種族の若者を傷 「けっこうな待遇をしたものだ ! かれらをつまみあげて、籠の中つけたくはなかった。 に入れ、草だの生の肉だのあたえていたとは。かれらとどうやって 話すのか教えて下さい 「それはちょっと時間がかかります。かれらに向って考えるので す。耳をすませて聴くのです。すると、あなたのところへ届きま 月夜だった。実業家は夕食を食べそこなったが、その事実にまだ 気づいていなかった。 す。すぐにではありませんが」 実業家はやってみた。一心に顔をしかめながら、くりかえしくり かれは言った。「あの宇宙船はほんとうに飛ぶでしようか ? 」 「かれらが飛ぶと言うなら」と天文学者は言った。「飛ぶでしょ かえし頭の中で言った、子供たちはあなた方のことを知らなかった う。手遅れにならないうちに、もう一度戻ってきてもらいたいもの のです。 すると相手の考えがとっ・せんかれの頭にとどいた。それはよくわです」 2 9
逆罪だから、この状況では、お前がいま言っト補給船を軌道にもどして、わざとすれすれ た真理のうしろ半分がまさに。ヒタリのようだに射ちはずしながら、宇宙ステーシ ' ンまで 9 追いかけるのです。補給船がわが軍の追跡を 「お分りになっておられませんな」カト・ズうけていると知れば、人間どもはスクリーン ールは必死にしゃべった。「この場合、食わをちょっと開けてなかに入れるはすです。走 れる用意がととのってはじめて、われわれは査機で用心深く検査し終えたら、やつらはス まわって後じさりした。「どうか、お聞きくでしよう。連中は腹ペコときているから、何 ・こさ、ー わが軍が捕獲したロポット補給船はさておきまず食物に手を出しますよ。とこ には食料が積みこまれていたのです。もう二ろが、罐を開けると、なかからは小さな生き 週間も待てば、宇宙ステーションの人間どもた動物ではなくて、わたしの兵士たちが飛び だすというわけです。、ああ、陛下、たっ・ぶり 「わしはたったいま猛烈に腹ペコだ」ゴーレ喉を切り裂く楽しみが味わえますよ。スクリ ン王は言った。「しかし、まあ聞いてやろ ーンを閉じて、すぐステーションを武装すれ う。先を言え」 ば、ー人間の艦隊がやって来たって : : : 」かれ 「補給船の食料のなかに、数百個の罐を見つはさも嬉しそうに笑うと、剃刀のように鋭 けたのですが、それには、栄養液に浸かったい突き出た顎をカスタネットのように鳴らし 何か奇妙な、かぎ爪の生物が入 0 ていまし た。しかも生きているんです ! 」 「なるほど。たしかに天才のひらめきだな」 ゴーレン王は言った。「で、自分用の罐はも ) 「それで , 第 ~ 、、「それで、われわれはこの罐詰以外の食物をう選んだのかね」 ' すっかり船から取り除くのです。それから罐艦隊司令官の嗅覚触手が。ヒンと張った。 、をを注意深く開けて、なかの動物を出します。 「わたしの ? 実を申しますとですな、陛 次に、そいつらの代りにわれわれがなかに入下、わたしはべつに襲撃隊の一員になるつも りはないのですが。と申しますのも、ちょっ 第物 0 て、また封をするのです」 「なんだと ! 」 と閉所恐怖症気味ですし、それに : 「なあに、ちょいとした天才のひらめきです「タ食をとっていくかね」 第よ、陛下 ! 罐にはそれぞれ、わたしのも 0 「はあ、陛下 : : : 」 とも勇敢な部下を一人ずつ入れます。ロポッ
ろ 9 こんなところにいたら変に田 5 われるじゃないか。おれたちの動 本をもっているんだ。昔の本だよ・戦前の」 物のこと試かれて、見つけられちゃってもいいのか ? 」 「ふん。出まかせ言ってらあ。戦前の本だなん。て ! 」 「とうさんはそういう本を持っていなければならないんだ。大学で「いいさ。・ほくの頭が狂っているなんて言ったんだもの」 「裏切り者ー・だれにも言わないって約束したくせに」 教えているんだもの。それがとうさんの仕事だもの」 「言ったりしないよ。だけどとうさんたちが自分で見つけるんな 声がうわずってきたのでレッドはあわててスリム . をひつばった。 「とうさんたちに聞こえてもいいのか ? 、かれはおしころした声でら、ぼく知らないよ。きみが・ほくの頭が狂っているって言ったせい だからね」 言った。 「じゃあ取り消すよ」とレッドは不服そうに言った。 「でも、あれは宀于宙船だ」 「ふうん、・じゃあいいよ。それなら」 「それならさ、スリム、あれはよその世界の船だっていうのかい」 「そうにきまってるさ。うちのとうさんがあのまわりをまわってい スリム【は、ある意味で落胆したのだった。近くにいって宇宙船を る様子を見てごらん。ほかのものなら、あんなに熱心になりやしな見たかったのである。だが少くとも個人的な侮辱というロ実がなけ れば、秘密の誓いはたとえ心の中でも破ることはできない。 いよ」 「よその世界ー・よその世界ってどこにあるんだ ? 」 レッドは言った。「宇宙船にしちゃずいぶん小さいな」 「うん、きっと偵察船なんだよ」 「いたるところにあるよ。惑星を考えてごらん。あの中には、・ほく たちと同じような世界があるんだ。それにほかの星だってきっと惑「けどさ、うちのとうさんだってあの中に入れそうもないぜ」 それはたしかにそうだとスリムも思った。それはかれの論理の弱 星があるにちがいない。何十億という惑星があるかもしれないん 点であったから、かれは返事をしなかった。 レッドはその数の大きさに気圧されるのを感じた。かれはつぶや レッドは立ちあがった。さも退屈だといわんばかりに。「ねえ、 いた。「お前の頭は狂ってる ! 」 もう行ったほうがいいよ。しなきゃならない仕事もあるしさ、昔の 「じゃあいいよ。見せてやるよ」 宇宙船だか何だか知らないけど、一日中あんなもの見物してるわけ 「おい、どこへ行くんだ」 にをいかないよ。サーカスの仲間になるつもりなら、動物の世話を 「あそこだよ。とうさんにきにいくんだ。とうさんがそう言えしなけりや。それがサーカス仲間の第一の規則なんだ。動物の世話 ば、きみだって信じるだろう 9 天文学の教授が言うことなら信じるはしなくちゃいけないんだ。それに」とかれはもったいぶって言っ た。「おれもそうしようと思ってるんだ」 だろうから・・ーー・」 スリムは言った。「何をするの、レッド ? 食べるものは十分や 3 かれはよじのぼりはじめた。 レッドは言った「おい、とうさんたちに見つかっちゃ困るた っこし。ここで見ていようよ」